トリッカル・記憶もち教主大作戦 作:strawberrycake
今回から本格的に他の使徒が出てきます。
これ以降、拙作教主にとっては未履修のストーリーに突入します。
そして、まさかのネルの過去編がシーズン1の補完ストーリーとして公開される朗報には驚きましたね!
ロレットの件に引き続き拙作にも影響してきそうなので、注目していこうと思います。
なお、意外とオリ台詞が多々発生した影響により、今回は7千文字と少々長めになっております…(苦笑)
「えっ、『エシュールベーカリー』って事は、最初に会う妖精はエシュールか!?」
「そうよ! ベーカリーに見えるけど、実はここは魔法学校よ」
「凄い妖精と友達とは凄いな! 確かエシュールは魔法の才能持ちだったから結構当たりだぞ!!」
「そんな事まで知ってるの教主!?」
「まあね。 ただ、こんな状況で仲間になってもらえるかどうかは説得が必要なきもしなくはないが…」
「そんなの簡単よ! 女王の権限で家賃をここしばらく免除にでもすれば、簡単に協力してくれるはずよ!」
「アンタ、それでも妖精王国の女王なのか…?」
「確かに、いざという時には家賃絡みの交渉で落とすのもありですね」
「ネルまで……とはいえあくまでもそれは最終手段として、普通に交渉ができそうならそれでいかない?」
【トップだからといって権威乱用はダメだろ…なんかブルミが普段から呆れる理由が少し分かった気がする】
「教主ちゃんも少しずつ苦労が分かってきたみたいだねぇ…」
「あの子たちは基本的に自分より賢い者を見つけたらあれこれ頼んだりと、すぐ他人に頼りきりになるからね」
「エシュールの件も、きっと自分さえ良ければの精神であの発言が出てきたのかも…」
「でも今はとりあえず、中に入ってみようよ!」
【そうだね。 どんな展開になるかは分からないけど、私なりに出来そうな事はやってみるよ】
(ベーカリーの中に入る)
【とりあえず、教主の私は話を振られるまでは気配消しておくか…】
「エシュールさん、いらっしゃいますか?」
「エシュール! 今日も女王エルフィンが駆けつけたわよ!」
「!! ちょ、何勝手に入ってきてるんですか!? こんな状況なのでベーカリーは閉店中…って女王様!?」
「まさか、この騒ぎの中でもパンを食べに来たんですか?」
「今日はパンを食べに来たんじゃなくて、私を助けてくれる妖精が必要だから来たのよ!」
「はい? た、助ける??」
「まさか私に助けを求めてるというのですか?」
「そうに決まってるじゃない!!」
「何を考えているのかは知りませんが、私なんかに構わず逃げた方がいいんじゃないですか?」
「『女王がバカだから王国が燃えているんだ』なんていう噂が広まっている以上、早く逃げないと何されるか分かりませんよ?」
「ここでも噂が流れていましたか…私もその噂を聞いて全面的に女王様が悪いのではと思っておりました」
「今は誰がやったとか、そんなのはどうでもいいでしょ!!」
「それとも、私たちがこの状況に屈するしかないとでも思っているの?」
「ヤツらに捕まったのなら、そうせざるを得ないんじゃないですか?」
「ふっふっふ、心配ご無用! 私たちには世界樹教団の教主がいる! この状況をひっくり返せるわ!」
「教主? 面倒だから誰もやりたがらなかった、あの教主ですか?」
「はい、その教主様です。 って、教主様? どうしてそんな隅にいて気配を消しておられるのですか?」
「よ、妖精よりも倍の大きさである私がズカズカ前に出て行ったら、驚かせてしまうかなって思ったから…」
「えっ、もう一人いらしたんですか!? 気配がしなかったので気がつきませんでした…」
「普通に交渉をしてみましょうって仰ったのは誰ですか? 意見を述べたからには、極力教主様が主体で動いて頂かないと困ります」
「わ、分かったよ…」
「えっと、君がエシュールかな? ネルが紹介してくれた通り、私が今日付けで世界樹の教主に就いた者です」
「種族は人間で君たちより体の特徴が2〜3倍も大きいから、驚かせてしまったら申し訳ない…」
「えっ、人間って本当に実在したんですか!? そしてこのノッポな存在が人間?」
「そうだよ。 でもまあ、昨日まではこの世界に存在しなかった者だから、やっぱり見慣れてないと変な感じがするよね…」
「え、ええ…まあ…」
まあそうなるよね…怖いけど、どんな印象を抱いているのか少し覗いてみるか…
【手足が長すぎて、気持ち悪いですね……うっ……】
うっ!! で、ですよねぇ…こんなほぼ前世の姿のまま転生して本当に面目ねえぇ…!!
