この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第14話:座学

「よって魔法学においてまず重要なのは——」

 

 王城潜入をした次の日。

 俺は普段通り学園で授業を受けていた。

 

「んー……」

 

 しかし頭の中は昨夜のことで一杯。

 まずハルカゼさんの実情に驚いた。

 

(そして、まさかの5人目(、、、)がいるって言う……)

 

 経験からして嘘情報(ブラフ)ではない気がするんだ。

 となると勇者たちは口止めをされている?

 

「そしてこの魔法を使う際、式が変形をして次の——」

 

 授業の最中、チラリと視線を後方に動かす。

 勇者たちは皆真面目に板書。

 

「……本来であれば此処にあと1人いたという……」

 

 まず黒板の文字を普通に写してることがもう謎。

 

(だって召喚されて1ヵ月経ったかどうかだぞ)

 

 それで他言語を完全理解できるってことはだ。

 ボスが予想した通り、本当に『世界による異世界人補正(、、)』ってのが働いて——

 

「いやいや……そんな都合の良い恩恵があるわけない……」

 

 まさか召喚されたら無条件で神様に贔屓されるとでも?

 

「ここで式は組み合わさるんだが……スミス・アルビン!」

「あ、はい」

「完成した式を黒板に書いてみろ」

「えー……」

 

 あと初日の模擬戦以来、案の定ケンザキからは敵意を向けられている。

 

(ただそれぐらいの負けん気があった方が良いかもしれない)

 

 勇者たちには大きな期待が寄せられている。

 図太い精神がなければ押しつぶされてしまう、彼女のように——

 

「すんません先生。ぜーんぜん分からないっす」

「ほほう。今まで授業を聞いてたんじゃないのか?」

「自分がモテモテになる妄想してました」

「そうか。殴って欲しいんだな?」

「はい!? んなこと言ってないっすよ!」

 

 スミスが隣で殴られそうになっている。

 

(皆は笑ってるが、ただこんな奴でも実力はある)

 

 案外スミスみたいな変人が『選抜戦』とやらで良い結果を残す気もする。

 

「いっ、てええええええええええええええ」

「ふぅ、今度ふざけたら拳骨じゃなくて魔法を身体に教えてやろう」

「ぼ、暴力反対……」

 

 選抜戦、それはこの大陸で最強の学生を決める大会だ。

 参加するのはここユグレー大陸で領土を持つ4ヵ国。

 各国で代表を4人選出、トーナメント形式で競い合わせる催しである。

 

「まったく……選抜戦の予選もそう遠くない。授業も真面目に受けといた方が良いぞ」

 

 教師も丁度その話題に触れる。

 

(確か予選はもう2、3カ月後だったかな?)

 

 勇者たちが公で試されるのはまずその時だろう。

 

(入試みたいにパスはできない。実力で勝ち上がるしかないが……)

 

 もし本選に行ったとしても、他国の同世代には『戦姫』や『剣聖』がいる。

 1回でもヘタな戦いを見せれば、勇者の格に疑いが持たれることになるだろう。

 

「プレッシャーは期待の裏返しか……」

「なんか言ったかクレス?」

「独り言、なんでもないよ」

 

 優遇されているようで勇者のすぐ後ろは崖なのだ。 

 

(だからケンザキよ、そんな涼しい表情を浮かべている場合じゃないぞ)

 

 異能やセンスだけ見れば、お前が4人の中で一番マズイのだから。

 

「予選会ねぇ、クレスは出場す……」

「スミス・アルビン! 今度はお喋りかぁ!?」

「す、すんませーん!」

 

 またも教師に注意される我が隣人。

 でも途中で打ち切られた質問の意味は理解した。

 

(代表を決める予選会、参加はするけど絶対(、、)に代表にはならないよ)

 

 王立の実技入試トップ者が不参加では悪目立ちするだろう。

 でも監視の任務もある、タイミングを計って途中脱落するつもりだ。

 

「それでは……っともうこんな時間か。誰かさんのせいで時間を無駄にしたな」

 

 少し早いがここで授業は終了だそう。

 教師も早々に退出、ゆるい空気が訪れる。

 

