この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第4話:入国

 ——ハーレンス王立魔法学園。

 それは大国ハーレンスで最も優秀な学生が集まる学び舎だ。

 立地は王都の中心、貴族エリアと平民エリアの境にある。

 受験者は毎年3千人を優に超えるが、入学を許されるのはたった150人。

 

「そして俺はその狭き門を(くぐ)りに来たと……」

 

 セローナさんの折檻、もとい勉強会をやり遂げ受験しにきた。

 ちなみに昨日で筆記試験は終了している。

 

「残すは今日の魔法実技試験だけ。ようやく受験から解放される」

 

 学園の正門とは思えない立派な造りの門を過ぎる。

 

「——見てよあの人」

「——うわぁ」

「——銀髪銀眼だぜ」

「——凄い容姿してるな」

 

 周りには俺と同じ、大勢の受験生が各会場を目指し歩いている。

 ただ四方八方から視線を感じる、ついでに小さなヒソヒソ声も。

 

「言いたい事があるなら直接言えっての……」

 

 統計的に、この国では金髪や茶髪の人が多いとされている。

 すると俺の銀髪(、、)()銀眼(、、)は目立って仕方ない。

 

(世界的にも珍しい特徴、ただ異能のせいなんだからどうしようもないんだよ)

 

 異能(かのじょ)を所持するが故、染髪してもすぐ白銀色に戻る。

 隠密には正直不向きだ。

 

「――あんな美少女めったにいないぞ」

「――おい! お前話し掛けに行けよ!」

「――無茶言うな。格が違うって」

「――きっとどこかの貴族だろ?」

 

 貴族じゃない。

 それと俺は『男』だ。

 

「この国でも女と間違えられるか……」

 

 周り曰く女顔、身体も細いし、身長もギリギリ男性平均値とそう高くない。

 ただ彼らの勘違いをわざわざ訂正するような暇はなし。

 

「もう慣れたさ」

 

 時間に余裕を持って来たとは言えこれは受験。

 さっさと会場を見つけて準備に入りたい。

 

「————ん?」

 

 そう意気込んで足を進めるものの、少しして異様な人だかりを発見する。

 

「なんだ?」

 

 発見すると言うかは自然と視界に入った。

 受験生たちが何かを取り囲んでいる。

 

「まさか大道芸人がいるって事もないだろうし——」

 

 皆は一体何を観ているんだ? と周りの会話に耳を澄ますと。

 

「おいおい、あそこに勇者様がいるってさ」

「まじで!?」

「おう。学園の見学をしに来たんだとさ」

 

 勇者!?

 あの人だかりの中心に勇者がいるのか!?

 

 どうやら俺たちが真面目に試験を受ける中、施設の見学に来たらしい。

 王族による配慮で、既にSクラスに内定済みってことだろうな。

 

「だけどここで出会えたのはラッキーだ……」

 

 なにせ監視するにしろ、俺は勇者の情報をまだ何も手に入れてない。

 

「男か女か、それすら知らないし」

 

 顔を拝めるだけツイてる。一目だけでも見ておきたい。

 きっと他の生徒たちも同様の理由で群がっているのだろう。

 なんとか群衆の隙間を抜いて歩き、それでようやく勇者の姿を拝めたが——

 

「ッ!?」

 

 しかし俺は驚きで固まってしまう。

 勇者が男だとか女だとか、そんな陳腐な理由じゃない。

 

「勇者が、4人いる……?」

 

 おかしい! 

 おかしいぞ!

 

(ボスからは召喚できても精々『1人』だけだと聞いてたのに……!)

 

 しかし俺の視界には黒髪の少年少女が『4人』も映ってしまっている。

 

「ひ、非常事態だ」

 

 男2人と、女2人を確認。

 単純に考えて当初の仕事量の4倍だ

 

「とりあえず場を離れないと……」

 

 背中に流れる嫌な汗、焦燥に駆られる。

 まずは現場からの離脱を選択し——

 

(っ!? この距離で気付くだと!?)

 

 しかし俺の逃げ足を瞬間で射止める存在がいる。

 それは眼鏡をかけた女、勇者と思われる人物の1人。

 なんとこの人ごみの中、あれだけ人に囲まれながら俺の(、、)視線(、、)だけ(、、)()合わせてきた。

 

「そこの銀髪の人!」

「っ」

 

 ダメだ。完全にロックされている。

 逃げる前に一喝飛ばされた。

 ついでにそのまま人の波をかき分け接近してくる。

 相対するしかない——

 

「グレート!」

「……え?」

「グレイトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 な、なんだ!?

 俺の目の前に来たのは眼鏡をかけた異世界人。

 彼女は対面した途端に叫び出した。

 

「素晴らしいです! 異世界最高!」

 

 その行動にこの場にいる全員が驚いている。

 

(不可思議な言動、まさか俺の正体に——)

 

 焦燥感が加速、緊張で一歩後ずさってしまう。

 

「ふぅ、急に引き留めてすいません。そしてつい叫んでしまいました」

「……いえ」

 

 叫んだと思いきや今度は冷静になる。

 行動心理がまったく読めないぞ。

 

「失礼ですけど、男性(、、)ですよね(、、、、)?」

「……!」

 

 初対面でありながら俺を男と一発で見抜いた!?

