【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う   作:KUROX

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ー2章ー011話

 

 

 

6月上旬

 

トレセン学園 正門前

 

 

バタンッ

 

『よし、これで荷物は積めたかな……』

 

スズカ『はい、あとはライスちゃんだけですね』

 

マリ『ライスちゃん、おっそーい!もう集合時間過ぎてんじゃん』

 

トラン『さっきLANEで、もうすぐ着くって言ってたよん』

 

エク『忘れ物でもしたのかしら……?』

 

『まぁ、まだ慌てるような時間じゃ……』

 

ライス『ま、待ってぇ~……!』 

 

『ん?』

 

一同『!』

 

白いサマーワンピース姿のライスが、小走りで正門へ向かってくる

 

白地に咲いた小さな青いバラと、肩にかけた薄いシフォンのストールが朝の風にふわりと揺れた

 

ライス『はぁ……はぁ……お、遅くなって、ごめんなさい……!』 

 

『……』

 

スズカ『まぁ……』

 

トラン『コメちゃん……』

 

マリ『えっ!?ちょっ、ライスちゃん!?』

 

エク『……綺麗』✨フリフリ……

 

ライス『……////』もじもじ……

 

マリ『めっちゃ可愛いじゃん!なにそれ!反則っしょ!』

 

トラン『うんうん、普段と全然雰囲気違うけど、すっごく似合ってる♪』

 

スズカ『青いバラも素敵ね、ライスちゃん』

 

エク『ストールも、ワンピースによく合っています』

 

ライス『あ、ありがとう……みんな……////』

 

『……』

 

(……天女がおる)

 

ライス『……お兄さま?』

 

『……』

 

ライス『お兄さまは……どう、かな?』

 

『言葉が出なかった……すごく似合ってる』

 

ライス『……!』ぴこっ

 

『可愛いよ、ライス』

 

ライス『……えへへ❤』

 

トラン『はいはい、朝からごちそうさま』

 

マリ『旅行始まる前から、もう二人の世界じゃん!』

 

『う゛……か、感想聞かれたから答えただけだろ!』 

 

ライス『えへへ……////』

 

スズカ『でも、どうして遅くなったの?』

 

ライス『……この服で外に出るの、少しだけ勇気がいって……』

 

『ライス……』

 

ライス『でも、お兄さまに見てもらうって約束したから……勇気、出してきたの』

 

『そっか……ありがとな、ライス』なでなで

 

ライス『ううん……ライスの方こそ、選んでくれてありがとう……お兄さま❤』

 

(可愛い❤可愛い❤可愛い❤可愛い❤……)

 

マリ『ナビっちぃー!いつまで見つめ合ってんのー!早く行こー!』

 

『は、はい! じゃあ、ライスの荷物も積んで出発するぞ!』

 

一同『おーっ!』

 

ライス『はい♪お兄さま❤』

 

 

◇◇◇

 

 

ゆこま温泉郷 ゆこま旅館

 

ブロロロロ……キキッ

 

ゆこま旅館の玄関前に、片桐の運転するレンタカーが停まる

 

『到着~……っと』

 

マリ『着いたぁーーーッ!』ガラッ

 

『マリ!駐車が終わるまでドア開けるな!』 

 

マリ『もう停まってんじゃん♪』

 

『今停まったんだよ!』

 

トラン『はいはい、トレちゃんお疲れ~』

 

スズカ『トレーナーさん、運転お疲れ様でした』

 

ライス『お兄さま、ありがとう♪』

 

エク『片桐トレーナー、荷物を降ろすのを手伝います』

 

『うん、ありがと、とりあえず全員、忘れ物がないか確認して……』

 

女将『ようこそ、ゆこま温泉郷へ。お待ちしておりました』

 

『!』

 

旅館の玄関前で、一人の女性とウマ娘が一行を出迎える

 

女将『片桐様と、チームポリマの皆様ですね』

 

『はい、そうです』

 

女将『改めまして、ゆこま旅館で女将を務めております、保科健子と申します』cv.高垣彩陽

 

『保科……健子さん……』

 

(保科……?それに、この人……誰かに似てるような……)

 

ユノハナ『そして、私はユノハナブルームです!こちらで女将になるため、修業をしています♪』cv.豊崎愛生

 

マリ『若女将ってやつ!?』

 

ユノハナ『まだまだ修業中ですけどね♪』

 

『チームポリマのトレーナー、片桐です』ぺこっ

 

『本日から2泊、よろしくお願いします』

 

女将『ふふ、皆様のお話は伺っておりますので、どうぞごゆっくりお過ごしください』

 

一同『よろしくお願いします!』

 

ユノハナ『お荷物はこちらの台車へどうぞ』

 

『あ、荷物くらい自分たちで運びますよ』

 

ユノハナ『いえいえ、皆様はお客様ですから♪』

 

マリ『じゃあ、これお願いしまーす!』

 

ドサッ!

 

ユノハナ『はい♪』

 

『マリ……お前、そのバッグになに入れてきたんだ?』 

 

マリ『着替えとか、お菓子とか、トランプとか、枕とか』

 

『枕!?旅館にあるだろ!』

 

マリ『いつもの枕じゃないと寝れないかもしれないじゃん?』

 

エク『昨日まで、どこでも寝られるって言ってたでしょ……』 

 

マリ『それはそれ!これはこれ!』

 

『ったく……重いだろ?俺が載せるよ』

 

ユノハナ『大丈夫ですよ♪』ひょいっ

 

『おっ……』

 

マリ『おおっ!』

 

ユノハナはマリの大きなバッグを軽々と持ち上げ、台車へ載せる

 

ユノハナ『まだまだ載りますから、皆さんのお荷物もどうぞ♪』

 

トラン『さすがウマ娘……』

 

スズカ『トランちゃん、私たちもウマ娘でしょう?』 

 

トラン『いやぁ、ウチは荷物運びよりデータ運びの方が得意だからさ♪』

 

『はいはい、トランの荷物も載せてもらいなさい』

 

トラン『はーい』

 

ライス『ライスも、自分で持てるよ?』

 

ユノハナ『今日は身体を休めに来たんですよね?遠慮せず、私に任せてください♪』

 

ライス『……うん、ありがとう、ユノハナさん』

 

