この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「……出てくるなって」
『大丈夫。あの男から私は認知されてないわ』
「……そういう問題じゃない」
異能には様々なタイプがある。
強化系、召喚系、干渉系、その中でも俺の異能はかなり特異。
『ええ、なにせ私は『意思』を持っているもの』
「自分で答えるなよ……」
俺の指示に従わず、勝手に出てくるのもそのためだ。
しかし現在、彼女の存在は声だけでこの世界に映ってはいない。
『それはクレスが私を実体化させないからよ』
脳内で会話、俺だけが彼女を認知することができる。
「な、何をするつもりだ!?」
「え?」
俺の動きは彼女との会話で鈍っていた、向こうからすれば攻撃のチャンス。
しかし巨体のゴーレムたちは動きを停止。
まさか騎士道精神でも持っているわけでもあるまい。
「精霊たちが怯えている……お前の仕業だろ!?」
「怯えている?」
「い、言う事を聞かない! 動けよ精霊! クソッ一体何をしたんだよ!?」
なんと大賢者が攻撃を仕掛けられないのは、核である精霊がビビっているからだそう。
勝手に臆す。俺は何もしていない。
『精霊は私の存在を感じ取っているのよ』
「やっぱりか……」
『私を使いなさいよ。一瞬で片が付くわ』
「向こうにも隠し玉があるかもしれないだろ」
『関係ない。私たちの前では全てが凍るもの』
正直、大賢者の本気は余裕で上から喰えると思ってる。
『周囲に盗み見をしている者はいない。だけど時間を掛ければどうなるかしら』
ごもっとも。
悠長にしている余裕はもうないさ。
『久しぶりにやりましょう。というかは、
彼女の実体の有無は俺次第。
今は無形、それでも後ろから抱きしめられているような感覚を味わう。
(これが甘すぎる誘いだと理解している)
彼女は己が力を振るいたいだけだ。
だけど、この現状を打破できる最良の
「……全開にはしないぞ」
『本当に!? やったわ! 早く滅ぼしましょう!』
頭の中で踊らないでくれ。
そして言った通り、全開どころかほんの少しだけ。
「どうせ今使ってやらないと後に尾がひく……」
まさか氷魔法にまで制約を掛けられたら大変だ。
入試や新生活のせいで2ヵ月以上出番がなかったもんな。
ここでその鬱憤を少しでも発散してもらおうか。
「悪いな、大賢者」
「な、なんだい?」
「終わりだよ」
右手にはめていた黒手袋を外す。
「す、数字の刻印……?」
煌めく、手甲に刻まれた『Ⅸ』の文字が浮かび上がる。
復活したばかりじゃ俺たちの事も知らないか。
「なら教えよう。俺はお前にとっての『災厄』であると——」
心臓の中心、一番熱い所に手を掛ける。
『アッハッハッハ! 愚かな人間をいたぶれる喜び!』
彼女もまた高らかに笑う。
それは現世へ出られることへの歓喜か、はたまた戦いに陶酔しているだけか。
「なんでもいい」
今までで最高潮、全身から白銀の魔力が溢れ出る。
全て凍らせる最強の女神が降臨する。
「——顕現しろ、エルレブン!」
俺の呼びかけ彼女がやってくる。
天変地異、『神』の降臨に世界が
「……完全な実体化はさせない、半霊で決めろ」
吹雪が吹く。視界を白銀が埋める。
「——はいはい。任せなさいな」
「な、なんだ、その変な女は!」
「ん?」
「その隣に出てきた女は何なんだよっ!」
おいおい半透明で顕現させたんだぞ。
何で見えてるんだ?
