バチカル城、城内の通路にて。
「ふぅ……やはり冬は冷え込みますわね」
よく手入れをされた金髪の髪。やや濃い目な緑の瞳。凛々しさと女性らしさを醸し出した顔立ち。服は余計な華美さのない、保温性が高く暖かそうなものを着ている。
暖房機が行き渡らない通路の気温はやはり低いらしく、ナタリアは両の手を口元に近づけ暖かな息を吐く。一時しのぎ程度だが、幾分か寒さは和らいだ。
すると歩中、ナタリアの耳に部屋の掃除をしているメイド二人組の話し声が聞き届いた。
「そう言えば、もうすぐクリスマスじゃない?やっぱりクリスマスの楽しみと言えばアレよね!」
「まぁた勤務中にアンタは……どうせケーキとかそんなんでしょ?アンタ食い意地張ってるし」
「違うわよ、サンタよサンタ!うちの地元だと毎年やって来ては、こっそりプレゼントをくれるのよ!この間なんか特大サイズの1ホールケーキを……」
「あーはいはい。ケーキなら後でアタシが奢ってあげるから、今は仕事して頂戴。アンタが寒い寒いってぐずってた所為で作業が遅れてるんだからね」
「えー!ケーキはまた今年もサンタさんがくれるし、せっかくだから七面鳥を奢ってよー!」
「いいから働けぇっ!っていうかアンタ歳いくつだと思ってんのよ!?24でしょ!」
そんなやり取りを聞いていたナタリアの耳には、ある一つの言葉が名残惜しく残っていた。
「サンタさん……」
毎年クリスマスに現れては、世界中の子供たちにプレゼントを配っていく人物。例の言葉も受け取らず、颯爽と翌日には姿を消すまさしく大物。そうナタリアは聞いていた。
だがナタリアは、この18年間サンタからプレゼントを貰ったことが一度も無い。いつもクリスマスの日には国王である父親が何か買ってくれるのだが、サンタがくれたという覚えは全く無かった。以前『サンタさんからプレゼントを貰いたい』と父親にワガママを言って困らせたこともあるらしい。
ふとナタリアは近くの窓に近づくと、そこから見える景色を覗き込んだ。未だ街全体に雪が降っており、窓の淵には小さめに雪が積もっていた。
憂いの表情を浮かべつつ、ナタリアは小さくため息を吐く。
「この年になってしまっては……流石にサンタさんは私にプレゼントを下さることは無いんでしょうね……」
落胆ぶりが明らかな独り言を呟きつつ、ナタリアはいつもより遅い足取りで自室へと向かって行った。
「(ナタリアの奴、いつもの元気が無かったな……)」
ナタリアのそんな様子を見て、思案を巡らせていた人物がいた。
血のように真っ赤な髪をオールバックにし、おでこがよく映えている。また、眉間に軽く皺の寄った仏頂面は、子供たちを怖がらせるのに十分な素質を持つ。服は外の白い景色では大いに目立つ黒色の服で、その人物の存在がしっかりと強調されている。
『鮮血』の名を持つ男、アッシュ。
現在彼は、バチカル城の通路に位置する窓にベッタリとしがみ付いている。しかも…雪が降っている外からである。
「(確かあいつ、さっきサンタさんとか言っていたな。あのクリスマスのサンタの事か。クリスマスも近いしな。……という事は)」
広いおでこが寒い風で冷やされているお陰か、思考がスムーズに進んでいく。すぐにナタリアの元気がない理由を推測できた。
だが、アッシュはサンタが何なのかを知っていた。7年も屋敷から離れて暮らしていく内に、サンタについての情報を得ているのだ。
「(だが…純粋なあいつの夢をぶち壊す事など、許されるはずがねぇ)」
ナタリアはこれまで王城で時を過ごしてきた身ゆえに、子供のように純粋な心を持つ。
そんな彼女がこれまで抱いてきた希望を、夢を。自分の知る情報を教えて壊そうと思うアッシュではなかった。
「(…ちょっとはマシになったとはいえ、あの劣化レプリカじゃナタリアの今の悩みなど理解出来やしないだろう。ならば…)」
そこまで考えてた時、アッシュの瞳に炎が宿った、ような気がした。取りあえずそれ程やる気があるという事だ。
「(俺があいつの……サンタになってやる!)」
アッシュは決意した。自分がナタリアに夢を守る存在となることを、そして彼女に夢とプレゼントを届ける存在となることを。