「はあ……初めからハードすぎんよ……」

「授業中に妄想してるスミスが悪いだろ」

「そう言うクレスもボーっとしてたじゃんか」

「俺は教科書に書いてあることはもう暗記したからな。余裕がある」

「……は? まじで?」

「マジだ」

 

 勉学はセローナさんの助けがあったからこそ。

 当分テストに困ることはないだろう。

 

「あの、アリシア君」

「っ、」

 

 突然後ろから名前を呼ばれ、ついビクついた反応をしてしまう。

 相手は(くだん)の勇者の1人、マイ・ハルカゼである。

 

「……なに?」

 

 青い瞳が振り向いた俺の瞳を捉える。

 いったい何の用だ……?

 

「さっきの魔法学の授業、ちょっと分からないところがあって」

「なんだ……てっきりバレたのかと……」

「バレた?」

「いやいや! 気にしないで!」

 

 そうだ、俺の監視が露見するはずがない。

 

(いくら何でも口がオザナリ過ぎた。昨日の事を気にしすぎてる……)

 

 ハルカゼさんは今だってニコニコしてる。

 ……だけど俺は、ソレを見破れなかった。

 

(本当の仮面ってのは、仮面とは思えないくらい精巧にできてるってか……)

 

 潜入を経てようやく、彼女が虚勢を張っていると知ることができたのだ。

 

「それで……?」

「うん。実は——」

 

 そもそもだ。

 同世代の女子に声を掛けられるだけでも気苦労を感じる。

 

(しかもケンザキとの模擬戦以来、男子はともかく女子もやけに接触してくるし)

 

 あまり関わりに来て欲しくないというのが正直なところ。

 

「少し魔法学を教えてもらいたくて。教科書のこの部分なんだけど……」

「あー魔法における第一工程の改編か」

「うん。一回構築してからの変形ができなくて」

 

 おおかた俺とスミスの会話を聞いていた。

 それで俺がそこそこ魔法ができると知り、助けを求めてきたと。

 

「分かった。教え——」

「ホント!? ありがとう!」

「あ、うん」

 

 いやね、教えるのは別にいいんですよ。

 だって断る方が不自然じゃん。

 ただ——

 

(か、顔がめちゃくちゃ近い……!)

 

 真後ろにハルカゼさんの席、俺が身体半分を向けているという構図。

 

「どうしたの?」

「いや……」

「あ、教科書が見にくかったね。もう少し私が近づこうかな」

 

 逆! 逆だよ! もう少し離れてくれよ!

 ハルカゼさんが気を使ったが裏目に。

 俺の銀髪と彼女の黒髪、毛先と毛先が接触するぐらいの至近距離。

 

「アリシア君、なんだか顔赤いよ?」

「ダ、ダイジョウブ」

 

 女性特有の甘い匂いを感じとる。

 そして何度も言うが顔が近い、近すぎるって。

 

「それでね。ここが分からなくて……」

 

 だがこのまま進む。

 ……相分かった、やってやろうじゃないか。

 2人で机上の教科書を覗き込もうとする、が——

 

「「っいた!」」

 

 頭部に衝撃。原因は言うまでもない。

 

「ご、ごめん!」

「ううん。大丈夫だよ」

 

 お互いの頭部が衝突。

 やはりそもそもが近すぎたのだ。

 ハルカゼさんは笑ってくれたが——

 

「……美少女とゴッツンコ、だと?」

「……アイツは一体どこの主人公だ?」

「……溢れ出る妬みの激情(パトス)、今の俺なら神すら殺せる」

 

 周りの男子から鋭い視線が、スミスの表情なんてもはや鬼の如し。

 

「ごめんハルカゼさん。何か周りが色々言ってるけど……」

「私は特に気にしないかな?」

「な、なぜに疑問形……」

「冗談冗談。あとそろそろ魔法学の方を教えて欲しい」

「あ、そそ、そうだった!」

 

 この一連ですっかり頭から飛んでいた。

 ハルカゼさんに笑われているぞ俺、平然を保つんだ。

 

「ま、まぢゅ」

「まぢゅ?」

「……まず、この魔法学についてだけど……」

「っ……ふ……ふふ……、」

 