「精霊使い、意外と感受性が高いのかも」
「まじか……」
「ごめんなさいね。私が美しすぎるせいだわ」
いや関係無いだろ。
全バレはないにしても、向こうの認知能力が予想よりあったわけだ。
まあでも——
「「殺せば関係ない」」
下から無限に溢れ出てくる白銀の粒子。今までとは桁が違う。
春の世界は何処へ、僅かに残っていた緑も氷化させていく。
「い、一体なにをするつも——」
悪いがこれから死ぬ奴に教えることはない。
「クレス! 合わせなさい!」
「ああ!」
エルレブン、通称エルから掛け合いが、分かっているとも。
俺と
2人で今を共有、2人で1つの生命体へ。
「「誓いの
俺の異能は『神』である。
ケンザキが持つような神の
「下等な生物に鉄槌を! 私の姿を薄っすら見れただけでも幸せに思いなさい!」
正真正銘、この身には氷属性を司る最高神が憑いているのだ。
だからこそ——
「「
「か、身体が凍る!? ほ、ほほ、炎の精霊っ!」
大賢者は足元から氷化、凄まじい速さで上半身も凍らせていく。
「無駄。アンタ如きの炎じゃ溶かせない」
「や、やめろっ! こ、こんな所で終わるわけにはぁあぁぁああ!」
天空も、大地も、自然も、生物も、時間も。
全てが等しく凍結。
もちろん相対する大賢者もだ。
「あらゆるものがその役目を失う——」
静寂、そこにはもう敵の叫びもない。
間もなくして、俺たちは『世界』を凍らした。
氷製の物質だけがこの場に存在、戦いはもう終わったのだ。
「——世界凍結を防げないようじゃまだまだ」
結局一方的な展開に、本気を出すことはやはりなかった。
「エル、お前の年齢的に軽く千年は生きてるだろ? 奴に見覚えは?」
「はい? 私的には20歳超えたぐらいなんだけど」
「……それで?」
「知らない。異世界人だろうと人間に興味ないわ」
そうですか……
「しかもその男、普通に雑魚じゃない」
「雑魚って……」
「当然! 私は戦女神だもの! それに完全に実体化してれば——」
ギャップ差、クールビュティーな見た目のわりにかなり饒舌だ。
「あ、そうだ、せっかく現界したんだし直接説教。あのメスどもについて話しましょう」
「メス?」
「あの女勇者と他多数。私のクレスに近づく女どもよ」
「…………」
「クレスもクレス! 約束ってなによ!? ちょっと近寄られただけでデレデレデレして!」
「……特にデレたつもりはないけどな」
むしろお前が俺にデレてるんじゃ……
「っな! わ、わわ、私がデレる!?」
「うん」
「ば、バカなこと言わないで! 逆よ! クレスが私にデレてるの!」
意識を共有しているせい、内心の8割ぐらいは通じ合う。
(全部が全部共有されるってわけじゃないが……)
それでも神級の美人に好かれるのは光栄。
だけどアウラさんみたいに欠点も多いからなぁ。
「……あの炎女と一緒にしないで。未だにムカつくし。いっそ殺したい。殺したいわ。というか殺す! 殺す殺す殺す!」
属性的にも性格的にも、エルはアウラさんが嫌いだ。
にしても相変わらず愛が重い……
「エル、盛り上がってるところごめん」
「なに……?」
「まずは大賢者、サトシ・アクツの処理をする」
この後は学園の皆と合流する。
凍った奴を持ち帰ることは難しいだろう。
どこかに隠すというのも厳しい、他の
「——
氷が砕ける音、それだけが大地に響く。
芯まで凍っていた大賢者、その身体は俺の一声で粉々に粉砕された。
「……戦いも終わったし、撤収の時間だ」
「もう!? 早すぎじゃない!?」
「魔力の消費が激しいんだ。また今度な」
「むむー……」
なにせ小範囲ながら時間という概念すら凍らせている。
流石の俺でもそう長くはツライ。
「あと凍らせたもの全部元に戻してくれ」
「……ちょっと注文多すぎるんじゃないの?」
「騎士団が後で調査に来るんだ。俺1人でこんな広範囲凍らせたんじゃ不自然だろ」
「……」
ご立腹ですか……
「エル」
「何よ……」
「お前が好きだ」
なかなか強情な彼女に投げかけるワンフレーズ。
「そしてお願いだ。エルに頼らせてくれ」
「へ、へえ。そこまで
「ああ。大好きだよ」
「っっっ! わ、分かったわ! 全部元通りにする!」
チョロイ……
ただその場凌ぎのために言ったわけじゃない。
付き合いも長く、好きという気持ちは本当にある。
でもボス曰く、女性は分かっていても言葉で言われた方が嬉しいらしい。
「エル、対価の支払いも次の時にしてくれ」
「次!? それは——」
「エルのことが好きだからこそ、支払いはしっかりしたいんだ」
「しょ、しょうがないわねぇ。じゃあ次にたっぷり貰うわ!」
この場は即時撤退がベスト、対価は後日ということに。
これは次の支払いが大変だぞ……
「解凍、世界は元に戻る——」
凍てついていた草木が色を取り戻す。
雲は再び流れだし、葉は風に揺れ動く。
そして、砕かれ氷塵となった大賢者はそのまま消える。
「もう、二度と会うことはない」
相手は死んだという自覚すらなく死んだ。
呆気なすぎる結末?
でも古代の勇者も『災厄』たる俺には通じなかった。
ただそれだけのこと——