決戦は12月の25日。来たるべき日を覚悟し、アッシュは先ほどからずっとしがみついていた壁から手を離し、ガッツポーズをとる。
「あ」
そのままアッシュは、真っ逆さまに落ちて行った。即席雪だるまが出来上がるのも時間の問題である。
時は過ぎ、ついにクリスマスの夜がやってきた。
「はぁ…私も街の観光に行ってみたかったですわ…」
ナタリアは今日も今日とて城から出られず。雪の夜は暗殺者が身を潜めるのにうってつけという事もあり、万が一に備えられて外出を禁じられているのだ。
「はぁ……せめてサンタさんでも来てくだされば」
幾度目ともなるか分からない溜め息を再び。仕方のないこと、と自分を無理やり納得させつつ、彼女は今一度手に持つ本を読み直すのであった。
そして、その様子を窓の外からじっと眺めている一人の男がいた。先日同様の行為をしでかしている所から、該当する人物は一人だけ。
赤い帽子に赤い服。そしてモフモフした白い髭(付け髭)をした男、アッシュである。その背中には白く大きな袋が乗っている。
「(やはりな…ナタリアの奴、刺客の事を考慮されて外に出してもらえなかったようだな)」
特徴的な赤い髪のオールバックは、完全に帽子の中へ仕舞われており、おでこも防止で隠されている。傍目から見てみれば誰なのか分からないほどの良い変装をしている。
「(ふっ、待っていろナタリア。先ほどから寂しいクリスマスを送っているかもしれないが、サンタとなったこの俺がお前に幸せを届けてやる。外出できないというのなら、せめて俺があいつの心の支えに……)」
しかし、逸る気持ちが表に出てしまったせいか、うっかり手袋をはめた手の先が窓ガラスにぶつかってしまい、コツンと音が立った。
無論、その音に気付かぬナタリアではなく、椅子から素早く立ち上がり、窓の方を診ようと振り向いてくる。
「っ!?誰ですの!?」
「(しまった、ばれたか。仕方ないが此処は一気に部屋に入ってサンタだと名乗って侵入者疑惑を薄め、ビックリ感を出すしかないな)」
自身のミスでばれたことをまずく感じるも、直ぐに次の一手を練り直し、即座に行動に移る。アッシュは、自分に出来る最高の笑顔を表に出しつつ、軽やかな身のこなしで窓から部屋へと入ってきた。窓の鍵については、ナタリアが夕食で部屋を外している際に開けておいたようだ。
「メリークリスマ~~~~ス!今年一年、良い子にしていたナタリア……くん!遠い所からやって来た燃えかすサンタが、君にプレゼントを届けに来たよ~~~!!はっはっは~~~~~!」
最早、自分の普段のイメージなど関係ない。彼女を喜ばすためならば、従来のクールなキャラは今日一日封印する。そんな覚悟でナタリアに言葉を掛けたアッシュの声は実に高めで、普段の彼からは中々想像しがたい物であった。
「……っ!!?」
「(ふふふ……やはり驚いているな。それもその筈だ。今まで話でしか聞いたことが無いサンタが、強行して目の前に現れているのだからな)」
「……ぁ、ぁ……」
「(……あれ?驚きすぎじゃね?いや、初めてサンタに会ったとはいえその反応には妙な違和感を感じる。まるでこの世の事とは思えないことに遭遇してるような目で)」
「……んで」
「(ん?なんか目が俺一点に向いてないな。何か交互に見られてるような……)」
ナタリアの視線を不可解に思ったアッシュ。ナタリアが自分じゃない方を向いている方向、彼は自分の右側を振り向いてみると…
「…………」
此処に居てはいけない者が、そこにいた。
赤い帽子に赤い服。恰幅の良い体格は子供から大人までを難なく威圧できるほどであり、背丈は2メートルは超えているだろう。その体格の所為で、肩に背負っている白い袋が体操服を入れる袋程度のサイズに見えてしまう。
そして立派な白い熊ひげに厳つい顔。これはまさしく……。
「(……お、俺以外にもサンタが来ているだとぉぉぉぉぉ!?)」
サンタの隣に、サンタがいた。
驚愕の事態に、思わず身をのけ反ってしまったアッシュ。彼の頬には一筋の冷や汗が。
