【完結】旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

11 / 11
【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


11創稿編 21(完結)災厄を繰り越すページめくりと、港町に留まる幸福な理由

●21

 

 白猫の毛並みがふわりと浮き上がった。

 光ではない。毛がほどけ、細かな文字の粒子へと変わっていく。

 

 ひらがな、カタカナ、漢字の欠片が白猫の周囲を静かに巡り、空気が紙のように薄くなっていく。音が消え、港を吹き荒れていた風がぴたりと止まった。

 

 白猫の影が床に伸びる。影はゆっくりと人の形を描き始め、白猫の身体はその影へ溶けていった。

 影の中から美しい女性の足が現れ、やがて全身が立ち上がる。最後に影がぱたりと閉じ、白猫の姿は完全に消えた。

 

 

 其は長き旅を共に歩むもの。

 まだ見ぬ未来を紡ぎ出すもの。

 希望と祈りを愛し、物語を進める者よ──開門せよ。

 

 破壊の章を閉じ、次の物語へ送り出す力を、ここに。

 

 異能──『旅する物語』。

 

 

 美しい女性は静かに目を開く。

 

『……ますださんの物語に、理不尽な暴力や破壊は似合いません』

 

──ちりん。

 

 美しい女性が静かに呟くと同時に、世界が一度目の鈴を鳴らした。

 

 怪獣の周囲に“文字の渦”が現れ、まるでページがめくられるように空間が折りたたまれていく。

 

『別の物語への扉を開きましょう』

 

 ヨコハマを飲み込もうとしていた巨大な怪獣は、何の抵抗もなく“物語の外側”へ吸い込まれ、一瞬にして姿を消した。ヨコハマの街は無傷のまま、静寂を取り戻す。ただ海風だけが、何事もなかったかのように静かに吹き抜けていく。

 

 探偵社の全員が息を呑んだ。

 

「……消えた……?」

 

 敦の声が震えていた。

 

 中也が叫ぶ。

 

「おい太宰! 今の何だよ! あれはどういう異能だ!」

 

「僕が知るわけないだろう……!」

 

 太宰は膝の上のますださんを抱えたまま、完全に固まっていた。

 

 当のますださんは「すやぴ……」と呑気に寝息を立てている。その頭の上に、立ち上がった美しい女性がそっと手を置いていた。

 

 白猫の姿はもうない。代わりに、そこにいたのは“物語の外側から来たような美しい女性”だった。

 

 芥川が一歩、後ずさる。

 

「……上位存在……?」

 

──ちりん。

 

 世界が二度目の鈴を鳴らす。誰も触れていないのに、どこか遠くで、確かに響く音。

 

 国木田が息を呑む。

 

「……鈴の音……一体どこから……?」

 

 美しい女性はますださんの寝顔を見つめ、優しく髪を撫でた。

 

『ますださん、彼の者は別の物語へ送りましたよ』

 

 太宰は震える声で尋ねた。

 

「……君は……誰なんだい……?」

 

 美しい女性は太宰を見た。その瞳は、あの白猫のものとまったく同じ透き通った色だった。

 

『私は、あなた方の言葉で説明するなら、きっと異能なのでしょう』

 

──ちりん。

 

 三度目の鈴の音。これは“世界が祝福する時だけ鳴る音”。

 

 美しい女性は太宰に向かって、まるで安心させるように微笑んだ。

 

『太宰さん。ますださんは、あなたの膝の上が安心するようですね』

 

「えっ……いや……その……」

 

 太宰は顔を真っ赤にして勢いよく狼狽した。すかさず中也が吠える。

 

「おい太宰! いつまで膝に乗せてんだよ!」

 

「乗せてないよ! 勝手に乗られてるんだよ!」

 

 美しい女性はくすりと笑った。

 

『……では、もう少しだけお借りしますね』

 

 美しい女性はますださんの頭にそっと触れた。その指先から“文字の粒子”がふわりと舞い上がっていく。

 

──ちりん。

 

 四度目の鈴の音が静かに響き、空気が再び紙のように薄くなっていく。

 

 空気が再び紙のように薄くなっていく。

 

 太宰が慌てる。

 

「ま、待って! 何を──」

 

 美しい女性は静かに言った。

 

『物語を進めるだけです』

 

──ちりん。

 

 世界が五度目の鈴を鳴らした。どこか懐かしい、結びの気配を帯びた音だった。

 

 物語は、静かに次へ進んだ。

 

