【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う 作:KUROX
7月 夏合宿
合宿所 トレーニングコース
マリ『ひろーーいッ!解・放・かぁーーん!!』ダダダダダ……
一同『……』
『エク……』
エク『はい』
『確保』
エク『了解しました』ダッ……
『やれやれ……』
スズカ『ふふ……相変わらずですね』
ライス『えへへ……マリちゃん楽しそう』
トラン『これからトレーニングなのに……元気なやっちゃ』
ダダダダダ……
エク『マリ!集合よ!』
マリ『エク!?にゃはは、今日は負けないよ!』
エク『ちょ!まだトレーニング前っしょ!?』
マリ『ふふん♪ 旅行バフのかかったうちに……追いついてみっ!』
エク『くっ……!普段より、速い……!?』
『エクぅっ!!』
エク『!』
『確保出来たら、トレーナーさんからなでなでだっ!』
エク『なでなでっ!?』✨
エク『……はあっ!!』ビューン……
マリ『あははは……』
ガシッ!
マリ『……はッ?』
エク『確保ー!』
・・・・・・
『トレーニング前に、脚使ってどーすんだッ!?』なでなでなで……
マリ『……ゴメンナサイ』しゅん……
エク『……❤』✨ブンブンブン……
ライス『エク、お兄さまに撫でられるの好きだね♪』
エク『え そ……そうでも、ないですよ?』✨ブンブンブン……
『走りたかったら、トレーニングで走れッ!』なでなでなで……
マリ『……はぁ~い……』
エク『……❤』✨ブンブンブン……
トラン『平和だねぇ~』
スズカ『ええ……本当に♪』
・・・・・・
『ライス、ダービーは何メートルだった?』
ライス『2400メートル』
『菊花賞は?』
ライス『3000メートル……』
『差は?』
ライス『600メートル』
『そうだ♪』なでなで……
ライス『えへへ……』
『ダービーでは2400メートルついていけた……今度は、その先の600メートルを走る』
ライス『その先の……600メートル……』
スズカ『ダービーと同じ距離まではブルボンさんを追走して、そこから抜きにいく練習ですね』
『ああ、ただライス1人で3000メートル走るだけじゃ……ブルボンは再現できない』
トラン『それで、ウチらの出番ってことね』
『そうだ、3人で1人のブルボンを作る』
マリ『なにそれ、カッコよ!』
エク『私たちが順番にペースをつなぐんですね』
『最初の1000メートルはマリ』
マリ『うち、最初だけ?』
『最初から全開で飛ばして、ライスに楽をさせるな』
マリ『なるほど!任せて!』
『1000メートル地点でトランに交代、2000メートル地点でエクに交代する』
トラン『ウチ、マリの後処理役?』
『マリのペースを落とさず、エクにつなげ』
トラン『それ、けっこう難しいじゃん』
『だからトランに任せる』
トラン『……そう言われたら、やるしかないっしょ♪』
『エクは2000メートルからゴールまでだ』
エク『最後までライスさんを引っ張ればいいんですね』
『いや、引っ張るだけじゃない』
『2400メートルを過ぎたら、抜かれないように走れ』
エク『分かりました、最後まで前は譲りません』
マリ『エク、煽るじゃん♪』
エク『片桐トレーナーの指示を明確化しただけです』
『スズカは2400メートル地点で合図を頼む』
スズカ『そこから残り600メートルの勝負ですね』
『ああ、合図が出るまでは前と一定の距離を保って追う』
『合図が出たら一気に差を詰めて、エクを抜く』
ライス『……2400メートル走った後に、エクを……』
エク『抜けるものなら……』
ライス『……!』
『最初から成功するとは思ってない』
ライス『えっ?』
『今のライスなら、2400メートルで脚を使い切る』
『それでいい』
『何度失敗しても、夏の終わりには残り600メートルを走り切れる脚を作る』
『菊花賞で、ブルボンを抜くために……!』
ライス『……はい!』
『よし!まずはウォーミングアップからだ!』
一同『はい!』
・・・・・・
拡声器『全員準備はいいかぁー!』
トラン『いいよ~ん♪』
エク『はい!』
スズカ『……』スッ
手を上げ、準備完了の合図をするスズカ
『ライスとマリもいいな?』
ライス『はい!』
マリ『いつでもOK!』
『じゃあ、いくぞ……』
『位置について……』
『よーい……』
ライス『……』
マリ『……』
『……』
『……どんッ!!』
ライス『やぁッ』ダッ……
マリ『フンッ!』ダッ……
──・──・──・──・──・──・──
マリちゃんの背中が一気に遠ざかる
ライス『っ……!』
(速い……!)
