この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
場所は移り変わり俺の部屋。
「——まさかクレスちゃんが隠密任務とは、アタシびっくり」
「——知ってて来たのかと思いましたよ」
学園の帰り道、まさかの先輩に遭遇。
見た目だけ美人なオカマおっさん、『Ⅷ』のボーンさんである。
「それにしても、相変わらず凄い変身術ですね……」
「でしょーん」
さっきまでは金髪でメイドという格好だったが、今は茶髪の少女に。
「ふふーん! 今度は町娘風よ!」
目立ったので部屋に来る前に変身してもらった。
「さっきのメイド姿とどっちがいい?」
「どっちがって言われても……どっちでもいいです」
ボーンさんは異能を応用することで何にでも姿を変えられる。
身長体重、骨格、顔立ち、服装でさえも自在に操るのだ。
一見すると俺以上に監視には最適に思えるが――
「ボーンさんがお元気そうで良かったです」
「イエス! まだまだピッチピチィィィィィィィィィ!」
……ただ性格に難あり。
「あんまり大きな声出さないでください」
女装時はこの調子、学園に行った時の被害は想像もつかない。
男色家としての
「アタシは今回寄り道しただけ。帝国でちょっとお仕事があってね」
「てっきり茶化しに来たかと思いました」
「そんなことしなーい。やるのはせいぜいアウラちゃん、それからロリババアに
「そういう組織ですから……」
周囲には既にボーンさんによって風属性の魔法を展開済み。
防音仕様、気配探知、誰かが来てもすぐに対応ができる状態だ。
「クレスちゃん、任務について
「一般人への開示はもちろんダメですけど、ボーンさんならまだ……」
勇者の事は耳に入っていたが、俺の任務は本当に知らないらしい。
「ボスはこの監視の任務、あまり公言してないみたいですね」
「そりゃうちは問題児多いもの」
ごもっとも。
ただ仲間は仲間、軽く話す分には問題ないだろう。
「それでどうなの? 学園は楽しい?」
「うーん……」
「初っ端から微妙な返事するわねぇ」
「そりゃ任務が大前提にありますし、大変な時の方が多いです」
「真面目ちゃん。アタシだったらやっぱハーレム王を目指すかしら」
「ハーレム王って……まーた恐ろしいことを……」
「だって若い子が沢山いるのよ!? 手を出さないなんて無理!」
女の格好で言うからまだ許容できるが、変身を解けばおっさんである。
しかもちょっと小太りの中年。
「ハーレム王、男なら誰もが1度は憧れるわよねぇ……」
「いや、俺はないですよ?」
「クレスちゃんは
「っな! 何もないです!」
「ふふーん。どうかしらー」
こうしてよくからかわれる。
でも喋っていて結構楽しいし、基本良い人なので信頼もできる。
「それにしたって勇者が複数いるってのは……皆ポテンシャルは高い?」
「ケンザキってのが未知数です。他はそれぞれ才を持ってます」
調査の内容を触り程度に伝達する。
「そのケンザキって子、イケメンだったりする?」
「顔ですか? 整っていると思います」
「弱々系勇者か、これもまた1つの属性……」
「ちょっと、ここで興奮しないでくださいよ?」
獣の眼、ギラギラと得物を狙っている感じのやつ。
「やっぱり勇者に関心はあるんですね」
「そりゃそうよ。興味津々!」
力量はどれほどのものか。
ボーンさんの興味には違う意味も含まれてそうだけど……
「そういえば、アタシからも面白い話が1つある」
「面白い話ですか?」
「結構新鮮なネタよ。まだ
ふと思い出したと言わんばかり。
(ただ面白いと題したわりに表情は真剣だな)
そこに笑いもフザケも入らない。
一拍置いて静かに
「……数日前のこと。
「っ!? ギブったんですか!?」
「本人が言うには戦略的撤退だそうよ」
ローラン・スクイーズ。
なんでも交戦の末に撤退を選んだらしい。
「ローランさんのことです。途中で仕事が面倒になったとか……」