ユノハナ『どういたしまして♪』

 

エク『マリ、そっちの袋も忘れてる』

 

マリ『あっ!それもお願いしまーす!』

 

ユノハナ『はい♪』

 

『マリの荷物だけで台車半分埋まってない?』 

 

マリ『気のせい気のせい♪』

 

エク『気のせいじゃないでしょ……』

 

女将『ふふ……賑やかなチームですね』

 

『すみません、到着早々……』 

 

女将『いえいえ、旅館が明るくなって嬉しいですよ』

 

ユノハナ『女将、皆様のお荷物、載せ終わりました!』

 

女将『ありがとう、ユノハナ』

 

女将『それでは皆様、お部屋へご案内いたします』

 

『はい、みんな、行くぞ』

 

一同『はーい!』

 

ユノハナ『足元にお気をつけくださいね♪』

 

ユノハナは荷物を満載した台車を押し、一行の後ろに続く

 

『……』

 

(保科健子さん……やっぱり、誰かに似てんねんけどなぁ……)

 

女将『片桐様、どうかなさいましたか?』

 

『えっ!?い、いえ!なんでもありません』 

 

女将『ふふ……では、こちらへどうぞ』

 

『はい……』

 

(う~ん……誰やったっけぇ……?)

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 客室【岩の間】

 

スーッ

 

女将『こちらが、皆様にお泊まりいただく【岩の間】でございます』

 

マリ『うおぉーーーっ!広ーーーい!』

 

トラン『おー、窓から山が一望できるんだ』

 

スズカ『素敵な景色ですね』

 

ユノハナ『このお部屋は、付近の名峰を一望できるのが自慢なんですよ♪』

 

ライス『わぁ……綺麗……』

 

女将『どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください』

 

ユノハナ『では、皆様のお荷物はこちらへ置かせていただきますね♪』

 

『ああ、ありがとう』

 

ユノハナは一人ずつ荷物の置き場所を確かめ、部屋の隅へ順番に整えていく

 

マリ『うちの枕は、こっちに置いといてー!』

 

エク『旅館まで持ってきたんだから、自分で置きなさいよ……』 

 

マリ『えぇー、もう座っちゃった♪』

 

エク『まったく……』

 

荷物を片づけ終えると、ユノハナは座卓の前に座り、湯呑みにお茶を注いでいく

 

ユノハナ『長旅、お疲れさまでした』

 

ユノハナ『こちらをどうぞ♪』

 

一同『いただきます』

 

女将『ゆこま旅館は、URAの保養施設として、古くからウマ娘の皆様をお迎えしてきた宿でございます』

 

トラン『なるほどね、ガチで身体を休めるための旅館ってわけだ』

 

女将『ええ、いい走りには、いい休養が欠かせませんから』

 

女将『ここでは何も気にせず、心も身体もゆっくりと休めてください』

 

スズカ『はい、ありがとうございます』

 

女将『大浴場は、この部屋を出て、先ほどの廊下を戻った先にございます』

 

女将『男女それぞれの暖簾が目印です』

 

女将『奥には露天の岩風呂もございますので、ぜひお楽しみください』

 

マリ『露天風呂!早く入ろうよ!』

 

『説明は最後まで聞きなさい』 

 

マリ『はーい』

 

女将『ふふ……ゆこまの湯は、疲労回復のほか、筋肉痛や関節のこわばり、打ち身などにもよいとされています』

 

ライス『今のライスたちに、ぴったりだね』

 

女将『ええ、頑張った身体を、ゆっくり休めてあげてください』

 

ユノハナ『それに、美肌にもいいんですよ♪』

 

マリ『美肌!?』ガタッ

 

『お前、食いつくところそこかよ』 

 

トラン『いやいや、美肌は重要でしょ、トレちゃん』

 

スズカ『私も、少し興味があるわ』

 

ライス『ライスも……綺麗になれるかな……?』

 

『ライスもスズカも、もう十分綺麗だろ』

 

ライス『お、お兄さま……❤』

 

スズカ『ト、トレーナーさんったら……////』

 

トラン『あぁ、ウチらはまだまだですか……?』

 

マリ『贔屓だぁぁーっ!』

 

『うるさい!』 

 

女将『貸切のお風呂もございますので、ご希望でしたらお申しつけください』

 

ユノハナ『お風呂上がりには、名物の温泉にんじんもございますよ♪』

 

ライス『温泉にんじん!?』✨

 

エク『ライスさん……美肌の時より、反応が速くありませんでしたか?』 

 

女将『旅館についてのご案内は、以上となります』

 

女将『それから片桐様、お部屋はこのお隣にご用意しております』

 

『ありがとうございます』

 

一同『えっ?』

 

『ん?』

 

マリ『ナビっち、別の部屋なの!?』

 

『そりゃそうだろ、男は俺一人なんだから』

 

トラン『トレちゃんだけ一人部屋ぁ?それ、ズルくない?』

 

『なにがズルいんだよ!』

 

スズカ『せっかく皆で来たんだから、夜くらい一緒にお話しできると思っていたのに……』

 

ライス『お兄さまと……同じお部屋じゃないんだ……』

 

『ライスまで……』 

 

エク『男女別なのは当然ですが……』

 

エク『片桐トレーナーだけ個室というのは、部屋割りの公平性に欠けます』

 

『公平性の問題じゃないだろ!?』

 

マリ『えぇー!一緒の部屋がいいー!』

 

トラン『ウチもウチもー』

 

ライス『ライスも……』

 

スズカ『私も……少し残念です』

 

エク『私も異議を申し立てます』

 

『全員で愚痴るな!』 

 

女将『ふふ……片桐様のお部屋は、こちらのすぐお隣ですのでご安心ください』

 

ユノハナ『寂しくなっても、すぐに会いに行けますよ♪』

 

マリ『じゃあ、夜はナビっちの部屋に集合ね!』

 

一同『賛成!』

 

『集合すなっ!』 

 

女将『それでは片桐様、お部屋へご案内いたしますね』

 

『は、はい……みんな、少し休んでろよ?』

 

マリ『はーい!あとで遊びに行くねー!』

 

『来んでええッ!』 

 

・・・・・・

 

トラン『さってとぉ……昼食はサービスエリアで食べたし……これからどうしよっか?』

 

