Fate/Grand Order if「矛盾結晶楽園ニルヴァーナ・ゼニシア 遠き黄金の奇跡」 作:一四
村につき、姫様の計らいで宿を貸してもらうことになった。そこで他愛のない雑談をしながら食事をとり、すぐにベッドで眠りにつく。
夢に現れたのは今日の出来事。一面の華、華、華、華、華、華、華…。
人、人、ひと、ひと、ヒト、ヒト、ヒト…。
「ウッ...!」
吐き気が抑えられず思わずとび起きてしまう。水晶の華のことはダ・ヴィンチちゃんたちに話したけど、具体的にどんな光景を見たかというのは経験と伝聞では情報に大きな開きがある。それが今回は幸いだったかもしれない。あんなもの他人に見てほしいようなものじゃない。マシュの聞いた水晶化の話から考えるなら、今日俺が見た花畑はゼニスのエネルギー庫の様なものだったのだろう。そしてそのすべてがヒトの死体に等しい。道中突撃した礼拝堂の光景も、どのようなことが起こったのかなんとなくわかってしまった。あそこにはヒトが居たんだ。きっと声が聞こえていたあのときまで。目の前でドアを隔てたその奥で、華になったんだ。あんな数の華…ヒト…命が...。その姿とかつて見た世界の死がちらちらと重なって見える。改めて想像すると余計に吐き気が込み上げてきた。無理に考えないようにしてゆっくりと外へと向かう。少し夜風にあたって落ち着こう。そう思い外へと出て、近場にあった川の方へと向かう。そこからは星空が良く見えた。そこには俺が知っている夜と違って、二つの月があった。その驚きで少し吐き気もおさまってきたのでゆっくりと横になりリラックスする。少し涼んで落ち着いたら戻ろう。そう思って目を閉じる。
「リツカねられないの?」
その声に気づいてそちらを見るとポヨポヨと音をたてそうな様子でアスがこちらへ向かってくる。同じ部屋で寝てたんだけど起こしてしまったらしい。
「ごめん、起こしちゃった?」
「そんなのいいよ。ボクあんまりねむいとかかんけい無いし。それよりリツカつらそうだ。リツカも気づいたんでしょ?水しょうのこと...。」
「うん...まあね?アスも気づいたんだ?」
「うん。話の全ぶが分かったわけじゃないけど、なんとなくね。」
「アスは大丈夫?あんまり気持ちのいい真実じゃなかったでしょ?」
そう聞くとアスは少し目を伏せ、俺の隣でポテっと横になる。そうして少し空を眺めた後、話し始めた。
「うん。きっとリツカが思ってるよりだいじょうぶ。もともとボクは知ってたから。みんなが生きてるって。」
そういえばアスはずっと華を人のように接していた。アスは本当に話していたんだ。華になったその人と。
「アスには水晶になった人の声が聞こえるってこと?でも確か水晶になると魔力の塊とかになって意識とかはなくなっちゃうんじゃ?」
「ううん。みんなは生きてるんだ。あのすがたで。体とはべつにある、人を形作るもの。それが水しょうになってものこってるんだ。」
「魂みたいな?」
「うん。たぶんそう。たましい。それがあるからボクは生きたかれらと話すことができたんだ。だから、そのことはそんなに気にしてないんだ。たぶんリツカが気にしてるのはそっちだよね。だからだいじょうぶだよ。みんなまだしんでない。」
「えっ...!?」
アスに図星をつかれたのが意外で声を出して驚いてしまう。アスには会ったばかりのはずなのにそんなことまで見透かされているなんて。その驚きをよそにアスは話を続ける。
「ボクが気にしてたのはね?みんなが話してたこと。それがウソだったってこと。」
「嘘って...?この世界で起こっていることとか?」
「あるいみそうだけど、もっと小さな、人によったこと。」
「みんなうれしそうだったんだ。こうしているのはすくわれているからなんだって。これがじぶんたちの幸せなんだって。でも、きっと本当はそうじゃなかったんだ。」
「思わされてたんだ。それってきっと、本当じゃない。そして、それはきっとリツカの言ってた、”生きる”ってことじゃない。」
「ボクはそれが生きてるってことだと思いたくない。」
「生きてるはずなのに、生きてないっていうのも、生きてるって言うのも、どっちもいやだよ。」
「それがとてもかなしいんだ...。」
