【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う 作:KUROX
URA指定病院 病室
病室のベッドで眠るスズカの手を握りしめる片桐
『……』
スズカ『スー……スー……』
わずかな明かりと、夜の静寂だけが二人を包んでいた
『……』
スズカ『スー……スー……』
『……』
スズカ『……ん』
『!』
スズカ『……トレーナー……さん?……』
『……スズカ……』
スズカ『……ごめん……なさい……』
『!?』
スズカ『……私……トレーナー……さんとの……約束……』
『スズカが謝ることなんてない、なんもない』
スズカ『……トレーナーさん……手……あったかい……』ぎゅ
『ごめん……スズカ……ワシが……全部……ぅぅ……』
スズカ『?……どうして……泣いて……私の……ごめんなさい』
『……謝らないで……スズカ……ワシが、ワシが悪いねん……』
スズカ『ふふっ……』
『!?』
スズカ『……ふたりの、こと……トレーナーさん……だけ、悪くないですよ……』
『……うっ……うぅっ……』
スズカ『泣き虫……トレーナーさん……でも、私……トレーナーさんのこと……』
スズカ『大好きです……』
『!』
スズカ『……ずっと……一緒……スー……』
『……ぅ』
スズカ『スー……スー……』ぎゅ
『……くっ……うっ……ぅぅっ……』ぎゅ
・・・・・・
空が明るくなりだす……夜の静寂が少しずつ消えていく……
『……』ぎゅ
スズカ『スー…スー……』
『……』
スズカ『……んー……』
『!』
スズカ『……ん』
『……スズカ?』
スズカ『トレーナー……さん?あら?……ここは?』
『……病院だよ』
スズカ『!』
スズカ『……そう……私レース中に……』
『……大丈夫……』
スズカ『私……ごめ……っ!』ぽん
指でスズカの口を塞ぐ
『それは言わなくていい』
スズカ『……はい……』
『誰も……誰のせいでもない……』
(そう、ワシ以外は……)
スズカ『……手、ずっと握っていてくれたんですか?』
『……うん』
スズカ『あったかい……なにか……夢をみていたみたいです……』
『……』
スズカ『あったかくて、やさしくて、落ち着ける……そんな……』
『うん』
スズカ『トレーナーさんがずっと手を握っていてくれたからですね』
『……』
スズカ『う~ん……?』
『?』
スズカ『私……寝てる時……トレーナーさんに何か言いました?』
『……ううん、何も言ってないよ……』
スズカ『?』
スズカ『……そうですか』
『スズカ……』
スズカ『……』
『実は……』
スズカ『また……悲しそうな顔』
『!』
スズカ『あの時と同じ……』
スズカ『……』
スズカ『私もう……』
スズカ『走れないんですね』
『……くっ』
スズカ『全力で走った後なら……』
スズカ『全部……』
スズカ『……なんでも受け入れられる……』
スズカ『……そう……思って……いたのに……うぅ……』
スズカ『う、うあぁぁぁ~ん……』バッ
片桐にしがみつくスズカ
『……』ぎゅう
(お前のせいだ!)
スズカ『あぁぁぁぁ~ん』ぎゅう
『……っ』
(お前なら防げたはずだ!)
スズカ『~~っ……』
『……』
(お前がスズカの夢を壊した!)
スズカ『~……っ』
『……』
(お前なんかもういらんっ!)
スズカ『……っ、ごめ……』
『それは!……言わない』
スズカ『……はい』
『誰も悪くないんだ……』
(とっとと、消えろ!)
スズカ『トレーナー……痛っ!』
『スズカ!?痛むのか?すぐナースコールするから!』
スズカ『もう少しっ!……もう少しだけ……このままで……』ぎゅう
『……ああ』ぎゅ
(お前は無力だ!)
『……』
◇◇◇
六平銀次郎自宅
六平『ふあぁぁ~あ゛……』バサッ!
