この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第8話:初日

 そんなデニーロ先生のガイダンスは数十分と続いた。

 授業について。施設について。規則について。

 今は説明も終わり休み時間、何か準備があるそうで先生は教室から出て行った。

 

「ええー! じゃあケンザキ君たちは王城で暮らしてるの!?」

「そうだよ。そこで騎士団の人たちに稽古をつけてもらったりしてる」

「すごーい!」

「やっぱり勇者様は違うわね」

「今度行ってみたいなあー」

「良いと思うよ。姫様たちにお願いしてみるね」

「「「やったー」」」

 

 茶番ではありません。

 これは勇者の1人、ユウト・ケンザキとそれを囲む女子たちの会話だ。

 勇者たちのリーダーと思われる男は、四方八方に笑顔を送っている。

 

「やっぱり異性からは人気があるな……」

 

 顔立ちは整っていると思う、つまりイケメン。

 勇者という立場も相まって、そりゃ女子にチヤホヤされる。

 

「くそっ、オレもイケメンだったら……!」

 

 愚痴を吐くスミス、他の男子も同じような感じだ。

 ただ冷たい視線を注がれても、当の本人はまったく気にしてないみたいだけど。

 

「スミス。あれはモテても仕方ないぞ」

「はぁ、クレスは美少年だからそんなこと言えるんだ」

「それはないだろ。(げん)に俺の周りに女子は近づいてこない」

「そりゃオレが近くにいるからな」

「スミスが近くにいると女子が近づいてこないのか?」

「おう。これでも王都の性欲爆弾と呼ばれている」

「自慢げに言うなよ……」

 

 なるほど。確かに俺に対する異性の視線は複雑なものだった。

 それは隣人が原因だったらしい。

 

「オレから離れたらクレスにも一気に女子が押し掛けるだろうさ」

「どうだか。でもスミスは随分避けられている……あ、でも男子からは好意的だよな」

「男に好かれたって意味ねーんだわ!」

「……きゅ、急にキレるなよ」

 

 ただスミスの存在は俺にとって好都合。

 なにせ監視という任務に恋愛は必要ないから。

 

「でも自分としてはスミスの隣人で良かったよ」

「お、おう。お前にそう言われるとドキッとするな。顔は美少女風だし。ちなみに理由は?」

「これでも昔から異性によく絡まれるんだ。だからスミスは女避けに最適かなと」

「…………殺して欲しいのか?」

 

 監視の任務に恋愛など不要。

 出会い減少、コイツと一緒にいれば多少はマシな生活になるだろう。

 

「というかクレス! お前の顔面でまずはあの勇者を退治してこい!」

「退治?」

「見た目ならお前の方が絶対勝ってる。女子を虜(とりこ)にしてアイツに独り身の寂しさを教えてやるんだ」

「何を言ってるんだお前は……」

 

 出会ったばかりだが病院での検査を勧める。

 それに容姿だろうと勇者と勝負する気はなくて——

 

「これがスマートフォンっていう機械だよ」

「異世界の魔道具ってこと? 何に使うの?」

「この中には色々な情報が入ってるんだ。まあ無限に本がしまえるってイメージかな」

「こんな小さいのに!? 少しだけでいいから見せてよケンザキ君!」

「ごめんね。今は充電不足、エネルギーが足りなくて使用できないんだ」

「うそー。じゃあいつ見れるの?」

「それが雷魔法でも充電は出来なかったし。魔導士さん曰くこの世界じゃもう使えないとか——」

 

 気になる話をしていた。

 『すまーとふぉん』

 話を要約するに、超小型で携帯もできる図書館ってことだろう。

 こういうことも調査書にしっかり記載しておこう。

 

「ケッ! しっかり使える物だけ持って来いって話だよ」

「……ま、正論だな」

 

 ただケンザキの言っていることが全て真実かはまだ分からない。

 現状では奴が自慢する『すまーとふぉん』とやらの真価は計れずと。

 

「女子は新しい物に目がない。よく分かってるぜケンザキの野郎」

「へえ。というかスミスは目の敵にしすぎじゃないか?」

「それは……」

「モテないからか」

「それを言うなあああああああああああああああ!」

 

 ちなみにもう1人の男勇者。

 名前はスガヌマだったか? 奴は机に突っ伏している。

 

「隣のケンザキがあれだけ騒いでいて寝れるとは、凄いな……」

 

 身長もあるし、体格も結構ガッチリしてる。

 ただ不思議と怖そうな雰囲気はない。

 何にせよ変人多し、やはり時間をかけてゆっくり調査——

 

「そこの可愛い勇者さんたち、オレとお話しませんかー?」

 

 って、おーい!

 スミスが後ろに座る女勇者たちに話しかけに行ってる。

 そりゃ女が大好きな性格、それでも早すぎるアタックだ。

 

「改めて自己紹介を! スミス・アルビンです!」

 

 しかもやけに良い顔と声で。

 俺と喋っていた時のお前はどこに行った。

 

「勇者方、気を付けてください。入学前から変態と(ちまた)で噂の男です」

「入学前から……」

「いやディアンヌス様、そんなこと言わないでくださいよー」

 

 スミスのアタックを補佐役の公爵令嬢、マリー・ディアンヌスが制す。

 

「ふふ。マイ・ハルカゼです。よろしくお願いします」

「リンカ・ワドウと言います。よろしくどうぞ」

 

 苦笑しながらも勇者たちが名乗り返す。

 

「はぁぁあ……ハルカゼさんマジ美少女……」

 

 スミスはニヤニヤしながらボソッと呟く。

 分かりやすい性格だな……

 

「アルビンさんは、アリシアさんと仲が良いんですね」

「ほぼ初対面っすよー」

「そうなんですか? なんだかアリシアさんは近寄りがたい雰囲気があって……」

「まあ確かにそんなかんじはしますわね」 

「いやいやそんなことないですよ。なぁクレス」

「……まあ」

 

 一応オープンにしているつもりではいるが——

 

(おいクレス! こんな美少女たちの近く、喋っとかなきゃ損だぞ!)

