【完結】旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

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【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


10創稿編 19・20:ヨコハマに立ち込める破滅の影と、天才の膝の上でむさぼられる睡眠

●19

 

 港の風がさらに荒れた。

 探偵社の窓ガラスがかすかに震え、遠くでクレーンの倒れる重い音が響いた。

 敦が窓に駆け寄る。

 

「……見てください! あれ……!」

 

 海面の盛り上がりは、もうただの“影”ではなかった。

 黒く巨大な背びれのようなものが、港の防波堤をゆっくりと押しつぶしていく。

 芥川が息を呑んだ。

 

「……背びれ……? いや、これは……生物なのか?」

 

「街が揺れてやがる……本当に来るぞ、これ」

 

 中也は帽子を押さえ、苦々しく舌打ちした。

 国木田は手帳を閉じた。

 

「太宰。異能でどうにかしないと……!」

 

「……国木田君。誰の異能でどう対処するつもりだい?」

 

 窓の外を見つめたまま静かに言う太宰に、国木田が詰め寄る。

 

「敦、芥川、中也……誰でもいい。それに、あれがそもそも異能ならお前が触れれば無効化できるだろう!」

 

「できないよ」

 

「なぜだ!」

 

「……あれは異能じゃない」

 

 探偵社の空気が一瞬で凍りついた。

 敦が震える声で尋ねる。

 

「じゃあ……太宰さんでも……?」

 

「無効化できない。僕の“人間失格”は、異能にしか効かないんだ」

 

 芥川が黒衣を揺らし、羅生門を構えた。

 

「ならば……物理で斬るしか──」

 

「芥川君」

 

 太宰が静かに遮った。

 

「羅生門でも届かないよ。あれは……“規模”が違う」

 

 港の向こうで、巨大な影がさらに近づく。防波堤が崩れ去り、海鳥が一斉に逃げ惑う。

 中也が前に出た。

 

「じゃあ俺が行く。異能じゃねぇなら、殴ればいいだろ」

 

「中也君」

 

 太宰は珍しく真顔で言った。

 

「君でも無理だよ」

 

「……は?」

 

「君の火力は街を守るためのものだ。あれを全力で殴れば……ヨコハマごと吹き飛ぶ」

 

 国木田は手帳を固く握りしめた。

 

「……対処不能だ。異能でも、武力でも、太宰でも……どうにもならん……!」

 

 誰もが絶望的な沈黙に呑まれかけた──その時だった。

 バンッ!と探偵社の扉が勢いよく開いた。

 

「太宰さん!! ニュース見ましたか!?」

 

 パニックに陥った職員が駆け込んできた。手にしたスマホの画面には“巨大生物接近”の速報。

 

「……あれ、ますださんが来てからじゃないですか!?」

 

 太宰の眉がわずかに動く。

 

「どういう意味だい」

 

「だって! ますださんがヨコハマに来てから、外敵が四人急に帰ったり、事件が勝手に終わったり、変なことばかり起きてるじゃないですか!」

 

 後ろの職員もパニックのまま叫ぶ。

 

「ますださんが“何か”を呼んでるんじゃないですか!? あの怪獣も、ますださんがいるから生まれたんじゃ──」

 

「待て」

 

 太宰の声が低く落ちた。

 

「ますださんは何もしていない」

 

「でも! でも!! ますださんがいなくなれば、もしかしたらあれも消えるんじゃないですか!? だから──」

 

 職員たちが一斉に、応接室の奥へ視線を向けた。

 ますだは緊張感の欠片もなく、静かに湯飲みを並べていた。

 

「皆さん、あたたかいお茶が入りましたよ。風が冷たいですから」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 職員たちが一歩踏み出そうとしたその瞬間──

 太宰、国木田、中也、敦、芥川の五人が、同時に動いた。

 太宰がますだの前にすっと立つ。

 

「ますださんには、指一本触れさせないよ」

 

 国木田が手帳を開く。

 

「排除対象はますださんではない。最優先で保護する対象だろう」

 

 中也が目深に帽子を押さえ、冷たい眼光で職員たちを睨みつける。

 

「おい。ますだに近づくな」

 

 敦がますだの横に滑り込み、庇うように立ちはだかる。

 

「ますださんは関係ないです!」

 

 芥川は静かに羅生門を走らせた。

 

「……ますださんに害意を向けるなら、斬る」

 

 探偵社とマフィアの主力が総出で庇い立てする威圧感に、職員たちは青ざめて後ずさった。

 

「ま、待ってください! 僕らはただ……!」

 

「ただじゃないよ」

 

 太宰は静かに言った。

 

「君たちは今、“ますださんを消せば怪獣が消える”と言った。それは……殺意と同じだ」

 

「ち、違います! そんなつもりじゃ──!」

 

「でも、言ったんだよ」

 

