この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「——ったく、皆ハシャギすぎだ」
初日は
「しかも慣れるって事で夕飯は保存食が中心だったし……」
炊事っていう炊事はしてない。
「後はスミスたちと駄弁って終わり、そう思ってたのに——」
ただ問題が発生。なにせ全クラス合同で行う行事だ。
普段関われないだけあって、勇者たちには他クラスから沢山の人が群がることとなる。
「勇者に人が集まるのは分かる。でも何で俺の所にも人が集まってくるんだよ……」
予想外の事態、俺の所にまで他クラスから人が押し掛けてきたのだ。
「しかも女性率が異常に高いって言う……」
あまりの勢いに俺もビビった。頼みのスミスたちも『頑張れ』と一言残し撤退。
最近人付き合いレベルが上昇中とはいえ、今の俺に
「ここは平和でいいなぁ」
そんな女子の魔界から俺はなんとか脱出。
地に腰を下ろし一息、夜空をゆっくり見上げられる幸せよ。
こうして人気(ひとけ)のない場所に移動することができたが——
「…………
生徒からの視線ではない。もっとディープ、もっとダーク。
「まさか魔族か——!?」
黄昏の最中、どこからか送られる不可思議な視線を感じ取った。
寝そべっていた身体を急いで起こす。これは『敵』の可能性がある。
「何者だ……」
身体が自然と戦闘モードに移行、目の前に広がる暗き森を注視する。
魔力を高め、警戒を強めるのだ。
「…………」
俺のことを誰かが見ているは確か。しかし普通の人間ではない。ただ魔族らしくもない。
「敵意は感じないけど——」
いくら睨んでも何らアクションは来ず。まさか俺の勘違いってこともない。
「む、視線が消えた……?」
どうやら俺の逆探知に気付いたらしい、向けられた謎の視線は途端に消えてしまう。
「相手の位置が分からなかったが、かなりの手練れ」
改めて確認、自分を含め周囲に異常は見られない。
「
この場所にいてなお、生徒たちのガヤガヤとした喧噪(けんそう)が聞こえる。
「悲鳴はない。血の臭いもしない」
勇者に襲撃があったわけではないようだ。
「一体なんなんだ……」
闇に問い掛けたところで答えは返ってこない。
ただ監視の途中、一応勇者の所へ行くべきなんだろうが——
「でも勇者にもあんな取り巻きが付いているんじゃな……」
彼らは今多くの同級生に囲まれている。もっと言えば護衛の騎士たちにも。
「勇者たちがもし襲撃を受けていたなら、もっと空気がざわつくはず」
結局のところ、あんな人ごみの中では大したことはできないのだ。
「加えて俺にも人が集まる始末、勇者どころじゃ……」
「勇者がどうしたの?」
「それが人に囲まれすぎて近づけな……ってマイさん!?」
飛び起きる心臓。渦中の勇者が現れた。
「な、なんでこんな所に……」
視線の逆探に集中しすぎてマイさんの存在に気付けなかった。
「こーんばんは。ビックリした?」
警戒を怠たったせい、ここまでの接近を許してしま。
なんて油断、先輩方に知られたらきっと笑われる……
「ん? なんで溜息つくの?」
「俺もまだまだ未熟者だな、と」
「ふふ。何それ」
マイさんにも笑われるが、自分の落ち度を目の当たりに。
ボスに言われた通り、俺は色々甘いってことだ——
「それでマイさんは……」
なんでここに居る?
