この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第12話:調査

 王城は貴族区の最奥に建っている。

 その周りには高位貴族たちの屋敷が建ち並ぶ。

 煌びやかな街道、舗装や外灯に金を相当掛けているのが目に見えた。

 

「——まだ少し寒いな」

 

 俺は王城近くにある貴族の屋敷、その屋根の上にいた。 

 夜だけあって風も一層冷たく感じる。

 

「だけどまさか、こんなに早く王城に侵入することになるとは……」

 

 先日垣間見たマイ・ハルカゼの異能。

 あまりに可能性を秘めた力だ。

 

(紙媒体の報告書とは別で、ボスに魔道具で緊急伝達したけど——)

 

 その結果、王城に潜入にせよとの命令が下る。

 早急に(、、、)確認を(、、、)してこい(、、、、)——だとさ。

 

「城の禁書庫に勇者の素性をまとめた書類がある、らしい」

 

 どうしてボスがそんな事を知っているかは謎だ。

 ただ研究者たちが1ヵ月付きっきりで作成した資料。

 それを手に入れれば、異能の正体に少しは近づけるだろう。

 

「騎士団長は今日も王様に付きっきりみたいだし、狙うなら絶好の機会だ」

 

 情報を盗めるだけ盗んでやろう。

 情けは一切ない。完璧な仕事をする。

 

「王城と敷地の造り、あと警備体制から考えるに……」

 

 頭の中に叩き込んだモノを組み合わせ最善策を導き出す。

 

「——ミッションスタート」

 

 仮面をつけて素顔を隠す。

 纏った黒衣、そこに幾つも魔道具をぶら下げて。

 屋根上からフォールアウト、俺の身体は闇夜に(まぎ)れ込む——

 

 

 

 高い城壁を飛び越え、うろつく騎士たちと(トラップ)を掻い潜る。

 時に飛翔し、時に這いつくばり、そうやって警備の隙間を抜いていく。

 

「——でも意外と警戒が厳しかったな」

 

 少し前に魔族の襲撃を受けただけあって、とても良い警備をしていた。

 ただそれなりの時間を掛け、俺は無事に王城への潜入を成し遂げる。

 

(……禁書庫はもっと上の階層、警戒レベルも上がるか?)

 

 だが巨大かつ複雑な設計、入り組んでいるお陰で死角は多々ある。

 そもそも多少優秀なだけの騎士では俺の隠形(おんぎょう)は見破れない。

 

『——異常はなかった』

『——同じく。あと勇者様たちも既に自室に戻ったらしい』 

『——もうそんな時間か』

『——団長は王の付添(つきそい)で不在、気を抜くなよ』

 

 口頭で伝達し合う騎士たち。

 まさか近くに数字(ナンバーズ)が潜んでいるとは思わないだろう。

 

(勇者は自室か、普段の様子もできれば観察しておきたい)

 

 もしかしたら彼らの部屋に何か発見があるかもしれない。

 気配を殺し、呼吸音も足音も出さずまた歩みを始める。

 

 

 

 例の如く勇者たちの部屋がどこにあるかは把握済み。

 

「ここの角を右に曲がって、その次は左に——」

 

 迷うことなく突き進む。

 騎士の気配を感じれば上手いこと避ける。

 

(ただ城内の警備に使われているのは騎士よりも、魔道具を用いた罠の方が多い)

 

 人件費削減か、それとも騎士より魔道具の方が信頼されているからか。

 

「……あそこだな」

 

 数十分を掛け、遂にハルカゼさんの部屋の扉が見えるところまで来た。

 

「その隣の部屋がワドウさんだったか」

 

 ただ今までと少し違うことがある。

 

「……罠の数が凄い。流石は勇者の部屋があるフロアだ」

 

 でも問題ない。

 今回はこの距離が離れた死角位置、部屋の扉が見える現在地で十分だ。

 

「魔道具に頼っているせいか騎士の巡回も少ない。さっさと観察しよう」

 

 いくら騎士が少ないとはいえモタモタしている暇はない。

 

「ここで(ストレガ)さんの造ったあの魔道具を——」

 

