Fate/Grand Order if「矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア 遠き黄金の奇跡」 作:一四
「そして姫に世界樹調査の準備をしてもらっている間に聞き込みをしている最中、戦闘が起き、駆けつけたというわけです。」
「そんなことが…。」
当時のマシュの気持ちを考えると居たたまれないけど、きっと自分がそこにいても同じことを言って、同じことをした気がする。少なくとも俺にはマシュのした約束にとやかく言うことはできない。
「ねぇちゃんがこっちの世界にもいて…?ゼニスもなんかセレスとかいってちょっと違って…?俺も知らないタブラなんとかってのもいて…?挙句の果てにはゴールデンエイジが負けてて俺も負けてる…?」
「すまねぇカシラちょっと情報がデカすぎて飲み込めねぇ…。」
「近い記憶が多いから鬼丸の方が混乱してるよね。大丈夫、俺も飲み込み切れてる訳じゃないから。」
「先に別途鬼丸君サイドの情報だけで整理したのは正解だったかもね。最初から合わせて考えていたら余計混乱したかもしれないし。」
ダ・ヴィンチちゃんはそういうとわざとらしい咳払いを一度する。多分俺もよくわかっていないままなのを見抜いていて、ここからは真面目に聞いてね?的なニュアンスであると思い、疲労を振り払って少し背筋を伸ばして続く話を聞く。
「しかしこれで明確になった。鬼丸君が知っている記憶が汎人類史…この場合は空想樹から枝分かれした可能性だから別の呼称が必要かな。汎空想史とでも呼ぼうか。この特異点は空想樹の歴史において過去に何かしらの関与が起き、汎空想史から逸脱した特異点。つまり”異聞帯の中の特異点”だ。」
「異聞帯の…特異点…。」
「計器のエラーはこの特殊な状況があったからのようだね。その上で私たちがやるべきことは整理すると二つ、一つは特異点化している原因を取り除くこと。二つ目はどこかにあるはずの空想樹の切除。この二つになる。」
「並べてみるといつもと変わらないね。」
「そうかもしれないね?でもいつもより気を付けなければいけないのは確かだ。異聞帯という一つの極まった歴史から派生したイフが一体どんな突拍子もない可能性を内包しているかわからないんだからね。」
もう一つ思っていたこともついでに聞いておいてみよう。
「今回の事件って特異点の消去をせずに空想樹だけ伐採するのじゃダメなの?」
それを聞くとダ・ヴィンチちゃんは少し苦い表情で答えてくれた。
「理論上それでも解決するはずだけど本当にそうなるといえる保証はない。そもそも剪定が発生するのは汎人類史、それを樹とした場合の幹のエネルギーを補給するためのエコサイクルみたいな説もあるから、世界が瀕したとき逆が起きないとも限らない。落ちた枝が根を張り、新たな樹になる、なんてことがあるかもしれない。倒れた樹を栄養源にしてね。」
苦い表情になった理由が分かった。いまいちよくわからないけどPCの強制シャットダウンみたいなものだとなんとなく理解したつもりになっておく。
「じゃあまずは特異点の原因を探さなきゃだ。」
「幸いそれに関して最も有力な候補に関して、我々は既に掴んでいるしね。」
「クリス=タブラ=ラーサですね。」
「ああ。鬼丸の歴史と比べ最も大きな違いといっていい。鬼丸の世界ではそもそも
「仮に同じようにいたとしても、ボスと思われる姿を隠していた者が既に姿を見せている点からして、なんらかで侵略のショートカットがあったと考えていいだろう。」
「おそらく生物を魔力の塊にする水晶化と無感情化するゼロ化、この手法の違いがカギになるはずだ。なんなら空想樹の方もそいつが管理してるのかも。」
鬼丸とこの世界の歴史の比較という話でそういえば聞きそびれていた話があった。
「そういえばこの世界の時間と鬼丸が来た時間っていっしょなの?ズレてるってこともあるかもだよね?」
「おそらくねぇ筈だ。マシュが現地のクリーチャーから聞いたのが超獣語暦2024年だろ?オレのとこの暦と一致してる。」
「聞いたことはないけど年号は西暦と一致するみたいだし汎人類史の西暦に当たる暦と考えていいだろう。」
「仮にそれより過去に改ざんがあったのなら同時に新たな特異点が観測されるはずだけどそういったものもないし、この歴史において改ざんが行われたのはこの特異点の発生元だけのはずだ。」
やはりわからないところは多いけど、まあ多分問題ないことはわかった。
「なるほど…?じゃあとりあえずやるべきことって…?」
「クリス=タブラ=ラーサに関しての調査と水晶に関しての調査ですね。」
「そういうことになるね。だけどもう藤丸君の体は疲労で限界だし、村についたら休憩をとるべきだ。調査は後日にしよう。」
「了解~。」
幕間
世界の中心に浮かぶ結晶の宮殿。その最高にして深奥の間、西洋の城における玉座の間にも見える空間にその存在はいた。白磁の複眼のようなものを持ち、その腹に当たる部分には暗い空洞だけが存在する。その周りにあるいくつもの人のような腕、幾重にも伸びる触手、ハエのごとき六つの翅という相容れない要素の混じるその姿はシルエットだけでもそれが有り得べからざるものであることを理解させられる。見方によっては逆様の人のようにも見えるそれはこの空間の、いやこの世界の主であることを憚ることなく主張しているようでもあった。そのモノの前に花を背負う獅子が現れ、跪く。
「タブラ=ラーサ様。例外の発生につき一時帰投しました。未確認のイレギュラーを確認、ナンバー3として登録、データベースにアップロードしました。イレギュラーの戦力的にも、殲滅に確実を期すため更なる水晶の力を使用したいのですがよろしいでしょうか?」
「構わぬ。すぐに用意させよう。あとでクリスのものから受け取るがよい。」
「御意。しかし、質問がありますタブラ=ラーサ様。なぜイレギュラー逃亡後すぐに殲滅を命じてくださらなかったのでしょうか?あれほど遠くまで逃がすことがなければ、イレギュラーの追加もなく無事処理できたと思うのですが。」
「わかっておらんなライオネル。」
「と、いいますと?」
「とある世界ではヒトが虫を殺す方法にこのようなものがある。遅効性の毒餌を食わせ、そいつに巣へと帰らせる。そしてそいつが死んだ後、それを食べる他の虫どもを同じ毒で殺すのだ。」
「非常に残忍な方法です。」
「だが、効果的だ。そしてヒトがなぜこのような手間な行動をとるかわかるか?」
「...。」
「それはな?根こそぎに駆除するためなのだ。」
震える翅の振動が、まるで笑い声のようにその空間に響き渡っていた。