「魔法使いと共存関係にある魔法動物?」
書架の間を歩きながらセドリックは、キースの問いに首を傾げた。
「ウーン……例えばパフスケインとかニーズルなんかはペットとして飼われるし、クラップやシュレイクは魔法使いによって生み出された種だと言われてる。でも、そういう話じゃないんだよね」
「魔法動物としての在り方を魔法使いに依存しているもの、って感じ」
「なるほどね……それ、持つよ」
セドリックはキースの腕に積まれていた本を半分ほどひょいと抱え上げた。素直に礼を言い、机に戻ってきたキースはひとつため息をつく。
「『幻の動物とその生息地』は真っ先に読んだ。近しいものがなかったから手当たり次第に読み漁ってるってワケ」
「ハハッ、入学して一週間でそれとはね!グリフィンドールの新入生は優秀で羨ましいよ」
キースが積んだ本の山の隣に追加の資料を積み上げながらセドリックは人好きのする笑顔を浮かべた。
「魔法動物飼育学のケトルバーンに聞きに行くのも手かもね。そうそう、『幻の動物とその生息地』を書いたニュート・スキャマンダーはダンブルドアと旧知の仲らしいから手紙を出してみるのはどう?」
「魔法界的には見知らぬ子供から手紙が来ても答えてくれるもんなの?」
「さあ、基本は無視じゃないかな?でもスキャマンダー氏は魔法動物学の第一人者だし、何より僕らハッフルパフが誇る大先輩だからね。きっと後輩の助けになってくれるはずさ」
「ホグワーツ出身者だったの?」
キースは少しの戸惑いを浮かべてセドリックの顔を見上げた。机に腰掛けるような姿勢で腕を組みキースを見下ろしていたセドリックはその姿勢のまま肩をすくめて答えた。
「イギリス出身の魔法族ならだいたいホグワーツ出身だよ。ホグワーツの教師陣もそうだし、スキャマンダー氏もそう。なんならほら、『名前を言ってはいけないあの人』だってそうらしい」
「フーン、そうなんだ」
『名前を言ってはいけないあの人』___ハリーが家族を失うことになった原因であり、イギリス魔法界を恐怖に陥れた最悪の魔法使い。姿を消した今でも名前で呼ぶことを忌避されるほど恐れられている闇の魔法使いがかつて過ごしていた場所で自分も今過ごしているというのはなんとも不思議な心地だな、と背もたれに身を預け天井を見上げながら考えていた。
「セドリック?」
書架の向こうから小さな声が聞こえた。キースが振り返ると、黄色のネクタイを締めたハッフルパフ生が立っており、それを見て取ったセドリックが片手を振って応え、体を起こした。
「じゃあ僕はもう行くね。これも何かの縁だし、なにか困ったことがあればまた力になるよ」
「ありがとう、セドリック。助かったよ」
にっこり笑ったセドリックはそのまま友人たちのもとへ戻っていった。
◆
連日の図書館通いでも目ぼしい成果はなかった。ウィロウの毛皮に埋まるようにして不貞寝していたキースはドタバタと階段を駆け上がってくる音に顔を顰めた。
「キース!起きて!」
シャッ!と大きな音を立てて開かれたカーテンの隙間から、朝日が容赦なく差し込んだ。静かに下手人二人を見るウィロウと反対にその主はむずがるように抱き込んだ従者の毛皮に顔を埋めた。
「飛行訓練!スリザリンと合同だって!」
「……ロン、声がでかい……迷惑だろ」
「まだ寝てるのはキース、君だけだよ」
ハリーの呆れた声にのそのそと起き上がったキースは眠たげに目を瞬かせた。一晩中主の抱き枕役を務めていたウィロウは親しげにキースの頬をひと舐めすると、そのまま静かに影の中へ溶けるように沈んでいった。
「で?何が何だって?」
「だから、飛行訓練さ。よりにもよってスリザリンと一緒なんだよ」
