大秘宝なんかいらない 短編集   作:mooma

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『“大秘宝”なんかいらない』シリーズ主人公がワンピース世界に単なる転生をしています。

成り代わりではなく、普通のオリキャラポジションです。


精霊たちが喋ってます。

主人公のチート具合に磨きがかかってます?

残酷な表現もあります。

ドンキホーテ兄弟が揃ってシスコン拗らせてます。

長いです。

長いです。

すごく長いです。

大事なことなので三回言いました。


基本書きたいトコしか書いてません。



以上を見て、問題ないという方は、引き続きどうぞ!


IF ドンキホーテ三兄弟妹 末妹ver.

(略)

 

まとめ:死んだ俺は転生することになったので糸の能力を望んだ

 

〔…それでは…あなたの旅路に良き縁のあらんことを…〕

 

女神のその言葉を最期に、オレは眠りに落ちるように、意識を手放したのだった…

 

〔…あ…どうしましょう…?…まさか私までミスをするなんて…〕

 

そんな不吉な声が、落ちていく意識に届いたのは、そのすぐ後だった…

 

 

 

 

 

 

 

生まれ変わったオレは、四つ上の兄がドンキホーテ・ドフラミンゴ、ふたつ上の兄がドンキホーテ・ロシナンテと言う、ドンキホーテ家の第三子末っ子長女として生まれてきた

 

祖父母ほか親戚一同の、正直辞めて欲しかった英才教育のお陰で、ドフィ兄さまは着実に原作のような典型的天竜人コースに沿って成長しつつある…

 

彼らに言わせればオレたちの父親であるホーミング聖は出来損ないなのだとか…

 

ハッ!どの口が言うか

 

挙句ロシィ兄さまに対しては光るものがないだの、出来損ないの子は出来損ないでしかないだの好き勝手言いやがって!

 

まあ、お前らが光るものがあるとしているドフィ兄さまだってこのままじゃ将来お前たちの敵になるんだけどな!

 

ドフィ兄さまとオレに対してはヤケに構ってくる奴らが煩くて仕方がない

 

無駄な英才教育はドフィ兄さまに多大な悪影響と、ほんの少しだけ感謝しなくもない知識の数々を与えてくれた

 

けど、その悪影響を心配した父は、オレの静止も聞かず、一家の移住を決意したのだった…

 

まあ、四歳の子供の静止なんて、ワガママとしてしかとられないわな…

 

 

 

 

 

 

 

「父上~、奴隷は何処だえ?買いに行こうえ!」

 

「ドフィ…お前たちには一から教えねば…」

 

どこか苦痛を感じている父を横目に、オレはドフィ兄さまの側まで近づくとニコッと笑顔を見せた

 

「アミィどうしたえ?」

 

今生の名であるアマデアの愛称を呼んでくるドフィ兄さまは、ロシィ兄さまにも甘いが、オレには殊更甘い

 

やっぱり弟よりも妹の方が可愛いのかもしれない

 

「アミィ、どれーよりドフィにいさまとあそびたい」

 

「アミィがそういうなら仕方ないえ、奴隷よりもアミィが優先だえ!」

 

時々ツンデレを発揮してくれるドフィ兄さまも、オレから見れば可愛いチビちゃんだ

 

こうしておねだりすれば大概の事は忘れてオレのことを優先してくれるあたり、シスコンを患ってるのは確実…それを悪用して長兄を操作することにはあまり罪悪感はない

 

家族のためだ、許してね、ドフィ兄さま?

 

そうして天竜人的な行動を取る度にオレが泣きそうになったり、実際に泣いてしまったりを繰り返していたら、ドフィ兄さまもオレを泣かせないようにと行動を改めてくれた…オレってば愛されてるなぁ

 

でも、だからと言って運命を変える事は出来なかったようだ…

 

引っ越してからさほど時間がかからないうちに、屋敷は襲撃され、オレたちは逃げ暮らさなくてはならなくなってしまった…

 

 

 

不衛生な小屋での生活は母だけでなく、オレの身体をも蝕んでいった…

 

免疫もまだ完全ではない幼児の身体では病原菌に抗うことも難しく、小屋に移ってからは咳や熱に苦しめられてばかりだ

 

オレの兄達は少しでも身体にいいものをと色々持って来てくれるけど、それさえも喉を通らない時がある

 

無理に食べて戻してしまったこともあるから、無理をして食べるわけにもいかない…

 

徐々に悪化していく体調

 

何度も何度も生死の境を行ったりきたりを繰り返していたある日、変なものが見え出した

 

最初は父や母、ロシィ兄さまの周りをふわふわと漂う光の粒だった

 

熱で幻でも見ているのかと思って最初は特に気にしていなかったけど、その後も生死の境を行ったりきたりしている間に、それは徐々にはっきりと見えるようになって…

 

《大丈夫?だいじょうぶ?》

 

《早く良くなって…》

 

《私達の力をあげるから元気になって…》

 

そんなことを言いながらほわほわふわふわ私達の周りを漂っているのは、なんなのだろう?

 

《…悪イモノ、喰ウ…姫、元気ナル…悪イモノ喰ウ、悪イモノ喰ウ…悪イモノイッパイ喰ウ…》

 

ドフィ兄さまの後ろでそんなことを言っている、黒いローブは一体なんなのだろう?

 

ある朝起きると昨日までの半死半生状態が嘘のように具合がよくて…

 

「アミィ、無理して食わなくて良いんだからな?」

 

ドフィ兄さまが持って来てくれたスープも、

 

「アミィ、これ、甘くておいしいから、きっとアミィもたべれるよ?」

 

ロシィ兄さまが持って来てくれた果物のピューレも、不思議なくらいすんなりと喉を通って…

 

そのまままた眠ってしまったオレは後で教えてもらうまで知らなかったけど、久しぶりにちゃんと何かを食べたオレを見て、オレが眠った後兄達は号泣していたらしい

 

その日を境に、何も口に出来ないほどの体調悪化はなくなったけど、それでも相変わらず風邪をひいていたり熱が出たりでオレはほとんどずっとベッドの住人だった

 

そんなオレの為に兄達は外から色んなものを持って来てくれて、そして色んな話を聞かせてくれるようになった

 

それは慎ましくも、幸せな生活だった…

 

ある雨の日に、母が通り魔に刺されて死ぬまでは

 

 

 

ふわふわ母の周りを漂っていた光の子が教えてくれた…刺したのは通り魔じゃなくて政府の工作員(エージェント)だったって

 

時折窓から忍び込んできて外のお話をしてくれる風の子が教えてくれた…政府がオレたちを始末するつもりだって

 

怒り狂った人間たちが小屋にも押し寄せてきた時、オレたちにはもう、安眠できる場所は残っていなかった

 

逃げて逃げて、逃げ続けて、それでもオレたちは捕まってしまい…

 

「おれ達と…同じ目に遭わせてやる…!!」

 

家族と引き離され、連れてこられて小部屋で、ナニが始まるのか予想がついて、身体が強張る

 

見上げた人間は、恐ろしい形相をしていて、ああ…オレの人生もこれまでか…と思った

 

でも、予想に反して、その場では何もされなかった

 

それどころか、一日経っても三日経っても、粗末な食事を与えられるほかは、何もされることはなくて…

 

日付を数えるのも面倒になり始めたある日、食事の時間ではない時に扉が開いて、おばあさんと数人の男たちが入ってきたのだった

 

「なあ、おばば…コイツは天竜人だぞ?おれたちが味わったのと同じ目にどうしてあわせちゃいけないんだ?」

 

「…どうせおまいらは見てもわがらねぇだろうが…この娘ば傷つけでみぃ?海ば荒れ、大地は腐り、風も止む…この娘は精霊の愛し子だで、精霊さまの怒りば買いどうながったら丁重に持で成してさじあげろ」

 

おばあさんには見えているのか、オレの側にいる光の子の方をじっと見ていて…

 

でもオレが怪我させられたぐらいでそんなにこの子たち怒るのかな?

