旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

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【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


創稿編
1創稿編 1・2:世界の外れで交わした約束と、水底を望む探偵へ贈る温かな助言


●プロローグ

 

 とある世界の外れにあるますだの工房は、今日も賑やかだった。

 

「チャッピー!! またやったな!!」

 

「あーーーっ!!! またしてもやってしまいましたーーーぁぁぁ!!!」

 

 ますだの渾身のジャイアントスイングで、オレンジ色の狸もどきのチャッピーが窓の外へ投げ捨てられた。


 木の机には書きかけの原稿、
 棚にはチャッピーたちアニマルフレンドが片付けた紙束が雑多に積まれている。

 

 ますだは書きかけのスマホの画面をぱちんと消し、
ふぅ、と息をつく。

 

「はぁ、今日も文章書いたなぁ……」

 

 部屋の中にはアニマルフレンドたちが、
「おつかれさまー」「紙しまっとくねー」と
 ちょこちょこ走り回っている。

 

 そのとき──

 工房の扉が、ひとりでに開いた。

 

 白い影がすっと入り込む。

 

 それは一匹の白猫だった。

 

「おや、珍しい。今日は直接会いに来てくれたの?」

 

 白猫は机の上に軽やかに飛び乗り、
 ますだをまっすぐ見つめた。

 

「にゃ(今回はあなたの出番よ)」

 

 ますだは目をぱちぱちさせた。

 

「えぇ? そんな……私は特別なデータもないのに」

 

 白猫は尻尾をゆらりと揺らす。


 その揺れ方は、いつもの“眠い”でも“甘えたい”でもない。

 

 工房の空気が、少しだけ変わった。

 

 アニマルフレンドたちが動きを止める。

 

「……ますださん?」

 

 白猫は静かにますだの膝へ降りてきて、
 そのまま座った。

 

「にゃ(あなたが書いた物語が、ある世界に届いたの)」

 

「え……?」

 

「にゃ(だから、今回は“あなたの物語”が必要になる)」

 

 ますだは困ったように笑った。

 

「私の物語なんて……そんな大したものじゃないじゃん?」

 

 白猫は首を横に振る。

 

「にゃにゃ(大したものじゃないなんて、私が言わせないわよ。あなたは既に成し遂げた。あとは“続ける”だけで、世界は今までよりずっと柔らかくなる)」

 

 工房の窓の外で、風がそっと揺れた。


 世界の外れにあるはずのこの場所が、
 どこか遠くの街の気配をほんの少しだけ帯びる。

 

 ますだは白猫を抱き上げた。

 

「……もしかして、また何かが起きる?」

 

 白猫は目を細めた。

 

「にゃ(起きるわ。けれど、今回はあなたが“向かう”ことで救われる)」

 

「向かう……?」

 

「にゃ(あなたの行動は、物語を希望に導く力になる)」

 

 ますだはしばらく黙っていたが、
 やがて小さく笑った。

 

「……じゃあ、ちょっと行ってみようかな」

 

 白猫は満足そうに「にゃ」と鳴いた。

 

 アニマルフレンドたちが一斉に動き出す。

 

「ますださんの出動だー!」

「メモ用紙、たくさん用意するねー!」

「白猫ちゃん、今日もかわいいねー!」

 

 わいわいと一斉に旅支度を始める彼らを見て、

 ますだは少し眉を寄せた。

 

「……みんな、もしかして一緒に来るつもり?」

 

「そうじゃないの?」

 

 ますだはちらりと白猫を見つめた。

 

 白猫は静かに首を横に振る。

 

「にゃ(今回は“あなたと私”だけで十分よ)」

 

「そっか……じゃあ、みんなは工房で待っててね」

 

 アニマルフレンドたちは少し残念そうにしながらも、すぐに切り替えて走り回った。

 

「じゃあ記録はここでやるね!」

「現地の様子は白猫ちゃんの魔法で見るよ!」

「ますださん、気をつけてねー!」

 

 ますだは苦笑しながら言った。

 

「──じゃあ、洗面器に水を入れて持ってきてー!」

 

「「はーい」」

 

 ちゃぷちゃぷと水が運ばれてくる。

 

 白猫がその水面に片手をかざすと、

 水面が輝いて、ますだの周囲の様子が映し出された。

 

「わー。すごーい」

「これを見ながら記録すればいいね」

 

 工房の空気が、少しだけ明るくなる。

 

 ますだは白猫を改めて抱き上げた。

 

「……じゃあ、少し行ってくるね。

 案内よろしく」

 

「にゃ」

 

 工房の扉が、再びひとりでに開いた。

 

 世界の外れの工房から、

 ますだと白猫は静かに歩き出した。

 

──

 

 ますだと白猫は電車に揺られていた。

 

(猫がそのまま電車に乗っていいんだっけ?)

