この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「学園で監視任務って、本気で言ってるんですか!?」
求められたのは暗殺ではない、側に接近しての静観であった。
「クレスはいま15歳、1年生として丁度入学できる。
「でも……」
「それに顔が
「い、言いたい事は分かりますけど……」
だが監視のためとはいえ学園に通う意味を見出せない。
それに——
「人付き合いは、苦手です」
監視以前に学園で上手くやっていける自信がない。
なにせ同年代と接した経験が皆無なのだ。
「しかも入学したら3年間は……」
「学生生活だ」
「それはちょっと……」
「報酬もかなり高いが、それ以上に学園に通うことはきっと良い経験になるぞ」
「良い経験、ですか」
「お前は強いが大人じゃない。まだまだ学ぶことは多い」
……なんてこった。
ボスは監視ついでに人間性を育ててこいと言う。
俺の性格と生い立ちを知っているからこその言葉だ。
「これは
その笑みに秘められた意味とは。
俺は疑問を抱く。
自分に今以上の人間性など要るのだろうか?
変わる必要はない、このままでいいんじゃないか?
(いや、この疑問を抱いている時点で俺は未熟なのかもしれない)
否定しきれない自分が確かにいる。
「それに当分はアウラと一緒に仕事をしなくて済むぞ」
「なんですかそれ」
「ふふふ。なかなか魅力的だろう?」
冗談にもなってない冗談を言う。
ただずっとダンマリを決めているわけにもいかない。
とりあえずと詳しい話を聞いていく。
「まず勇者は古来より強力とされる」
「かなり
「ああ。有名な勇者は聖女帝や拳王あたりか」
千年ほど前にはボスが挙げたような人物がいた。
彼らは俺たちに匹敵するかもしれない存在である。
実際に戦ったことがないので、あくまで憶測なんだけど。
「異世界人か……」
かの勇者、それは英雄としてこの世界に深く名を刻んでいる。
「そんな英雄になる可能性を秘めた者が近々現れる——」
ならば世界が動くのも必然と言える。
「今回の勇者、現時点で分かっていることは何もない」
「では調査は必須、と」
実力は未知数、それに——
「たぶん他国の人間や獣人、魔族も動きますよね?」
「ああ。先手を取る必要はないが、そう遅れるわけにもいかない」
「また今回の依頼主は勇者を倒すのではなく、上手く『利用』したいらしい」
「だから仕留めるのではなく『監視』という形を取ると……」
勇者たちの異能や性格、好物や趣味に至るまで。
俺はその全て調べてこいというわけだ。
これだけ求められるとなると、そりゃ同じ学園に通うしかないだろう。
「じゃあ
「殺すどころか無理に関わらなくてもいい。重要なのは能力や性格を把握することだ」
「本当に調査だけ……」
「私としても気になるところではある。果たして我々に届く存在なのかどうか」
俺たちは強い。
9人集まれば魔王たちを全滅させることも可能だろう。
(ただ全員が揃う、いや、
その後もボスからの説明と説得が続く。
これまた長いこと、それには流石の俺も——
「……はあ、分かりました。分かりましたよ」
「おお! ありがとう!」
「ただ目立ちません。ヒッソリとして必要なことしかしないですから」
「ふふ。それでもいいさ」
勇者も気になるが、それ以上にボスには大きな借りがある。
依頼を受けた理由はほとんど恩返しみたいなものだ。
(この場所まで連れ出してくれたことを、本当に感謝しているからこそ)
今は孤独だったあの時とは違う。
充実した毎日を送れている。
「ただし、身バレにだけは重々気を付けてくれ」
「今回は隠密任務ですもんね」
「手甲にある数字の刻印然り、魔法についても……」
「同い年と同等。いわゆる一般レベルで」
「うむ。そういうことだ」
周りとの差はもちろんあるだろう。
ただこれから行く所は、魔法に力を入れているハーレンス王国である。
他国に比べ学生でもそれなりの魔法は使えるはずだ。
「——なら話も決まったことだし、これを渡しておこう」
そう言って渡されたのは分厚い本、しかも何十冊も。
……なんだこれ?
「それは教科書だ」
「教科書?」
「ハーレンス王立魔法学園は名門中の名門。それを覚えなければ入学は厳しい」
「えっ、試験受けるんですか!?」
「当たり前だろう。新入生として行くんだぞ」
「そ、そこはコネとか……」
「勉強するのもまた経験だ」
「経験……」
だが学校には一度も通ったことがない。
何冊かペラペラとめくって読んでみたが……
「これ暗号文ですか?」
「ノー。それは古文だ。偉人の伝記などを学ぶ学問になる」
「左様で……」
この中でギリギリ分かりそうなのは魔法学? という科目ぐらいか。
後はサッパリだ。
「——勉強は私が教えますよ」
そんな俺の
さっきアウラさんを連れて出ていったが、ひと段落ついたんだろう。
「ふっふっふ。話は事前に伺っていますよ」
眼鏡をクイッと上げる動作はとても理知的。
事実、
「入学試験まであと2ヵ月、1ヵ月は移動に使ってもまだ間に合います」
「1ヵ月でこれを全部覚えるんですか……?」
「はい!」
満面の笑みでイエスの言葉は返ってくる。
いやこの短期間、普通に考えて無理だろ。
「やっぱりこの仕事やめようかなー……なんて?」
弱音を吐いても、ボスとセローナさんはニコニコしてるだけ。
はい。この1ヵ月は勉強地獄になるみたいです。
「善は急げと言いますし、さっそく勉強を始めましょうか」
「もうですか!?」
「ええ。覚えることは多いですよ」
逃がさんとばかりに俺の腕を掴む。
「……ッ!」
見た目に不釣り合いな凄まじい握力、普通に腕がもげそうだ。
これならアウラさんが連れていかれたのも納得。
そしてそのままグイグイと引っ張られていく。
「それとクレス君、勉強が辛すぎても自殺しないでくださいよ?」
「自殺!?」
「私はこれでもスパルタなので。ほら行きますよ」
目がマジだ。このまま連行されたらどうなるか——
「こ、こうなったら……! アウラさーん助けてくださーい!」
「アウラは死にましたよ」
「ええ!?」
これまで共に戦場を潜り抜けてきた相棒に本気で助けを求める。
しかしセローナさんが告げる無慈悲な宣告。
「死んだら1ヵ月の謹慎どころか永遠に……」
「構いません。いつも問題を起こすアウラが悪いんです」
相棒は煌めく星になったらしい。
そして俺も——
「さあさあ楽しいお勉強の時間です!」
「っ! せめて勉強のことを先に教えてくれれば……!」
そうしたらもっと真剣に考えたのに。
学園に行くのも面倒なのに、事前準備も地獄だなんて。
恩返しにしてもお釣りが出るんじゃないか?
「ボス! これは1つ貸しにす——」
強引に連行され、
ただボスもセローナさんも終始笑うのみ。