 

●エピローグ

 

 数日後。

 ヨコハマの港はすっかり静かになり、

 怪獣騒ぎは「結局なんだったんだ?」という噂だけを残して消えていた。

 

 探偵社の面々は昼休みに「ますだ屋」へ来ていた。

 店内には出汁の香りが漂い、

 ますださんがカウンターで味噌汁をよそっている。

 

「はい、太宰さんの分できましたよー」

 

 太宰は受け取りながら、

 どこか複雑な顔をしていた。

 

「……ますださん。あの怪獣の件なんだけどね」

 

「怪獣?」

 

 ますださんは首を傾げる。

 

「あぁ、あの大きい怪獣ですか? いつの間にかいなくなったんですよね。あれって太宰さんたちがなんとかしたんですか? 凄いですねぇ」

 

 店内の空気が止まった。

 

 太宰は固まる。

 中也は味噌汁を吹きそうになる。

 芥川は箸を落とす。

 国木田はメガネを押し上げて固まった。

 

「ま、ますださん……君……本当に……何も……?」

 

「え? はい。寝てましたから」

 

 ますださんは本当に不思議そうに笑った。

 

 その横で、白猫が棚の上で丸くなっていた。

 人化した時の姿はもうない。

 ただ、静かに尻尾を揺らしているだけだった。

 

 太宰が白猫を見る。

 

 改めてますださんに視線を戻すと、

 

「……君は、まだヨコハマにいてくれるのかい?」

 

 ますださんは鍋の蓋を開けながら、のんびり答える。

 

「そうですねぇ……いた方がいいですか?」

 

 太宰は即答した。

 

「いてくれた方がいいに決まってる!」

 

 中也が味噌汁を吹きそうになりながら叫ぶ。

 

「おい太宰! お前……そんな必死になるなよ!」

 

 太宰は続けた。

 

「だって……君がいなくなったら困るよ。

 中也くんだって、君の唐揚げが食べられなくなったら発狂してしまうかも」

 

「はぁ!? 誰が発狂するって!?」

 

 中也は真っ赤になって立ち上がる。

 

「いやいや、中也くん。君、唐揚げの日だけテンション違うじゃないか」

 

「違わねぇよ!!」

 

 芥川は小さく呟く。

 

「……ますださんの唐揚げは、確かに……特別です」

 

 国木田はため息をつきながらも頷いた。

 

「……まあ、ヨコハマの治安のためにも、いてくれた方がいい」

 

 ますださんは唐揚げを皿に盛りながら笑った。

 

「なら、もう少しいましょうか。

 みなさんに喜んでもらえるなら」

 

 探偵社の空気がふっと緩んだ。

 太宰は肩の力を抜いて、心底ほっとしたように息をついた。

 

「……よかった」

 

 太宰が棚の上の白猫を見上げる。

 白猫はゆっくり瞬きをした。

 

 その瞬間──

 

 ──ちりん。

 

 店のどこかで、小さく鈴が鳴った。

 

 誰も触れていない。

 風もない。

 ただ、

 「まだここにいてくれるんだね」

 と世界がほっとしたような音。

 

 太宰は白猫を見る。

 白猫は目を細めて、ますださんを見つめていた。

 

 ますださんは気づかないまま、

 唐揚げをもう一皿盛り付けている。

 

「はい、お待たせしました。中也さんの分ですよー」

 

 探偵社の全員は返す言葉を持たなかった。

 

 ただ、

 ますだ屋には穏やかな昼の光が差し込み、

 世界は静かに、優しく、

 次の物語へ進んでいった。

 

旅する物語 太宰治との邂逅 創稿編 終幕




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

ひとまず完結です。
ご覧いただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

虚飾の権能を持ってTS転生した上で英霊として召喚されましたが、マスターが可愛いので満足です(作者:プラチナムウィッチ)(原作:Fate/)

ところでマスター?私に肉弾戦をやらせようとするのはやめませんか?見てください。この細腕と細脚を。


総合評価:10567/評価:8.56/連載:8話/更新日時:2026年09月06日(日) 12:00 小説情報

両義足隻腕隻眼金髪目隠れTS転生ロリ(作者:名無しのTSスキー)(原作:HUNTER×HUNTER)

TSオリ主がいくHUNTER×HUNTER。なお原作知識はないものとする。▼【挿絵表示】▼


総合評価:9849/評価:8.51/連載:5話/更新日時:2026年08月13日(木) 15:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>