この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「や、やっぱり緊張する」
「落ち着けってケイネル。今までの授業を思い出せよ」
「スミスの言う通りだ。それに万が一があっても僕たちにはクレスがいる」
「いや、俺も一応生徒なんだが……」
マイさんとの一件を昨日に、今日は林間合宿2日目。
太陽は真上。俺たちは森の中で実地課題に取り組んでいた。
「課題はゴブリンを2体仕留めるってだけだぞ」
「ゴブリンは人間っぽくて嫌なんだよ……」
スミスとウィリアムはまだ落ち着いている方。
ケイネルは学生相応の恐れを抱いているようだ。
「俺も警戒はするけど。自分の身は自分で守ることが大前提な」
「だってさケイネル」
「うぅ……」
「気合いで何とかなるぜ!」
入学試験では
そのせいで実技入試トップなんて要らぬ冠を得てしまう。
(だから俺がそれなりの魔法使いだと皆は認知している)
元冒険者だって事もカミングアウトしたしな。
「ただ——」
監視を考えればこれ以上レベルの高い魔法の行使は危険。
優秀な学生の範疇を越えてしまう、それ相応の配慮が必要だ。
「こういう面子で森に入るのは初めてだけど、クレスがいると安心するぜ」
「……そんなにか?」
「おうよ。俺たちとは魔法や知識の格が違う」
珍しくスミスがベタ褒めだ。
「ただ許せないこともある」
「許せない?」
「昨日ハルカゼさんと良い雰囲気になってたことだ」
「……何度も言ったけど特に何もないって」
「羨ましいなぁ……俺も付き合いてぇ……」
「だから勘違いだよ」
別にやましいことはしていない、強いて言うなら手を繋いだぐらいだ。
「百歩譲ってもだ、ホントにすこーし仲良くなっただけだよ」
友達として認識するレベル、恋人とかではない。
(でも一緒に
幸いその時には手を放していたが、クラスメイトからは変な勘繰りをされている。
「いやでもねぇ、やっぱりハルカゼさんはクレスのこと相当気に入ってると思うよ」
「うんうん。男子を名前で呼んでるのもクレス君だけだし」
「美少女とイチャつくイベント……呪わねば……」
「単に友達になっただけだって」
「「「ほー……」」」
昨夜のテントでは裁判なるものも開かれた。
被告は俺、曰くラブラブしてたんじゃないかと。
(多少仲良くなるのは任務的にはプラス。ただ一線を越えた関係は足枷(あしかせ)にしかなりえない)
昨日はつい話し込んでしまったが、改めて距離感を測らなくてはいけないだろう。
「どこまで行っても友人だよ——」
任務関係なしに、もう大切な人は作りたくないんだ。
まあ
……大事な人を失う痛みはもう味わいたくない。
「しっかしゴブリンが1体もいねぇとは」
「ゴブリンどころか魔獣1匹すら遭遇してないっていう……」
「スライム系がいないのも珍しいですよね」
森に入って1時間以上が経過している。
だがどれだけ散策しても魔獣の発見には至っていない。
「どう思うクレス?」
「……
やはり
この森、ちょっとおかしい。
「だけど血の臭いもしない、ピリついた空気すら感じないっていうのは……」
物静かなだけの自然が続いている。
まるで無人の街に来たような気分、住民たる獣はどこに行った?
