この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第25話:約束

 風は吹雪へ、大地は凍土へ。

 色鮮やかに咲く花々、幹を張った木々、全てが氷製に。

 本気にはほど遠い魔力解放、だが舞台の変化は十分なインパクトを与える。

 

「こ、こいつは……」

「スガヌマ、一応これでも実技試験で学年主席獲ってるんだ」

「アリシア……」

「俺1人だけの方が勝率が高い。だからこの場は任せてくれ」

 

 万物氷化、だが勇者や倒れた騎士たちまで巻き込んだわけではない。 

 

「ケンザキがダウンしてる。スガヌマがリーダー代行だ」

「僕のことを忘れ——」

動くな(、、、)って(、、)」

「っ……」

 

 送る殺気、一歩でも動けば殺す。

 

「だ、だが! 名前を知られて以上、君たちを帰すわけには——」

 

 もちろん殺気だけで足止めできるとは思ってない。

 

氷槍(ランス)掃射(バースト)!」

 

 空中に氷槍を数万単位で生成、横なぎに乱射する。

 

「え、えげつねぇ……」

(ほう)けてる場合じゃないぞ」

 

 絶え間なく発射される槍群。

 物量に任せた圧倒的物理攻撃はいつの時代も有効だ。

 

「——創造(メイジ)氷人形(アイス・ゴーレム)!」

 

 足止めしている内に造形の上位魔法である創造を発動。

 

「に、人形?」

「でけぇ……」

「これは自立(、、)を可能(、、、)とした氷製人形(アイス・ゴーレム)だ」

 

 身長は俺の3倍程度で構築。

 戦闘、護衛、運搬、大体なんでもこなせる。

 

「このゴーレムたちに気絶してる連中を運んでもらう」

「運ぶって……」

「あと護衛役にも。これ以上ここに居られると戦闘の邪魔だ」

 

 勇者や騎士がこの場から消えたのなら、俺はある程度の力を出して戦うことができる。

 この状況も後で説明、適当にごまかそう。

 

「——炎の精霊よ!」

 

 爆炎が上がる。

 氷槍は一瞬で融解、中心点から無傷の男が出てくる。

 

「普通に出てくるか……」

 

 奴の周りには赤く染まった精霊たち。

 生じる陽炎(かげろう)、離れた距離でも肌が熱気でチリチリ痛む。 

 

「自動で動く魔法人形……その歳でもうそこまで至っているのかい」

「普通だ」

「いいや、異常だよ」

 

 負傷者の大半はゴーレムが抱きかかえた。

 あともう一度だけ隙を生めれば、スガヌマたちを撤退させることが可能だ。

 

「油断した僕も悪かった。だけどこれ以上のことを許すわけにはいかない」

 

 そりゃ正体を知った俺たちの退却は見逃せないだろうな。

 

造形(メイジ)! 氷岩(ロック)!」

「君は物理大好きなのかい!?」

 

 大賢者の頭上に巨大な氷塊を作成、そしてそのまま叩き落とす。

 

「もう遅れは取らない! 炎の精霊よ!」

 

 しかしソレで潰れてくれるほど(やわ)じゃないよな。

 

「アンタ以上に俺が分かってる!」

 

 だから俺は魔力を密かに練っていた。

 じっくり、ゆっくり、されど確実に。

 

「もう一段階! 魔力解放(パージ)!」

 

 この局面、ついに練り上げた魔力を一気に解き放つ。

 

「強化!」

 

 無属性系統に連なる強化魔法を重ね展開、全身へと行き渡らせる。

 テンポアップする心臓、フルスロットルに回る筋繊維。

 駆ける、踏み込んだ勢いで大地が拉(ひしゃ)げる。

 向上した身体能力は俺と大賢者の間の距離、それを瞬く間に詰めさせる。

 

「——とりあえず1発だ」

 

 奴の驚いた眼よ。まるで瞬間移動でも目の当たりにしたようだ。

 

(本当に強い魔法使いは近接戦だってこなす!)

