星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「...お水、飲みます?」
「おう。ありがとな。」
崩落して瓦礫に埋れバリアに守られて身動きの取れない凶人とアトミック侍は背中合わせで座り込み救助を待っていた。
酸素はあるが気まずい空気は流れている。
「はあ。」
自身も水を飲み、そしてため息を吐き、凶人は懐から持ち運び用のフォトケースを取り出す。入っている写真は以前サイタマとジェノスがヒーロー認定試験に合格した時にねだって撮らせてもらえたものだ。
少しでも気を紛らわせる為にじっと写真を眺める。
外から何度も激しい音と地響きが伝わってくる。
きっと壮絶な戦いが起こっているのだと凶人の心が浮き立つが、負傷しているアトミック侍がいるこの状況で無理矢理バリアを破壊するわけにはいかずおとなしく救助を待っていた。
「おい凶人。」
「はい?」
沈黙に耐えきれなかったアトミック侍から話しかけられた凶人はフォトケースを大事にしまう。
「俺達はお前が今回の作戦に参加しなかったのは別の任務があるからと聞かされたんだが、合ってるか?」
「連絡は来ましたけど、依頼なら断りましたよ。」
「...そうか。」
「別にいいですよ仲間はずれは。嫌われてるのは慣れてます。」
そう言いつつ不貞腐れている凶人に何と声をかければいいのかと考えあぐねるアトミック侍。
すると、バリアが動き出し外へと飛び出す。
「お?」
「わ、わ! 何ですこれ?!」
外は凄まじい変わりようで、怪人協会の地下のアジトが上へと引き摺り出されて塔のようになっていて、周囲の町が崩れている。
そして上を見上げれば赤く巨大な生き物のような何かが動いているのが見えた。
そして突然、バリアが消えた。
「ム!?」
「ありゃ。」
何事かと思い再び上に視線を向ける凶人とアトミック侍。
「何だと!?」
視界に入ったのは全裸の大男、S級ヒーローぷりぷりプリズナーだった。
「うげぇっ!」
危うくぷりぷりプリズナーの下敷きになるところだったが、凶人がアトミック侍を抱え、ぷりぷりプリズナーを片手で受け止めた上で着地したおかげで事なきを得た。
「ふー。びっくりしたびっくりした。」
アトミック侍とぷりぷりプリズナーを下ろした凶人はほっと一安心した様子で息を吐く。
「今のは本当に助かった。礼を言うぞ凶人。」
「気にしないでください。」
「えっ凶人? 何でここにいるんだ?」
「騒がしくてここに来ました。それより、今どういう状況なんですかいったい。」
ぷりぷりプリズナーを視界に入れないために上を見上げる凶人。
巨大な生き物が高エネルギーの光線を放とうとし、しかしそれを別の高熱砲によって弾かれた。
そして遠目からでも分かるほどの強い光が巨大な生き物に高速で接近する。
迸るエネルギーが青い光を放ち龍の形を成す。
その正体を凶人は知っていた。
「ジェノス君!?」
遠くからでも決して見間違いではないと自信たっぷりの凶人はむき出しにされた怪人協会のアジトへと向かう。
「おい、どこに行く!?」
「ジェノス君の援護に行きます!」
「鬼サイボーグの事か。何故そこまでする!」
「大事な友達だからです!!」
はっきりと言い切った凶人は垂直に高くジャンプし、絶壁にしがみつきそのままよじ登っていった。
「...凶人ってあんな人だったか?」
ぷりぷりプリズナーは感情をむき出しにしている凶人を初めて見たのか少し困惑していた。
「そうだなぁ。」
アトミック侍は凶人の人生を刀を通して見た己の観察眼を疑ってはいないし、今も凶人の悪癖を理解する気も無く、弟子達に悪影響を与えかねないからあまり関わらせたくないと考えている。
「前よりかは明るくなったな。」
しかし、ジェノスが写っている写真を大事にし、なりふり構わず向かっていく凶人の姿を見て、友を思う気持ちを嘘だとは思えなかった。