「さっきね、クレス君が出て行く姿が見えたの」
「それで付いてきたと?」
「うん。もしかしてマズかった?」
「いや特に問題はないけど……」
俺がここに来た理由、それは大したことじゃない。
「あそこにいたら沢山の人に囲まれるんで、ここに逃げて来たってとこかな」
ようは人付き合いが怠かったのである。
「なら私もだいたい一緒」
「?」
「人に囲まれに囲まれて、皆が好意的なのは分かってるんだけど、ちょっと億劫になっちゃったんだ」
「あの数じゃな……やっぱ疲れるものは疲れる」
「まあね……」
口で明確には言わないものの、マイさんも雰囲気で肯定を示してくれる。
「……立ってるのもなんだし座ろうか」
「うん。隣いい?」
どうぞと一言。真横にマイさんが座る。
身体と身体の距離は拳一つぐらい、揺らげば肩が微かに当たる距離間だ。
「良い場所だね」
「とりあえず
「アルビン君、悪い人じゃないって事は分かってるんだけどさ……」
一応は理解はされているようだ。良かったなスミス。
それからは一言、二言と交わしていく。
「今日は慣れない事したし。なんだかんだと、少し疲れちゃったな」
「本当に少しだけ?」
「うん。これでも騎士の人に毎日鍛えられてるから。スタミナはあります!」
人の良さそうな表情、エッヘンと胸を張る。
「というかクレス君、私のこと随分気にしてくれるよね。準備の時もそうだったけど」
「……まぁ……」
「何度も言うけど私は大丈夫。むしろ皆の期待に応えるためにやる気満々なぐらい!」
その台詞とその表情、普通だったらコロッと騙される。
俺も王城での一件がなければ見抜けなかっただろう。
彼女は監視対象。深く関わるべきでないと理解はしている。
それでも、そうだとしても——
「俺は……マイさんが心配だよ」
悩んだ末、比較的ストレートに言葉を伝える。
「心配?」
「ああ。今のマイさんは、昔の俺とよく似てるから」
「へえ、どんな子だったの?」
何事もない、世間話のように尋ねてくる彼女だが——
「一言で言えば『孤独』だった」
家族や友達は天災で失ったと告げる。
「……そ、そう、重い話だね。でも今の私には良くしてくれる人が沢山いて……」
「だけどその人たちを心から信用することはできない」
「そ、そんなことはっ……」
マイさんも自分で言ってたろ『なんで私なの?』って。
「無理やり召喚されて、すぐ皆さんこと大好きですなんて言うのは普通の神経じゃない」
「……っ」
俺は只の農民から災厄へ。彼女は只の学生から勇者へ。
「マイさん、この世界は本当に楽しい——?」
この質問は残酷なものかもしれない。
だけど今のままじゃきっと押しつぶされる。そのうちポキッと折れるんだ。
これは監視者だからこそのエゴかもしれない。
——でも俺は、もう人が潰れるのは見たくないんだ。
だからその前に一度……
「た、楽しいよ! 充実してる!」
「嘘だよ」
「ほ、本当に、楽しい!」
あえて決めつけたような口調、案の定マイさんは認めない。
「魔法とか、異能とか、元の世界にない色々なものがある!」
「……」
「それで、そういうの修得して……期待に応えて……、応えてさ……、」
「……それが?」
問う。それが本当にやりたいことなのか。
「っ異能や魔法が上手く発動すると誉めてくれるの! 立派な勇者だって言ってくれる! 私が頑張ればこの国の人たちは喜ぶんだよ! 我慢して弱音を吐かなければ進むの! 弱い勇者なんて誰も求めてない!」
「……」
「皆がね、笑ってくれる。凄い。流石だって。それが……それ、が……」
声のトーンが段々と落ちてく。
「……今回だって私たちは試されてる。率先して動かきゃ、期待に応えなきゃ、もしガッカリでもされたら私に存在価値は……」
その声色は最終的にはとてもか細いものに。
伏せったせいで顔は見えない。だけど彼女が震えていることは分かった。
「……私は怖いよ。少しでも気を抜けば、期待に押し潰されるんじゃないかって。一度否定されたら、もう私の居場所はなくなるんじゃないかって……」
掠れ掠れの声でも、タガが外れたみたいに溢れ出る感情。
「……もう元の世界に帰りたい。ずっと、ずーっとそう思ってる」
ついに言い切った。本当の想いを口に出す。
(かつての俺も、同じことを思ってた)
天災が襲う前、全てを失う前の世界が戻ってきて欲しいと願って止まなかったよ。
「マイさん。人の価値ってどうやって決まると思う?」
「価値……?」
「言うなれば自分がどれぐらいの人間なのか」
「だからそれは、皆からの期待や評価で……」
「いや、それはたぶん違う」
そうじゃないんだ。もっとシンプル。
「——自分の価値は、自分が決めるんだ」
あの人に出会って、俺は少しかもしれないが変わった。
「自分に価値があると思ったらあるし、無いと思ったら無い」
そう、結局は自分がどう捉えるか次第——
「俺の価値は確か。そう思うと自然と自信も持てたし、やりたい事も見つかった。この世界でも居場所を見つけられた」
現実から逃げることはなくなった。
今は恩返しをしようと決心、こうして学生になってまでやってるよ。
「……でも……私はそんなすぐ割り切れない、」
自分は意思が弱いと。人の視線も無視できないと言う。
もう少し、もうあと一押し——
「自分で価値を決めると言った手前、こう言っちゃ元も子もないんだけどさ……」
先人としての
「俺はね、マイさんを認めてるよ」
「………え、」
「異能や魔法の素質、勇者って身分も抜きに。俺はマイ・ハルカゼが凄い人間だって認めてるんだ」
平和な星から来た少女、ここまで孤独を抱え込めたのは『心の強さ』があったからこそ。
「覚えておいて欲しい。マイさんは1人じゃない。少なくとも俺はこうして傍にいる」
異能を持ったことだって必ず意味がある、神様からの贔屓なんかじゃないんだ。
「マイさんの価値は確かだって俺がまず保証する。皆が離れて行ってもずっと隣にいる」
言えないけど災厄が認めるほどの勇者、これだけでまさに伝説級じゃんか。
「……どうして、クレス君はそんなに気にかけてくれるの?」
「え? いやどうしてって言われても……」
ふと我に返る。柄にもなく真剣に喋りすぎた。
「そりゃマイさんに興味があるし……」
「私に興味?」
「そうだけど……あ、えーっと……」
異能ではなく一個人に価値があると言った。それは事実。
ただ表立って『監視任務』のターゲットだからとは言えない。
ここは——
「俺は初めて出会ったあの時から、マイさんのことが異性としてずっと気になってる!」
嘘はついてない。『マイさんを監視中』これを大きく言えば『異性が気になる』と
も言い換えることができるだろう。
我ながら名案、どっちかつかずの完璧な言い訳だ!
