この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第28話:九番

「……出てくるなって」

『大丈夫。あの男から私は認知されてないわ』 

「……そういう問題じゃない」

 

 異能には様々なタイプがある。

 強化系、召喚系、干渉系、その中でも俺の異能はかなり特異。

 

『ええ、なにせ私は『意思』を持っているもの』

「自分で答えるなよ……」

 

 俺の指示に従わず、勝手に出てくるのもそのためだ。

 しかし現在、彼女の存在は声だけでこの世界に映ってはいない。

 

『それはクレスが私を実体化させないからよ』

 

 脳内で会話、俺だけが彼女を認知することができる。

 

「な、何をするつもりだ!?」

「え?」

 

 俺の動きは彼女との会話で鈍っていた、向こうからすれば攻撃のチャンス。

 しかし巨体のゴーレムたちは動きを停止。

 まさか騎士道精神でも持っているわけでもあるまい。

 

「精霊たちが怯えている……お前の仕業だろ!?」

「怯えている?」

「い、言う事を聞かない! 動けよ精霊! クソッ一体何をしたんだよ!?」

 

 なんと大賢者が攻撃を仕掛けられないのは、核である精霊がビビっているからだそう。

 勝手に臆す。俺は何もしていない。

 

『精霊は私の存在を感じ取っているのよ』

「やっぱりか……」

『私を使いなさいよ。一瞬で片が付くわ』

「向こうにも隠し玉があるかもしれないだろ」

『関係ない。私たちの前では全てが凍るもの』

 

 正直、大賢者の本気は余裕で上から喰えると思ってる。

 

『周囲に盗み見をしている者はいない。だけど時間を掛ければどうなるかしら』 

 

 ごもっとも。

 悠長にしている余裕はもうないさ。

 

『久しぶりにやりましょう。というかは、やりなさい(、、、、、)——』

 

 彼女の実体の有無は俺次第。

 今は無形、それでも後ろから抱きしめられているような感覚を味わう。

 

(これが甘すぎる誘いだと理解している)

 

 彼女は己が力を振るいたいだけだ。

 だけど、この現状を打破できる最良の(すべ)でもある。

 

「……全開にはしないぞ」

『本当に!? やったわ! 早く滅ぼしましょう!』

 

 頭の中で踊らないでくれ。

 そして言った通り、全開どころかほんの少しだけ。

 

「どうせ今使ってやらないと後に尾がひく……」

 

 まさか氷魔法にまで制約を掛けられたら大変だ。

 入試や新生活のせいで2ヵ月以上出番がなかったもんな。

 ここでその鬱憤を少しでも発散してもらおうか。

 

「悪いな、大賢者」

「な、なんだい?」

「終わりだよ」

 

 右手にはめていた黒手袋を外す。

 

「す、数字の刻印……?」

 

 煌めく、手甲に刻まれた『Ⅸ』の文字が浮かび上がる。

 復活したばかりじゃ俺たちの事も知らないか。

 

「なら教えよう。俺はお前にとっての『災厄』であると——」

 

 心臓の中心、一番熱い所に手を掛ける。

 

『アッハッハッハ! 愚かな人間をいたぶれる喜び!』

 

 彼女もまた高らかに笑う。

 それは現世へ出られることへの歓喜か、はたまた戦いに陶酔しているだけか。

 

「なんでもいい」

 

 今までで最高潮、全身から白銀の魔力が溢れ出る。

 全て凍らせる最強の女神が降臨する。

 

「——顕現しろ、エルレブン!」

 

 俺の呼びかけ彼女がやってくる。

 天変地異、『神』の降臨に世界が(きし)む。

 

「……完全な実体化はさせない、半霊で決めろ」

 

 吹雪が吹く。視界を白銀が埋める。

 

「——はいはい。任せなさいな」

 

 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、まるで花を摘みにでも行くような気軽さ。

 

「な、なんだ、その変な女は!」

「ん?」

「その隣に出てきた女は何なんだよっ!」

 

 おいおい半透明で顕現させたんだぞ。

 何で見えてるんだ?

 

「精霊使い、意外と感受性が高いのかも」

「まじか……」

「ごめんなさいね。私が美しすぎるせいだわ」

 

 いや関係無いだろ。

 全バレはないにしても、向こうの認知能力が予想よりあったわけだ。

 まあでも——

 

「「殺せば関係ない」」

 

 下から無限に溢れ出てくる白銀の粒子。今までとは桁が違う。

 春の世界は何処へ、僅かに残っていた緑も氷化させていく。

 

「い、一体なにをするつも——」

 

 悪いがこれから死ぬ奴に教えることはない。

 

「クレス! 合わせなさい!」

「ああ!」

 

 エルレブン、通称エルから掛け合いが、分かっているとも。

 俺と彼女(エル)、身体とリンクして魔力が循環する。

 2人で今を共有、2人で1つの生命体へ。

 

「「誓いの(しるし)を今ここに——!」」

 

 俺の異能は『神』である。

 ケンザキが持つような神の加護(、、)ではない。

 

「下等な生物に鉄槌を! 私の姿を薄っすら見れただけでも幸せに思いなさい!」

 

