Fate/Grand Order if「矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア 遠き黄金の奇跡」 作:一四
1.
懐かしい夢を見た。遠くないはずなのにもう遠くになってしまった、昔の記憶。
夕暮れの空、少し埃を被った机、人気の少ない別棟の空き教室。そこに俺と友人達はいた。
カードが並べられた机を挟み、向かい合っている。誰からともなく、昔少しやっていた対戦型カードゲームがなぜか急にもう一度やりたくなって、もう一度カードを集めて、密かにここに集まった。そして今、勝負に決着がついた。どうやら俺は負けてしまったようだ。まぁ俺がこのゲームで勝った記憶なんてそんなにないから、期待はしていなかったけど。何とも夢のない夢だと、そんなことを思った。対戦していた友達だったはずの男が口を開く。
「お前どうしてそのカード使ってるんだ?ちゃんと使えてるとこみたことないし、こっちのカードのほうがよっぽど強いぜ?別に手に入らないわけじゃないだろ?」
懐かしいとも思えないほど記憶は遠くなっていて、いまいちあいつの声だとピンとくることもなく、懐かしさを感じられないことに少し悲しさを憶える。しかしこれは確かにあった光景で、ここにまだ自分がつながっているということの嬉しさのほうが俺の中では勝っていた。
そして朧げな記憶を頼りに、俺はその気に入っていたはずのカードを手にとって話始める。
「どうしてかって言われるとなぁ。このカードにも確か物語があったよなぁ…って思って、調べたんだよね。それで知ったんだけど、こいつはただみんなを守りたくて、でもそのために誰かと戦わないといけない。でも戦いたくはない。そんな優しい矛盾でどうにもならなくなったそんなやつらしいんだ。それを知ったらなんだか放っておけなくて。それで、かな…?」
それを聞くとそいつは呆れたようにわらってこういった。
「なんていうか、お前らしいな。」
その言葉を聞いてはっきりとその声が記憶とつながる。
こうして夢に移るほぼすべてのものが鮮明になった。だからこそ気になる。唯一もやがかかったように思い出せない。その手元にある、優しいだれかが映ったカード。それが一体だれなのか。必死に記憶をたどり、答えを見つけ出そうとする。
「そう、たしか君は…。」
そこで俺の意識は途切れた。いや、覚醒した。
2.
最早慣れてしまったけたたましいアラートで俺は目を覚ました。いつも通り制服に着替え、装備をチェックする。そのことに夢のせいか少し感傷的になりそうになるけど、それを堪えて頬を叩き気合いを入れ直す。机に置いてあったものをポケットにしまい、ダヴィンチちゃんのアナウンスの指定どおり、駆け足で管制デッキへ向かう。しかし今回のアナウンスは少しおかしかった。歯切れが悪いというかなんというか。通例から考えるなら夏とかハロウィンにありがちなトンチキ特異点のときに近しい気がするけど一体どうなっているのか。少しの不安と共に俺は管制デッキに足を踏み入れた。そこにはすでにマシュ、ダヴィンチちゃん、ゴッフ司令官といつものメンバーが集合していた。
「藤丸立香到着しました。」
「ああ藤丸くん、毎度ゆっくり休憩中に悪いね。アラートで知らせた通り特異点が発見された。オーディール・コールの件といい、空想樹は無くなってもせわしないものだよ。」
「まったくもってその通りだ!こちらも朝食の真っ最中だったというのに...。何も終わった気がせんわ!まあ、私もこうして長いわけだから、流石になれてしまったがね…。それで?今回はいったいどこで何があったというのだね?アラームのレベル的に可及的速やかに対処しなければいけないというほどではないようだが?」
「あくまで現状はね?見つかったのは微小特異点。しかももう少しで自然消滅すると思われるものだ。」
「しかし、わざわざアラートをかけたということは何かしら不審な点があった、ということですね?」
「マシュの言う通り。まずこの特異点の持つ特性は空想樹に非常に近しい。今までにないケースだ。だからもしこれが大規模特異点になろうものならどれくらいの被害になるのか想定ができない。さらにこの特異点は藤丸君の故郷、日本に発生しているんだけどその年代というのがね…」
「年代?日本に関しては縄文から近代まで広くいったことあるし問題なさそうだけど?」
「それが…2024年...今が正しければ訪れていた時間になっているんだ。」
「それは…つまり...。」
もしもなに事もなく今日を迎えていたら。そんなあり得た前提の世界の姿が頭をよぎる。思い出したあいつと久しぶりにあったりなんてこともあったかもしれない。なんだか今日は朝から心を揺さぶられてばかりだ。
