旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅 作:masuda028
ふらりと迷い込む別世界。
※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。
●5
空は茜色から群青へとゆっくり色を変え始めていた。
海から吹く風は心地よく、街にはぽつぽつと明かりが灯り始める。
ますだは白猫を抱き上げながら、小さく尋ねた。
「ところで今日はどこに泊まるの?」
「にゃ」
「え?」
「知らないって何?」
白猫は悪びれる様子もなく、尻尾をふわりと揺らした。
「……まぁ天気はいいけど」
ますだは夜空を見上げる。
「でも蚊とか虫に刺されるのは嫌だよ?」
「ちゃんと守ってくれる?」
「にゃ」
「……本当?」
返事代わりに白猫はますだの腕へ頭をこすりつけた。
「ふふ」
「じゃあ信じるか」
公園のベンチへ腰を下ろす。
「今日はここでいいや」
白猫を膝へ乗せると、昼間から歩き続けた疲れがどっと押し寄せてきた。
「ちょっとだけ……休憩」
「にゃ」
街の喧騒が少しずつ遠のいていく。
潮風が頬を撫でる。
ますだは白猫を抱いたまま、こくり、こくりと船を漕ぎ始めた。
──
夜の公園は静かだった。
街灯がベンチを淡く照らし、波の音だけが遠くから聞こえてくる。
ますだは白猫を抱いたまま、規則正しい寝息を立てていた。
「……すぅ」
白猫だけが目を開けている。
琥珀色の瞳は、夜の闇を静かに見つめていた。
その時。
公園の入口から靴音が近づいてくる。
「……本当にいた」
聞き覚えのある、軽い声。
街灯の下へ姿を現したのは太宰治だった。
両手をコートのポケットへ突っ込み、困ったように笑う。
「宿も取らずに野宿とは、なかなか豪快なお嬢さんだね」
白猫が太宰を見上げる。
「にゃ」
「やあ、こんばんは」
太宰はしゃがみ込み、眠るますだを覗き込んだ。
「起きないねぇ」
その横顔を見た瞬間。
「太宰」
低い声が響く。
太宰は振り返り、肩をすくめた。
「また君か」
帽子を目深にかぶった中原中也が、街灯の陰に立っていた。
「さっきの観光客じゃねぇか」
「知り合い?」
「少し会話しただけだ」
中也はベンチへ近づく。
ますだは起きない。
「……本当に寝てやがる」
白猫だけが中也をじっと見ていた。
その時。
「太宰ィィィ!!」
公園中に響く怒声。
「こんな所で何をしている貴様!」
国木田独歩が息を切らして走ってきた。
「仕事中に姿を消したと思えばまた遊んでいるのか!」
「いやぁ、遊んではいないよ」
「説明しろ!」
「彼女を観察していた」
「もっと説明しろ!」
国木田はそこで初めてベンチを見る。
「……誰だ?」
「今日会った観光客」
「……何故寝ている」
「宿が無いらしい」
「何だと?」
国木田の顔色が変わる。
「それで貴様は何をしていた!」
「観察」
「保護しろ!」
「まだ起こすのは可哀想かなって」
「そういう問題ではない!」
中也は腕を組んで呆れたように息を吐く。
「相変わらず騒がしい連中だな」
ますだはむにゃむにゃと寝返りを打った。
「むむ……」
三人の動きがぴたりと止まる。
「起きるか?」
しかし。
「……あと五分」
寝言だった。
「…………」
三人が無言になる。
(こんな公園のベンチでよく眠れるな……)
白猫だけが、
「にゃ」
と一声だけ鳴いた。
●6
夜風が静かに吹き抜ける。
公園のベンチには、ますだが白猫を抱いたまま眠っていた。
白猫は膝の上で丸くなり、琥珀色の瞳を細めて夜の気配を見張っている。
ヨコハマの街では、その夜、ちょっとした騒ぎがあったらしい。
けれど──ますだは何も知らない。
ただ静かに、規則正しい寝息を立てていた。
そして。
「……んがっ」
鼻ちょうちんがぱちんと弾け、ますだは勢いよく目を覚ました。
「……あれ?」
見慣れない天井。
柔らかなソファ。
白猫は隣で毛づくろいをしている。
「……ここどこ?」
「にゃ」
「いや、『にゃ』じゃなくて」
そんなやり取りをしていると、太宰治がひょいと顔を出した。
「やぁ、起きたね。よく眠れた?」
「いや、それより……私、もしかして誘拐されました?」
