この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第21話:太陽

「——ったく、皆ハシャギすぎだ」

 

 初日は幕営(ばくえい)と炊事をするだけ。

 

「しかも慣れるって事で夕飯は保存食が中心だったし……」

 

 炊事っていう炊事はしてない。

 

「後はスミスたちと駄弁って終わり、そう思ってたのに——」

 

 ただ問題が発生。なにせ全クラス合同で行う行事だ。

 普段関われないだけあって、勇者たちには他クラスから沢山の人が群がることとなる。

 

「勇者に人が集まるのは分かる。でも何で俺の所にも人が集まってくるんだよ……」

 

 予想外の事態、俺の所にまで他クラスから人が押し掛けてきたのだ。

 

「しかも女性率が異常に高いって言う……」

 

 あまりの勢いに俺もビビった。頼みのスミスたちも『頑張れ』と一言残し撤退。

 最近人付き合いレベルが上昇中とはいえ、今の俺に(さば)ききれる量じゃなかった。

 

「ここは平和でいいなぁ」

 

 そんな女子の魔界から俺はなんとか脱出。

 地に腰を下ろし一息、夜空をゆっくり見上げられる幸せよ。

 こうして人気(ひとけ)のない場所に移動することができたが——

 

「…………見られてる(、、、、、)?」

 

 生徒からの視線ではない。もっとディープ、もっとダーク。

 

「まさか魔族か——!?」

 

 黄昏の最中、どこからか送られる不可思議な視線を感じ取った。

 寝そべっていた身体を急いで起こす。これは『敵』の可能性がある。

 

「何者だ……」 

 

 身体が自然と戦闘モードに移行、目の前に広がる暗き森を注視する。

 魔力を高め、警戒を強めるのだ。

 

「…………」

 

 俺のことを誰かが見ているは確か。しかし普通の人間ではない。ただ魔族らしくもない。

 

「敵意は感じないけど——」

 

 いくら睨んでも何らアクションは来ず。まさか俺の勘違いってこともない。

 

「む、視線が消えた……?」

 

 どうやら俺の逆探知に気付いたらしい、向けられた謎の視線は途端に消えてしまう。

 

「相手の位置が分からなかったが、かなりの手練れ」

 改めて確認、自分を含め周囲に異常は見られない。

拠点(キャンプ)の方は未だにお祭り騒ぎか……」

 

 この場所にいてなお、生徒たちのガヤガヤとした喧噪(けんそう)が聞こえる。

 

「悲鳴はない。血の臭いもしない」

 

 勇者に襲撃があったわけではないようだ。

 

「一体なんなんだ……」

 

 闇に問い掛けたところで答えは返ってこない。

 ただ監視の途中、一応勇者の所へ行くべきなんだろうが——

 

「でも勇者にもあんな取り巻きが付いているんじゃな……」

 

 彼らは今多くの同級生に囲まれている。もっと言えば護衛の騎士たちにも。

 

「勇者たちがもし襲撃を受けていたなら、もっと空気がざわつくはず」

 

 結局のところ、あんな人ごみの中では大したことはできないのだ。

 

「加えて俺にも人が集まる始末、勇者どころじゃ……」

「勇者がどうしたの?」

「それが人に囲まれすぎて近づけな……ってマイさん!?」

 

 飛び起きる心臓。渦中の勇者が現れた。

 

「な、なんでこんな所に……」 

 

 視線の逆探に集中しすぎてマイさんの存在に気付けなかった。

 

「こーんばんは。ビックリした?」

 

 警戒を怠たったせい、ここまでの接近を許してしま。

 なんて油断、先輩方に知られたらきっと笑われる……

 

「ん? なんで溜息つくの?」

「俺もまだまだ未熟者だな、と」

「ふふ。何それ」

 

 マイさんにも笑われるが、自分の落ち度を目の当たりに。

 ボスに言われた通り、俺は色々甘いってことだ——

 

「それでマイさんは……」

 

 なんでここに居る?