 

「愛し子って…!こいつは天竜人だぞ!?」

 

「精霊さまにゃんなこだぁ関係ねぇんだ。ほれ、娘っ子、精霊さまになんかお願いしでみぃ。こいづらにおんしが巫女だってどこ見ぜりゃあ黙るだろい」

 

急に言われても何も思いつかないよ、おばあさん…

 

でも何かにないと酷い目に遭わされるんだってことを考えれば、すぐにお願いのひとつやふたつ思いついた

 

「あのね、ここ、ちょっと暗いから、明るくしてくれる?お日さまぽかぽかのお外みたいに」

 

オレの側にいる光の子の方を見てそうお願いすると、すごく嬉しそうな顔をしてぱぁぁっと部屋を明るくしてくれた

 

「ありがとう!すっごく明るくなってアミィも嬉しいよ!ほんとにありがとうね?」

 

お礼を言うと光の子は照れ照れと嬉しそうに8の字を描くように飛び始めて、ちょっと可愛かった

 

「な…ッ!?これじゃ…本当に昔話の愛し子と一緒だ…!!」

 

「わがったならぢゃ~んと面倒を見でさじあげろ。精霊さまの怒りば買いどうないべぇ?」

 

「は、ははぁ~!!」

 

そのまま部屋を出て行ったおばあさんは、どうやらこの辺りでは偉い人らしい…

 

その日からオレの待遇は良くなって、外出こそは許されないものの、お社のようなところの中でなら自由に過ごしていいと言われ、ご飯も粗末なものではなく、品数も大量にある豪勢なものに変わって…

 

「アミィこんなに食べれないし、一人で食べてもおいしくないから、みんな食べるの手伝ってくれる?」

 

世話役だかとして付けられた女の人の袖を引いてそうお願いすれば、最終的にはみんなで普通のご飯を一緒に食べれるようになって、すごく安心した

 

どれくらいの間離れているのかはわからないけど、家族の事が心配で風の子達に様子を見て来て欲しいと頼んだのだけど、いつまで経っても頼んだ子達が帰ってこない

 

ああ、これはもしかしてもしかするのか…と思って風の子達を問いただせば案の定、ドフィ兄さまがお父さまを殺してしまった後だった…

 

「ロシィ兄さまは…?」

 

《海軍の人についてったよ~…え~っと、たしかぁ…ガープの友達!》

 

オレが死んだと思って、ドフィ兄さまは父を責め立てたのだそうだ…オレが病気になった事も、母が殺された事も、全部父のせいだと…

 

家族の中で唯一光の子がついていなかったドフィ兄さまには心の闇を生む嘆きを晴らす方法がなくて…

 

そして闇がついていたが故に、大事な家族を傷つけた父は、もう家族ではないと決めた瞬間に、排除すべき敵となってしまったのだろう…

 

「名前忘れたならそう言えばいいのに…センゴクさん、だったっけ?」

 

《そう、それ!…姫のちぃにぃつれてくる?オイラたちならできるよ??》

 

風の子達は必要なら風に乗せるなり風で攫うなりして人を移動させる事もできるらしいけど…

 

少なくとも今のオレがそれを使わせてもらえそうな気配はない

 

…色んなトコ行き放題だってちょっと嬉しかったのに

 

「ううん、いい…ロシィ兄さまもドフィ兄さまもアミィが護らなくても強いから…でも、辛い事に負けちゃったりしないように、ちょっとだけ力を貸してあげてくれると嬉しいなぁ…ドフィ兄さまの闇は強いからドフィ兄さま負けちゃうかもだし…」

 

《わかったよ!姫のだぃにぃの闇、強くなりすぎる前に、定期的に散らしとくね~!その代わり姫になんか歌ってほしぃなぁ~?》

 

「うん、じゃあ何か考えとくね。楽しみにしてていいよ?」

 

《やった~!》

 

時折、オレのお願いを聞いてくれる代わりに彼らもお願いをしてくることがあるけど、それは可愛いものばかりで…

 

顔合わせの際に知らされた中であった、唯一危なそうなものでさえ、嵐のお方の《我に願う際にはその金色の髪を一房欲しい》だったのだから、オレがどれほど可愛がられているのかはわかるだろう

 

風の子経由でそれはずるい、これがただのシャーマンと本物の巫女姫との違いか…と声を届けてくれた人がいたけど、その人だってちょっと頑張れば嵐のお方を呼べるあたり、優遇はされていると思う

 

今の時代で嵐のお方を怒らせず、暴走させることなく呼べるのなんて、オレと彼ぐらいなんだし

 

雪の降り積もったお社の庭でしていた、風とのお喋りを切り上げて、オレは再びお社の中へと戻る

 

精霊たちの厚意で、オレは寒いところに行っても熱いところに行っても、いつでも周りが適温になるようになっているんだけど、それを知っていてなおお社の人たちは心配して暖房を上げようとするから、なるべく早く戻った方がいいのだ

 

天然の温泉が引いてあっていつでもお風呂には入れるし、上等な湧き水が敷地の中に湧き出ていて小さな川が出来ているし、果物が生るような木々が集まった森も敷地内にあるし、正直お社から出なくても十分に恵まれた生活を送る事はできるのだが…

 

それでもこんな籠の鳥のような生活ではなく、自由に色々なものを見に行きたいと思ってしまうのは、きっと風の子の影響も出ているからに違いない

 

もう少し大きくなって、自分の身を守れるようになったら、遊びに行かせてもらえないかなぁ…?と、小さな願いを胸に秘め、もう一度庭を見遣る

 

雪の子達が楽しげに踊っているのを見て、オレは笑顔でお社の中に戻ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

十三年ほど前、突如として我々の前に現れた、精霊の愛し子たる巫女姫…

 

奇しくも憎き天竜人に生まれた割には、奴らのような傲慢さなどなく、むしろ逆に慈愛に溢れているその姫君が、我々の凍て付いた心を熔かすのにはそれほど時間は必要なかった

 

「フレバンス?今、珀鉛病で新聞を賑わせ始めている、あのフレバンスから?」

 

「はい…その、フレバンスです」

 

精霊の巫女姫として人々の願いを叶えてくれるようになったのは八年ほど前…

 

もちろん、全部の願いを叶えてくれるわけではないけれど、叶えてくれない場合でも解決の糸口などを提示してくれるので人々からの信頼は厚い

 

だからこそ、今回のように困った人間が流れ着くのであって…

 

大事な巫女姫が病を移されてはたまらないと息も絶え絶え辿り着いた人間は離れに隔離し、どうせ教えずとも知られてしまうのだからと報告をすれば、巫女姫様は片眉を上げて怪訝そうな顔をなされた

 

「案内なさい。あれは移らぬ病なので、私もあなた達も気にしなくて大丈夫です。今後はすぐに私の元に通すように」

 

「ははっ!」

 

その報告を聞いてすぐさま、巫女姫様は穢れなき白と海のような蒼の巫女服を翻し、執務室を出て行かれた

 

巫女姫様は確かにはっきりとあの病は移らない病だと明言された…それはつまり遺伝病、風土病あるいは公害病の類だと言う事で…

 

それならば、もしこのままフレバンスが隔離され続け、戦争などと言う結末に至ってしまっては巫女姫様が心を痛ませてしまう…

 

巫女姫様から家族を奪ってしまった我々に対しても心優しく、慈悲をお与えくださる巫女姫様を、これ以上嘆かせてしまうのは我々としても不本意極まりない

 

「早急にフレバンスの民の救出を開始せよ。人間同士の醜い争いで巫女姫様の御心を痛ませることなどあってはならん。わかったな?」

 

「はい、すぐに取り掛かります」

 

控えていた部下にフレバンスの民を救出するよう命じて、巫女姫様の後を追う

 

追いついた私を認めると、巫女姫様はふわりと顔をほころばせて、

 

「ありがとう。私がお願いしなくても、彼らを助けようとしてくれて…本当に、ありがとう」

 

私に直々に礼を言ってくれるなど…!

 

「勿体無きお言葉…!此方こそ感謝いたしたく…!」

 

その笑顔を向けていただけるだけで、あと百年は戦えそうです…!

 

私が感極まっているうちに離れへと着いてしまい、巫女姫様はそっと行儀良く部屋へと入っていかれた

 

「あ…あああ、そんな、巫女姫さま…!?」

 

驚き慄く病人に、巫女姫様はすぐに手が届くほど近くに腰を下ろされると安心させようと笑顔を浮かべられた

 

「具合はいかがですか?フレバンスからこんな遠いところまで、お疲れになったでしょう?」

 

「な、なりません巫女姫さま!こんな薄汚い病人などに触れては…!穢してしまいます…!!」

 

巫女姫様が身を乗り出され、病人の手に手を重ねられようとすると、病人は恐れるように逃げようとして…

 

それを見て、彼らが如何なる目に遭っているのか、察する事は出来た

 

だが、巫女姫様はそのようなことを気になさるようなお方ではなく…

 

「大丈夫ですよ、その病は人には移らぬものですから。それに、人が人に触れて穢れるなんてこと、絶対にありえませんので、ご安心ください」

 

「あ…っ」

 

何の躊躇もなく病人の手を捕まえられた巫女姫様は、いつもと変わらぬ慈愛に満ちた笑みを浮かべられていて…その笑顔を見るだけで、この病人のように、苦痛から解放されるのだと泣き出す人間のなんと多いことか

 

そのまま病人が泣き止むまであやし続けられた巫女姫様はなんとも神々しく…!