太宰は盛大に吹き出し、奥から国木田独歩の怒声が飛ぶ。
「太宰ィ!! 朝から何を笑っている!」
国木田はますだを見て、ますだも国木田を見る。
「……違うんですか?」
「違う。昨夜、公園で野宿していた君を保護し、ここへ運んだ」
「あ、保護だった」
「そこは安心するところなのか……?」
国木田は深いため息をつき、太宰を睨む。
「太宰。昨夜の経緯を説明しろ」
「私がお姫様抱っこで運んだんだよ」
「嘘をつくな。貴様は途中で『重い』と言って逃げただろう」
「失礼だなぁ。言ってないよ。『思った』だけだよ」
「結局私が運んだ!」
ますだは素直に頭を下げた。
「すみません、お手数おかけしました」
国木田は一瞬固まり、
その“普通すぎる礼儀正しさ”にどう反応していいか分からない顔をした。
太宰は楽しそうに笑う。
「いやぁ、ますださん。君は眠っているだけで周りを忙しくさせる才能があるみたいだ」
「はぁ……」
白猫がますだの肩へぴょんと乗り、尻尾を揺らした。
「にゃ」
「……とりあえず、お風呂入りたいなぁ」
太宰は吹き出し、国木田は頭を抱えた。
改めて国木田がますだへ向き直る。
「まず、正式に名乗っておこう。私は国木田独歩。武装探偵社社員だ。昨夜、公園で眠っていた君を保護した」
「私はますだです。昨日はありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げると、国木田は少しだけ表情を和らげた。
「……礼はいい。当然のことをしたまでだ」
太宰が割って入る。
「改めまして、太宰治。昨日は川で会ったね」
「昨日は風邪ひかずに済みました?」
「第一声がそれかい」
周囲から笑いが漏れる。
その後、大きな体の青年が近寄ってくる。
「おー、起きたべ! 俺ぁ宮沢賢治! よろしくな!」
「ますだです。よろしくお願いします」
賢治はにかっと笑う。
「白猫もかわいいべ!」
「にゃ」
診察室の方から女性が歩いてきた。
「私は与謝野晶子。怪我はないようね」
「はい。ありがとうございます」
「でも寝不足には見えるわ」
「昨日ベンチで寝ました」
「それは寝不足以前の問題よ」
更にその後、廊下の奥から白髪の少年が顔を出した。
「えっと……僕は中島敦です。よろしくお願いします」
「ますだです。よろしくお願いします」
敦は少し緊張しながらも頭を下げた。
そして、ふと眉を寄せる。
「……あの、何だか……少し、匂いませんか?」
ますだは口元を隠して、くくっと笑った。
「ふふふ……バレてしまいましたか」
敦はびくりと肩を揺らす。
(何か彼女にも異能が──!?)
ますだは真顔で頷いた。
「実は昨日、お風呂に入っていないのです」
「…………」
「結構歩いたので汗もかきましたし」
「…………」
「だから早く入りたいんですよねぇ」
敦は数回瞬きをした。
「え……それだけ、ですか?」
「それだけです」
肩の白猫が小さく鳴く。
「にゃ」
「ほら、白猫もそう言ってます」
「いや、猫は喋ってないですよね!」
敦は慌てて手を振った。
そこへ太宰が横からひょいっと顔を出す。
「敦君。君はまだ甘い」
「え?」
「彼女の『バレてしまいましたか』は八割くらい日常生活の話だ」
「八割!?」
国木田は眼鏡を押し上げながらため息をつく。
「残り二割は何なんだ」
ますだは少し考えてから答えた。
「お腹が空いてるとかですかね?」
「それは日常生活だ!」
国木田の鋭いツッコミが室内に響く。
太宰は楽しそうに笑い、敦はぽかんと口を開けたまま固まっている。
白猫はますだの膝の上で尻尾を揺らし、まるで満足そうに目を細めた。
「改めまして、ますだです。よろしくお願いします」
太宰はにこりと笑い、敦は慌てて姿勢を正し、国木田は深いため息をつきながらも頷いた。
「……まぁ、事情は追々聞くとして」
「──まずは風呂に入れ」
「入っていいんですか!? ──あ、でも着替えがなぁ」
「着替えなら私のを貸してあげるわ」
与謝野が頼もしく微笑み、ますだは「助かります」と深く頭を下げた。
武装探偵社の朝は、今日も騒がしく、そしてどこか温かかった。
本作はハーメルンのみの限定公開作品です。
気が向いたら続きを書いてアップします。