Fate/Grand Order if「矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア 遠き黄金の奇跡」 作:一四
1.
レイシフト完了後、目を覚ましたのは大理石のようなもので出来た柱が立ち並ぶ神殿のような荘厳な建物。それらにはいたるところから水晶の結晶が現れていて、ここが尋常な空間ではないということを示していた。上を見上げれば屋根はなく、青い空が見える。そこは中庭の様なものらしく、一面は花畑になっていて、自分はその中央の開けた場所にいるようだった。周囲に敷き詰められたように咲く色とりどりの花は異様なほど輝かしく、美しいようにみえる。
「ここは一体…マシュは?サーヴァント達は!?」
周りを見渡しても人影は一つも見えずひたすらに花が咲いているだけだ。
「そうだ通信!通信は…」
おぼろげにコールは聞こえるが、こちらの声が届いている様には思えない。
マシュにもコールをかけるがそちらは反応がない。幸い霊基グラフはあるので簡易召喚による一時的な自衛は可能だが、通信に応答しないマシュが心配だ。
「とりあえず動かなきゃ…。」
途方にくれながらもとにかく移動するしかないと動き始めようとしたとき、こちらに呼びかける様な声が聞こえた。
「もしかしておきたの?だいじょうぶ?ケガしてない?」
そう問いかけられた筈だが周囲に人影はない。不思議に思っているとその声の主らしきモノはこちらに近寄ってきた。頭と思わしき部位には一本の角があり、丸い球体のような体には羽?があり、フワフワの体毛から除く大きな目が愛らしい。鳥類の用にもみえるくちばしのような器官をパクパクさせて発声しているところから見ると多分鳥?に類するものなのか?それが花畑の中をぴょんぴょん跳ねてやってくるのが見えてきた。
「キミは一体…?っていうか言葉喋れるの…?」
「うん。話せるよ?これってへんなことなのかな?」
逆に質問されてしまう。果たしてこの特異点の原生生物の鳥?が話せるのは普通なのか?分からないことだらけなので細かいことは置いておいて思ったことを話す。
「多分変じゃないと思う。俺もよく知らないけど…。」
「そっか!それならいいんだ。」
そう言ってその生き物はこちらに近づき羽をこちらにかざす。そうするとその羽が光始めその光が俺を包み込んでいく。
「なにこれ!?大丈夫なやつ!?」
「うん。たぶん、だいじょうぶだよ。こうするとここの花は元気になるんだ。キミにもきくかも。」
目覚ましい効果は現れなかったが確かに体が少し軽くなった気がしないでもない気がする。
効能はまちまちだけど何かに力を与える力を持っているみたい。令呪に近いと考えると魔力を供給してるのかな?
「ありがとう。すこし楽になったよ。」
「元気になった?よかった。元気じゃないのはダメだ。」
「そういえば自己紹介まだだったね。俺は藤丸立香。キミは?」
「名前…ないんだ。気づいたらここにいて出れないし、やることもないから、花の世話をしてたんだ。ぼくにできるたった一つのことだから。」
「そうか…俺とあまり変わらないんだな…。」
自分と同じようになにも分からずここにいた生物。すこし危なっかしい印象もあって、なんだか放って置けない気がして、思わずその思いが口に出た。
「じゃあ一緒に来る?俺はここから出て、行かなきゃいけないとこがあるんだ。その間また一人だと暇だろ?」
「何しに行くの?ここはなにもないけど、かなしいことも無いよ?ここにいればいいんじゃない?」
唐突に突きつけられた鋭い質問に言葉が詰まる。その問いに対する答えをどうにか言葉にしようとしてみる。
「でも嬉しいことだってないだろ?それじゃつまらないしそれに…」
「俺が来た時、ケガしてると思ったんだろ?もしかしたら本当にひどいケガだったかも知れないし、取り返しがつかないことだったかもしれない。」
「そうしたらダメなんだろ?多分それって悲しいからだろ?」
「だったらここにいてもいつか、悲しいって思うときが来るかも知れない。だから、とりあえず動いてみない?」
「ここにはいいことも、悪いことも、あるかもしれない。でも、それを待ってることしかできない。でもここから出れば、いいことも悪いこともどっちだって自分で向かっていけるかもしれない。」
「待ってるだけよりもなんか…生きてるって感じがしない?」
「生きてるってかんじ…痛いかもしれないし、痛くないかもしれない…。」
少し悩むような様子をみせ、その子は意を決したように口を開いた。
「知りたい。生きるってこと。だからついて行っていい?」
「もちろん!ええっと…そういえばなんて呼ぼう…」
急に名前をかんがえるとなっても何も思い浮かばない。そんな中なんとか捻り出した名前は、
「アス!とかどうかな?俺が向かってるとこでキミもここから向かうもの…なんだけど安直かな…?」
「アス…キレイ。アス!ボクはアスだ!」
「気に入ってくれたみたいで良かった。じゃあこれからよろしく、アス。」
「よろしく、リツカ。」
俺はなにも分からない中、この特異点で初めての友達を得る事になった。その時、花畑の花が風もないのに揺らめいていた、そんな気がした。
2.