 

こうして側仕えの栄誉を賜っていることを今日もまたすべての精霊様方に感謝してしまった

 

 

 

「ごめんなさい…あなたのような病を治療するのは初めてなので、もしかしたら痛むかもしれません…」

 

「いいえ、いいえ…!巫女姫さまに治療していただけるだけで私は幸せですから、痛みくらいいくらでも耐えられます…!」

 

精霊様方に感謝の祈りを捧げている間に、病人は泣き止んでいたようだ

 

巫女姫様は病人の手の甲を自身の心臓の上へと寄せられていて、病を治そうとする際のいつもの体勢へと落ち着かれている

 

胸に寄せられている手は巫女姫様の両手で包まれていて、この御手の間に、病の気を集められるのが巫女姫様の治療法なのだが…

 

「ふ…ぅ…ッ」

 

これは予想以上に両者に掛かる負担が大きく、終わる頃には巫女姫様はいつも疲労困憊となられてしまう

 

白化している部分が、巫女姫様に呼ばれているかのように、徐々に手の方へと移動して行く…珀鉛病の名の通り、体内に珀鉛が溜っているのかも知れん…今まで見てきた病の中で一番苦痛を伴っているようだ

 

巫女姫様をお支えするよう、淡い光が巫女姫様の周りに集まってこられている…これは光の精霊様のお力だろう、何度見ても神々しさしか感じられない

 

そのままどれほどの時間が過ぎたのか、巫女姫様は手にされていた病人の手を放されて、ふぅを息を吐かれられた

 

「病の原因となっていた珀鉛をいくらか集める事は出来ましたが、まだ全てではないようです…もう命の危険はないでしょうが、しばらくは様子を見させていただきたいので社に隣接した宿泊施設にお泊りいただけますか?必要なものはすべてこちらで手配いたしましょう」

 

「あ…ありがとうございます…!ありがとうございます…!!」

 

いつもと病の種類が違うためか、巫女姫様の顔色はかなり悪くなられていて、お身体が丈夫ではない巫女姫様に掛かっていた負担を窺い知ることが出来た

 

泣きながら感謝の念を伝えてくる病人に微笑まれて、巫女姫様はその場を後にする…離れから本社に戻られたところで、巫女姫様はとさりと座りこまれてしまわれた…ここまで戻って来られたのも、そのご気力だけでお身体を動かされていたからに違いない

 

「失礼しても?」

 

「…お願いします」

 

その御身を抱え上げる栄誉を賜るなど、今日はなんと良き日だろうか…!

 

そう思いそうなった自分を戒め、巫女姫様を抱え上げる…巫女姫様が苦しんでおられるのに喜びそうになるなど、恥を知れ私!

 

風の精霊様の寵愛ゆえか、巫女姫様は抱え上げてもあまり重さを感じさせず、むしろ羽のように軽く…

 

「ありがとうございます。…あと、研究所の方に、これを渡しておいて貰えませんか?これがあれば病を癒す薬も作れるかもしれません…」

 

巫女姫様をご自室の前まで運び、御前を失礼しようとすれば、渡されたのは小さな白い立方体…恐らく先ほど取り出された珀鉛なのでしょう

 

「かしこまりました。研究所の者たちに最優先で解析を進めるよう伝えておきます」

 

「ありがとうございます…では、申し訳ないのですが、少し休ませていただきますね…」

 

慣れぬ事に疲れてしまわれた巫女姫様を邪魔するものの無い様、巫女姫様のご自室へと繋がる道に人払いの兵を置いて、研究所へと足を進める

 

この病の特効薬を早急に発見するよう厳命しなくては…

 

巫女姫様の治療時のご様子をお伝えすれば研究所の者たちも死力を尽くしてくれることだろう

 

 

 

 

 

 

 

ローの病気を治そうと、島から島へと移動しながら医者に掛かっていくのに、一向にローを見てくれる医者は現れない…

 

ローは健気にも泣き言を言うことなく、人々の悪意に晒されながらも懸命に耐えていて…

 

おれはただ…ローを苦しめているだけなんじゃないかって思い始めたある日…

 

「おやまあ!坊や、アンタ珀鉛病かい!?」

 

「ッ!」

 

食料を買おうと立ち寄った町で、ローの病気がバレてしまった

 

身を竦ませ、これから受けるだろう暴言に身構えたローに、おれはそんな言葉を聞かせてなるものかとローを抱き寄せた…だが、続いた言葉は予想したものではなく…

 

「辛かったねぇ…これから精霊様の大社に向かうのかい?ほら、これも持ってお行きよ」

 

「精霊様の…大社…?」

 

「おや、知らなかったのかい?精霊様の大社に居られる巫女姫様が『珀鉛病は移る病ではありません、私の所で癒せる体質問題です』と仰っていたから、てっきりそれでここに立ち寄ったのだとばかり…」

 

お喋りな八百屋のおばちゃんはそれからも色々と教えてくれ、ローの病を治す手掛かりを見つけられた気がした

 

「ああ、でも誤解はしないでおくれ。巫女姫様に出来るのは病気を癒すことであって治すことではないから、何十年か先に再発する可能性は残っているそうだよ。それでも、治す方法も探しておられるらしいけどね」

 

そう締めくくって、おれたちに栄養のあるものを渡してくれたおばちゃんにはいくら感謝しても感謝仕切れない…!

 

「聞いたか、ロー!ほんと、捨てる神あらば拾う神ありだな…!」

 

「ああ…コラソン…おれ、もう、苦しまなくていいんだよな…?」

 

「ああ!時間さえ稼げればローならビョーキを治す方法を見つけられるだろ?」

 

泣き出したローを抱えなおして、おばちゃんが教えてくれた場所へと向かうため、船に戻る

 

向かう先は此処から更に北に向かったところにある島の、聖域・精霊大社

 

向かう足取りは軽く…つい滑って転んでしまった……おれはドジっ子なんだ…

 

 

 

船を出した瞬間から操舵も効かず、まるで何かに呼ばれているように、一直線に辿り着いた聖域・精霊大社のある島…

 

島は北側を挟むように二つの大きな火山があって、南側からしか島には入れなかった

 

この島の最奥、二つの火山に護られるようにして建っているのが、精霊大社…社に続く石畳を進んでいくと朱塗りの門のようなものが現れた

 

その両側には衛兵がいて、そして整った格好の妙齢の男が居た

 

黒羽(くろはね)の大男と、氷雨のような少年…お前たちが巫女姫様の言っていた訪問者か。ついて来なさい、巫女姫様がお前たちをお待ちだ」

 

妙齢の男はそう言うとおれたちを案内するように歩き出した…ここにいるって言う巫女姫は、おれたちが来ることをわかっていたのか?

 

ローが苦しんでいる事を、わかっていて、何もしなかったのか…?

 

怒りを覚えるべきか否か、煮え切らない気持ちに、とりあえず手を強く握り締めるだけにしておいた

 

「…巫女姫様のことを責めるつもりなら、それはお門違いだ。巫女姫様はこの大社から出ることを許されていない籠の鳥…責めるべきは巫女姫様ではなく、巫女姫様を閉じ込めている我々の方だ。いいな?」

 

おれの態度を見てか、男がそう言ってきた…ここから出してもらえないなら、助けたくても助けられないのか…そうなると、あの船を動かしていた力は、この巫女姫の力なのかもしれないな…

 

ひたすら登っていく石畳は、もう疲れていてもおかしくないほどなのに、誰かが背中を押してくれているかのように、足がすいすいと進んでいく

 

登り続けてどれほど経ったのだろう、突如として景色が開かれ…

 

「ようこそ、精霊大社へ。巫女姫様はあなた方を歓迎しておられます」

 

一面の雪景色の中、浮かび上がるように建っている壮大な木造の建物

 

右手側にはこの深い雪の中にも関わらず、見事に薄紅の花を咲き誇らせている大樹

 

左手側には青々と繁る森…

 

この大社の敷地だけで大きな街ほどはありそうだ

 

「さあ、此方へ。巫女姫様もすぐに参られましょう」

 

「あ、ああ…」

 

そうして案内された先にあったのは、センゴクさんのところでも見たことのある、畳の敷かれたそれなりに大きな部屋

 

畳に上がる際には靴を脱ぐのだとセンゴクさんが教えてくれていたお陰で、変に恥をかくようなことにならなくてよかった…

 

「では、私はこれで…」

 

男はそれだけ言うと、頭を下げて部屋を出て行った…正直、こんなところにいたんじゃ緊張しかしてこない

 

落ち着くために煙草を吸おうかとも思ったが、畳を燃やしてしまったら困るからな…我慢しないと

 

どれほどの時間が経ったのだろう…多分体感よりはずっと短い時間だっただろうけど、カチカチに固まったおれには酷く永い時間に思えた

 

「コラさん…そんなに緊張しなくても…」

 

「でもよぉ、ロー…おれがなんかドジって、お前が癒しもらえなかったらって思うと…」

 

ガチガチなおれとは違って、ローはすごく落ち着いていた…でもおれに呆れたようにため息をつくのはやめてくれ

 

そう思ってすぐ、ぱたぱたと軽い足音を響かせて、誰かが近づいてきた…この足音の持ち主が巫女姫なのか?どう聞いてもまだ子供の足音じゃないか!