「ちゃんと戦況を判断しての撤退だそうよ。遭遇した『敵』が相当やれたってわけ」
「だからそれ、結局は戦闘がだるくなっただけじゃ——」
俺たちにとって任務を失敗することは敗北に近しい。
なにせそれぞれが超一級の力を持つ。
「ローランちゃんは、とある任務の最中に複数の不審者と遭遇した」
「そしてその不審者を敵と断定、交戦に入ったと?」
「イエス。数は5人、容姿は人型だったそうよ」
「他に特徴は?」
「顔や性別は分からない。相手は黒いコートを羽織っていただけらしいけど……」
コート? それだけで一切の特徴を隠せるはずがない。
「それは5人全員が同じものを着ていたんですか?」
「ええ」
「となると数的に聖遺物や神器の可能性は低い。おそらく……」
「特殊な魔道具でしょうね」
しかしローランさんの眼を掻い潜るとは相当だ。
その魔道具自体、とんでもない性能なんだろう。
「ただあの人が本気を出せば……」
「本人は相手を見た上での判断と言ってるけど、たぶん面倒くさかったんでしょう」
「ですね……」
ローランさんは遠距離特化のスタイル。
今回は近接戦だったらしいが、それでも相応の魔法を使えば勝てたはずだ。
「でもローランちゃん曰く、相手が手練れだったことは確かみたい」
「なるほど。できればその手練れのレベルを測ってきて欲しかったです……」
「そこは……まぁ、そうね」
いやはや、詳しい力量を測って来て欲しかったな。
「出会った瞬間に不穏な空気を察知したそうだし」
「そもそも1対5の不利的状況ではありますからね」
「結局は一手二手交わしただけで撤退を……」
「一、二手!? 本当に触り程度じゃないですか!」
も、もう少し戦ってもいいだろ……
(もしくは、本当にそれだけ厄介な相手だったのか——?)
だとしたら……
「向こうから仕掛けてきたんですか?」
「いいえ。任務の途中でバッタリって空気だそうよ。そしたら相手が警戒しだして……」
「交戦になったと」
「ええ。少なくとも始めから敵意を持たれていたわけではない」
あくまで出会った上で、向こうは戦うという選択をした。
「魔王ですかね? でも5人いたって話だし、魔王同士で手は組まないから……」
「詳しい情報はない。ただ人型だったとだけ。
「正体不明……まんまですけど嫌な響きです……」
この話は既に本拠にいるボスたちに伝わっているとか。
「起きたばかりの珍事件、ただ数日後には何らかの形で連絡が来るはずよ」
「了解です」
「あと最近は魔族の動きも活発だし、ここもいつ襲撃されてもおかしくない」
「勇者が強くなる前に首を獲りたいってとこですかね?」
「おそらく。あと魔王か
魔獣なんてものはどこの自然界にもいる。
もちろんハーレンス王国にも幾つも山や森があり、別荘を建てている貴族もいるくらい。
そこを抜けて王都まで来たボーンさんの感想だ。
「
「それにしては微妙な違和感だったけど、ともかく一応想定はしておいた方がいいと思う」
なにやら動物たちが若干怯えていたそうな。
「少なくとも、そこら辺の冒険者が気付くような大きな異変じゃないわ」
ボーンさんの一級の戦士としての勘がそう告げる。
(近い内に学園の行事で林間合宿があるし……)
自然の中で数日過ごし、身体を実地に慣らすというものだ。
「うーん……」
ただ行う場所はボーンさんが異変を感じた所。
いくら王都から近いとはいえ、そこで魔族に襲われる可能性はある。
(ただ王国もそこまでバカじゃない)
行事には魔法騎士たちを護衛として派遣するそうだ。
「だとしても不安な要素が多い……」
1つ、ローランさんが出会った『
2つ、複数の魔王とそれに従う魔族の動き。
3つ、王国近隣の自然界の異変。原因は不明。
「クレスちゃんも気を付けなさい」
「正体不明《アンノウン》ですか?」
「魔王にもよ。なんだか嫌な予感がする」
監視の最中は
だがくしくもボーンさんと再会したことで有益な情報が知れた。
日常に浸り緩みそうだった緊張感が——元に戻る。