「にしてもすごい花の数だなぁ。」
中庭を抜けて出口に行くために、アスの案内で花畑を進んでいく。その時に気づいた事だけど、どうやらこの花畑の花は全て水晶で出来ているらしい。やたらと綺麗に見えたのもそもそも光を反射していたかららしい。一見植物には見えないけど、アスいわく、どうやら生きているらしい。よく喋るとか喋らないとかの違いがあるとか。アスの力を魔力の供給だと仮定すると魔法の花みたいなもので、魔力をつかったよくわかんない原理で生きてるのかもしれない。まだダヴィンチちゃんとの通信が不安定なのが惜しまれる。
「そうだ。アス、ここの花って持って行ってもいいのかな?」
「うん、いいと思うよ。この子たちもここじゃなきゃ生きられないわけじゃないみたいだし。そこの子とかいいと思うよ。」
そういってアスが指さした花を一つ摘んでみた。その時目の前が一瞬ホワイトアウトし、断片的な景色が浮かんでくる。スーツの様なものを着ている人々、それをとらえる虫とも龍ともいえるような怪物。それが同じスーツを着た多くの人間を蹂躙していく。その脅威が自分の方にも視線を向けた時、意識を取り戻した。アスが心配そうにこちらに寄ってくる。大丈夫だと安心させるが、実際のところかなり混乱している。この光景は一体…?
「アス、この花を摘んだ時、知らない景色が見えたんだけど、これが何か知ってる?」
「それは多分…その子の見てきたものだよ。その子がさく前に見た一番つよい記憶。リツカはマナをたくさん持ってるみたいだから、ボクみたいにその子たちと話すよりもすごいことができたのかもしれないね。」
「マナって魔力のこと?」
「魔力?分からないや。ボクが人に光を通してわたせる力。マナっていうらしいんだ。それもこの子たちの一人に教えてもらったことなんだけどね。」
なるほど。知ってる事が多いような少ないような不思議な感じだったけど花が情報源だったのか。となるとこの花はやっぱりただの花じゃないみたいだし、分析のためにも採取しておいて正解だったかもしれない。
そうこうしているうちに出口らしき場所にたどり着く。人の背丈の何倍もある扉で、まるで巨人用だ。あの花の記憶で見た怪物が本当にいるなら、そういう存在の出入り用って考えれば違和感はないけど…。出ていく前に改めてこの部屋を振り返って見る。水晶の花園が延々と続く中庭。外の世界に怪物が溢れているなら一体だれがこんなものを作れたんだろうか。そして作ったのならなぜアス以外の人がいないんだろう。疑問は残るが、現状答えは出せそうにない。そして新たに気づいたことがあった。初めに見ていた壁だと思っていたもの、それが彫像であった事に気づいた。どこかで見たことがあるような無いような。上半身は獅子のような鬣を持つ角をもった巨人。下半身がヤギのような大きな角をもった生き物の頭部になっている半人半獣のような姿で腕を組むように威厳ある姿で佇んでいる。それは劣化し水晶に囲まれていたことで壁と上手く同化しているようだった。
「あれは…?」
「ボクもよく知らない。花のみんなもよく知らないらしいんだ。」
とりあえずここにいた時に何もしてこなかった以上、害はないだろう。というか、あれは生きているのか?生きているようには感じない。冬の桜みたいな印象を憶える。謎は依然としてあるがそれはいつも通り。そしていつも俺達はそれを力を合わせて乗り越えてきたんだ。今回だってそうだ。だからそのためにも、
「よし!じゃあ出ようか!」
「うん。外のせかい…何があるんだろう。」
開け方はアスが花から聞いていたらしく、マナを扉に注ぎ込むと徐々に扉は開いていった。
その先へ俺達は進んだ。
「そして、一体、何が無いんだろう。」
3.
