この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました   作:東雲(しののめ)

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第7話:入学

 季節は春。

 入試の結果がどうだったかと言うと。

 クレス・アリシア――ハーレンス王立魔法学園、Sクラスに無事合格しました!

 そして今日から学園生活が始まるわけなのだが……

 

「……だけど初日から寝坊するっていうね……」

 

 現在地、引っ越しが終わったばかりの自室。

 |傍『そば』には凍った目覚まし時計、俺がやりました。

 

「久しぶりに寝過ごしたぞ……」 

 

 今までの任務だったらアウラさんが必ず隣にいた。

 彼女はズボラ、もとい大雑把(おおざっぱ)なので毎回俺が起こす。

 その責から解放された、及び試験が終わった事で気が緩んだようだ。

 

「どう考えても入学式には間に合わないんだよなぁ……」

 

 新入生はとうに学園に集まっている時間だろう。

 焦りを通り越して逆に冷静な思考になる。

 

「とりあえず支度(したく)するか——」

 

 王立だけあって制服というものが用意されている。

 白を基調としたなかなか洒落たやつ、両手には刻印隠しの黒手袋を装着。

 

「入学式はもう無理、その後のガイダンスくらいは出ないと……」

 

 遅刻することでまた悪目立ちしてしまう。

 入試の件については、なんとか誤解は解くことができたが——

 

「氷と()以外の属性を制限するだけならともかく、お前が急に強化(バフ)したせいで大惨事だよ」

 

 頭の中にいる異能(かのじょ)に苦情を出す。

 エルのせいで俺の描いていたシナリオは破綻してしまった。

 入学に際し色々偽造、情報改竄(かいざん)めちゃくちゃ頑張ったのに……

 

「なに? 目立ってなんぼ? 俺は監視の任務で来てるんだよ。立場ってものが——」

 

 そう文句を言うが、胸の奥に居座る彼女はツンとした様子で返してくる。

 俺は未だに異能を掌握しきれていない。

 意志持つ力だけあって、扱いが難しいのだ。

 

「それはさておいて、今悩ましいのは、遅刻の言い訳をどうするかだな……」

 

 

 

 ——数十分後。

 俺は自分が所属する1年Sクラスの扉の前にまで来ていた。

 廊下に生徒の姿はなく、静寂だけがこの場を支配する。

 

「素直に寝坊って言うしかないか……」

 

 舞踏会やギルドに潜入したことはあっても、学校という舞台は初めてだ。

 正直言おう、めちゃくちゃ緊張している。

 

(それに今回ばかりは周りとのコミュニケーションが必須だ)

 

 孤立すれば教室で浮いてある意味目立ってしまう。

 人付き合いは苦手だがやるしかない。

 

「……よし、行くぞ」

 

 教室では既に担任教師による説明会が始まっている。 

 

「アウラさんじゃないけど気合だ気合。堂々と登場しよう」

 

 心に発破(はっぱ)。一々こんなことに臆病でいては3年間もやっていけないぞ。

 

「——っ失礼します」

 

 扉に手を掛け一気に開帳(かいちょう)、新世界に遅れながらも一歩踏み入れる。

 そこには同世代の若者たちがズラリと座していた。

 

(よ、予想通りだけど視線の集中が凄い)

 

 教壇には眼鏡をかけ白衣を着た男がいた。

 入学案内書によればこのクラスの担当はデニーロという教師。

 おそらくこの人がそうなんだろう。

 

「おーようやく来たな問題児」

「……おはようございます」

 

 初見から問題児扱いをされる。

 それはもちろん今日の遅刻の件もそうだが——

 

「実技試験で会場ごと潰した前代未聞の学生。もしくは氷魔法の申し子か」

「……」

「実技試験は歴代1位の成績、職員会議でもさんざん話題に……っとまあ、優秀でも遅刻して良いわけじゃないぞ?」

「……すいません」

 

 俺の正体が明るみになった事で皆の眼の色が変わる。

 生じる生徒同士のヒソヒソ会話、更に視線を後方に映せば——

「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ちょっと凛花(りんか)!」

「やはり腐女神(ふじょしん)は従僕たる私を見捨てなかった……!」

 

 俺への注目も一時的に分散。

 それは最後尾に座っていた女勇者が声を上げたから。

 

(居ると分かっていても、リンカ・ワドウはやっぱり怖い)

 

 それを止めるのが同じく勇者であるマイ・ハルカゼと——

 

「また()の神とやらですか? 系譜(けいふ)にはそんな神はいませんのよ」

「……マリーさん、腐女神は心の中にいるんです」

「は、はぁ、そうなんですの……」

 

