Fate/Grand Order if「矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア 遠き黄金の奇跡」 作:一四
1.
案内された場所は世界樹の根元の開けた空間。そこに用意された神社のようにも見える建築物から位の高い人の為の場所だということがわかりました。その社の前にかかる暖簾の奥に影が見える、その正体こそが姫様なのだとわかりました。ペンペン中尉はその前まで行くと種族上分かりづらいのですが、おそらく跪いてから話し始めました。
「姫様、迷い人を保護しました。よろしければこの者に道を示してはいただけませんか?」
「ご苦労であった。もう下がるがよい。我はこのものと二人で話す故。」
「御心のままに。」
そういって下がった中尉は、最後に私を気にかけるようにアイコンタクトを送ってくれていました。私もそれに答えた後、正対する。それを暖簾越しに確認したのか姫様と思われる人が話し始めました。その声は威厳がありましたが、幼い印象は抜けず、どこか不思議なものに感じました。
「ようこそ星よりの者。童の名はプリンプリン。パンドラスペースの女王にして、諸事象によりここの統治を任されておる者だ。」
それ声を聞いて慌てて姿勢を直して跪いた後、然るべき自己紹介をしました。
「カルデアのマシュ・キリエライトといいます。」
「…!?それよりも姫様!星よりの者というのは…!?」
「詳しい説明は必要ないぞマシュ。おおよそそなたの立場は理解しておる。この世界より外から来たもの。そういったものを我は総じて星よりの者と呼んでいるのじゃ。」
「こちらが世界の外側から関与していることを理解している!?」
念のためとつないでいたカルデアとの通信からダ・ヴィンチちゃんの驚愕の声が聞こえると、まるでそれが聞こえているかのように姫様は話を続けました。
「ああ、そっちのもわかっておるぞ。そのまま話を聞くがよい。こちらとしても何度も話すとなると手間じゃ。話すのは一回、聞くのも一回でよい。面倒じゃからな。」
「気にせんでも敵対の意志はない。他の者はともかく、童はお前たちが導く先をしっておるし、それでもこの戦いに終止符を打ちたい。それが童の望みだ。」
「私たちのしていることまで理解しているのか。敵対する意図がないというなら情報源に関しても聞いてみていいかな?」
聞かれている以上隠しても仕方ないとオープンマイクに切り替えたダ・ヴィンチちゃんが直接疑問を投げつけました。
「構わんよ。出所は我々にとってのかつての戦友、自由の英雄と呼ばれた者たちだ。」
「彼らはどこからともなくこの世界に現れ、この世のものとは思えない自由の力でこの世界の支配の力に抗し、我々に希望を残してこの世を去った。」
「彼らは自身のことをカルデアのサーヴァントと名乗っていたが我々にとっての英雄に
「カルデアのサーヴァント…!ということは、もしかして今回共にレイシフトする筈だった皆さんでしょうか!?しかしこの世を去ったということは…」
「ああ、皆先の第二次
「それぞれ真名と呼ばれる本当の名を名乗ってはくれなかったがそれぞれに名を残していった。そちらの方が都合がいいとかでな。」
「その戦いに参じたのはジョニーという銃使い、カツキングと名乗った赤髪の巨漢。シフォンを名乗った淑女の三人じゃ。その他にも味方はしてくれなかったが、中立として人々を守ってくれたブリティッシュを名乗る者もいた。ブリティッシュを除き全員が既に亡くなっておる。」
「特徴からするとビリー、イスカンダルが既に退去していると考えて良さそうだね。こちらとのリンクは切れてしまっているから正しい状態は確認できないけど現地の戦力としては期待しないほうがいいだろうね…。」
「そんな…今回のメンバーでも戦闘に特化したお二人が既に…!?」
「だが、そのおかげでこの世界の火は完全には消えていない。今も我の仲間が各地でゲリラ的に行動を起こしておる。彼らの言葉を信じてな。」
「彼らは…何を言い残したのでしょうか…?」
「いずれ天外より盾の乙女とその主が真の救世主としてこの世界に希望をもたらす。故にそれまで抗うのだ。とな。」
「どうやら彼らは私たちのことを信じてバトンをつないでくれたようだ。」
ダ・ヴィンチちゃんの言うとおりであるのならば、私たちはその思いに私たちは答えなくてはいけません。サーヴァントの皆さんの思いに奮い立たされ、未知の脅威へと向き合う勇気をもらった気がしました。それを胸に私は確信に迫る疑問にふれました。
「教えてください。あなたたちが戦う敵とは、一体なんなのでしょうか。」
「無より来るもの、ゼニス・セレスじゃ。」
2.
