旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

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【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


5創稿編 9・10:雑談だけで解決する異色の相談と、お弁当のついでに見つかる迷子猫

●9

 

 応接室は静かだった。
 ますだは湯気の立つお茶をそっと差し出す。

 

「申し訳ありません。担当が戻るまで少々お待ちください」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 依頼人の男性はほっと息をつき、湯飲みを両手で包んだ。

 

「……実はですね」

 

「はい」

 

「うちの息子が最近全然帰ってこなくて」

 

「それは心配ですね」

 

「そうなんです」

 

「何か理由に心当たりはありますか?」

 

「実は……」

 

 ますだは頷きながら、ゆっくり話を聞いた。
 白猫は椅子の上で丸くなり、静かに尻尾を揺らしている。

 

 依頼人はぽつぽつと話し始めた。

 

 息子の様子。


 最近の変化。


 自分が心配しすぎて空回りしてしまったこと。
 どう声をかけていいか分からないこと。

 

 ますだは温かいお茶を一口すすり、深く相槌を打ちながら「それは大変でしたね」「お父様もよく頑張っていらっしゃいますよ」と穏やかに寄り添うだけだった。

 膝の上の白猫も「そうだよ」と言うように、静かに喉をゴロゴロと鳴らしている。

 

 それだけなのに──

 

 

 三十分後。

 

「失礼する」

 

 国木田独歩が応接室へ入ってきた。

 

「お待たせしました。それでは依頼内容を詳しく──」

 

「もう帰りましたよ」

 

「……は?」

 

 国木田の足が止まる。

 

「すっきりしたって」

 

「…………」

 

「息子さんとも電話で話せたみたいです」

 

「…………」

 

「『話を聞いてもらえただけで気持ちが楽になりました』って言ってました」

 

「…………」

 

 国木田は静かに眼鏡を押し上げた。

 

「ますだ君」

 

「はい」

 

「依頼は?」

 

「受けてないです」

 

「……依頼を受けずに、帰したのか?」

 

「はい。ご自身で解決されて、満足して帰られました」

 

「違う、そうじゃない」

 

 国木田は手帳を握りしめたまま、本格的に頭を抱えた。

 問題が解決したこと自体は素晴らしい。だが、探偵社の存在意義とは一体何なのか。理想と現実の狭間で葛藤している。

 

──

 

 その後。

 

 太宰治が腹を抱えて爆笑した。

 

「はははは! 会話だけで依頼を解決してしまった!」

 

 敦は苦笑いしながら肩をすくめる。

 

「依頼そのものがなくなっちゃいましたね……」

 

 国木田は深いため息をついた。

 

「探偵社としては複雑だ……」

 

 太宰はますだの両肩にぽんと手を置いた。

 

「国木田君、ますださんを受付に置くと依頼が半分くらい“雑談”で解決しちゃうかもしれないね」

 

「やめろ太宰! 探偵社の売上が激減するだろうが!」

 

「おや、理由そこなんだ?」

 

 太宰がニヤニヤと突っ込むと、国木田は「しまりがないと言いたいんだ!」と即座に怒鳴り散らした。

 

 ますだは首をかしげる。

 

「ただお話ししただけなんですけどねぇ」

 

 白猫が「にゃ」と鳴いた。

 

 国木田はしばらく沈黙した後、ぽつりと呟いた。

 

「……結果として問題は解決しているんだな?」

 

「はい。息子さんと仲直りできたみたいです」

 

「……そうか」

 

 国木田は何とも言えない顔になった。

 太宰はまた笑い出す。

 

「国木田君、ますださんは“聞き上手の異能者”かもしれないよ」

 

「黙れ太宰! 異能で片付けるな!」

 

 武装探偵社の空気は、今日も騒がしく、そしてどこか温かかった。

 

 

●10

 

 武装探偵社の朝は、いつもより少し慌ただしかった。

 

 依頼人の女性は、握りしめたハンカチを震わせながら訴えた。

 

「猫がいなくなったんです……!」

 

 敦は慌ててメモを取り、国木田は真剣に頷く。

 

「特徴は?」

 

「まだ小さなミケ猫のメスで……とても臆病なんです」

 

「最後に見かけた場所は?」

 

「この公園の近くです」

 

 国木田は地図を広げた。

 

「よし。聞き込みをしながら周辺を捜索する。猫探しは時間がかかる依頼だ。焦らず行くぞ」

 