「異聞帯のようなもしもの今、そして特異点としての深度が低く消滅しかねないともなると、限りなく本来の歴史に近い状態になっていても不思議じゃない。そんな特異点を警戒しないわけにはいかない。しかも特異点内の状況は観測できないんだ。脅威度は低いと出ているがそれを真に受けるには不安要素が多すぎる。ということで現地へレイシフトしての調査をお願いしたい。」
俺としてもその特異点のことは気にかかる。流石にそこから世界が元に戻っていってる、とかは都合が良すぎるとおもうけど。それでもなにか、現状打破のきっかけだとか、南極突破の手がかりだとかがあるかもしれない。そう思い了解を口にしようとしたとき、マシュが出撃を静止した。
「しかし、内外での情報の遮断が起こりそうなのは気がかりです。かつてこうして現れた特異点がカルデアを標的とし、おびき寄せる形で追い詰めてきた事例もあります。南米異聞帯での戦闘からの復旧も完全という訳ではありませんし、先輩に関わる不安要素が多い中、不測の事態が起こった場合の対策がない状態で先輩を行かせるわけには...。」
俺を思ってくれての事だったらしい。確かに少し前のめりになってしまってたかもしれない。少し反省をしつつ、それでも今回の特異点は聞いただけでも怪し過ぎて放っておきたくはない。マシュには心配をかけることになるけど、行かないと…。などと考えていると、ダヴィンチちゃんには解決策があるようでそれを話し始めていた。
「それに関してはシオンがすでに対策を始めている。曰く、」
「例外と異なるテクストのナイトカーニバルとかナイナイ!絡み過ぎると面倒になるという計算結果が出たので私の出番はカットってことで。今夜は譲って裏方に徹させてもらいます。悪しからず。」
「とかで現在内外をつなぐ通信の確立を急いでいる。カドックもそっちの手伝いに回ってくれている。ほぼ完成しているから現地到着後即座に通信が可能になるはずだよ。それに…今回はマシュの心配に関しては解決する方法がある。」
「それは一体何なのでしょう!?教えてくださいダヴィンチちゃん!」
ダヴィンチちゃんの一瞬の表情の変化で俺はなんとなく言いたいことは理解できた。マシュはその方法を提示されれば必ずその方法をとる。普段なら特段の心配は無く、なんなら頼もしい話だけど、今この状況において躊躇ってしまうのは分かる。ダメージを負っているのは俺だけじゃない。俺も鈍感だったけど、それは先輩譲りになってしまったらしい。俺よりも早く憂いを絶ったであろうダヴィンチちゃんは続ける。
「それはねマシュ、君が同行することだよ。」
「!?」
「今回の特異点にもレイシフト適正が出ているんだが君の適正は非常に高い。だから今回の特異点では彼を直接護衛することが可能だ。しかしそのうえで、君に強い適正があることも含め、これがカルデアへの攻撃である可能性も高いといえる。だが放置する事にも不安がある以上、確認しにいかないわけにはいかない。その場合、現地で直接行動できるようにしておくことが最も確実な対策だ。君の出撃というのがどういうことかは十分理解しているつもりだとも。だからマシュが望むのであれば私ができる限りの準備をして現地で活動できるようにするし、望まなかったとしても彼のバックアップでの保護には全力を尽くすよ。いつも通りね。どちらにするかはマシュが自分の意志で決めるといい。私はその選択を尊重するよ。」
そう選択を迫るダヴィンチちゃんを制すように、あるいはかばう様に、ゴッフ司令官が話を遮る。
「まて、技術顧問よ。それを最終的に決定することができるのは司令官たる私だけだ。私から問わせてもらう。どうする、キリエライト?」
マシュはその問いに少し逡巡する様子はあったが、いつも通り真っすぐな目でその思いを伝える。
「そう問われたのなら、私は行きたいです。ダヴィンチちゃんたちが最善を尽くしている中、私がそうしないというわけにはいきません。」
そう決めたのなら、マスターとして、先輩として、俺はその思いに答えなくちゃ。いつもマシュが危険から俺を守ってくれるように、俺も俺に守れるものを、その思いくらい守らなきゃ。いろんな不安を押し殺して言葉にする。
「マシュが一緒なら今回は安心だね。」
「その期待に応えられるようマシュ・キリエライト、最善を尽くします!」
その様子にダヴィンチちゃんも表情を和らげて、いつもの自信にあふれた表情で答えてくれる。
「わかった!それじゃあオルテナウスを緊急調整するよ。少し時間がかかるから、藤丸君は今回同行するサーヴァントの選定をゴルドルフ君と行っていてくれ。再集合は3時間後、再集合の後、レイシフト決行だ!」
「了解!」
3.