「ゼニス・セレスですか?」
鬼丸さんから軽く聞いた名称とは少し異なっていることに少し違和感を憶えましたが、その違和感は後の話の印象が強すぎてかき消えてしまいました。
「ああ。ゼロの力の極致たる神のごとき存在。奴らの目的は全クリーチャーの支配、そしてその水晶化じゃ。」
「水晶化…ですか?それは一体どういうものなんでしょうか。」
「簡単に言えば人間を水晶の形のただのマナの塊にしてしまうというものじゃ。」
「より分かりやすくなら、貴様らの世界でいう魔力に当たるモノのタンクじゃな。」
「…ッ!それは…!」
その行為は魔術の世界ではさほど珍しい事象ではありません。私のようなホムンクルスの主な運用方法もそういったものであることが多いと聞いています。それでもそれが正しいことのようには思えず…、拒絶を露わにしてしまいました。
「悍ましかろう。しかしこの世界の多くの者はいずれそうなる事を望んでおるのだ。そういったものがオラクルとなり、日夜水晶にされている。」
「そんなことって…。誰もそれをおかしなことだとは思わなかったのですか!?」
その言葉を聞いた瞬間、暖簾を越してもわかる怒りと共に音をたてて女王は立ち上がり吐き出すように言葉をつづけました。
「思った!だからこそ抗ったのじゃ!だが失敗した…。立ち上がった者たちは皆ことごとく打ちのめされた…。ゼニスの頂点、クリス=タブラ=ラーサの力にな!」
「奴は強い洗脳の能力をもっていた。それによって同志打ちは絶えず、リーダーであった我の双子の弟達をもその配下とし、一次対戦が幕をおろした。」
「残った者たちはゼニスをおそれ、そやつらの教えに従えば水晶の花となり救われるなどという甘言にのってオラクルとなり、そして水晶となってしまったのじゃ。」
「じゃが我々にも活路が開けた。それがそののちに到来したサーヴァントたち。自由の英雄達じゃ。」
「彼らはなぜかタブラ=ラーサの支配を跳ねのけることができ、共に戦う者たちもその恩恵をうけることが可能だったんじゃ。」
「彼らによるゼニス・セレス三体の討伐、それによる双子の奪還、教団要人暗殺によって
「これがこの世界の、我々の現状じゃ。」
ここまで聞いた限り、この特異点はやはり異聞帯としての側面が非常に大きい。この世界は神にも等しい存在によって停滞している。この在り方はギリシャ異聞帯のあり方にも近いものです。だとすればこの特異点の歪みはクリス=タブラ=ラーサであり、そしてこの異聞帯の成立に大きく関与しているのも、クリス=タブラ=ラーサだと考えられます。そう仮定した場合、この亜種異聞帯とでも言うべき世界でそれを倒すということはつまり…。
「何を考えておるかは顔をみればわかる。それでもと言ったはずじゃマシュ。」
「しかし姫様!それでは…」
「これは世界を代表するわけでもないただの、童個人の頼みじゃ。この世界を終わらせてくれ。」
「この世界に来るべき明日はない。行き止まりなんじゃよ。それが童にはわかるのじゃ。この樹を守るものとなった時からの…。」
「この樹には何か特別な、未来を見るような力が?」
樹というものであるがゆえに、流石に気に止めずにはいられませんでした。もしかしたら彼女の望みは今すぐにでも叶う可能性がありました。
「この樹の守り手になってからというもの、この世界に似た別の世界を見ることがあるのじゃ。そこでは我らには平穏とは行かぬが波乱万丈な明日があったのじゃ。」
「しかし、見れば見るほど思い知るのじゃ。そのための前提がこの世界にはあまりにも足りていないと。」
「もうこんな思いは沢山じゃ。頼むマシュ。引き受けてくれぬか?」