「はい!」

 

 

 しかし。

 

 雲ひとつない青空から、真夏の眩しい日差しが照りつけていた。

 ジリジリと肌を焼くような暑さの中──

 

 一時間。

 

 二時間。

 

 三時間。

 

「見つからない……」

 

 敦は額の汗を拭い、肩で息をした。

 

「物陰は一通り探しました」

 

「こちらもだ」

 

 国木田は眉間に皺を寄せる。

 

「目撃情報も途切れた」

 

 太宰だけは涼しい木陰で風に吹かれながら、のんびりしていた。

 

「猫だからねぇ……自由気ままだ」

 

「暑いからって涼んでいないで働け太宰!」

 

 

 

 昼を回った頃。

 

「国木田さーん」

 

 聞き慣れた声が、張り詰めていた空気をふっと緩めた。

 

 ますだが大きな風呂敷と大きなやかんを抱えて歩いてきた。

 

 肩にはいつもの白猫。

 

「お弁当持ってきましたー。あと水分補給の麦茶と塩飴ですー」

 

「にゃ」

 

 敦がほっと笑う。

 

「ますださん!」

 

「みなさんお昼食べてないかなと思って」

 

「ありがたい」

 

 国木田も短く礼を言う。

 

「依頼中だからな。助かる」

 

 ますだはベンチへ風呂敷を広げる。

 

「おにぎりと卵焼きと唐揚げです」

 

 その瞬間だった。

 

 肩の白猫がぴくりと耳を動かした。

 

「……にゃ」

 

 ますだも同じ方向を見る。

 

「ん?」

 

 白猫はするりと肩から飛び降りると、公園の植え込みへ向かって歩き始めた。

 

「どうしたの?」

 

「にゃ」

 

 ますだは後を追う。

 

 数歩進んだところでしゃがみ込む。

 

「あ」

 

 ますだは小さく息を呑んだ。

 

「いる」

 

 植え込みの奥。

 

 小さなミケ猫が丸くなって震えていた。

 

 ますだは静かに手を差し伸べる。

 

「怖かった?」

 

 白猫はミケ猫の前まで歩み寄る。

 

 二匹は鼻先を合わせ、小さく鳴いた。

 

「にゃ」

 

「みゃあ」

 

 緊張していたミケ猫は安心したように姿を現し、そのまま、ますだの腕へ収まった。

 

 そこへ国木田たちも駆けつける。

 

「いたのか!」

 

「え?」

 

 ますだは目をぱちぱちさせる。

 

「……この子、探してた猫だったんですか?」

 

 敦が思わず笑顔になる。

 

「本当にいた……!」

 

 依頼人が駆け寄ってくる。

 

「この子です!」

 

 依頼人は声を震わせ、涙をこぼしながらミケ猫を抱き締めた。

 

「ありがとうございます……!」

 

 ますだも嬉しそうに微笑んだ。

 

「あぁ、この子を探していたんですか。よかったですね」

 

 

 依頼人を見送ったあと。

 

 太宰が吹き出し、膝を叩いて笑った。

 

「ははっ」

 

「国木田君」

 

「何だ」

 

「君たちが三時間探した猫を、ますださんはお弁当を届けに来て五分で見つけたよ」

 

 国木田は黙って眼鏡を押し上げる。

 

「……偶然だ」

 

「そうかもしれないね」

 

 太宰はますだを見る。

 

「でも面白い」

 

 ますだは首を傾げた。

 

「え?」

 

「私は白猫について行っただけですよ?」

 

 敦が苦笑する。

 

「その白猫がすごいんですよ……」

 

 国木田はため息をつきながら風呂敷を見る。

 

「……それで、依頼は終わってしまったが弁当は食べていいんだろうな?」

 

「もちろんです!」

 

 ますだはぱっと笑顔になった。

 

「いっぱい作ってきました!」

 

「報告書の作成前に、まずは昼食だ」

 

「はい!」

 

 白猫が満足そうに「にゃ」と鳴く。

 

 太宰は白猫の尻尾の揺れをじっと見つめ、意味深な笑みを浮かべながら、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

「……やっぱり、君は普通の猫じゃないね」

 

 白猫は白々しくそっぽを向き、ただ短く鳴いた。

 

「にゃ」




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

気が向いたら続きを書いてアップします。
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