旅する物語 異世界探訪 太宰治との邂逅 作:masuda028
ふらりと迷い込む別世界。
※本作は『文豪ストレイドッグス』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロイン(?)は名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです。
●13
夕方。
武装探偵社の給湯室では、香ばしい匂いが漂っていた。
じゅう、と油が弾けるたび、給湯室の空気が少しだけ温かくなる。
ますだはエプロン姿で唐揚げを揚げ、出来上がったものから大皿へ並べていく。
「今日はサックサクの唐揚げですよー」
その声に、探偵社の面々が自然と集まってくる。
「おっ、今日は豪華だねぇ」
太宰が嬉しそうに覗き込み、
「いい匂いですね」
敦がお腹を鳴らしながら笑う。
国木田も皿を見て、小さく頷いた。
「……見事な出来だ」
「ありがとうございます。二度揚げしてます」
白猫が「にゃ」と鳴く。
夕食は賑やかだった。
他愛のない話をしながら笑い合い、揚げたての唐揚げは次々と皿から消えていく。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
食後、ますだは食器を片付けながら、小さな保存容器へ唐揚げを詰めた。
「夜食ですか?」
敦が尋ねる。
「そんなところです。夜にお腹が空くかもしれませんし、余った分なので」
「なるほど」
敦は素直に頷いた。
ますだは保存容器を抱え、物置へ戻っていった。
⸻
夜。
段ボールに囲まれた物置部屋は、昼間よりもずっと静かだった。
白猫が窓辺で丸くなっている。
その時。
コン、コン……。
窓ガラスを控えめに叩く音がした。
「ん?」
ますだが小さく窓を開ける。
そこには、黒い帽子を目深にかぶった青年が立っていた。
「おい」
「あぁ」
ますだは目を丸くした。
「大道芸じゃなかった人」
「……まだその呼び方か」
「本当に来たんですねぇ」
「時間があったら行くって言っただろ」
「そうでした」
ますだはにこっと笑う。
「ちょうどよかったです」
「?」
「唐揚げの残りをとっておきました」
中也が一瞬きょとんとする。
「みんながおかわりするかなと思って、多めに揚げたんです。よかったら食べます?」
「…………」
「捨てるのももったいないですし」
「……もらう」
ますだは物置の窓を開けた。
「どうぞ」
「邪魔する」
中也は部屋へ入り、辺りを見回す。
段ボール。
棚。
掃除道具。
簡易ベッド。
「…………」
「本当に物置だな」
古い段ボールの紙の匂いと、ほんのり残った唐揚げの香りが混ざっていた。
「落ち着きますよ。秘密基地みたいで」
「理解はできねぇがな」
ますだは保存容器から唐揚げを皿へ盛り付けた。
「はい、どうぞ」
中也は一つ摘まみ、口へ運ぶ。
「……うまい」
「よかったです」
もう一つ摘まむ。
「……うまい」
二回言った。
ますだは思わず笑う。
「お気に召したみたいで」
中也は少しだけ咳払いをしてから言った。
「……明日も作れ」
「え?」
「明日も食う」
その一言が、少し変わった縁の始まりだった。
⸻
翌日。
コンコン。
また物置の窓が鳴る。
ますだが顔を出すと、中也が当然のように立っていた。
「唐揚げあるか?」
「今日はありますよ」
「よし」
中也は少し間を置いて続ける。
「お前、弁当作れ」
「え?」
「会議が長ぇ」
「コンビニ飯は飽きた」
あまりにも自然な頼み方に、ますだは少し考えてから頷いた。
「お弁当代いただければ作りますよ?」
「それでいい」
「配達もします?」
「頼む」
「わかりました」
こうして、ますだは昼になるとポートマフィアへ弁当を届けるようになった。
⸻
数か月後。
昼休みが近づくと、黒服たちがそわそわし始める。
「ますださんが来るぞ」
「今日は唐揚げらしい」
「急げ、売り切れるぞ」
昼前の廊下は、不思議な熱気に包まれていた。
昼食を楽しみに仕事を片付ける者まで現れ始める。
その中心で、中也は黙って弁当を受け取る。
「……悪くねぇな」
その一言だけで、黒服たちは胸をなで下ろす。
(今日は機嫌がいい)
(午後も平和だ)
いつしか「ますだ弁当」は、ポートマフィアの密かな福利厚生になっていた。
⸻
弁当配達がすっかり日課になった頃。