そんな彼がどれほど驚いているのか知る由もないナタリアは、脳が興奮と混乱で入り混じっていながらも二人のサンタに問いかける。
「なんで、なんでサンタさんが二人も!?一体どうなっていますの!?サンタはこの世に一人しかいないと……!」
「(や、やべぇ……とにかく、この場を何とか収めるためには!)」
あまりに予想外の出来事に、汗の勢いも更に増していく。何とか誤魔化せるよう言葉を取り繕うとする。
因みに内心慌てているアッシュの隣にいた、もう一人のサンタはと言うと……。
「(…まったく、暫く会っていなかったメリルの為に、サンタの格好をしてプレゼントを届けようと今日まで色々と準備したというのに……一体何なのだ、この男は)」
この人の正体がどう考えても一人しか思い浮かばない。『黒獅子』の名を持つあの男、ラルゴだ。
ナタリアを想う者の考えは一致しているものなのか。六神将の二人がまさかの鉢合わせである。普通ならとっくに気付いている者なのだが、どちらもナタリアにばれない様、変装は完璧に仕上げているためどちらも人物の特定が出来ないようだ。
果たして、それが功を成しているのか更にややこしい話へと発展していくのか。取りあえず話を進めることにする。
※注) 地の文では両方とも『サンタ』と書くとややこしいため、『アッシュ』『ラルゴ』と普通に書いていきますが、本人たちは互いに正体が分かっていません。
「どうしたのです?何故二人とも黙っておられるのです!」
「(くっ、全然言い訳が思いつかねぇ!っていうかこの熊みてぇなサンタはホント何なんだ!?)」
ナタリアの催促に急かされるアッシュの視線は、目の前にいるナタリアに行ったり隣の熊サンタことラルゴに行ったり。先ほどから誤魔化せる言葉を考えてはいるが、まるで思いつかないらしい。
「おい」
すると、隣のラルゴがアッシュに声を掛ける。
「一体何なのだ貴様は。サンタの恰好してメリ……女性の部屋に入り込むとは。不法侵入じゃないのか?」
「てめぇがそんな事言えた義理かよ、パッションな色合いしてどんだけ渋い声出してやがるんだ」
ドスの利いた言葉を放ちつつ、訝しげにじろじろと見てくるラルゴに対し、アッシュは言葉遣いはそのままに、そして不機嫌そうに返答する。折角のサプライズを台無しにされたため、不機嫌にもなってしまうだろう。
更にラルゴは無表情のまま言葉を返す。
「と言うか、サンタは全ての子供たちにプレゼントを運ぶ存在だ。貴様、この子以外に何人の子供たちにプレゼントを配った」
「あぁ?それはお前…サンタなんだから沢山のガ……子供に渡してきたに決まってるだろうが。星の数ほど配ってんだよ俺は」
「ふん、随分青いサンタだな(ほ、星の数…!?バカな…このサンタ、今それっぽいことを言ったぞ…!)」
「サンタはどう見ても赤いだろうが。じゃあてめぇは何人に配ったってんだ?」
「……オ、オレはこの子専属のサンタだ。他の子どもなど知らん!」
「てめぇ最低なサンタだな!」
と言いながらも、自分の胸に鋭い棘が刺さる感覚を覚えたアッシュであった。
一方、不意を突かれたラルゴは負けじと応戦に臨む。無論、言葉にて。
「……ならお前、サンタだったらそれなりの証拠ってもんがあるだろ。出してみろ」
「あ?そう言うお前には証拠があるんだろうな?」
「ふん…オレは『サンタクロース能力検定1級』を獲得し、更に『トナカイ使い準一級』『プレゼント選定資格一級』なども得ているベテランサンタだぞ。巷では皆俺の事を【今日も元気なくまサンタ】と呼んで尊敬の眼差しを向けている」
「ふ、ふん……それで胸を張る程度じゃ、底が知れてるな(や、やべぇぇぇぇ!!何かスゲェ本物っぽいこと言いやがったぞコイツ!サンタ検定!?トナカイ使い!?そんな資格マジであったのかよ!?)」
表上は至極冷静な態度。だが裏ではとんでもないほど動揺していた。まさかラルゴが、ナタリアに自信がサンタだと証明するために前から考えていたモノとも知らずに。
こういう質問をそのように返してしまえば、次に相手から来る質問と言えば容易に見当がついてしまう。
「ほぅ…では貴様がサンタだという証拠を見せてもらおうか。無論、オレより優れた証拠を持っているのだろう」