トラン『やっぱ温泉?』

 

マリ『そういえばさー、女将さん、貸切のお風呂もあるとか言ってなかったっけ?』

 

トラン『にやり……気づいちゃった?マリ』

 

マリ『へへへ……モチロン♪』ニヤリ

 

スズカ『二人とも、なにを企んでいるの?』

 

マリ『んー?別にぃ?』

 

エク『その顔で、なにも企んでないってのは無理っしょ……』 

 

トラン『いやぁ、貸切ってことはさ……』

 

トラン『その時間は、ウチらだけで使えるってことでしょ?』

 

スズカ『そうでしょうね』

 

マリ『だったら、ナビっちも一緒に入れるじゃん♪』

 

ライス『お、お兄さまと一緒に!?……////』 

 

スズカ『えっ……』 

 

エク『やっぱり、それが目的だったのね……』 

 

マリ『せっかくチーム全員で来たんだよ?お風呂も全員で入った方が楽しいっしょ!』

 

エク『片桐トレーナーは男性です』

 

トラン『でも貸切だよん?他のお客さんはいないし♪』

 

エク『そ、そういう問題では……』 

 

マリ『まあまあ♪ どうせナビっち、顔真っ赤にして断るって!』

 

トラン『絶対いいリアクションしてくれるよ、トレちゃん♪』

 

スズカ『二人とも、最初からトレーナーさんをからかうつもりなのね……』 

 

マリ『スズカねえは、どんな顔で断るか見たくない?』

 

スズカ『私は……』

 

マリ『見たくない?』

 

スズカ『……少しだけ』 

 

エク『スズカさんまで……』 

 

トラン『そういうエクは?』

 

エク『私は止める側です』

 

マリ『じゃあ、ここに残る?』

 

エク『……』

 

トラン『トレちゃんのリアクション、見られないよん?』

 

エク『……見届けるだけです』フリフリ……

 

マリ『エクも見たいんじゃん♪』

 

エク『違うし』

 

ライス『お兄さまが嫌がったら、無理に誘っちゃダメだよ?』

 

マリ『分かってるって♪ 聞くだけ聞くだけ!』

 

トラン『じゃあ、決まりだね♪』

 

スズカ『本当に聞きに行くの……?』 

 

マリ『モチロン♪』

 

エク『聞くだけですからね?』

 

トラン『はいはい♪』

 

ライス『お兄さま……びっくりしないかな……』 

 

マリ『よーし!ナビっちの部屋に突撃ー!』

 

スズカ『マリちゃん、廊下は走っちゃダメよ』

 

マリ『はーい!』タッタッタッ……

 

エク『言いながら走ってるし……』 

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 客室【楓の間】

 

トントン……

 

『はい?』

 

トラン『ト~レ……ちゃん♪ ちょっといい?』

 

『ん?』

 

スーッ……

 

『どうした?全員そろって……』

 

マリ『ナビっち!貸切風呂、うちらと一緒に入ろ!』

 

『……』

 

一同『……』ニヤニヤ……

 

(あぁ……なるほどな……)

 

『……いいよ、いこっか』

 

一同『えっ!?』

 

マリ『ほぇっ!?』 

 

ライス『ひゃわわッ!!』 

 

トラン『……トレちゃん……い、いま、なんて?』 

 

『だから、みんなで入るんだろ?』

 

ライス『お、お兄さまと……み、みんなで……////』シュー……

 

スズカ『ト、トレーナーさん……本当に?……////』

 

『ああ、せっかくの貸切だしな』

 

エク『か、か、か、片桐トレーナー!状況を理解していますか?』 

 

『もちろん』

 

マリ『ナ、ナビっちは男で、うちらは女の子なんだけど!?』 

 

『知ってるよ』

 

マリ『知ってて一緒に入るの!?……////』

 

『誘ったのはみんなだろ?』

 

マリ『そ、それはそうだけどぉ!』 

 

トラン『あ、あれぇ……?なんか思ってたのと違うんだけど……////』 

 

『どうした?早く行こう』

 

スズカ『ま、待ってください!心の準備が……////』 

 

『心の準備?』

 

スズカ『それは……その……ぽっ////』

 

ライス『お、お、お兄さま……ライスも、まだ……ぽっ////』

 

『まだ?』

 

ライス『な、なんでもないよぉ!』 

 

エク『片桐トレーナー、皆さんは冗談で誘っただけです』

 

『俺は本気だけど?』

 

エク『ッ!?……////』ブンブンブン……

 

マリ『ちょ、ちょっと待って!一回みんなで相談するから!』 

 

『なんで?チームの親睦を深めるんだろ?』

 

マリ『ナビっちが乗り気だと話が違うのッ!!……////』 

 

トラン『これ、もしかしてウチらの方がピンチじゃない?』 

 

エク『だから、私は止める側だと言ったでしょう!……////』

 

マリ『エクもついてきたじゃん!』 

 

スズカ『トレーナーさん、や、やっぱり今のお話は……////』

 

『じーっ……』

 

『冗談に決まってるだろッ!!』

 

一同『……』

 

『お前らの悪だくみなんか、顔を見た瞬間に分かったわ!』

 

マリ『や、やられたぁぁぁっ!』 

 

トラン『カウンターが重すぎるよ、トレちゃん……////』

 

スズカ『もう……心臓に悪いです……////』

 

ライス『お兄さまのいじわる……////』

 

エク『最初から気づいていたのなら、そう言ってください!』 

 

『大人をからかおうとした罰だ』ベーッ

 

マリ『くぅぅ……ナビっちのくせにぃ……!』

 

『ほら、お前らだけで入ってこい』

 

トラン『はーい……今回は完敗だねぇ』

 

スズカ『行きましょう……これ以上ここにいると、また何を言われるかわからないわ』

 

ライス『お兄さま、あとでちゃんと謝ってね?』

 

『なんで俺が!?』

 

エク『女の子5人を一度に困らせた責任です』

 

『お前らが仕掛けてきたんだろ!』

 

マリ『ナビっちー!あとで覚えてろー!』

 

『はいはい……負け惜しみ乙ー♪』

 

マリ『ぐぅ……』

 

トラン『次は負けないからね、トレちゃん♪』

 

『もう仕掛けてくんな!』

 

スーッ……バタンッ

 