という事でゴッフ司令と共にサーヴァントの選定をすることにしたのだが、リスト睨み続けて長い間二人でうなってしまっていた。
「うーん、なんというかこう…。」
「統一感がないな…。」
最初は日本出身のサーヴァントが多いとおもっていたけど、見ていくうちに変わってきて最早法則性は読み取れない状態だった。
「ううむ…なんなら日本に何の所縁もなさそうなのまではいっているしな。もう適当に選んだら僕の考えた最強のサーヴァント部隊ができるのではないかね?とりあえずジークフリートとかいれとけばよいのではないか?ジークフリートとか。」
「うーん。みれば多少特異点の傾向とかわかるかもだったんだけどそういう情報がとれないならそれもありかもなぁ…。諜報ならニンジャとか…とりあえずバーサーカーから一人連れておきましょうか。」
「こういうとき経営顧問がいてくれればスパッと決まるのだがねぇ。」
「まあ、まだ話す時ではないとか言いそうですけどね。」
とりとめの無い話をしながら足りない頭をひねって必死に出した結論は…
「第一回!チキチキ特異点同行サーヴァントドロー!」
「ようはカードを使ったクジではないかね⁉ホントにそんなんで大丈夫なのかね!?」
「大丈夫ではないんですけど…。今朝、昔カードゲームとかしてたときの夢とか見て…。適正サーヴァントが40人くらいいるなーって思ったらつい…。なんかみんな召喚されるときカードっぽいの出てくるし…。」
「ふむ藤丸の夢か…。こういう変な特異点の前のお前の夢というのは案外と振り返れば大事だったりするしな…。頭脳班が居ない中での我々の限界か…」
「それじゃあ、今回の同行サーヴァントはマシュを除き7人まで!運命のドロー!」
「ふむ、同行するサーヴァントはビリー、ヴリトラ、イスカンダル、コルデー、ナーサリー、頼光の六名か…。戦闘活動においては問題無いだろう。諜報に関してもコルデーとナーサリーなら現代での活動でも問題はなさそうだ。少々素行に問題があるサーヴァントが多い気もするが、キミが大丈夫というなら大丈夫だろう。」
あんな決め方ではあったがダヴィンチちゃんからのお墨付きはもらえたのでよかった。
この状況下で出撃可能な枠を一つ放棄するっていうのはダメかと思ったけど、ダヴィンチちゃんがOKを出してくれているということは大丈夫ということだろう。
改めて全員が管制デッキに集合したことを確認し、ダヴィンチちゃんは最終確認を始める。
「では今回のレイシフトの最終ブリーフィングを開始するよ。今回向かう特異点の発生地点日本、人理定礎値はE-。しかし異文深度が低数値ながら微動、特異点でありながら異聞帯の要素を持っていると考えられる。」
「今までの異聞帯とは異なり嵐の壁などの妨害は無いが内部の観測は不可能だった。この事からこの事象を何らかの大きな問題発生の前兆と考え、情報収集、並びに解決のためレイシフトを決行する。」
「レイシフトするのはマスター、藤丸立香。サーヴァント、シールダー:マシュ・キリエライト、アーチャー:ビリー・ザ・キッド、ランサー:ヴリトラ、ライダー:イスカンダル、アサシン:シャルロット・コルデー、キャスター:ナーサリー・ライム、バーサーカー:源頼光。以上8名でのレイシフトになる。」
「特筆すべき留意事項は二点。一点目は今回の特異点には以前のケースにあったカルデアを巻き込もうとする特異点の特性がある。そのため予想外の戦闘や妨害がある可能性に留意しておくこと。」
「そして二点目、これはマシュ、キミにだけ向けるものなんだけど、オルテナウスの状態は活動可能だが完璧な復旧とまでは言い難い。無理な戦闘はなるべく控え、同行するサーヴァントとの連携を重視すること。そして切り札になりえるブラックバレルは状態的に撃つのは1回限りだ。正直そんなものを使うことを想定したくないけれど乱発は出来ないということを前もって知っていてほしい。ようは無理をしないでねってことさ。わかったかな?」
「了解ですダヴィンチちゃん。今回は戦闘は極力控えマスターの護衛に徹しようと思います。」
「それならよし!じゃあゴルドルフ君、司令官として、最後に激励を頼むよ。」
「うむ。異聞帯全ての切除が終わって間もないタイミングでの出撃ということで、皆いまだに心休まらないだろうが、なんといっても今回の特異点は微小なものだ。とっとと行って、無事に帰って、そして久しぶりの何ともない日を迎えようではないか。」
「うん!ちょっとどころかすっごくフラグっぽく聞こえるけど良し!それじゃあレイシフト開始だ!」
