この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「よって魔法学においてまず重要なのは——」
王城潜入をした次の日。
俺は普段通り学園で授業を受けていた。
「んー……」
しかし頭の中は昨夜のことで一杯。
まずハルカゼさんの実情に驚いた。
(そして、まさかの
経験からして
となると勇者たちは口止めをされている?
「そしてこの魔法を使う際、式が変形をして次の——」
授業の最中、チラリと視線を後方に動かす。
勇者たちは皆真面目に板書。
「……本来であれば此処にあと1人いたという……」
まず黒板の文字を普通に写してることがもう謎。
(だって召喚されて1ヵ月経ったかどうかだぞ)
それで他言語を完全理解できるってことはだ。
ボスが予想した通り、本当に『世界による異世界人
「いやいや……そんな都合の良い恩恵があるわけない……」
まさか召喚されたら無条件で神様に贔屓されるとでも?
「ここで式は組み合わさるんだが……スミス・アルビン!」
「あ、はい」
「完成した式を黒板に書いてみろ」
「えー……」
あと初日の模擬戦以来、案の定ケンザキからは敵意を向けられている。
(ただそれぐらいの負けん気があった方が良いかもしれない)
勇者たちには大きな期待が寄せられている。
図太い精神がなければ押しつぶされてしまう、彼女のように——
「すんません先生。ぜーんぜん分からないっす」
「ほほう。今まで授業を聞いてたんじゃないのか?」
「自分がモテモテになる妄想してました」
「そうか。殴って欲しいんだな?」
「はい!? んなこと言ってないっすよ!」
スミスが隣で殴られそうになっている。
(皆は笑ってるが、ただこんな奴でも実力はある)
案外スミスみたいな変人が『選抜戦』とやらで良い結果を残す気もする。
「いっ、てええええええええええええええ」
「ふぅ、今度ふざけたら拳骨じゃなくて魔法を身体に教えてやろう」
「ぼ、暴力反対……」
選抜戦、それはこの大陸で最強の学生を決める大会だ。
参加するのはここユグレー大陸で領土を持つ4ヵ国。
各国で代表を4人選出、トーナメント形式で競い合わせる催しである。
「まったく……選抜戦の予選もそう遠くない。授業も真面目に受けといた方が良いぞ」
教師も丁度その話題に触れる。
(確か予選はもう2、3カ月後だったかな?)
勇者たちが公で試されるのはまずその時だろう。
(入試みたいにパスはできない。実力で勝ち上がるしかないが……)
もし本選に行ったとしても、他国の同世代には『戦姫』や『剣聖』がいる。
1回でもヘタな戦いを見せれば、勇者の格に疑いが持たれることになるだろう。
「プレッシャーは期待の裏返しか……」
「なんか言ったかクレス?」
「独り言、なんでもないよ」
優遇されているようで勇者のすぐ後ろは崖なのだ。
(だからケンザキよ、そんな涼しい表情を浮かべている場合じゃないぞ)
異能やセンスだけ見れば、お前が4人の中で一番マズイのだから。
「予選会ねぇ、クレスは出場す……」
「スミス・アルビン! 今度はお喋りかぁ!?」
「す、すんませーん!」
またも教師に注意される我が隣人。
でも途中で打ち切られた質問の意味は理解した。
(代表を決める予選会、参加はするけど絶対(、、)に代表にはならないよ)
王立の実技入試トップ者が不参加では悪目立ちするだろう。
でも監視の任務もある、タイミングを計って途中脱落するつもりだ。
「それでは……っともうこんな時間か。誰かさんのせいで時間を無駄にしたな」
少し早いがここで授業は終了だそう。
教師も早々に退出、ゆるい空気が訪れる。
「はあ……初めからハードすぎんよ……」
「授業中に妄想してるスミスが悪いだろ」
「そう言うクレスもボーっとしてたじゃんか」
「俺は教科書に書いてあることはもう暗記したからな。余裕がある」
「……は? まじで?」
「マジだ」
勉学はセローナさんの助けがあったからこそ。
当分テストに困ることはないだろう。
「あの、アリシア君」
「っ、」
突然後ろから名前を呼ばれ、ついビクついた反応をしてしまう。
相手は
「……なに?」
青い瞳が振り向いた俺の瞳を捉える。
いったい何の用だ……?
