この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
——とある公爵嬢と出会い、また監視を続けて数日。
遂に林間合宿当日、準備等していたら今日まであっという間だった。
「んー良い天気だぜー」
「思いのほか早く着いたね」
「予定じゃ3時だったか、まさか昼に着くとは……」
生徒150人に加え教師や護衛の人たち、文字通りの大移動だった。
ただ移動はスムーズに進行、こうして早い時間に到着した。
「スミス、サボってないで設営手伝え」
「ホーイ」
現在テントを設置中。
「今回の拠点、案の定しっかり整備されてるね」
「ああ。木々は伐採済み、
「ま、これでも学園の行事だしな」
安全面を考えても、森の中で適当に野営をする訳にはいかないんだろう。
「ふぅ……」
「ところでクレス、お前なんか手際良すぎじゃね?」
「……これでも少し前まで冒険者やってたから」
「まじで!? 初耳だぞ!?」
「十代前半で冒険か、憧れるね」
俺たち4人は設営を担当、大体のことは終わったかな。
「幕営はもう何百何千とやってきた。これぐらいならすぐできる」
「……スペック高いなおい。普段のポンコツっぷりが嘘みたいだ」
「皆そう言うけど、俺はポンコツじゃないぞ?」
「でもソコが良いって女子が多いよねー」
スルーか……
どうやらケイネルたちもポンコツ説を信じているらしい。
「わけわかんねえな。いっそオレもポンコツになればモテモテになったり?」
「スミスは無理だよ……」
仕事が早すぎるのは、冒険者時代があったから、と言い訳しておく。
(これなら技術だけでなく戦闘力があるのも納得させられる。完璧な言い訳だ)
あ、嘘じゃないぞ。
本当に冒険者をやっている時はあったんだ。
「——ねえねえ、これはどこに持っていけばいい?」
「——それは凛花の所に。あ、残りは私が持って行くよ」
「——ハルカゼさーん、なんかデニーロ先生が呼んでるー」
「——あぁ……今ちょっと手が離せないから、代わりに行ってもらっていい?」
「——りょうかーい」
マイさんはまさに司令塔、皆の中心に立ち準備やら仕事を進めていく。
周りも周りで彼女に大きく頼る形。
「ハルカゼさんはよく働くなぁ」
「そりゃ勇者様だもん」
「彼女自体にカリスマ性も感じられる。上に立つ気質があるんだろう」
「だなー。それに本人も張り切ってやってる、なんだか健気で自然と手伝いたくなってくるぜ」
スミスたちはマイさんの手腕、働きぶりを賞賛する。
ただその根底には『勇者だから』という考えが存在、彼女が先頭に立つのは当たり前と言わんばかり。
「ハルカゼさんは勇者の鏡だね」
「ああ。彼女が勇者に選ばれて良かった」
「ホントだよ。ケンザキみたいな野郎もいる……ってどうしたクレス? ずっとダンマリきめてさ」
3人だけの会話、無言だった俺にスミスが大丈夫かと聞いてくる。
「……すまん、少しぼーっとしてた」
「始まったばかりだぜ。しっかりしてくれよ」
「……ああ」
俺は……マイさんの頑張りを素直に誉めることが出来なかった。
確かに笑顔でハキハキと動いている。
だがその姿は、どうにも無理をしているように見えてしまって——
「——ハルカゼさん、食料はどうしたらいい?」
「——それはテントの中にまだ置きっぱなしで、当分使わないし」
「——分かった。皆にもそう伝えておくわ」
こんな行事だ、いつもだったら指示役はケンザキが買って出そう。
「こういう時こそアイツがリーダーシップを発揮する場面だろうに……」
ただ奴は辺りの警戒……と言う名の探検に出かけている、ようはサボりだ。
「よっしゃ、俺たちもハルカゼさんを手伝いに行くぞ!」