そうか。アスが気にしていたのは華になった人の幸せだったんだ。でも、そうか…。華になった人はまだ死んだわけじゃないんだ。ならきっと、どうとでもなるはずだ。勝手な加害者意識に押しつぶされてる場合じゃない。もっと痛切にこの世界の人たちの幸せを願っている子がここにいるんだから。
「アスはやっぱり優しいね。」
「そうなのかな?ボクはけっきょくだれも助けられないのに、助ける力もないのに、ただ思うだけってやさしいのかな?」
「難しいね。それを偽善だとか残酷だとかって言う人もいるのかもしれない。」
「でも、俺は、それを優しいって言いたいな。」
この思いが伝わるように。そう思っていたらアスの羽を祈るように両手で握っていた。そのときアスが輝き始めた。この光は神殿で見た...。
「そういえば、これ、ここについてからまた出来るようになったんだ。まるで、さいしょからそうだったみたいに、何かが正しくつながったかんじ。そうしたらまた出来るようになったんだ。」
しかし、それには神殿の時と少し違うものがあった。触れると心に立っていた波が沈んでいくようで、
「なんか...すごく...よく眠れそう...。」
次の朝、俺は川の傍で目を覚ました。それまでに悪い夢はもう見なかった。
幕間1
リツカに触れた時確かに見た。何かで繋がったそこから記憶が溢れてくる。解けていく世界が見えた。虹の下に消えた世界がみえた。一面の稲穂の奥から登る太陽と入れ替わり沈む世界を見た。混沌とともに秩序が消え無へと至った世界をみた。深い悲しみと宿業の末、望みと共に全てが潰えた世界をみた。滅亡を受け入れ次へと託して役目を完遂させた世界を見た。消える、終わる、ゼロになる。消す、終わらせる、ゼロにする。壊したくない、共にありたい、生き残りたい。壊さなきゃ、共にはあれない、殺しつくさなきゃ。矛盾、矛盾、矛盾。ただひたすらに流れ込んでくる。それがあまりにも痛ましくてやるせなくて。優しく抱きしめた。少し、刺されるように、痛い気がする。それでもそれをそのままにはしておけなくて。祈るとそれは水晶の華となった。なかで反射し続ける景色は依然ひどいもので、決して壊れず、そこに根を張ったまま動かないけど、その在り方が美しいことが慰めになるような気がした。他の記憶にも触れ、華にしていく。そうして見える場所が花畑になったころ、それが次々と溶けていく姿を幻視した。自分とともに、全て。しかし、その終わりがあまりにも当然のような気がして少し笑ってしまう。今だけの水晶の花畑で横になり眠りにつく。いつまでもこのまま華が美しく咲き誇っているように願いを込めて。
「遅れをとったな。見す見すあれらを逃すとは。やはり残る炎も限界が近いか...。」
「でもよかったわ。彼がいてくれて。そのおかげで最悪の状況という程でもないわ。」
「とはいえ、強く干渉するには何かしらきっかけが必要みたいね。」
「それは則ち、物語だ。俺が貴様より僅かに早くここに至れたのはこの世界にも復讐者の物語が強く残っていたからに相違ないだろう。」
「おじさまは本当に博識ね。おじさまと違ってなんの変哲もない私に重なるお話...。そんなものあるのかしら?」
「貴様の宿したものこそ俺よりも遥かに多くの
そう言い終えるとその復讐者は改めて水晶の華となったモノとその中で眠る一つの異物を見つめる。
「これは長くは持たない。奴も分かっているだろうがな。だが、その足掻きによって俺達もここまでこれた。今はただ、この火に薪をくべておこう。燃やすべきものを燃やすべき時にこの深淵より燃やしつくすためにな。」
「あら。感謝をしめしたいなら素直におっしゃればいいのに。相変わらず不器用なのねおじさま。」
「無邪気より生ずるものが必ずしも邪ではないとは言えんことはお前が最も良く知るところだろう。」
「俺達よりも先に、まるで
「こんなモノ燃やした覚えも無ければ見た覚えもない。忘れぬ事もまた復讐者たる俺の宿業。故にあれが理外のモノあるのは疑うべくもない。」
「なら燃やさなくていいものだったのではなくて?悪いものばかりでも、その中に光るお星さまみたいな素敵なものが無いわけじゃない。そういうことも私は知ってるもの。」
「待て、しかして希望せよってそういうことでしょう?」
「…。」
それから黒衣の復讐者と名状しがたい触手を従えた少女は何かを話す訳でもなく、出来上がった華が放つ輝きを黙って見つめていた。