最初から全開――だけど、離されちゃダメ……!
ライス『はっ……はっ……!』
マリ『ほらほら!もっと来なよー!ライスちゃん!』
地面を蹴るたび、マリちゃんとの距離が少しずつ縮まる
追いつける
そう思った瞬間――
拡声器『マリ、交代だ!』
マリ『はーい!トラちゃん、あとよろしくー!』
トラン『ほいきた♪』
1000メートル地点……
外側で加速していたトランちゃんが、マリちゃんと入れ替わるように前へ出る
ライス『……!』
(ペースが……落ちない……!)
トラン『コメちゃん、ちゃんとついて来てる~?』
ライス『ま……まだ、いける!』
トラン『よろしい♪ そのまま、そのまま~』
ライス『くっ……!』
息が苦しい
脚も少しずつ重くなっていく
それでも、前を走る背中だけは見失わない
(ブルボンさんは……もっと……速い!)
(このくらいで、離されたら……!)
拡声器『ライス!離されるな!ついていくんだ!』
ライス『はいっ!』
焦る気持ちを抑え、トランちゃんの背中を追い続ける
2000メートル地点が近づいてくる
トラン『エク!いくよ!』
エク『はい!』
トランちゃんの横から、エクが静かに加速する
トラン『バトンタッチ♪』
エク『任されました』
前を走る背中が入れ替わる
それなのに――
ライス『はっ……はっ……!』
(また……同じペース……)
走りに乱れがない
大きなストライドで、エクが一定のペースを保ったまま進んでいく
エク『ライスさん、遅れていますよ』
ライス『まだ……!』
重くなった脚へ力を込める
少しだけ、エクとの距離が縮まる
エク『……さすがです』
2400メートル
コース脇に立つスズカさんが、上げていた手を振り下ろす
スズカ『ライスちゃん、ここからッ!』
ライス『はいっ!!』
(ここから……!)
(ダービーでは、ここまでだった)
(あと600メートル……ブルボンさんを抜くために!)
全身へ力を込め、地面を強く蹴る
ライス『やああぁぁッ!!』
――けれど
ライス『……っ!?』
脚が前へ出ない
蹴っている
力も入れている
それなのに、身体が加速しない
(動いて……!)
(お願い、動いて……!)
