この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第19話:再会

「——あの時はありがとうございました」

「——いえいえ」

 

 魔道具を何とか隠しつつ、そう広くないベンチに2人で腰かける。

 

「本当に感謝してます。助けてもらえなかったら、きっと実技試験には間に合わなかったですから」

 

 建前ではなく、本気でそう思っているからこそ。

 

(点数が足りなくて落ちるのもヤバイが、そもそも受けられませんでしたなんて……)

 

 (セローナ)さんに知られたらぶっ殺されてた。

 

「だからすいません。あの時はロクなお礼も言えずに……」

「まぁ急いでましたから。仕方ないですよ」

 

 こ、この人は女神か……?

 神々しいオーラ、聖人と言っても過言ではない包容力を感じる。

 

「それに私も、あの時結構楽しかったんです」

 

 クスクスという効果音そのまま。

 ただ卑下するようなものはなく華やかな笑い方だ。

 

「それは……俺の切羽詰まっている様子が……ってことですか?」

「いや! そんなに腹黒くないですよ私!」

「じゃ、じゃあ……」

「そういう事じゃなくてですね——」

 

 口元を抑えながらニコリと笑顔をくれる。

 ま、眩しい。

 

「貴方はなにぶん見た目がクール? ピシッとしてるじゃないですか」

「そ、そうですかね?」

「ええ。そんな人がアタフタと説明していて、なんだか可愛いなーと思ったんです」

「可愛い……」

「手足のジェスチャーもバタバタと混ぜたところが、特に初々しくて——」

 

 話を聞くに彼女には弟がいるらしい。

 それが俺と被ったってこと……?

 

「でも一番面白かったのは、私に対しためらいが無かったことですかね」

「は、はあ……」

「男性とあんなに砕けた会話、何年ぶりだったでしょうか——」

 

 遠くを見ながら彼女はそう言った。

 

(あの時はテンパってて、もはや何を話したか覚えてない……)

 

 砕けた会話とか言われても、何のことかサッパリ。

 ただただ普通に(、、、)喋っただけのような気がする。

 

「あ、私は一応貴族なので……」

「っそうなんですか!?」

「ええ。ですからどうしても周りから距離を取られるんです」

 

 あの時は急いでいて盲目、彼女の素性なぞ考えなかったが……

 この溢れ出る高貴なオーラ、確かにこの人が平民だったら不自然過ぎる。

 

「だから砕けた会話が……」

「同世代であの距離感のお喋り。今してくれるのは片手で数えられるくらいですよ」

「へ、へー……」

 

 俺は受験勉強に手間取り、事前調査がオザナリに。

 王族一家や、有名貴族の当主陣は調べたが——

 

(その子息子女にまで調査は間に合わなかった) 

 

 この人を一目で貴族と判断できなかった自分を戒(いまし)める。

 

「嬉しかったです。まさか『そこの女! 道案内をしろ!』なんて言われた時は……」

「え!? 俺そんな失礼な言い方しました!?」

「うふふ。小粋(こいき)なジョークです。だいぶ誇張しました」

「じょ、ジョーク……」

「だけどエセ敬語だった事は高ポイント。下手(したて)にでなかった事も素晴らしかったです」

「……そ、それは誉められてるんですかね……?」

 

 もしかしてこの人、少し変わってる?

 だがアウラさんみたいにぶっ飛んでいるわけじゃない。

 言うならば、平民に憧れるオテンバお嬢様みたいな……

 

「今更ですが銀髪銀眼とは珍しい容姿、他大陸の出身で?」

「ヘルシン大陸です」

「ヘルシン……随分と遠くから来られたんですね」

 

 この目立つ容姿は出自のせいと説明する。

 数少ない異能所持者とバレれば大問題だからな。

 

「目立つ容姿ですし、入学式では一目で見つかると思っていたんですが……」

「入学式?」

「私は生徒会役員なので壇上に上がったんです。その時に探したんですが見つからなくて」

「ああ……」

「またお話しをしたい! その一心で奮闘したんですが……」

「それはどうも……でも——」

 

 この人はどうやら生徒会の役員、つまりエリート。

 そんな彼女でも見つからなかった理由は明白。

 

「俺、入学式寝坊したんですよ」

「…………寝坊?」

「はい」

「……なるほど。道理で見つからないわけです」

「むしろコッチから貴方を探すべきでした。ちゃんとお礼を言わなきゃいけなかったのに」

「仕方ないです。1年生は特に忙しいですから」

 