 取り出すのは少しゴツイ眼鏡だ。

 この魔道具の名は『カベヌケール』

 

(壁や扉を透明にできる。つまり外から部屋の内部を覗き見ることが可能ってことだ)

 

 しょうもないネーミングだが性能は確かである。

 

「どういう理論でそんな事ができるのかは謎だけど……」

 

 ストレガさん曰く、この眼鏡は美少女の身体を見るために開発したらしい。

 今回はあの人の主旨とは違うが、これで部屋の中を見ることはできる。

 

「……眼鏡をかけてボタンを押す、と」

 

 眼鏡のフレームには3つボタンが付いている。

 まずは1つ目を押す。

 

「お」

 

 すると視界が変化。

 阻む扉や壁だけを透明にしてくれる。

 ただ位置的に隣室のワドウさんの部屋までは見えない。

 後で場所を変えないとな。

 

「それでハルカゼさんは……ってベットの上に座っているだけか」

 

 特に何かしているわけではない。

 

(俺がいる扉の方に向かってボーっとしてるだけ。コメントのしようがないぞ)

 

 勇者が動かないのならと、今度は部屋全体を注視する。

 

「……特にこれといった物もないか」

 

 部屋は整理整頓され、調査書に書くような代物も見当たらない。

 特別扱いゆえに部屋の間取は広いが、内装はごく一般的な学生の部屋と言える。

「そういえば……」

 この覗き見眼鏡(トビラヌ・ケール)をストレガさんに渡された時、興味深いことを言われたな——

 

 それは監視任務に赴く前、本拠(アジト)での事——

 

『クーちゃん』

『なんですか?』

『この眼鏡を使った時。もし相手が美女か美少女なら、2つ目のボタンを押してね』

『……爆発するんですか?』

『しないってー。ウチのことを何だと思ってんのさー』

『開発者がストレガさんだからこそです』

『ひどーい☆』 

『……前科がたくさんありますもん』

『今回はマジ! 信じて! きっとクーちゃんの役に立つよ!』

 

 ……というかんじ、やけに自信のある語り口調だった。

 

(見た目は幼女でも中身がアレって考えると……いや任務に使うと知っていて渡したんだ。今回は信用しよう)

 

 どんな機能なのかは教えてくれなかった。

 お楽しみだそう。

 

(そしてハルカゼさんは美少女で間違いない)

 

 ストレガさんの言葉に従い、2つ目のボタンを押して——

 

「ぶっ!?」

 

 眼鏡が爆発したわけではない。

 ただ驚いて吹いてしまう、手遅れながら慌てて口を押える。

 

(ったく、声出しちゃったよ……!)

 

 俺は2つ目のボタンを押した。

 するとレンズ越しに視界が変化。

 壁だけが透明になっていたはずが——

 なんとハルカゼさんの服も透明になってしまったのだ。

 

「い、意外と胸デカいな……」

 

 露わになるその身体、下着は何故か残っているがほぼ全裸みたいなもん。

 そして更にまずいことが。

 

「な、なんで急に前屈みに……」

 ハルカゼさんはベットに座ったまま上半身を前へ傾けた。

 角度は丁度俺の方、白肌の谷間がモロに見える。

 

「お、おぉ……」

 

 ありふれたリアクションですまない。

 ただ素晴らしいモノを見た時ほど、人間は単調な言葉しか出なくなるんだ。

 

「……ストレガさん、あえて下着は残したな」

 

 以前全裸よりも下着姿の方がエロいと熱弁された。

 どうやって服だけ透明化させているか知らないが、あの人マジで最低だわ。

 

「となると3つ目のボタンは……」

 

 どうなるか大体察しがつく。

 今度は下着も透明化させ、美少女の全裸を拝めるってかんじだろう。

 

「だ、だがこれも情報だ——」

 

 ハルカゼさんの下着姿を目に焼き付けながら、ソレを調査者に書いていく。

 

「胸は思いのほか大きくて……左胸にはホクロがあって……」

 

 普段見れない部位を詳しくレポートする。

 

「結構着やせするタイプなのかもしれない、と……」

 