「お、俺が持っている証拠は……お前の持っている資格と…」
「ふっ、それだけではオレの証拠を上回れんぞ」
「あ、後は……『素敵な白い髭グランプリ第10回優勝』に……『住居侵入能力1級』『住居侵入隠ぺい能力2級』『ピッキング能力2級』だ」
「お前それ、ただの白い髭が素敵な泥棒野郎だろ」
半分以上が泥棒関係の資格では、そうとしか思えないだろう。
「ち、違う!サンタたる者、そんな技術にも長けていねぇと防犯に力入れたこのご時世で通用しねぇんだよ!」
「今、防犯って言ったな。自分のやっている事が犯罪紛いの事だと認めたな」
「ふん、夢を届けるのと犯罪は常に紙一重なんだよ。サンタはな、ご近所を回る慈善活動じゃねぇんだ。世界中…つまり”Over The World”に夢と希望をもたらす神の使者なんだよ…」
「ぶふふぅっ!!」
「吹き出すほど笑ってんじゃねぇよ、てめぇ!!」
それっぽく着飾った台詞を考え付き、喋った結果がこれである。あまりの恥ずかしさに、服だけでなく顔も真っ赤になるアッシュであった。
「お、お二人だけで何やら話し込んでいるようですが……結局これはどういう事なのです?」
「は、はは…それはですね御嬢さん……くく……ぶふーっ!!オーバーザワールド……神の使者、くはははは……ウケル……おえっ!えほっえほ…!」
「てめぇいつまで笑ってやがるんだぁ!!」
「えっと、それであなたたちは……」
「あぁ、それはだな……」
「ぜぇ……はぁ……おい、ちょっと待つんだ」
「ぬお!?」
口を開こうとした途端、アッシュは突然後ろからラルゴに引っ張られてしまう。
(さっきから何なんだてめぇは!用が無いならその辺で笑い転がってろ!俺がナタリアにプレゼントを渡す!)」
(落ち着け。さっきお前は自分がサンタだと言い、オレの方は泥棒だと言うつもりだっただろう)
(当たり前だろうが。それがどうした?)
(泥棒が部屋に侵入したという事になったら、彼女はどういう反応をすると思う?恐らく誰かを呼びに行くことになり、城全体は大騒ぎ。プレゼントを渡す事がほぼ不可能になってしまうぞ)
(ぐっ)
ラルゴの言い分は、確かに理が通っている。このままどちらか一方を泥棒扱いすれば、騒ぎが起こる事は目に見えている。そうなってしまえばプレゼントを渡す事も出来ない上、仮に部屋に置いて逃げたとしても、誰かに怪しまれて処分される可能性がある。
(だから、此処は一旦お互い泥棒扱いするのはやめ、互いに目的を果たすことに専念するという事でどうだ)
(本当だろうな?後になって『嘘だぴょ~ん』とか言って俺を泥棒扱いしたら許さねぇからな)
(こんな歳の俺が『嘘だぴょ~ん』と言う、という疑いを掛けるお前の方が許せんわ。……まあ見ていろ)
ナタリアから隠れてのひそひそ話を打ち切ると、ラルゴは彼女の方へ体を向け直す。
「失礼しました。少し髭の曲がり具合を確認しててもらってて」
「(激しくどうでもいい!)」
「まぁ…そうだったのですか。もう髭の方は大丈夫なのですか?」
「(信じちゃったよアイツ!)」
「ええ、もう大丈夫です。それでお話の続きですが」
「あ、そうでしたわね。何故サンタさんが二人もいるのかと……」
この疑問を問いかけたのは大分前の事になってしまっているが、漸くナタリアはその答えを知ることが出来る。
「(……まぁ、流石にこいつもナタリアの夢を壊すようなことはしないだろ。……なんとなくだが)」
何故そう思ってしまったのだろうか。そのような事は、現状の事を憂いてしまえば詮無き事に早変わり。
一抹の不安は残るものの、アッシュは何か考えを持っているそぶりを見せたラルゴに任せることにした。
「はい。実は、サンタというのは一人ではないんですよ」
「まぁ、そうだったのですか!」
「(まっ無難の判断だな。ここで『サンタ何て居ないんだぴょ~ん』とか言いやがったらボコボッコにしてたぜ)」
一体あの恰幅の良い男がどうしてそう言うと思えるのか。色々な意味で疑り深いアッシュであった。