拡声器『エク!ラストスパートッ!!』
エク『はい!はあぁぁぁッ!!』
エクのストライドがさらに大きくなる
さっきまで縮まりかけていた背中が、少しずつ遠ざかっていく
ライス『ま……待って……!』
マリ『ライスちゃん、ファイトー!』
トラン『まだ終わってないよ、コメちゃん!』
聞こえている
応えたい
追いつきたい
それでも、脚は重くなるばかりだった
ライス『はぁっ……はぁっ……!』
エクが先にゴールを駆け抜ける
ライス『くぅっ……!』
抜けなかった
追いつくこともできなかった
遠ざかった背中を見つめたまま、ライスも遅れてゴールラインを越えた
ライス『はあっ!……はあっ!……はあっ!……』
『……』
(うん……1か月の完全休養明けや、こんだけ走れただけでも上出来やろ……)
ライス『ライス……はあっ……全然……はあっ……』
『ライス、今はまず息を整えて』
ライス『う……うん……はあっ……はあっ』
トラン『トレちゃ~ん、いくらウチらがデビュー前っていっても、さすがにこのトレーニングは無理ゲーすぎない?』
エク『いえ、ライスさんは私がラストスパートをかけるまでは間違いなく“ついてきて”いました』
エク『私たちは、それぞれ1000メートルしか走っていないのに……』
マリ『マジそれ!普通だったらトラちゃんについていくのも無理じゃね?』
トラン『それは……そうかもだけど……』
スズカ『そのスタミナとスピードを付けるための……合宿、ですよね?トレーナーさん』
『はは……さすがトレーナー見習いだな、その通りだ』
ライス『お兄さま!』
『ん?』
ライス『……もう一度!』
『じーーーーっ……』真顔
ライス『え?……えっ?』
『ダメぇーッ!』
ライス『!』
ライス『そんなっ……ライス……!』
『ライス、このトレーニングは負荷が大きすぎるんだよ、いやトレーニングというより……』
『今の力を測るための、全力のレースに近いかもしれない』
ライス『……』
『だから、やるとしても週に1回、それ以上は他のトレーニングに影響が出てしまう』
『今までやってきた“ついていく”はほぼ完成している』
『この合宿では、さらにその上を目指すんだ』
ライス『ついてくの……さらに上……』
『そう!題して!……』
マリ『ライスちゃん!疲れたっしょ!一緒にドリンク取りに行こっ♪』
ライス『え!?あ、うん』
『ちょッ!まだ、俺の作戦名が……』
マリ『ダサいから聞きたくないッ!』
『おい!ダサいかどうかは聞いてから……』
トラン『ウチもウチも!ドリンクドリンク~♪』
『待てって……今回は自信作なんだって!』
ライス『い、いいのかな?』
スズカ『ふふ……大丈夫よ、たぶん“いつも通り”だから、聞かなくても』
『がぁーん……ス、スズカまで……』ぐすんっ
・・・・・・
『もう1本!』
ライス『はいっ!』
坂路を駆け上がり――
・・・・・・
『脚を止めるな!』
ライス『やぁぁッ!!』
砂浜を蹴り――
・・・・・・
トラン『はい、前ふさぎま~す♪』
エク『右も空いていません』
ライス『だったら……左!』
マリ『おおっ!抜けた!』
トラン『コメちゃん、やるぅ~♪』
・・・・・・
ライス『おかわり、お願いします!』
マリ『ライスちゃん、それ何杯目!?』
エク『数えないほうがいいと思う』
スズカ『ふふ……たくさん走ったものね♪』
・・・・・・
そして週に1度――
拡声器『残り600メートル!』
ライス『まだぁッ!!』
エク『はあぁぁッ!!』
ライス『くっ……!』
エクが先にゴールラインを越える
(よし……初日より、エクとの差が開かんようになっとる)
・・・・・・
走って、食べて、休んで――
ライスは、また走る
◇◇◇
8月 夏合宿最終日
拡声器『トラン、交代!』
トラン『エク!』
エク『はい!』
──・──・──・──・──・──・──
2000メートル地点――
トランちゃんの横から、エクが静かに上がってくる
トラン『エク!……あとは任せたよん♪』
エク『任されました……!』
エクがトランちゃんと同じ速さのまま前へ出る
ライス『はっ……はっ……!』
速い
初日と同じ、少しも乱れない走り
だけど――
(ライス……ついていけてる……!)
脚は重い
息も苦しい
それでも、エクの背中は遠ざからない
エク『……今日は、遅れませんね』
ライス『まだ……ここから!』
2400メートル――
スズカ『ライスちゃん、ここからッ!』
視界の端で、スズカさんの腕が振り下ろされる
同時に、エクがさらに速くなる
拡声器『エク!ラストスパートッ!!』
エク『はあぁぁぁッ!!』
初日は――ここで脚が動かなくなった
追いかけたくても追いかけられなくて、遠ざかる背中を見ていることしかできなかった
(でも……今日は!)
ライス『やああぁぁッ!!』
脚が前へ出る
苦しい
身体が重い
胸の奥が焼けるように熱い
それでも、まだ走れる
(ライスの脚……まだ動いてる……!)