「クレス君、こういうパターンってたまにあったりする?」
「経験上で言えば稀にある。だけどそういう場合は大抵——」
面倒なナニカが起きるんだよ。
それに昨日感じた謎の視線もある。
「……あっちからも未だに反応なしか」
実は生徒には秘密裏に、護衛役として騎士か冒険者が付けられている。
(皆は気付いてないようだけど、その隠密じゃ俺の目はごまかせない)
その護衛役が口を挟まないってことは、この異変を異変と認めていない。
「ヘルシン出身の元冒険者、クレスがいれば何かあっても大丈夫だろ」
「育った環境が違うよね。僕みたいにひ弱じゃない」
「自分からひ弱とか言うなよ……まぁこの大陸よりはシビアだったけど……」
昔話をしつつ草木を分け進んでいく。
「……ほんと
「時間的にはまだ昼を過ぎたばかりだけど……」
嫌な予感がしてたまらない。
ここまで魔獣の姿を1回も見ないというのは、どう考えても異常だ。
「どこかに逃げたとか?」
「いや、魔獣たちを脅かすような強い気配は感じない」
「そんなことまで分かるんかい……」
魔獣同士の抗争というわけでもなさそうだ。
「でも魔獣がいないと戦わなくて済むので、この状況は正直嬉しいです」
「おいおい。しっかりしてくれやケイネル」
「そうだね。僕たちも早く実戦に慣れないと」
少し弱音を吐くケイネルにスミスとウィリアムが声を掛ける。
「ん?」
唐突、少し離れた所から魔力の高まりを感じる。
それに応じるように、色の違う魔力が幾つも展開されたような……
『——————————————』
それは突然の事だった。
森中に轟音が鳴り響く。
同時に魔力の行使を確認した。
「なんだこの音!? 爆発!?」
「ま、魔獣とか……?」
突然の変異にスミスたちも慌てる。
早かったな。どうやらナニカはもう始まったらしい。
「あの光は……」
上を見上げると、音の次には光の柱が誕生。
「音源はケンザキの異能か……?」
交戦に入ったのかもしれない。
「やはり勇者が中心——」
この異変、勇者たちが関わっているのはだいたい分かった。
なら俺もこうしているわけにはいかない。
(だが……)
この3人の様子を見るに、全員で渦中に赴くのは無理そうだ。
「護衛! 出てきてくれ!」
「どうしたクレス……?」
足が止まった最中、俺はもう声を上げた。
周りが疑問符を浮かべたのも一瞬、護衛は茂みの中から現れた。
「ぼ、冒険者!?」
「よう。王立の生徒さんたち」
「どうして……」
「生徒だけで森を歩かせるほど、学園もバカじゃないってことだ」
俺の答えに驚いているようだが、これは至極当たり前。
「銀髪の姉ちゃんは俺に気付いてたか……」
「これでも元同業者です」
中年とおぼしき冒険者は俺を女と思っているらしい。
もうこの事態、訂正するのも面倒だ。
「単刀直入に、この3人を連れて拠点へ撤退してください」
「退避ってことか。だけど姉ちゃんはどうすんの?」
「異変の中心に向かいます。おそらく死傷者が出ているでしょうし」
ていよく言えば『救助』だ。
勇者がいる以上、俺はあの場に向かわなければいけない。
「一緒に逃げて応援を呼ぶべきじゃね? それとも姉ちゃん1人でどうにかなんの?」
「なります」
「かー! カッコいいねぇ!」
見た目の割に手練れっぽい冒険者の男。
口では笑っているものの、目は笑っていない。
「どうやらアンタは、俺より強そうだ」
静かに高ぶる白銀の魔力は威圧にも。
装いからして実力差は明らか。
俺の言葉が虚言じゃないって事は理解しているはずだ。
「……はぁ、相分かった。お姉ちゃんの判断に従おう」
「ありがとうございます」
「長く生きるコツは格上の意見を素直に聞く事だってな」
数拍置いて了解を貰う。
彼の仕事を考えれば普通イエスとは言えない場面。
だが流石中年冒険者、空気と力量を読むのが上手い。
「クレス……」
「拠点に帰ったらまず応援を呼んでくれ」
「すまん……」
スミスたちも潔く従ってくれるだけ助かる。
ここで一緒に行くなんて言われたら面倒極まりない。
「無理はしない。ヤバかったらすぐ逃げるよ」
「……おう」
「それじゃあ——」
一瞥してこの場から走り去る。
魔獣がいない理由、果たしてどんな化物がこの森に潜んでいたのか——