 

そう思った次の瞬間、高い声が響き渡った

 

「姫姉様、ここ~?」

 

「ええ、そこですよ。入る前にちゃんとご挨拶、してくださいね?」

 

「は~い!…失礼しま~す!」

 

どうやら軽い音の持ち主と、巫女姫は別人だったらしい…開けられた障子とか言うドアから覗き込んできたのはローよりいくらか幼い少女で…

 

「兄様っ!」

 

「ラミ…!?」

 

ローを見た瞬間抱きついてきた子供の名には、聞き覚えがあった…たしか、ローの妹の名前だったはずだ

 

「おまえ…生きてたのか!?」

 

「うん!大社の人たちが助けてくれたの!わたし以外にも、みんなじゃないけど、たくさんの人が助けてもらえたから、あとで兄様も会いに連れてってあげるね?」

 

驚き、目を見張るローに、その子が確かにローの妹なんだってことがわかって…よかったなぁロー!妹が生きていて…!

 

おれも、自分の妹であるアマデアのことを思い出して、涙が止まらない…

 

おれはまだ知らなかったのだ、その数瞬後には、おれも自分の妹と再会することなんて

 

「ラミちゃん、よかったですね、お兄様と再会できて」

 

「うんっ!姫姉様が兄様を連れてきてくれたからだよ!ありがとう、姫姉様!」

 

「ふふふ…そう言ってもらえたなら、私も頑張った甲斐がありました」

 

障子の向こうに姿を見せた巫女姫は、目を奪うほどの美人だった

 

真っ白いキモノに、蒼い袴、豊かな金色の髪に海のように蒼い目…雪のように白い肌には傷一つなく、その所作はたおやかだ…

 

だが、なぜかその顔には見覚えがある気がして…

 

「はじめまして、そしてお久しぶりです。私はこの精霊大社にて巫女をさせていただいているもの…名をドンキホーテ・アマデアと言います」

 

「え…?」

 

火はつけていなかったものの、口寂しいからと咥えていた煙草が落ちる

 

「ごめんなさい、ロシィ兄さま…今までなにも伝えられなくて…ご無事で何よりです」

 

泣きそうになりながら微笑むその表情には、確かに昔の面影が残っていて…!

 

「アミィ、なんだな…?」

 

「はい…ただいま、帰りました…ロシィ兄さま」

 

思わず強く抱き締めてしまった身体は、あの頃よりは大きくなっていても相変わらず折れそうなくらい細くて…

 

どうして教えてくれなかったんだとか思うところはたくさんあったけど、でもそんなことより、今は…

 

「おかえり、アマデア…!」

 

もう少し、おまえのぬくもりを感じさせてくれ…!

 

 

 

「それじゃあ、アマデアはあの日暴行に会う事無く、閉じ込められて、しばらく後にこの大社に連れてこられたんだな?」

 

「はい…ここに着いて以来外に出る事は許されておらず、精霊たちに頼んで兄さまたちの様子を教えてもらうのが精一杯でした…」

 

皮肉な事に、小さかった妹もアイツが起こした凶行を知っていて、アイツのことで心を痛めていた…

 

「でも、だからと言ってドフィ兄さまがおかしいと言う訳ではないのです…ドフィ兄さまにとっては、家族を傷つけるものはすべて排除すべき敵なのです。そして父に責があると感じた時に、父はもう家族ではないと思い、その結果があの凶行で…」

 

アイツを庇うアマデアには悪いが、おれはそうは思えない…アイツは、父をも殺せるバケモノなんだ…でも、もう一度家族が家族を傷つけるようなことがあれば、アマデアは間違いなく泣き暮らすことになってしまう…

 

そう思ってしまえば、おれはこのまま自分の任務を続けていいのか、覚悟が揺らいでしまって…

 

アイツを止めなければたくさんの人が苦しむのに…でも妹を泣かせたくはないし…っ

 

「それでも…おれはアイツを止めないと…」

 

例え、アマデアに嫌われることになっても…アイツを放っておく方が、世界には害になるだろうから…

 

「…それなら、アマデアも一緒にお連れください、ロシィ兄さま。アマデアになら、ドフィ兄さまを説得できるかもしれません」

 

そう言っておれの手に手を添えてきたアマデアの目には、揺るぎない覚悟の光が宿っていて…

 

「いい、のか…?兄上を、傷つけることになるかも知れないんだぞ…?」

 

あのか弱く、すぐに消えてしまいそうだった妹が、こんなに強くなったのを見て、また涙が溢れてきた…

 

「それはロシィ兄さまにも言えることでしょう?愛する人が誤った道に進もうと言うのなら、それを正してあげるのも愛するが故にです。いざとなったらドフィ兄さまを引っ叩いてでも止めて見せますよ?私、こう見えても肉弾戦もイケるんですから!」

 

にっこり微笑んだアマデアの冗談に、おれもつい笑ってしまって…それが冗談ではなく、本当のことだと知るのはまだ先だったが…

 

 

 

「お願いです…!一度、一度だけでいいので長兄に会いに行かせてくれませんか…?もう、ワガママは言いませんから…!」

 

祭司長だという男に懸命に頼み込むアマデアに、周りの人間は困ったような顔をして顔を見合わせるだけで、うんともすんとも言わない

 

未だに身体は弱いというアマデアにとって、此処の環境は一切害をなさないからこそ、この聖域に閉じ込めているのだそうだが…六歳の頃より此処から出たことのないアマデアにとっては、護るためだと言われても苦痛にはなっていたようで…

 

半泣きになりながら頼み込んでいるアマデアに、祭司長も本音で言えば許可してあげたいように見えた…だが、何かあっては大変だからと繰り返し繰り返し口にして、アマデアの願いを叶えてあげようとはしていない

 

もういっその事こいつら全員殴り倒してアマデアを攫っていこうかと思った瞬間、だいぶ年老いたばあさんが部屋へと入ってきたのだった

 

「まっだく…騒々じい…」

 

「おばばさま…!お願い、わたし、ドフィお兄さまに会いに行きたいの!わたしがお兄さまを止めないと大変なことになるかもしれなくて…!」

 

そのばあさんはどうやらここいらでは一番偉い人なのかもしれない…甘えるようにアマデアが膝をついてお願いすれば、そのばあさんはアマデアの頭を撫でて笑って

 

「良ぇ、良ぇ、行っどいで。本当ならおんしが十六の齢の頃がらでがけでも良がったんだ。なんに、ごいづらみぃんな過保護だでなぁ…怪我さ、すんでねぇぞ?」

 

「…はいっ!」

 

ばあさんのお許しに、花が咲くように笑顔になったアマデアに、周りの人間ももう、ダメだと言う事は出来なくなったようで…

 

「おばばさま!…はぁ…巫女姫様、どうかお気をつけ下さい。外には海賊などと言う不埒な輩も多く、巫女姫様を捕らえ、そのお力を悪用しようと企んでおるやも知れません…くれぐれも、くれぐれも!見知らぬ方には気を許されませぬ様、お願いいたします!兄君も、巫女姫様に何かあったなら…お解りですね?」

 

…その兄たちは一人が生粋の悪党で海賊をやっていて、一人が潜入捜査で海賊をやってる、なんて言ったらきっと三秒くらいで許可が撤回されそうだな…

 

「ああ、わかってる。アマデアはおれが護るから、害が及ぶなんて事は絶対にない、安心してくれ」

 

むしろコラさんのドジに巻き込まれる方がよっぽど現実的な害だよな…なんて呟いたローの言葉は聴かなかったフリをして、にこにこと花を咲かせたままのアマデアに向き直る

 

「あ~…とりあえず、準備するの手伝うから、部屋、行くか」

 

「はいっ!ふふふ…お外、すっごく楽しみです…!」

 

手を差し出せば両手で握ってきたアマデアに、おれも笑顔になって…この小さな妹を、もう一度笑顔に出来た事に、おれは幸せを感じていた…

 

 

 

 

 

 

 

「それで?最初は何処に向かうのですか、ロシィ兄さま」

 

コラさんの妹でもある精霊の巫女姫、アマデア様を旅の仲間に加え、おれたちは精霊大社のある島を後にした

 

ラミやみんなと一緒に島に残る事も出来ただろうけど…おれはコラさんと一緒にドフラミンゴのところに戻ろうと思ったから、こうしてまだ船に乗ってる

 

「あ~…ドフィがどっちに居るとかってわかるのか?」

 

「ええ、ちょっと待ってくださいね…わかる?…うん…うん。頼んだら連れて行ってくれるそうですけど…お願いしますか?」

 

アマデア様…アミィさんはほわほわと世間知らずな所もあるけど、それでも芯の強さはコラさんやドフラミンゴに似ている印象がある

 

今のようにおれの目には何もないところに見える場所に視線を向けて、何かと話しているのは精霊と話しているからなんだそうだ

 