なにせ監視のためにわざわざ来たんだ。ずっと勇者のことばかり考えてるよ。
「ってマイさん?」
「……へ」
「なんか顔赤いけど大丈夫?」
聞いた当初はポカーンとした表情、ただ尋ねてみると瞬間沸騰。
「て、照れるからさ。あんまり、見ないで……」
ようやく顔が上がったと思ったら、また深く俯いてしまった。
「……今それはズルよ……」
「ズル?」
「う、ううん、なんでもない」
何でもないというならそこまで。
「でもそっか、じゃあクレス君はずっと私を見ていてくれるんだね? 傍にいてくれるん……だよね?」
「ん、そう言う事になる」
そりゃ監視中ですから、あと少なくとも3年は傍(そば)でウロチョロしてるよ。
「……なら、情けない姿をずっと晒すのは嫌だな」
感情が右往左往、生きてる証拠だ。
「ずっとウジウジしてもいられない、か」
「まぁ元気な方がいいね。もっと熱く生きよう!」
「熱くって……なんかキャラ変わってない?」
伏せっていた顔も上昇。
いや待て熱く、か……良し!
救う術はないない言ってたが、あの人の燃える言葉を今ここで——
「マイさん!」
立ち上がる。そしてあの時と同じ、あの日に貰った言葉を。
「俺は、マイさんにとっての太陽になるよ!」
「……たい、よう?」
手を取ったまま、刻まれたモノを歌うように。
「ああ。マイさんがナイーブに、暗くなるんだったら俺が照らすよ。何度隠れても、臆しても、暗くなっても、俺が必ず照らして外に連れ出す!」
アウラさんの言葉そのまんまじゃない。
ほぼ受け売りだけど、自分なりの想いやら立場やら色々籠めて。
「——とりあえず俺についてきなよ。今より楽しくなる事を保証する!」
正直アウラさんほど豪胆な事は言えない。
それでも手を差し伸べる。
同じ境遇の奴が苦しんでたら、俺まで古傷を思い出すからな。
しかもクラスメイトで監視相手、助けなきゃストレスでコッチもやられる。
「クレス君……」
「どうする? 俺の手を取る?」
ここに来てようやく正面で相対。
俺の銀眼と、彼女の青眼が交差する。そして彼女の答えは——
「はい……っ!」
一拍置いて、俺の右手にしっかりと握る。そしてそのまま勢いで立ち上がらせる。
喜んでいるだか泣きそうなんだか、良く分からん表情してるな。
(しかし今日でだいぶ仲は進展したぞ。このまま親友的ポジションにまで行ったり?)
彼女にとって数少ない、信頼できる異性にはなっただろう。
勇者と熱い『友情』を結ぶ。最終的には共にアウラさんを目指そう。
「……今日は、ありがと」
「ん?」
「元気づけてくれたんでしょ……?」
そりゃ前々から実情は知ってましたとも。
ただ今回のコミュニケーションはたまたま上手くいっただけ、ほんとんどお喋りとアウラさんのノリだよ。
「おっと、そろそろ帰らないと」
「あ、そうだね……」
彼女はたぶん気付いてないだろうが、隠れて護衛騎士が付いて来ている。
騎士がちょうどソワソワし始めた頃合い、タイミング的にはバッチリだ。
「クレス君、このまま手を繋いで戻らない?」
「え?」
「暗くて道がよく見えないからさ」
「え、普通に見え——」
「見えない!」
「あ、はい……」
勢いに押され、なんだかんだとその手を握ったままに。
「クレス君の手、ちょっと冷たくない?」
「もともと体温が低い体質なんだ」
嫌いな奴となんか手はずっと繋がない。
どうやら本当に俺を『友人』と認めてくれたようだ。
「さ! 行こ!」
「きゅ、急に引っ張られると……!」
せっかくの進展、今更この手を放すわけにはいかない。
恥ずかしがる暇もなく強く握ると、彼女も応えてしっかり握り返してきた。
「異世界も、嫌なことばっかりじゃないね」
「それはどういう……」
「クレス君と出会えて良かったってこと!」
俺の前を揚々と行く彼女、表情は覗えない。
それでも声はハツラツ。その黒髪も青い瞳も輝きを取り戻す。
あと、握った彼女の手はとても熱かった。
まるで太陽に触れてから来たんじゃないかと、そう思うほどに——