この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
ボーンさんと出会い、色々な情報を得た昨日。
今は今週末に控えた『林間合宿』についての説明を受けていた。
「この行事の一番の目的は自然に慣れること。実地場所は見た通りだ」
黒板に張り出された地図を注視する。
「舞台となるのはハーレンス王国領の北西部、王都からは馬車で数時間の所だ」
……というと朝に出れば昼過ぎには着く距離か。
「慣れた次は、どんな環境でも魔法を正確に放てるように——」
北部の方は森がずっと続く場所だ。
「——深くは森に入らず、決められた範囲で生活、及び特定の魔獣を狩ってもらう」
森の入り口辺りで
やはり学園行事、その辺は配慮しているらしい。
「事前に調査はしたが大した魔獣はいない。だが油断はするなよ」
担任のデニーロ先生曰く、数日前に事前調査は完了したそう。
「……予想はしてたけど……」
ボーンさんが感じ取った
見抜くにはボーンさん並みの鋭い直感と経験が必要。
教師陣や一介の騎士には無理な話か。
(それに万が一感じ取れたとしても、行事を中断させるには至らないだろうし)
ともかく予定通り林間合宿は行われる、と——
「まずは合宿にあたり4人班を決める。時間をやるから各自で組んでくれ」
今回の訓練では1人ではなく、自分を含め4人単位で動く。
協力や連携を重視するハーレンス王国。
こういうところから教育は始まっているんだろう。
「スミス」
「おう、一緒にやろうぜ」
班を作れと言われたので、とりあえずは隣人のスミスへと声を掛ける。
「そしてやはりと言うか……」
勇者は勇者だけで班を作った模様。
ちょうど4人だし、そうなるわな。
世話役の貴族、ディアンヌスさんは別の班に入るようだ。
「面子的にはあと2人必要……」
「どうすっかー。できれば女子がいいけど」
「スミス、お前がいる時点で女子は来ない」
「だよなぁ……」
戦力的には俺だけで十分でも、これは授業の一環だ。
手袋の下の刻印はお休みである。
「——ちょっといいかな」
どうしようかと悩む最中、声を掛けてくる人がいた。
「良ければ僕も入れてくれないかい?」
正体は金髪の優男。
もとい侯爵家の次男坊、ウィリアム・コンラード。
(既にクラス全員の名前と顔は頭にインプット済みだ)
他の生徒についても監視の目はそれなりに光らせている。
「えっと、コンラードさんだよね?」
ただ既知とは言え初対面、当たり障りのない言葉で会話を取り持つ。
こういう配慮が女子にもできたら……
最初は良くても、テンパってすぐボロが出てしまう。
「ウィリアムでいいよ。あと呼び捨てで大丈夫」
「分かった。よろしくウィリアム」
物腰柔らか、やはりこの王国の貴族たちはフランクだ。
平民の俺からしたらやり易くていい。
「仲間は探してたけどよ、オレたち今のところ平民グループだぜ? 良いのか?」
「全然構わないさ。僕はそういうの気にしないし」
全身から優しさという見えない概念が溢れ出ているような人。
それが第一印象、身分というのもあまり気にしてない様子。
「しっかしどうしてオレたちの所に来たんだ?」
「確かに気になる」
「それはだね——」
こんな絵に描いたような優美な貴族。
顔も整ってるし、女子からの人気もあるだろう。
そんな奴がわざわざ俺たちの所に来る理由とは……
「それはクレスにずっと興味があったからだよ。あ、僕も呼び捨てしていいかい?」
