旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅   作:masuda028

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【文豪ストレイドッグス/太宰治】
ふらりと迷い込む別世界。

※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。


7創稿編 13・14:唐揚げで掴むマフィアの胃袋と、多忙を極めるトリプルワーク

●13

 

 夕方。

 

 武装探偵社の給湯室では、香ばしい匂いが漂っていた。

 

 じゅう、と油が弾けるたび、給湯室の空気が少しだけ温かくなる。

 

 ますだはエプロン姿で唐揚げを揚げ、出来上がったものから大皿へ並べていく。

 

「今日はサックサクの唐揚げですよー」

 

 その声に、探偵社の面々が自然と集まってくる。

 

「おっ、今日は豪華だねぇ」

 

 太宰が嬉しそうに覗き込み、

 

「いい匂いですね」

 

 敦がお腹を鳴らしながら笑う。

 

 国木田も皿を見て、小さく頷いた。

 

「……見事な出来だ」

 

「ありがとうございます。二度揚げしてます」

 

 白猫が「にゃ」と鳴く。

 

 夕食は賑やかだった。

 

 他愛のない話をしながら笑い合い、揚げたての唐揚げは次々と皿から消えていく。

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

 食後、ますだは食器を片付けながら、小さな保存容器へ唐揚げを詰めた。

 

「夜食ですか?」

 

 敦が尋ねる。

 

「そんなところです。夜にお腹が空くかもしれませんし、余った分なので」

 

「なるほど」

 

 敦は素直に頷いた。

 

 ますだは保存容器を抱え、物置へ戻っていった。

 

 

 夜。

 

 段ボールに囲まれた物置部屋は、昼間よりもずっと静かだった。

 

 白猫が窓辺で丸くなっている。

 

 その時。

 

 コン、コン……。

 

 窓ガラスを控えめに叩く音がした。

 

「ん?」

 

 ますだが小さく窓を開ける。

 

 そこには、黒い帽子を目深にかぶった青年が立っていた。

 

「おい」

 

「あぁ」

 

 ますだは目を丸くした。

 

「大道芸じゃなかった人」

 

「……まだその呼び方か」

 

「本当に来たんですねぇ」

 

「時間があったら行くって言っただろ」

 

「そうでした」

 

 ますだはにこっと笑う。

 

「ちょうどよかったです」

 

「?」

 

「唐揚げの残りをとっておきました」

 

 中也が一瞬きょとんとする。

 

「みんながおかわりするかなと思って、多めに揚げたんです。よかったら食べます?」

 

「…………」

 

「捨てるのももったいないですし」

 

「……もらう」

 

 ますだは物置の窓を開けた。

 

「どうぞ」

 

「邪魔する」

 

 中也は部屋へ入り、辺りを見回す。

 

 段ボール。

 

 棚。

 

 掃除道具。

 

 簡易ベッド。

 

「…………」

 

「本当に物置だな」

 

 古い段ボールの紙の匂いと、ほんのり残った唐揚げの香りが混ざっていた。

 

「落ち着きますよ。秘密基地みたいで」

 

「理解はできねぇがな」

 

 ますだは保存容器から唐揚げを皿へ盛り付けた。

 

「はい、どうぞ」

 

 中也は一つ摘まみ、口へ運ぶ。

 

「……うまい」

 

「よかったです」

 

 もう一つ摘まむ。

 

「……うまい」

 

 二回言った。

 

 ますだは思わず笑う。

 

「お気に召したみたいで」

 

 中也は少しだけ咳払いをしてから言った。

 

「……明日も作れ」

 

「え?」

 

「明日も食う」

 

 その一言が、少し変わった縁の始まりだった。

 

 

 翌日。

 

 コンコン。

 

 また物置の窓が鳴る。

 

 ますだが顔を出すと、中也が当然のように立っていた。

 

「唐揚げあるか?」

 

「今日はありますよ」

 

「よし」

 

 中也は少し間を置いて続ける。

 

「お前、弁当作れ」

 

「え?」

 

「会議が長ぇ」

 

「コンビニ飯は飽きた」

 

 あまりにも自然な頼み方に、ますだは少し考えてから頷いた。

 

「お弁当代いただければ作りますよ?」

 

「それでいい」

 

「配達もします?」

 

「頼む」

 

「わかりました」

 

 こうして、ますだは昼になるとポートマフィアへ弁当を届けるようになった。

 

 

 数か月後。

 

 昼休みが近づくと、黒服たちがそわそわし始める。

 

「ますださんが来るぞ」

 

「今日は唐揚げらしい」

 

「急げ、売り切れるぞ」

 

 昼前の廊下は、不思議な熱気に包まれていた。

 

 昼食を楽しみに仕事を片付ける者まで現れ始める。

 

 その中心で、中也は黙って弁当を受け取る。

 

「……悪くねぇな」

 

 その一言だけで、黒服たちは胸をなで下ろす。

 

(今日は機嫌がいい)

 

(午後も平和だ)

 

 いつしか「ますだ弁当」は、ポートマフィアの密かな福利厚生になっていた。

 

 

 弁当配達がすっかり日課になった頃。

 

 ますだが廊下を歩いていると、一人の男が穏やかな笑みを浮かべて声を掛けた。

 

「君が、いつもお弁当を届けてくれている人かな」

 

「はい。ますだです」

 

「私は森鴎外」

 

