この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第17話:情報

 ボーンさんと出会い、色々な情報を得た昨日。

 今は今週末に控えた『林間合宿』についての説明を受けていた。

 

「この行事の一番の目的は自然に慣れること。実地場所は見た通りだ」

 

 黒板に張り出された地図を注視する。

 

「舞台となるのはハーレンス王国領の北西部、王都からは馬車で数時間の所だ」

 

 ……というと朝に出れば昼過ぎには着く距離か。

 

「慣れた次は、どんな環境でも魔法を正確に放てるように——」

 

 北部の方は森がずっと続く場所だ。

 

「——深くは森に入らず、決められた範囲で生活、及び特定の魔獣を狩ってもらう」

 

 森の入り口辺りで拠点(キャンプ)を展開するみたいだ。

 やはり学園行事、その辺は配慮しているらしい。

 

「事前に調査はしたが大した魔獣はいない。だが油断はするなよ」

 

 担任のデニーロ先生曰く、数日前に事前調査は完了したそう。

 

「……予想はしてたけど……」 

 

 ボーンさんが感じ取った小さな(、、、)異変(、、)を認知できなかったようだ。

 見抜くにはボーンさん並みの鋭い直感と経験が必要。

 教師陣や一介の騎士には無理な話か。

 

(それに万が一感じ取れたとしても、行事を中断させるには至らないだろうし)

 

 ともかく予定通り林間合宿は行われる、と——

 

「まずは合宿にあたり4人班を決める。時間をやるから各自で組んでくれ」

 

 今回の訓練では1人ではなく、自分を含め4人単位で動く。

 協力や連携を重視するハーレンス王国。

 こういうところから教育は始まっているんだろう。

 

「スミス」

「おう、一緒にやろうぜ」

 

 班を作れと言われたので、とりあえずは隣人のスミスへと声を掛ける。

 

「そしてやはりと言うか……」

 

 勇者は勇者だけで班を作った模様。

 ちょうど4人だし、そうなるわな。

 世話役の貴族、ディアンヌスさんは別の班に入るようだ。

 

「面子的にはあと2人必要……」

「どうすっかー。できれば女子がいいけど」

「スミス、お前がいる時点で女子は来ない」

「だよなぁ……」

 

 戦力的には俺だけで十分でも、これは授業の一環だ。

 手袋の下の刻印はお休みである。

 

「——ちょっといいかな」

 

 どうしようかと悩む最中、声を掛けてくる人がいた。

 

「良ければ僕も入れてくれないかい?」

 

 正体は金髪の優男。

 もとい侯爵家の次男坊、ウィリアム・コンラード。 

 

(既にクラス全員の名前と顔は頭にインプット済みだ)

 

 他の生徒についても監視の目はそれなりに光らせている。

 

「えっと、コンラードさんだよね?」

 

 ただ既知とは言え初対面、当たり障りのない言葉で会話を取り持つ。

 こういう配慮が女子にもできたら……

 最初は良くても、テンパってすぐボロが出てしまう。 

 

「ウィリアムでいいよ。あと呼び捨てで大丈夫」

「分かった。よろしくウィリアム」

 

 物腰柔らか、やはりこの王国の貴族たちはフランクだ。

 平民の俺からしたらやり易くていい。

 

「仲間は探してたけどよ、オレたち今のところ平民グループだぜ? 良いのか?」

「全然構わないさ。僕はそういうの気にしないし」

 

 全身から優しさという見えない概念が溢れ出ているような人。

 それが第一印象、身分というのもあまり気にしてない様子。

 

「しっかしどうしてオレたちの所に来たんだ?」

「確かに気になる」

「それはだね——」

 

 こんな絵に描いたような優美な貴族。

 顔も整ってるし、女子からの人気もあるだろう。

 そんな奴がわざわざ俺たちの所に来る理由とは……

 

「それはクレスにずっと興味があったからだよ。あ、僕も呼び捨てしていいかい?」

「それは全然……でも俺そんな面白い人間じゃないぞ?」

「いやいや、僕からしたら君が遅刻したあの時から仲良くしたかったね」

「ち、遅刻……」

「スミスもスミスで変人、いや変態として有名だし。見てる分には面白い」

「言ってくれるじゃねえか。まあオレが面白すぎて女子にモテモテになるのも時間の問題で——」

 

 割愛(かつあい)

 スミスの夢語りは長いんでな。

 

「ともかく僕の動機は、君たちと組んだら一番楽しめると思ったから」

「なるほどねー」

「確かにスミスは面白い」

「おいおいクレス、自分のこと棚に上げんなよ」

 