「あら、人間がなんなのか知ってるの?」
「魔法学校の校長ですから、当然知ってますよ。 魔法と関係がある教団書籍の研究論文を書いた時に読みました」
「あ……あの論文ですね、思い出しました。書庫の隅で埃をかぶっている、あの150ページの論文ですよね?」
「なるほど、やはりネルと同じくエシュールも知識人なのか」
「その認識で合っております。 教主様もご存じの通り私達よりも魔法の才能がある妖精で、その才能を活かして妖精たちに魔法を教えようとしてこの王国に魔法学校を建てたんです」
「そして、エシュールはその魔法学校の校長で、妖精の村のパン作り協会の会長なの」
「ですが、妖精たちは生まれつき一部を除くほぼ全国民が魔法を使う事ができるので、当然経営が上手くいくはずもなく、貧しさを補うためにベーカリーを兼業しているのです」
「ここはまだベーカリーじゃない! 『ベーカリー兼』魔法学校よ!」
「妖精たちが生まれた時から魔法を使えるのは私のせい?」
「エーリアスの森に魔法学校が必要ないのは、私のせいじゃない!」
「魔法よりもパン作りの才能があるのも、私のせいじゃないのに!!」
「あああ、落ち着いて!! つまりは本当はベーカリーじゃなくて魔法学校の方をやりたいんだね?」
「えっ? ま、まあそうですけど…」
「それならさ、こういうのはどう? この騒ぎが落ち着いたら、私がその魔法学校の生徒になってみようと思うんだ」
「ええっ!? それ、本気で言ってるんですか?」
「本気だよ。 この騒ぎが解決したら、私は本格的に教主として色々と動き出さないといけないから、まずは妖精が主にどんな魔法を使っているのか、それをエシュールから学ぼうと思ってる」
「で、ですが、もし生徒となったとしても、魔法の才能がないと、魔法を会得する事はできませんよ?」
「そこも大丈夫。 魔法として会得はできなくても、魔法の理論を学んでおくだけでも違うと思うからね」
「教主様…! 積極的な姿勢でいられるのが大変素晴らしいです!!」
「…女王様? こんなノッポな人を生徒として迎え入れても大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ! さっきだって私たちが長年見つけられなった紙を修養録のカバーから見つけ出したし、こんなに積極的な行動力があるから問題ないわ! この女王様が保証するっ!」
「そしたら私からも、教主様に先ほど魔法をかけた時も5秒近く効果を持続できていたので問題はないはずです」
「『物体すり抜けの魔法』はかかった者に魔法を維持させる意思がないと使えないはずなので、僅かながら魔法の才能があるのは私が保証いたします」
「エルフィン…! ネル…!」(しみじみ)
「うーん…」
「…? まだ何か不安があるの?」
「確かに、才能がある事はわかりました。 でも女王様、本当にそれでいいんですか?」
「何が?」
「この人間が本当に救世主であり教主で、この状況を覆す存在だったとしても…」
「異邦人の力で状況を鎮めるのは王国にとって大きな害になるかもしれません」
「そもそも、この状況でどこの馬の骨かも分からない者を信用して行動を共にするのはリスクが大き過ぎます」
「どういうこと? もっと分かりやすく説明しなさいよ。 これだけ私が推している教主のことが信じられないとでも言いたいの?」
「君たち2人だって最初はそうだったじゃないか。 この世界の妖精と比べて体が2〜3倍あるから異端者を見るような見た目で疑ってかかってたじゃん」
「それはそれ、これはこれよ! 今は少しは信用しているからいいじゃない!」
「今はね? でも、その感情をエシュールが今抱いているんだよ。 実績や経験のない奴がいきなり『教主になりました』なんて言ったら誰も信じられないし怖いものだよ」
「確かに、私も救世主かどうか最初は不安でしたから…教主様のお言葉も一理ありますね」
「…あのー、分かりやすく説明してもいいですか?」
「ああああ、ごめんエシュール!! エルフィンに詳しく説明してあげて!」
「例えば、私のような個人ベーカリーがフランチャイズベーカリーの力を借りて上手くいっても、その後、フランチャイズに食われるだけです」
「ベーカリーには、ベーカリー独自の自主権が必要で、それを得るためには、自力で状況を打開する必要があるということです」
「お……おぉ、理解できそう」
「エルフィン、本当に大丈夫?」
「ま、まぁ…」
どれどれ…ちょっと心の中を覗いてみますか。
【ベーカリーに漂うパンの匂いを嗅ぐと、パンのことしか頭に浮かばない】
デスヨネー…
「全ての問題を解決した後、人間に王座を明け渡せと言われたら、どうしますか?」
「まあ、信用がないうちはそうなるよね…」
「結論から言うと、王座を受け渡せなんていう事はないけど、ある程度は一部女王の権限を付与してもらいつつ女王のサポートはしていかないといけないかな、と思ってるよ」
「その少しが、徐々に大きくなって乗っ取りに発展したりするのではないですか?」
(涙目教主)
「うわぁ…信用ゼロって辛いぃ…」
「エルフィン、この私が女王の座を奪ったりするなんて、思ったりする?」
「王座を受け渡す、ねぇ……」
「つまりは義務と責任を脱ぎ捨て……ただ気楽にパンを食べていても、叱られずに暮らせる……?」
【それは、願ってもないチャンス!!】
おい、電磁波ならぬ念じ波で強制的に直接語りかけないで!?