新聞記事【サイレンススズカ!故障!復帰は絶望的か!?】
六平『……はぁ』パラッ
新聞記事【サイレンススズカのトレーナー!レース中にコースに乱入!レース妨害!!】
新聞記事【片桐トレーナー、取材中に記者に暴行!?】
六平『相変わらず、なんでもかんでも面白おかしく書けばいいと思いやがって……』
六平『ロクな新聞記者がいねぇな……』ぽいっ
六平『……』
六平(……折れるんじゃねぇぞ……片桐)
◇◇◇
URA指定病院 病室
医師『それじゃあ、午後の検診はこれで終了です』
スズカ『ありがとうございました』
医師『痛みが強いようでしたら、鎮痛剤を飲んでください』
片桐『はい、ありがとうございます』
医師『それでは、お大事に』
ガラガラ……
『ふー……』ぽすっ
スズカ『ふふっ……』
『ん?なに?』
スズカ『トレーナーさん……病院嫌いでしょ?』
『……う゛』
スズカ『ふふふ……入院してるのは私ですよ?』
『……昔、病院に通ってた時期があって、あんまり得意じゃないんだよ……』
スズカ『子供みたい……ふふ』
『病院好き!って、人なんかいないだろぉ?』
スズカ『ふふ、トレーナーさん♪』ぽんっぽんっ
『ふ……はいはい』ぎゅ 手を握る
スズカ『ふふ……』ぎゅ
『子供みたいなのはどっちですかね?』
スズカ『今はいいんです』
『甘えんぼさんめ……』
スズカ『……ふふ』
『……』
(お前なんかがスズカの傍におるな!)
『……』
コンコンコン……
『……どうぞ』
たづな『失礼します』ガラガラ……
『たづなさん』
たづな『片桐トレーナー……』
『……どうかしました?たづなさん』
たづな『それが……URA役員会から、片桐トレーナーに緊急招集がかかっています』
『URAから……』
スズカ『……』
◇◇◇
URA本部 役員会議室
役員A『急な呼び出しに応じてくれて感謝します、片桐トレーナー』
『……いえ』
(……ルドルフ会長もおるのか)
ルドルフ『……』
役員A『片桐トレーナーにいくつか聞きたいことがあります、まずはこの新聞の記事』バサッ
役員A『ここに書かれていることは、事実ですか?』
『拝見します』バサッ
新聞記事【サイレンススズカのトレーナー!レース中にコースに乱入!レース妨害!!】
新聞記事【片桐トレーナー、取材中に記者に暴行!?】
『……』
『……コース侵入に関しては間違いありません』
役員B『間違いありませんって、現役のトレーナーがレース中にコースに乱入するなんて!前代未聞だよ、君!』
『担当の救助のためだったので……』
役員B『事情を知らない観客から見れば、トレーナーがレースへ介入したようにしか見えんだろ!!』
『お言葉ですが、URAではウマ娘のケガよりレースの方が大事、ということですか?』
(ああ……どーでもええ……)
役員B『今はレース妨害について聞いているんだろ!』
『ウマ娘よりも!レースを優先するのであれば!俺はトレーナーなんて続けられない!』
ルドルフ『!』
役員A『片桐トレーナー、サイレンススズカの救助のためとはいえ』
役員A『貴方がコースに侵入し他のレース中のウマ娘と接触するようなことがあれば……』
役員A『他のウマ娘たちにも危害が及びます、それでも正しかったと?』
『……』
(どーでもええ……)
役員A『レース中のコース侵入に関しては本人も認めています、後日厳正な処分を決定します』
『……』
(心底、どーでもええ……)
役員A『次にこの、記者への暴行というのは……事実ですか?』
『……はい』
役員たち『ざわざわ……』
ルドルフ『!!』
役員B『トレーナーが記者に暴行!!論外ですっ!!即刻処分を!!』
役員A『……』
役員A『片桐トレーナー何か申し開きはありますか?』
『ありません……処分も必要ありません』