ますだが廊下を歩いていると、一人の男が穏やかな笑みを浮かべて声を掛けた。
「君が、いつもお弁当を届けてくれている人かな」
「はい。ますだです」
「私は森鴎外」
「はじめまして」
森はますだを上から下まで眺め、満足そうに微笑む。
「君、メイド服が似合いそうだね」
「よく言われます」
「家事も得意かな?」
「好きとまではいきませんが、嫌いじゃないです」
その時、奥から金髪の少女がひょっこり顔を出した。
「リンタロウ、また変なお着替えの趣味押し付けてるの? 気持ち悪いわねぇ」
森はあからさまにショックを受けたような顔をする。
「そんなこと言わないでおくれよ、エリスちゃん! 似合うと思っただけなんだよ」
エリスはジト目で森を見つめたあと、ますだの持っているお弁当袋に鼻を近づけた。
「ふーん……ねえそれなぁに? 甘いお菓子もあるのかしら?」
「今日はお弁当だけですね。唐揚げが入ってます」
「なーんだ。でも美味しそうな匂い。リンタロウ、この人雇いなさいよ。おやつ作らせるから!」
「エリスちゃんがそう言うなら、積極的に勧誘しよう」
森は満足そうに微笑む。
「そういうわけなんだが、こちらでもアルバイトをしてみないかい?」
ますだは首を傾げた。
「時給はいくらですか?」
「探偵社よりは、いい条件を出せると思うよ」
「やります」
即答だった。
生活費。
その一点だけで返事をしたますだを見て、森は満足そうに頷く。
「交渉成立だね」
少し離れた場所でそのやり取りを聞いていた中也は、帽子を深くかぶり直してため息をついた。
「……また面倒なことになりそうだな」
肩の白猫だけが、その様子を見上げて満足そうに鳴いた。
「にゃ」
●14
ある日の朝。
武装探偵社は珍しく静かだった。
その静寂を破るように、ますだが挙手する。
「国木田さん」
「どうした」
「本日、ますだ屋がオープンします」
「……何?」
「飲食店です」
国木田の手帳が止まる。
「待て」
「はい」
「もう一度言え」
「本日、ますだ屋がオープンします」
「そこじゃない!」
国木田は勢いよく立ち上がった。
「なぜ飲食店ができる!」
「ポートマフィアで実は飲食店をやりたかった人がいまして、私の作った唐揚げ弁当を泣きながら食べてたんです」
「…………ほう?」
「飲食店経営の夢が捨てきれない。私のお弁当のような味を再現したいというので──お手伝いすることになりました」
「なぜそうなる!?」
「お弁当屋さん兼、食事処です」
探偵社中が静まり返る。
敦がおずおずと手を挙げた。
「あの……つまり?」
ますだは笑顔で答えた。
「バイト先が増えます」
「いや、増えすぎだ!!」
国木田の叫びが探偵社中に響いた。
太宰は机を叩いて笑っている。
「ははははっ! 国木田君、ますださんの世界では職業が増殖するんだよ!」
「増殖するな!」
「でも探偵社の仕事はちゃんとやりますよ?」
「そこは疑っていない!」
「午前は探偵社、昼はお弁当配達、夕方からますだ屋です」
「勤務時間がおかしい!」
ますだは首を傾げた。
「そんなにですか?」
「そんなにだ!」
与謝野が面白そうに口を開く。
「で、給料は?」
「探偵社と、ポートマフィアと、ますだ屋からです」
「収入先が三つ。……生活は安定するわね」
「ですよねぇ」
国木田は額を押さえた。
「誰だ、その店を始めようと言ったのは……」
その頃。
ポートマフィアでは。
「中也さん!」
「ますだ屋、本日開店です!」
「昼営業も夜営業も予約いっぱいです!」
「弁当百五十食追加!」
中也は帽子を深くかぶり、遠い目をした。
「……あいつ、店まで始めやがったか」
森は紅茶を口に運びながら、穏やかに微笑む。
「いいじゃないか。おいしい料理は組織を円滑にするからね」
「円滑にしすぎなんですよ」
黒服たちは朝からそわそわしていた。
「今日のランチ何だ?」
「ハンバーグらしいぞ!」
「急げ!」
昼前なのに、店の前にはすでに行列ができ始めていた。
一方その頃。
武装探偵社では。
国木田が静かに天井を見上げる。
「……次は何を始めるつもりだ」
ますだは少し考えてから答えた。
「まだ考えてません」
「考えるな!」
太宰が吹き出す。
「国木田君、その台詞はもう手遅れだと思うよ」
「黙れ太宰!!」
白猫だけが満足そうに尻尾を揺らした。
「にゃ」
本作はハーメルンのみの限定公開作品です。
気が向いたら続きを書いてアップします。