この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

3 / 26
第3話:任務

「学園で監視任務って、本気で言ってるんですか!?」

 

 仰天(ぎょうてん)する。

 求められたのは暗殺ではない、側に接近しての静観であった。

 

「クレスはいま15歳、1年生として丁度入学できる。我々(ナンバーズ)の中では最も適任だ」

「でも……」

「それに顔が()れていないという事も大きい」

「い、言いたい事は分かりますけど……」

 

 だが監視のためとはいえ学園に通う意味を見出せない。

 それに——

 

「人付き合いは、苦手です」

 

 監視以前に学園で上手くやっていける自信がない。

 なにせ同年代と接した経験が皆無なのだ。

 

「しかも入学したら3年間は……」

「学生生活だ」

「それはちょっと……」

「報酬もかなり高いが、それ以上に学園に通うことはきっと良い経験になるぞ」

「良い経験、ですか」

「お前は強いが大人じゃない。まだまだ学ぶことは多い」

 

 ……なんてこった。

 ボスは監視ついでに人間性を育ててこいと言う。

 俺の性格と生い立ちを知っているからこその言葉だ。

 

「これは災厄の数字(ナンバーズ)の『Ⅰ』としてではなく、私という一個人がこの依頼を推すよ」

 

 その笑みに秘められた意味とは。

 俺は疑問を抱く。

 自分に今以上の人間性など要るのだろうか?

 変わる必要はない、このままでいいんじゃないか?

 

(いや、この疑問を抱いている時点で俺は未熟なのかもしれない)

 

 否定しきれない自分が確かにいる。

 

「それに当分はアウラと一緒に仕事をしなくて済むぞ」

「なんですかそれ」

「ふふふ。なかなか魅力的だろう?」

 

 冗談にもなってない冗談を言う。

 ただずっとダンマリを決めているわけにもいかない。

 とりあえずと詳しい話を聞いていく。

 

「まず勇者は古来より強力とされる」

「かなり稀有(けう)な異能を持っていたとは聞きますね」

「ああ。有名な勇者は聖女帝や拳王あたりか」

 

 千年ほど前にはボスが挙げたような人物がいた。

 彼らは俺たちに匹敵するかもしれない存在である。

 実際に戦ったことがないので、あくまで憶測なんだけど。

 

「異世界人か……」

 

 かの勇者、それは英雄としてこの世界に深く名を刻んでいる。

 

「そんな英雄になる可能性を秘めた者が近々現れる——」

 

 ならば世界が動くのも必然と言える。

 

「今回の勇者、現時点で分かっていることは何もない」

「では調査は必須、と」

 

 実力は未知数、それに——

 

「たぶん他国の人間や獣人、魔族も動きますよね?」

「ああ。先手を取る必要はないが、そう遅れるわけにもいかない」

 

 数字(ナンバーズ)として興味はある。

 

「また今回の依頼主は勇者を倒すのではなく、上手く『利用』したいらしい」

「だから仕留めるのではなく『監視』という形を取ると……」

 

 勇者たちの異能や性格、好物や趣味に至るまで。

 俺はその全て調べてこいというわけだ。

 これだけ求められるとなると、そりゃ同じ学園に通うしかないだろう。

 

「じゃあ殺し(、、)は無いってことで?」

「殺すどころか無理に関わらなくてもいい。重要なのは能力や性格を把握することだ」

「本当に調査だけ……」

「私としても気になるところではある。果たして我々に届く存在なのかどうか」

 

 俺たちは強い。

 9人集まれば魔王たちを全滅させることも可能だろう。

 

(ただ全員が揃う、いや、気が(、、)合う(、、)ことはまずないけど)

 

 その後もボスからの説明と説得が続く。

 これまた長いこと、それには流石の俺も——

 

「……はあ、分かりました。分かりましたよ」

「おお! ありがとう!」

「ただ目立ちません。ヒッソリとして必要なことしかしないですから」

「ふふ。それでもいいさ」

 

 勇者も気になるが、それ以上にボスには大きな借りがある。

 依頼を受けた理由はほとんど恩返しみたいなものだ。

 

(この場所まで連れ出してくれたことを、本当に感謝しているからこそ)