坂路を、何度も駆け上がった
砂浜で脚を取られても、止まらずに走った
前をふさがれても、進める場所を探した
いっぱい走って、いっぱい食べて、いっぱい休んで――また走った
お兄さまが考えてくれた
みんなが、何度も一緒に走ってくれた
全部、ライスがこの600メートルを走るために
ライス『はっ……はっ……!』
少しずつ
ほんの少しずつ
エクの背中が近づいてくる
エク『……!』
残り200メートル――
エクがもう一度、地面を強く蹴る
その瞬間――
エクの背中に、ブルボンさんの姿が重なった
日本ダービーで、最後まで届かなかった背中
どれだけ追いかけても、遠ざかっていった背中
(また……置いていかれる……?)
エクの姿が、ブルボンさんに見える
あの日と同じ背中が、ライスの前を走っている
だけど――
(違う……!)
(今日は、まだ脚が動く!)
(ライスも……あの背中まで行くんだ!)
ライス『追いつくんだぁぁぁッ!!』
残り100メートル――
一歩ごとに、背中が大きくなる
エクの肩が見える
並ぶ
エク『くっ……!』
ライス『まだぁぁッ!!』
エクの足音
ライスの足音
二つの音が重なったまま、ゴールラインが迫ってくる
ライス『……っ!!』
ほとんど同時に、二人の身体がゴールへ飛び込む
どちらが先だったのか、ライスには分からなかった
聞こえるのは、自分の心臓と荒い呼吸だけ
拡声器『……ライス!』
ライス『……!』
拡声器『ハナ差、ライスだぁッ!!』
ライス『……勝っ……た……?』
エク『……負けました』
ライス『エク……』
エク『ハナ差です』
悔しそうに細められたエクの瞳が、ライスには少しだけ楽しそうにも見えた
天高くウマ娘肥ゆる秋──
クラシック最後の1冠、菊花賞を懸けたシーズンが始まる……
◇◇◇
9月末 早朝
トレセン学園 正門前
ライス『お兄さま……遅いね、集合時間は過ぎてるのに……』
トラン『今さっき、LANEでもうすぐ着くって連絡きたから、大丈夫だと思うけど……』
スズカ『トレーナーさんが集合時間に遅れるなんて……』
マリ『もぉー、ライスちゃんのセントライト記念に遅れちゃったら、どーすんの?』
エク『マリ、セントライト記念は中山11レースだから全然余裕だって』
ライス『……お兄さま、何かあったのかな……?』
タッタッタッ……
ライス『お兄さま!』
『はぁ……はぁ……はぁ……』
マリ『ナビっち!おそーい!遅刻!』
スズカ『トレーナーさん?……マスク……?』
『す゛ま゛ん゛、お゛ぐれ゛だ・・・い゛ぞごう゛・・・』
一同『!?』
『ずぐでな゛い゛ど……』
マリ『いやいやいや!ナビっち声ガラガラじゃん!』
エク『それに顔色も良くないですし……すごい汗』
『お゛れ゛ば……だい゛じょう゛ぶだがら゛』
トラン『出た出た……トレちゃん得意の「俺は大丈夫だから」』
トラン『はぁー……スズカさん』スズカに目配せする
スズカ『……ええ』
片桐に歩み寄るスズカ
『ズズガ……?』
スズカ『トレーナーさん、ひどい声……』ひょいッ
スズカは片桐の背中と膝裏に腕を回し、軽々と抱き上げる
『え゛?』
トラン『あ、もしもし……たづなさん?早朝からごめんね、トレちゃんが体調不良で……』
『ぢょ……ズズガ……や゛め゛』
スズカ『いいえ……こういう時の、トレーナーさんの言うことは聞きません!』
トラン『うん、だから中山レース場までの帯同お願いしたいんだけど……』
『お゛れ゛の゛ごどよ゛り゛ラ゛イ゛ズの゛レ゛ーズ……』
ライス『お兄さま……ライス、お兄さまが元気じゃないと……嫌だよ?』
『う゛……』
スズカ『じゃあ、私はトレーナーさんを家まで連れてくわね』
トラン『うんうん、スズカさんの脚のこともあるし、ゆっくりでいいからねぇ』