「それは全然……でも俺そんな面白い人間じゃないぞ?」
「いやいや、僕からしたら君が遅刻したあの時から仲良くしたかったね」
「ち、遅刻……」
「スミスもスミスで変人、いや変態として有名だし。見てる分には面白い」
「言ってくれるじゃねえか。まあオレが面白すぎて女子にモテモテになるのも時間の問題で——」
スミスの夢語りは長いんでな。
「ともかく僕の動機は、君たちと組んだら一番楽しめると思ったから」
「なるほどねー」
「確かにスミスは面白い」
「おいおいクレス、自分のこと棚に上げんなよ」
ただウィリアムは本気でバカにはしている雰囲気はない。
本人が言った通り、あくまで自分も楽しむためといった感じ。
これは良い人と知り合えたかも。
「それじゃあ3人目はウィリアムで決まりと」
「あと1人はどうすっか……」
「もう周りは結構決まり始めてるね」
まだまだ学園も始まったばかり、周りも最近になってようやく友人関係を形成しだす。
「訓練と題してはいるが……」
この行事には親睦を深めるという意味もある。
ここでお互いの壁を取っ払おうというわけだ。
「あのー、ぼくも入れてもらえないかな?」
あと1人はどうしようと悩む時、遂に現れる最後の加入希望者。
「お、お前は……!」
「スミス、やけに驚くね」
「どうせノリだろ、過剰に言ってるだけだよ」
その加入希望者は俺より少し小さいくらい。
黒縁の眼鏡に七三に整えられた茶色の髪。
確か名前は……
「ケイネル、だったかな?」
「う、うん。ケイネル・オービスです」
記憶が正しければ、今年の入試で筆記トップ通過の男。
俺の中では真面目な優等生という印象だ。
「どうやら仲間になりたいようだな! ならまずはこのスミス・アルビンに——」
「よろしくケイネル」
「これで4人揃ったねー」
「……オレのこと全無視かよ。ま、ケイネルの加入は全然賛成だけどさ」
「あ、ありがとう。よろしくお願いします」
「さっそくだけどケイネル、スミスのダル絡みは無視して大丈夫だから」
「分かったよ」
「おい! ダル絡みなんてした覚えないぞ!」
「はいはい」
監視者たる自分、変態のスミス、貴族のウィリアム、秀才のケイネル。
「なかなか濃い面子になったな……」
ただ結局面子は男だけで済んだ。
任務的にも生活的にも、恵まれたメンバーになったと思う。
「しかしケイネルが来るとは意外だな。お前はもっと静かそうなチームに行くかと思った」
「失礼なこと言うなよスミス」
「あはは。確かに今までだったらそうしたね。でもここにはクレス君がいたから」
「お、お前、もしかして特殊な趣味が……」
「ち、違うよ! 僕は純粋に!」
「純粋……?」
「か、勘違いだって!」
スミスが割とマジな顔で尋ねると、ケイネルは違う違うと全力否定。
そんなに焦ると逆に怪しまれるぞ……
「す、少し前にクレス君が魔法学の授業をしてくれたでしょ」
「あれは凄かったね」
「うん。感服したよ。こんな理論を語れる人が同い年にいるんだって」
「そんなに良かったか?」
「良すぎるよ! もうあの日は感動しすぎて夜も寝れなかった!」
数日前に一度だけ俺は壇上にて
ケイネルはそれに感銘を受け、俺と同じ班に来たと言う。
「だそうだ、クレス先生」
「あ、ああ。参考になったなら良かったよ」
そこで今回は思い切って来たらしい。
「近くでもっとクレス君の話を聞きたくてさ」
「……そんなに俺の魔法学って良いか?」
「良いネ!」
「そ、そうか」
来た時は割とオドオドしてたけど、こっちが本性か?
