この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
季節は春。
入試の結果がどうだったかと言うと。
クレス・アリシア――ハーレンス王立魔法学園、Sクラスに無事合格しました!
そして今日から学園生活が始まるわけなのだが……
「……だけど初日から寝坊するっていうね……」
現在地、引っ越しが終わったばかりの自室。
|傍『そば』には凍った目覚まし時計、俺がやりました。
「久しぶりに寝過ごしたぞ……」
今までの任務だったらアウラさんが必ず隣にいた。
彼女はズボラ、もとい
その責から解放された、及び試験が終わった事で気が緩んだようだ。
「どう考えても入学式には間に合わないんだよなぁ……」
新入生はとうに学園に集まっている時間だろう。
焦りを通り越して逆に冷静な思考になる。
「とりあえず
王立だけあって制服というものが用意されている。
白を基調としたなかなか洒落たやつ、両手には刻印隠しの黒手袋を装着。
「入学式はもう無理、その後のガイダンスくらいは出ないと……」
遅刻することでまた悪目立ちしてしまう。
入試の件については、なんとか誤解は解くことができたが——
「氷と
頭の中にいる
エルのせいで俺の描いていたシナリオは破綻してしまった。
入学に際し色々偽造、情報
「なに? 目立ってなんぼ? 俺は監視の任務で来てるんだよ。立場ってものが——」
そう文句を言うが、胸の奥に居座る彼女はツンとした様子で返してくる。
俺は未だに異能を掌握しきれていない。
意志持つ力だけあって、扱いが難しいのだ。
「それはさておいて、今悩ましいのは、遅刻の言い訳をどうするかだな……」
——数十分後。
俺は自分が所属する1年Sクラスの扉の前にまで来ていた。
廊下に生徒の姿はなく、静寂だけがこの場を支配する。
「素直に寝坊って言うしかないか……」
舞踏会やギルドに潜入したことはあっても、学校という舞台は初めてだ。
正直言おう、めちゃくちゃ緊張している。
(それに今回ばかりは周りとのコミュニケーションが必須だ)
孤立すれば教室で浮いてある意味目立ってしまう。
人付き合いは苦手だがやるしかない。
「……よし、行くぞ」
教室では既に担任教師による説明会が始まっている。
「アウラさんじゃないけど気合だ気合。堂々と登場しよう」
心に
「——っ失礼します」
扉に手を掛け一気に
そこには同世代の若者たちがズラリと座していた。
(よ、予想通りだけど視線の集中が凄い)
教壇には眼鏡をかけ白衣を着た男がいた。
入学案内書によればこのクラスの担当はデニーロという教師。
おそらくこの人がそうなんだろう。
「おーようやく来たな問題児」
「……おはようございます」
初見から問題児扱いをされる。
それはもちろん今日の遅刻の件もそうだが——
「実技試験で会場ごと潰した前代未聞の学生。もしくは氷魔法の申し子か」
「……」
「実技試験は歴代1位の成績、職員会議でもさんざん話題に……っとまあ、優秀でも遅刻して良いわけじゃないぞ?」
「……すいません」
俺の正体が明るみになった事で皆の眼の色が変わる。
生じる生徒同士のヒソヒソ会話、更に視線を後方に映せば——
「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ちょっと
「やはり
俺への注目も一時的に分散。
それは最後尾に座っていた女勇者が声を上げたから。
(居ると分かっていても、リンカ・ワドウはやっぱり怖い)
それを止めるのが同じく勇者であるマイ・ハルカゼと——
「また
「……マリーさん、腐女神は心の中にいるんです」
「は、はぁ、そうなんですの……」
同じく
公爵令嬢、マリー・ディアンヌスだ。
同い年ということもあって、生活面で勇者たちのサポートをするらしい。
(貴族の子供まで調べる余裕はなかったけど、彼女については嫌でも耳に入ったからな)
当初からSクラス確定と凄い噂だった。
「それで? どうして遅刻したんだ?」
デニーロ先生から当然の質問、意気込んでたがワケを実際に言うとなると——
「…………です」
「なんだ? 聞こえる声で言ってくれ」
「……寝坊、です」
無念。
堂々となんて言えなかった、少し恥じらってしまう自分が情けない。
「なんて可愛い照れ顔……破壊力が……」
「り、凛花、鼻血出てるよ」
俺の理由を聞いて教師含めて皆キョトンとした表情をする。
「先生は本当のことを聞きたいなー」
「ほ、ほんとです!」
「実はどこかで事件とか起こしてないよな? 大丈夫だよな?」
「だ、大丈夫ですって」
教師がそんなに疑うってどうなんだ?
あの実技試験の惨状を知っていれば仕方がないのだろうか?
「まぁ、うん、じゃあ信じようか」
ただ最終的に俺の表情を見て納得はしてくれる。
「ならとりあえず自己紹介しておけ。他の生徒はもう終わった」
「分かりました」
改めて生徒たちの方を見る。
(最後尾に勇者4人と公爵令嬢ね。綺麗に横一列に並んでくれてる)
生徒数は俺を入れて30人、ここに居るのは王国トップクラスの優秀な者たちだ。
そこで実技入試1位を獲得してしまうとは、本当に大失敗だ……
「名前はクレス・アリシアです。ヘルシン大陸から来ました」
出身はここユグレー大陸からかなり離れたヘルシン大陸という場所。
簡素な挨拶、開示しすぎるのも問題だ。
「これからよろしくお願いします」
紹介文はコンパクトに、軽いコンタクトで済ませる。
孤立は避けたいが、別に深く関わりたいなんて思っていないんだ。
「席はスミス・アルビンの隣、マイ・ハルカゼの前だ」
「はい」
勇者の前の席か……
ただ謎のオーラを放つ勇者、ワドウの前よりかはマシだ。
「よう遅刻者」
勇者たちに注意を払いつつも、隣人となる男が一声を上げる。
「えっと……」
「スミス・アルビンだ。よろしく!」
左右前後に人はいるが、まず話しかけてきたのはスミス・アルビンという男。
(データは特にない。おそらく平民)
短い金髪、顔立ちも完全にハーレンス人。
活力で溢れているイメージで、ぱっと見悪い奴ではなさそうだ。
「スミスでいいぜ。オレもクレスって呼ぶから」
「分かった。よろしくスミス」
なかなか気さくそう。アウラさんみたいなタイプだ。
初っ端から付き合いやすそうな——
「しっかしホント顔は可愛いよな」
「え……そういう趣味なのか……?」
前言撤回、危ない奴だったかもしれない。
「いやいや、オレは美少女と美女にしか興味はない」
「ど、堂々と言うんだな……」
「実は女の子とかないのか? よくあるじゃん、女なんだけど男のフリをして学園に通うみたいな語」
「それはおとぎ話だ。そんな奴が実際にいるわけないだろ」
女によく間違われる俺でも絶対やらない。
なにせトイレ、着替え、実技授業、行事、色々な
「まず現実ではありえない」
「だよなぁ。だがクレスを女装させ更衣室に潜入させれば……」
スミス・アルビン、俺が学園でマトモに話した最初の男。
物語という例え話が続くのなら、主人公の友人枠に該当か。
「あーあ、美少女に突然告白されたりしねえかなぁー」
緩い笑みを浮かべてひたすら美少女がどうたらと呟く。
(普通の人、じゃなさそうだ……)
と、とりあえず様子を見つつ、一応友人として接していこう。
「はいはい
デニーロ先生から注意を受ける。
俺も姿勢を前向きに、これでも真面目に学園生活を送るつもりなんだ——