「人間、今すぐ、この王冠を被る?」
「おおおい! 自ら王座を捨ててどうすんだよぉ!!」
「妖精王国の女王は君なんだからしっかりと威厳を保ちなさい! 私が女王の業務を全て請け負ったら教主としての仕事が回らなくなるからね!?」
「ただでさえこの騒ぎが落ち着いたらやるべき事がたんまりありそうなのに…とにかく、私はサポートはしても女王の座はいらないからね?」
「流石です。 自制力もあり、欲もない。 やはり教主の器に相応しいお方です」
「いいでしょう。 ならば教主様のために私が一肌脱ぎましょう」
「えっ、この状況をネルに任せてもいいのか?」
「エシュールさんにまだ信頼されていない教主様が色々仰っても、エシュールさんには響かないと思います」
「なので、ここは私にお任せください」
「そ、そこまで言うなら…ネル、頼んだ!」
「…エシュールさん、今はあれこれ気にしている場合ではありません」
「どんな力を借りてでも、この騒ぎを鎮めなければならないのです」
「とはいえ……ねぇ……」
「王国が滅亡の危機に置かれているのに将来の王国の存続について、ご講義でもされるおつもりですか?」
「そうじゃなくて……実は反乱軍によくしてもらってるんです」
「ベーカリーを燃やすどころか、むしろ守ってくれて……反乱が起きる前の王国は、パンを大量に注文するだけで、お代を払ってくれませんでした」
「な、ナンダッテ!!?」
「………」
(後ずさりエルフィン)
「……パンの大量注文? 女王様? 私に内緒でパンを注文したことがあるのですか?」
(エシュールの後ろに隠れるエルフィン)
「わわわ〜!! エシュール、一度でいいから助けてよ〜! 私、言うほど食べてないでしょ〜!」
「女王様のせいで、うちは大赤字なんですよ!?」
「この通りだから、ね! お願い、今回だけでいいから助けて!」
「うぐっ……」
「エルフィン、それは今までどれだけツケ逃げしたかにもよるな…」
「ひっ!?」
「エシュール、もし私を信頼できるなら今までどれだけツケが残っているのか記録を見せてもらってもいいか?」
「私からもお願いします。 差し支えなければどれだけ女王様が勝手にパンを注文したのか、教えて頂けますか?」
「うーん…司祭長様がそこまでおっしゃるなら、お見せしますね?」
エシュールにこれまでエルフィンが支払わなかったツケがどれだけあるかの記録を見せてもらうと、ネルも私も青ざめるような額である事が判明した。
「女王様〜? 私に内緒でこんなにも注文していたのですか〜?」
(あわあわ&絶望エルフィン)
「ひいぃ!! もう終わりだ…」
(涙目エルフィン)
「またネルにお尻ペンペンされるんだぁ〜!」
「エシュール、この度は…」
(土下座をする教主)
「うちの女王がとんだご無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした!!」
「教主さまぁ〜ん!!?」
「このツケはこの騒ぎが解決したら私のポケットゴールド、あるいはポケットエリーフでお支払いしますので、どうかよろしくお願いします!!」
「そ、そんな、顔を上げてください!」
(顔を上げる教主)
「女王様が未払いのお代を払ってくださることは分かりました」
「ですが、今あなたたちをお助けするかどうかについてはまた別の話になります」
「え、どういうことよ? 私たちに加担してくれるんじゃないの!?」
「エルフィン、それを言うなら『協力してくれる』ね? 加担っていうと悪いことをする組織みたいになっちゃうからやめてね?」
「今や反乱軍に追われている立場にある女王様についたところで、万が一にも反乱軍に捕まってしまえばそれまでですよね?」
「そんな泥舟に誰が乗ると思いますか? どう考えても沈む泥舟に乗るよりかは反乱軍に協力した方が得なのは火を見るより明らかだと思いませんか?」
「う…反論できない…」
「エシュールさん…?」
「はい、なんですか司祭長様?」
「協力していただけるなら、これまで女王様が未払いだったパンのお代と今後1年分のベーカリー……いいえ、魔法学校の家賃は教団がお支払いします」