 そうか、この人は先輩だったな。

 たぶん2年生? いや、雰囲気からして3年生な気がする。

 

「あ、だけど遅刻はいけませんよ?」

「っう、反省してます……」

 

 仰る通りでございます。

 

「じゃあ先輩は俺を探してここに来た、ってことですか……?」

「それは違います。本当にたまたまです」

「偶然……」

「私は1人になりたくて、時折この場所に来るんですよ」

 

 どうやら俺の位置を把握していたわけじゃないらしい。

 それでいて出会う、この人とは妙に縁があるのかも。

 

「学食や教室だと、皆さんが近づいて来てゆっくり食事もできないので」

 

 彼女は苦笑い。

 

「あー……」

 

 俺もだいたい察す。

 マイさんたちと同じパターンね。

 となるとこの人、貴族としてはランクが高い方なのか……?

 

「1人になりたい時はここで」

「校舎から結構距離もありますしね」

「そうです。だから無人です! 静かな所は最高です!」

「な、なるほど」

 

 反応からするに、よっぽど貴族に寄って来られるんだろう。

 

「こんなこと言っては怒られるかもしれませんが、やっぱり普通の人に憧れますね……」

「平民にってことですか?」

「ええ。食事ぐらい、お友達とゆっくり教室で取りたいです」

 

 平民に憧れるお嬢様。

 その願いは切実だ。

 

「だからやっぱり、貴方はとても興味深い」

「そうですか?」

「だって私に臆さないんですもん」

「……いや別に、何か臆すようなことあるんですか?」

 

 割と楽しく会話できていたと思う。

 しかし彼女がふとした拍子に言ったこと。

 その言葉を深く理解できずに素で応えてしまう。

 

「「え?」」

 

 先輩がパチクリとまばたきを。

 口もポカーっと半開きになっている。

 

「な、何かマズイことを言いました……?」

 

 貴族相手とはいえ、臆すほどの敬意を持っているわけじゃない。

 まさか王族や公爵家の人間ではあるまいし。

 それでも失礼を思わせる口調ではなかったはずだ。

 

「もしかしてですけど。私のこと、ご存知ないんですか……?」

「知らないです」

 

 振ってきたのは、言葉使いではなく自分自身について。

 

(そりゃそうだよ。だって名前すら聞いてないからな)

 

 知る知らない以前の問題である。

 ただそんな無粋な事を今言うのも——

 

「不快にさせたのならスイマセン。自分この国に来たばかりなので……」

「た、確かにそうでしたね!」

「田舎者だっていうのを言い訳にするのもあれですけど、無知で申し訳ないです」

 

 この人は貴族、フランクな会話を所望しているが限度もある。

 

(無礼者と呼ばれ、要らん厄介に巻き込まれるのは御免だ)

 

 このまま田舎者として押し切るとしよう。

 

「自意識過剰だったかもしれません。そこそこ有名な家の生まれというだけなのに……」

 

 彼女は肩を落とし落ち込む。

 

「私のこういう所がダメなんでしょうね……」

「いやいや! コッチが知らなすぎるだけなんで!」

 

 それに生徒会役員として行事にも出ている。

 俺が入学式に出ていれば本来は既知であった。

 

「あの俺、じゃなくて僕の口調なんですけど……」

「それはこのままでお願いします。一人称も普段通りで」

「……分かりました」

 

 現状維持を希望、ここは従っておこう。

 

(しかし貴族かつ生徒会役員とは、エリート中のエリートであるのは間違いない)

 

 やはりこの人、予想以上に大物——?

「でも、貴方はとても良い人ですね」

「?」

「だって私を貴族と知った上でも、こうして気兼ねない会話をしてくれる」

 

 堅く喋ったら嫌な顔されるの目に見えているからな!