『やれやれ……俺も温泉で運転の疲れを癒してきますかね』

 

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 露天風呂 女湯

 

カラカラ……

 

マリ『うっわぁ~!ひっろーい!』

 

トラン『露天風呂、貸切状態だねぇ♪』

 

スズカ『マリちゃん、走ったら危ないわよ』

 

マリ『分かってるって♪』

 

エク『分かっている人は、そんな勢いで入ってきません』

 

ライス『み、みんな待ってぇ……』 

 

トラン『コメちゃん、大丈夫?』

 

ライス『う、うん……でも、やっぱりちょっと恥ずかしいよぉ……////』

 

スズカ『女の子同士なんだから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ』

 

ライス『スズカさんは平気なの……?』

 

スズカ『平気というわけではないけれど……』

 

エク『最低限の慎みは必要です』

 

マリ『えー?みんな女の子じゃん♪』

 

エク『そういう問題ではありません』

 

トラン『マリ、女の子なんだから……タオルは肩にかけるものじゃないよ?』

 

マリ『だって邪魔じゃん』

 

エク『少しは隠しなさい!』 

 

マリ『減るもんじゃないっしょ♪』

 

エク『マリ!』 

 

マリ『はいはい、分かりましたぁ~』

 

スズカ『まずは身体を洗いましょう』

 

マリ『はーい!』

 

5人が並んで洗い場の椅子へ腰を下ろす

 

わしゃわしゃ……

 

ゴシゴシ……

 

ライス『じーッ……』

 

エク『じーッ……』

 

トラン『んん?コメちゃんもエクもそんなにウチのこと見て、どしたん?』

 

ライス『えッ?あ、えっと……ご、ごめんなさい』 

 

エク『す、すみません!』 

 

トラン『ん~……?……あ!ピコーン 』

 

トラン『もしかしてぇ……これッ?』ぎゅむッ

 

得意げな顔で、両腕を胸の下で組む

 

スズカ『……すごい』

 

マリ『あれぇ……?スズカねえも、気になっちゃう感じ?』

 

スズカ『わ、私は別に……』 

 

マリ『うちもなかなかのもんっしょ?』エッヘン

 

スズカ『……う……』 

 

自分の身体をみつめるスズカ

 

ライス『いいなぁ~ライスももうちょっと……トランちゃんみたいになったらなぁ……』

 

エク『……』こくこく

 

トラン『あははは……大丈夫大丈夫、トレちゃんはちっちゃいのが好きだから♪』

 

一同『えッ?』

 

トラン『……あッ 』

 

トラン『ちょ!今のはナシナシ! 聞かなかったことにして!』 

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 男湯脱衣所

 

『はーっくしょんッ!……チクショウ……』

 

(ん?誰かに噂でもされたか?)

 

・・・・・・

 

露天風呂 女湯

 

ザァァァ……

 

マリ『よっし!いっちばーん♪』

 

スズカ『マリちゃん、泡はきちんと流した?』

 

マリ『バッチリ♪』

 

エク『湯船へ飛び込んではいけないからね』

 

マリ『分かってるって!』

 

ちゃぷん……

 

マリ『うっひゃぁ~……気持ちいい~♪』

 

トラン『極楽、極楽ぅ~♪』

 

ライス『ふわぁぁ……あったかいねぇ……♪』

 

スズカ『ええ……身体の力が抜けていくみたい』

 

エク『泉質による効能は、疲労回復、血行促進、それから……』

 

ちゃぷん……

 

エク『……』

 

マリ『エク?』

 

エク『……気持ちいい』ほわぁ……

 

トラン『エクがとろけた♪』

 

エク『とろけてぇ……ません』 

 

マリ『それにしても、ひろーい!』

 

スズカ『貸切ではないけれど、今は私たちだけみたいね』

 

マリ『これなら泳げるじゃん♪』

 

エク『マリ、泳いじゃダメ!』

 

マリ『とーう!』

 

ザバザバザバッ!

 

ライス『わわっ!お湯が波みたいになってるよぉ!』 

 

スズカ『マリちゃん!温泉はプールじゃないのよ!』

 

マリ『うちの華麗な泳ぎを見よー!』

 

エク『見ません!戻ってきなさい!』 

 

トラン『おぉ~、なかなかいい泳ぎだねぇ♪』

 

エク『トランさんも止めてください!』 

 

トラン『マリ~、ターンして戻っておいで~』

 

マリ『はーい♪』

 

エク『そういう意味ではありません!』 

 

・・・・・・

 

ちゃぷん……

 

マリ『両側を固める必要ある?』 

 

スズカ『また泳がないように!』

 

エク『逸走防止です!』

 

マリ『うち、そんなに信用ない?』

 

一同『ない』

 

マリ『即答ッ!?』 

 

トラン『日頃の行いだねぇ♪』

 

・・・・・・

 

『く、はぁぁぁぁ~……極楽ぅ……』

 

一同『!』

 

マリ『……ナビっち?』

 

『……』

 

トラン『トレちゃーん、聞こえるぅ?』

 

『聞こえな~い』

 

エク『返事をしている時点で聞こえています』

 

『……聞こえてるよ!なんだよ!』 

 

マリ『あははっ!壁一枚だから丸聞こえじゃん♪』

 

『静かに入らせてくれ……』

 

マリ『ナビっち、温泉入ってすぐオヤジみたいな声出してたね♪』

 

『45歳は立派なオヤジなの!』

 

トラン『トレちゃん、そっちのお湯も気持ちいい?』

 

『ああ……運転の疲れが溶けてく感じだぁ……』

 

スズカ『トレーナーさん、今日はずっと運転してくれてたものね』

 

『スズカ……』

 

スズカ『ゆっくり疲れを取ってくださいね』

 

『ありがとう……』

 

ライス『お兄さま、のぼせないように気をつけてね?』

 

『ライス……』

 

ライス『お兄さまが倒れたら、ライス心配だよ……』

 

『大丈夫だから、ライスもゆっくり入っておいで』

 

ライス『うん♪』

 

エク『片桐トレーナー、水分補給も忘れないでください』

 

『エクまで……みんな心配しすぎだよ』

 

エク『トレーナーの体調管理も、チームにとって重要ですから』

 

『そ、そうか……』

 

トラン『トレちゃん、顔が緩んでるんじゃない?』

 

『ゆ、緩んでない!』

 

マリ『ナビっち、うちらの声だけで昇天しそうじゃん♪』

 

『するか!』

 

一同『せーの!』

 

スズカ『トレーナーさん♪』

 

ライス『お兄さま♪』

 

トラン『トレちゃん♪』

 

マリ『ナビっち♪』

 

エク『片桐トレーナー♪』

 

『ぐっはぁぁぁぁっ!!』

 

ゴンッ!