 太宰はますだの肩にポンと優しく手を置いた。

 

「ますださんは、僕らが守る」

 

 ますだの肩の上で、白猫がゆっくりと尻尾を揺らした。

 

「にゃ」

 

 その短い声は、嵐の前の静けさの中で、まるで“まだだよ”と告げるように静かに響いていた。

 

 

●20

 

 港の背びれは、もうただの“影”ではなかった。

 海面を割り、巨大な生物の黒い輪郭がゆっくりと姿を現し始める。

 防波堤が完全に崩れ去り、ヨコハマの街全体が大きく揺れた。遠くで街の悲鳴が上がる。

 

 国木田が叫ぶ。

 

「太宰! 避難を急げ! 街が持たん!」

 

 中也が前に出ようとする。

 

「俺が行く! せめて殴れば時間稼ぎぐらい──」

 

「中也君、やめなよ」

 

 太宰は珍しく強い声で止めた。

 

「君が殴れば街が吹き飛ぶ。あれは……“規模”が違う」

 

 芥川は羅生門を構えたまま、巨大な影を見つめていた。

 

「……羅生門でも、届かないかもしれない」

 

 敦は固く拳を握りしめる。

 

「どうすれば……」

 

 探偵社の窓ガラスが震え、全員が絶望的な迫力に呑まれかけた──その時だった。

 ますだが静かに口を開いた。

 

「本当にそれでいいんですか?」

 

 探偵社の空気が止まる。

 太宰が振り返る。

 

「……何がかね」

 

 ますだは湯飲みをそっと置き、窓の外の影を見つめたまま言った。

 

「彼らの言っていることが正しいかもしれませんよ。私のせいで、あれが来ているのかも」

 

 その言葉は、探偵社の空気を一瞬で凍りつかせた。

 敦が慌てて首を振る。

 

「そんなこと、あるわけ──!」

 

「ますださん……それは……」

 

 国木田が言葉を失い、中也は拳を固く握りしめる。

 

「お前のせいなわけねぇだろ!」

 

 芥川は静かに視線を落とした。

 

「……しかし、時期は一致している」

 

 太宰だけが、静かにますだを見つめていた。

 その瞳は、いつもの軽さを完全に失っていた。

 

「ますださん」

 

「はい」

 

「君は……何もしていないよ」

 

「でも──」

 

「でもじゃない」

 

 太宰はますだの前に立ち、低く、静かに言った。

 

「君を原因扱いするのは、ただの恐怖だ。“理解できないもの”を排除しようとする……それは、異能者がずっと受けてきた扱いだよ」

 

 ますだは太宰を見上げた。

 

「──僕は、君を失いたくない」

 

 太宰の声はかすかに震えていた。

 ますだは太宰の言葉を静かに受け止め、少しだけ目を細めた。

 

「そこまで言われたら……なんとかするしかないですね」

 

 探偵社の空気が一瞬で張り詰めた。
 敦が息を呑み、芥川が構え直し、中也が前に出る。

 

「ますださん……何を……!」

 

 ますだは穏やかに続けた。

 

「──こういう時は、寝ます」

 

 探偵社全員が固まった。

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

 ますだはふらりと太宰の方へ歩き、そのまま太宰の膝の上に、丸くなってすっぽりと座り込んだ。

 

「いやぁ最近忙しくて……ゆっくり眠れなくてですねぇ……」

 

「ま、ますださん!? なんで僕の膝に──」

 

 ますだはすやぴと寝息を立て始めた。
 太宰は完全にフリーズした。

 

「ま、ますださん……? ますださん!? 起きて……! 今は……寝るタイミングじゃ……!」

 

⁠「太宰さんの膝に乗ったぞあの人!?」⁠

 

⁠「おい太宰、膝貸してんじゃねぇ!」⁠

 

⁠「貸してないよ! 勝手に乗られたんだよ! ま、ますださん……!? 本当に、起きて……!」⁠

 

 焦る太宰の横へ、白猫がぴょんと降り立った。⁠

 

⁠ すやすやと眠るますだの頭の上に小さな前足をそっと乗せ、それから太宰をすっと見上げる。⁠

 

⁠ その瞳は、まるで“次は私の番よ”と告げるように澄み切っている。⁠

 

「にゃ」

 

 太宰は完全にフリーズした。⁠

 

⁠(な、なんだいこの圧倒的な安心感に満ちた寝顔は……!?)⁠

 

⁠「ま、ますださん……? ますださん!? 起きて……! 今は……寝るタイミングじゃ……!」⁠

 

 港の怪獣が、ヨコハマの街に完全に影を落とした。

 緊張は限界まで張り詰め、空気が微細に震える。

 

 ──白猫の瞳だけが、静かに、そして神秘的に光っていた。




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

気が向いたら続きを書いてアップします。
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