役員B『なにを言っている!処分を受けんつもりか!!』
『……』タッ……タッ……タッ……
『お返しします』コトッ
役員A『……トレーナーバッジ……』
『ご迷惑をお掛けしました』ペコッ
『失礼します……』タッ……タッ……タッ……
役員A『……』
バタンッ
役員B『フンッ……当然だ……』
ルドルフ『……』
ルドルフ『……役員の方々、少し話を聞いてもらえないだろうか……』
ざわざわ……
◇◇◇
数日後 URA指定病院 病室
『……』シャッシャッシャッ……
スズカ『……リンゴの皮むき、意外に上手ですね』
『ふふん、独身のプロを舐めてもらっちゃ困りますよ』シャッシャッシャッ……
スズカ『なんですか?独身のプロって?』
『……さあ?』
スズカ『ふふふっ……』
スズカ『けど、いいんですか?毎日お見舞いにきて……』
『俺の担当はスズカしかいないからね……』サクッサクッ……
スズカ『……』
『ほい、うさちゃんリンゴにしておきましたよ♪召し上がれ』
スズカ『ふふ……あ~……』
『!』
『自分で食べられるでしょ 』
スズカ『あー……』
『やれやれ……いつからこんな甘えんぼさんになったんだか……』
『はい、あ~ん……』
スズカ『シャクッ♡もぐもぐ……』
『お味はいかがでしょうか?』
スズカ『もぐもぐ……んっ、とってもおいしいです♪』
『トレーナーさんの愛情たっぷりですから……』
スズカ『あ~……』
『あとは自分で食べなさい 』
スズカ『えぇ~……トレーナーさんのけちぃ……ふふ』
『……』
(お前なんかが、いつまでスズカの傍にいるつもりや!)
『花瓶の水換えてくるよ』てくてく……
スズカ『モグモグ……はい』
ガラガラ……
『……トレーナーさん……ね』
◇◇◇
『……うぅ~……』
スズカ『……トレーナーさん?』
『本当に俺がやるの?』
スズカ『足が固定されていて……ベッドに座ったままだとちょっと大変なんです』
『本当にスズカの髪を?俺が?』
スズカ『はい、お願いします』ニコッ✨
『……う』
『……では、失礼しま~す』スッ
スズカ『……』
『……』サァー
(スズカに触るな!汚らわしい!)
スズカ『ふふ……そんな恐る恐るじゃなくて大丈夫ですよ、髪を梳かすくらい』
『……は、はい』スッ、サァー
スズカ『……やさしい……』
◇◇◇
スズカ『スー……スー……』
『……』
スズカ『スー……ん!……くっ……』
(スズカ!?)
スズカ『……くぅ……ぅ……』苦痛に顔をゆがめる
『大丈夫』ぎゅ 手を握る
スズカ『ぅ……スー……スー……』ぎゅ
『……大丈夫』
(お前がスズカをこんな目に遭わせたんや!)
『……わかってる……』
スズカ『スー……スー……』
『……もう少し……』
◇◇◇
トレセン学園 生徒会室
ルドルフ『……』
コンコンコン……
グルーヴ『失礼します』
ルドルフ『どうした?エアグルーヴ』
グルーヴ『片桐トレーナーのことです』
ルドルフ『……また、その話か……』
グルーヴ『会長!やつはこの学園に必要なトレーナーです!』
ルドルフ『……』
グルーヴ『我々もなんとか、トレーナーの力になれませんか?』
ルドルフ『片桐トレーナーがこの学園に必要な人物であることくらい、私にもわかっている』
ルドルフ『エアグルーヴ、君が彼に出会ってからの変化と……』
グルーヴ『!』
ルドルフ『あのサイレンススズカの走りを見れば……』
ルドルフ『彼はこの学園に必要なトレーナーだ……しかし』
ルドルフ『彼自身がそれを望まなければ、我々にはどうしようもない』
グルーヴ『ですが……』
ルドルフ『我々にできることは』
グルーヴ『!』
ルドルフ『彼が帰ってくる“場所”を守るだけだ』
ルドルフ『この学園のウマ娘たちの未来のためにも、片桐トレーナーは必要な男だ』
グルーヴ『……会長』
ルドルフ(……帰ってきてくれると信じているぞ……片桐トレーナー)