 

一同『!?』

 

ライス『お兄さまぁ!?』 

 

スズカ『トレーナーさん、大丈夫ですか!?』

 

トラン『トレちゃん、生きてるぅ?』

 

エク『返事をしてください!』 

 

『お前ら……俺を昇天させる気かぁぁぁっ!!』

 

一同『あははははっ!』

 

『いてて……笑いごとじゃない!』 

 

マリ『ナビっち、声だけじゃ物足りないっしょ?』

 

『は?』 

 

マリ『よーし……』

 

エク『マリ、なにをしているの?』

 

マリ『ちょっとナビっちに、顔見せてこよっかなって♪』

 

エク『バカッ!……マリ!今全裸でしょッ!』

 

マリ『大丈夫、大丈夫♪ ナビっちの顔見るだけだから♪』

 

スズカ『マリちゃん、壁に登ったら危ないわよ!』

 

ライス『落ちちゃうよぉ!』 

 

マリ『へーきへーき♪』

 

トラン『あとちょっと、あとちょっと♪』

 

エク『トランさんは応援しないでください!』 

 

『おい……壁の向こうで、なにしてる?』 

 

マリ『もうちょいで会えるよー!』

 

エク『片桐トレーナー!万が一に備えてこちらは見ないでください!』

 

『な!?え?マジで!?……ちょ!マリ、来るな!!』

 

ガサガサ……

 

(見たらダメだ……見たらダメだ……見たらダメだ……)

 

エク『マリ!今すぐ降りなさい!』

 

マリ『あとちょっとだからぁ!』

 

スズカ『ライスちゃん、マリちゃんの脚を持って!』

 

ライス『う、うん!』 

 

マリ『ちょっ、引っ張らないで!』

 

『……』

 

『……見たら……』ちらっ

 

壁の上から、ぴょこんっ♪

 

(ウマ耳!!?)

 

『ぐはっ!』

 

バシャァァン!

 

マリ『あっ!いま見た!?』

 

『見てない!耳しか見てない!』

 

一同『……』

 

『……』

 

マリ『耳は見たんだ♪』

 

『しまったぁぁぁっ!!』 

 

エク『マリ!いい加減にしなさい!』

 

スズカ『せーの!』

 

ライス『えいっ!』

 

マリ『ちょっ、待っ……』

 

ザバァァン!!

 

トラン『おぉ~、派手に落ちたねぇ♪』

 

マリ『ぶはぁっ!ちょっとぉ!』 

 

『な、なにが起きた!?』

 

エク『こちらは鎮圧しました!』

 

『温泉で鎮圧ってなんだよ!?』

 

トラン『トレちゃん、耳だけで倒れちゃったねぇ♪』

 

『うるさい!』

 

マリ『ナビっち、うちの耳そんなに可愛かった?』

 

『知らん!見てない!』

 

マリ『見たって自分で言ったじゃん♪』

 

『あれは不可抗力だぁぁぁっ!!』

 

一同『あははははっ!』

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 自販機コーナー

 

ガコンッ!

 

マリ『ナビっち、なに買ったん?』

 

『コーヒー牛乳』

 

マリ『うちも♪』

 

ゴクゴクゴク……

 

腰に手を当て、並んでコーヒー牛乳を飲み干す片桐とマリ

 

片桐・マリ『ぷはぁぁっ!』

 

トラン『ふたりとも、おっさんみたいな飲み方だね』 

 

片桐『温泉にはコーヒー牛乳だろ!?』

マリ『温泉にはコーヒー牛乳っしょ!?』

 

エク『それは銭湯では?』

 

片桐・マリ『んーッ……』 

 

スズカ『息までぴったりね』

 

ライス『ふふっ、お兄さまとマリちゃん、親子みたい♪』

 

『せめて兄妹と言ってくれ!』

 

マリ『そこ気にすんの?』

 

女将『皆様、こちらにいらしたのですね』

 

『女将さん』

 

女将『お風呂はいかがでしたか?』

 

ライス『すっごく気持ちよかったです♪』

 

スズカ『露天風呂も、とても素敵でした』

 

マリ『めっちゃ広かった!』

 

エク『一名、泳いでいましたが……』 

 

女将『ふふ、楽しんでいただけたようで何よりです』

 

女将『そうそう、ちょうどリラクゼーションルームに空きが出たのですが、皆様でいかがでしょうか?』

 

『リラクゼーションルーム?』

 

女将『専門の施術師による全身マッサージを受けていただけます』

 

トラン『全員一緒に?』

 

女将『はい、ただいまでしたら、皆様揃ってご案内できますよ』

 

マリ『行く行く!』

 

エク『マリ、少しはみんなの意見を聞いてから……』 

 

スズカ『私はお願いしたいわ……合宿前に身体を整えておきたいもの』

 

ライス『ライスも受けてみたいな♪』

 

トラン『ウチも賛成♪ トレちゃんは?』

 

『俺も運転で肩が凝ってるし、お願いしようかな』

 

マリ『じゃ、全員決まり♪』

 

女将『かしこまりました』

 

女将『それでは、ご案内いたしますね』

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 リラクゼーションルーム

 

室内は照明が少し落とされ、ほのかなアロマの香りに包まれている

 

横一列に並べられた6台の施術台

 

その傍らでは、4人の施術師がすでに待機していた

 

トラン『あれ?マッサージする人、4人しかいなくね?』

 

女将『ご安心ください』

 

女将『残りの2人は、私とユノハナが担当いたします』

 

ユノハナ『精いっぱい、癒やしますね♪』

 

スズカ『女将さんたちも施術ができるんですか?』

 

女将『ええ、旅館で働く者の嗜みでございます』

 

ユノハナ『私は女将になるため、マッサージも修業中なんです!』

 