「さっきの魔法学の授業、ちょっと分からないところがあって」
「なんだ……てっきりバレたのかと……」
「バレた?」
「いやいや! 気にしないで!」
そうだ、俺の監視が露見するはずがない。
(いくら何でも口がオザナリ過ぎた。昨日の事を気にしすぎてる……)
ハルカゼさんは今だってニコニコしてる。
……だけど俺は、ソレを見破れなかった。
(本当の仮面ってのは、仮面とは思えないくらい精巧にできてるってか……)
潜入を経てようやく、彼女が虚勢を張っていると知ることができたのだ。
「それで……?」
「うん。実は——」
そもそもだ。
同世代の女子に声を掛けられるだけでも気苦労を感じる。
(しかもケンザキとの模擬戦以来、男子はともかく女子もやけに接触してくるし)
あまり関わりに来て欲しくないというのが正直なところ。
「少し魔法学を教えてもらいたくて。教科書のこの部分なんだけど……」
「あー魔法における第一工程の改編か」
「うん。一回構築してからの変形ができなくて」
おおかた俺とスミスの会話を聞いていた。
それで俺がそこそこ魔法ができると知り、助けを求めてきたと。
「分かった。教え——」
「ホント!? ありがとう!」
「あ、うん」
いやね、教えるのは別にいいんですよ。
だって断る方が不自然じゃん。
ただ——
(か、顔がめちゃくちゃ近い……!)
真後ろにハルカゼさんの席、俺が身体半分を向けているという構図。
「どうしたの?」
「いや……」
「あ、教科書が見にくかったね。もう少し私が近づこうかな」
逆! 逆だよ! もう少し離れてくれよ!
ハルカゼさんが気を使ったが裏目に。
俺の銀髪と彼女の黒髪、毛先と毛先が接触するぐらいの至近距離。
「アリシア君、なんだか顔赤いよ?」
「ダ、ダイジョウブ」
女性特有の甘い匂いを感じとる。
そして何度も言うが顔が近い、近すぎるって。
「それでね。ここが分からなくて……」
だがこのまま進む。
……相分かった、やってやろうじゃないか。
2人で机上の教科書を覗き込もうとする、が——
「「っいた!」」
頭部に衝撃。原因は言うまでもない。
「ご、ごめん!」
「ううん。大丈夫だよ」
お互いの頭部が衝突。
やはりそもそもが近すぎたのだ。
ハルカゼさんは笑ってくれたが——
「……美少女とゴッツンコ、だと?」
「……アイツは一体どこの主人公だ?」
「……溢れ出る妬みの
周りの男子から鋭い視線が、スミスの表情なんてもはや鬼の如し。
「ごめんハルカゼさん。何か周りが色々言ってるけど……」
「私は特に気にしないかな?」
「な、なぜに疑問形……」
「冗談冗談。あとそろそろ魔法学の方を教えて欲しい」
「あ、そそ、そうだった!」
この一連ですっかり頭から飛んでいた。
ハルカゼさんに笑われているぞ俺、平然を保つんだ。
「ま、まぢゅ」
「まぢゅ?」
「……まず、この魔法学についてだけど……」
「っ……ふ……ふふ……、」
……ふつーに噛んだ。
何とか取り繕ったつもりが、対面する彼女は笑いを堪えている。
「失敗は誰にでもある……」
「ご、ごめん。でもアリシア君って結構天然だなーと」
自分でも分かるほどの慌てっぷり。
しかしこれは至近距離での対話だからこそ。
(別にハルカゼさんが美少女だからって慌てているわけじゃない)
なにせ
「お、俺は天然じゃない!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
これまで接してきた女性の多くは年上だけ。
しかも最低5歳は離れている。よって会話の距離感が掴みにくい。
「なんだか面白いね。あ、せっかくだし名前で。これからクレス君って呼ぼうかな」
「別にそれは良いけど……」
なんと呼ぼうが勝手、お任せします。
「「…………」」
無言の会話。無言の圧力。
……なるほどね、俺もハルカゼさんのことを名前で呼べと。
(こういう場合は変に恥ずかしがるより、無難に言う事聞いておいた方が良い)
彼女としても
「分かった。じゃあマイさんで」
「呼び捨てで良いのに」
「……それはハードルが高い」
「そうなんだ」
そうなんだよ。
下手に呼び捨てして、周りから勘繰りを受けるのは勘弁。
距離感はちゃんと測っている。
「……ッゴホン。休み時間もそうないし」
「うん。そろそろ真面目に教えてもらおうかな」
ようやく魔法学の話へ。
それでも周囲から視線はチラチラ飛んでくる。
(あと隣でスミスが非モテの呪いとやらを俺に呟いている)
勉強を教えるだけだ。
モテるとは違うだろ。
「じゃあまずは構築工程の説明を——」
とりあえずと解説を始める。
俺は監視者だが、勇者を手助けするなとは言われていない。
(……ま、助けろとも言われてないが)
ただ何にせよ
それは全て俺たちが強すぎるから。
敵のいない退屈な世界、だから
勇者となれば期待も高まる、興味が湧くのはそういう理由。
