この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第16話:八番

 場所は移り変わり俺の部屋。

 

「——まさかクレスちゃんが隠密任務とは、アタシびっくり」

「——知ってて来たのかと思いましたよ」

 

 学園の帰り道、まさかの先輩に遭遇。

 見た目だけ美人なオカマおっさん、『Ⅷ』のボーンさんである。

 

「それにしても、相変わらず凄い変身術ですね……」

「でしょーん」

 

 さっきまでは金髪でメイドという格好だったが、今は茶髪の少女に。

 

「ふふーん! 今度は町娘風よ!」

 

 目立ったので部屋に来る前に変身してもらった。

 

「さっきのメイド姿とどっちがいい?」

「どっちがって言われても……どっちでもいいです」

 

 ボーンさんは異能を応用することで何にでも姿を変えられる。

 身長体重、骨格、顔立ち、服装でさえも自在に操るのだ。

 一見すると俺以上に監視には最適に思えるが――

 

「ボーンさんがお元気そうで良かったです」

「イエス! まだまだピッチピチィィィィィィィィィ!」

 

 ……ただ性格に難あり。

 

「あんまり大きな声出さないでください」

 

 女装時はこの調子、学園に行った時の被害は想像もつかない。

 男色家としての(さが)が優先、もはや監視どころではないだろう。

 

「アタシは今回寄り道しただけ。帝国でちょっとお仕事があってね」

「てっきり茶化しに来たかと思いました」

「そんなことしなーい。やるのはせいぜいアウラちゃん、それからロリババアに(じい)やも……って結構いるわね邪魔しそうな人」

「そういう組織ですから……」

 

 周囲には既にボーンさんによって風属性の魔法を展開済み。

 防音仕様、気配探知、誰かが来てもすぐに対応ができる状態だ。

 

「クレスちゃん、任務について緘口令(かんこうれい)は出てる?」

「一般人への開示はもちろんダメですけど、ボーンさんならまだ……」

 

 勇者の事は耳に入っていたが、俺の任務は本当に知らないらしい。

 

「ボスはこの監視の任務、あまり公言してないみたいですね」

「そりゃうちは問題児多いもの」

 

 ごもっとも。

 ただ仲間は仲間、軽く話す分には問題ないだろう。

 

「それでどうなの? 学園は楽しい?」

「うーん……」

「初っ端から微妙な返事するわねぇ」

「そりゃ任務が大前提にありますし、大変な時の方が多いです」

「真面目ちゃん。アタシだったらやっぱハーレム王を目指すかしら」

「ハーレム王って……まーた恐ろしいことを……」

「だって若い子が沢山いるのよ!? 手を出さないなんて無理!」

 

 女の格好で言うからまだ許容できるが、変身を解けばおっさんである。

 しかもちょっと小太りの中年。

 

「ハーレム王、男なら誰もが1度は憧れるわよねぇ……」

「いや、俺はないですよ?」

「クレスちゃんは(まれ)、一途だもの。アウラちゃんとお幸せに」

「っな! 何もないです!」

「ふふーん。どうかしらー」

 

 こうしてよくからかわれる。

 でも喋っていて結構楽しいし、基本良い人なので信頼もできる。

 

「それにしたって勇者が複数いるってのは……皆ポテンシャルは高い?」

「ケンザキってのが未知数です。他はそれぞれ才を持ってます」

 

 調査の内容を触り程度に伝達する。

 

「そのケンザキって子、イケメンだったりする?」

「顔ですか? 整っていると思います」

「弱々系勇者か、これもまた1つの属性……」

「ちょっと、ここで興奮しないでくださいよ?」

 

 獣の眼、ギラギラと得物を狙っている感じのやつ。

 

「やっぱり勇者に関心はあるんですね」

「そりゃそうよ。興味津々!」

 

 力量はどれほどのものか。

 ボーンさんの興味には違う意味も含まれてそうだけど……

 

「そういえば、アタシからも面白い話が1つある」 

「面白い話ですか?」

「結構新鮮なネタよ。まだ数字(ナンバーズ)全員には伝わっていないと思うわ」

 

 ふと思い出したと言わんばかり。

 

(ただ面白いと題したわりに表情は真剣だな)

 

 そこに笑いもフザケも入らない。

 

 一拍置いて静かに(つむ)ぎ出す。

 

「……数日前のこと。(ローラン)ちゃんが任務を放棄(リタイヤ)したの」

「っ!? ギブったんですか!?」

「本人が言うには戦略的撤退だそうよ」

 

 ローラン・スクイーズ。

 災厄の数字(ナンバーズ)では4番目に位置づけされる男である。

 なんでも交戦の末に撤退を選んだらしい。

 

「ローランさんのことです。途中で仕事が面倒になったとか……」

「ちゃんと戦況を判断しての撤退だそうよ。遭遇した『敵』が相当やれたってわけ」

「だからそれ、結局は戦闘がだるくなっただけじゃ——」  

 