スミスにも負けぬ勢いを感じるぞ。
「時間がある時でいいんだ。じっくり話したいよ」
「それはいいけど……」
「へえ、なら僕も混ぜてもらおうかな」
「オレはいいわ。授業以外で勉強なんてやってらんねーよ」
逆によくそんな低い意識でSクラスに来れたなスミスさんよ。
俺も極力勉強はしたくない人間だけどさ。
あ、そういえば——
「入学試験で受けた魔法学の筆記テスト、みんな返却された?」
「おう。少し前に届いたぜ」
「手元にはもうあるね」
入学試験で用意された記述式の魔法学テスト。
それは採点されて合格者にだけ返却される、らしい。
「クレス君の所にはまだ返ってきてないの?」
「返ってこないな」
「あんまり内容が酷いんで赤ペン入れるのが大変なんじゃね?」
「それはスミスだろ」
「っぐ、そりゃ結構チェックされてたけど……」
「とりあえず授業を聞いた限り、クレスが下手なこと書くわけもないし」
「ああ。手ごたえはあったんだ」
内容はさして難しくなかった。
「どんな赤ペンを入れられるかと、割と楽しみにしていんだけど——」
ただ人数も人数、気長に待つしかないだろう。
「……というかデニーロ先生どこ行った?」
「さっきフラフラっと出ていったみたいだけど」
「トイレじゃないかい?」
「当分自由時間ってことだろうな」
辺りを見渡せば班は全てできあがったようだ。
クラス自体は30人なので2グループだけ5人班だけど。
「……腹減ったし菓子でも食うか」
「スミス、一応授業中だよ」
「お堅いこと言うなって。お前らにもやるからさ、ほい」
「これは……」
「まあ貴族のウィリアムは
「
「知ってるんかーい!」
「懐かしいです。子供の頃はよく食べました」
スミスに渡されたのは小さな箱だ。
「ぐ、具現化菓子……?」
開けてみるとそこには茶色の薄い板? が数枚入っている。
それを皆食べているので、同じように食す。
「……ウ」
甘すぎるくらい甘い。不味くはないけど……
「そんじゃ具現化見ようぜ」
「具現化を見る?」
「中にカードが同封されて……ってクレスは知らないのか?」
「そういや別の大陸出身って言ってたもんな。軽く説明すると——」
俺を見かねてスミスが説明をしてくれる。
「箱の中には菓子とは別に1枚のカードが入っている」
「あるね」
「このカードこそがオマケでありながらこの商品の主役、醍醐味だ」
取り出して手に取る。
「何も描かれてないけど……」
それは表裏共に黒一色に染まっているカードだった。
「そりゃこれから具現化するからな! やり方は簡単! このカードに自分の魔力を流すだけだ!」
「魔力を流す?」
「おうよ。すると自分の魔力に応じた『何か』が映る」
「動物や武器に建物、色んな物で自分を表してくれるんだよ」
「と言ってもオマケはオマケ。同じ人間でも、その日その日で結構変わるんだけどな」
「なるほど……」
自分を象徴するモノが映るか、興味深い。
「んじゃクレスからな」
「え、俺からなのか……」
「確かにクレスのは興味あるな」
「ちょっと楽しみです」
ルーキーからスタートらしい。
手のひらの上に漆黒のカードを乗せ、少しずつ魔力を送っていく。
「さて何が出るかなと」
「なんだか全体的に白くなって来ましたね」
黒一色だった表面が今度は白に変わっていく。
「ただ白って表現するには色が薄いかな?」
「透き通っている……氷みたいな?」
「確かに、なら氷の世界って言われれば納得だね」
流石秀才、ナイスな言葉のチョイス。
「ん? なんか中央に出てきたぞ」
そんな冷たき世界の中心に1人の人間? が映り始める。
「これは人間の足で間違いないな」
「細さや色からして、性別はおそらく女性ですね」
「随分と豪奢なドレスを纏っている、色も真白で気品がある」
カード内、つま先から姿を形成される謎の女性。
彼女は長い髪を持つようで、腰の部分で既に髪だけは描写される。
「なんかメチャクチャ美人そうなお姉ちゃんが出てきたぞ」
「クレス君と髪の色が似てるね」
「気品と威厳が伝わってくる。場所も相まって氷の女王って表現が……」
「ふんっ――!」
「「「っあ!」」」
まだ完成途上、全てが映る前にカードは握り潰す。
ただゴミ箱には捨てず、自分の懐に仕舞いこむ。
「悪い、なんだか握り込みたくなった」
「いやいや! 凄い良いとこだったじゃんか!」
「完成が気になったんだけど……」
「最後まで見たかったです……」
「まぁそういう時もある」
「「「ないよ!」」」
残念。俺はこの女の正体に気付いてしまったんだ。
「まさかこんな所にまで出てくるとはな……」
もう髪の色で大体察した、おそらく
「仕方ねぇ。じゃあ次はこのスミス・アルビンが——」
割り切って再スタート、今度はスミスの番だ。
途中で台無しにしたんだ、皆には悪いと思ってる。
でもたかがオモチャ、小さい子がやるようなオマケのカードと言えど——
俺の