旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅 作:masuda028
ふらりと迷い込む別世界。
※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。
●7
風呂上がりのますだは、髪をタオルで押さえながら応接室へ戻ってきた。
白猫はふわふわの尻尾を揺らしながら、その後ろをついて歩く。
応接机の向こうでは、国木田独歩が手帳を開いて待っていた。
太宰は椅子に座り、敦は緊張した面持ちで端に立っている。
「では、一応面接という形を取らせてもらう」
「はい」
ますだは背筋を伸ばし、白猫を膝に乗せて座った。
「君にできることを教えてくれ」
「えーと……」
ますだは少し考えた。
「読み書きができます!」
「……いや、それは普通だ」
「あっ」
「他には」
「お茶とか淹れられます」
「それも普通だ」
「そうなんですね」
国木田は額を押さえた。
「何か特技はないのか」
「特技ですか」
ますだは腕を組み、真剣に考え込む。
「空気が読めます!」
「……なんだそれは」
「え?」
「大事じゃないですか」
「いや、それは履歴書に書くような技能ではない」
「そうなんですか」
「そうだ」
「じゃあ、お話ができます!」
「誰でもできる!」
「えぇっ」
「君は本気で言っているのか?」
「すごく本気です」
国木田は深いため息をついた。
「例えば事務仕事は」
「あっ、それなら!」
ますだの表情がぱっと明るくなる。
「タイピングはわりと早いと思います!」
「ほう」
「議事メモとか、たぶんいけます!」
「たぶん!?」
横で聞いていた敦が思わず声を上げ、太宰が「頼もしいねぇ」と呑気に手を叩いた。
ますだは照れ笑いを浮かべる。
「やってみないと分からないので」
「普通はそこは『できます』と言うところだ!」
「でも出来なかったら申し訳ないですし」
「…………」
国木田は黙った。
(正直すぎる)
履歴書を見ても盛っている様子はない。
できることは「できる」。
分からないことは「分からない」。
その線引きが異様に正確だった。
すると、ますだがふっと笑う。
「でも」
「雇ってもらえることが決まってるのに面接するのって、なんだか面白いですねぇ」
部屋が静まり返る。
太宰だけが肩を震わせて笑いをこらえていた。
「……国木田君」
「この人、面白い」
「笑っている場合か!」
国木田は深いため息をつき、静かに立ち上がった。
「……よし。ではまず議事録の作成からだ」
「えっ、やっていいんですか?」
「試験だ。できるかどうか確かめる」
「はい!」
「それと、着替えの用意と宿泊費は前借りという形で支給する」
「ありがとうございます!」
「ただし働いて返してもらうぞ」
「はい! 働きます!」
「……では、今日から頼む」
「はい!」
ますだは嬉しそうに深々と頭を下げた。
膝の上の白猫が「にゃ」と満足そうに一声鳴く。
太宰は楽しそうにくすりと笑い、敦もほっとしたように微笑んだ。
武装探偵社に、なんともマイペースな新しいアルバイトが加わった。
●8
面接が終わり、国木田から渡された着替えに袖を通したますだは、再び応接室の扉を開けた。
見慣れない服の匂いを確かめるように、白猫が裾へスリスリと体を寄せながらついてくる。
応接机の向こうでは、国木田が書類を整えていた。
その視線がますだの姿を捉えた瞬間──ぴたりと固まる。
「……着替え終わったのか」
ますだはくるりと回って見せた。
「どうですか? なんかメイドさんみたいで可愛いですよね」
「違う」
「即答でしたね」
「違うものは違う」
「でもエプロンも付いてますし」
「家事をする時に都合がいいだけだ」
「なるほど」
ますだは素直に頷く。
「あとサイズもぴったりで」
「与謝野先生が見繕った」
「そうだったんですね」
「私は反対した」
「え?」
「必要な着替えだ。それ以上でもそれ以下でもない」
照れ隠しのように言い放つ国木田の横で、太宰が肩を震わせて笑っていた。
「国木田君、そんなに必死に否定すると余計怪しく聞こえるよ」
「黙れ太宰! 貴様が妙な煽り方をするからややこしくなる!」
国木田は真っ赤になりながら書類を整え直した。
「……とにかく、その服は業務に支障がないように選ばれたものだ。私の趣味ではない」
「はい。ありがとうございます」
ますだはぺこりと頭を下げた。
国木田は軽く咳払いをして視線を書類へ戻した。
──
「さて、ますだ君。今日から武装探偵社で働いてもらう」
「はい!」
ますだは白猫を膝に乗せて座り直した。
「まずは簡単な事務作業からだ。議事録の作成、書類整理、来客対応などだな」
「がんばります!」
「……その意気は良い」
国木田は咳払いし、太宰をちらりと睨む。
「太宰。余計なことはするなよ」
「えぇ〜? 私はいつも真面目だよ」
「嘘をつくな」
太宰はにこにこと笑い、白猫は「にゃ」と鳴いた。
ますだはその空気を楽しむように目を細めた。
「なんだか、賑やかで楽しい職場ですね」
「楽しいだけではないぞ。仕事は仕事だ」
「はい!」
国木田は書類をトントンと机に整え、深く息を吐いた。
「……よし。ではまず議事録の作成からだ。会議室へ来い」
「わかりました!」
ますだは立ち上がり、白猫を抱き上げた。
太宰はひょいと立ち上がり、肩をすくめる。
「国木田君、もう保護者みたいになってるよ」
「誰が保護者だ!」
武装探偵社の日常は、今日も騒がしく、そしてどこか温かかった。
本作はハーメルンのみの限定公開作品です。
気が向いたら続きを書いてアップします。