星になったヒーロー 作:日暮 蛍
アズマの本職は芸術家だ。
武の道とはかけ離れた経歴で武才などこれっぽっちも無いにも関わらずこれまで怪人や悪党を相手に勝利出来たのは、他殺願望からくる無謀な特攻や自傷によって数えきれないほど命を危険にさらした影響で肉体にかせられたリミッターが外れた事で本人にとっては望まない強靭な肉体と底の見えない体力を得た事と、生まれつき持っている観察眼のおかげだった。
怪人やヒーローの動きと技を見て、その技術を模倣する。武の才能がない為完全なコピーとまではいかないが、足りない部分は自己流で埋め合わせた。
そうして得た技術でアズマはずっと描いてきた。
身体はキャンバス。
武器は筆。
血は絵の具。
戦闘を創作に見立てて理想の自分を描いてずっと戦ってきた。
アズマ以外では易々と理解の出来ない戦い方だった。
しかし、アズマはそうやって勝ち生き残ってきた。それがアズマの強さだった。
しかし、だからといって。
芸術家が武道家相手に真正面で勝てるわけがない。
「...あ、れ?」
服が自分の血で濡れていく。体が上手く動かない。
「良かったな凶人。望みが叶って。」
ガロウは腕を振り上げ凶人を振り捨てる。
「さて。」
手や腕についた血を振り払い、ガロウはジェノス達がいる場所まで戻ろうとするが、手首に何かが嵌められ引き止められてしまう。手元を見れば手錠がかけられており、鎖の向こうには凶人が立っておりガロウと同じく手首に手錠をかけている。
「行っちゃ駄目だガロウ。」
筋肉の動きだけで止血をすませてはいるが、生身の肉体に大きなダメージを受けた事には変わりない。苦しそうに息をし、脂汗をかいている。
「そうだな。やるからには徹底的にやらないとな。」
「お願い気付いて。君は自分を正気だと思ってるけど、やっぱりあいつのせいで思考を歪められてるんだ。ほんの少しでもあいつの手に触れたらいけないんだ。ここで止まって。お願い! 本当に取り返しがつかなくなる!!」
「絶対悪は誰にも止める事は出来ない。」
凶人は必死にガロウを呼びかけるが、何一つ伝わらない。震える手で眼帯に手をかけた凶人は、片目を強くつぶって勢いよく眼帯を剥がした。
眼帯の下を見て、ガロウは足を止めた。
「なんだそれ?」
顔半分を隠すほどの大きな眼帯の下は、ひび割れていた。
石膏石のように白く、眼球も瞼もなく、穴を中心に大きなヒビが入っている。
凶人は心底嫌そうな、それでもガロウを引き止めようと意を決して眼帯を外し、力を得た者の末路の一端を見せる。
「私は目を抉ってどうにかこの程度で済んだけど、他の人は全身こうなって砕けた。」
「俺はそうならない。神という不確かな存在であろうと俺が破壊する。」
「...そっか。」
もう駄目だ。ガロウは止まらない。
凶人は自分ではガロウの手を汚すのを止められないのだと悟った。
「なら私は、被害を出来る限り少なくするよ。」
クナイを取り出した凶人はガロウの足止めに専念しようとする。
「...お前、他のヒーローどもを逃がそうとしてるな。」
「そうだよ。」
「なぜそこまでする。お前の望みは殺される事だろ。他のヒーローを庇って何になる?」
「それは」
そこで、焦りが見えていた凶人の顔から表情が一気に抜け落ちた。
「何でだろ? 言われてみれば、確かに。いや、前々から思ってたことかこれ。」
つい先ほどまで必死にガロウを止めようとしていた姿とはかけ離れた、普段のアズマの様子だった。
「ジェノス君は友達だから当然として、他の人達は、知り合い程度だからなぁ。...何でだと思う?」
「知るか。」
とうとうガロウに質問を始めてしまった。
感情の移り変わりの激しい凶人に今のガロウですら困惑している。
「んー。なんでだろ。ヒーローだから? ヒーローだからって何で死なせたくないの? ...悲しいから? 誰が? ファンが? 家族?」
独り言をブツブツと呟き、そこで閃いたかのように目をきらめかせた。
「...そうだよ。ファン。その人にとっての推しなんだ。私にとってのサイタマ様のように。サイタマ様が死んだら悲しいもの。そう考えたら、うん。そうだよそうだよ!」
前々からあった疑問が解けたようだ。凶人は1人で納得する。
「推しが死んだら悲しいもの!」
そして、決意を固めた目でガロウを見据える。
「だから、このまま君を行かせるわけにはいかない。」
「それが、理由か? ヒーローなら正義の為とか言わないのかよ。」
「私はヒーローに相応しくないよ。だってずっと自分の為に戦ってきたんだから。」
そこまで言って、凶人は残念そうにため息を吐き、クナイを構え、
「でもなぁ。どうせならアイツとは関係のない怪人か人に殺されたかったなぁ。まぁ仕方がない。ここは妥協しよう。」
殺意を込めた目でガロウを見据えた。
迎え撃つ姿勢をとるガロウに向かって特攻をかける前に凶人は最後に、申し訳なさそうにこう言い遺した。
「止められなくて、ごめんね。」