この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
風は吹雪へ、大地は凍土へ。
色鮮やかに咲く花々、幹を張った木々、全てが氷製に。
本気にはほど遠い魔力解放、だが舞台の変化は十分なインパクトを与える。
「こ、こいつは……」
「スガヌマ、一応これでも実技試験で学年主席獲ってるんだ」
「アリシア……」
「俺1人だけの方が勝率が高い。だからこの場は任せてくれ」
万物氷化、だが勇者や倒れた騎士たちまで巻き込んだわけではない。
「ケンザキがダウンしてる。スガヌマがリーダー代行だ」
「僕のことを忘れ——」
「
「っ……」
送る殺気、一歩でも動けば殺す。
「だ、だが! 名前を知られて以上、君たちを帰すわけには——」
もちろん殺気だけで足止めできるとは思ってない。
「
空中に氷槍を数万単位で生成、横なぎに乱射する。
「え、えげつねぇ……」
「
絶え間なく発射される槍群。
物量に任せた圧倒的物理攻撃はいつの時代も有効だ。
「——
足止めしている内に造形の上位魔法である創造を発動。
「に、人形?」
「でけぇ……」
「これは
身長は俺の3倍程度で構築。
戦闘、護衛、運搬、大体なんでもこなせる。
「このゴーレムたちに気絶してる連中を運んでもらう」
「運ぶって……」
「あと護衛役にも。これ以上ここに居られると戦闘の邪魔だ」
勇者や騎士がこの場から消えたのなら、俺はある程度の力を出して戦うことができる。
この状況も後で説明、適当にごまかそう。
「——炎の精霊よ!」
爆炎が上がる。
氷槍は一瞬で融解、中心点から無傷の男が出てくる。
「普通に出てくるか……」
奴の周りには赤く染まった精霊たち。
生じる
「自動で動く魔法人形……その歳でもうそこまで至っているのかい」
「普通だ」
「いいや、異常だよ」
負傷者の大半はゴーレムが抱きかかえた。
あともう一度だけ隙を生めれば、スガヌマたちを撤退させることが可能だ。
「油断した僕も悪かった。だけどこれ以上のことを許すわけにはいかない」
そりゃ正体を知った俺たちの退却は見逃せないだろうな。
「
「君は物理大好きなのかい!?」
大賢者の頭上に巨大な氷塊を作成、そしてそのまま叩き落とす。
「もう遅れは取らない! 炎の精霊よ!」
しかしソレで潰れてくれるほど
「アンタ以上に俺が分かってる!」
だから俺は魔力を密かに練っていた。
じっくり、ゆっくり、されど確実に。
「もう一段階!
この局面、ついに練り上げた魔力を一気に解き放つ。
「強化!」
無属性系統に連なる強化魔法を重ね展開、全身へと行き渡らせる。
テンポアップする心臓、フルスロットルに回る筋繊維。
駆ける、踏み込んだ勢いで大地が拉(ひしゃ)げる。
向上した身体能力は俺と大賢者の間の距離、それを瞬く間に詰めさせる。
「——とりあえず1発だ」
奴の驚いた眼よ。まるで瞬間移動でも目の当たりにしたようだ。
(本当に強い魔法使いは近接戦だってこなす!)
繰り出す右拳。ただただ鋭く重い代物。
「ッ!」
「ぶっ飛べ!」
くの字に折れた男は木々を粉砕しつつ勢いよく転がっていく。
何回も吹っ飛ばして申し訳ないね。
「不意打ち勘弁、魔法だけで生き残れるほど世の中甘くないんでな」
体術や武器の扱いもそれなりに、
「す、すげぇ……」
「今のうちに逃げろ」
「あれなら倒せただろ!? アリシアも一緒に逃げよう!」
「まだだ、ギリギリで防御魔法を張られた」
見たことのない式だったが、あれも精霊魔法とやらだろう。
ど真ん中を穿てたはしたが、仕留めるまでには至らない。
「今だってどうせ回復系の魔法を使ってるだろうし、すぐ出てくるぞ」
「マジかよ……」
「
沈黙、しかし間もなくして—―
「…………分かった」
足手まといになることを察知、頷いてくれる。
「すまねぇアリシア……」
「いいや、戦況判断が早いだけスガヌマは優秀だよ。皆を頼んだ」
良し。上手いこと動いてくれそうだ。
「クレス君——」
しかし簡単に退いてくれない人もいる。
「マイさん……」
「や、やっぱり一緒に逃げよ! あの人凄い強かった! 騎士の人も歯が立たなくて——」
彼女は、今まで抑えていただろう焦りの面持ちをしていた。
それはいつも表に出さなかった感情——
「ごめん。俺はここに残るよ」
「……っ、」
「何も心配はいらない」
友を心配するのは普通の人なら当たり前の神経。
彼女はせっかく得た理解者を失いたくない。
そう思っているのだろう。
「昨日言った通り、自分の力は自分が一番信頼してる」
己のスキルに疑いなし、言えないけどキャリアだってそれなりに積んでいる。
「だからマイさん、そんなに泣きそうな顔しないでくれ」
というか俺のためを思うのなら、迅速に逃げて欲しい。
「でも、でも……!」
ただこれだけ言ってもマイさんは頷かない。
「わ、私は、もう1人になりたくないっ!」
言い切る。
「もっと、ずっと、クレス君と一緒にいたいから!」
死んじゃうかもしれない、そう訴える。
無我夢中、その様相はまるで小さな子供みたいで——
「っぷ」
「…………?」
「なんだ。皆の前でも、ちゃんと自分の想いを言えるようになったじゃん」
「……あ」
笑ってごめん。
だけど俺にだけじゃない。他の勇者の前でも本音を言ってくれた。
いやはや、昨日思い出を語った甲斐があるよ——
「断言する。俺は死なない」
彼女の心配も真向から両断、軽く一蹴する。
「というか、心配するぐらいなら信頼してくれ」
あの時アウラさんにしてもらったように、俺もマイさんの頭を軽く撫でる。
「……あ」
「今回だけは、俺のワガママを聞いて欲しい」
何でもないようなこのやり取り、これが安心したんだよなぁ……
「……また会えるよね?」
「ああ。昨日の傍にいるって言葉は嘘じゃない」
約束をする。するからさ、早く逃げてくれ。
マイさんには死んで欲しくないんだ。
(……ってあれ? 死んで欲しくない……?)
助けろなんて指令は受けてない。
だけど俺は、マイさんに生きていて欲しいと思った。
——
まるで彼女が大切な人であるからこそ、みたいな——
(せ、せっかく仲良くなれて来たんだ。今までの苦労を無駄にするのは勿体(もったい)ないだろ……)
そうだ、時間を要したのに任務が途中
だから……彼女を守るんだ。
「舞! アリシアさん! イチャイチャはその辺で!」
精霊の気配を感知、ワドウさんが退避を促す。
「じゃ、じゃあ……」
「ああ。また後で」
今生の別れでもあるまい、次の再会を楽しみにしておこう。
「……アウラさん並みに格好つけたな」
柄にもない台詞を言った。
ただあの人の存在があるからこそ、こうして俺は堂々と立てる。
「——さて、英雄退治の時間だ」