 ただウィリアムは本気でバカにはしている雰囲気はない。

 本人が言った通り、あくまで自分も楽しむためといった感じ。

 これは良い人と知り合えたかも。

 

「それじゃあ3人目はウィリアムで決まりと」

「あと1人はどうすっか……」

「もう周りは結構決まり始めてるね」

 

 まだまだ学園も始まったばかり、周りも最近になってようやく友人関係を形成しだす。

 

「訓練と題してはいるが……」

 

 この行事には親睦を深めるという意味もある。

 ここでお互いの壁を取っ払おうというわけだ。

 

「あのー、ぼくも入れてもらえないかな?」

 

 あと1人はどうしようと悩む時、遂に現れる最後の加入希望者。

 

「お、お前は……!」

「スミス、やけに驚くね」

「どうせノリだろ、過剰に言ってるだけだよ」

 

 その加入希望者は俺より少し小さいくらい。

 黒縁の眼鏡に七三に整えられた茶色の髪。

 確か名前は……

 

「ケイネル、だったかな?」

「う、うん。ケイネル・オービスです」

 

 記憶が正しければ、今年の入試で筆記トップ通過の男。

 俺の中では真面目な優等生という印象だ。

 

「どうやら仲間になりたいようだな! ならまずはこのスミス・アルビンに——」

「よろしくケイネル」

「これで4人揃ったねー」

「……オレのこと全無視かよ。ま、ケイネルの加入は全然賛成だけどさ」 

「あ、ありがとう。よろしくお願いします」

「さっそくだけどケイネル、スミスのダル絡みは無視して大丈夫だから」

「分かったよ」

「おい! ダル絡みなんてした覚えないぞ!」

「はいはい」

 

 監視者たる自分、変態のスミス、貴族のウィリアム、秀才のケイネル。

 

「なかなか濃い面子になったな……」

 

 ただ結局面子は男だけで済んだ。

 任務的にも生活的にも、恵まれたメンバーになったと思う。

 

「しかしケイネルが来るとは意外だな。お前はもっと静かそうなチームに行くかと思った」

「失礼なこと言うなよスミス」

「あはは。確かに今までだったらそうしたね。でもここにはクレス君がいたから」

「お、お前、もしかして特殊な趣味が……」

「ち、違うよ! 僕は純粋に!」

「純粋……?」

「か、勘違いだって!」

 

 スミスが割とマジな顔で尋ねると、ケイネルは違う違うと全力否定。

 そんなに焦ると逆に怪しまれるぞ……

 

「す、少し前にクレス君が魔法学の授業をしてくれたでしょ」

「あれは凄かったね」

「うん。感服したよ。こんな理論を語れる人が同い年にいるんだって」

「そんなに良かったか?」

「良すぎるよ! もうあの日は感動しすぎて夜も寝れなかった!」

 

 数日前に一度だけ俺は壇上にて教鞭(きょうべん)を振るった。

 ケイネルはそれに感銘を受け、俺と同じ班に来たと言う。

 

「だそうだ、クレス先生」

「あ、ああ。参考になったなら良かったよ」

 

 そこで今回は思い切って来たらしい。

 

「近くでもっとクレス君の話を聞きたくてさ」

「……そんなに俺の魔法学って良いか?」

「良いネ!」

「そ、そうか」

 

 来た時は割とオドオドしてたけど、こっちが本性か?

 スミスにも負けぬ勢いを感じるぞ。

 

「時間がある時でいいんだ。じっくり話したいよ」

「それはいいけど……」

「へえ、なら僕も混ぜてもらおうかな」

「オレはいいわ。授業以外で勉強なんてやってらんねーよ」

 

 逆によくそんな低い意識でSクラスに来れたなスミスさんよ。

 俺も極力勉強はしたくない人間だけどさ。

 あ、そういえば——

 

「入学試験で受けた魔法学の筆記テスト、みんな返却された?」

「おう。少し前に届いたぜ」

「手元にはもうあるね」

 

 入学試験で用意された記述式の魔法学テスト。

 それは採点されて合格者にだけ返却される、らしい。

 

「クレス君の所にはまだ返ってきてないの?」

「返ってこないな」

「あんまり内容が酷いんで赤ペン入れるのが大変なんじゃね?」

「それはスミスだろ」

「っぐ、そりゃ結構チェックされてたけど……」

「とりあえず授業を聞いた限り、クレスが下手なこと書くわけもないし」

「ああ。手ごたえはあったんだ」

 