新所長の頼もしい言葉を聞き、俺とマシュ、そして同行するサーヴァント達はレイシフトの最終準備に入る。
「アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。レイシフト開始まで あと3、2、1…」
「全行程 完了。レイシフト 実証を 開始 します。」
その数秒後、管制室ではレイシフトが開始された直後から異変が発生していた。
「観測した特異点内部人理定礎値、みるみる下がっていきます!E-からE+へ…C…B+…A+に到達!」
「異聞深度も同時に上昇を開始!計器、正しい数値を算出できません規格外、EXです!」
「なんだそれ!?レイシフトの成功に反応しての上昇!?しかもEX!?一体どんな仕組みで…?いや分析は後だ二人の存在証明を怠らないように!」
「二人はどうにか保っていますが、サーヴァントの方は…、一基の保持が限界です…!」
「これはもしかして…私のせいなのかね…?」
幕間
「そういえば知ってますか?」
「なんの話だ?」
「今回のレイシフトへ同行するサーヴァントについて、です。」
「特別おかしな点は無かっただろ?それぞれ実力のあるサーヴァント達だと思ったが。征服王に西部開拓時代のアウトロー、暗殺の天使に、インドの神霊から御伽話の妖精、東洋のデーモンハンター。チグハグに見えるがカルデアの召喚っていうのはああいうものだろ?」
「まあ、確かにそうなんですけどね?話したいのは、今回同行するサーヴァントを決めた方法でして。」
「方法?適正サーヴァントから出撃予定数までをピックして、だろ?」
「それが適正を持つサーヴァントが大量に存在していまして、マシュさんを除く対象者計39基の適正は全くといっていいほど同じだったんですよ。その数値に関して影響を算出しましたが、正直誤差ですね。今までの記録から見ても、本人の気性など厳密に数値に出来ない部分で覆せる程度の差です。」
「なるほど。そうなると決めるのは難しくなるな。前提となる環境も今回は想定出来ないわけだし。」
「と、いうところでの決定方法ですよ。なんだとおもいます?」
「さあ?なんなんだよ?皆目検討もつかない。」
「ノリが悪いですねぇ。まあいいでしょう。答えはカードです。」
「カード?」
「ええ。カードを対象サーヴァント数分用意して、シャッフルして、上から引いて出たサーヴァントを選んだんですよ。」
「マジか…?本当にそれを通したのか?」
「正直、未知不可知の場所にどんな準備をすべき、なんてものはありませんからね。絶対勝てると思う手札を用意したら、手札を交換して始めるなんてルールが後出しで来てもおかしくないような場所ですから。」
「そう言われればそうだが…。」
「適当に見えますか?私もそう思いますが、こういう時のカンって侮れませんから。それに、メンツがどんな組み合わせでも一定までの実績をあげられるものであることは計算済みでしたから。」
「それもそうだが…納得できる部分はあると思ってな。」
「納得出来る部分ですか?」
「ああ。いってしまえばカードを使った占いみたいなものだろ?だったらそれは魔術的な意味を持ち得る。カードを7から8枚を用いて未来を占うなら天体の照応だって可能だ。今回の場合、自身を地球に見立て、残りの7枚を引けばそれはあるべきものがあるべき場所に至る理屈を持っている魔術の行使とも考えられるだろ?いかにも天体科の端くれらしい手法だと思わないか?」
「確かにそうなんですけどね?確かにサーヴァント七基をピックしていればそう言えるんですけど、実際そうはなっていないんですよね。」
「…?確か出撃したサーヴァントは七基の筈だろ?」
「ええ、確かに出撃したのは七基です。しかし、彼がその手法で選出したサーヴァントは全部で六基なんですよ。」
「どういうことだ…?」
「彼は確かに7枚のカードをめくりました。しかし最終的に彼がピックしたサーヴァントは六基。つまり除外されているカードがあるということになります。」
「順当に考えればマシュのカードなんじゃないのか?」
「いいえ。彼は引く以前にマシュさんは別枠で出撃することを認識していてカードを引いていた。それは前後の言動から確認できています。」
「となるとあいつは…」
「一体なんのカードを引いたんだ…?」
そういえば…。
「あの空白のカードはいったい…」
「なんだったんだろう?」
A.D.2024? 矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア
遠き黄金の奇跡