◇◇◇
府中市某所 公園
藤井『お待たせしましたぁ、六平トレーナー』
六平『おせーぞ、三流記者』
藤井『すんません、トレセン学園での用事がちぃっと長引きまして……』
藤井『にしても……珍しいですね、六平トレーナーがわしを呼び出すなんて』
藤井『六平トレーナーわしのこと嫌いや思うとりましたわ』
六平『き・ら・い・だ』
藤井『ははは!相変わらず手厳しい!で、そんな嫌いなわしに聞きたいことって……』
六平『“あの日”のことだ……』
藤井『……片桐トレーナー暴行事件』
六平『!』
六平『さすがだな、三流記者』
藤井『はぁ~……六平さんもですか……ホンマ片桐トレーナーは愛されてますなぁ~』
六平『!』
六平『俺以外にも調べてるやつがいんのか?』
藤井『……』
藤井『ま、六平さんならかまへんやろ』
藤井『実は、さっき──』
・・・・・・
六平『!』
藤井『……そういうわけです』
六平『そうか……なら、俺の出る幕じゃねぇな』
藤井『いやいや!なにを言うてますの!六平トレーナー!』
六平『あ?』
藤井『ベテラン六平トレーナーの人脈を使わん手はないでしょ!』
六平『……』
藤井『六平トレーナーにも協力してもらいまっせ』にや
六平『ちっ……仕方ねぇ』
◇◇◇
URA指定病院 病室
看護師『はい、これで大丈夫よ』
スズカ『ありがとうございます』
看護師『寝てる時も足を固定されたままだと動きづらかったでしょ?』
スズカ『はい』
看護師『動きやすくはなったけど、患部には十分気を付けてね』
スズカ『はい』
看護師『それじゃ、お大事に』
『ありがとうございました』
ガラガラ……
『スズカお散歩いかない?』
スズカ『え?でも……どうやって?』
『これで』
車いす
『たまには外の空気も吸わないと』
スズカ『はい♪』
・・・・・・
スズカ『スー……空気が冷たくて……気持ちいい……もう冬ですね』
『スズカ寒くない?』
スズカ『……少し』
『はい』自分のコートをスズカにかける
スズカ『トレーナーさんが寒くなっちゃいますよ』
『馬鹿は風邪ひかないから大丈夫』
スズカ『トレーナーさんは馬鹿じゃありません!』むっ
『ははは……だと、いいんだけどね』
スズカ『トレーナーさん、おひげ伸びましたね、剃らないんですか?』
『ん?スズカとしかほとんど会わないし、めんどくさくて 』
スズカ『じーっ……』
『おひげは嫌いですか?お嬢さん?』
スズカ『あんまり好きじゃありません』
『グハッ……素直っ……』
スズカ『前のお顔の方がよかったですよ』
『ふふ、考えときます』
(前のトレーナーなんかもうおらん!はよ去ねや!)
『……』
◇◇◇
URA指定病院 リハビリ室
理学療法士『それでは今日から本格的にリハビリを開始します』
スズカ『はい』
理学療法士『まず今日は、平行棒につかまって立つ練習をします』
スズカ『……立つ』
理学療法士『患部に全体重はかけません、まずは足の裏を床につけるだけです』
理学療法士『無理はしないでください、少しでも痛かったらすぐにやめましょう』
スズカ『……はい』
『……』
スズカ『……っ』
『……スズカ?』
スズカ『……』プルプル……
スズカ『足を……つけるだけなのに……』
スズカ『……怖い……』
『……うん』
スズカ『私……走ることも、立つことも怖いと思ったことなんて、一度もなかったのに……』
『うん……怖いよな』
スズカ『……トレーナーさん』
『無理しなくていい』
スズカ『……』
『今日は立てなくてもいい……ここまで来ただけで十分だよ』
スズカ『でも……』
『スズカ』
『走る時だけが、前に進んでる時じゃない』
スズカ『!』
『止まって……休んで……それからもう一度立とうとすることだって、ちゃんと前に進んでる』
(どの口が言うてんねん!)
