旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅 作:masuda028
ふらりと迷い込む別世界。
※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。
●11
──探偵社の仕事を始める直前。
武装探偵社の奥。
普段は誰も入らない物置の前で、国木田独歩は腕を組んでいた。
「本当にここでいいのか?」
扉を開けると、棚と段ボール、掃除道具。
空いたスペースに簡易ベッドが一つ置かれているだけだ。
ますだはきょろきょろと辺りを見回し、ぱっと笑顔になった。
「落ち着きます」
国木田は物置を見回す。
「……そうか」
「はい」
白猫が段ボールの上へぴょんと飛び乗り、丸くなる。
「にゃ」
「ほら、白猫も気に入ったみたいです」
「いや、猫だからだろ」
国木田は思わず突っ込んだ。
ますだは壁際へ座り込み、段ボールの山を見渡す。
「物がいっぱいあると安心するんですよねぇ」
「秘密基地みたいで」
「…………」
国木田は返す言葉を失った。
そこへ太宰治がひょこっと顔を出す。
「ますださん、押し入れで寝るタイプ?」
「好きですねぇ、狭いところ」
顎に軽く指先をあてて、何か思い出すような表情のますだ。
「わかります?」
「私は棺桶が好きなんだけど」
「それはちょっと違いますね」
「違うのかい?」
太宰が少し残念そうに首を傾げる。
国木田は深いため息をついた。
「お前たちはなぜそんなところで意気投合する……」
──
その後、与謝野晶子が物置を覗きに来た。
「ちゃんと部屋を用意するわよ」
「いえ、ここ落ち着くので」
「……本気で言ってるの?」
「はい」
ますだは段ボールの山を背に、満足そうに頷いた。
「変わった子ね。でも、嫌になったらすぐ言いなさい」
与謝野は肩をすくめて去っていった。
──
最初、敦は本気で心配していた。
「物置なんてかわいそうです!」
しかし毎日見るたびに、ますだは快適そうに暮らしている。
白猫は段ボールの上で昼寝し、
ますだはその横で書類をまとめたり、お茶を淹れたりしている。
気が付けば物置は、不思議と居心地のいい空間になっていた。
「……本人が幸せなら、いいのかな」
敦はだんだん受け入れてしまった。
──
太宰だけは妙に楽しそうだった。
「秘密基地仲間が増えたね」
「仲間なんですか?」
「もちろん」
太宰は満足げに頷き、段ボールの山を見渡す。
「国木田君、ここに私の棺桶も置いていい?」
「置くな」
──
国木田は物置の前で手帳を閉じ、深く息を吐いた。
「……まぁいい。仕事に支障がなければ」
「はい! がんばります!」
ますだは白猫を抱き上げ、物置の中へ戻っていく。
その背中を見ながら、国木田はぽつりと呟いた。
「……本当にここでいいのか……?」
太宰が肩をすくめる。
「国木田君、ますださんは“物置で幸せになれる人”なんだよ」
「黙れ太宰!」
武装探偵社の物置は、今日も静かで、そしてどこか温かかった。
●12
昼下がりのヨコハマ。
商店街はゆったりとした空気に包まれ、軒先からは揚げ物の匂いが漂っていた。
ますだは買い物袋を提げ、肩に白猫を乗せながら歩いていた。
「卵も買ったし、お醤油も買ったし」
「今日は唐揚げにしようかなぁ」
「にゃ」
白猫は揺れる袋をじっと見つめている。
その時だった。
向こうから、見覚えのある帽子の青年が歩いてきた。
「あ」
ますだの表情がぱっと明るくなる。
「大道芸……じゃなかった人!」
青年──中原中也の足が止まった。
「…………」
ますだはぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです」
中也は数秒黙ったあと、額に手を当てた。
「……誰だ、お前」
「ますだです。この前、港でお会いして……大道芸ですかって聞いてしまって」
「…………」
記憶が蘇る。
(あの時の天然か)
「思い出しました?」
「あぁ……思い出した」
「よかったです」
ますだは安心したように笑った。
「お名前聞いてなかったですよね」
「中原中也だ」
「中原さんですか」
「よろしくお願いします」
「……あぁ」
中也は腕を組む。
「で、なんでまだヨコハマにいるんだ」
「今は武装探偵社で働かせてもらってます」
「…………は?」
「宿代を前借りしちゃったので、働いて返済中なんです」
中也は思わず聞き返した。
「探偵社?」
「はい。物置に住んでます」
「…………」
「物置?」
「落ち着くんですよ。段ボールがいっぱいあって、秘密基地みたいで」
中也はしばらく黙り込んだ。
(何一つ理解できねぇ)
肩の白猫が「にゃ」と鳴く。
「白猫も気に入ってます」
「猫はそういうもんだろ……」
中也はため息をついた。
「で、今日は何買ってきたんだ」
「晩ご飯です」
ますだは袋を少し持ち上げる。
「みんなの分です。今夜は唐揚げを作ろうかなって」
「……そうか」
ますだは首を傾げた。
「中原さんも食べます?」
中也の視線が一瞬だけ袋に落ちた。
揺れる卵、醤油、白猫の尻尾。
「唐揚げ……いや」
「俺は仕事だ」
「そうなんですね」
「……暇ができたら、顔くらいは出してやる」
「え、本当ですか? じゃあいっぱい作っておきますね。唐揚げ好きですか?」
「……嫌いじゃねぇ」
「お仕事頑張ってください」
ますだはぺこりと頭を下げ、そのまま歩いていく。
中也はその背中を見送りながら、小さく呟いた。
「……探偵社には、とんでもねぇ奴が入ったな」
その肩で白猫だけが、振り返って中也を見た。
「にゃ」
中也は猫と目が合い、ほんの少しだけ眉をひそめた。
(……唐揚げ、気になるじゃねぇか)
本作はハーメルンのみの限定公開作品です。
気が向いたら続きを書いてアップします。