 やはりコイツ、只者(ただもの)じゃない。

 なんとか冷静を保って無言で頷く。

 

(聞いた通りの黒髪黒眼(ブラック・パーツ)、言動を加味しても彼女は異世界人で間違いない)

 

 相対した黒眼、いや異能を所持しているのだろう。

 若干変色、紫がかっているその眼が俺を捉える。

 

「やっぱり私の腐女(ふじょ)サーチに間違いはなかった」

「ふ、腐女サーチ?」

「イケメンや美少年にだけ反応する心眼。(きわみ)に至った腐女子(ふじょし)が使える技です」

 

 『ふじょし』とやらの意味は分からない。

 ただ彼女の心眼とやらは仙術と似た技ってことだろう。

 その歳でそこまで至っているというのか……

 

「私の名はリンカ・ワドウです。名前を聞いてもよろしいですか?」

 

 勇者の方から直々に名乗ってくる。

 周囲の注目もあるし、これは応えるしかない。

 

「クレス・アリシア、です」

「ではアリシアさん。まずあなたは美少年として完成体です」

「はい?」

「ちなみに属性的にはウケかと」

「う、ウケ……?」

「はぁはぁはぁ……アリシアきゅんマジ萌え……」

 

 異世界語だろうか、言葉の意味が良く分からない。

 

(でもなんて真っ黒な、いや腐ったような邪悪なオーラを出すんだ……!)

 

 まるで邪神にでも会ったような気分。

 またも無意識に一歩下がってしまう。

 どうする? 

 どうやってこの場面を切り抜け——

 

(りん)()! また人に迷惑かけてるの!?」

(まい)……これは自分の性《さが》ゆえに仕方ないのよ……」

「お城の中でも同じような言い訳してたじゃない」

「これは言い訳じゃ……あ、王子たちとアリシアさんをカップリングしたら——」

 

 なんと助け船はもう1人の女勇者が出してくれる。

 会話から察するに名前は『マイ』だそう。

 

「初対面の人に失礼なこと言わない」

「それでも天然の銀髪美少年がいたら……」

「はぁ、まず常識的に考えて——」

 

 ずっと混乱していられない。

 状況把握。

 まず目の前ではこの(、、)世界(、、)()言葉(、、)()会話が繰り広げられている。

 

(何でだ? なぜ俺が彼女たちの会話を聞き取れる?)

 

 召喚せれてまだ数週間程度のはず。

 そんな短期間で1つの言語を習得したっていうのか?

 一体どんな仕掛けで——

 

「ごめんなさい。凛花(りんか)が失礼なことを言ってしまって……」

「私も少し興奮しすぎました。申し訳ありません」

「……気にしてないです」

「ところでアリシアさん、ボーイズラブに興味は——」

「凛花!」

「わ、分かったから。そんな怖い顔しないで」

 

 リンカ・ワドウと一緒に謝ってくるマイとやら。

 彼女の容姿もやはり異世界人風だ。

 

「もう凛花は……」

 

 長い黒髪に赤リボンの一結びが良く映える。

 対して瞳は青っぽい色、おそらく彼女も所持した異能のせいで変色したのだろう。

 体躯は細く、背丈は同世代の平均ぐらい。

 

「そんな溜息ついてたら美少女、春風(はるかぜ) (まい)としての価値が落ちるわよ」

「……誰のせいだと思ってるの?」

「私か」

「その通り。あと美少女とか言うのやめて」

 

 リンカ・ワドウの言う事に間違いはない。

 マイとやらは性格も良さそうだし、異性からはよく好かれそう。

 

(リンカ・ワドウの方は……顔は整ってはいるけどあのオーラがな……)

 

 服装についても珍しい物を着ている。

 2人も同じ格好、異世界の制服か……?

 

「勇者様、そろそろお時間が……」

「あ、すいません」

「もう少し妄想を——」

「はいはい。妄想は後でも出来るでしょ」

 

 ついに護衛の騎士たちが介入してくる。

 流石に注目が集まり過ぎたな。

 

「ご迷惑をおかけしました。私たちはこれで」

「この素晴らしい美少年に合格を!」

「唐突に意味不明なこと言わないの凛花。せっかく可愛いのに、それじゃあいつまでたっても……」

「私は自分の恋愛に興味ないから。というか舞だって付き合った経験のない処女で——」

「よ、余計なこと言わない!」

 

 余計ではない。

 俺は監視役、勇者に関する様々な情報を欲している。

 

(例えばマイとやらは付き合った経験がない。つまりはガードが堅いということ)

 

 ハニートラップは仕掛けにくいと分かる。

 逆にリンカとやらはイケメンが好き。

 攻略の糸口は多そうだ。

 

(ちなみに男の勇者たちは——)

 

 彼らの方は女子たちに囲まれている。

 

「もう受験って空気じゃないな……」

 

 彼女らの言動然り、そもそも勇者が4人もいたという事実。

 今の現状、入試後に一刻も早くボスに伝達しなければいけない。

 そして経験からして悟る。

 

「この任務、荒れそうだ——」

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