エク『なるほど、言うことを聞かない時の片桐トレーナーへの対応はこうすればいいのね』
マリ『さすがスズカねえと、トラちゃん』
『ラ゛イ゛ズ……』
ライス『?』
『ばな゛れ゛でい゛でも゛、み゛でる゛がら゛……!』
ライス『……お兄さま』
スズカ『じゃあ……行きますよ、トレーナーさん』
『ズズガざん゛……ぜめ゛で、お゛ん゛ぶに゛……な゛り゛ま゛ぜん゛が?』
スズカ『聞きません』てくてくてく……
『い゛や゛あ゛ぁぁぁー……!』
ライス(……お兄さま……)
・・・・・・
中山レース場 芝2200m GⅡセントライト記念 どーーん
中山レース場 控室
トラン『たづなさん、ホントありがとね、早朝から』
たづな『いえ、ちょうど私も学園に出るところでしたので』
たづな『それに中山からなら、いざという時もなんとかなりますし』
マリ『それにしても……ナビっちって本当に自分のこと後回しにすんのね』
たづな『ふふ……片桐トレーナーは何があってもウマ娘を最優先に考える人ですから』
エク『もう少し自分のことも考えてもらわないと……安心できません』
たづな『そうですね、そこは言っても聞かないみたいなので、私たちで何とかしましょう』
~LANE♪
トラン『お、スズカさんからLANEだ、なになに……』
トラン『はは、とりま薬飲ませてベッドに寝かせたけど、コメちゃんのレース観るまでは、寝ないって駄々こねてるって』
ライス『……お兄さま』
トラン『ま、スズカさんはトレちゃんの看病に慣れてるし、任せておけば安心っしょ』
ライス『……』
一同『……』
トラン『な、なんか……やっぱり、トレちゃんいないと落ち着かないね』
ライス『……うん』
トラン『うーーん……』
トラン『マリ!なんか面白いこと言って!』
マリ『は!?なに、その無茶ぶり!』
トラン『ほら!コメちゃんの緊張ほぐすためにさっ……!』
マリ『え?え? えっと……』
ライス『じーっ……』
マリ『う゛……』
マリ『……エク!タッチ!』
エク『え?えぇッ!? 私ぃ……!?』
エク『そ、そういうのは、マリの担当じゃん……』
ライス『じーっ……』
エク『……』ワタワタ……
ライス『じーっ……』
エク『……ス……』
一同『ス?』
エク『スラマッパギ!!』
一同『……は?』
エク『んーっ……////』 両手で顔を隠す
トラン『……インドネシア語のおはようだね……』
マリ『……なんで?あいさつ?』
エク『んーっ…… 語感が、面白いと思って』 両手で顔を隠したまま
マリ『なんじゃそりゃ』
ライス『ぷっ……えへへ』
一同『!』
一同『あはは……』
トラン『エク、ミッションコンプリート……やるじゃん♪』
エク『二度とやりませんッ!』
ライス『えへへ……』
~LANE♪
トラン『ん?またスズカさんからだ……』
マリ『なんて?』
トラン『えっと……トレちゃんからコメちゃんへって……』
ライス『お兄さまから……』
トラン『夏合宿のトレーニングを思い出して、自分を信じれば大丈夫!……だって』
ライス『……お兄さま』グッ……
たづな『ふふ……片桐トレーナーの言葉が力になったみたいですね』
トラン『うん、コメちゃん……顔つきが変わったね』
エク『片桐トレーナーの言葉にはかないませんね』
マリ『うん、ホントそれな』
コンコンコン……
係員の声『ライスシャワーさん、パドックへお願いします』
ライス『はい!』
・・・・・・
実況『第4コーナーを立ち上がり、勝負は最後の直線!』
実況『9番!しかし外からダービー2着ライスシャワー!』
実況『残り100メートル!ライスシャワーが9番をかわした!』
実況『ライスシャワー、先頭に立ったぁッ!!』
実況『しかし9番も粘る!内でまだ粘っている!』
実況『9番が差し返す!ライスシャワーと再び並んだ!』
実況『9番とライスシャワー!完全に並んだ!』
