この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
「……面白いな少年、氷魔法が得意なのか」
「ボチボチですね」
「そうか。だが俺を倒すには——」
身体と身体を隔てていた氷壁が破壊される。
「
アイザック先生は雷系統の強化を使った。
「行くぞ!」
雷の如く俊敏にその男は近づいて来る。
……だけどそれは今の俺でも十分対処できるレベル。
(あの人たちが速すぎるせい。だいぶ遅く見える)
冷静に分析しつつ、紫電奔る拳を氷剣で弾く。
その間に隙を見つけて——
「ここ!」
「ッ!?」
退くと見せかけアイザック先生の
スピードが落ちたタイミング、逃さずに剣勢を強める。
「クソッ! ちょこまかと……!」
肉を切り裂く感触、アイザック先生の鮮血が宙に舞う。
「これで体術と立ち回りの点数は入ったはずで——」
一発二発三発、隙を幾つもついて鋭い蹴りと斬撃を入れていく。
傍から見ればハイスピードな攻防、俺たちの戦いには誰も介入してこない。
実態はかなり一方的な試合だけど——
「
ここで向こうさんは初めて拳を止め魔法を放つ。
年齢なんてもう関係なし、本当に先生かと疑う『本気』な先制打。
この空気を変えようと躍起になっているようだ。
「
もちろん壁を創り防ぐ。
「
今度は天上より槍群を降らす。
「
アイザック先生が上からの槍を掻い潜る最中。
追撃として背後から剣群を発射する。
「なんだよこれ……」
「アイザック先生がやられている……?」
「全然見えねぇ……」
皆も立ち止まってないで参加してくれ……
これは団体戦、仲間が動いてくれないんじゃ協力点が稼げないぞ——
「攻撃が止まないっ……!?」
とりあえずは単独で戦う、いいや、もう一人でいい——!
「まずはこの場から逃げ——!」「簡単には逃がさない——!」
目論み通りで、俺の繰り出す連続魔法に対応するので精一杯。
ただ仕留めるには至らない、そりゃこれは足止めだもん。
「今が好機、早めに決めるか——」
もはや仲間から援護は無し、もう大技を仕掛けてフィニッシュに。
そしてこの学園は魔法に一番重きを置くと聞く。
少しばかり派手に魔法を使って、最終加点といこう。
「まずは立ち位置を変えないと——」
強化された両脚で会場を駆ける。
周りにも配慮、大技を使っても問題ないベストポジションを見出す。
(悪いな先生)
これでも
「
ダメ押しの無属性強化を終え準備万端。
「ぬおおおおぉぉぉぉ——!」
反響するアイザック先生の声。
なにせ準備準備と言ってるが、アイザック先生への攻撃は未だ止んでいない。
何千何万本、ずっと氷製の剣やら槍を飛ばしているのだ。
たまに飛んでくる雷撃も壁でシャットアウトする。
「俺の前では全てが凍てつく——」
本腰入れた魔法を決定打とする。
(あくまでSクラスが確定するくらいの度合いで……)
「まずは攻撃解除」
「……ッ……!」
アイザック先生への細かい攻撃を中止。
彼は全身傷だらけ、下には血だまりができてしまうほど。
「お、お前は——」
何者だ? という彼の疑問の目に心の内で答える。
俺は世界で9番ぐらいに強い人間、らしいですよ。
「
俺の背後に中規模で展開される魔法陣。
ここから氷の波を発生。
それでアイザック先生だけを飲み込む、はずだった。
「————!?」
ただ俺の魔法が完成寸前、邪魔が入る。
それはアイザック先生でも他の教師でも、観客によるものでもない。
「エルッ!?」
邪魔をしたのは——俺の異能だった。
『——
急速に回転する魔力の流れ。
求めていないのに莫大な魔力を突然与えてくる。
「今は必要ない……!」
『相手はたかが人間、1人2人死んでも何ら世界に影響はないわ』
「俺にあるんだっ!」
脳内に狂気を孕んだ
拒否反応をしたせいか、脳みそがガンガン揺れる。
「停止させないとっ……」
『無理無理! チマチマした攻撃なんてもう
自分が最上位の存在だからこそ、多種族を見下すその姿勢。
それは邪心ではなく純心、人の命をただただ純粋に軽視している。
「お前ってやつは——!」
発射寸前の砲台、弾倉に無限とも思える魔力を一気につぎ込まれた。
抑えることで精一杯、というかもう俺の身体が持たな——
「恨むぞエルっ!」
魔方陣がこれでもかと巨大化、深層より冷たき魔力が放たれる。
ブリザード。
凍る、凍る、凍る。
その勢いまさに雪崩の如し。
解放された魔力は氷波を形成、高さは会場を飲み込むほど。
当初はアイザック先生だけを凍らせるつもりだったんだ。
だけど————
数秒後には冷気が漂った、気温がマイナスに連れて行かれた。
「か、会場ごと、凍らせたのか……?」
「……一体何階梯の魔法だよ……」
近くで腰を抜かした少年たちがそう呟く。
(っ……会場の半分は凍らせたか……)
観客席どころか壁を突き破り外にまで氷は届く。
目の前には『氷山』が誕生してしまった。
「これはどうす……」
「ヒエェェェェェ! 殺さないで!」
独り言のつもりが、近くにいた少年は震えながら命乞いをしだす。
『あっはっは! 殺さないでですって! 人間の命乞いはいつ見ても面白いわね!』
「エルっ!」
お前のせいだぞ。
他の受験生たちも血相を変えて逃げ出している。
「いや俺は……」
た、確かにやりすぎけど、なんとかアイザック先生は殺さないように配慮して……
『——————————————』
途端にサイレンが鳴り響く。
「……試験終了ってことか?」
それにしては、やけにけたたたましいような……
『校内にて異常な魔力値を観測しました! 生徒、受験者は、教師の指示に従いグラウンドへと避難してください! 繰り返します校内にて————』
どうやら避難警告、魔族でも現れたか?
観客席にいた受験者も一層急いでこの場から去っていく。
所々凍ってるし、そんなに急ぐと転ぶぞ。
「俺も移動した方がいいか? だけどアイザック先生をまず助けないと……」
このまま置いて行ったら人間性という点で減点されそうだからな。
「救出するか」
魔王ならともかく、その辺の魔族に遅れをとるつもりは一切ない。
戦犯たる
「先生を助け……」
「貴様! そこを動くな!」
誰もいなくなりつつあった寒い会場、急に響くは野太い男の声だ。
「アイザックから離れて、ゆっくり両手を上げろ!」
振り返れば何十人もの魔法騎士がいた。
(甲冑にはここの校章、学園に常駐してる騎士たちか)
しかしおかしな話、彼らは俺に対し槍を向けている。
表情もだいぶ強張っているようだし。
「えーっと……」
「ここで巨大な魔力を感知した! 貴様がこの会場を凍らせたのだろ!?」
「そうですけど……あ」
今ようやく理解した。
サイレンの原因は魔族ではなく、俺だ。
そしてこの人たちは俺を魔族か何かだと思っているらしい。
「ハハハ……」
もはや乾いた笑いしか出てこない。
「な、何がおかしい!?」
「隊長! きっと私たちのことも凍らせるつもりです!」
「なにっ! まだ諦めてないのか!?」
苦難の筆記をようやく終え、勇者に度肝を抜かれて。
そして最後の最後でこのオチを、いや槍を突き付けられる。
「ボス、もう仕事辞めたいです——」
勘違いで絡まったストーリー。
俺の受験はお縄によって幕を降ろした。