 同じく(さと)すのは金髪ツインドリルの女。

 公爵令嬢、マリー・ディアンヌスだ。

 同い年ということもあって、生活面で勇者たちのサポートをするらしい。

 

(貴族の子供まで調べる余裕はなかったけど、彼女については嫌でも耳に入ったからな)

 

 当初からSクラス確定と凄い噂だった。

 

「それで? どうして遅刻したんだ?」

 

 デニーロ先生から当然の質問、意気込んでたがワケを実際に言うとなると——

 

「…………です」

 

「なんだ? 聞こえる声で言ってくれ」

「……寝坊、です」

 

 無念。

 堂々となんて言えなかった、少し恥じらってしまう自分が情けない。

 

「なんて可愛い照れ顔……破壊力が……」

「り、凛花、鼻血出てるよ」

 

 俺の理由を聞いて教師含めて皆キョトンとした表情をする。

 

「先生は本当のことを聞きたいなー」

「ほ、ほんとです!」

「実はどこかで事件とか起こしてないよな? 大丈夫だよな?」

「だ、大丈夫ですって」

 

 教師がそんなに疑うってどうなんだ?

 あの実技試験の惨状を知っていれば仕方がないのだろうか?

 

「まぁ、うん、じゃあ信じようか」

 

 ただ最終的に俺の表情を見て納得はしてくれる。

 

「ならとりあえず自己紹介しておけ。他の生徒はもう終わった」

「分かりました」

 

 改めて生徒たちの方を見る。

 

(最後尾に勇者4人と公爵令嬢ね。綺麗に横一列に並んでくれてる)

 

 生徒数は俺を入れて30人、ここに居るのは王国トップクラスの優秀な者たちだ。

 そこで実技入試1位を獲得してしまうとは、本当に大失敗だ……

 

「名前はクレス・アリシアです。ヘルシン大陸から来ました」

 

 出身はここユグレー大陸からかなり離れたヘルシン大陸という場所。

 簡素な挨拶、開示しすぎるのも問題だ。

 

「これからよろしくお願いします」

 

 紹介文はコンパクトに、軽いコンタクトで済ませる。

 孤立は避けたいが、別に深く関わりたいなんて思っていないんだ。

 

「席はスミス・アルビンの隣、マイ・ハルカゼの前だ」

「はい」

 

 勇者の前の席か……

 ただ謎のオーラを放つ勇者、ワドウの前よりかはマシだ。

 

「よう遅刻者」

 

 勇者たちに注意を払いつつも、隣人となる男が一声を上げる。

 

「えっと……」

「スミス・アルビンだ。よろしく!」

 

 左右前後に人はいるが、まず話しかけてきたのはスミス・アルビンという男。

 

(データは特にない。おそらく平民)

 

 短い金髪、顔立ちも完全にハーレンス人。

 活力で溢れているイメージで、ぱっと見悪い奴ではなさそうだ。

 

「スミスでいいぜ。オレもクレスって呼ぶから」

「分かった。よろしくスミス」

 

 なかなか気さくそう。アウラさんみたいなタイプだ。

 初っ端から付き合いやすそうな——

 

「しっかしホント顔は可愛いよな」

「え……そういう趣味なのか……?」

 

 前言撤回、危ない奴だったかもしれない。

 

「いやいや、オレは美少女と美女にしか興味はない」

「ど、堂々と言うんだな……」

「実は女の子とかないのか? よくあるじゃん、女なんだけど男のフリをして学園に通うみたいな語」

「それはおとぎ話だ。そんな奴が実際にいるわけないだろ」

 

 女によく間違われる俺でも絶対やらない。

 なにせトイレ、着替え、実技授業、行事、色々な弊害(へいがい)がある。

 

「まず現実ではありえない」

「だよなぁ。だがクレスを女装させ更衣室に潜入させれば……」 

 

 スミス・アルビン、俺が学園でマトモに話した最初の男。

 物語という例え話が続くのなら、主人公の友人枠に該当か。

 

「あーあ、美少女に突然告白されたりしねえかなぁー」

 

 緩い笑みを浮かべてひたすら美少女がどうたらと呟く。

 

(普通の人、じゃなさそうだ……)

 

 と、とりあえず様子を見つつ、一応友人として接していこう。

 

「はいはい静粛(せいしゅく)に。説明の続きをするぞー」

 

 デニーロ先生から注意を受ける。

 俺も姿勢を前向きに、これでも真面目に学園生活を送るつもりなんだ——

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