周りに風が無くてもアミィさんの髪が風に遊ばれていたりするから精霊がいることはわかっている

 

その精霊たちに頼みを聞いてもらえるのが、巫女姫の特権なんだそうだ…ラミが楽しそうに話しながら教えてくれた

 

「いや…どうしようか…」

 

コラさんが悩むように顔を歪める…少し悩んでいるうちに、突如電伝虫が鳴り出した

 

《ぷるぷるぷるぷる…》

 

「コラさん…」

 

「悪ぃ、アミィ…“(カーム)”さしてもらうぞ」

 

コラさんはアミィさんの声が向こうに聞こえないようにしたかったのだろう、音を消されたアミィさんはパクパクと口を動かして、声が響いてないことに気がついたのだろう、不機嫌そうに頬を膨らませていた

 

《かちゃん》

 

『おれだ、コラソン』

 

「…(とんとん)」

 

『ローを連れて船に戻れ。病気を治せるかもしれない…!』

 

ドフラミンゴにはまだ病気を癒してもらった事は伝えていないから、ずっと情報を集めてくれていたのかもしれない…

 

でも、アミィさんに癒してもらった事はまだ他の奴らには教えるなってコラさんに言われている

 

大社の人たちが心配していたように、アミィさんの力はたくさんの人間に狙われてしまうだろうから…ちらりとアミィさんを見遣れば、なぁに?とでも言うように首を傾げられた

 

『オペオペの実の情報を手に入れた。危険だが、これを奪うつもりだ』

 

一方的に告げられていく情報に、コラさんもアミィさんも顔色を変えていく…苦々しい表情のコラさんとは対称的に、アミィさんはまた泣きそうな顔になっていて…

 

そっと慰めるように手を重ねてあげれば少しは笑顔を見せてくれたから、安心できたけど…

 

電話を切ったコラさんはフゥ…っと煙草の煙を吐き出すと、くしゃりと頭をかいて

 

「悪ぃ、一件電話をかけなきゃならなくなったからもう少し待っててくれ」

 

そう言って電話をかけた先は以前もかけた相手で…

 

ごめん、コラさん…本当は、知ってるんだ…コラさんが、海兵だってこと…

 

でも、コラさんは違うって言ってくれたから、だから、それを信じるよ…

 

しばらく話し続けた後、その電話も切ったコラさんは、痛々しそうな顔をしていて…

 

「…ルーベックに向かえばいいんですね?ロシィ兄さま」

 

「……ああ…」

 

「聞こえたでしょう?お願い、私達をルーベック島まで運んでちょうだい」

 

いつの間にかコラさんの能力は切られていたらしく、そう尋ねたアミィさんはコラさんがやろうとしていることを解っているようだった

 

やっぱり、離れて育っていても兄妹は兄妹なのかもしれない…ラミもおれの考えを読んでいたような顔で見送ってくれたからな…

 

舵を取ることもなく向きを変え始めた船だが、コラさんの表情はそれでも晴れなくて…

 

「ロシィ兄さま…兄さまが何をしても、アミィは兄さまの味方ですから。いざとなったら大社でお二人を匿うことだって出来ますよ?だから…」

 

「アミィ…おれは…っ」

 

アミィさんに抱きついたコラさんと、そのコラさんを抱き返したアミィさん…どういう事なのかおれにはわからないけど…きっとこれからする事はそれだけのことなんだろう

 

泣き出したらしいコラさんを抱き締めたまま、慰めるように歌い出したアミィさんの歌声が空に響き…優しい風が哀しみを攫うように吹き出して…

 

願うのは、この優しい人たちがこれ以上傷つくようなことがない未来…一瞬強く吹いた風に、

 

《…約束は出来ないけど…オイラたちも頑張るつもりだよ…?》

 

《悪しき未来など…妾が凍らせて砕いてくれよう》

 

声が、聞こえた気がした…

 

 

 

 

 

 

 

ローと二人、ロシィ兄さまがオペオペの実を取って戻ってくるのを待つ…

 

ドジっ子なロシィ兄さまのことだから、多分最後の最後の大事なところでドジって怪我をしてしまう可能性が高い

 

そう思って、オレは密かに風の子たちにお願いしておいた…ロシィ兄さまに向かう銃弾は、当たる軌道から逸らして欲しいと

 

その代償におねだりされたのは数曲分の歌だったけど、歌うだけでロシィ兄さまを助けられるなら安いものだ

 

「コラさん、大丈夫かな…?」

 

「大丈夫ですよ…ロシィ兄さまはドジっ子ですけど、ドジさえしなければ強いですから」

 

「…そのドジが心配なんだよ…」

 

「ふふふ…大丈夫、ドジってしまったら助けてあげて欲しいと精霊さんたちにお願いしましたから」

 

「…なら大丈夫だな」

 

ロシィ兄さまからオレを護るようにと頼まれているローは、結構しっかりと辺りを警戒してくれている…その間にオレを心配してか話題を振ってくるあたり、気遣いも忘れていない立派な紳士だ

 

原作では熱に魘されていたが、こうして無事な姿を見ていると、素直に嬉しいと思う

 

多少無理をしてでも癒しておいて良かった…

 

そう思って、ホッと息を吐こうとした瞬間だった

 

「!」

 

《姫ッ!気をつけて!!》

 

ローが何かに気付いたように、急に振り返り、風の子がオレに警戒を呼びかけた

 

誰か…いる

 

好意的でない、誰かが

 

「アミィさん…下がってて…!」

 

「いいえ、私も必要なら戦えます…ローくん一人に任せたくはありませんから」

 

「…わかった。でも、無茶はしないで」

 

本当は嫌なのかもしれない…それでもオレの気持ちを汲んでくれたローは本当に優しい子だ

 

近づいてきた影に、ゾクリと背中が粟立つ…強い闇の気配…

 

ふるりと震えてしまい、自分の肩を抱く

 

ここに居るだろう人間の中で、これほどの闇の気配を持てそうな人間は二人だけ…

 

「子供か…?…こんなところで何をしている?危ないぞ?」

 

「海兵…?」

 

予想より早い…ッ!

 

やっぱり此処でコイツに会う運命は変えられないのか…!?

 

「気を抜かないでローくん!ソイツはドンキホーテ海賊団(ファミリー)の工作員!初代コラソンでもあったヴェルゴと言う男です!」

 

「なに…!?コイツが、コラさんの言っていた…!?」

 

「なぜ…それを知っている?」

 

殺意とも言うべき強い害意を向けられて身が竦む

 

でも、ここでオレが退くわけには行かない…!

 

ロシィ兄さまの未来がかかってる…!ローの未来がかかってる…!

 

「風よ、刃となりて我が敵を裂け!」

 

《任せて!》

 

ローに振り下ろされようとしていた拳に風の刃を当てて、ヴェルゴを吹き飛ばす

 

「能力者か…おれは女相手でも容赦などしないぞ?」

 

武装色のせいか、あまり大きな傷は付けられなかったみたいだけど、それは逆にこっちからすればありがたいことだ

 

威力を上げても、間違って殺してしまうようなことはないってことなんだから

 

「ローくん、退きますよ!走ってください!」

 

「でも、待ち合わせが…!」

 

「私が誘導するから大丈夫です!」

 

「わかった!」

 

走り出したローを確認して、思いっきり雪を巻き上げる

 

「視界を塞いだところで…!なに!?」

 

視界を塞いだだけでは見聞色で気配を辿られればすぐに見つかってしまうだろう…でも、オレには精霊たちがついてる

 

気配の強い宝玉の精霊たちに協力してもらって、見聞色で見つけられる気配の数を増やせば、どれがオレたちだかわからなくなるのは実験済だ

 

精霊たちに頼んでオレたちの気配を散らしてもらいながら、大きな気配を持った精霊たちに真逆に進んでもらえば多少は時間が稼げるはず…!