「『サンタ』……それはクリスマスで子供たちにプレゼントをあげることを運命づけられた、選ばれし人間たちの集う組織『SANTA』の事…」
「うんうん……はぃ?」
「そして今日、幸運なことにあなたは何やかんやで当たりクジを引き、何やかんやでそこの燃えかすサンタがもう一本ついてきたのです」
「てめぇちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぐふ……おい燃えかすサンタ、何をするんだ。先ほどまでオレは特A級の言い訳を話してたんだが」
「ふざけんなよてめぇ!どこが特A級の言い訳だ!『SANTA』なんて組織存在してねーよ!しかもアタリが付いたからもう一本ってそれ、ただのアイスキャンディー原理じゃねーかよ!誰がそんなもの信じやがるんだ、そんなボロいハリボテのような言い訳!」
「メリ……彼女を良く見てみろ」
ラルゴにそう言われ、アッシュはナタリアの方を向いてみる。すると……
「まぁ……いつアタリを引いたのかは分かりませんが、今年は2人も来て下さったなんて…素敵なサプライズですわ!」
「信じちゃってる~~~~!!」
流石はナタリアと言ったところか。すっかり信じてくれていた。
「な?」
「な?じゃねーよ!あんな危ない言い訳で信じてくれたの奇跡のようなモンだろうが!別の奴だったら完全に今通報されてたぞ!」
「(ふっ…メリルの純粋な心は菩薩並みの寛容さを持っていたということか)」
「(…まぁ、そこはナタリアは菩薩並みの寛容さを持ったヤツだからな。加えて穢れの無い純粋な心を)」
今更ながら、変な所で共通の思いを持っている二人だ。
「あぁっ申し訳ありません。私だけ興奮してしまって……とにかく今日は宜しくお願いしますわ」
「こちらこそ。それでは早速、この熊サンタからのプレゼントですが……」
「って待ちやがれ!」
「びんっ!?貴様……いきなり殴るとはどういう事だ!」
「何ぬけぬけと先にプレゼントを渡してやがる!俺が先にナタリア……くんにプレゼントを渡すんだ!」
「ええぃ、一々突っかかるサンタだ!」
「てめーが言うな」
「2人のサンタさん、どうか喧嘩はおやめください!」
「「ごめんなさい!僕たちは仲良しでっす!」」
鶴の一声ならぬナタリアの一声。彼女から制止がかかればこの通り、仲良く腕を組み合う程仲良くなってしまった。
「仕方あるまい……ここは平等にじゃんけん勝負と行こう。……念のため3回勝負だ」
「ふん、いいだろう。ついでに赤旗上げたり白旗あげたりするか?それなら俺は誰にも負けんぞ」
「お前ミ○モニ。好きだろ」
――――――
「ふっ、どうやら俺の勝ちのようだな。燃えかすサンタよ」
「くっ、旗上げと語尾にぴょんが付きさえすれば勝てたってのに……」
「なんで」
「ではまず、私のプレゼントから……」
そう言うと、肩に背負っていた袋を床に下ろすラルゴ。そして袋の口を開けて中のものを探り始める。
その袋を見たアッシュは怪訝に感じた。やけに袋の膨らみ具合が大きかったからだ。
「おい熊サンタ、それ全部ナタリア……くんのプレゼントじゃないだろうな?」
「馬鹿を言うな。これはアレだ、他の子どもたちの分だ」
「お前他の子どもの事など知らんって言ってなかったか?」
「貴様アレだぞ、オレがいつそんなこと言った?何時何分何十秒、地球が何周回った日?」
「うぜぇ。子供かてめぇは」
「(…本当はサンタらしい雰囲気を出すためのカモフラージュなんだがな)」
袋を探り出して間もなく、ラルゴは袋の中を探る手の動きを止めた。そしてそのままナタリアに話を吹っ掛ける。俗にいう前フリのようなものだ。
「メリ……ナタリア君、君は動物系は好きかな?」
「えぇ、犬にチワワにダックスフンド、ゴールデンレトリバーにセントバーナード…どの動物も好きですわ」
「それ全部犬!犬が好みの枠独占しちゃってるから!」
思わずアッシュもツッコミに回ってしまう程の、見事な犬揃い発言。
「ではこのジャポ○カ学習帳をプレゼントしよう」
「何でそこに行き着いたんだよ!動物が好きかどうか聞いたなら、動物関係のプレゼント用意するだろそこは!」
