脳焼き大好き転生者、異世界で焼いたら周囲が大変なことになった 作:やーきー
俺は人の脳が焼かれる瞬間が好きだ。
アニメやゲームにどハマりし、早口で感想をSNSに垂れ流す人を見ると笑顔になる。
他にも配信者が俺の好きなゲームを実況していたら、即座に名シーンの場面を確認して栄養素を摂取するような人間だ。
脳を焼かれた人たちは、時に呻めき、時に叫び、時に涙し、時に早口になる。
SNSに、そうやって早口になるオタクのタイムラインを構築できたら最高だ。
一日中、それを眺めていられるだろう。
そんな俺がある時、異世界に転生した。
感想摂取ができなくなったのは残念だが、悪いことばかりではない。
この世界には魔術とかスキルといった、前世にはないものが存在している。
そしてそれらの習得は、人の人生を左右するくらい大事なことだ。
剣士になりたい人間が、剣に関するスキルを取得できた時。
魔術師になりたい人間が、難しい魔術の発動に成功した時。
彼らは等しく脳を焼かれる。
ドーパミンはどっぱどぱ、瞳は当然キッラキラ。
俺が見たかった光景が、そこにはあった。
だから俺は心に決めたんだ。
彼らを助けよう。
そして隣で、彼らが魔術やスキルを習得し、脳を焼かれる瞬間をこの目に刻もう。
それが俺の、この世界に生まれた意味だと思うから。
結果として、俺はなんだか大変なことになってしまうわけだけど、どうでもいい。
俺は人が脳を焼かれる瞬間を見られるなら、それでいいと本気で思っていた。
■
この世界に生を受けてから八年。
俺は今日も今日とて、”あること”をしていた。
「んー」
「どしたのー、にいちゃー」
「”マナ”を見てる」
「まなー?」
場所は村外れにある湖。
森の中にぽっかりと空いた空間は、人も魔物もあまり近寄らず、こっそりと何かをするにはちょうどいい場所だった。
水面に映る自分の顔と、それから隣りにいる妹の顔をじいっと見つめる。
俺の目には、それがぼんやりと光りを帯びて見えるのだ。
「人が持つ、この世界に置いての根源的な力。誰もが持ち、しかし誰もがまったく違う色のマナを持つ。同じ色に見えても、RGBの数字が1違ったりするんだよな」
「あい?」
「俺には俺の、リリナにはリリナの好きな色があるってことだ」
「あい! リリナ、にいちゃの色、好き!」
「ありがとなー」
何でも好きと言ってくれるカワイイ妹の頭を撫でつつ、将来はお兄近寄らないで、とか言われるんだろうなぁ……と考える。
反抗期ってやつだねぇ。
とにかく。
「マナの色によって、その人の得意なスキルや魔術の方向性がわかる……俺の場合は、ほぼ完全な黒。リリナは黒に近い青……どっちかというと藍色かな? 割と近しい色だ」
「あえー」
「母さんも父さんも黒に近いから、ここらへんは家系だな」
黒は、様々な色を混沌のようにかき混ぜ、最後にたどり着く色だ。
ようするに、いろんなことができる。
代わりに、黒ければ黒いほど器用貧乏に近くなる。
才能さえアレば万能に変わるんだろうが、俺はどうだろうな。
その点、妹は間違いなく天才だ。
基本的にマナの色は、鮮やかであればあるほど才能があるらしい。
リリナの藍色は、本当にびっくりするほど鮮やかだ。
うちのごくごく一般的な両親や、器用貧乏の極地みたいな俺とは正反対。
こりゃあ、妹の才能を妹に気づいてもらわないと。
「というわけで、今日もマナの特訓やってみようか」
「あい!」
幸いなことに、妹は素直で俺によく懐いている。
こうして普段の手伝いが終わった後の自由時間で、俺と一緒にマナの特訓をしてくれるくらいには。
ありがたい話だ。
まぁ本人的には、人見知りで俺がいないところで同年代の子供達に囲まれると、萎縮してしまうらしく。
俺と一緒にいるほうが楽しいから、みたいだけど。
「リリナのマナの色は寒色系、魔術が得意なマナだ。魔術を発動するには、詠唱とマナの制御が大事。内側に閉じ込めるっていうのかな」
「ふんぎゅっ、ってするんだよね!」
「そうそう、暖色のマナは戦士系で、とにかく勢いよく解放するのが大事。逆に魔術系のマナは内側に閉じ込めるんだ」
マナは寒色、暖色、中性色に分けることができる。