 内容はさして難しくなかった。

 

「どんな赤ペンを入れられるかと、割と楽しみにしていんだけど——」

 

 ただ人数も人数、気長に待つしかないだろう。

 

「……というかデニーロ先生どこ行った?」

「さっきフラフラっと出ていったみたいだけど」

「トイレじゃないかい?」

「当分自由時間ってことだろうな」

 

 辺りを見渡せば班は全てできあがったようだ。

 クラス自体は30人なので2グループだけ5人班だけど。

 

「……腹減ったし菓子でも食うか」

「スミス、一応授業中だよ」

「お堅いこと言うなって。お前らにもやるからさ、ほい」

「これは……」

「まあ貴族のウィリアムはコイツ(、、、)を知らな——」

具現化菓子(ぐげんかがし)だろ?」

「知ってるんかーい!」

「懐かしいです。子供の頃はよく食べました」

 

 スミスに渡されたのは小さな箱だ。

 

「ぐ、具現化菓子……?」

 

 開けてみるとそこには茶色の薄い板? が数枚入っている。

 それを皆食べているので、同じように食す。

 

「……ウ」

 

 甘すぎるくらい甘い。不味くはないけど……

 

「そんじゃ具現化見ようぜ」

「具現化を見る?」

「中にカードが同封されて……ってクレスは知らないのか?」

「そういや別の大陸出身って言ってたもんな。軽く説明すると——」

 

 俺を見かねてスミスが説明をしてくれる。

 

「箱の中には菓子とは別に1枚のカードが入っている」

「あるね」

「このカードこそがオマケでありながらこの商品の主役、醍醐味だ」

 

 取り出して手に取る。

 

「何も描かれてないけど……」

 

 それは表裏共に黒一色に染まっているカードだった。

 

「そりゃこれから具現化するからな! やり方は簡単! このカードに自分の魔力を流すだけだ!」

「魔力を流す?」

「おうよ。すると自分の魔力に応じた『何か』が映る」

「動物や武器に建物、色んな物で自分を表してくれるんだよ」

「と言ってもオマケはオマケ。同じ人間でも、その日その日で結構変わるんだけどな」

「なるほど……」

 

 自分を象徴するモノが映るか、興味深い。

 

「んじゃクレスからな」

「え、俺からなのか……」

「確かにクレスのは興味あるな」

「ちょっと楽しみです」

 

 ルーキーからスタートらしい。

 手のひらの上に漆黒のカードを乗せ、少しずつ魔力を送っていく。

 

「さて何が出るかなと」

「なんだか全体的に白くなって来ましたね」

 

 黒一色だった表面が今度は白に変わっていく。

 

「ただ白って表現するには色が薄いかな?」

「透き通っている……氷みたいな?」

「確かに、なら氷の世界って言われれば納得だね」

 

 流石秀才、ナイスな言葉のチョイス。

 

「ん? なんか中央に出てきたぞ」

 

 そんな冷たき世界の中心に1人の人間? が映り始める。

 

「これは人間の足で間違いないな」

「細さや色からして、性別はおそらく女性ですね」

「随分と豪奢なドレスを纏っている、色も真白で気品がある」

 

 カード内、つま先から姿を形成される謎の女性。

 彼女は長い髪を持つようで、腰の部分で既に髪だけは描写される。

 

「なんかメチャクチャ美人そうなお姉ちゃんが出てきたぞ」

「クレス君と髪の色が似てるね」

「気品と威厳が伝わってくる。場所も相まって氷の女王って表現が……」

「ふんっ――!」

「「「っあ!」」」

 

 まだ完成途上、全てが映る前にカードは握り潰す。

 ただゴミ箱には捨てず、自分の懐に仕舞いこむ。

 

「悪い、なんだか握り込みたくなった」

「いやいや! 凄い良いとこだったじゃんか!」

「完成が気になったんだけど……」

「最後まで見たかったです……」

「まぁそういう時もある」

「「「ないよ!」」」

 

 残念。俺はこの女の正体に気付いてしまったんだ。

 

「まさかこんな所にまで出てくるとはな……」

 

 もう髪の色で大体察した、おそらく彼女(、、)のイタズラだろう。

 

「仕方ねぇ。じゃあ次はこのスミス・アルビンが——」

 

 割り切って再スタート、今度はスミスの番だ。

 途中で台無しにしたんだ、皆には悪いと思ってる。

 でもたかがオモチャ、小さい子がやるようなオマケのカードと言えど——

 

 俺の異能(、、)の正体(、、、)を見せるわけにはいかなかった。

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