実況『9番、わずかに体勢有利か――』
実況『並んでゴールイン!!』
実況『これは際どい!写真判定です!』
実況『判定が出ました!1着は9番!その差アタマ!』
実況『ダービー2着ライスシャワー、わずかに届かず2着です!』
トラン『あぁ~……惜しいッ』
たづな『ライスさん……とても力強い走りになりましたね』
エク『ええ、2着でしたけど、確実に合宿の成果は出ています』
~LANE♪
【惜しかった!でも、いい走りだった!!】
◇◇◇
10月 京都レース場 芝2200m GⅡ京都新聞杯 どーーん
京都レース場 控室
『8枠10番……ミホノブルボン……』
ライス『……ブルボンさん』
『いいな、ライス……ついてく、そして……』
ライス『うん、追いついて……追い越す!』
『よしっ』なでなで……
ライス『えへへ……』
トラン『……やっぱ、トレちゃんがいると違うねぇ』
ライス『えっ!?』
『ん?』
スズカ『ええ……いい気合いの乗り方』
エク『でも、リラックスしています』
ライス『そ、そうかな……?』
マリ『ライスちゃんが一番そう思ってるんじゃない?』
ライス『そ、それは……うん、やっぱりお兄さまがいると安心する』
『……////』
マリ『あ!ナビっち照れてやんの』
『て、照れてない!』
ライス『えへへ……』
係員の声『ライスシャワーさん、準備お願いします』
ライス『はい!』
『ライス、自分を信じて……全部出してこい!』
ライス『うん!』
『よしっ!がんばれライスー……がんばれー……』
『おー!』
一同『おー!!』
『いってこい!ライス!』
ライス『はい!お兄さま!』
・・・・・・
京都レース場 ゲート前
実況『最後にミホノブルボンが入りまして、これで態勢が整いました!』
ライス(ブルボンさんについてく……ついてく……)
ブルボン『……』
実況『菊花賞の前哨戦、京都新聞杯』
ガシャンッ
実況『今!スタートしました!』
実況『三冠へ、ミホノブルボンが始動しました。早くも先頭に立ちました。』
ブルボォォォォォンッ!!
実況『おおっと、大歓声が上がります。4番はどうするのか?』
実況『4番控えました。ハネダサクセスも控えた。』
実況『早くも10番、ミホノブルボン、悠然、鮮やかに先頭に立ちました。』
実況『先頭はミホノブルボンで第1コーナーに入ります』
実況『そしてその後ろから4番が外へ出た。そして2番のハネダサクセスであります。』
ライス(サクセスさんッ!?)
トラン『あちゃ~……ブルボンさんとの間に入られた』
『大丈夫!……合宿前のライスとは違う!』
実況『内を通って1番のライスシャワー。こういった態勢で第1コーナー、右にカーブを取って第2コーナーに向かいます。』
実況『先頭を行くのは10番のミホノブルボンであります。』
実況『そして2番手に控えたのが4番。これも目下4連勝中であります。』
実況『それから2番のハネダサクセス、内を通って3番手。白いゼッケンがチラッチラッと見えて1番のライスシャワー。そして6番であります。』
実況『その後ろでありますが、内々を通って3番であります。』
実況『それからずーっとバ群が切れてしまいました。内に9番、その真ん中に8番、外へ7番であります。』
実況『それから1人後ろ、5番』
実況『この10人が第3コーナーの坂に向かいます。』
実況『先頭はミホノブルボンであります。』
実況『ミホノブルボン、10番ミホノブルボン。』
実況『菊近し、淀の坂越え、一人旅。』
実況『ミホノブルボンといったところであります。今、2バ身の差がありましょうか。』
実況『初めて上り、そして初めて下る、京都の難所と言われているこの第3コーナーの坂を、苦もなく駆け下りる10番のミホノブルボン。』
ライス(ブルボンさんに……ついてくんだッ!)