「良く見ろ。このノートの35ページ目には犬のシールが1枚貼られている。犬好きの皆さん大喜びの逸品だぞ」
「粗品じゃねぇか!シール一枚貼ったノートがプレゼントってどんだけケチってやがる!」
「仕方ないだろう、今日はジャ○ニカ学習帳とランドセル、あとは学生服しか持って来ていないのだからな」
「お前ただの新入生を全力で支援するオッサンじゃねぇか!」
そもそも、何故カモフラージュのプレゼントがすべてそれなのか。ラルゴなりの考えがあったという事で納得しておくことに。
と言う訳で、次はアッシュがプレゼントを渡す番である。彼も先ほどのラルゴ同様、自身が持参してきた大袋の口を開き、中にあるものを漁る。
「ん?他の子供たちにもプレゼントを渡して来たと言っていたが、貴様のプレゼント袋も随分大きいではないか」
「ふん、それはあくまでこれまでの総数を言ったまでだ。今年はまだ数件程度しか回っていない」
そう言うアッシュの袋の中には、大量の綿(わた)が敷き詰められていた。が、ナタリアとラルゴに気付かれてはいない様子。
そしてアッシュもナタリアに渡すプレゼントを綿の中から見つけたのか、ゴソゴソと探る漁り手を止めた。
「ナタリア…くん、君は確か新しい冬着を欲しがっていたね?」
「はい。今まで来ていた服が小さくなってしまいまして…今年の冬も寒いと聞きましたし、そろそろ新しい冬着が欲しいと思っていた所でしたの」
「俺…じゃない、燃えかすサンタからはこのニットセーターをプレゼントしよう」
「まぁ!素敵なデザインですわ、ありがとうございます!」
桃色のニットセーターを手渡され、そのプレゼントを見たナタリアはラルゴの時よりも遥かに上機嫌そうに喜ぶ。彼女の笑顔に心癒されたアッシュの顔も思わずにやけ気味に。
そのやり取りを見ていたラルゴは、面白くなさそうであった。先ほどの自分のプレゼントは流れであやふやになってしまったため、ナタリアの喜ぶ姿を見られなかったからであろう。
「おい貴様、なぜメリ……ナタリア君が新しい冬着を欲しがっていることを知っていた?」
「ふん、サンタと名乗るなら情報収集くらい充実させておけ。だからてめぇは新入生支援野郎なんだよ」
「貴様……まさかナタリア君の部屋の窓にへばりついて、こそこそと聞き耳を立てて情報を仕入れていたんじゃないだろうな」
「ばはん!?バババ、バカ野郎!俺がそんなストーカーみてぇな事するわけねぇだろうが!」
してました。
「そ、そう言うてめぇはどういう情報収集してやがる?まさか自分がいま言ったことをやってんじゃねぇのか?」
「貴様こそ馬鹿を言うな。俺はちゃんと使用人に扮して内部から情報を集めておいた」
「使用人になりすましたという事か……」
「使用人というか、メイドだがな」
「冥土へ堕ちやがれぇっ!」
「だぷ!?」
決して想像してはいけない物を頭に思い浮かべてしまい、アッシュは咄嗟にラルゴの持ってきたプレゼント袋を持ち、彼の頭部に叩き付ける。
だが、目の前の元凶を叩き潰しても頭に浮かんでしまった忌わしき姿が強烈過ぎて消えない。巨漢の白ひげ男が、メイド服を着る姿を……
「てめぇ今すぐ俺の脳内に残存している、醜悪な姿の化け物をデリートしやがれ!」
「化け物を一々妄想するとは……お前は変態か」
「その言葉、まるっとコピーしててめぇに送り返してやるよ」
ラルゴのメイド姿談義は一先ず置いておくことに。
「で、俺……じゃない、燃えかすサンタからナタリア……くんに、もう一つプレゼントがある」
「それは……ケーキ?」
アッシュが両手を使って持っている物、それはワンホールサイズの苺のケーキであった。
「折角のクリスマスなんだ。プレゼントだけでは味気ないと思ってケーキの方も準備させてもらった」
「貴様、サンタの分際でメリ……ナタリア君のポイント稼ぎをしているな!?」
「何でキレてんだよてめぇ。そういやさっきから思ってたんだが、こい……ナタリアくんの名前を言う度にメリ…って言いかけてるが何なんだ?」
「(ギクッ!)」
アッシュの指摘に対し、気まずそうに反応するラルゴ。
「そ、それはアレだ…メリーポピ○ズ面白いねって言おうとしていただけだ」
