星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「先生!」
溌剌とした声が響く。
その声に反応して家主が扉をほんの少し開けて隙間から顔を出す。
「マジで来やがったか。」
家主の名前はサイタマ。趣味でヒーローをやっている者だ。
「えーっと」
「ジェノスです。サイタマ先生。」
サイタマが青年の名前を思い出すのを苦戦しているのを察して青年、ジェノスは改めて名乗る。
「その先生っていうのやめてもらえる?」
「師匠!」
「師匠はやめろ。」
「では先生。本日は改めて俺達の話を聞いてください。」
「いやだから話す事なんて、俺達?」
ジェノスの言葉に引っ掛かりを感じたサイタマは扉をもう少し開けて辺りを見回す。
「お前1人しかいねぇけど。」
「え?」
サイタマの指摘にジェノスは廊下の方へと視線を向ける。
サイタマもつられて視線を向けると、目が合った。
「はわっ!」
目が合った相手は素っ頓狂な声を出して即座に突き当たりの壁に身を隠す。一瞬見えた相手の顔にサイタマは見覚えがあった。
「あいつは、確か。」
それは先日自分にファンレターを渡してきた者だ。大きな眼帯をつけていた事もあってサイタマは覚えていた。
「すみません先生。少々お待ちを。」
そう言ってジェノスは大股で突き当たりの壁に身を隠した人物に近づく。
「おいアズマ。早く出てこい。サイタマ先生を待たせるな。」
「待って待って待ってやっぱり待ってください。心の準備が出来てないんだだから改めて日を、待って待って待ってお願い待って! 押さないでジェノス君!!」
慌てふためく相手に構わずジェノスは背中をぐいぐいと押していき、とうとうサイタマの前まで押し出す。
「あ、その、あの。」
押し出された相手、アズマはサイタマの前に立たされる。すこぶる緊張している様子でしどろもどろだ。
「えっと。お前この前のファンレターを渡してきたやつだよな。」
「ぴぃっ!?」
サイタマの指摘に対してアズマは悲鳴を上げる。
覚えていてくれた。
その事実に嬉しさ半分驚き半分で体を硬直させる。
「おいしっかりしろアズマ。先生と話をしたかったんだろ。」
「はっ!」
固まるアズマの背中を強めに叩くジェノス。
それによって硬直からは脱却できたアズマはどうにかサイタマと話をしようとする。
「えっ、と。あの。はいその。い、いつも、その、あのえっと。」
全然駄目だった。
「落ち着け。…茶でも飲むか?」
「「はい!!」」
思わぬ来客に警戒をしていたサイタマだったが、それでも最終的には2人を家に招き入れた。
◆◇◆◇◆
アズマは緊張していた。
いつも遠くから見ていた推しヒーローのサイタマを至近距離で、その上認知されて、推しの家に招かれ、サイタマの手で淹れられた茶を手にしている状態で、話すチャンスを与えられた。
アズマは今まで生きてきた中で1番緊張していた。
サイタマとジェノスの会話をうまく聞き取れないほど緊張していた。
もう頭の中には手元にある茶をどうすればいいのかという考えでいっぱいだった。
長時間あれこれ考えてようやく茶を飲む決意を固めたアズマはどうにか手の震えを抑えながら湯呑みを口につけようとした時
「ケーケケケ!」
怪人が天井を突き破って現れた。
そのせいでアズマが持っていた湯呑みに瓦礫の破片に当たり割れて中身が溢れる。
「俺の名は」
「天井弁償しろ。」
カマキリに似た怪人が名乗る前にその頭を拳で粉砕したサイタマは住居を荒らされた事で苛ついていた。
「…お茶、サイタマ様が淹れてくれた、お茶が。」
そしてアズマはサイタマが淹れてくれた茶を台無しにされ悲しみに暮れて涙目だった。