 正真正銘、この身には氷属性を司る最高神が憑いているのだ。

 だからこそ——

 

「「絶氷界(ジ・アブソリュート)」」

 

 人の手で(、、、、)奇跡が(、、、)起こせる(、、、、)

 

「か、身体が凍る!? ほ、ほほ、炎の精霊っ!」

 

 大賢者は足元から氷化、凄まじい速さで上半身も凍らせていく。

 

「無駄。アンタ如きの炎じゃ溶かせない」

「や、やめろっ! こ、こんな所で終わるわけにはぁあぁぁああ!」

 

 天空も、大地も、自然も、生物も、時間も。

 全てが等しく凍結。

 もちろん相対する大賢者もだ。

 

 

「あらゆるものがその役目を失う——」

 

 

 静寂、そこにはもう敵の叫びもない。

 間もなくして、俺たちは『世界』を凍らした。

 氷製の物質だけがこの場に存在、戦いはもう終わったのだ。

 

「——世界凍結を防げないようじゃまだまだ」

 

 結局一方的な展開に、本気を出すことはやはりなかった。

 

「エル、お前の年齢的に軽く千年は生きてるだろ? 奴に見覚えは?」

「はい? 私的には20歳超えたぐらいなんだけど」

「……それで?」

「知らない。異世界人だろうと人間に興味ないわ」

 

 そうですか……

 

「しかもその男、普通に雑魚じゃない」

「雑魚って……」

「当然! 私は戦女神だもの! それに完全に実体化してれば——」

 

 ギャップ差、クールビュティーな見た目のわりにかなり饒舌だ。

 

「あ、そうだ、せっかく現界したんだし直接説教。あのメスどもについて話しましょう」

「メス?」

「あの女勇者と他多数。私のクレスに近づく女どもよ」

「…………」

「クレスもクレス! 約束ってなによ!? ちょっと近寄られただけでデレデレデレして!」

「……特にデレたつもりはないけどな」

 

 むしろお前が俺にデレてるんじゃ……

 

「っな! わ、わわ、私がデレる!?」

「うん」

「ば、バカなこと言わないで! 逆よ! クレスが私にデレてるの!」

 

 意識を共有しているせい、内心の8割ぐらいは通じ合う。

 

(全部が全部共有されるってわけじゃないが……)

 

 それでも神級の美人に好かれるのは光栄。

 だけどアウラさんみたいに欠点も多いからなぁ。

 

「……あの炎女と一緒にしないで。未だにムカつくし。いっそ殺したい。殺したいわ。というか殺す! 殺す殺す殺す!」

 

 属性的にも性格的にも、エルはアウラさんが嫌いだ。

 にしても相変わらず愛が重い……

 

「エル、盛り上がってるところごめん」

「なに……?」

「まずは大賢者、サトシ・アクツの処理をする」

 

 この後は学園の皆と合流する。

 凍った奴を持ち帰ることは難しいだろう。

 どこかに隠すというのも厳しい、他の正体不明(アンノウン)が探しに来る可能性もある。

 

「——(いにしえ)の勇者、再び眠れ」

 

 氷が砕ける音、それだけが大地に響く。

 芯まで凍っていた大賢者、その身体は俺の一声で粉々に粉砕された。

 

「……戦いも終わったし、撤収の時間だ」

「もう!? 早すぎじゃない!?」

「魔力の消費が激しいんだ。また今度な」

「むむー……」

 

 なにせ小範囲ながら時間という概念すら凍らせている。

 流石の俺でもそう長くはツライ。

 

「あと凍らせたもの全部元に戻してくれ」

「……ちょっと注文多すぎるんじゃないの?」

「騎士団が後で調査に来るんだ。俺1人でこんな広範囲凍らせたんじゃ不自然だろ」

「……」

 

 ご立腹ですか……

 

「エル」

「何よ……」

「お前が好きだ」

 

 なかなか強情な彼女に投げかけるワンフレーズ。

 

「そしてお願いだ。エルに頼らせてくれ」

「へ、へえ。そこまで(すが)るなら仕方ないわね! しかも私が大好きって……」

「ああ。大好きだよ」

「っっっ! わ、分かったわ! 全部元通りにする!」

 

 チョロイ……

 ただその場凌ぎのために言ったわけじゃない。

 付き合いも長く、好きという気持ちは本当にある。

 でもボス曰く、女性は分かっていても言葉で言われた方が嬉しいらしい。

 

「エル、対価の支払いも次の時にしてくれ」

「次!? それは——」

「エルのことが好きだからこそ、支払いはしっかりしたいんだ」

「しょ、しょうがないわねぇ。じゃあ次にたっぷり貰うわ!」

 

 この場は即時撤退がベスト、対価は後日ということに。

 これは次の支払いが大変だぞ……

 

「解凍、世界は元に戻る——」

 

 凍てついていた草木が色を取り戻す。

 雲は再び流れだし、葉は風に揺れ動く。

 そして、砕かれ氷塵となった大賢者はそのまま消える。

 

「もう、二度と会うことはない」

 

 相手は死んだという自覚すらなく死んだ。

 呆気なすぎる結末?

 でも古代の勇者も『災厄』たる俺には通じなかった。

 ただそれだけのこと——

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