テイルズオブ・コメディ   作:たいお

3 / 5
 タイトル見てエロいこと考えたやつは出てきなさい、お兄さんが警察呼んであげたからね。言い逃れできないからね。
 ……おや、こんな時間に誰だろう。それにさっきからサイレンがうるさ――。


すずは大人になります!

 

 時が移り変わろうとしている夜中のオアシス。その湖の傍にて、大小二つの影が動きを見せている。

 

「おい、すず…。あのバカが言ってたこと、あんま気にすんじゃねーよ」

「いえ、私はあくまで自分の我を貫き通すのみ…チェスターさんこそ無理に付き合う必要はありません」

 

 二つの影の正体は二人の人間。一人は忍び装束を着た少女、藤林すず。もう一つは青色の髪を後ろに束ねた青年、チェスター・バークライト。

 

「いや、お前をこのままほっとくとどんな無茶すっか分かんねーしよ…っていうかホントにやるのか?」

「はい。チェスターさんこそ、アーチェさんを襲ったりしなくていいんですか?」

「しねーよ」

「あぁ、すいませんでした。襲うのはミントさんでしたね」

「それもちげぇ。てかクレスに殺される」

「では…クラースさ―」

「同性愛には絶対目覚めねぇぞ」

「え」

「え?じゃねぇ!なんで『意外ですよ、それ』みたいな表情してやがんだ!」

「…まぁとにかく、私はこのまま止めるつもりはありません。必ず成し遂げて魅せます」

 

 すずの決心は固い。このまま説得しても、頑として止めない空気を漂わせている。

 

「(はぁ…クレスといいアーチェといい、うちのメンバーは頑固な奴ばっかだな…)」

 

 チェスターの脳裏に、何年間も一緒に過ごしてきた幼馴染みや、ちょくちょく自分のことを小馬鹿にする少女の顔が浮かび上がる。

 

 この手の人物には、今のままでは何を言っても聞かないという事を感じていたチェスターは、せめて彼女が危なっかしい行動に出ないよう、ひとまず様子を見ておくことにした。不安な事に変わりはないが。

 

 そんなチェスターの心境もいざ知らず、すずは後ろ髪を纏める髪留めを結び直し、気持ちを改めて気合を入れる。そして星が一つ一つくっきりと見える夜空に向け、一言。

 

「すずは立派な忍者…もとい、立派な大人になってみせます!」

「(またメンドくさそーな事になる気が…)」

 

 この小さな少女が主役の短劇は、フレイランド砂漠の中にあるオアシスにて起きたある一件がきっかけとなり、始まろうとしている。

 

 時は少々遡り、数刻ほど前に遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前、フレイランド砂漠のオアシスにて。

 

 魔王ダオスを…だお(自主規制)倒すため、クレス一行は船で海を渡り、大陸で最も大きな砂漠へとたどり着いた。そしてその道中に砂漠旅の生命線とも言える存在、オアシスを発見し、一行はそこで休息のために野宿をする事にした。

 

 太陽が沈み、気温が下がっていく夕刻頃、6人は早めに休むために夕食をとる事にした。そしてそのメニューは……

 

「…………」

 

 すずは両手に乗せられたお皿に盛られた料理をまじまじと見つめる。

 

 とろみのある深赤色の液体の中にニンジンやジャガイモ、牛肉などが含まれており、その傍らに白いご飯が添えられている。そこから発生する湯気が、料理を見ているすずの頭上をふよふよと上っていく。

 

 そう、今晩の夕食はカレーライスだ。

 

「うん、やっぱりミントの作ったカレーはすごく美味しいよ。おかわりはあるかい?」

「ふふ…今日のカレーライスは少し辛すぎたんじゃないかと思いましたが、嬉しいです。今日は少し多めに作りましたので、皆さんもどんどん食べて下さいね」

「ガツガツモグモグ……う~ん♪やっぱカレーはこんくらい辛くないとね!ミント、あたしにもおかわりちょうだい!」

「全く…もっと落ち着いて食べないか、アーチェ。…しかし、今日のカレーライスはスパイスが効いていて食欲が進むな。これは確かに美味い」

 