 俺たちにとって任務を失敗することは敗北に近しい。

 なにせそれぞれが超一級の力を持つ。

 数字(ナンバーズ)をサシで沈める可能性があるのは魔王の類、もしくは神か。

 

「ローランちゃんは、とある任務の最中に複数の不審者と遭遇した」

「そしてその不審者を敵と断定、交戦に入ったと?」

「イエス。数は5人、容姿は人型だったそうよ」

「他に特徴は?」

「顔や性別は分からない。相手は黒いコートを羽織っていただけらしいけど……」

 

 コート? それだけで一切の特徴を隠せるはずがない。

 

「それは5人全員が同じものを着ていたんですか?」

「ええ」

「となると数的に聖遺物や神器の可能性は低い。おそらく……」

「特殊な魔道具でしょうね」

 

 しかしローランさんの眼を掻い潜るとは相当だ。

 その魔道具自体、とんでもない性能なんだろう。

 

「ただあの人が本気を出せば……」

「本人は相手を見た上での判断と言ってるけど、たぶん面倒くさかったんでしょう」

「ですね……」

 

 ローランさんは遠距離特化のスタイル。

 今回は近接戦だったらしいが、それでも相応の魔法を使えば勝てたはずだ。

 

「でもローランちゃん曰く、相手が手練れだったことは確かみたい」

「なるほど。できればその手練れのレベルを測ってきて欲しかったです……」

「そこは……まぁ、そうね」

 

 いやはや、詳しい力量を測って来て欲しかったな。

 

「出会った瞬間に不穏な空気を察知したそうだし」

「そもそも1対5の不利的状況ではありますからね」

「結局は一手二手交わしただけで撤退を……」

「一、二手!? 本当に触り程度じゃないですか!」

 

 も、もう少し戦ってもいいだろ……

 

(もしくは、本当にそれだけ厄介な相手だったのか——?)

 

 だとしたら……

 

「向こうから仕掛けてきたんですか?」

「いいえ。任務の途中でバッタリって空気だそうよ。そしたら相手が警戒しだして……」

「交戦になったと」

「ええ。少なくとも始めから敵意を持たれていたわけではない」

 

 あくまで出会った上で、向こうは戦うという選択をした。

 

「魔王ですかね? でも5人いたって話だし、魔王同士で手は組まないから……」

「詳しい情報はない。ただ人型だったとだけ。暫定(ざんてい)呼称(こしょう)は『正体不明(アンノウン)』よ」

「正体不明……まんまですけど嫌な響きです……」

 

 この話は既に本拠にいるボスたちに伝わっているとか。

 

「起きたばかりの珍事件、ただ数日後には何らかの形で連絡が来るはずよ」

「了解です」

「あと最近は魔族の動きも活発だし、ここもいつ襲撃されてもおかしくない」

「勇者が強くなる前に首を獲りたいってとこですかね?」

「おそらく。あと魔王か正体不明(アンノウン)か誰の仕業か知らないけど、魔獣たちが全体的に委縮している。ハーレンスの端にある森ではちょっとだけ異質な空気を感じたわ」

 

 魔獣なんてものはどこの自然界にもいる。

 もちろんハーレンス王国にも幾つも山や森があり、別荘を建てている貴族もいるくらい。

 そこを抜けて王都まで来たボーンさんの感想だ。

 

魔獣暴走(モンスター・パニック)の予兆とか?」

「それにしては微妙な違和感だったけど、ともかく一応想定はしておいた方がいいと思う」

 

 なにやら動物たちが若干怯えていたそうな。

 

「少なくとも、そこら辺の冒険者が気付くような大きな異変じゃないわ」

 

 ボーンさんの一級の戦士としての勘がそう告げる。

 

(近い内に学園の行事で林間合宿があるし……)

 

 自然の中で数日過ごし、身体を実地に慣らすというものだ。

 

「うーん……」

 

 ただ行う場所はボーンさんが異変を感じた所。

 いくら王都から近いとはいえ、そこで魔族に襲われる可能性はある。

 

(ただ王国もそこまでバカじゃない)

 

 行事には魔法騎士たちを護衛として派遣するそうだ。

 

「だとしても不安な要素が多い……」

 

 1つ、ローランさんが出会った『正体不明(アンノウン)』という存在たち。

 2つ、複数の魔王とそれに従う魔族の動き。

 3つ、王国近隣の自然界の異変。原因は不明。

 

「クレスちゃんも気を付けなさい」

「正体不明《アンノウン》ですか?」

「魔王にもよ。なんだか嫌な予感がする」

 

 監視の最中は数字(ナンバーズ)と会いたくないと言っていた自分。

 だがくしくもボーンさんと再会したことで有益な情報が知れた。

 日常に浸り緩みそうだった緊張感が——元に戻る。

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