涙交じりに震えるようなその声に思わず過去の記憶が重なる。数々の切除してきた世界のこと。共に未知の明日を求めた双子、その最後の表情が。その感傷を抜きにしても、その問いはあまりにも痛切で、首を縦にふってあげたいと、そう思わされました。それ以前に、我々が空想樹を観測したのならそれを切除しないという選択肢は存在しえません。様々な思考が頭をめぐっていたその時、ふと先輩の顔が思い浮かびました。先輩がこの場にいたとして、一体どう答えるのでしょうか。そう考えた時、私の答えは決まりました。
「プリンプリン姫。その依頼、引き受けさせてください。ただ、私にその前にチャンスをください。この世界にも他の世界とはまた違う形で続く明日があるかもしれません。それを見つけるチャンスをください。」
「おぬしはこの世界にまだ希望があるというのか?」
「それはわかりません。でもそれを目指さなくては手に入れることはできません。私達に出来ることはそれに手を伸ばす事だけ…なのではないでしょうか。」
「なるほど。奴らが救世主とまでほめそやすわけだ…。」
すこし間を置くと、こちらにもわかるような大きな深呼吸の後姫様はこう続けました。
「良かろうマシュ。許そう。そして改めて頼もう。この世界の最良の明日を、共に探してほしい。」
「はい!精一杯やらせていただきます!」
3.
「そして姫に世界樹調査の準備をしてもらっている間に聞き込みをしている最中、戦闘が起き、駆けつけたというわけです。」
「そんなことが…。」
当時のマシュの気持ちを考えると居たたまれないけど、きっと自分がそこにいても同じことを言って、同じことをした気がする。少なくとも俺にはマシュのした約束にとやかく言うことはできない。
「ねぇちゃんがこっちの世界にもいて…?ゼニスもなんかセレスとかいってちょっと違って…?俺も知らないタブラなんとかってのもいて…?挙句の果てにはゴールデンエイジが負けてて俺も負けてる…?」
「すまねぇカシラちょっと情報がデカすぎて飲み込めねぇ…。」
「近い記憶が多いから鬼丸の方が混乱してるよね。大丈夫、俺も飲み込み切れてる訳じゃないから。」
「先に別途鬼丸君サイドの情報だけで整理したのは正解だったかもね。最初から合わせて考えていたら余計混乱したかもしれないし。」
ダ・ヴィンチちゃんはそういうとわざとらしい咳払いを一度する。多分俺もよくわかっていないままなのを見抜いていて、ここからは真面目に聞いてね?的なニュアンスであると思い、疲労を振り払って少し背筋を伸ばして続く話を聞く。
「しかしこれで明確になった。鬼丸君が知っている記憶が汎人類史…この場合は空想樹から枝分かれした可能性だから別の呼称が必要かな。汎空想史とでも呼ぼうか。この特異点は空想樹の歴史において過去に何かしらの関与が起き、汎空想史から逸脱した特異点。つまり”異聞帯の中の特異点”だ。」
「異聞帯の…特異点…。」
「計器のエラーはこの特殊な状況があったからのようだね。その上で私たちがやるべきことは整理すると二つ、一つは特異点化している原因を取り除くこと。二つ目はどこかにあるはずの空想樹の切除。この二つになる。」
「並べてみるといつもと変わらないね。」
「そうかもしれないね?でもいつもより気を付けなければいけないのは確かだ。異聞帯という一つの極まった歴史から派生したイフが一体どんな突拍子もない可能性を内包しているかわからないんだからね。」
もう一つ思っていたこともついでに聞いておいてみよう。
「今回の事件って特異点の消去をせずに空想樹だけ伐採するのじゃダメなの?」
それを聞くとダ・ヴィンチちゃんは少し苦い表情で答えてくれた。
「理論上それでも解決するはずだけど本当にそうなるといえる保証はない。そもそも剪定が発生するのは汎人類史、それを樹とした場合の幹のエネルギーを補給するためのエコサイクルみたいな説もあるから、世界が瀕したとき逆が起きないとも限らない。落ちた枝が根を張り、新たな樹になる、なんてことがあるかもしれない。倒れた樹を栄養源にしてね。」