 ミント作のカレーライスに舌鼓を打つ者達が続出。料理の味を高評価しつつ、次々と料理を食べていく。

 

 すると、すずの隣にいたチェスターが彼女の様子に気付いた。スプーンに料理をつけた形跡が無かったため、彼女がまだカレーライスに手を付けていないのが直ぐに分かった。

 

「どうかしたのか?すず。腹でも痛いのか?」

「失礼な。私は妊娠なんかしていません」

「陣痛の心配なんかしてねぇ。っていうか腹どころか胸すら膨らんでねぇじゃうぎゃあ!?」

「ああチェスターさん、その眉間の装飾品、中々お洒落ですね。特に顎に向かっていく赤いラインが素晴らしいです」

「いきなり眉間に手裏剣ぶっ刺すヤツがいるか!?」

 

 そんなやりとりに区切りをつけ、改めてチェスターはすずに問いかける。

 

「で、さっきからずっとカレー見つめてたが…嫌いなもんでも入ってたか?」

「いえ、なんでもありません。いただきます」

 

 すずは先ほどまでの自分の違和感を悟られない様、平静な態度でチェスターの疑念を晴らす。そして何事も無かったかのようにカレーを一口食べると…

 

 

「~~~~~~~!!?」

「おぉぉぉい!?すずぅぅ!何いきなり湖に飛び込んでんだお前ぇぇぇぇぇ!!」

 

 チェスターの叫びと豪勢に吹き上がった水柱に気付いたチェスター以外の4人も異変に気づき、彼に続いて湖の淵に駆け寄った。

 

「すずちゃん!?一体どうしたんだい!?」

「な、なんでもありましぇん……今なら魚ににゃれる気がして…」

「忍者じゃなくて!?」

「というか、別に魚になりたいという願望は無かっただろう、お前さん」

「いえ…『忍びたるもの、魚を目指せ』と父上が…」

「父親の意図が全然分からないんだけど」

 

 すると、すずの言葉に違和感を感じていたアーチェが不意にすずに質問をする。

 

「もしかしてすずってさ…辛いのが苦手?」

「(ギクッ!)」

 

 図星。アーチェの指摘はすずの心にブスリと突き刺さる。

 

「ご、ごめんなさいすずちゃん。まさか辛いのが苦手だとは知らずに…」

「そ、そんなわけありません。辛い食べ物なんてこれっぽっちも苦手ではありません」

「じゃあもう一回さっきのカレー食べてみる?」

「嫌です」

「即答!?」

 

 くらーすも反射的にツッコミを入れる程の即答。それほどまでに辛い食べ物が嫌いだという事が、5人にはすぐ理解できた。

 

「あっはっは!大人ぶってはいるけど、やっぱりすずもまだまだ子供って事よね~♪」

「ち、違います!断じて違います!」

「けど辛口のカレーも食べられなんじゃね~、大人っていうにはちょっと遠いんじゃない?あっはっはっは!」

「くっ」

「72」

「くっ」

「関係なくね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在

 

「…あそこまで言われてしまっては、次期頭領である私の面目が立ちません。明日の朝までに『私が大人である証拠』を確立させ、アーチェさんの発言を撤回させてもらいます」

「いや、どう考えてもアイツよりお前の方がよっぽど大人だぞ?精神面とか、身体面は…まぁ、その、うん」

「いえ、カレーも碌に食べられない様では、私もまだまだ子供という事です。身体面は…はい、ええ」

「(あ、フォロー無理だったな)」

 

 自分で取り出した話題だったが、僅かながらもアーチェに同情したチェスターであった。

 