(よくそんな事をペラペラ言えるな……)

(とりあえず1人で会話を繋ぐのはキツイ! なんとかオレを引き立ててくれ!)

(……ソッチが本心か、正直者のお前には称賛しかないよ)

 

 スミスはたぶん気を使ってくれている。

 少し強引だが俺を会話に引き込んでくれたのだ。

 

「アリシア君は……」

 

 おもむろにマイ・ハルカゼが口を開く。

 スミスが俺に話を振ったことで注目がこちらに移ったのだ。

 しかし何を聞かれても冷静に応対す——

 

「質問です! 彼女はいますか!?」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 重なる驚き。

 俺が反応するよりも先に、クラスの女子たちの反応がシンクロした。

 

「ちょっと凛花、いきなり何てこと聞くの!」

「まぁまぁ、マイも気になるでしょ?」

 

 唐突。

 マイ・ハルカゼを(さえぎ)り、リンカ・ワドウが不可思議な質問を投じる。

 

「さあアリシアさん!」

「彼女だっけ……?」

「そうです!」

 

 俺が首を傾げる中、教室が騒めく。

 特に女子たちの反応が顕著(けんちょ)

 

「ワドウさんめ、なんてエグイ質問をするんだ……」

 

 隣ではスミスが末恐ろしそうな表情でそんなことを言う。

 

「それで恋人は! 恋人はいるんですか!?」

 

 グイグイ詰め寄ってくるな……

 

「「「「「…………」」」」」

 

 騒めいていた教室も、答えを聞くために今度は静寂となる。

 感じる視線はとても鋭い、そんなに気になることか?

 

「……えっーと」

 

 ワドウさんが身体を前へ、開いた瞳孔を俺へと向ける。

 彼女は本気で尋ねているのだ。

 

(周りの様子からしても、どうやら普通(、、)の質問(、、、)じゃないようだな——)

 

 彼女を発端(ほったん)とし教室の空気が一気に重くなった。

 しかし簡単に乗る俺ではない。

 まず俺なんかの恋人の有無を知ってどうなる? 

 

「ど・う・な・ん・で・す・か!?」

「いや、どうなんですかと聞かれても……」

 

 質問の意図がよく分からないんだって。

 

(深層心理を揺さぶる高度な問い掛け、どう返すのが正解だ……?)

 

 教えてもそれは、俺と恋人になれるかどうかの判断材料にしかならない。

 

(それ以外に一体どんな理由が……)

 

 いやここはあえて素直に、真実を語ったところで特に問題はないはずだ。

 

「でもやっぱり凛花、ほぼ初対面でそんな事を聞くのは——」

「いない」

「え?」

「いないよ」

 

 さして自分にとって答え難い話題でもない。

 敢えてその質問に乗って反応を——

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

 

 な、なんかクラスの女子たちが雄叫びを上げている。

 

「流石は勇者様! 私たちが聞きたいことを平然と尋ねてくれる!」

「まさしく先頭に立つ者の(うつわ)!」

「しかし、ここからは血を見ることになるわ」

「ええ。戦争の始まりです」

「「「「「……争奪戦」」」」」

 

 な、何なんだこのクラスは!?

 女たちはまるで一流の暗殺者のよう、これから誰かの首を獲ろうというのか。

 

「ご、ごめんね。凛花はちょっと変だから……」

「いや、気にしてない」

「そっすそっす! 気を使わなくても大丈夫っすよハルカゼさん。クレスは(にぶ)いんで」

「俺が鈍い?」

「そういうとこだよ」

 

 スミスは俺のことを鈍いと称すが、これでも裏社会でずっと生きてきた人間。

 

「これでも勘の鋭さには自信がある方なんだけど……」

 

 気配や殺気の感知、戦況判断は経験がモノを言う。

 バカにされるほど落ち度は無いと思うんだが——

 

(……ふっふっふ。だが見てみろクレス)

(……何を?)

(……ケンザキの表情だよ。お前に注目が移ったから悔しがってんだ)

 

 スミスが小声で耳打ちしてくる。

 確かにユウト・ケンザキの周りにいた女子はその場から離脱。

 円形を組んで何かを話し合っている。

 

「……良い気味だぜ。よくやったクレス」

「……そりゃどうも」

 

 話し相手がいなくなって不満なのだろうか。

 勇者(ケンザキ)は俺に対して鋭い眼を向けてくる。

 

(なるほど。1人でいることを気にするタイプか)

 

 こういうところも調査書に記載できる。

 

「お待たせーって、なんかザワザワしてるな」

 

 現状打破、前の扉から担任が入ってくる。

 どうやら休み時間はここで終わりらしい。

 

「それじゃあ初日最後のプログラムを行うぞ。内容は——実技授業だ!」

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