 ……ふつーに噛んだ。

 何とか取り繕ったつもりが、対面する彼女は笑いを堪えている。

 

「失敗は誰にでもある……」

「ご、ごめん。でもアリシア君って結構天然だなーと」

 

 自分でも分かるほどの慌てっぷり。

 しかしこれは至近距離での対話だからこそ。

 

(別にハルカゼさんが美少女だからって慌てているわけじゃない)

 

 なにせ数字(ナンバーズ)の女性陣が美人だらけ、容姿で今更どうってこともないのだ。

 

「お、俺は天然じゃない!」

「そうかな?」

「そうだよ!」

 

 これまで接してきた女性の多くは年上だけ。

 しかも最低5歳は離れている。よって会話の距離感が掴みにくい。

 同世代(、、、)の女子が相手だからこんなにテンパってしまう。

 

「なんだか面白いね。あ、せっかくだし名前で。これからクレス君って呼ぼうかな」

「別にそれは良いけど……」 

 

 なんと呼ぼうが勝手、お任せします。

 

「「…………」」

 

 無言の会話。無言の圧力。

 ……なるほどね、俺もハルカゼさんのことを名前で呼べと。

 

(こういう場合は変に恥ずかしがるより、無難に言う事聞いておいた方が良い) 

 

 彼女としても友達感覚(、、、、)で申し出ているはずだ。

 

「分かった。じゃあマイさんで」

「呼び捨てで良いのに」

「……それはハードルが高い」

「そうなんだ」

 

 そうなんだよ。

 下手に呼び捨てして、周りから勘繰りを受けるのは勘弁。

 距離感はちゃんと測っている。

 

「……ッゴホン。休み時間もそうないし」

「うん。そろそろ真面目に教えてもらおうかな」

 

 ようやく魔法学の話へ。

 それでも周囲から視線はチラチラ飛んでくる。

 

(あと隣でスミスが非モテの呪いとやらを俺に呟いている)

 

 勉強を教えるだけだ。

 モテるとは違うだろ。

 

「じゃあまずは構築工程の説明を——」

 

 とりあえずと解説を始める。

 俺は監視者だが、勇者を手助けするなとは言われていない。

 

(……ま、助けろとも言われてないが)

 

 ただ何にせよ数字(ナンバーズ)は勇者たちに成長を、ひいては強さを求めている。

 それは全て俺たちが強すぎるから。

 敵のいない退屈な世界、だから数字(ナンバーズ)の多くは強敵を欲す。

 勇者となれば期待も高まる、興味が湧くのはそういう理由。

 

(俺はそこまで思わないけど、彼女との仲を進展させることは任務的にはプラスだろう)

 

 友人になれれば、より多くの情報が手に入るはずだ。

 

「……ならこの式は要らないってこと?」

「そう言うことになるかな」

「でも先生は……」

「授業でやってることは回りくどくて、これが一番効率的な構築だと思う」

 

 教科書通りにではなくアレンジして。

 より深く実戦的な理論で伝えていく。

 

「どんなに多くの属性に適していても、構築に時間を掛けてたら持ち腐れであって——」

 

 これでも9属性全てをある程度は使えるのだ。

 今は異能(かのじょ)が邪魔するせいで氷魔法しか満足に使えないけど……

 

「——だからコレとコレをくっ付ける」

「——うんうん」

「——それでできた陣にさっきの式を加えると」

「——本当だ! ちゃんと答えと一緒になってる!」

「——俺は教科書よりもこのやり方を推すよ」

 

 もったいぶらずに頑張って教える。

 むしろ教えていた方が緊張しなくて済むし。

 

「良くそんなの知ってるねクレス君」

「……まぁ家庭教師が優秀だったから……」

「な、なんか目が死んでるよ?」

 

 ただ魔法学については割と自力で。

 (セローナ)さんにもこの分野だけは誉められた。

 

「ならアリシアさん、ここから第二工程に昇華するには弊害が多いのではなくて?」 

「ディアンヌスさん?」

「興味深いので私も混ぜてください。それでどう発展させるのです?」

 