「うん。休憩するのはもう少し後だね」
こちらも一段落、彼女の様子を見て俺たちも手伝いに繰り出す。
「ハルカゼさん! 設営終わったんで手伝いにきました!」
「アルビン君」
「さあ! 勇者様からのご命令、どんなことでもやりますよ!」
「……あはは、いま丁度ほとんどが終わったんだよね」
「なんですとぉ!?」
残念。彼女の運びは予想以上に事を早く終わらせたみたいだ。
「何か! 何か仕事はないですか!」
「うーん……強いて言えば馬車の中にある装備を運ん……」
「分っかりました! 行くぞお前ら!」
「ちょ、うわ!」「そ、そんなに急がなくても」
説明半ばでスミスは覚醒。
両隣にいたウィリアムとケイネルの腕を掴んで馬車の方へと駆けて行った。
「ま、まだ全部伝えてないのに……」
俺も追いかけようにも既にスミスたちの姿はない。
凄まじい速さ、それにはマイさんも困惑だ。
「でもこれで大体の事は終わったかな……」
「お疲れ様。良い指示の出し方だった」
「えへへ。ありがとう」
マイさんは俺の労いに照れくさそうに綻ぶ。
ただ——
「でも頑張りすぎじゃない? 今日に限っては特に」
普段の生活はもう少しマイルド、ここまで自分に発破を掛けるのはなぜ?
「そ、そうかな……」
「正直、無理してるように見え——」
「ぜ、全然全然! 私は大丈夫だよ!」
言い切る前に遮られる、被せるようにして言葉が断たれた。
「ただもし普段より頑張れてるなら理由はきっとアレ! いつも皆にお世話になってるから、その分こういう行事で恩返ししよう……みたいな気持ちが自然と出たんだよ!」
「マイさ——」
「あ、あと! いっぱい期待されてるからさ……そ、それに応えたくて! 応えなくちゃって言う想いもあるから!」
上手く言葉がまとまらず、アハハと少し気まずそうに声を上げる。
会話というより、この一連はまるで自分に言い聞かせるようで——
「と、ともかく私はいつも通り、心配は杞憂だよ」
「でも……」
「これでも私は勇者だし、多少の無理も余裕余裕」
軽快な口調、心身ともに問題はないと断言する。
「あんまり慣れない環境ではあるけど、周りが結構助けてくれるのも大きいね」
親切で優しい人が多いと付け足す。
「皆も仲良くしてくれるし、最近じゃコッチの生活の方が楽しいかなー……なんて」
————は?
「ここでの生活が、
「うん!」
本当にそう思っているかのよう、満面の笑みで答える。
だがそれは——嘘だ。
俺はマイさんの素顔を知っている。あれだけ重い焦燥がもう消えたと?
そんなわけない。
「じゃあ私は一応皆の様子を見てくるから。アルビン君たちが来たらお礼言っておいて」
「待っ……」
「また後でね!」
この場から逃げるようにして去っていく。
ただ一人、この場に残される自分。
「本当に独りなのは、アンタだよ……」
王城潜入時に垣間見たあの光景……
あんなに泣いてたじゃないか。家族を求めてたじゃないか。
普通になることを求めていたじゃないか。
元の世界に戻りたい、切に願っていたんじゃないのか?
加えて俺も同じような道を通って来た、その傷は容易に治らないと知っている。
「とっくに気付いてんだよっ……」
去っていく彼女の後姿は孤独だった頃の自分と重なる。
むしろ良く見せようと取り繕っている時点で、俺の時より痛々しい。
勇者だから余裕? 苦しさも感じない?
どんな理屈だ。勇者以前に同じ人間じゃんか。
辛くないわけ、ないんだよ……
これは自己投影からの自己嫌悪、あの時の苦しさを思い出してしまう。
「……くそ」
胸の中心が熱くなる。両拳を堅く握る。
どうしようもないこの気持ち、ただ吐いたところで意味は——……