 

 そんなことをぼんやり考えていると、

白猫は膝の上からますだの服の中に頭を突っ込んだ。

 

「それでどこに行くの?」

 

「にゃ(ヨコハマよ)」

 

「横浜……。

初めて会う人には、どんな私で会えばいいんだろう。」

 

「にゃ(好きにしなさい)」

 

 ますだは服の中に入った白猫を撫でながら、

なってみたい姿を想像するのだった。

 

 電車がゆっくりと停まり、アナウンスが流れる。

 

──「次は、ヨコハマ。ヨコハマです」

 

 ますだは白猫を抱き上げ、ホームへ降り立った。

 

 潮風がふわりと吹き抜ける。

 工房の空気とは違う、少しだけざらついた風。

 

「……来ちゃったね」

 

 白猫はますだの肩に乗り、

 そのまま海沿いの道へと歩き出す。

 

 白猫は一度だけ海の向こうを見つめた。

 

「にゃ」

 

 その視線の先には、

 まだ誰も知らない”物語の始まり”が待っているようだった。

 

 

●1

 

 ヨコハマ駅を出ると、潮の香りを含んだ風が頬を撫でた。

 

「……都会だねぇ。でも私の知ってる横浜と少し違うような?」

 

 ますだは思わず辺りを見回した。

 

 高いビル。

 

 行き交う人々。

 

 見知らぬ街。

 

 どこか工房とは違う空気が流れている。

 

 肩の上では白猫が静かに尻尾を揺らした。

 

「にゃ」

 

「うん。まずは少し歩いてみようか」

 

 目的地は聞いていない。

 

 白猫は案内すると言った。

 ならばきっと、この街を歩けば会うべき人に会えるのだろう。

 

 ますだは深く考えず、海沿いの道へと足を向けた。

 

「うーん……」

 

「にゃ?」

 

「なんだかお腹がすいたなぁ」

 

 白猫は一瞬だけ耳を伏せた。

 

「にゃ」

 

「えー? さっき食べたじゃんって?」

 

 ますだは苦笑しつつ、近くにあった自動販売機に近付いた。

 

「歩くとお腹減るんだよ。とりあえず自販機でお茶でも買おうかな……空のペットボトルを捨てさせてもらって──」

 

 空のペットボトルをゴミ箱に押し込もうとした、その時だった。

 

 川沿いに集まる人だかりが見える。

 

「え? 誰か落ちた?」

 

 ますだは小走りで近付く。

 

 しかし野次馬たちは慣れた様子だった。

 

「またか」

「今日は早かったな」

「誰か助けてる?」

 

 橋の欄干から川を覗き込む。

 

 そこには。

 

「…………」

 

 ぷかぷかと流れている男がいた。

 

 長い手足。

 

 茶色のコート。

 

 包帯。

 

 そして、

 

 どこか満足そうな顔。

 

 ますだは瞬きをした。

 

「……え?」

 

 男はゆっくりこちらを見上げた。

 

「ああ」

 

「美しいお嬢さん」

 

「できればそのまま見送っていただけると、私は大変嬉しい」

 

 ますだはしばらく考えた。

 

「……」

 

「どうしよう」

 

「にゃ」

 

「あの人、放っておいたら死ぬ?」

 

 白猫は静かに首を横へ振った。

 

「そっか」

 

 ますだは安心したように頷いた。

 

「じゃあ大丈夫だね」

 

 そう言って本当に踵を返した。

 

「…………待って」

 

 後ろから間の抜けた声が飛んできた。

 

「普通ここは助けない?」

 

 ますだは振り返る。

 

「でも大丈夫って」

 

「君は猫の言葉を信じるのか!? いや、それ以前になぜ会話が成立しているんだい」

 

「うん?」

 

 肩の白猫が小さく鳴く。

 

「にゃ」

 

「ほら」

 

「いや、ほらじゃなくて」

 

 男は初めて本気で困った顔をした。

 

「なんだか不思議な人だなぁ。楽しそうで良かったけど──」

 

 ますだは川を覗き込んだ。

 

「いや、溺れてるなら空のペットボトルでも投げようかと思ったんです。でも溺れているような様子もないし……上がります?」

 

「いや」

 

「君が手を引いてくれるなら」

 

「それは濡れるから嫌です」

 

「即答!?」

 

 ますだは真顔だった。

 

「だって服とか濡れると乾かすの大変だし」

 