「はい!?」
「え、教団の公費からパンの未払い分も出してもらってもいいのか!?」
「もちろんです。 本来であれば教団側がお支払いすべきゴールドを女王様が隠蔽したことでお支払いできてなかったのですから、一旦公費で立て替えて女王様に払ってもらうかどうかとかは後ほど考えます」
「それに、教主様がまだ着任されてない時の話である以上、今回の件は教主は一切関与がありませんから、無理に肩代わりする必要はありません」
「わ、わかった…ありがとう、ネル」
(涙目エルフィン)
「終わりだ…もう終わりだ…」
「話を続けますが、1年間、パンを売らずに魔法学校を運営できるのです。 いかがですか?」
「ほ、本当ですか? でも…」
(店の奥に移動してからこちらへどうぞと手招きするネル)
(キョロキョロしながらもネルの元に移動するエシュール)
「エシュールさぁん? 一生ベーカリーを営みたいですか?」
「反乱軍が守ってくれるのも、ここがベーカリーだからこそ、魔法学校となればすぐに火の海にされるはずです。 そう思いませんか?」
「そ、そこまでは……すみません、考えが浅はかでした」
「いいえ、今ならまだ間に合いますよ?」
ネルの説得力がすげぇ…信頼ゼロの私一人とエルフィンだけだったら多分無理だったな。
新たに出会う使徒たちとは信頼ゼロの状態から始まるという事を考慮できてなかった私もある意味考えが浅はかだったな…
今回はネルに頼りきりになってしまったけど、私自身も初対面の使徒と上手く話し合えるためにどうすべきか今後考えていかないとだな。
「じゃあ、私はどうすればいいんですか?」
「よし! じゃあ、私たちに加担…じゃなかった、協力するってことでいいよね? あとで文句言いっこなしだからね?」
【私を守ってくれる肉の壁が増えたわ! いいね~いいね~】
だからエルフィン、念じ波による強制傍聴はやめてぇ!?
「もう少し仲間を集めましょ。 魔法学校が潰れてからだいぶ経ってるからエシュールの魔法の腕は当てにならないし」
「甘王様!? 『当てにならない』はあんまりじゃないですか!?」
「おい、エルフィン!! 頼むから言葉を選んで!?」
「え、だって本当のことでしょ? 本当だったら何いっても構わないと思うわ!」
「あのなぁ…ごめん、エシュール、うちの女王様が時々失礼な事を言うかもしれないけど、私とネルがフォローするからどうか許してほしい」
「それにどの妖精よりも魔法の才能に長けていると聞いているから、いざという時にはエシュールの魔法の力をお借りしたいなって思ってる」
「私が教主になってから大きな実績がまだないから信用してくれなければそれで結構。 でも私は君のことを信用したい」
「エシュール、どうか私たちの仲間になってくれないか…?」
「私からもどうかよろしくお願いします。 この騒ぎが解決した暁には、未払い分のパンのお代と今後1年分の家賃をお支払いすることをお約束します」
「教主様、そして司祭長もそこまでおっしゃるのなら…」
「…分かりました。 貴方達にお供いたします」
「…!! ありがとう、エシュール!」
「ありがとうございます!」
「決まりね! そしたら他の仲間にも会いに行きましょ!」
「エシュールさんの他に、ご友人がいらっしゃるのですか?」
「うん…他にもいる。 いるはいるけど……」
「いるけど?」
「ネルが怒らないって約束してくれるなら、教えてあげる」
「怒る? 私がこれまでに怒ったことがありますか?」
「ネルは……いつも怒ってるでしょ……一昨日も……昨日も……今日も……そして明日も……」
『それは女王としての役目を果たしてないからでしょ!』とツッコミたくなったが、これ以上はエルフィンが落ち込み過ぎたりしそうだからやめておこ…
「分かりました。 約束します」
「へへッ〜」
一方でエルフィンは単純だよな…こうして社交辞令でも約束しますって言っておけば納得してくれるんだから。
それにエルフィンがネルを怒らせるような事を今後もしそうな気がするからな…私の教主としての不甲斐なさも含めて先が思いやられることは山積みだけど、まあなんとか頑張ろ…