『怖かったら、握ってていいから』
スズカ『……はい』ぎゅ
『ゆっくり……スズカのペースで』
スズカ『……っ……』……トンッ
スズカ『……くっ!』
『スズカ!』
スズカ『大丈夫……です』
スズカ『トレーナーさんが……いますから』
『……うん』
(まだ、スズカに苦痛を与えんのか!)
『……』
理学療法士『はい、今日はここまでにしましょう』
スズカ『……もう終わりですか?』
『初日から欲張らないの』
スズカ『でも、まだ一歩も……』
『今日は立てた』
スズカ『……』
理学療法士『上出来ですよ、スズカさん』
◇◇◇
スズカ『……っ』コツッ
理学療法士『はい、もう一歩』
スズカ『……はい』コツッ
『あと少し……ゆっくりでいいよ』
スズカ『……っ……着きました』
『うん!よく頑張ったね』
スズカ『はい♪』
『……』
◇◇◇
スズカ『……っ』コツッ……コツッ……
松葉杖をつき、病院の廊下を進む
スズカ『トレーナーさん……』
『うん、ここにいるよ』
スズカ『……っ!』ぐらっ
『スズカ!』ガシッ
スズカ『……ありがとうございます』
『焦らなくていいよ』
スズカ『トレーナーさんの手……冷たい』
『外で待ってたからかな』
スズカ『それに……また、おひげが伸びてます』
『……剃るの、忘れてた』
スズカ『もう……』
『ごめん、ごめん』
スズカ『……』
・・・・・・
その日の夜 病院廊下
ぐぅぅ~……
『……』
自動販売機【ブラックコーヒー】
『……』ピッ
ガコンッ
携帯『ピロンッ♪』
携帯画面【六平銀次郎 着信十一件】
携帯画面【駿川たづな 着信七件】
『……』
携帯『ピッ……』携帯電話の電源を切る
『……メシ……いつ食ったっけ……』
(……どーでもええ……なんもかんも……)
◇◇◇
理学療法士『今日は松葉杖を使わず、ここから片桐さんのところまで歩いてみましょう』
スズカ『……はい』
『……』
スズカ『……っ』コツッコツッ……
『一歩……二歩……』
『ゆっくり』
スズカ『……はい』コツッコツッ……
『三歩……四歩……』
スズカ『……っ……トレーナーさん』
『うん』
スズカ『……着きました』
『……』
スズカ『トレーナーさん?』
『あ!……偉い!よく頑張ったね、スズカ』
スズカ『……』
『どうした?』
スズカ『いえ……なんでもありません』
(もうすぐや……)
◇◇◇
医師『経過は非常に順調です、この状態なら来週には退院できるでしょう』
スズカ『本当ですか!』
『……よかったね、スズカ』
スズカ『はい!一緒に学園へ帰れますね♪』
『……ああ……』
スズカ『……』
『……』
(やっと……これで……)
・・・・・・
病室
スズカ『トレーナーさん、ちゃんとご飯食べてます?』
『え?ああモチロン』
スズカ『本当ですか?少しやつれたように見えますけど……』
『え?そう?やっぱわかっちゃう?』
スズカ『……むっ』
『いや、実は健康診断で引っかかっちゃってさぁ、メタボだって』
『だから少しダイエットをね、始めたんだ』
スズカ『本当に?』
『モチロン!体調管理は一番大事!だろ?』
スズカ『なら……いいんですけど……』
『……』
(……もう……どうでもええ……)
◇◇◇
看護師『スズカちゃん!退院おめでとー!』ぱちぱち……
スズカ『ありがとうございます』
医師『辛いリハビリもよく耐え頑張りましたね』
スズカ『トレーナーさんがずっといてくれたからです』ちら
『……スズカが頑張ったからだよ』
スズカ『……』
医師『念を押すようですが、歩けるようになったものの、リハビリはまだ継続していきます』
スズカ『はい』
医師『くれぐれも全力で走ったりしないように、次に同じ箇所を骨折すれば……』
医師『今度こそ歩けなくなる可能性もありますからね』
スズカ『……はい』