 

 今は孤独だったあの時とは違う。

 充実した毎日を送れている。

 

「ただし、身バレにだけは重々気を付けてくれ」

「今回は隠密任務ですもんね」

「手甲にある数字の刻印然り、魔法についても……」

「同い年と同等。いわゆる一般レベルで」

「うむ。そういうことだ」

 

 周りとの差はもちろんあるだろう。

 ただこれから行く所は、魔法に力を入れているハーレンス王国である。

 他国に比べ学生でもそれなりの魔法は使えるはずだ。

 

「——なら話も決まったことだし、これを渡しておこう」

 

 そう言って渡されたのは分厚い本、しかも何十冊も。

 ……なんだこれ?

 

「それは教科書だ」

「教科書?」

「ハーレンス王立魔法学園は名門中の名門。それを覚えなければ入学は厳しい」

「えっ、試験受けるんですか!?」

「当たり前だろう。新入生として行くんだぞ」

「そ、そこはコネとか……」

「勉強するのもまた経験だ」

「経験……」

 

 数字(ナンバーズ)の何人かに教わったお陰で、一応文字は読めるし書ける。

 だが学校には一度も通ったことがない。

 何冊かペラペラとめくって読んでみたが……

 

「これ暗号文ですか?」

「ノー。それは古文だ。偉人の伝記などを学ぶ学問になる」

「左様で……」

 

 この中でギリギリ分かりそうなのは魔法学? という科目ぐらいか。

 後はサッパリだ。

 

「——勉強は私が教えますよ」

 

 そんな俺の窮地(きゅうち)に現れたのはセローナさん。

 さっきアウラさんを連れて出ていったが、ひと段落ついたんだろう。

 

「ふっふっふ。話は事前に伺っていますよ」

 

 眼鏡をクイッと上げる動作はとても理知的。

 事実、災厄の数字(ナンバーズ)の中でも頭はトップクラスで良い方だ。

 

「入学試験まであと2ヵ月、1ヵ月は移動に使ってもまだ間に合います」

「1ヵ月でこれを全部覚えるんですか……?」

「はい!」

 

 満面の笑みでイエスの言葉は返ってくる。

 いやこの短期間、普通に考えて無理だろ。

 

「やっぱりこの仕事やめようかなー……なんて?」

 

 弱音を吐いても、ボスとセローナさんはニコニコしてるだけ。

 はい。この1ヵ月は勉強地獄になるみたいです。

 

「善は急げと言いますし、さっそく勉強を始めましょうか」

「もうですか!?」

「ええ。覚えることは多いですよ」

 

 逃がさんとばかりに俺の腕を掴む。

 

「……ッ!」

 

 見た目に不釣り合いな凄まじい握力、普通に腕がもげそうだ。

 これならアウラさんが連れていかれたのも納得。

 そしてそのままグイグイと引っ張られていく。

 

「それとクレス君、勉強が辛すぎても自殺しないでくださいよ?」

「自殺!?」

「私はこれでもスパルタなので。ほら行きますよ」

 

 目がマジだ。このまま連行されたらどうなるか——

 

「こ、こうなったら……! アウラさーん助けてくださーい!」

「アウラは死にましたよ」

「ええ!?」

 

 これまで共に戦場を潜り抜けてきた相棒に本気で助けを求める。

 しかしセローナさんが告げる無慈悲な宣告。

 

「死んだら1ヵ月の謹慎どころか永遠に……」

「構いません。いつも問題を起こすアウラが悪いんです」

 

 相棒は煌めく星になったらしい。

 そして俺も——

 

「さあさあ楽しいお勉強の時間です!」

「っ! せめて勉強のことを先に教えてくれれば……!」

 

 そうしたらもっと真剣に考えたのに。

 学園に行くのも面倒なのに、事前準備も地獄だなんて。

 恩返しにしてもお釣りが出るんじゃないか?

 

「ボス! これは1つ貸しにす——」

 

 強引に連行され、断末魔(だんまつま)の叫びも途中で打ち切られる。

 ただボスもセローナさんも終始笑うのみ。

 

 災厄の数字(ナンバーズ)、世界どころか身内にも恐ろしい組織である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。