実況『そしてライスシャワーが接近してきた。ライスシャワーが2番手に上がってまいりました。』
『よしっ!とりついた!!』
実況『ダービーの再現か!ダービーの再現か!』
ブルボン(……ライスさんッ!?)
実況『3番手に6番、内には赤いゼッケンの3番でありますが、ミホノブルボン持ったまま、第4コーナーをカーブして直線。』
実況『ミホノブルボン、後ろを見ている!』
ブルボン『……』
実況『まだ仕掛けない、まだ仕掛けない!』
ブルボン『……今!』
実況『ミホノブルボン、ようやくここでラストスパート!ミホノブルボン!』
ライス(ブルボンさんに……追いつく!!)
ライス『やあぁぁぁぁーッ!!』
実況『外からライスシャワーが襲いかかってくる!』
『いけぇぇーッ!』
実況『外からライスシャワーが襲いかかってくる!』
実況『その差は3バ身から2バ身!』
ライス(くっ……もう少し!もう少しッ!!)
実況『しかし、ミホノブルボンの影は踏めない!』
実況『完全にミホノブルボン先頭だ!』
実況『ミホノブルボン先頭、まだ2バ身ぐらい差がある、余裕がある!』
実況『10番のミホノブルボン、三冠へ向かって視界よし!』
実況『ミホノブルボン快勝です!』
実況『10番のミホノブルボン、7戦7勝です!』
ブルボン『はぁ……はぁ……はぁ……』
ブルボン(……ライスさん……)
ライス『はあっ……はあっ……くっ』
スズカ『1バ身半……』
『ああ……あと、たった1バ身半や』
日本ダービーで届かなかった背中は、もう遠くない
・・・・・・
京都レース場 地下バ道
コツコツコツ……
『お疲れ様、ライス』
ライス『……お兄さま……』
『……惜しかったな』ぽんっ
ライスの頭にやさしく手を乗せる
ライス『ライス……ずっと……ブルボンさんみたいな強い走りに憧れてたの』
『うん』なでなで
ライス『あんな走りができたら……みんなを幸せにできるんだって……』
『うん』なでなで
ライス『ライスを応援してくれるみんなに……夢をあげられるんだって……』
『うん』なでなで
ライス『でも……まだ、ライスの力じゃ……ブルボンさんに追いつけなくて……』
『……』なでなで
ライス『ブルボンさんに……憧れていたはずなのに……』
『うん』なでなで
ライス『ブルボンさんに……勝てなくて……』
『……』なでなで
ライス『すごい……すごい……!』
『……』なでなで
ライス『ぐやじいよぉー……うわぁぁぁ~ん』ばっ!