 ま、まあ、もしもハルカゼさんの偽物が出現したとする。

 その時に本物かどうか判別できる材料に——

 そうこうしているうちに、また際どい体勢をして……

 

「さ、流石に限界だ」

 

 俺とて色恋沙汰を無視するだけで性欲は確かに存在する。

 

「…………引き際だな」

 

 これ以上の観察は精神的によくない。

 とにかく2つ目の機能は解除する。もう押さないぞ。

 3つ目のボタンについても使う気は一切ない。本当だ。

 

(……スミスがこの魔道具を知ったら俺を殺してでも奪いに来そうだな)

 

 これからは壁や扉の透過だけ、ワドウさんの時もそうする。

 

「何かごめんなさい……」

 

 ハルカゼさんは気付いていないだろうが、謝罪の言葉を口にする。

 構図だけみれば女勇者の裸を見るためだけに不法侵入したみたい。

 いやいや、ちゃんと目的があってきたんだけ——

 

「…………え」

 

 またも、俺は無意識に声を出してしまった。

 こんなにリアクションしてはプロ失格か?

 でもそれは目の前の光景、彼女の変化を見たからこそ。

 

「ハルカゼさんが、泣いてる……?」

 前屈みであった姿勢、彼女のそれは俯くことへ繋がった。

 

(ま、まさか覗きをしていることがバレたのか!?)

 

 見れば彼女の両こぶしはキュッと固く結ばれている。

 

『……っ……ん……、』

 

 この距離でも分かるくらいボロボロ涙を落とす。

 耳をすませば小さな呻きも聞こえた。

 

『なんで私なの……どうして……』

 

 豪奢なベットには小さすぎる。

 そこには打ちひしがれ蹲(うずくま)った少女の姿があった。

 

『……お母さ……ん……』

 

 違う。彼女は俺の視線には気付いていない。

 

(これは……)

 

 学園では気丈に振舞うハルカゼさん。

 異世界への召喚、てっきり割り切れているのだと勝手に分析していた。

 

『……こんな力、要らないのに……』

 

 彼女が吐く言葉を1つ1つ拾っていく。

 ……そうか、そうだよな。

 それだけ強力な異能を持っていたら、周りから余計なプレッシャーかけられるよな。

 彼女はまだ16歳、しかも戦いのない国から来たと聞く。

 

「俺の見立てが甘かった……」

 

 ピンク色だった思考が急激に冷えてブルーに変わる。

 静かに泣く彼女を見てようやく気付いたのだ。

 

「これがハルカゼさんの本当の姿、か……」

 

 無理やり呼び出された知らない世界。

 しかも沢山の大人たちから魔王と戦ってくれとせがまれる。

 

(たった16歳の女の子、すぐ適応できる方がおかしい)

 

 ずっと笑顔で居られる方が不思議なのだ。

 

「それに彼女の場合、異能の特異性もある——」

 

 きっと他3人の勇者に比べ、貴族や研究者からの接触は多いはず。

 強大な力を持ったせい、孤独も同時に得てしまう。

 

「様子からしてだいぶ追い込まれているようだけど……」

 

 しかも彼女は、その弱音を誰にも打ち明けることができていない。

 少なくとも教室内で弱さを見せたことは一度だってないんだ。

 

「…………昔の、俺みたいだな」

 

 俺は幼い頃に全てを失った。

 それで(うずくま)って、あんな風に泣いていたんだ。

 誰に頼ればいいかも、どこに行けばいいかも、何をすればいいかも分からない。

 精神が千切れる寸前の毎日、ずっと孤独の回廊を走っていた。

 

「…………でも、俺にできる事はない」

 

 もう眼鏡も外す。

 俺にアウラさんたちが現れたように、ハルカゼさんにもいつか太陽ができる。

 それまでは、耐えるしかない。

 

「——ごめん」

 

 その苦しみを知っていながら助けられない。

 監視者という身分もそう。

 ただそれ以前に、自分が彼女に対し何をしてあげられるかが分からない。

 あの人みたいな熱さは持ってないんだ。

 俺は、その光景を見て終始謝ることしかできなかった。

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