 

「さっきね、クレス君が出て行く姿が見えたの」

「それで付いてきたと?」

「うん。もしかしてマズかった?」

「いや特に問題はないけど……」

 

 俺がここに来た理由、それは大したことじゃない。

 

「あそこにいたら沢山の人に囲まれるんで、ここに逃げて来たってとこかな」

 

 ようは人付き合いが怠かったのである。

 

「なら私もだいたい一緒」

「?」

「人に囲まれに囲まれて、皆が好意的なのは分かってるんだけど、ちょっと億劫になっちゃったんだ」

「あの数じゃな……やっぱ疲れるものは疲れる」

「まあね……」

 

 口で明確には言わないものの、マイさんも雰囲気で肯定を示してくれる。

 

「……立ってるのもなんだし座ろうか」

「うん。隣いい?」

 

 どうぞと一言。真横にマイさんが座る。

 身体と身体の距離は拳一つぐらい、揺らげば肩が微かに当たる距離間だ。

 

「良い場所だね」

「とりあえず変態(スミス)は来ないから安心していい」

「アルビン君、悪い人じゃないって事は分かってるんだけどさ……」

 

 一応は理解はされているようだ。良かったなスミス。

 それからは一言、二言と交わしていく。

 

「今日は慣れない事したし。なんだかんだと、少し疲れちゃったな」

「本当に少しだけ?」

「うん。これでも騎士の人に毎日鍛えられてるから。スタミナはあります!」

 

 人の良さそうな表情、エッヘンと胸を張る。

 

「というかクレス君、私のこと随分気にしてくれるよね。準備の時もそうだったけど」

「……まぁ……」

「何度も言うけど私は大丈夫。むしろ皆の期待に応えるためにやる気満々なぐらい!」

 

 その台詞とその表情、普通だったらコロッと騙される。

 俺も王城での一件がなければ見抜けなかっただろう。

 彼女は監視対象。深く関わるべきでないと理解はしている。

 それでも、そうだとしても——

 

「俺は……マイさんが心配だよ」

 

 悩んだ末、比較的ストレートに言葉を伝える。

 

「心配?」

「ああ。今のマイさんは、昔の俺とよく似てるから」

「へえ、どんな子だったの?」

 

 何事もない、世間話のように尋ねてくる彼女だが——

 

「一言で言えば『孤独』だった」

 

 家族や友達は天災で失ったと告げる。

 

「……そ、そう、重い話だね。でも今の私には良くしてくれる人が沢山いて……」

「だけどその人たちを心から信用することはできない」

「そ、そんなことはっ……」

 

 マイさんも自分で言ってたろ『なんで私なの?』って。

 

「無理やり召喚されて、すぐ皆さんこと大好きですなんて言うのは普通の神経じゃない」

「……っ」

 

 俺は只の農民から災厄へ。彼女は只の学生から勇者へ。

 

「マイさん、この世界は本当に楽しい——?」

 

 この質問は残酷なものかもしれない。

 だけど今のままじゃきっと押しつぶされる。そのうちポキッと折れるんだ。 

 これは監視者だからこそのエゴかもしれない。

 

 ——でも俺は、もう人が潰れるのは見たくないんだ。

 

 だからその前に一度……

 

「た、楽しいよ! 充実してる!」

「嘘だよ」

「ほ、本当に、楽しい!」

 

 あえて決めつけたような口調、案の定マイさんは認めない。

 

「魔法とか、異能とか、元の世界にない色々なものがある!」

「……」

「それで、そういうの修得して……期待に応えて……、応えてさ……、」

「……それが?」 

 

 問う。それが本当にやりたいことなのか。

 

「っ異能や魔法が上手く発動すると誉めてくれるの! 立派な勇者だって言ってくれる! 私が頑張ればこの国の人たちは喜ぶんだよ! 我慢して弱音を吐かなければ進むの! 弱い勇者なんて誰も求めてない!」

「……」

「皆がね、笑ってくれる。凄い。流石だって。それが……それ、が……」

 

 声のトーンが段々と落ちてく。

 