「フーン、先生方も俺らグリフィンドールと仲悪いの知ってるだろうになぁ。なぁんでわざわざ一緒にするかね」
一際背の高いキースを挟むようにして大広間にやってきた三人はそのまま並んでテーブルに着いた。
ハリーとロンの不満はなかなか収まらず、キースが蜂蜜をたっぷり入れたポリッジと大きめのアップルパイ一切れをきれいに食べ終え、食後の紅茶を楽しんでいるときでさえまだ続いていた。両隣から聞かされる文句を適当に聞き流していたキースは今しがた朝の配達にきたフクロウの群れの中から自分に向かってきている個体がいることに気が付き目を細めた。
「ロン、その皿どかした方がいいぜ」
「え?あ、ああー!」
減速する様子もなく、弾丸のような勢いで突っ込んできた小さなフクロウは見事ロンの皿をひっくり返し、載っていたベーコンを跳ね上げた。宙に舞ったベーコンがフクロウの頭に着地したのを取ってそのままフクロウに与えてやりながらキースは回収した手紙の封を切った。そそっかしい小さなフクロウはベーコンのお礼なのか指先を甘噛みして飛び去って行った。
「誰から?」
「孤児院からだ」
興味津々といった様子でキースの手元をのぞき込むハリー。中には二枚の紙が入っており、院長が書いたであろう手紙と、様々な筆跡が入り混じる大きめの画用紙が折りたたまれて入っていた。
最近の孤児院の様子はそこそこに、キースの近況を尋ね、その充実と幸せを願う文章で満たされた手紙を読み終えたキースは画用紙を広げた。
中央にはキースを含めた孤児院みんなの集合写真が貼られ、その周囲を色とりどりの色鉛筆で綴られた短いメッセージが囲んでいた。まだ文字もおぼつかない小さな弟妹達に少し年上の弟妹達が張り切って文字を教えている姿が目に浮かび、キースはその顔を緩めた。
「ウワー、これ、マグルの写真?ほんとに動かないんだね……おっどろきー」
「僕からすれば写真が動く方が驚きだけどね」
まじまじと写真を見つめるロンの様子にマグルの中で育ったハリーとキースは苦笑を浮かべた。丁寧な手つきで手紙と画用紙をしまったキースは、ふと視線を感じて目線を上げた。
光を飲み込むような漆黒の翼を広げ、堂々と滑空してくる大柄なフクロウが一直線にこちらに向かってきていた。
音もなく優雅にキースの目の前に着地して見せた黒いフクロウは、これまた優雅な仕草で手紙が括りつけられた足を上げた。
「……今度は誰からだい?」
「知らん。俺に心当たりはないぞ」
親愛なる我が孫、キースへ
キース、ホグワーツ入学おめでとう。血筋からいうならスリザリンが求められるかもしれないけど、わたくしはどこの寮だって構わないわ。本当はあなたとお話ししたいし、もっといろいろしてあげたかったのだけれど、わたくしにその時間はもう残されていないようだから、あとのことはすべて頼りになる人に任せてあります。あなたの人生に幸多からんことを心から願っているわ。
追伸 このフクロウはわたくしたちからの入学祝として受け取ってちょうだい。
S・L・B
「えー!入学祝にフクロウ送ってくるなんて太っ腹!」
「かっこいいね、この子。名前つけてあげなよ」
両隣からのぞき込むようにして手紙を見ていた二人が歓声を上げたのとは反対にキースの眉にはしわが寄った。
「……祖母?」
思わず声が漏れた。キースは手紙をもう一度最初から読み直した。ダンブルドアから祖母の存在を聞いていた。それでも、自分を引き取らなかった相手から財産を相続し、顔も知らない相手から入学祝が届くという状況には戸惑いを覚えずにはいられない。
「しかもフクロウ付きだって?俺、すでにウィロウ連れてるんだが……?」
困惑を前面に出したキースの目の前で、真っ黒なフクロウは優雅さを失わないままホーッと鳴いた。