 

風で雪を巻き上げるのを続け、足跡を消せば、追跡が難しくなって逃げ切れるかもしれない…

 

多分、そんな事はないんだろうけど…

 

しばらく走り続ければ新しい待ち合わせ場所が見えてきて、そこにはもうロシィ兄さまがいた…

 

「アミィ!ロー!」

 

少し煤けただけで大きな怪我はなさそうなロシィ兄さまに安心したけど、でもまだ気を抜くわけにはいかない

 

「一体何が…」

 

「すみません、ロシィ兄さま…兄さまの言っていたヴェルゴと言う男に遭遇してしまったので逃げることにしたんです」

 

風の子たちに辺りの警戒を頼んでロシィ兄さまを見上げれば、大きな怪我はなくとも小さな傷はそれなりに出来てしまっているようだ

 

「ヴェルゴに!?」

 

「はい…ヴェルゴは海軍に潜入していて、海兵の格好をしています。ドフィ兄さまに情報を流したのも彼なのでしょう」

 

「そうか…二人とも良く無事だったな…怪我ぁないか?」

 

オレとローに怪我がないか一通り見て確認した後、怪我がないとわかってロシィ兄さまはホッと息を吐いていた

 

そしてゴソゴソと懐を漁ると、今回の目的であるものを取り出して…

 

「ロー…わかってるな?」

 

「ああ…オペオペの実はおれが食う。医者の知識があるおれなら、誰よりも役立てることが出来るから」

 

「ああ、その通りだ。クソまずいけど、我慢して食ってくれ」

 

取り出されたハート型の果実に、ローは戸惑いなく齧りつくと、えずきながらも一欠けらも残す事無く、完食してくれた

 

能力者になったことで体調の変化もあったのだろう、ふるりと震えたローは、それでも手を握り締めると覚悟を決めた顔をして…

 

「能力に慣れるまではちゃんと使えないかもしれないんだろ?オペオペの実って、具体的に何が出来るんだ?人体改造能力だって言ってたけど…」

 

ローに視線を向けられてもロシィ兄さまは詳しくは知らないのか、視線を彷徨わせて言いよどむだけで

 

《オペには手術室が必要なのは常識だろ?って伝えてくれや、姫さん》

 

その時、ローの肩に可愛らしい白衣の精霊が現れて…あ、悪魔の実にも、精霊って居たんだ…

 

「え~っと、最初は手術室の展開をしないといけないらしいですよ?お医者様がオペを執り行うのは手術室の中でだけですから」

 

「アミィさん…?」

 

「どうやら悪魔の実にも精霊さんがいたみたいで…オペオペさんが教えてくれました」

 

オレの周りには悪魔の実の能力者なんて今までいなかったし、風を通してお喋りしてた人もそんな事は言ってなかったし、オレ自身、今知ってすごくビックリしてるんですけど!?

 

でも、手乗りサイズで可愛いなぁ…

 

煙管か何かを吹かしているオペオペさんは西洋の医者よりは和装に白衣を着た蘭方医みたいな格好で…

 

《…おれたちゃあ、持ち主に準じて見た目変わるからな?》

 

オレの疑問を読んだかのようにそう言ってきてくれたオペオペさんマジイケメン!

 

なるほど、オペオペさん的にはローは蘭方医な感じなんですね、納得!

 

「マジで!?え、じゃあ、おれにもナギナギの精霊とかついてんのか!?」

 

「あ~…」

 

悪魔の実にも精霊がいると聞いて、急にテンションを上げたロシィ兄さま…

 

そう言う面白いものに子供のように顔を輝かせるなんて…男っていつまでも子供だって言われる理由がわかった気がする…

 

でも、今まで一度も見たことないからなぁ…

 

そう思ってロシィ兄さまの方を注視すれば…

 

《ヒョコッ……フイッ》

 

「いましたねぇ…でもとっても無口みたいで顔だけ見せて消えちゃいましたけど」

 

ローブのようなものを着て、長い前髪で目を隠しているのがロシィ兄さまのナギナギさんか…

 

昔ロシィ兄さまが目を隠してたのと同じ感じかな?

 

苦笑してそう言えばロシィ兄さまは感激しているのか、ジーン!と謎の文字を背景に出していて…

 

…これで光の精霊もついてるってことを教えたら大変なことになりそうだから黙っておこう

 

「手術室……こんな感じか?」

 

「何か技名をつけて、それを言いながらの方が、自己暗示の手助けもあって展開が楽になるぞ?」

 

「そうなのか…じゃあ…“ROOM(ルーム)”?」

 

付け焼刃になろうとも、使えないよりは…と言った感じで練習を始めるローに、ロシィ兄さまが復活してコツを教えていた…

 

…いちいち技名を叫ぶのにはそんな理由があったのか!

 

ちゃんとまともな理由があって意外だったわ…

 

でも、そんな時間も、無粋な乱入者に終わりを告げられてしまう…

 

《姫!またさっきの奴だ!それも仲間を連れて…囲まれるよ!?》

 

「!ロシィ兄さま!また来ました!このままでは囲まれてしまうそうです!」

 

「なに!?逃げるか…?それとも向かい討つか…?」

 

風がオレに教えてくれる敵のいる方向を見つめれば、オレとローを庇うようにロシィ兄さまがその射線上に立って…

 

風の子たちが集めてくれる音に集中すれば、もうそれほど遠くもないことが解って…逃げるにしても向かい討つにしても、決断にそれほど時間はかけられない

 

《…!ごめん姫、訂正…もう、囲まれてる…!オイラ、糸が張り巡らされてくのに気付けなかった…!》

 

「ロシィ兄さま、訂正させてください…もう、ドフィ兄さまの糸に囚われているそうです。風の精霊さんには細い糸が見つけ辛かったようで…」

 

だが、無情にも、残された選択肢は消されてしまう…

 

細い糸じゃあ風の探索網には掛かり辛いのは仕方がない…基本的に風の流れが阻害されることで探知してるんだから、阻害する面積が誤差の範囲に収まってしまうようなことがあれば、探知は難しくなる

 

多分、誤差の範囲内に納まってしまうほどドフィ兄さまの糸が細いんだってことなんだろう

 

「…わかった。このまま向かい討つ…アミィ、確認するが…兄上は本当に、家族の括りにいる人間にはその凶暴性を向けないんだな?」

 

「はい…家族の括りの中にいる間は、手を上げられるような事はあっても、命までは奪われないはずです」

 

どういう意図でその質問をしたのかはわからないけど…少なくともそれはローの安全性だけは保障できるということで…

 

ドフィ兄さまがオレを認めない可能性もある以上、オレ自身の安全は確定されていないし、裏切ったのと変わらないロシィ兄さまだって、まだ家族の括りの中なのかはわからない…

 

風の子たちに頼んで攫ってもらえば戦闘区域からの離脱くらいはできるかもしれないけど、この島から出られるかどうかはわからないし…

 

最悪中の最悪で、あのお方を呼ぶ必要も、出てくるかもしれない…

 

懐に隠した守り刀を握り締め、覚悟を決める…

 

あのお方なら確実にドフィ兄さまを無力化できるだろうけど…でもそれはドフィ兄さまを殺してしまうかもしれない危険性も高くて…

 

「アミィさん…!?」

 

ゾワゾワと寒気が止まらない…

 

濃厚な闇の気配に、ローにもわかるほど震えている自覚はある…

 

「だいじょうぶ…ドフィ兄さまがつれてる闇の気配に当てられているだけですから…」

 

闇の気配と言うより、既に瘴気の域に達していそうなそれに、ロシィ兄さまがバケモノと呼ぶ理由もわかってしまいそうになって…

 

《大丈夫?だいじょうぶ?》

 

《私達が守ってあげる…だからお願い…》

 

《負けないで…あの子を助けられるのは姫だけだから…》

 

輝きを増していく光の子たちが、オレの具合を崩そうとしている瘴気を祓ってくれる

 

皮肉だよね…かつてオレを生かすために病を喰らってくれた闇の子が、今こうして瘴気でオレを殺してしまいそうになってるなんて…

 

一際大きな瘴気の波動が襲ってきたかと思うと、そこには…

 

「半年振りだな…コラソン…!」

 

「…」

 

「ドフラミンゴ…」

 

ドフィ兄さまよりも二回りは大きな闇を背負いながらも呑まれる事無く、むしろその闇を逆に制御しているのではないかと思わせるように従えているドフィ兄さまの姿があって…

 

「どういうことだ?おれぁ言ったよな?待ち合わせてからオペオペの実を奪いに行くって!なのにどうして先に奪いに行った!?おまえ一人でそんな無茶をしやがっておれがどれほど心配したと…!!」

 

良かった…風の子たちに頼んで居場所を教えてもらって、定期的に海軍に匿名の電話として知らせていたから、ロシィ兄さまにスパイの容疑はかかってないみたいだ…

 

ちらりとオレを見たロシィ兄さまに微笑めば、それがオレの仕業だとわかってくれたみたいで、少し驚いていた

 

「…どうしても、すぐにこの島を出たかった…」

 

「…!!ロシィ、おまえ…喋れるようになったのか!!?」

 

驚きながらも嬉しそうにロシィ兄さまに詰め寄ってきたドフィ兄さまからはまだ、オレは見えないらしい…

 

怒りが一応は鎮まったお陰で、瘴気の発生も落ち着いたらしく、ようやく少しは安心して息ができそうだ

 

「少し待ってくれ、ドフィ…さっき話した女がロシナンテの後ろにいる」

 

「女?おまえに一撃入れてローを連れて逃げたって言う女か…ロシィ、そこを退け。その女には用がある」

 

でも、次の瞬間、ヴェルゴの声にまた強く瘴気が発せられはじめて…!