「……今回だって私たちは試されてる。率先して動かきゃ、期待に応えなきゃ、もしガッカリでもされたら私に存在価値は……」

 

 その声色は最終的にはとてもか細いものに。

 伏せったせいで顔は見えない。だけど彼女が震えていることは分かった。

 

「……私は怖いよ。少しでも気を抜けば、期待に押し潰されるんじゃないかって。一度否定されたら、もう私の居場所はなくなるんじゃないかって……」 

 

 掠れ掠れの声でも、タガが外れたみたいに溢れ出る感情。

 

「……もう元の世界に帰りたい。ずっと、ずーっとそう思ってる」

 

 ついに言い切った。本当の想いを口に出す。

 

(かつての俺も、同じことを思ってた)

 

 天災が襲う前、全てを失う前の世界が戻ってきて欲しいと願って止まなかったよ。

 

「マイさん。人の価値ってどうやって決まると思う?」

「価値……?」

「言うなれば自分がどれぐらいの人間なのか」 

「だからそれは、皆からの期待や評価で……」

「いや、それはたぶん違う」

 

 そうじゃないんだ。もっとシンプル。

 

「——自分の価値は、自分が決めるんだ」

 

 あの人に出会って、俺は少しかもしれないが変わった。

 

「自分に価値があると思ったらあるし、無いと思ったら無い」

 

 そう、結局は自分がどう捉えるか次第——

 

「俺の価値は確か。そう思うと自然と自信も持てたし、やりたい事も見つかった。この世界でも居場所を見つけられた」

 

 現実から逃げることはなくなった。

 今は恩返しをしようと決心、こうして学生になってまでやってるよ。

 

「……でも……私はそんなすぐ割り切れない、」

 

 自分は意思が弱いと。人の視線も無視できないと言う。

 もう少し、もうあと一押し——

 

「自分で価値を決めると言った手前、こう言っちゃ元も子もないんだけどさ……」

 

 先人としての手向(たむ)け、受け取ってくれ。

 

「俺はね、マイさんを認めてるよ」

「………え、」

「異能や魔法の素質、勇者って身分も抜きに。俺はマイ・ハルカゼが凄い人間だって認めてるんだ」

 

 平和な星から来た少女、ここまで孤独を抱え込めたのは『心の強さ』があったからこそ。

 

「覚えておいて欲しい。マイさんは1人じゃない。少なくとも俺はこうして傍にいる」

 

 異能を持ったことだって必ず意味がある、神様からの贔屓なんかじゃないんだ。

 

「マイさんの価値は確かだって俺がまず保証する。皆が離れて行ってもずっと隣にいる」

 

 言えないけど災厄が認めるほどの勇者、これだけでまさに伝説級じゃんか。

 

「……どうして、クレス君はそんなに気にかけてくれるの?」

「え? いやどうしてって言われても……」

 

 ふと我に返る。柄にもなく真剣に喋りすぎた。

 

「そりゃマイさんに興味があるし……」

「私に興味?」

「そうだけど……あ、えーっと……」

 

 異能ではなく一個人に価値があると言った。それは事実。

 ただ表立って『監視任務』のターゲットだからとは言えない。

 ここは——

 

「俺は初めて出会ったあの時から、マイさんのことが異性としてずっと気になってる!」

 

 嘘はついてない。『マイさんを監視中』これを大きく言えば『異性が気になる』と

も言い換えることができるだろう。

 我ながら名案、どっちかつかずの完璧な言い訳だ!

 なにせ監視のためにわざわざ来たんだ。ずっと勇者のことばかり考えてるよ。

 

「ってマイさん?」

「……へ」

「なんか顔赤いけど大丈夫?」

 

 聞いた当初はポカーンとした表情、ただ尋ねてみると瞬間沸騰。

 

「て、照れるからさ。あんまり、見ないで……」

 

 ようやく顔が上がったと思ったら、また深く俯いてしまった。

 

「……今それはズルよ……」

「ズル?」

「う、ううん、なんでもない」

 

 何でもないというならそこまで。

 

「でもそっか、じゃあクレス君はずっと私を見ていてくれるんだね? 傍にいてくれるん……だよね?」

「ん、そう言う事になる」

 

 そりゃ監視中ですから、あと少なくとも3年は傍(そば)でウロチョロしてるよ。

 

「……なら、情けない姿をずっと晒すのは嫌だな」

 

 感情が右往左往、生きてる証拠だ。

 

「ずっとウジウジしてもいられない、か」

「まぁ元気な方がいいね。もっと熱く生きよう!」

「熱くって……なんかキャラ変わってない?」

 

 伏せっていた顔も上昇。

 いや待て熱く、か……良し!