 今更態度を変えたらどうなるか……

 なるべく希望に沿った対応を心がける。

 

「でも人気や支持があるのは仕方ないですって。貴族の前に生徒会ですもん」

「そうなんですけどね……ただ家柄で選ばれたようなものですし……」

 

 自主的に生徒会役員になって『人気者はツライわー』って言ってるかと。

 どうやらそういう訳でもないらしい。

 

「でも成ったからには、やはり責任は果たさないといけません」

 

 遠くを見据える。

 どこの国でも、若くして苦労を抱える人間は結構いるんだな……

 そういう事が、最近になって分かってきた。

 

「ただ生徒会や貴族という事抜きでも、こんな美人を放っておく方がおかしいですけどね」

「あらお上手。リップサービスでも嬉しいです」

 

 年上相手なので思いのほか口が回る。

 

「いや本気でそう思ってますよ」

「え……そ、そうですか、」

 

 直球の感想、ちょっと驚いたみたいだ。

 でも謙遜を重ねるのも考えもの。

 

「まあ確かに、私は男性から嫌というほど迫られてきました——」

 

 表情を少し曇らせる。

 垣間見える苦労、貴族間の付き合いはさぞ大変だろう。

 

「ご苦労様です」

 

 俺が掛けられる言葉はそれぐらい。

 

「……っふ、そんな風に労われたのは初めてですよ」

 

 鼻で笑ってくれる。

 でも彼女が求めるのは、こういう軽い労いをしてくれる相手だろう。

 

「もしも貴方だったら——」

 

 すると先輩は何かをボソッと呟く。

 

(小声のせいで聞こえない。もしもあな……あと何て言ったんだ?)

 

 気になる。でも聞き返すのは……

 

(いやそれよりも! まずは名前は尋ねておくべきだ!)

 

 ここまで面識を持ってしまった以上、変に無視はできない。

 

「遅くなりましたけど俺はクレス、クレス・アリシアです」

 

 名乗るなら自分から、これ常識。

 

「あ、そう言えばまだ自己紹介していませんでした」

「今更感はありますけどね……」

 

 ご丁寧にどうもと返され、相手のターンを待つ。

 

(いつもだったら名乗らず逃げたい場面。だけど人間ってのは謎があれば調べたくなるものなんだ)

 

 変に隠せば詮索(せんさく)意欲を持たせてしまう。

 ここはあえて堂々と名乗っておくのだ。

 そしてもうこの場限りの関係に、そういう作戦だ。

 

「では改めて」

 

 彼女の艶やかな金髪が風に揺れ、身体はベンチから立ち上がる。

 俺の素人な挨拶とは違い、貴族は相応の挨拶の仕方があるようだ。

 

「……よっと」

 

 俺も座りっぱなしじゃ感じ悪い、遅れて起立する。

 

(ま、どうせ姓を聞いても分からないけどな。それこそ王族、四大公爵家でもない限りは)

 

 この国の王族と、それに追随する公爵四家の家名ぐらいは知っている。

 

(まーさか最上位貴族でしたなんてオチはないだろ。たぶん下位か中位の貴族だ)

 

 変に気負う必要性もない。目前にて相対。

 彼女は微笑を浮かべ、その名を告げた。

 

「——私は王立魔法学園3年、クラリス・ランドデルクです」

 

 ん?

 んん?

 んんんんんんんん?

 

「学園では生徒会長も務めています」

 

 両手がスカートの端を軽く上げ美しい一礼。

 伴うは女神の如き微笑み。

 ただそこには俺にとって最悪のオチが添えられている。

 

「ランドデルク……?」

「はい」

「それって四大公爵家の……」

「そのランドデルクで間違いありません。ちなみに私は長女です」

 

 お、おお、俺は今まで公爵令嬢と駄弁(だべ)ってた!?

 こんなことがあっていいのか……?

 

「これからよろしくお願いしますね、クレス君」 

 

 なんと右手を差し出すこの人は公爵家のご令嬢である。

 王族の次に偉い貴族の娘さんだ。

 

「し、しかも生徒会長……?」

「はい。会長職には2年生の時から就いています」

 

 つまりはこのお嬢様は学園のボスでもある。

 

「どうかしました?」

「イ、イエ、ヨロシクオネガイシマス……」

 

 差し出された手を震えながら握り返す。

 

「クレス君? なんで泣いてるんですか?」

「いや、こんな美人な先輩と仲良くなれて俺は幸せ者だなと……」

「も、もう! だからって泣かなくても。あんまり言うと本気にしちゃいますよ?」

「アハハハ……」

 

 もう自分が何を言ってるかも分かない。

 緊張! 焦燥! 驚愕!

 またヤバい人と関係を持ってしまった!

 そういう感情が脳裏に羅列。

 ただただ自分の運命、巡り合わせに打ちひしがれていた。

  

 神様はどうして俺にこんな出会いを寄こしたのか。

 彼女とは違い、俺は終始引きつった笑みを浮かべていた。

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