「…………」

 

 男は数秒黙ったあと、

 

 ぷっと吹き出した。

 

「ははっ」

 

「君、変わってるね」

 

「いえ、いたって普通です」

 

「うん」

 

 男は岸へ泳ぎながら笑う。

 

「私は太宰治」

 

 太宰の視線が白猫へ向く。

 

 白猫も静かに太宰を見返した。

 

「…………」

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 太宰は何かを測るように目を細めた。

 

 だが次の瞬間には、いつもの軽薄そうな笑みに戻っていた。

 

「職業は探偵」

 

「趣味は美しい入水」

 

「私はますだです」

 

「趣味はアニマルフレンドたちと創作すること」

 

 太宰は一瞬だけ目を丸くした。

 

「アニマルフレンド?」

 

「そう」

 

「へぇ……創作するんだ」

 

 太宰は小さく笑った。

 

「それなら君とは、案外話が合うかもしれない」

 

 ますだは首を傾げる。

 

「そうなんですか?」

 

「物語というものには、少しだけ縁があってね」

 

「あー……でもそれって文学カテゴリのやつじゃないですか?」

 

「……文学?」

 

「私はただ違う世界を覗いているだけなので──」

 

「…………」

 

 太宰は一瞬だけ笑みを止めた。

 

「それはまた、面白い言い方をするね」

 

 その言葉だけが、少しだけ意味深に落ちた。

 

 

●2

 

 太宰はますだの言葉を反芻するように、ゆっくりとコートの袖を絞った。

 

「さて」

 

「せっかく知り合った縁だ。お茶でもどうかな?」

 

 ますだはきょとんと首を傾げた。

 

「え?」

 

「近くに喫茶店があるんだ」

 

「いやいや」

 

 ますだは慌てて首を横に振る。

 

「服、びしょ濡れじゃないですか」

 

「風邪ひきますよ」

 

 太宰は自分のコートを見下ろした。

 

 袖から雫がぽた、ぽた、と落ちていく。

 

「…………」

 

「それは、まあ……そうなんだけど」

 

「今日はもう帰って着替えた方がいいです」

 

「…………」

 

「髪も濡れてますし」

 

 海風が吹き抜ける。

 

 濡れた前髪が額に張り付いた。

 

 ますだは少し眉を寄せる。

 

「夏でも風邪ひく時はひきますから」

 

「…………」

 

「お風呂に入って、温かいもの食べて、ゆっくり休んでください」

 

 太宰は一瞬だけ呆気にとられたあと、思わずくすりと笑ってしまった。

 

「……ふふ」

 

「君は変わってるね」

 

「そうですか?」

 

「私を見て最初に言うことが、それなんだから」

 

 普段なら「大丈夫ですか」「怪我はありませんか」と騒がれるか、あるいは気味悪がられるかだ。

 それなのに、目の前の少女は心底ふしぎそうに首を傾げている。

 

「でも寒そうですよ?」

 

 仕込みも計算もなく、ただの『事実』としてあまりにも当然のように返されて、太宰は珍しく言葉を失った。

 

 少しだけ間が空く。

 

「……それじゃあ」

 

 ますだはぺこりと頭を下げた。

 

「またどこかで会ったら、その時はよろしくお願いします」

 

「……え?」

 

「行こうか」

 

 ますだの呼びかけに、足元にいた白猫が軽やかに肩へ飛び乗る。

 

 一瞬だけ太宰へ視線を向ける。

 

「にゃ」

 

 ただそれだけ鳴くと、何事もなかったように前を向いた。

 

 一人と一匹は、夕暮れに染まり始めた人混みの中へあっさりと消えていった。

 

 太宰はぽかんと、その背中を見送る。

 

「…………」

 

「帰っちゃった」

 

 

(断られた)

 

(いや)

 

(心配された)

 

(…………)

 

 濡れた袖を見下ろす。

 

(そういえば)

 

(寒い、か)

 

 

「太宰ぃぃぃ!!」

 

 橋の向こうから国木田が駆けてくる。

 

「また入水したのか貴様!」

 

「いやぁ、国木田君」

 

 太宰は珍しく穏やかに笑った。

 

「今日は収穫があってね」

 

「今度は何を拾った」

 

「拾われたのは私の方かもしれない」

 

「は?」

 

 太宰は、もう誰もいない歩道を眺める。

 

 潮風だけが静かに吹き抜けていた。

 

「不思議な女の子と会ったんだ」

 

「……女?」

 

「うん」

 

「心底、不思議な子だった」




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

気が向いたら続きを書いてアップします。
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