(俺はそこまで思わないけど、彼女との仲を進展させることは任務的にはプラスだろう)
友人になれれば、より多くの情報が手に入るはずだ。
「……ならこの式は要らないってこと?」
「そう言うことになるかな」
「でも先生は……」
「授業でやってることは回りくどくて、これが一番効率的な構築だと思う」
教科書通りにではなくアレンジして。
より深く実戦的な理論で伝えていく。
「どんなに多くの属性に適していても、構築に時間を掛けてたら持ち腐れであって——」
これでも9属性全てをある程度は使えるのだ。
今は
「——だからコレとコレをくっ付ける」
「——うんうん」
「——それでできた陣にさっきの式を加えると」
「——本当だ! ちゃんと答えと一緒になってる!」
「——俺は教科書よりもこのやり方を推すよ」
もったいぶらずに頑張って教える。
むしろ教えていた方が緊張しなくて済むし。
「良くそんなの知ってるねクレス君」
「……まぁ家庭教師が優秀だったから……」
「な、なんか目が死んでるよ?」
ただ魔法学については割と自力で。
「ならアリシアさん、ここから第二工程に昇華するには弊害が多いのではなくて?」
「ディアンヌスさん?」
「興味深いので私も混ぜてください。それでどう発展させるのです?」
俺とマイさんのやり取りに興味を持ったのだろうか。
通称、金髪ツインドリルヘッド。
もといマリー・ディアンヌス嬢が登場してくる。
「解説を」
「あ、はい。えっと、ここからだと——」
ただやはり四大公爵家の令嬢、理解は周りよりだいぶ先にいるようだ。
マイさんに教授した俺の理論に疑問を呈してくる。
「なになに、面白そうじゃない」
「あ、凛花。今アリシア君が魔法学について教えてくれてるんだよ」
「へえ、アリシアさんの魔法学」
っげ……
「そろそろこのスミス・アルビンも混ぜてもらおうか」
「いやお前は……」
「アリシア君! 私たちも聞いていい!?」
「え……」
「おい女子ばっかり出しゃばるな! 実は俺たち男子も聞きたいんだ!」
「うんうんやっぱ男の友情は大切だね。できればアリシアくんの身体についても——」
な、なんだか大変なことになってるぞ……
マイさんに教えるだけのはずだった。
「気付けばクラスメイトのほとんどが俺の席周辺に集合って……」
視線は感じていたが、内容も聴いていたらしい。
そしてスミスを機に皆が一斉に来た。
自分にとっての魔法学、そんなに大したものじゃないんだけども……
「あ! もう黒板でやってもらおうぜ!」
「それいいね!」
「じゃあアリシアくんよろしく頼むよ!」
「「「「「お願い!」」」」」
人が多くマトモに話が聞けないということで、前に立って教鞭を振るえと?
「で、でも休み時間はあと少ししかないから……」
皆の距離が近くなったように感じる。
まあケンザキやスガヌマといった男勇者は除くけどさ。
それでもこの場にいるほとんどの奴がお願いのポーズをしてくる。
「クレス君」
「な、なに?」
「お願いします」
「……」
「マイのお願いでもダメなら仕方ないですわ。私(わたくし)は公爵令嬢ですが頭を下げて——」
「待て待て! それはマズイ!」
「なら教えてくださる?」
公爵家が平民に頭を下げるのは普通に良くない。
その構図は俺にとって最悪、きっと悪い意味で学園に話が
「……はぁ、分かったよ」
そんな事になるなら面倒でもやりますよ。
というかマイさん、いくら何でも笑いすぎな。
(世界から恐れられる災厄の数字の魔法使い、その1人が教鞭をとるとは……)
しかも教える相手は同い年、なんて冗談だよ。
ただ休み時間もあと少し、次の講師が来るまでの辛抱だ。
「ならあんまり時間もないし……」
そそくさと教壇の方へ向かう。
魔法学のレベルが低くて退屈していた節もある。
この短い時ぐらい、本当の魔法とは何かを披露していいかもしれない。
「クレスが授業するんだから皆早く席に着けや!」
「扉も閉めましょう。雑音が聞こえてくるわ」
「やばいやばい! 早くノート出さねえと!」
「勇者を簡単に倒したアリシアの授業、ワクワクが止まらないぜ」
俺が壇上に立つ頃には皆は静かに着席。
流石はSクラス、ペンを片手に真っすぐな眼差しを俺に向けてくる。
(ぷ、プレッシャー掛けてくるなぁ……)
そんなに見ないでくれ、緊張するだろうが。
しかし眼差し多い中ケンザキはやっぱり不機嫌そう、いやまさか——
『自分の前に立った以上クソみたいな授業をやるな』
プライドが高いからそういうこと言いそうじゃん。
「もしくは……」
勇者たる自分ではなく、俺が周囲の注目を一点に集めている。
それに嫉妬してるから不機嫌とか?
英雄となる勇者様がそんな陳腐な感情を抱く……わけないか。
(それでもガッカリされるのは
仕方なしと教壇に立ったが、なんだかやる気が出てきたぞ。
「よし。なら魔法学の授業を始めようか——」