苦い表情になった理由が分かった。いまいちよくわからないけどPCの強制シャットダウンみたいなものだとなんとなく理解したつもりになっておく。
「じゃあまずは特異点の原因を探さなきゃだ。」
「幸いそれに関して最も有力な候補に関して、我々は既に掴んでいるしね。」
「クリス=タブラ=ラーサですね。」
「ああ。鬼丸の歴史と比べ最も大きな違いといっていい。鬼丸の世界ではそもそも
「仮に同じようにいたとしても、ボスと思われる姿を隠していた者が既に姿を見せている点からして、なんらかで侵略のショートカットがあったと考えていいだろう。」
「おそらく生物を魔力の塊にする水晶化と無感情化するゼロ化、この手法の違いがカギになるはずだ。なんなら空想樹の方もそいつが管理してるのかも。」
鬼丸とこの世界の歴史の比較という話でそういえば聞きそびれていた話があった。
「そういえばこの世界の時間と鬼丸が来た時間っていっしょなの?ズレてるってこともあるかもだよね?」
「おそらくねぇ筈だ。マシュが現地のクリーチャーから聞いたのが超獣語暦2024年だろ?オレのとこの暦と一致してる。」
「聞いたことはないけど年号は西暦と一致するみたいだし汎人類史の西暦に当たる暦と考えていいだろう。」
「仮にそれより過去に改ざんがあったのなら同時に新たな特異点が観測されるはずだけどそういったものもないし、この歴史において改ざんが行われたのはこの特異点の発生元だけのはずだ。」
やはりわからないところは多いけど、まあ多分問題ないことはわかった。
「なるほど…?じゃあとりあえずやるべきことって…?」
「クリス=タブラ=ラーサに関しての調査と水晶に関しての調査ですね。」
「そういうことになるね。だけどもう藤丸君の体は疲労で限界だし、村についたら休憩をとるべきだ。調査は後日にしよう。」
「了解~。」
幕間
世界の中心に浮かぶ結晶の宮殿。その最高にして深奥の間、西洋の城における玉座の間にも見える空間にその存在はいた。白磁の複眼のようなものを持ち、その腹に当たる部分には暗い空洞だけが存在する。その周りにあるいくつもの人のような腕、幾重にも伸びる触手、ハエのごとき六つの翅という相容れない要素の混じるその姿はシルエットだけでもそれが有り得べからざるものであることを理解させられる。見方によっては逆様の人のようにも見えるそれはこの空間の、いやこの世界の主であることを憚ることなく主張しているようでもあった。そのモノの前に花を背負う獅子が現れ、跪く。
「タブラ=ラーサ様。例外の発生につき一時帰投しました。未確認のイレギュラーを確認、ナンバー3として登録、データベースにアップロードしました。イレギュラーの戦力的にも、殲滅に確実を期すため更なる水晶の力を使用したいのですがよろしいでしょうか?」
「構わぬ。すぐに用意させよう。あとでクリスのものから受け取るがよい。」
「御意。しかし、質問がありますタブラ=ラーサ様。なぜイレギュラー逃亡後すぐに殲滅を命じてくださらなかったのでしょうか?あれほど遠くまで逃がすことがなければ、イレギュラーの追加もなく無事処理できたと思うのですが。」
「わかっておらんなライオネル。」
「と、いいますと?」
「とある世界ではヒトが虫を殺す方法にこのようなものがある。遅効性の毒餌を食わせ、そいつに巣へと帰らせる。そしてそいつが死んだ後、それを食べる他の虫どもを同じ毒で殺すのだ。」
「非常に残忍な方法です。」
「だが、効果的だ。そしてヒトがなぜこのような手間な行動をとるかわかるか?」
「...。」
「それはな?根こそぎに駆除するためなのだ。」
震える翅の振動が、まるで笑い声のようにその空間に響き渡っていた。