 

 繰り出す右拳。ただただ鋭く重い代物。

 

「ッ!」

「ぶっ飛べ!」

 

 くの字に折れた男は木々を粉砕しつつ勢いよく転がっていく。

 何回も吹っ飛ばして申し訳ないね。

 

「不意打ち勘弁、魔法だけで生き残れるほど世の中甘くないんでな」

 

 体術や武器の扱いもそれなりに、数字(ナンバーズ)の皆にも相当しごかれた。

 

「す、すげぇ……」

「今のうちに逃げろ」

「あれなら倒せただろ!? アリシアも一緒に逃げよう!」

「まだだ、ギリギリで防御魔法を張られた」

 

 見たことのない式だったが、あれも精霊魔法とやらだろう。

 ど真ん中を穿てたはしたが、仕留めるまでには至らない。

 

「今だってどうせ回復系の魔法を使ってるだろうし、すぐ出てくるぞ」

「マジかよ……」

氷人形(ゴーレム)たちは拠点に行くようにセットしてある。向こうについたら先生たちに事情を説明してくれ」

 

 沈黙、しかし間もなくして—―

 

「…………分かった」

 

 足手まといになることを察知、頷いてくれる。

 

「すまねぇアリシア……」

「いいや、戦況判断が早いだけスガヌマは優秀だよ。皆を頼んだ」

 

 良し。上手いこと動いてくれそうだ。

 

「クレス君——」

 

 しかし簡単に退いてくれない人もいる。 

 

「マイさん……」

「や、やっぱり一緒に逃げよ! あの人凄い強かった! 騎士の人も歯が立たなくて——」

 

 彼女は、今まで抑えていただろう焦りの面持ちをしていた。

 それはいつも表に出さなかった感情——

 

「ごめん。俺はここに残るよ」

「……っ、」

「何も心配はいらない」

 

 友を心配するのは普通の人なら当たり前の神経。

 彼女はせっかく得た理解者を失いたくない。

 そう思っているのだろう。

 

「昨日言った通り、自分の力は自分が一番信頼してる」

 

 己のスキルに疑いなし、言えないけどキャリアだってそれなりに積んでいる。

 

「だからマイさん、そんなに泣きそうな顔しないでくれ」

 

 というか俺のためを思うのなら、迅速に逃げて欲しい。

 

「でも、でも……!」

 

 ただこれだけ言ってもマイさんは頷かない。

 

「わ、私は、もう1人になりたくないっ!」

 

 言い切る。

 

「もっと、ずっと、クレス君と一緒にいたいから!」

 

 死んじゃうかもしれない、そう訴える。

 無我夢中、その様相はまるで小さな子供みたいで——

 

「っぷ」

「…………?」

「なんだ。皆の前でも、ちゃんと自分の想いを言えるようになったじゃん」

「……あ」

 

 笑ってごめん。

 だけど俺にだけじゃない。他の勇者の前でも本音を言ってくれた。

 いやはや、昨日思い出を語った甲斐があるよ——

 

「断言する。俺は死なない」

 

 彼女の心配も真向から両断、軽く一蹴する。

 

「というか、心配するぐらいなら信頼してくれ」

 

 あの時アウラさんにしてもらったように、俺もマイさんの頭を軽く撫でる。

 

「……あ」

「今回だけは、俺のワガママを聞いて欲しい」

 

 何でもないようなこのやり取り、これが安心したんだよなぁ……

 

「……また会えるよね?」

「ああ。昨日の傍にいるって言葉は嘘じゃない」

 

 約束をする。するからさ、早く逃げてくれ。

 マイさんには死んで欲しくないんだ。

 

(……ってあれ? 死んで欲しくない……?)

 

 助けろなんて指令は受けてない。

 だけど俺は、マイさんに生きていて欲しいと思った。

 

 ——守りたい(、、、、)と思った(、、、、)

 

 まるで彼女が大切な人であるからこそ、みたいな——

 

(せ、せっかく仲良くなれて来たんだ。今までの苦労を無駄にするのは勿体(もったい)ないだろ……)

 

 そうだ、時間を要したのに任務が途中頓挫(とんざ)なんて惜しい。

 だから……彼女を守るんだ。

 

「舞! アリシアさん! イチャイチャはその辺で!」

 

 精霊の気配を感知、ワドウさんが退避を促す。

 

「じゃ、じゃあ……」

「ああ。また後で」

 

 今生の別れでもあるまい、次の再会を楽しみにしておこう。

 

「……アウラさん並みに格好つけたな」

 

 柄にもない台詞を言った。

 ただあの人の存在があるからこそ、こうして俺は堂々と立てる。

 

「——さて、英雄退治の時間だ」

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