「そこはメリークリスマスだろうが!いやメリーポピ○ズ面白いけどよ!」
「そんなことはどうでもいい。とにかく、ポイント稼ぎ狙い丸出しのそのケーキはボッシュートとする。よこせ」
そう言うやいなや、ラルゴはアッシュの持っているケーキに手を伸ばし、強引にそれを奪おうと引っ張り始めた。
勿論、アッシュも大人しくラルゴに渡す義理も無いのでケーキを死守し始める。
「てめ、その手を放しやがれ!」
「喧しい!俺は(貴様がナタリアと交際しようなどと)決して認めんぞ!」
「何をだよ!」
「この泥棒猫!」
「泥棒じゃねぇっつってんだろ!」
「ちょっぴり砂糖があるだけでぇ!!」
「いや急に何の話!?」
手元ではケーキを取り合いつつ、やいやいと口喧嘩を始めたアッシュとラルゴ。
「燃えかすサンタさん、熊サンタさん!喧嘩はお止しに――」
二人の喧嘩を止めようと、ナタリアが一歩前に進み出て先ほど同様収めようとする。
すると、言葉を言い切る前に部屋の扉が開かれる。
「ナタリア様、何やら騒がしいご様子ですが一体何を…」
「「あ」」
二人のサンタの素っ頓狂な声がシンクロする。
二人の意識が部屋に入ってきた使用人の方へと向いた瞬間、手元のケーキが反動で大きく跳びあがった。
そして綺麗な放物線を描いて落ちていくケーキの下には…
―――ベシャッ!
「「あっ!?」」
「ナ、ナタリア様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
宙に弧を描いて行ったケーキは、王女であるナタリアの上へと落ちていった。頭からケーキを被ったナタリアの姿は見るも無残、頭部がクリームとスポンジまみれとなってしまっている。
「貴ぃ様らぁぁぁぁぁ!!ナタリア様にぃ…何という事をしたのだぁぁぁぁぁ!!」
「ち、違う!オレたちの話を――」
「喧しいぃ!大体何で此処にサンタが二人もいるんだぁぁぁ!」
「お、俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!全部重力が悪いんだ!」
「問答無用!貴様ら、国王の御前に差し出して処刑してやるぅ!」
「「た、退却~~~~!!」」
使用人の憤怒に恐れをなし、アッシュとラルゴはお互い入ってきた窓へ滑り込むように飛んでいき、外へと飛び込んでいった。
「ナタリア様!ナタリア様!お怪我は在りませんか!?」
「…………」
使用人の呼びかけに反応せず、ナタリアはただ、己の頭にくっついたクリームを手に付け、それを呆然と眺める。
「ふ…ふふふ……ははは…あはははははは!」
突然の事であった。使用人はその出来事を目の当たりにし、訳が分からなくなってしまった。
頭にケーキを被せられたのに、嫌な事のはずなのに、彼女は笑っていた。それも不敵な笑いなど微塵も無く、心の底から生じた純粋な笑いであった。
「ナ、ナタリア様…?」
「あはは………ふぅ。私、これほど楽しい時を過ごしたクリスマスは今までありませんでしたわ。今日のクリスマスは一番記憶に残る程の、非常に思い出深いものとなるでしょう」
「え、えぇ!?で、ですがケーキの件は……」
「私、聞いたことがありますわ。年末にパイを顔に投げられた方は、翌年一年は無病息災、常に健康でいられると」
「いや、初耳なんですけど!それにそれパイじゃなくてケーキ!」
頭や肩にケーキ(だったもの)をつけながら、ナタリアはアッシュが飛び込んで行った窓に近づいていく。そして窓の前まで到達すると、窓の外に広がる雪降る空を見つめる。
「燃えかすサンタさん、熊サンタさん……素敵なプレゼントをありがとうございます」
そう呟いて空から目を離し、ナタリアは両腕を使って窓を閉めた。その窓には、クリームとスポンジ、そして苺で派手に汚れている少女の顔が映し出される。
少女の表情は、確かに笑っていた。
「……メリークリスマス、ナタリア」
「……メリークリスマス、メリル」
城の外で即席雪だるまが二人、聖なる夜を祝う。
―――――終わり
ラルゴのメイド姿……あ、いや、なんでもないです。
それでは、次回もお楽しみに!