トラン『へぇ~……旅館の女将ってそんなことまでできるんだねぇ』

 

女将『ユノハナは、ライス様をお願いいたします』

 

ユノハナ『はい!ライスさん、こちらへどうぞ♪』

 

ライス『よ、よろしくお願いします』

 

女将『片桐様は、私が担当させていただきますね』

 

『あ、はい』

 

(ユノハナちゃんがよかった……)

 

トラン『トレちゃん、なんか残念そうじゃない?』

 

『そ、そんなことない!』

 

(ウマ娘にマッサージしてもらえる機会なんて、滅多にないやん……)

 

女将『片桐様、こちらへどうぞ』

 

『お願いします』

 

それぞれ施術台へうつ伏せになり、マッサージが始まる

 

ぎゅうぅ……

 

『おぉぉ……』

 

女将『肩から背中にかけて、かなり張っていますね』

 

『朝から運転しっぱなしでしたからねぇ……』

 

女将『姉の言ったとおりです』

 

『お姉さん?』

 

女将『ええ、姉はトレセン学園で保健室を預かっている、保科健美です』

 

『保科先生ぇ!?』

 

(どうりで誰かに似てると思ったわ!)

 

『女将さん、保科先生の妹だったんですか!?』

 

女将『はい、姉から片桐様とチームポリマの皆様のお話は、よく伺っております』

 

『な、なんて言ってました?』

 

女将『ふふ、それは秘密です』

 

女将『今回の施術も、姉から頼まれていたものなんですよ』

 

『保科先生が?』

 

女将『皆様がしっかり休養できるように、念入りにほぐしてあげてほしいと』

 

女将『特に片桐様は、ご自身の休養を後回しにしがちだと伺っておりますから』

 

『よく分かってらっしゃる……』 

 

女将『それでは、少し強く押しますね』

 

ぐぐぐっ……

 

『くぅぅ……効くぅぅ……』

 

女将『力加減はいかがですか?』

 

『最高です……極楽です……』

 

(あかん……意識が飛びそうや……)

 

静かな室内に、ポリマたちの声が聞こえ始める

 

ぐっ……ぐぐぐっ……

 

スズカ『あっ❤……そこ、よく効きます❤』

 

施術師『脚もずいぶん張っていますね』

 

スズカ『はい……少しずつ軽くなっていくみたいです❤』

 

もみもみ……

 

ライス『ふわぁぁ❤……あ❤気持ちいいですぅ❤』

 

ユノハナ『力加減は大丈夫ですか?』

 

ライス『はい……このまま眠っちゃいそう……❤』

 

ぎゅうぅ……

 

トラン『あぁ~……ん❤そこそこ❤そこめっちゃ効くぅ❤』

 

トラン『ん❤ん~……これはクセになりそうだねぇ❤』

 

ぐぐぐっ……

 

マリ『うっわ❤なにこれ、最高じゃん♪』

 

施術師『もう少し強くしてみますか?』

 

マリ『うん、よろ~……ひゃっ❤……効くぅぅ~❤』

 

ぐっぐっ……

 

エク『い、痛っ❤……ですが、ちゃんと効いています』 

 

施術師『こちらは少し弱めましょうか?』

 

エク『いえ❤このままでお願いします❤……んっ❤あ❤ッ❤』

 

『……』悶々……

 

ライス『あ❤……そこ❤……気持ちいい❤』

 

『……』悶々……

 

スズカ『ん❤……ああ❤……いいです❤』

 

『……』悶々……

 

(なんで!?……なんで真ん中の施術台を選んだんや!?ワシ!!)

 

トラン『お❤……おお❤……ん❤……いいねぇ❤……』

 

(なに!?このASMR!?なんてエロゲーですかッ!!?)

 

エク『あ❤……痛っ❤……いえ、痛いぐらいが好きなので❤……』

 

『……』 悶々……悶々……

 

マリ『あっひゃひゃひゃ!ちょっ!そこダメ、笑っちゃう!』

 

『……』スン……

 

『女将……』

 

女将『はい?』

 

『耳栓とか……あったりします?』

 

女将『はい、すぐにご用意しますね……』てくてく……

 

マリ『オホッ!ぎゃはは……!だめ!そこもダメ!ぎゃはは……』

 

『……』

 

心の中で、ちょっとだけマリに感謝した片桐であった……

 

一同『マリ!うるさいッ!』

 

マリ『はぅ……ごめんちゃい……』

 

 

・・・・・・

 

ゆこま旅館 宴会場

 

広々とした宴会場に、色とりどりの料理が所狭しと並べられている

 

マリ『うっわぁぁ!すっごいごちそう!』

 

トラン『これはテンション上がるねぇ♪』

 

スズカ『ですけど、なぜ私たちだけで宴会場を?』

 

女将『今はまだシーズン前で、ほかのお客様も少ないものですから』

 

女将『本日は特別に、こちらの宴会場を貸し切りでご用意させていただきました』

 

スズカ『私たちのために、ありがとうございます』

 

女将『どうぞ皆様だけで、ごゆっくりお楽しみくださいませ』

 

『ありがとうございます』

 

一同『いただきます!』

 

マリ『この天ぷら、サクサク♪』

 

トラン『こっちも美味しいよ、エク』

 

エク『では、いただきます』

 

ライス『……』じぃぃ……

 

『ライス、遠慮しないで食べていいからな』

 

ライス『は、はい♪』

 

ぱくぱく……もぐもぐ……

 

ユノハナ『ライスさん、お櫃のおかわりをお持ちしました♪』

 

ライス『ありがとうございます♪』

 

スズカ『ライスちゃん、それで3つ目よね……?』

 

ライス『えっと……でも、小さいお櫃だから……』 

 

トラン『問題はサイズなんだ』

 

マリ『その身体のどこに入ってんの!?』

 

エク『摂取量と体積が一致していません』

 

ライス『ご、ごめんなさい……』 

 

『謝ることじゃないよ』

 

『今日はたくさん食べて、しっかり元気になろう』

 

ライス『うん、お兄さま♪』

 

再び、ライスは嬉しそうに箸を動かし始める

 

女将『片桐様、よろしければ地酒はいかがですか?』

 

『いえ、酒は好きなんですが、体質的に弱くて……』

 