寒色は魔術、暖色は戦士、中性色は戦闘を伴わないスキルを得意とするのだ。
それによってマナの制御法は変化し、鍛錬法も変わってくる。
「リリナはマナを感じ取ることができるようになって、呼吸とマナの出し入れを連動させることもできるようになった。なら次は、呼吸の際に出ていこうとするマナを押し留める練習だ」
「あう」
「いつもみたいに、息を吸って、吐いて、してみてくれるか?」
「あい!」
難しいことを言っても、リリナには伝わらない。
それでも敢えて説明するのは、俺自身のなかでやり方を反芻するためだ。
まず大事な点として、マナを認識すること。
マナは魔術やスキルを使用すると消費され、それを補充するため呼吸のように体内に取り込まれ必要な分を越えたら排出される。
しかしマナを認識できていないと、自然に吸引される分しかマナが体内に入ってこない。
マナを意識して、呼吸と紐づけすることで、大きく息をすえばその分大量のマナを供給できるようにするのだ。
運動していれば息が切れ、呼吸が激しくなるので、こうするとマナの供給量を自然に増やせるというわけ。
「で、今度は息を吐く時にマナを
「あうっ!?」
リリナは吐き出そうとしていたマナを、吐き出すまいと口を閉じる。
結果として息そのものを止める結果となり、両手をバタバタとさせてリリナは慌てた。
「今までと真逆のことをしてるから、混乱するよな。でもそうやって真逆のことをするのが、手を加えて制御するってことなんだ」
「あうあうあうあう!」
パタパタと、困った様子のリリナ。
そんなリリナに優しく言葉をかけながら、少しずつマナの制御を教えていく。
すると少しずつリリナはマナを外に出さないよう制御することができるようになっていき、最終的には息を吐き出してもマナを吐き出さない、なんて芸当も可能になった。
ああ、なんて――才能。
「できた! にいちゃ! できたー!」
「よし、いいぞ!」
リリナの才能は、本当に素晴らしい。
マナの制御なんて、本来なら一日でこうやってできるようになることじゃないのだ。
俺だって、何日もかけてできるようになったことを、たったこれだけの練習で身につける。
これを天才と呼ばず何という。
「リリナは本当にすごいな! 世界一の天才魔術師だ!」
「んへへ、んへへへへ! にいちゃ、にいちゃ! 褒めてー!」
まだ六歳だというのに、この才能。
リリナはそれに、目を輝かせている。
自分の思うようにマナが動くのが、面白くて仕方がないといった感情。
ああ、間違いなく――脳が焼かれている。
「リリナがすごくて、俺も本当に鼻が高いよ」
「ほんと!? ほんと!? やったー! んへっへー!」
そしてそんな姿を見ていると、俺もまた脳を焼かれてしまいそうになる。
前世では、もっぱら画面越しに感想を摂取したり、実況を見るのがほとんどだった。
そう気軽に脳を焼かれる瞬間はみることができず、その分数がおおかったのだ。
しかしこうして、つきっきりで一人の人間の才能が、その人間を魅了するところをみていると――
ああ――俺は、異世界に転生して本当に良かった。
そう、思えてならないのだ。
○
片田舎に、後の天災魔女と呼ばれる少女と、後に先導者と呼ばれる男がいた。
少女は幼くして魔術の才能を開花させ、メキメキと類まれなる才能を開花させていく。
そしてそれは、先導者と呼ばれる少女の兄がいたからこそ。
もしも兄がいなくとも、少女は才能に目覚めていたかもしれない。
しかしそれ以上に、少女は兄がいたから天才となることができたのだ。
だって、兄がこれ以上なく褒めてくれるから。
兄はそれはもう、ありえないくらいベタベタに褒めてくれるのだ。
これが気持ちよくないわけがない。
これで目覚めないわけがない。
兄がただ、少女が成長していくことに喜んでいるだけだと、少女はよくわかっている。
共感性というやつをどこかに置いてきた、異常で薄情な兄であることを、よくわかっていた。
それでも兄が褒めてくれるなら、少女は他に何もいらないのだ。
――
いずれ、先導者となる男は、そんな人間を無数に増やしていく。
これはまだ、その一歩に過ぎない。
やがて世界を焼き尽くすまで――男は、人を導き続ける。
これはそういう、一つの狂気の物語だ。