「…で、大人になるって言っても実際には何やるつもりなんだ?」

「…やっぱりチェスターさんが『大人になる』っていうワードを言うと、何だかいやらしく聞こえます」

「どういう意味!?」

「それは置いておくとして、まず私が挑戦するのは…」

 

 

 

STEP1.大人な辛口カレー(当社比30倍)を食す

 

 

 

「いや待て待て!お前さっきカレー食ってぶっ倒れたじゃねぇか!何でまたカレー食うんだよ!」

「いや、口の痛みも大分引いてきましたし、今ならイケるんじゃないかと。それにやはり、辛口カレーを完食する事こそ大人になるという事だと思いまして」

「さっきの晩メシより辛いもん食うのかよ…」

「という訳でチェスターさん、料理お願いします」

「俺が作るのかよ!?」

 

 

 

 そして何やかんや文句を言いつつも、チェスターは何やかんやでカレーを作り終えた。

 

「なんやかんや…?」

「なんやかんや、です」

 

 改めてチェスターが作ったカレーを見てみることに。ルーの色が夕飯のカレーよりもかなり赤黒い姿をしており、危険色一歩手前といった空気と匂いを漂わせている。一応チェスターは従来のカレーの辛さ30倍を意識して作ったつもりだが、確実に誤差が生じているだろう。

 

「では…早速いただきます」

 

 手慣れないスプーンでカレーを掬い(ルー多め)、そしてそれを一口。

 

「×○△□☆♨!?」

「あ」

 

 やはり駄目だった。

 口に入れた瞬間、顔を真っ赤に染め上げたすずは、誰にも通じない言葉を放ちつつ、湖

へ飛び込んだ。

 

「また湖に飛び込みやがって…今はアーチェの魔術使えねぇから服が乾かねぇぞ」

「っ!失念していました…このままではびしょ濡れの私の姿にチェスターさんの理性が吹き飛び、本能のままに襲われる可能性が…」

「お前さっきからどんだけ俺にエロエロ野郎のイメージ定着させようとしてんの!?しねぇからそんな事!」

「ですがチェスターさん、以前アーチェさんたちが入っていた女湯を覗いてたと聞きましたが」

「別にアーチェの裸を覗くつもりはなかったぜ。ターゲットはミントのはだぶふぉあ!?」

「あ、後ろから魔神剣が直撃しましたね」

「殺される……数百メートル先のテントで寝てるはずの親友に殺される…」

「寝て撃ったんですか、魔神剣を」

 

 愛の力ってスゲー。

 

 

 

STEP2.大人な体つきになる。

 

 

 

「どう考えても無理だぎゃあ!?」

「あ、眉間の装飾品が取れていたので新しいのを付けさせていただきました。それも似合ってますよ」

「付けるたびに血まみれになるアクセサリーなんかいらねぇよ!手裏剣の次はクナイかよ!」

「次回はまきびし。次々回は爆弾です」

「2つ目からいきなりレベルが跳ね上がってる!?って、俺が言いたかったのはそうじゃなくて、一日も無いのに大人の体になるっていうのは流石に不可能だろってことだよ!」

「勿論、分かっていますよ。ですからこれは今後の目標ということにするんです」

「…あれ?俺ってもしかして刺され損?」

「はい」

 

 そもそも、刺されて得になることなどないのだが。

 

 

 

STEP3.礼儀正しい、清楚な作法を心得る。

 

 

 

「大人の女性は礼儀が正しくて清楚な印象が窺えますからね。私もそれらしい作法を身に着けようかと」

「あぁ、ミントみたいにか」

「そこでミントさんの名を挙げるとは…やはりチェスターさんの本命はミントさん…」

「だからちげぇ!またクレスに殺される!」

「まぁ冗談はさておき、取り敢えず挨拶を清楚に振る舞ってみます。…ごほん」

 

 一息ついたすずは、チェスターの方をくるりと振り向くと、スカートの両端を軽く持ち上げるモーションをし出した。

 

