この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

2 / 26
第2話:転換

「——魔獣と一緒にその場所まで破壊しないください! 何度言ったら分かるんですかアウラさん!」

「——悪かったって」

「——今回なんて島! 島ですよ!? クレス君がいなかったらどうなっていたか!」

「——はいはい、申し訳ないね」

 

 どうも。クレス・アリシアです。

 何とか先日の任務は終了、無事に本拠(アジト)へと帰還する事ができました。

 

(ただ隣ではアウラさんが絶賛説教中だけど)

 

 なにせ魔獣どころか調子に乗って島ごと燃やしたのだ。

 俺が凍らせなければ炎は大陸にまで及んでいただろう。

 

「……腹減ったなぁ……」

 

 アウラさんは紅蓮色の髪を面倒くさそうに(いじ)りながらボソッと呟く。

 少しも反省してないな。

 

「まったくもう……」

 

 そんなバカ……じゃなくてアウラさんに説教をしている苦労人の紹介。

 名をセローナ・レントナー。

 災厄の数字(ナンバーズ)では2番目に位置する人物だ。

 

「アウラさん、全然()りてないですね」

「大丈夫だクレス。次もバシッて決めてやるから」

「だからそれが——」

「それがダメなんですって! また評判が悪くなります!」

 

 俺が言うまでもなくセローナさんが食らいつく。

 頭を抱えながら深い溜息も。

 ほんとお疲れ様です……。

 

「クレス、今日は肉が食べたい」

「今日はって、いつも肉じゃないないですか。あとたまには自分で作ってくださいよ」

「面倒だ。それに飯はクレスが作った方が美味い」

 

 アウラさんは5番目を冠しているが、特に上下関係がある組織ではない。

 セローナさんの説教をただの小言としか感じないのもそのせい。

 しかも大食漢ゆえか、このタイミングでもう夕飯の話をしてくる。

 

「――セローナ、それぐらいにしておけ」

 

 ただ、この組織にも上下間で例外はある。

 それが——

 

「おおっ! やっぱボスは話が分かるな!」

「確かに私は話が分かる女、だからアウラは謹慎(きんしん)1ヵ月だ」

「謹慎!?」

「ペナルティーだよ。毎度のことだが少しは加減を覚えてくれ」

 

 ここでアウラさんに助け船が……って違ったか。

 それを告げたのは上下関係が薄いここでの明確な頂点。

 正体はここのボス、『Ⅰ』を冠するエリザさんだ。

 

「くれすぅ……」

「擁護できないですね」

「っく! 薄情者!」

 

 俺たちの正面、立派なデスクにドッシリ構えるボスの姿。

 

(まさか逆らえるわけもなし、というか悪いのはアウラさんだから)

 

 ボスが一気に吐いた紫煙(しえん)、その黒髪がほんの少しだけ揺れる。

 重い空間で、どうやら酌量の余地はないらしい。

 

「そんな謹慎……謹慎だなんて……」

 

 こうなってはアウラさんも黙るしかない。

 なにせボスが数字(ナンバーズ)で一番強いから。

 もっと大きく言えば世界で一番強い。

 

(口ごたえしたら拳骨制裁される。あれ相当痛いんだよなぁ)

 

 神も、魔王も、魔獣も、かつて存在したとされる勇者とやらも。

 ボスは全てを平伏させる力を持っているのだ。

 

「ふぅ、今回もご苦労だったなクレス」

「ホント大変でしたよ」

「はっはっは、お前は毎回そう言うな」

「事実ですもん。アウラ先輩とペアってのは……」

「はあ!? 私と組んだせいってか!?」

 

 俺の言葉に不満、ここでアウラさんに絡まれそうになるが——

 

「はいはい。アウラさんは少しコッチに来てくださいね」

「ちょっ! 引っ張るなってセローナ!」

 

 セローナさんがアウラさんの首根っこを掴む。

 そしてどこかへ強引に連れていく。

 

(助かりましたセローナさん)

 

 そして残されるのは俺とエリザさん、つまりボスと2人きりとなる。

 

「まったく、アウラは相変わらずだな」

「根は凄い良い人なんですけどね」

 

 なんだかんだ言いつつアウラさんのことは心から信頼している。

 

(出会った当初は、かなり冷めきった関係だったけど……)

 

 色々あって今ではとても信頼できる間柄に進展。

 恥ずかしくて口には出せないが、正直最高のパートナーだと自分では思っている。

 

「さてクレス、お前が災厄の数字(ナンバーズ)になって1年以上が経った。だいぶここには慣れただろう?」

「そうですね。まあ変な人ばかりですけど……」

 

