この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第22話:狩猟

「や、やっぱり緊張する」

「落ち着けってケイネル。今までの授業を思い出せよ」

「スミスの言う通りだ。それに万が一があっても僕たちにはクレスがいる」

「いや、俺も一応生徒なんだが……」

 

 マイさんとの一件を昨日に、今日は林間合宿2日目。

 太陽は真上。俺たちは森の中で実地課題に取り組んでいた。

 

「課題はゴブリンを2体仕留めるってだけだぞ」

「ゴブリンは人間っぽくて嫌なんだよ……」

 

 スミスとウィリアムはまだ落ち着いている方。

 ケイネルは学生相応の恐れを抱いているようだ。

 

「俺も警戒はするけど。自分の身は自分で守ることが大前提な」

「だってさケイネル」

「うぅ……」

「気合いで何とかなるぜ!」

 

 入学試験では異能(かのじょ)の悪さもあって、つい派手に魔法を使ってしまった。

 そのせいで実技入試トップなんて要らぬ冠を得てしまう。

 

(だから俺がそれなりの魔法使いだと皆は認知している)

 

 元冒険者だって事もカミングアウトしたしな。

 

「ただ——」

 

 監視を考えればこれ以上レベルの高い魔法の行使は危険。

 優秀な学生の範疇を越えてしまう、それ相応の配慮が必要だ。

 

「こういう面子で森に入るのは初めてだけど、クレスがいると安心するぜ」

「……そんなにか?」

「おうよ。俺たちとは魔法や知識の格が違う」

 

 珍しくスミスがベタ褒めだ。

 

「ただ許せないこともある」

「許せない?」

「昨日ハルカゼさんと良い雰囲気になってたことだ」

「……何度も言ったけど特に何もないって」

「羨ましいなぁ……俺も付き合いてぇ……」

「だから勘違いだよ」

 

 別にやましいことはしていない、強いて言うなら手を繋いだぐらいだ。

 

「百歩譲ってもだ、ホントにすこーし仲良くなっただけだよ」

 

 友達として認識するレベル、恋人とかではない。

 

(でも一緒に拠点(キャンプ)に戻る所を見られたってのが……)

 

 幸いその時には手を放していたが、クラスメイトからは変な勘繰りをされている。

 

「いやでもねぇ、やっぱりハルカゼさんはクレスのこと相当気に入ってると思うよ」

「うんうん。男子を名前で呼んでるのもクレス君だけだし」

「美少女とイチャつくイベント……呪わねば……」

「単に友達になっただけだって」

「「「ほー……」」」

 

 昨夜のテントでは裁判なるものも開かれた。

 被告は俺、曰くラブラブしてたんじゃないかと。

 

(多少仲良くなるのは任務的にはプラス。ただ一線を越えた関係は足枷(あしかせ)にしかなりえない)

 

 昨日はつい話し込んでしまったが、改めて距離感を測らなくてはいけないだろう。

 

「どこまで行っても友人だよ——」

 

 任務関係なしに、もう大切な人は作りたくないんだ。

 まあ数字(ナンバーズ)ぐらい強かったら話は別だけど。

 ……大事な人を失う痛みはもう味わいたくない。

 

「しっかしゴブリンが1体もいねぇとは」

「ゴブリンどころか魔獣1匹すら遭遇してないっていう……」

「スライム系がいないのも珍しいですよね」

 

 森に入って1時間以上が経過している。

 だがどれだけ散策しても魔獣の発見には至っていない。

 

「どう思うクレス?」

「……普通(、、)じゃないのは確かだ」

 

 やはり(ボーン)さんの言った通り。

 この森、ちょっとおかしい。

 

「だけど血の臭いもしない、ピリついた空気すら感じないっていうのは……」

 

 物静かなだけの自然が続いている。

 まるで無人の街に来たような気分、住民たる獣はどこに行った?