女将『それでしたら、無理にはお勧めできませんね』

 

ユノハナは徳利を手に、片桐の隣へちょこんと腰を下ろした

 

ユノハナ『本当に一杯だけ、いかがですか?』にこっ

 

『いや、でも……』

 

ユノハナ『一杯だけです♪』にこにこ……

 

(きゅん❤)

 

『……じゃあ、本当に一杯だけ』

 

ユノハナ『はい♪』

 

とくとくとく……

 

『ありがとうございます』

 

くいっ……

 

『……美味しい』

 

女将『口当たりが柔らかく、飲みやすいお酒なんですよ』

 

『これは進みますねぇ』

 

スズカ『トレーナーさん、本当に大丈夫ですか?』

 

『一杯だけなら大丈夫だよ』

 

食事が進み、宴会場に楽しげな笑い声が響く

 

女将『皆様、お腹も落ち着いてきたところで、ユノハナから余興を披露させていただきます』

 

ユノハナ『皆様、どうぞお楽しみください♪』

 

ユノハナ『まずは、南京玉すだれです♪』

 

しゃらっ……

 

細長かった玉すだれが、ユノハナの手の中で次々と形を変えていく

 

スズカ『ふふ……今度は橋になったわ♪』

 

ライス『あっ、お花にもなったよ♪』

 

ぱちぱちぱちぱち!

 

『いやぁ、すごいなぁ!』

 

トラン『若女将っていうか、大道芸人じゃん』

 

ユノハナ『女将への道は、芸の道でもありますので♪』

 

女将『そのような教えをした覚えはないのですが……』

 

ユノハナ『備えあれば宴会ありです♪』

 

エク『使い方が違います』

 

片桐は空になった杯を眺めると、ユノハナへ差し出した

 

『ユノハナさん、もう一杯だけもらえます?』

 

ユノハナ『ふふふ……もちろんです♪』にこっ

 

『ありがとう』

 

とくとくとく……

 

その言葉とは裏腹に、料理と余興に気をよくした片桐は、自分から何度か杯を差し出していた

 

マリ『ナビっち、顔赤くなってない?』

 

『なってない、なってない』

 

トラン『その返し、もう酔ってる人のやつだねぇ』

 

『全然酔ってないよ』

 

エク『2度目の典型例です』

 

女将『片桐様、お水もお持ちしましょうか?』

 

『大丈夫ですって!全然酔ってませんから!』

 

エク『3度目の典型例です』

 

女将『ふふ、それでは片桐様も、一曲いかがですか?』

 

『えぇ?ワシがですか?』

 

トラン『あ、一人称まで漏れた』

 

『……俺がですか?』

 

トラン『遅い遅い♪』

 

『せっかくなら、女将さんも一緒にどうです?』

 

女将『まあ、私とですか?』

 

ユノハナ『でしたら、こちらはいかがでしょう♪』

 

ユノハナが操作したカラオケの画面に、曲名が映し出される

 

【ゆこまロマン純情派】

 

トラン『選曲が強いねぇ』

 

マリ『ナビっち、女将とデュエットだ♪』

 

『よぉし、歌いますか!』

 

エク『先ほどまでの遠慮はどこへ行ったのですか?』 

 

ゆったりとした前奏に合わせ、女将が先に歌い始める

 

片桐もマイクを握り、その歌声に続いた

 

スズカ『トレーナーさん、意外とお上手ですね』

 

ライス『お兄さま、楽しそう……♪』

 

女将と片桐の歌声が重なり、ポリマたちも曲に合わせて手拍子を始める

 

一同『はぁ、ゆらりん♪』

 

ぱんぱん♪

 

一同『はぁ、ゆらりん♪』

 

ぱんぱん♪

 

マリ『ナビっち、女将と息ぴったりじゃん!』

 

トラン『温泉旅館の営業部長みたいになってるけど』

 

エク『歌声は安定していますが、身体は安定していません』

 

ふらっ……

 

『大丈夫、大丈夫!』

 

曲が終わると、宴会場に大きな拍手が響いた

 

『いやぁ、楽しかったぁ!』

 

どすん……

 

片桐はそのまま、スズカとライスの間に腰を下ろした

 

スズカ『ト、トレーナーさん?』

 

ライス『お、お兄さま……ち、近い』 

 

『スズカもライスも、本当によく頑張ってんなぁ~』

 

ぽん……ぽん……

 

片桐は2人の頭へ、同時に手を置いた

 

『スズカはいつも綺麗で、頼りになって……』

 

スズカ『き、綺麗!?……////』 

 

『ライスはかわいくて、頑張り屋さんで……』

 

ライス『か、かわいい……////』 

 

『2人とも……自慢の娘やぁ!』

 

ぐいっ!

 

片桐は両腕を広げ、スズカとライスの肩を抱き寄せた

 

スズカ『ト、トレーナーさん!近いです!か、顔が近いです!……////』 

 

ライス『お、お兄さま……ぎゅってしすぎだよぉ……////』

 

片桐は2人を抱き寄せたまま、交互に顔を覗き込む

 

『2人とも、かわいいなぁ……❤』

 

スズカ『そ、そういうことは、酔っている時に言わないでください!……////』 

 

ライス『お兄さま、お酒の匂いがするよぉ……////』 

 

『ワシは幸せ者やなぁ……❤』なでなで

 

トラン『トレちゃん、距離感が完全に壊れてるねぇ♪』

 

マリ『ちょっ、トラちゃん!撮って撮って!』

 

トラン『もう撮ってるよん♪』

 

エク『撮影していないで止めてください!』

 

『スズカぁ……ライスぅ……大好きやぁ!❤❤』

 

スズカ『トレーナーさん!……////』

 

ライス『お、お兄さまぁ……❤』

 

エク『片桐トレーナー!今すぐ2人から離れてください!』 

 

エクは片桐の襟首を掴むと、スズカとライスから強引に引き剥がした

 

『な、なにすんねん……!』

 

エク『これは完全にセクハラです!』

 

『褒めてただけやろぉ……』

 

マリ『ナビっち!うちも褒めて、うちも♪』

 

『マリは……やかましいッ!』

 

マリ『なんでぇ!?』

 

ユノハナ『それでは最後の一芸をご披露いたします♪』

 

ユノハナが棒の先へ皿を乗せ、軽くひねる

 

