星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「...あの人、やっぱりどこかで見た事あるような、ないような。」
日が沈み暗くなった空から落ちて皆から少し離れた場所で着地をした凶人はサイコスの顔に見覚えがある気がして頭をひねる。後少しで完全に思い出せる、ところで爆発音が鳴り夜空に光弾が無数に飛び交うのが見えた為、戦いはまだ終わっていないと察した凶人は脚に力を込めて高く垂直に跳んで周囲の状況を確認し、近いところから攻略をしようと着地してすぐに怪人のいる現場へと向かって行った。
◆◇◆◇◆
サイコスが敗走し、オロチが倒された事で怪人達は次は自分が怪人王になってやるとヒーロー達に襲撃した。
その内の2体とタンクトップマスターと豚神が戦っていた。
「うぐおおおおッ。」
巨大な口と獰猛な食欲を持つ怪人、ハグキに捕食されそうなタンクトップマスターを豚神はハグキに体当たりをして助け出す。
「おーおーカワイソーに。ハグキはお預け食らうのが一番キライなんだぜ〜。」
「う、うわぁあああっ!! 離せ、離せぇぇぇぇ!!!」
劣等感と周囲への憎悪によって怪人となったブサイク大総統は救出した傭兵達の1人、ソッシを掴み上げている。
「しまった!」
「怖ぇ顔すんなよォ。人質取るだなんて卑怯なマネはしねぇぜ〜。」
すぐに助け出そうとするが、タンクトップマスターでも、豚神でも、トンガラでも間に合わない。
「ちゃーんと返してやっからよォ。ちょっとずつな。」
ブサイク大総統がソッシの腕を掴み引きちぎろうとした時、背中に鋭い痛みが走った。
「...あ?」
首を後ろに向けば初めて見る顔の人間に包丁で背中を刺されていた。
「なにすんだテメェ!!」
邪魔をされて背中を刺された怒りからブサイク大総統はソッシを手放し、自分を刺した相手を殴りつけた。苛立ちに任せて何度も何度も、地面に倒れても何度も殴りつける。
「退くぞ!」
解放されたソッシをトンガラは急いで回収し、ブサイク大総統が気を逸らしている間に離れる。
「大丈夫か?」
「い、生きてた。あの人が、生きてたのに、クソォ!!」
ソッシの言うあの人にトンガラは心当たりがあり、後ろを振り返った。
ブサイク大総統に放り投げられ、ハグキに食われた時に見えた派手なマントに、トンガラは確信した。
目の前で落ちていったあいつが生きていた。
しかし、ブサイク大総統の暴力を受け、ハグキに捕食されていく姿を見せられたトンガラは再びやるせない気持ちを抱いたが、それでも助けられた命を無駄にする訳にはいかずひたすらに走り続けた。
「今は、とにかく生き延びる事だけを考えろ。」
「...はい。」
ブサイク大総統はトンガラ達を追いかけようとしたが、タツマキの超能力による拘束を受けて動けなくなり、その隙に豚神がトンガラ達を飲み込んで避難させて、タンクトップマスターが豚神を持ち上げる。
「無免ライダーに伝えてくれ。俺達は勝つ!! それはベッドをゆずったヒーローの勝利だとな!!」
傭兵達を逃す為にタンクトップマスターは豚神ごと遠くに投げた。
その後に、ブサイク大総統はタツマキの超能力の拘束を無理矢理解き、その反動でタツマキは吹っ飛ばされる。
「タンクトップタックル!」
「前腕崩壊パンチ!」
タンクトップマスターのタックルとブサイク大総統のパンチがぶつかり合う。
「誰が勝つってェ?」
その結果、タンクトップマスターの両腕が技名通り酷い骨折をしてしまった。
「これでもう一匹も逃げられねぇぜ。」
タンクトップマスターに得意な暴力をぶつけようとした時、ブサイク大総統の背中に鋭い痛みが走った。
「あ!?」
首を後ろに向けばつい先ほど見た顔の人間に包丁で背中を刺されていた。
「またテメェか!!」
怒りのままにブサイク大総統は殴りつける。
「おいハグキ!! 食い残しが、ある...」
ハグキがいる方に向きちゃんと食えと文句を言おうとして、止まった。
ハグキが死んでいた。内側から切り裂かれたような形跡がある。
ハグキの無惨な姿を見て、ブサイク大総統はようやくおかしな事に気がついた。
無傷なのだ。
自分を刺した相手が、何度も何度も殴ったのに無傷で立っている。タンクトップマスターの腕を砕くほどの暴力を受けて。
「んふ。」
今も、立っている。
「んふふふふふふ。」
返り血で赤黒く染まったぬいぐるみとリボンのついた派手な服と夜の下でも金色に煌めく星座の刺繍が入った黒い派手なマントを身につけている。
顔そのものは初めて見たが、マントにはブサイク大総統は見覚えがあった。
「いいです素晴らしい! 最高で最悪な性格ですよ貴方!」
そして、この絶望的な状況下で嬉しそうに笑っていた。
そんなヒーローは、1人しかいない。
「...お前、まさか」
「たくさん殴られましたねぇ。何回かな? 何回? 10回くらいかな? うんそうだきっとそう。だから、だからね。」
弾んだ声でそう言って懐からどうやって収納していたのか、巨大なハンマーを取り出す。
「私も今から10回貴方を殴ります。体格差があるので、道具を使いますが許してくださいね。」
「は?」
どういう理屈だと言おうとしたが、その前に強烈な一撃を喰らい言えなかった。
「ふふ、んふふ。あと9回。痛いですか? 痛いですよね私が憎たらしいですよね。耐えて、耐えて耐えて耐えてください。私の番が終わったら次は貴方の番です。次はちゃんと」
2回目を振りかぶる。
「殺してくださいね。」
このままではまずいと思ったブサイク大総統は殴りかかる。
「全身崩壊パンチ!!」
避けられず、まともに喰らい地面に倒れる。
「全身崩壊パンチ! 全身崩壊!! 全身崩壊!!!」
もう立ち上がれないように、2度と立ち上がれないように。
ブサイク大総統は念入りに渾身の力で殴り続ける。息切れするまで殴り続ける。
それを目の前で見せられているタンクトップマスターは思わず、名前を呼んだ。
「凶人!!」
「はい?」
もう無理だ、死んでいる。
頭の片隅でそう思っていたタンクトップマスターを裏切るようにブサイク大総統に暴力を振るわれていた凶人はケロリと起き上がる。
「何ですかタンクトップマスター。うわっ酷い怪我ですね。タツマキと一緒に一旦離脱した方がいいですよ。」
絶句するタンクトップマスターとブサイク大総統に構わず自身と共に埋まってしまっていた巨大なハンマーを持ち上げると同時に立ち上がり、ハンマーを振るってブサイク大総統を吹っ飛ばし、凶人は跳んで追いかけていった。
それと入れ替わるようにジェノスとバングがやって来るまでタンクトップマスターはポカンとしていた。