この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
そんなデニーロ先生のガイダンスは数十分と続いた。
授業について。施設について。規則について。
今は説明も終わり休み時間、何か準備があるそうで先生は教室から出て行った。
「ええー! じゃあケンザキ君たちは王城で暮らしてるの!?」
「そうだよ。そこで騎士団の人たちに稽古をつけてもらったりしてる」
「すごーい!」
「やっぱり勇者様は違うわね」
「今度行ってみたいなあー」
「良いと思うよ。姫様たちにお願いしてみるね」
「「「やったー」」」
茶番ではありません。
これは勇者の1人、ユウト・ケンザキとそれを囲む女子たちの会話だ。
勇者たちのリーダーと思われる男は、四方八方に笑顔を送っている。
「やっぱり異性からは人気があるな……」
顔立ちは整っていると思う、つまりイケメン。
勇者という立場も相まって、そりゃ女子にチヤホヤされる。
「くそっ、オレもイケメンだったら……!」
愚痴を吐くスミス、他の男子も同じような感じだ。
ただ冷たい視線を注がれても、当の本人はまったく気にしてないみたいだけど。
「スミス。あれはモテても仕方ないぞ」
「はぁ、クレスは美少年だからそんなこと言えるんだ」
「それはないだろ。
「そりゃオレが近くにいるからな」
「スミスが近くにいると女子が近づいてこないのか?」
「おう。これでも王都の性欲爆弾と呼ばれている」
「自慢げに言うなよ……」
なるほど。確かに俺に対する異性の視線は複雑なものだった。
それは隣人が原因だったらしい。
「オレから離れたらクレスにも一気に女子が押し掛けるだろうさ」
「どうだか。でもスミスは随分避けられている……あ、でも男子からは好意的だよな」
「男に好かれたって意味ねーんだわ!」
「……きゅ、急にキレるなよ」
ただスミスの存在は俺にとって好都合。
なにせ監視という任務に恋愛は必要ないから。
「でも自分としてはスミスの隣人で良かったよ」
「お、おう。お前にそう言われるとドキッとするな。顔は美少女風だし。ちなみに理由は?」
「これでも昔から異性によく絡まれるんだ。だからスミスは女避けに最適かなと」
「…………殺して欲しいのか?」
監視の任務に恋愛など不要。
出会い減少、コイツと一緒にいれば多少はマシな生活になるだろう。
「というかクレス! お前の顔面でまずはあの勇者を退治してこい!」
「退治?」
「見た目ならお前の方が絶対勝ってる。女子を虜(とりこ)にしてアイツに独り身の寂しさを教えてやるんだ」
「何を言ってるんだお前は……」
出会ったばかりだが病院での検査を勧める。
それに容姿だろうと勇者と勝負する気はなくて——
「これがスマートフォンっていう機械だよ」
「異世界の魔道具ってこと? 何に使うの?」
「この中には色々な情報が入ってるんだ。まあ無限に本がしまえるってイメージかな」
「こんな小さいのに!? 少しだけでいいから見せてよケンザキ君!」
「ごめんね。今は充電不足、エネルギーが足りなくて使用できないんだ」
「うそー。じゃあいつ見れるの?」
「それが雷魔法でも充電は出来なかったし。魔導士さん曰くこの世界じゃもう使えないとか——」
気になる話をしていた。
『すまーとふぉん』
話を要約するに、超小型で携帯もできる図書館ってことだろう。
こういうことも調査書にしっかり記載しておこう。
「ケッ! しっかり使える物だけ持って来いって話だよ」
「……ま、正論だな」
ただケンザキの言っていることが全て真実かはまだ分からない。
現状では奴が自慢する『すまーとふぉん』とやらの真価は計れずと。
「女子は新しい物に目がない。よく分かってるぜケンザキの野郎」
「へえ。というかスミスは目の敵にしすぎじゃないか?」
「それは……」
「モテないからか」
「それを言うなあああああああああああああああ!」
ちなみにもう1人の男勇者。
名前はスガヌマだったか? 奴は机に突っ伏している。
「隣のケンザキがあれだけ騒いでいて寝れるとは、凄いな……」
身長もあるし、体格も結構ガッチリしてる。
ただ不思議と怖そうな雰囲気はない。
何にせよ変人多し、やはり時間をかけてゆっくり調査——
「そこの可愛い勇者さんたち、オレとお話しませんかー?」
って、おーい!