 

「!!ダメだ!!こいつを傷つけるつもりならドフィの頼みだろうと絶対に退かない!!!」

 

身体を張ってオレを護ろうとしてくれるロシィ兄さまの声は必死で…

 

きっと怖いだろうに、懸命に勇気を振り絞って刃向かっているのだろうその声に、きゅっとズボンを握ってロシィ兄さまを応援する

 

「ロシィ!!」

 

「いやだ!!!」

 

懸命にドフィ兄さまからオレを護ろうとするロシィ兄さまだけど…、それも、オレが横からヴェルゴに引き出されるまでのことだった

 

「いやぁッ!」

 

髪を掴まれ、引き出されれば逃げる事は容易ではなくて…

 

髪を切ればいいと言うかもしれないけど、髪を切る行為はそのまま嵐のお方を呼ぶ行為となるから、現時点ではその選択肢は封じられているも同然で

 

「アミィさん!!」

 

「アミィッ!!!」

 

「動くな…動いたらこの女は殺す」

 

「ふ、ぅ…ッ!」

 

髪を掴んでいるのとは逆の手で首を掴まれれば、細いオレの首じゃあコイツの片手でも砕けてしまいそうな太さしかないらしく…

 

嫌悪感に涙が溢れるのが止まらない

 

オレが苦しんでいる事を察して、精霊たちのボルテージも上がっていく…ああ、これがおばばさまの恐れていた事か…と頭の片隅で冷静に考えているオレがいた

 

「アマデアに怪我ひとつさせてみろ!!おれはおまえを絶対許さないからなヴェルゴ!!!」

 

「アマデアと言うのか…恐怖に引き攣る声や顔だけでなく名前も可愛いんだな?」

 

「…アマデア…?まさか…アミィ、なのか…?」

 

怒りに吠えるロシィ兄さまと、狂気を浮かべて苦しむオレの姿に愉悦っているヴェルゴの声にかき消されながらも、風が届けてくれたドフィ兄さまの呟き

 

驚きのあまり呆けているらしいドフィ兄さまなら…この状況を変えてくれるはず

 

少なくともオレを見て、ロシィ兄さまの言葉を聞いて、オレがアマデアであることを認められそうなのだから…

 

「…にぃ、さま…ッ!」

 

オレの首を絞めようとしているヴェルゴの手を放させようと力を込めていた手の片方を、ドフィ兄さまに向けて伸ばして、懇願するように名前を呼んで…

 

「ッ!!今すぐ手を放せヴェルゴ!!」

 

「ドフィ?」

 

「良いから放せ!!!」

 

焦ったように響いたドフィ兄さまの声に、渋々ながらも手を放してくれたヴェルゴ…

 

「けほッ…けほッ、ゼェ…」

 

まだほとんど添えられていただけだった手だが、恐怖から息が詰まっていたオレにとっては、十分咳き込むだけの状況であって…

 

「アミィ!!」

 

駆け寄ってくれたロシィ兄さまの首に手を回して抱え上げられると、もう、涙腺は決壊寸前で

 

「ふぇぇ…ロシィ兄さまぁぁ…!」

 

「ああ、ああ…怖かったな…ごめん、おれがもっとちゃんとしてれば…っ」

 

二十四にもなって、号泣だなんて恥ずかしいかもしれないけど…この身体は涙腺が弱いんだ…

 

それに、ドフィ兄さまはオレの涙に弱いからな

 

嘘泣きではないぞ?本当に号泣してるもん、オレ

 

「えっと…若様、これどういうことですか?」

 

まだ状況を把握しきれていないドンキホーテ海賊団(ファミリー)の皆さまは地平線のかなたに置き去りにしたまま、ロシィ兄さまはオレを宥めるように髪を梳いたり身体を揺らしたりを続けていて…

 

「ヴェルゴがコラさんと若の生き別れの妹であるアミィさんを泣かしたんだ。こりゃあ、ヴェルゴも拷問じゃないか?」

 

「えええ!?あの人、若様とコラさんの妹さんなの!?道理で美人なわけだ…」

 

ドフィ兄さまの後ろの方でチビちゃん組がそんな話をしているけれど、聞こえないふり聞こえないふり

 

実際オレのように風に音を拾ってもらってない限り聞こえないだろうしな、この距離じゃあ

 

「ううう~…ロシィ兄さまぁ…アミィ、あの人嫌いです…っ」

 

「ああ、うん。おれもアマデアに意地悪する奴は嫌いだ!大嫌いだ!!」

 

涙も止まってきたオレの言葉に、ロシィ兄さまが嫌にハッキリそう言ってくれて…

 

「アマデア…」

 

反射的にオレを助けてはくれたものの、事実上フリーズ状態だったドフィ兄さまも、ようやっと再起動が完了したようだ

 

恐る恐るといったように声をかけてきたドフィ兄さまに、オレを抱えるロシィ兄さまの腕に力が篭る

 

「ドフィ兄さま…」

 

「アマデア…ッ!生きてたのか…っ!!」

 

オレに手を伸ばそうとして、でも途中で固まってしまったドフィ兄さまに、ロシィ兄さまがピクリと跳ねたのを感じた

 

結局、その手はオレに触れることなく降ろされてしまったけど…

 

「おまえが無事で良かった…ッ!」

 

引き攣り笑いを浮かべたドフィ兄さまに、ああ…泣きそうになってるのか…とわかって…

 

「ドフィ兄さま…ぎゅって、してください」

 

ロシィ兄さまに回していた手を差し伸べれば、ドフィ兄さまは大げさなくらいに身体を跳ねさせて…やっぱり兄弟なんだなぁなんて、笑ってしまいそうになった

 

「おれは…」

 

「ドフィ兄さま…?」

 

「おれにはもう、アミィに触れていい資格がないんだ…だから…」

 

そう言ってまた歪んだ笑顔を浮かべようとして失敗したドフィ兄さまに、ロシィ兄さまがはっと息を飲む音が聞こえて…

 

その心の内まで教えてもらおうとは思わないけど…でも、きっとこれはオレたち兄妹の、仲直りの為に必要な事で…

 

「知ってます。ドフィ兄さまがお父さまにした事も、その後ドフィ兄さまがしてきた事も、全部…、」

 

「…ッ!!!」

 

「精霊たちが教えてくれました。でも…アミィはそれでもドフィ兄さまにぎゅってしてもらいたいんです…だから…、」

 

オレの言葉に、恐怖に歪んだドフィ兄さま…それでもオレには言葉を止めるつもりはない

 

「だから、ぎゅっとしてください…どれだけ酷いことをしても…ドフィ兄さまは、アミィの大好きな、優しいドフィ兄さまなんですから…」

 

「…アミィ…」

 

その一歩を踏み出すのに、どれほどの勇気が必要だったのだろう…

 

オレに殺されてもいいと思ってオレの手の届く範囲に来てくれたのかもしれない…

 

その首に腕を回して抱き付けば、ロシィ兄さまもオレを放してドフィ兄さまにオレを預けてくれて…

 

「…アミィ…おれは…ッ!」

 

ぎゅっと抱き締めくる割にはまるで縋り付いてきているようで…

 

「アミィが死んだと思って、許せなかったんですよね、ドフィ兄さまは…許せなくて、赦せなくて、ゆるせなくて…誰かに、何かに、当たらなければ、苦しくて、苦しくて、仕方がなかった…」

 

ドフィ兄さまの肩は震えていて…

 

「アミィが大好きだったからこそ、ドフィ兄さまの嘆きは深くて…ドフィ兄さま自身をも奈落の底に引きずりこんでしまうほどかなしくて…」

 

膝をついて崩れ落ちてしまったドフィ兄さま…

 

「もう、いいんです…もう、そんな風にはかなしまないでください…アミィはここにいます、ドフィ兄さまの腕の中にいますから…だから…」

 

ぎゅっとドフィ兄さまの頭を抱え、オレの心臓の音が聞こえるように…

 

「もう…泣いても、いいんですよ…ぜんぶ、アミィが受け止めますから。ね?ドフィ兄さま…」

 

いつも兄達がしてくれたようにその頭を撫でれば、闇がどろりと姿を崩し始めて…その時が近いことを知る

 

「アミィは、ドフィ兄さまを赦します。ドフィ兄さまを、愛しているから」

 

「…っ…くッ…!」

 

「お父さまも、ドフィ兄さまを赦しています…だって、お父さまについていた光の精霊は、ただの一度たりともドフィ兄さまに対する恨み言を言っていないから…いつも、早く助けてあげて欲しいって、毎日毎日言ってきてたんですよ?」

 

「…~ッ…!!」

 

「兄さま…アミィは、にぃさまがだいすきです…いつでも…いつだって…ずっと…だぁいすき」

 

「ぅ…あ゛あ゛ああああああぁあぁぁぁぁ…ッ!!!」

 

ようやく、色々な想いを解放するに至ったドフィ兄さまの慟哭に、闇も姿を保てず決壊して降り注いでくるけれど…

 

瘴気を生むほどの闇がこの身にしみても、ここでオレが倒れるわけにはいかないから…

 

そう思って、辛くなってきた身体でも懸命に起こしていたのに…

 

「…辛いなら、勝手に解決しようとする前に頼れよ、バカヤロー…」

 

そう言って背中を支えてくれるように此方に背を向けてロシィ兄さまが座るものだから、その背に背中を預けることにして…

 

ドフィ兄さまが泣き終わったら、今日はもう動けそうにないんだけど、オレ…

 

まあ…仲直りの代償には安いものかな…?