カラカラカラ……

 

一同『おぉ~!』

 

マリ『ユノハナ、すっげー!』

 

『それ、ワシにもできそうやな♪』

 

エク『片桐トレーナー?』

 

片桐がふらりと立ち上がる

 

ユノハナ『片桐さん、見た目より難しいですよ?』

 

『1枚だけ♪』

 

エク『酔っ払いの「1枚だけ」は信用できません!』

 

ユノハナから棒と皿を受け取り、片桐が見よう見まねで回してみる

 

カラカラカラ……

 

トラン『おぉ~!回ってる!』

 

『どやッ♪』

 

エク『意外です……』

 

『意外とはなんやねん!失礼な……』

 

マリ『ナビっち、もう1枚いけるんじゃね?』

 

『よっしゃ、もう1枚!』

 

エク『ほら始まった!』

 

2本目の棒でも、皿が回り始める

 

一同『おぉ~!』

 

『ワシ、皿回しの才能あるんちゃう?キシシ……』

 

スズカ『トレーナーさん、最初の皿が傾いています!』

 

『んあ?』

 

片桐が棒を振ると、皿がスズカへ飛んだ

 

スズカ『えっ!?』

 

パシッ!

 

『ナイスキャッチ、スズカ!』

 

スズカ『いまのは投げたんですか!?』

 

『……ほほう、なるほど……なるほど♪』

 

エク『なにを思いついたんですか!?』 

 

『ライス、前!』

 

ライス『えっ?わわっ!?』

 

パシッ!

 

『ナイス!』

 

ライス『と、取れたぁ……』 

 

女将『ユノハナ』

 

ユノハナ『はい、女将』

 

皿が飛び交う横で、二人は徳利と料理を盆へまとめる

 

『トラン、右!』

 

トラン『ほいっと♪』

 

パシッ!

 

『マリ、高め!』

 

マリ『任せろー!』

 

パシッ!

 

片桐が次の皿を回す頃には、配膳台も座卓も壁際へ移されていた

 

『エク、左!』

 

エク『な、投げないでください!』 

 

パシッ!

 

『取れてるやん♪』

 

エク『反射です!』 

 

『ええ動きや、ポリマ!』

 

エク『宴会場でトレーニングを始めないでください!』

 

マリ『ナビっち、次は2枚同時に投げて!』

 

エク『マリも参加しない!』

 

『よっし、皿を全部回収せえ』

 

エク『嫌な予感しかしません!』

 

片桐はポリマが受け止めた皿を集め、両手の指に挟んだ6本の棒へ乗せていく

 

ユノハナ『片桐さん、その本数は無理です!』

 

『最後に大技を見せます♪』

 

エク『絶対に失敗します!』

 

マリ『やっちゃえナビっち!』

 

スズカ『マリちゃん、煽らないで!』

 

『いくでぇ!』

 

カラカラカラカラカラカラ……

 

6枚の皿が、一斉に回り始めた

 

一同『おおおおっ!?』

 

『ドヤッ!』

 

カタッ……

 

ライス『あっ!』

 

1枚の皿が傾き、続けて残りの皿も揺れ始める

 

『ライス、左!スズカ、前!トラン、右!』

 

一同『一度に言わないで!!』

 

5人が一斉に駆け出す

 

パシッ!

 

パシッ!

 

マリ『まだ来る!』

 

エク『お、多すぎます!』

 

ガラガラガッシャーーン!!

 

一同『……』

 

『……ヒック』

 

一同『あ~あ……』

 

床いっぱいに散らばった皿が、からんと音を立てて止まった

 

ライス『お皿が……』

 

スズカ『割れて……』

 

トラン『ん?……ないッ!?』

 

女将『皆様、ご安心ください』

 

女将『皿回し用ですので、落としても割れませんよ』

 

一同『ええッ?』

 

マリ『じゃあ、うちらが必死に追いかけてたのって……』 

 

エク『なんのためだったんですか!?』 

 

女将『よいトレーニングになりましたね』

 

トラン『確かに、いい運動だったねぇ♪』

 

エク『そういう問題ではありません!』

 

『ガハハハッ……』

 

スズカ『トレーナーさん!!』 

 

ライス『お兄さま!』

 

トラン『トレちゃん!!』

 

マリ『ナビっち!!』

 

エク『片桐トレーナー!!』 

 

『んーっ……』 

 

『……だめだこりゃ』

 

片桐はそのまま座布団へ倒れ込んだ

 

『ぐがぁー……』

 

一同『寝たぁッ!?』

 

 

◇◇◇

 

翌朝 ゆこま旅館【楓の間】

 

スーーッ……

 

マリ『ナビっちぃ!おっはよー!』

 

エク『マリ!ノック!』

 

『……ぅぅ~……』

 

マリ『ナビっち?』

 

スズカ『トレーナーさん!どうしました!?どこか具合が悪いんですか!?』

 

『……し、静かにしてくれ……』

 

ライス『お兄さま!!どうしたの!?』

 

『大きい声……出さないで……頭に響く』

 

トラン『ああ……二日酔いだ』

 

エク『ですね』

 

マリ『ナビっちぃ!あ~さ~ご~は~んッ!!』

 

『……うッ!』ダッ……

 

バタバタバタ……ガチャッ、バタンッ!

 

『オエーーッ!オロロロロ……』

 

一同『……』

 

トイレの中から『……ごめん、ハァハァ……ごはん、いらない……うッ』

 

一同『……』

 

一同『だめだこりゃ』

 

身も心も癒されたチームポリマでした❤

 

 

 

 

 

ー2章ー011話 湯けむり騒動、ゆこまロマン純情派   完




第2章第11話「湯けむり騒動、ゆこまロマン純情派」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

休養旅行のはずが、宴会場では皿回し騒動に(笑)
片桐の「一杯だけ」と「1枚だけ」は、どちらも信用してはいけませんねw

次回、第2章第12話。
10月21日(水)19:00公開予定です。

【KUROXの駄馬(だば)なし  第12走】
対象話:第2章第10話・第11話
10月19日(月)07:00公開予定です。

【X】
https://x.com/utsupapa_2021

【note記事 KUROXの駄馬(だば)なし 】
https://note.com/kurox_1200
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KUROX
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