星になったヒーロー 作:日暮 蛍
白金精子を倒した凶人は達成感も安心感も無く、ただぼんやりとした表情で刀を片手に持ったまま粉々になった白金精子だったものを眺めながら落ちていった。
目を閉じて、地面に落下するのを待っていると
「よくやったな。」
声が聞こえた為、目を開けた。
「お前が戦ってるところを見て急いで来たけど、助けなんていらなかったな。あんな凄い怪人を倒すなんてすげーよお前。」
目の前には白いマントを身につけヒーロースーツを着たスキンヘッドの男の姿。
「地上まで送ってやるよ。ほら。」
手を差し出した男の手を見て、凶人は、アズマは、顔を歪める。
「失せろ偽物。」
ドスの効いた声でそう言うと、サイタマの姿を真似ていた何かは何も言わずに消え失せた。
「...ああああああああむかつく。やっぱり関わってたぁ。」
凶人は片手で顔を覆い苛立った声で叫ぶ。
「というかサイタマ様の姿を真似るとかほんと万死!!!」
憤慨する凶人。
そのせいか、近づいてくる者達に気がつくのが遅れた。
「へぶうっ??!」
轢かれた。思いっきり。
「何何何???」
何に轢かれた?
そう思い凶人は周りを見渡すが、瓦礫がある事とそれを足場にして何かが高速で跳び回っている事以外何も分からない。
「借りるぞ。」
「へ?」
頭上から声がして、そちらに視線を向けるが誰もいない。
しかし、先ほどから何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。
「何?! ほんとに何!!? ...あ。」
忙しなく動き回っていたものが一瞬動きを止めて、ようやくその姿を確認する事が出来た。
凶人が見たのは、2人。
片方は凶人が轢かれた時に手放した刀を手にしている閃光のフラッシュ。
もう片方はフラッシュが手にしている刀を片手で受け止めてへし折っている人型の怪人、否。自身を怪人と自称する人間、ガロウ。
フラッシュとガロウ、両者が目にとらえられない速さで巻き上げられた瓦礫を足場に空中戦を繰り広げていた。
「何で!!?」
何も知らない凶人はひたすら困惑していた。
◆◇◆◇◆
時は少し遡り、地上では
「「「「「キング! キング! キング! キング! キング!」」」」」
皆からの声援を受けているキングがエビル天然水と対峙していた。
キングは腕組みをやめ、意を決して声を張り上げる。
「れッッ煉獄無双爆熱波動ひゃうッ!!!」
その直後、夜空が眩いほど煌めいた。
ちょうど凶人が白金精子を倒した時。
そして、皆の視線がキングから空へと向いた時、エビル天然水が勢いよく弾け飛んだ。
「お、おぉ!」
「やったぁ!!」
煌めく光に気を取られて見ていなかったが、皆キングの放った煉獄無双爆熱波動砲によってエビル天然水が倒されたのだと大喜び。
キングはその場に座り込み、自分の手元をじっと見ていた。その理由は本人にしか分からない。
しかし、エビル天然水を倒したのはキングではない。
「...ジジイ。」
つい先ほどまで、正気を失った状態でバングと戦っていたガロウが無意識のうちにエビル天然水を倒したのだ。
ようやく正気を取り戻した時、ガロウのすぐそばの空間に歪みが生じて、そこから唐突に3名が現れた。
「お。出れた。」
出てきたのはサイタマ、フラッシュ、そして怪人協会アジトの道案内として連れ回されていた怪人、マナコ。
「サイタマ氏!」
「先生!?」
唐突に現れたサイタマの姿に驚きつつも無事出会えた事に安堵するキングとジェノス。
「あっジェノス。」
サイタマもジェノス達に気がつき、フラッシュから離れてガロウを素通りしジェノスの元に小走りで向かう。
横を通り過ぎていったサイタマの後ろ姿を見送ったガロウは自分の身体が怪人のようになっている事や地上にはいつ出られたのか、いったい何が起きたのか記憶を探り、うっすらとバングと稽古をしていた頃の夢を見ていたのを思い出していたが、
「うお!?」
フラッシュが襲いかかってきた為中断する。
「かわした!?」
「テメェ、S級13位閃光のフラッシュか! ヒーローともあろうもんが不意打ちかよ。」
「怪人協会の生き残りは貴様だけか。ハデに暴れたようだな。」
地上に出られた時にすぐに周りを確認したフラッシュは満身創痍のヒーロー達の姿を見て、ここで激戦が行われたのは一目瞭然であった。
フラッシュは目の前にいる者が誰なのか分からず、しかし自身の攻撃を避けた事からかなりの実力者である事を認めた。
「ボスの怪人王か?」
「怪人王? ハッそんな奴もいたっけな。よーく憶えとけ。オレの名はガロウ。これから災害レベル神に登りつめて世を正す者だ。」
「ガロウ!? ヒーロー狩りの人間怪人か!」
「いっとくが怪人協会とは何の関係もねぇぜ。あんなチンケな枠には収まりきらないんでな。」
目の前にいるのがヒーロー狩りとして悪名を轟かせているガロウと知って驚くフラッシュだったが、自分のやるべき事は変わらないとガロウを見据える。
「怪人というのであれば容赦はしない。S級ヒーロー閃光のフラッシュの絶技に散れ!」
「売られたケンカは全部買うぜ。お前も他のヒーローも怪人も全員血祭りに上げて恐怖の象徴災害レベル神までかけ上がってやる。来いや。」
2人の会話を聞いていた童帝は今のガロウと単身で戦うのは危険だとフラッシュを止めようとする。
「駄目だフラッシュさん! ガロウはクロビカリさんを倒せるほどの実力者! ここはみんなで協力してた」
が、聞こえなかったのか聞く気がないのか、フラッシュはガロウと戦い始めてしまい、あっという間に先ほどの凶人と白金精子と同じように瓦礫を巻き上げて空高くへと行ってしまった。
「ああもう! みんな勝手がすぎる!!」
苛立ちを抑える為の糖分が不足しているので童帝は声を荒げて頭を抱えた。
そんな童帝を労うようにゾンビマンが肩に手を置いた。