旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

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【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


6創稿編 11・12:物置の隅に広がるささやかな安らぎと、手料理の誘いに言葉を詰まらせる帽子男

●11

 

 ──探偵社の仕事を始める直前。

 

 武装探偵社の奥。

 普段は誰も入らない物置の前で、国木田独歩は腕を組んでいた。

 

「本当にここでいいのか?」

 

 扉を開けると、棚と段ボール、掃除道具。

 空いたスペースに簡易ベッドが一つ置かれているだけだ。

 

 ますだはきょろきょろと辺りを見回し、ぱっと笑顔になった。

 

「落ち着きます」

 

 国木田は物置を見回す。

 

「……そうか」

 

「はい」

 

 白猫が段ボールの上へぴょんと飛び乗り、丸くなる。

 

「にゃ」

 

「ほら、白猫も気に入ったみたいです」

 

「いや、猫だからだろ」

 

 国木田は思わず突っ込んだ。

 

 ますだは壁際へ座り込み、段ボールの山を見渡す。

 

「物がいっぱいあると安心するんですよねぇ」

 

「秘密基地みたいで」

 

「…………」

 

 国木田は返す言葉を失った。

 

 そこへ太宰治がひょこっと顔を出す。

 

「ますださん、押し入れで寝るタイプ?」

 

「好きですねぇ、狭いところ」

 

 顎に軽く指先をあてて、何か思い出すような表情のますだ。

 

「わかります?」

 

「私は棺桶が好きなんだけど」

 

「それはちょっと違いますね」

 

「違うのかい?」

 

 太宰が少し残念そうに首を傾げる。

 

 国木田は深いため息をついた。

 

「お前たちはなぜそんなところで意気投合する……」

 

──

 

 その後、与謝野晶子が物置を覗きに来た。

 

「ちゃんと部屋を用意するわよ」

 

「いえ、ここ落ち着くので」

 

「……本気で言ってるの?」

 

「はい」

 

 ますだは段ボールの山を背に、満足そうに頷いた。

 

「変わった子ね。でも、嫌になったらすぐ言いなさい」

 

 与謝野は肩をすくめて去っていった。

 

──

 

 最初、敦は本気で心配していた。

 

「物置なんてかわいそうです!」

 

 しかし毎日見るたびに、ますだは快適そうに暮らしている。

 

 白猫は段ボールの上で昼寝し、

 ますだはその横で書類をまとめたり、お茶を淹れたりしている。

 

 気が付けば物置は、不思議と居心地のいい空間になっていた。

 

「……本人が幸せなら、いいのかな」

 

 敦はだんだん受け入れてしまった。

 

──

 

 太宰だけは妙に楽しそうだった。

 

「秘密基地仲間が増えたね」

 

「仲間なんですか?」

 

「もちろん」

 

 太宰は満足げに頷き、段ボールの山を見渡す。

 

「国木田君、ここに私の棺桶も置いていい?」

 

「置くな」

 

──

 

 国木田は物置の前で手帳を閉じ、深く息を吐いた。

 

「……まぁいい。仕事に支障がなければ」

 

「はい! がんばります!」

 

 ますだは白猫を抱き上げ、物置の中へ戻っていく。

 

 その背中を見ながら、国木田はぽつりと呟いた。

 

「……本当にここでいいのか……?」

 

 太宰が肩をすくめる。

 

「国木田君、ますださんは“物置で幸せになれる人”なんだよ」

 

「黙れ太宰!」

 

 武装探偵社の物置は、今日も静かで、そしてどこか温かかった。

 

 

●12

 

 昼下がりのヨコハマ。

 商店街はゆったりとした空気に包まれ、軒先からは揚げ物の匂いが漂っていた。

 

 ますだは買い物袋を提げ、肩に白猫を乗せながら歩いていた。

 

「卵も買ったし、お醤油も買ったし」

「今日は唐揚げにしようかなぁ」

 

「にゃ」

 

 白猫は揺れる袋をじっと見つめている。

 

 その時だった。

 向こうから、見覚えのある帽子の青年が歩いてきた。

 

「あ」

 

 ますだの表情がぱっと明るくなる。

 

「大道芸……じゃなかった人!」

 

 青年──中原中也の足が止まった。

 

「…………」

 

 ますだはぺこりと頭を下げる。

 

「お久しぶりです」

 

 中也は数秒黙ったあと、額に手を当てた。

 

「……誰だ、お前」

 

「ますだです。この前、港でお会いして……大道芸ですかって聞いてしまって」

 

「…………」

 

 記憶が蘇る。

 

(あの時の天然か)

 

「思い出しました?」

 

「あぁ……思い出した」

 

「よかったです」

 

 ますだは安心したように笑った。

 

「お名前聞いてなかったですよね」

 

「中原中也だ」

 

「中原さんですか」

 

「よろしくお願いします」

 

「……あぁ」

 

 中也は腕を組む。

 

「で、なんでまだヨコハマにいるんだ」

 

「今は武装探偵社で働かせてもらってます」

 

「…………は?」

 

「宿代を前借りしちゃったので、働いて返済中なんです」

 

 中也は思わず聞き返した。

 

「探偵社?」

 

「はい。物置に住んでます」

 

「…………」

 

「物置?」

 

「落ち着くんですよ。段ボールがいっぱいあって、秘密基地みたいで」

 

 中也はしばらく黙り込んだ。

 

(何一つ理解できねぇ)

 

 肩の白猫が「にゃ」と鳴く。

 

「白猫も気に入ってます」

 

「猫はそういうもんだろ……」

 

 中也はため息をついた。

 

「で、今日は何買ってきたんだ」

 

「晩ご飯です」

 

 ますだは袋を少し持ち上げる。

 

「みんなの分です。今夜は唐揚げを作ろうかなって」

 

「……そうか」

 

 ますだは首を傾げた。

 

「中原さんも食べます?」

 

 中也の視線が一瞬だけ袋に落ちた。

 揺れる卵、醤油、白猫の尻尾。

 

「唐揚げ……いや」

 

「俺は仕事だ」

 

「そうなんですね」

 

「……暇ができたら、顔くらいは出してやる」

 

「え、本当ですか? じゃあいっぱい作っておきますね。唐揚げ好きですか?」

 

「……嫌いじゃねぇ」

 

「お仕事頑張ってください」

 

 ますだはぺこりと頭を下げ、そのまま歩いていく。

 

 中也はその背中を見送りながら、小さく呟いた。

 

「……探偵社には、とんでもねぇ奴が入ったな」

 

 その肩で白猫だけが、振り返って中也を見た。

 

「にゃ」

 

 中也は猫と目が合い、ほんの少しだけ眉をひそめた。

 

(……唐揚げ、気になるじゃねぇか)




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

気が向いたら続きを書いてアップします。
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