大粒の涙をこぼし、片桐に抱き着くライス
ライス『あと少し……!あと少しだったのに……えぇぇ~ん……』
『ああ、あと少しだ』ぎゅ
ライス『ええぇぇ~ん……』
『……』
ライス『ええぇぇ~ん……ライス……ブルボンさんに……』
『……』
片桐の腕の中から視線を上げ、力強く片桐を見つめるライス
ライス『勝゛ぢたいッ!!』
『!』
『ああ!勝とう!菊花賞で!』
ライス『うんっ!!』
スズカ『ええ……勝ちましょう、菊花賞で!』
トラン『うんうん、あとたったの1バ身半だもん、イケるイケる♪』
マリ『つーか、今日だってもうちょっと距離があったらライスちゃんが差してたし!』
エク『ええ、もう憧れではなく、倒すべき好敵手です』
たづな『それに、今日の走りも、我々に夢をみせてくれましたよ』
ライス『みんな……うん!ライスがんばるね!』
『絶対に勝つぞ!……菊花賞!』
一同『おー!』
ライス『えへへ……』
コツコツコツ……
ライス『!』
コツコツコツ……
ライス『……ブルボンさん』
ブルボン『……』
黒沼トレーナー『片桐トレーナー……お疲れ様です』ぺこっ
片桐『黒沼トレーナー……お疲れ様です……』
黒沼『……』
片桐『……』
ライス『……』
ブルボン『……』
黒沼と片桐、ライスとブルボン。二組の視線が静かにぶつかる
『き、今日は……オメデトウゴザイマシタ……』ぐっ
黒沼『……ブルボンはこのまま無敗で三冠を取らせて頂きます』
『!』
ライス『!』
ブルボン『……』
『す、すごい……自信ですね……』
黒沼『はい、三冠の為のトレーニングを積んできましたので』
『……前ばかり見ていると、足元を掬われますよ……黒沼トレーナー』
黒沼『ブルボンに後ろを見る必要はありません』
『ほう……前だけ見ていれば勝てると?』
黒沼『はい』
『!』カチンッ
『そんなん言うてたら、菊花賞で後ろから〝刺される〟で』
黒沼『ッ!?』
黒沼『菊花賞でも、ブルボンは逃げ切りますよ』ギロッ
『じーっ……』
黒沼『……』
ライス『ブ、ブルボンさん!』
ブルボン『……ライスさん……?』
ライス『ライス、ずっと……ずっと!ブルボンさんに憧れてましたっ!』
ブルボン『……?』
ライス『でも……でも!菊花賞ではライスが……勝ちましゅっ!』
ブルボン『!』
ブルボン『……私は負けません』
ライス『!』
ライス『ラ、ライスも負けないもん!!』
ライス『……』
ブルボン『……』
二人は、互いに目を逸らさない
『……』
黒沼『失礼します……ブルボン、行くぞ』
ブルボン『はい、マスター』
コツコツコツ……
『じーっ……』
ライス『じーっ……』
トラン『トレちゃん』
『ん?』
トラン『珍しいね、ちょっとキレてたっしょ?』
『は、はあ?べ、別にキレてないし?つーか、俺をキレさせたら大したもんっすよ』
トラン『にゃはは……わかりやすぅ~♪』
マリ『ライスちゃんも良く言った!マジカッコイイ♪』
ライス『え? そ、そうかな?』
エク『はい、正々堂々の挑戦状、すばらしかったです』✨フリフリ……
スズカ『ふふ……二人とも熱くなって、やっぱりいいわね、レースは』
『さあ、控室に戻ろう』
一同『はい』
◇◇◇
11月 京都レース場 芝3000m GⅠ菊花賞 どーーーん
実況『三冠ウマ娘は、京都でしか生まれない』
実況『最も強いウマ娘が勝つと言われる、クラシック最後の一冠……GⅠ菊花賞』
実況『皐月賞、日本ダービーを逃げ切り、ここまで無敗』
実況『ミホノブルボン、無敗三冠の歴史へ挑みます!』
実況『その背中を追い続けてきたのは、ライスシャワー』
実況『4度挑み、4度敗れ……日本ダービー、京都新聞杯では、ともに2着!』
実況『得意の長距離で今日こそ雪辱を果たすのか!』
実況『無敗の三冠か……5度目の挑戦で掴む初戴冠か』
実況『答えは、この3000mの先にあります』
実況『GⅠ菊花賞……まもなくスタートです!!』
ワアアアアアアアアアアアアア……!!
ー2章ー012話 憧れの、その先へ――NEXT FRONTIER 完
第2章第12話「憧れの、その先へ――NEXT FRONTIER」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
宣戦布告で噛んでしまうライスと、黒沼トレーナーに噛みつく片桐。
……そっちは噛まなくていいんですよw
いよいよ次回は菊花賞。
ライスとポリマの挑戦に、引き続きお付き合いください!
次回、第2章第13話。
10月25日(日)19:00公開予定です。
【KUROXの
対象話:第2章第12話・第13話
10月26日(月)07:00公開予定です。
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