 

「クレス君、こういうパターンってたまにあったりする?」

「経験上で言えば稀にある。だけどそういう場合は大抵——」

 

 面倒なナニカが起きるんだよ。

 それに昨日感じた謎の視線もある。

 

「……あっちからも未だに反応なしか」

 

 実は生徒には秘密裏に、護衛役として騎士か冒険者が付けられている。

 

(皆は気付いてないようだけど、その隠密じゃ俺の目はごまかせない)

 

 その護衛役が口を挟まないってことは、この異変を異変と認めていない。

 

「ヘルシン出身の元冒険者、クレスがいれば何かあっても大丈夫だろ」

「育った環境が違うよね。僕みたいにひ弱じゃない」

「自分からひ弱とか言うなよ……まぁこの大陸よりはシビアだったけど……」

 

 昔話をしつつ草木を分け進んでいく。

 

「……ほんと閑散(かんさん)としてる」

「時間的にはまだ昼を過ぎたばかりだけど……」

 

 嫌な予感がしてたまらない。

 ここまで魔獣の姿を1回も見ないというのは、どう考えても異常だ。

 

「どこかに逃げたとか?」

「いや、魔獣たちを脅かすような強い気配は感じない」

「そんなことまで分かるんかい……」

 

 魔獣同士の抗争というわけでもなさそうだ。

 

「でも魔獣がいないと戦わなくて済むので、この状況は正直嬉しいです」

「おいおい。しっかりしてくれやケイネル」

「そうだね。僕たちも早く実戦に慣れないと」

 

 少し弱音を吐くケイネルにスミスとウィリアムが声を掛ける。

 

「ん?」

 

 唐突、少し離れた所から魔力の高まりを感じる。

 それに応じるように、色の違う魔力が幾つも展開されたような……

 

『——————————————』

 

 それは突然の事だった。

 森中に轟音が鳴り響く。

 同時に魔力の行使を確認した。

 

「なんだこの音!? 爆発!?」

「ま、魔獣とか……?」

 

 突然の変異にスミスたちも慌てる。

 早かったな。どうやらナニカはもう始まったらしい。

 

「あの光は……」

 

 上を見上げると、音の次には光の柱が誕生。

 

「音源はケンザキの異能か……?」

 

 交戦に入ったのかもしれない。

 

「やはり勇者が中心——」

 

 この異変、勇者たちが関わっているのはだいたい分かった。

 なら俺もこうしているわけにはいかない。

 

(だが……)

 

 この3人の様子を見るに、全員で渦中に赴くのは無理そうだ。

 

「護衛! 出てきてくれ!」

「どうしたクレス……?」

 

 足が止まった最中、俺はもう声を上げた。

 周りが疑問符を浮かべたのも一瞬、護衛は茂みの中から現れた。

 

「ぼ、冒険者!?」

「よう。王立の生徒さんたち」

「どうして……」

「生徒だけで森を歩かせるほど、学園もバカじゃないってことだ」

 

 俺の答えに驚いているようだが、これは至極当たり前。

 

「銀髪の姉ちゃんは俺に気付いてたか……」

「これでも元同業者です」

 

 中年とおぼしき冒険者は俺を女と思っているらしい。

 もうこの事態、訂正するのも面倒だ。

 

「単刀直入に、この3人を連れて拠点へ撤退してください」

「退避ってことか。だけど姉ちゃんはどうすんの?」

「異変の中心に向かいます。おそらく死傷者が出ているでしょうし」

 

 ていよく言えば『救助』だ。

 勇者がいる以上、俺はあの場に向かわなければいけない。

 

「一緒に逃げて応援を呼ぶべきじゃね? それとも姉ちゃん1人でどうにかなんの?」

「なります」

「かー! カッコいいねぇ!」

 

 見た目の割に手練れっぽい冒険者の男。

 口では笑っているものの、目は笑っていない。

 

「どうやらアンタは、俺より強そうだ」

 

 静かに高ぶる白銀の魔力は威圧にも。

 装いからして実力差は明らか。

 俺の言葉が虚言じゃないって事は理解しているはずだ。

 

「……はぁ、相分かった。お姉ちゃんの判断に従おう」

「ありがとうございます」

「長く生きるコツは格上の意見を素直に聞く事だってな」

 

 数拍置いて了解を貰う。

 彼の仕事を考えれば普通イエスとは言えない場面。

 だが流石中年冒険者、空気と力量を読むのが上手い。

 

「クレス……」

「拠点に帰ったらまず応援を呼んでくれ」

「すまん……」

 

 スミスたちも潔く従ってくれるだけ助かる。

 ここで一緒に行くなんて言われたら面倒極まりない。

 

「無理はしない。ヤバかったらすぐ逃げるよ」

「……おう」

「それじゃあ——」

 

 一瞥してこの場から走り去る。

 魔獣がいない理由、果たしてどんな化物がこの森に潜んでいたのか——

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