 俺とマイさんのやり取りに興味を持ったのだろうか。

 通称、金髪ツインドリルヘッド。

 もといマリー・ディアンヌス嬢が登場してくる。

 

「解説を」

「あ、はい。えっと、ここからだと——」

 

 ただやはり四大公爵家の令嬢、理解は周りよりだいぶ先にいるようだ。

 マイさんに教授した俺の理論に疑問を呈してくる。

 

「なになに、面白そうじゃない」

「あ、凛花。今アリシア君が魔法学について教えてくれてるんだよ」

「へえ、アリシアさんの魔法学」

 

 っげ……

 ()の申し子までもが来たぞ。

 

「そろそろこのスミス・アルビンも混ぜてもらおうか」

「いやお前は……」

「アリシア君! 私たちも聞いていい!?」

「え……」

「おい女子ばっかり出しゃばるな! 実は俺たち男子も聞きたいんだ!」

「うんうんやっぱ男の友情は大切だね。できればアリシアくんの身体についても——」

 

 な、なんだか大変なことになってるぞ……

 マイさんに教えるだけのはずだった。

 

「気付けばクラスメイトのほとんどが俺の席周辺に集合って……」

 

 視線は感じていたが、内容も聴いていたらしい。

 そしてスミスを機に皆が一斉に来た。

 自分にとっての魔法学、そんなに大したものじゃないんだけども……

 

「あ! もう黒板でやってもらおうぜ!」

「それいいね!」

「じゃあアリシアくんよろしく頼むよ!」

「「「「「お願い!」」」」」

 

 人が多くマトモに話が聞けないということで、前に立って教鞭を振るえと?

 

「で、でも休み時間はあと少ししかないから……」

 

 皆の距離が近くなったように感じる。

 まあケンザキやスガヌマといった男勇者は除くけどさ。

 それでもこの場にいるほとんどの奴がお願いのポーズをしてくる。

 

「クレス君」

「な、なに?」

「お願いします」

「……」

「マイのお願いでもダメなら仕方ないですわ。私(わたくし)は公爵令嬢ですが頭を下げて——」

「待て待て! それはマズイ!」

「なら教えてくださる?」

 

 公爵家が平民に頭を下げるのは普通に良くない。

 その構図は俺にとって最悪、きっと悪い意味で学園に話が伝播(でんぱ)するだろう。

 

「……はぁ、分かったよ」

 

 そんな事になるなら面倒でもやりますよ。

 というかマイさん、いくら何でも笑いすぎな。

 

(世界から恐れられる災厄の数字の魔法使い、その1人が教鞭をとるとは……)

 

 しかも教える相手は同い年、なんて冗談だよ。

 ただ休み時間もあと少し、次の講師が来るまでの辛抱だ。

 

「ならあんまり時間もないし……」

 

 そそくさと教壇の方へ向かう。

 魔法学のレベルが低くて退屈していた節もある。

 この短い時ぐらい、本当の魔法とは何かを披露していいかもしれない。

 

「クレスが授業するんだから皆早く席に着けや!」

「扉も閉めましょう。雑音が聞こえてくるわ」

「やばいやばい! 早くノート出さねえと!」

「勇者を簡単に倒したアリシアの授業、ワクワクが止まらないぜ」

 

 俺が壇上に立つ頃には皆は静かに着席。

 流石はSクラス、ペンを片手に真っすぐな眼差しを俺に向けてくる。

 

(ぷ、プレッシャー掛けてくるなぁ……)

 

 そんなに見ないでくれ、緊張するだろうが。

 しかし眼差し多い中ケンザキはやっぱり不機嫌そう、いやまさか——

 『自分の前に立った以上クソみたいな授業をやるな』

 プライドが高いからそういうこと言いそうじゃん。

 

「もしくは……」 

 

 勇者たる自分ではなく、俺が周囲の注目を一点に集めている。

 それに嫉妬してるから不機嫌とか?

 英雄となる勇者様がそんな陳腐な感情を抱く……わけないか。

 

(それでもガッカリされるのは(しゃく)だ。しっかりやろう)

 

 仕方なしと教壇に立ったが、なんだかやる気が出てきたぞ。

 

「よし。なら魔法学の授業を始めようか——」

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