医師『片桐トレーナーもよく見ていてください』
『……』
医師『片桐トレーナー?』
スズカ『……』
『はい……本当にお世話になりました』ペコッ
スズカ『……』ペコッ
『行こう、スズカ、荷物持つよ……』
スズカ『あ!はい!……本当にお世話になりました』ペコッ
看護師『また、リハビリで待ってるねぇ』バイバイ……
・・・・・・
『トレセン学園、栗東寮まで』
運転手『はい、シートベルトをお願いします』
スズカ『……』
『……』
スズカ『……トレーナーさん、ありがとうございました』
『……俺は……何もしてないよ』
スズカ『いいえ、あの時の約束通り、ずっと隣で見ていてくれました』
『……』
スズカ『これからどうしようか……入院中ずっと考えていました』
スズカ『もう、走ることはできないけど……どこか新しい場所で新しい景色を見付けられますよね?』
『スズカなら、できるよ』
スズカ『トレーナーさんは新しい担当さんを見つけて……またずっと……走り続けるんですよね』
『……』
スズカ『ふふ……もしかして、私のこと気にしてます?』
『……』
スズカ『トレーナーさんが私の走ってる姿が好きなように』
スズカ『私もトレーナーさんが頑張ってる姿が好きなんですよ』
スズカ『だから、トレーナーさんも走っていてください』
『……』
スズカ『名トレーナー片桐隆の娘たちをたくさん育ててください』
『……』
スズカ『私もそんなトレーナーさんの走りに追いつけるように、頑張りますから』
スズカ『これからも、見ていてください』
『……』
運転手『着きましたよ』キキッ
『ありがとうございます』
スズカ『……』
・・・・・・
トレセン学園 栗東寮前
スズカ『荷物ありがとうございました』
『まだ、無理しちゃだめだからな』
スズカ『はい、わかってます』
『……』
スズカ『トレーナーさん?』
???『スズカさぁーん!』
スズカ『スペちゃん!それにライスさんも』
スペ『退院おめでとうございます!スズカさん!』
ライス『お、おめでとうございます!』
スズカ『ふふ……二人ともありがとう』
スズカ『もしかして待っててくれたの?』
スペ『はい!今日がスズカさんの退院日だって聞いていたので』
ライス『お荷物運ぶの……お手伝いします!』
スズカ『ありがとう二人とも』
スペ『わたしも運びますよー!』
『スズカ』ぎゅ
スズカ『……え』
スズカを強く抱きしめる
スペ『!』
ライス『!!』
スズカ『ちょ……ちょっと……トレーナーさん!……みんな見てますよ……////』
『ありがとう、スズカ……』
スズカ『……あ』パッ
『……』タッ……タッ……タッ……
スズカ(……トレーナーさん)
ー1章ー012話 一歩ずつ、Find My Only Way 完
第12話「一歩ずつ、Find My Only Way」
今回は、スズカが一歩ずつ前へ進んでいく一方で、片桐が少しずつ自分を追い詰めていく物語でした。
病室で過ごす穏やかな時間。
立つことへの恐怖を乗り越え、再び歩き始めるスズカ。
その隣で笑い、励まし、ずっと手を握り続けていた片桐ですが、その心はもう限界を迎えようとしていました。
栗東寮前で告げた「ありがとう」。
その言葉に込められた本当の意味を、スズカはまだ知りません。
次回、第13話。
退院を迎えた二人の物語は、新たな局面へ。
9月6日(日)19:00公開予定です。
【KUROXの
第12話・第13話の裏話・ネタ解説を扱う第6走は、9月7日(月)07:00公開予定です。
【X(本編直接公開・最新情報)】
https://x.com/utsupapa_2021
【note(裏話・ネタ解説)】
https://note.com/kurox_1200
※noteは、登録・ログイン不要でそのままお読みいただけます。