「はじめまして」

 

 森はますだを上から下まで眺め、満足そうに微笑む。

 

⁠「君、メイド服が似合いそうだね」⁠

 

⁠「よく言われます」⁠

 

⁠「家事も得意かな?」⁠

 

⁠「好きとまではいきませんが、嫌いじゃないです」⁠

 

 ⁠その時、奥から金髪の少女がひょっこり顔を出した。⁠

 

⁠「リンタロウ、また変なお着替えの趣味押し付けてるの? 気持ち悪いわねぇ」⁠

 

 ⁠森はあからさまにショックを受けたような顔をする。⁠

 

「そんなこと言わないでおくれよ、エリスちゃん! 似合うと思っただけなんだよ」

 

 エリスはジト目で森を見つめたあと、ますだの持っているお弁当袋に鼻を近づけた。

 

「ふーん……ねえそれなぁに? 甘いお菓子もあるのかしら?」

 

「今日はお弁当だけですね。唐揚げが入ってます」

 

「なーんだ。でも美味しそうな匂い。リンタロウ、この人雇いなさいよ。おやつ作らせるから!」

 

⁠「エリスちゃんがそう言うなら、積極的に勧誘しよう」⁠

 

 ⁠森は満足そうに微笑む。⁠

 

⁠「そういうわけなんだが、こちらでもアルバイトをしてみないかい?」⁠

 

 ますだは首を傾げた。⁠

 

⁠「時給はいくらですか?」⁠

 

「探偵社よりは、いい条件を出せると思うよ」

 

「やります」

 

 即答だった。

 

 生活費。

 

 その一点だけで返事をしたますだを見て、森は満足そうに頷く。

 

「交渉成立だね」

 

 少し離れた場所でそのやり取りを聞いていた中也は、帽子を深くかぶり直してため息をついた。

 

「……また面倒なことになりそうだな」

 

 肩の白猫だけが、その様子を見上げて満足そうに鳴いた。

 

「にゃ」

 

 

●14

 

 ある日の朝。

 

 武装探偵社は珍しく静かだった。

 

 その静寂を破るように、ますだが挙手する。

 

「国木田さん」

 

「どうした」

 

「本日、ますだ屋がオープンします」

 

「……何?」

 

「飲食店です」

 

 国木田の手帳が止まる。

 

「待て」

 

「はい」

 

「もう一度言え」

 

「本日、ますだ屋がオープンします」

 

「そこじゃない!」

 

 国木田は勢いよく立ち上がった。

 

「なぜ飲食店ができる!」

 

「ポートマフィアで実は飲食店をやりたかった人がいまして、私の作った唐揚げ弁当を泣きながら食べてたんです」

 

「…………ほう?」

 

「飲食店経営の夢が捨てきれない。私のお弁当のような味を再現したいというので──お手伝いすることになりました」

 

「なぜそうなる!?」

 

「お弁当屋さん兼、食事処です」

 

 探偵社中が静まり返る。

 

 敦がおずおずと手を挙げた。

 

「あの……つまり?」

 

 ますだは笑顔で答えた。

 

「バイト先が増えます」

 

「いや、増えすぎだ!!」

 

 国木田の叫びが探偵社中に響いた。

 

 太宰は机を叩いて笑っている。

 

「ははははっ! 国木田君、ますださんの世界では職業が増殖するんだよ!」

 

「増殖するな!」

 

「でも探偵社の仕事はちゃんとやりますよ?」

 

「そこは疑っていない!」

 

「午前は探偵社、昼はお弁当配達、夕方からますだ屋です」

 

「勤務時間がおかしい!」

 

 ますだは首を傾げた。

 

「そんなにですか?」

 

「そんなにだ!」

 

 与謝野が面白そうに口を開く。

 

「で、給料は?」

 

「探偵社と、ポートマフィアと、ますだ屋からです」

 

「収入先が三つ。……生活は安定するわね」

 

「ですよねぇ」

 

 国木田は額を押さえた。

 

「誰だ、その店を始めようと言ったのは……」

 

 その頃。

 

 ポートマフィアでは。

 

「中也さん!」

 

「ますだ屋、本日開店です!」

 

「昼営業も夜営業も予約いっぱいです!」

 

「弁当百五十食追加!」

 

 中也は帽子を深くかぶり、遠い目をした。

 

「……あいつ、店まで始めやがったか」

 

 森は紅茶を口に運びながら、穏やかに微笑む。

 

「いいじゃないか。おいしい料理は組織を円滑にするからね」

 

「円滑にしすぎなんですよ」

 

 黒服たちは朝からそわそわしていた。

 

「今日のランチ何だ?」

 

「ハンバーグらしいぞ!」

 

「急げ!」

 

 昼前なのに、店の前にはすでに行列ができ始めていた。

 

 一方その頃。

 

 武装探偵社では。

 

 国木田が静かに天井を見上げる。

 

「……次は何を始めるつもりだ」

 

 ますだは少し考えてから答えた。

 

「まだ考えてません」

 

「考えるな!」

 

 太宰が吹き出す。

 

「国木田君、その台詞はもう手遅れだと思うよ」

 

「黙れ太宰!!」

 

 白猫だけが満足そうに尻尾を揺らした。

 

「にゃ」




本作はハーメルンのみの限定公開作品です。

気が向いたら続きを書いてアップします。
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