 1年近くタッグを組んでいるアウラさんはともかくとして。

 他の数字(ナンバーズ)は任務や私用の関係でそう会うことはない。

 

「皆さんのコミュニケーション能力が異常に高いお陰で、不思議なほど早く打ち解けられましたよ」

 

 メンツ的にはオカマとかロリババアとか戦闘狂とか。

 濃厚キャラのオンパレードだが。

 

「ふむ。慣れたなら良し。もう心配する必要はなさそうだな」

 

 俺をこの組織に勧誘したのはボスだ。

 誘った当人としては気がかりなところもあったのだろう。

 安堵させられたなら何より。

 そしてこの話にひと段落、途端に緩まっていたボスの表情が変わる。

 ——これ、真剣な時のやつだ。 

 

「帰還早々で悪いんだがな、とある(、、、)依頼(、、)がきている」

「依頼、ですか?」

 

 普段だったら任務後には休暇が与えられる。

 ただ俺にこの話をする以上、もう新たな任務をやって欲しいってことだろう。

 緊急の案件なのか?

 

「もうすぐ春が来る」

「そ、そうですね」

 

 神妙な表情のわりに当然のことを仰る。

 頷くぐらいしかリアクションできないぞ。

 

「実はな、ハーレンス王国がこの春に勇者召喚(、、、、)をするらしい」

「勇者召喚っ!?」

 

 季節の(くだり)から一気に重いのを持ってくる。

 思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。

 

「……す、すいません。普通にビックリしたので」

 

 ハーレンス王国とはユグレー大陸を牛耳(ぎゅうじ)る四強国の一角。

 帝国に次ぐ実力主義国家で、領土も広いし経済も安定している国だ。

 

「ただの噂じゃないんですか?」

「それが本当らしい。私の方でも裏は取れている」

 

 今まで勇者召喚を試みた国や機関は星の数ある。

 

(ただ成功したことは一度も、いや一度だけあるか——)

 

 唯一の成功例は千年ほど前。

 既に滅んではいるがとある国が成し遂げたとされる。

 でもそれはきっと奇跡だったのだろう。

 

「最近は魔王たちが活発に動く。王国の連中はそれに恐れをなしてな」

「それで勇者召喚に至ったと……」

「実際問題、王国は少し前に魔族の襲撃も受けたそうだ」

 

 近頃は魔王の何人かがよく動いている。

 危険は直近まで迫っているらしい。

 

「警戒するのは当然ですけど、それでも勇者召喚にまで踏み切るとは……」

「もちろん王国もアレが人類史で1度しか成功していない、最難関の召喚術だと知っている」

「ただその上で挑む、そういうことですよね?」

 

 自分的には儀式に使う魔道具や人員を、防衛に()てた方が有効だと考える。

 しかしボスの口振りから察するに、王国には勝算があるらしい。

 

「これまでだったら無視していた。ただハーレンス王国の姫がかなり特殊だ」

「特殊?」

「神からの啓示(けいじ)を受けている、召喚に特化した異能(、、)持ち(、、)だ」

「異能力者……」

 

 魔力保有量や適性属性に左右はされるものの、魔法はこの世界にいる誰もが使える。

 ただ魔法とは別で『異能』というものも存在する。

 それは限られた人しか使えない力。

 

(割合的には百万人に1人いるとかいないとか——)

 

 その多くが強力無比。

 いつの時代も異能所有者が世界を動かすとされる。

 

「仕入れた情報を(かんが)みても、勇者召喚はほぼ成功すると言っても過言《かごん》ではない」

「なるほど……」

「だいたいの背景は分かったな?」

「はい」

「クレスは理解が早くて助かるよ。なら仕事の説明に移ろうか——」

 

 …………ゴクリ。

 本題を話すというボス、今度は満面の笑みを浮かべている。

 召喚に携わる姫の暗殺か?

 それとも勇者自体の暗殺か?

 固唾を一飲み。おそらく人並みの仕事はくれそうにない。

 

「そこで! クレスにやって欲しい任務は――」

 

 ボスは一拍おいて、高らかに告げる。

 

「――ズバリ! 『監視』だ!」

 

 ……

 …………はい?

 

「誰かを暗殺するんじゃ……」

「監視だ!」 

「えーっと……」

 

 予想の斜め上どころか真上を抜いてくる。

 返す言葉が見つからない。

 

「勇者は召喚された後、スキルアップのために王国の魔法学園に通うらしい」

「ま、まさか……」

 

 唖然とするこちらに、ボスは今日一の笑顔で告げる。

 

「クレス、お前には魔法学園(、、、、)に入学(、、、)して(、、)勇者を監視しもらう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。