扉を抜けた先はあまりにも印象が違っていた。無機質な真っ白で真っすぐ伸びた道、綻び等見えない真っ白な壁。たまにそこに七色の光が伝う。もしかするとこれも水晶だったりするのだろうか?無駄をなくした代わりに道としての役割もなくしてしまったような、何もない広いだけの道は行く先をしめしてくれる事はなかった。
「困ったな…だいたい道なりに行けば外にくらいでられると思ったんだけど…」
「...適当にまっすぐ進むしかないか!」
意気揚々と出てきて早々立ち往生になってしまった。しかし立ち止まっているわけにもいかず歩を進めようとした時、その前をアスがすごい勢いで進んでいく。まるで行くべき場所がわかっているかのような様子で動じることなく進んでいく。それに置いて行かれないようついていき、話を聞く。
「アス、ここのこと何か知ってるの?」
「いや、知らない。でも声がするんだ。」
「声?」
「そう。助けてほしいってよんでるんだ。たくさんの人が。そういうのが伝わってきたんだ。花の時みたいに。放っておけないよ。助けなきゃ。」
「...うん、そうだね!」
アスは生き物の心を読み取れるのか?何はともあれそれが事実なら放っておけない。令呪と霊基グラフの準備をし足を速める。果てしないように見えた道も終点が見え、しかし、そこにあった扉からは人の気配が全くしない。すでに手遅れなのかもしれないという思考が過るが、振り払うようにアスが開けてくれたドアを突き破るように進む。その先には思っていない景色が広がっていた。とても大きな礼拝堂のような部屋、そこには居るべき人は一人もおらず、ただ大量の水晶の花が咲き誇っていた。まるでさっきまでいた花畑のように。そしてその礼拝堂の奥には人とも虫ともいえないような奇妙な生命体がいた。首を傾け笑うように発する鳴き声と落ちくぼんだ複眼から、それがこちらを認識したのだと、そうはっきりと分かった。また、それが敵意を持っていることも同じように分かった。
「霊基グラフ励起!簡易召喚実行!」
アスをめがけて羽音を立て突進してきた虫人間の攻撃を間一髪でシャドウサーヴァントが受け止める。対虫、ということでアヴァロンルフェで出会った仲間を呼ぶ。彼女の強力な防護と彼女の熾烈な攻撃性は並び立ったことは無いはずだけど相性は悪くないようで、虫人間を確実に追い詰めていく。二人が隙を作ってくれている間に生存者を探す。
「アス!声は!?聞こえる!?」
「声は…聞こえるけど...もう...」
おそらく花からの声しか聞こえないのだろう。
それでも、と礼拝堂を探し続けるけどどれだけ探しても生存者は見つからない。しばらくして二基が虫人間にとどめを刺そうしたとき、建物の外から大きな音が聞こえてきた。幾重にも重なりノイズ音のように聞こえるがこれは、
「羽音だ…。」
「アス、逃げよう!増援が大量にくる!俺だけじゃ耐えられない!」
呼びかけてもアスからは返事がない。完全に放心状態になっている。気持ちはわかるけどこんなとこでアスを見殺しにするわけにも、死ぬわけにもいかない。そう思いアスを抱えて二基に撤退戦の指示をだす。二人の力で抑えている来た道の扉は今にも決壊しそうになっている。
「どこか...どこか道...」
そうあたりを見回しているうちにもう扉は限界を迎える。まずい。そう思ってアスだけはと水晶の花の下にアスを隠したその時、扉の前に巨大な大剣のようなものが降り注いだ。それは周囲の虫人間を何体かを巻き添えにつぶしながら床に突き刺さった。その上部降り注いだ先を見るとそこにはまた見たことのない生き物がいた。シルエットは人、しかし体表が白い鱗のようなものと結晶に覆われている。長くたなびく髪、二本の角、手足のかぎ爪のようなものなどから龍のようにも見えるその姿はしかし、
「鬼?」
そう見えた。その鬼は一つの方向を指し示す。そこには今の衝撃で花がよけられ、隠されて見えなかった扉があるのが見えた。
「助けてくれるのか?」
鬼は肯定もせず否定もしない。こちらに水晶のようなものを投げて渡し、ただこちらに背を向けるだけだった。その水晶を受け取った瞬間、この近辺の建物の構造が頭に流れ込んできた。これなら脱出ルートがわかる。心の中で感謝を述べ、隠したアスを引っ張り出し走り出す。扉は魔力を通すと開けることができた。目のまえには大きな階段があり、それをひたすらに降りる。最下層にたどり着き前を見ると、そこには外につながる大ホールがあった。出口を見据えて必死に走る。カドックに軽く習った身体強化も、いつもより余裕のある魔力で使い続ける。全力で駆けた先、ようやく外の世界が見える。そこには、なにもなかった。
4.