 救う術はないない言ってたが、あの人の燃える言葉を今ここで——

 

「マイさん!」

 

 立ち上がる。そしてあの時と同じ、あの日に貰った言葉を。

 

「俺は、マイさんにとっての太陽になるよ!」

「……たい、よう?」

 

 手を取ったまま、刻まれたモノを歌うように。

 

「ああ。マイさんがナイーブに、暗くなるんだったら俺が照らすよ。何度隠れても、臆しても、暗くなっても、俺が必ず照らして外に連れ出す!」

 

 アウラさんの言葉そのまんまじゃない。

 ほぼ受け売りだけど、自分なりの想いやら立場やら色々籠めて。

 

 

「——とりあえず俺についてきなよ。今より楽しくなる事を保証する!」

 

 

 正直アウラさんほど豪胆な事は言えない。

 それでも手を差し伸べる。

 同じ境遇の奴が苦しんでたら、俺まで古傷を思い出すからな。

 しかもクラスメイトで監視相手、助けなきゃストレスでコッチもやられる。

 

「クレス君……」

「どうする? 俺の手を取る?」

 

 ここに来てようやく正面で相対。

 俺の銀眼と、彼女の青眼が交差する。そして彼女の答えは——

 

「はい……っ!」

 

 一拍置いて、俺の右手にしっかりと握る。そしてそのまま勢いで立ち上がらせる。

 喜んでいるだか泣きそうなんだか、良く分からん表情してるな。

 

(しかし今日でだいぶ仲は進展したぞ。このまま親友的ポジションにまで行ったり?)

 

 彼女にとって数少ない、信頼できる異性にはなっただろう。

 勇者と熱い『友情』を結ぶ。最終的には共にアウラさんを目指そう。

 

「……今日は、ありがと」

「ん?」

「元気づけてくれたんでしょ……?」

 

 そりゃ前々から実情は知ってましたとも。

 ただ今回のコミュニケーションはたまたま上手くいっただけ、ほんとんどお喋りとアウラさんのノリだよ。

 

「おっと、そろそろ帰らないと」

「あ、そうだね……」

 

 彼女はたぶん気付いてないだろうが、隠れて護衛騎士が付いて来ている。

 騎士がちょうどソワソワし始めた頃合い、タイミング的にはバッチリだ。

 

「クレス君、このまま手を繋いで戻らない?」

「え?」

「暗くて道がよく見えないからさ」

「え、普通に見え——」

「見えない!」

「あ、はい……」

 

 勢いに押され、なんだかんだとその手を握ったままに。

 

「クレス君の手、ちょっと冷たくない?」

「もともと体温が低い体質なんだ」

 

 嫌いな奴となんか手はずっと繋がない。

 どうやら本当に俺を『友人』と認めてくれたようだ。

 

「さ! 行こ!」

「きゅ、急に引っ張られると……!」

 

 せっかくの進展、今更この手を放すわけにはいかない。

 恥ずかしがる暇もなく強く握ると、彼女も応えてしっかり握り返してきた。

 

「異世界も、嫌なことばっかりじゃないね」

「それはどういう……」

「クレス君と出会えて良かったってこと!」

 

 俺の前を揚々と行く彼女、表情は覗えない。

 それでも声はハツラツ。その黒髪も青い瞳も輝きを取り戻す。

 あと、握った彼女の手はとても熱かった。

 

 まるで太陽に触れてから来たんじゃないかと、そう思うほどに——

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