スミスが後ろに座る女勇者たちに話しかけに行ってる。
そりゃ女が大好きな性格、それでも早すぎるアタックだ。
「改めて自己紹介を! スミス・アルビンです!」
しかもやけに良い顔と声で。
俺と喋っていた時のお前はどこに行った。
「勇者方、気を付けてください。入学前から変態と
「入学前から……」
「いやディアンヌス様、そんなこと言わないでくださいよー」
スミスのアタックを補佐役の公爵令嬢、マリー・ディアンヌスが制す。
「ふふ。マイ・ハルカゼです。よろしくお願いします」
「リンカ・ワドウと言います。よろしくどうぞ」
苦笑しながらも勇者たちが名乗り返す。
「はぁぁあ……ハルカゼさんマジ美少女……」
スミスはニヤニヤしながらボソッと呟く。
分かりやすい性格だな……
「アルビンさんは、アリシアさんと仲が良いんですね」
「ほぼ初対面っすよー」
「そうなんですか? なんだかアリシアさんは近寄りがたい雰囲気があって……」
「まあ確かにそんなかんじはしますわね」
「いやいやそんなことないですよ。なぁクレス」
「……まあ」
一応オープンにしているつもりではいるが——
(おいクレス! こんな美少女たちの近く、喋っとかなきゃ損だぞ!)
(よくそんな事をペラペラ言えるな……)
(とりあえず1人で会話を繋ぐのはキツイ! なんとかオレを引き立ててくれ!)
(……ソッチが本心か、正直者のお前には称賛しかないよ)
スミスはたぶん気を使ってくれている。
少し強引だが俺を会話に引き込んでくれたのだ。
「アリシア君は……」
おもむろにマイ・ハルカゼが口を開く。
スミスが俺に話を振ったことで注目がこちらに移ったのだ。
しかし何を聞かれても冷静に応対す——
「質問です! 彼女はいますか!?」
「「「「「えっ!?」」」」」
重なる驚き。
俺が反応するよりも先に、クラスの女子たちの反応がシンクロした。
「ちょっと凛花、いきなり何てこと聞くの!」
「まぁまぁ、マイも気になるでしょ?」
唐突。
マイ・ハルカゼを
「さあアリシアさん!」
「彼女だっけ……?」
「そうです!」
俺が首を傾げる中、教室が騒めく。
特に女子たちの反応が
「ワドウさんめ、なんてエグイ質問をするんだ……」
隣ではスミスが末恐ろしそうな表情でそんなことを言う。
「それで恋人は! 恋人はいるんですか!?」
グイグイ詰め寄ってくるな……
「「「「「…………」」」」」
騒めいていた教室も、答えを聞くために今度は静寂となる。
感じる視線はとても鋭い、そんなに気になることか?
「……えっーと」
ワドウさんが身体を前へ、開いた瞳孔を俺へと向ける。
彼女は本気で尋ねているのだ。
(周りの様子からしても、どうやら
彼女を
しかし簡単に乗る俺ではない。
まず俺なんかの恋人の有無を知ってどうなる?
「ど・う・な・ん・で・す・か!?」
「いや、どうなんですかと聞かれても……」
質問の意図がよく分からないんだって。
(深層心理を揺さぶる高度な問い掛け、どう返すのが正解だ……?)
教えてもそれは、俺と恋人になれるかどうかの判断材料にしかならない。
(それ以外に一体どんな理由が……)
いやここはあえて素直に、真実を語ったところで特に問題はないはずだ。
「でもやっぱり凛花、ほぼ初対面でそんな事を聞くのは——」
「いない」
「え?」
「いないよ」
さして自分にとって答え難い話題でもない。
敢えてその質問に乗って反応を——
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
な、なんかクラスの女子たちが雄叫びを上げている。
「流石は勇者様! 私たちが聞きたいことを平然と尋ねてくれる!」
「まさしく先頭に立つ者の
「しかし、ここからは血を見ることになるわ」
「ええ。戦争の始まりです」
「「「「「……争奪戦」」」」」
な、何なんだこのクラスは!?
女たちはまるで一流の暗殺者のよう、これから誰かの首を獲ろうというのか。
「ご、ごめんね。凛花はちょっと変だから……」
「いや、気にしてない」
「そっすそっす! 気を使わなくても大丈夫っすよハルカゼさん。クレスは
「俺が鈍い?」
「そういうとこだよ」
スミスは俺のことを鈍いと称すが、これでも裏社会でずっと生きてきた人間。
「これでも勘の鋭さには自信がある方なんだけど……」
気配や殺気の感知、戦況判断は経験がモノを言う。
バカにされるほど落ち度は無いと思うんだが——
(……ふっふっふ。だが見てみろクレス)
(……何を?)
(……ケンザキの表情だよ。お前に注目が移ったから悔しがってんだ)
スミスが小声で耳打ちしてくる。
確かにユウト・ケンザキの周りにいた女子はその場から離脱。
円形を組んで何かを話し合っている。
「……良い気味だぜ。よくやったクレス」
「……そりゃどうも」
話し相手がいなくなって不満なのだろうか。
(なるほど。1人でいることを気にするタイプか)
こういうところも調査書に記載できる。
「お待たせーって、なんかザワザワしてるな」
現状打破、前の扉から担任が入ってくる。
どうやら休み時間はここで終わりらしい。
「それじゃあ初日最後のプログラムを行うぞ。内容は——実技授業だ!」