そこは一面の荒野だった。先ほどまで咲いていた花の気配も生き物の気配も、一切ない。まるで全ての生命が吸い取られつくした干からびたミイラのような景色。花が見せた景色から多少覚悟はしていたが、これほどとは思っていなかった。少し足を止めている間にこちらに気づいた虫人間がこちらに近づいてくる。もう一度足を動かし始めるが荒野の真ん中に出るころには追い付かれてしまった。シャドウサーヴァントでどうにか持ちこたえるがそれにも限界が来る。きっとアスがくれた魔力がなければ今まで持ちこたえることもできなかっただろう。呼び出したサーヴァントは全て退去し、自分の身一つになる。虫人間は俺のことなど気にもしていないようで、その複眼は背後にいるアスをとらえている。俺はまだこの世界のことがよくわかっていない。もしかしたらこの虫人間たちはこの世界では正しい、必要なことをしてるのかもしれない。今までの異聞帯でもそうだった。正しさは一つの視点だけでは測れない。だからここでの善悪とか正誤だとかは、正しく把握することは今はできない。でも、人の安全を、命があることを、願っている人がいる。その思いを、その生存を、
「間違ってるなんていいたくない!」
恐怖を抑えつけるためふり絞るように大きく声をだす。するともらった水晶が眩い光を放ち始める。その光に反応するように見覚えのある模様が地面に浮き上がってくる。
「これは…サーヴァントの召喚!?」
土地に呼び出されるサーヴァント。その特異点自体が危機を察知してサーヴァントを呼び出すケースが存在する。それが今、まさにここで、起きようとしている。願わずにはいられないこの閉塞した状態を打ち破ってくれるような力を。一際眩く魔法陣がひかり、召喚が完了した。召喚の余波によって俺達と虫人間の間に空間が開き、その中央にその存在はいた。
たなびく赤のメッシュが入った銀の長髪。手足には侍の武具のような防具をつけており、特攻服を思わせるジャケットからは自由さと荒々しさを感じさせる。そして何より目を引いたのは、ついさっき別の場所で見たことがあるもの。小さくなっているが身長ほどもありそうなチェーンソーのような大剣。そして、鬼のような二本の角。
「状況はわかんねぇが、とにかくテメェらもゼニスの一味らしい。」
そういってそのサーヴァントは虫人間たちの方向へとゆっくりと歩きだす。それに対し警戒の為か何体かの虫人間が前に出てきたように見えたその時、既に前方にいた虫人間の数体は胴体を切り離されていた。別れた体が灰のようになって散っていく。その一方的な宣戦布告によって戦線は開かれ、そして一瞬で決着がついた。次の瞬間、敵の後方から現れた巨龍によって戦線は崩壊し、そのドラゴンに搭乗した鬼のサーヴァントは一方的に虫人間たちを鏖殺していった。まるで時間が圧縮されたかのような殺戮の手腕に、俺はそれがサーヴァントであることを確信した。
「勝利宣言<ビクトリーラッシュ>!」
その雄たけびと共に目の前にいたすべての虫人間は灰となって消えていた。そしてそのサーヴァントはこちらを確認すると龍から降りこちらへと歩いてくる。顔がはっきりと見えるところまできたとき、手に持っていた剣をどこかへしまい、話始める。
「どこの誰かはしらねぇが、ゼニスに狙われてるってことはあいつらの敵なんだろ?
なら俺たちの仲間になれよ!」
「ええっと...ゼニスって…?それに君は…?」
「まあコマケェこたァいいさ。オレは鬼丸。ゴールデンエイジの鬼丸。今日からオレが、お前のカシラだ!」
不敵な笑みを浮かべ、鬼のような青年はそう言った。