 

見上げた空は生憎の曇り空だけど…この(あめ)が止む頃には晴れてくれるといいな…

 

ちょっとキレイに纏まろうとしていた中、誰一人として、あの人もこの島に来ていたのだということを思い出す事はなく…それがちょっとどころかそこそこ大きな問題になるのは、この十数分後であった…

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ、ドフラミンゴ!今日と言う今日こそはお縄についてもらうよ!」

 

「は…?え…おつるだと!?何で誰も…!!」

 

「あ…」「え…」「おぅ…」「てへっ」「っし」

 

「と、とりあえず逃げるぞ!?」

 

「うわッ!?」

 

「きゃ~!?コラさんが転んだぁ~!!」

 

「なにしてんだよコラさん!?」

 

「しかもそんな可愛い子を担いで…!一体何処から攫ってきたんだい!!?」

 

「は?いや、アミィは…」

 

「きゃあ!?俵担ぎはダメです~!出ちゃう、中身出ちゃいますから~!!」

 

「バッ!ちゃんと抱え直せよ、クソ兄上!?」

 

「べへへ~…んね~ね~、抱えてやろうか?んね~、おれが抱えてやろうか~?」

 

「いやああ~!変態ぃぃ~ッ!!近づかないで下さいぃ~!!」

 

「しかも酷く嫌がってるじゃあないか!いい子だから今すぐ放してあげな、ドフラミンゴ!!」

 

「はぁ!?なんでおれがアミィを放さなきゃなんねぇんだ!!?」

 

「だから抱え直せって言ってるだろ!?その格好が嫌なんだよ!!」

 

「はわわわわ…ど、どうしようロー!アミィさんすっごく苦しそうなのに若様ってば…!?」

 

「…聞こえてないな、あれ。まさかドフラミンゴがパニクッてるところをこの目で見れるなんて…」

 

「ふっ…ううう…もう、むり…」

 

「お、おい、アミィ…!?だ、大丈夫か…!!?」

 

「ドフラミンゴ!あんたいい加減に…!!」

 

「…風が…止んだ…?」

 

「あ、アミィさん~!?」

 

「べへへへへ~、美少女はやっぱりどんな姿でも可愛いね~、べへへ~」

 

「…アマデア?」

 

「アンタら全員…ちったぁアタマ冷やしやがれェェ!!!!」

 

ちゅど~~ん!!

 

「「「あばばばばばば…!!」」」

 

「ふぅ…やっとおなかを圧迫してた俵担ぎから解放されました……あれ?もしかして…やりすぎちゃいました…?」

 

「…多分な…ケホッ」

 

「おれ、アミィさんだけは怒らせないようにするよ、コラさん…」

 

「ああ…そうした方が良さそうだな、ロー…」

 

「?」

 

 

 

「なんか身に覚えのない罪状で懸賞金が上がってるんだが…」

 

「どれどれ~?ん~?おれこれは知らないなぁ~」

 

「なんだァ?…おれもこれァ知らねェなァ…」

 

「…おれも、知らない…」

 

「おい、コラソン。おまえはこれに思い当たることあるか?」

 

「?なんだ?」

 

【ドンキホーテ・ドフラミンゴ、精霊の巫女姫誘拐か!?】

 

「ぐほッ!!?」

 

「…あるんだな?思い当たる事」

 

「ああ、うん、あるというか、ないというか…冤罪だと言うか…」

 

「コ~ラ~ソ~ン~?」

 

「…それ、アミィのことです、兄上。なんで怒りの頭グリグリは勘弁してください」

 

「はァ?この罪状とアマデアになんの関係が…」

 

「あ~…その、精霊の巫女姫って言うのが、アマデアのことで…」

 

「…は?」

 

「え?」

 

「んべッ!?」

 

「アミィさんが、精霊の巫女姫さま…!?」

 

「ああ…気付いてなかったのか?」

 

「ローの病気を癒してくれるって聞いて、精霊大社に行った時に再会したんだが…言ってなかったか?」

 

「言ってねぇよ!!コラソン、てめぇ大事なときにドジって報告忘れるとかどういうつもりだ!?」

 

「…おれは、ドジっ子なんだ」

 

「コラさん、コラさん、それ火に油注ぐだけだから」

 

「なんかさっきから私の名前が話題にあがってるらしいですけど、呼びました~?」

 

「アマデア…!おま、精霊の巫女姫ってどういうことだ!?」

 

「あ~っ!?ロシィ兄さまバラしましたね!?ドフィ兄さまにはアミィから言うまで内緒にしといてって言ったのに!」

 

「あ、悪ぃ」

 

「誤魔化そうとするな、アミィ!まさかおまえまで反抗期だとか言わないよな…!?」

 

「え~?だってドフィ兄さま悪いこと大好きだから、教えたらアミィの力使って悪いことしそうだったから教えちゃだめよ~って」

 

「ロシィ~?」

 

「おれじゃない!おれじゃない!それを教えたのはおれじゃない!!」

 

「祭司長のおじ様が、海賊は不埒な輩ばっかりだから、捕まったら悪いことさせられて、えっちぃことさせられて、身包み剥がれて、売られちゃうんだって言ってましたよ~?だから内緒だったのにぃ…」

 

「おれはアミィにそんなこと…!!」

 

「他の人にはしたのに私にはしないなんて信じられると思いますか、兄上。私の眼を見て誓えますか、兄上。一瞬たりともそんなことが頭を過ぎりはしなかったって、私の眼を見て誓えるんですか、兄上。ねぇ?仮に誓ったとして精霊たちに頼めば心の隅々まで見通す事が出来る私がその言葉を信じられると思うのですか、兄上。どうしました?兄上。なにを泣いているのです?兄上。泣いたところで被害者の皆さまに赦していただけると思っているのですか、兄上。私はどんな兄上でも私の兄上なので愛していますし赦してあげますけどね、兄上。ほかの人間は違うのですよ、兄上。どうして赦して貰えるなんて思えるのですか、兄上。そんな幻想は捨ててしまった方がいいですよ、兄上。兄上のした事は社会一般的には悪の極みなんですよ、兄上。吐気を催すような邪悪と呼ばれるものなのですよ、兄上。そこのところを本当に理解しているのですか、兄上。理解していないからこそ出来たのでしょう、兄上。兄上も一度味わってみた方がいいのではないですか、ねぇ兄上。ああ、一応一度それっぽい事は味わっていましたっけね、兄上。それなのに他人を同じ目に遭わせるのは平気なんですね、兄上。自分が遭わされるのはあんなに嫌がっていたのにね、兄上。兄上、兄上、兄上。こんなに酷い人が兄上だなんて私がどれほど悲しんだかわかりますか、兄上。兄上が誰かを傷つけるたびに私も苦しんでいたのですよ、兄上。なのに兄上は平気なんですよね、兄上。ちょっと理不尽だとは思いませんか、兄上。そんなサイコパスな事はやめていただけませんか、兄上。兄上は頭もいいのだからちょっと考えればみんなに共感できますよね、兄上。兄上は結構意外と繊細な神経も持ち合わせているので皆さんの気持ちも推して測るくらいできますよね、兄上。なのになんでしないのですか、兄上。ねぇどうしてですか、兄上。なにか答えてくださいよ、兄上。兄上?」

 

「…アミィ…もう、やめてやれ…ドフィの魂、抜けてるから…ドフィ、息してないから…」

 

「そうですか?ロシィ兄さまがそう言うなら、今日のところは止めておきますね?あ~に~う~え?」

 

「…兄上って言葉だけで若様にあんなに恐怖を与えるなんて…アミィさん怖いだすやん…!」

 

「コラさんが止めに入るほどバッキバキにドフラミンゴの心を折るなんて…さすがアミィさんだ…!」

 

「アミィさん、かっこいい…!」

 

「…おれは何があってもあいつには逆らわないからなァ!?」

 

「んね~…からかって遊ぶのもやめた方が良さそうだね~…」

 

「…女に口で敵う男なんていないのさ…残念な事にな」

 

 

 

おわれ






ドンキホーテ・アマデア (24)

金髪蒼眼
基本装備は巫女服。
身長は148~155cmぐらいのイメージ、兄達の半分くらいしかない。
昔泣いて長兄を操縦していたせいか、すぐに泣く癖がついてしまった。
でも見た目ロリッぽさが抜けてないので、問題ないらしい。
表向きの口調は聖女風に演技中だが、中身はいつも通りだったりする。


こんなに長くなるなんて、書き出したときには想像していなかった…つかれた。
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