「チェスターさん、ご機嫌麗しゅう」

「…ぷふっ」

「忍法・雷電!」

「あべ!?」

 

 すずの放ったクナイはチェスターの頭に直撃し、更に雷が追撃を掛ける。

 

「どうして今ので笑うんですか」

「いや…全然似合ってねぇからあんぎゃ!?」

「そうですか、まきびし似合ってますよ」

「待て待て落ち着け!次の爆弾は絶対に止めろ!もう茶々入れねぇから!」

「しかし…そんなに似合ってませんでしたか?今の」

「あぁ…アレはどっちかっていうと煌びやかなドレス着たお姫様がやるような仕草じゃねぇか?びしょびしょの忍び装束でやっても不自然極まりないぜ」

「なるほど……だからといってびしょ濡れの私を見て鼻血を流さないでください、いやらしい」

「おめぇのまきびしで血が眉間から鼻に垂れ落ちてるだけだよ!」

 

 

 

STEP4.リーダーシップを身に着ける

 

 

 

「私たちのメンバーで大人と言ったらクラースさんです。大人は子供を先導するのが基本ですから、リーダーシップを身に付ければきっと…」

「けどクラースの奴、基本的に戦闘はクレスに任せっきりだぜ」

「………」

「一応、色々知ってる事が多いから道を教えることはあるけど、『俺について来い』みたいな時は殆ど無かったぞ?」

「………」

「………」

「…チェスターさん」

「…なんだ?」

「大人って…みんなああなんですか?」

「いや、違うんじゃないか?」

 

 

 

STEP5.クレスになろう

 

 

 

「おい待て!もうこれ大人になること関係ねぇだろ!なんでいきなりクレスになろうとすんだよ!」

「ミントさんのカレーが食べられて、剣術師範代として立派な体つきで、礼儀正しくて、リーダー的存在。もうクレスさんを目指す方針でいきます。クレスさん=大人、大人=クレスさん、エロい=チェスターさんという方程式でいいじゃないですか」

「ちゃっかり俺の方程式を加えんな!」

「取り敢えず、魔神剣の習得から始めようかと。というわけでチェスターさん、実物をもう一度見たいのでここでミントさんへの愛を叫んで、クレスさんに殺されてください」

「そこはせめて魔神剣喰らって下さいだろ!どっちにしろ絶対断るがな!」

「そうですか…残念です」

 

 しょんぼりと小動物のように項垂れるすず。だからといってチェスターは親友に殺される道を選びはしない。

 

「しかし、これでは私はクレスさんになれません。なんでしょう、ダジャレセンスを身に付ければいいですか?」

「アレにはねぇだろ」

「ですね。これっぽっちもありません」

 

 一方その頃、離れたテントで寝ていた一人の青年の目から一筋の涙が零れていた…

 

 

 

 

 

**翌日**

 

 オアシスにて野宿をとった一行は、目的地に向かって再び進行し始める。

 

「さぁみんな!出発しよう!」

「はい!」

「オッケー!」

「うむ」

「おう」

「はい」

 

 クレスが昨日見た夢の話についてミントたちに話している後ろで、チェスターとすずは足を並べて歩いていた。

 

「で、すず。結局どうすんだ?まだ大人になること、諦めてねぇのか?」

「…チェスターさん、一つ思う事があるのですが」

「なんだ?」

「昨晩、色々なことをやって気付いたのですが……大人になろうとしている時点で、それは自分が子供であると認めている、という事になりますよね」

「…あぁ、そうだな」

「ですから、私は…今はまだまだ子供です」

 

 そんなすずの言葉を聞いたチェスターは、驚いたように若干目を見開いた。

 

「意外だな。てっきり『私はもう大人ですから、そう言う事にはこだわりません』とか言うのかとおもってたぜ」

「それこそ見苦しい言い訳です。私は辛口カレーすら満足に食べられないお子様です。チェスターさんをうまく誘導してクレスさんに殺されるように仕向ける事すらままならない程、未熟です」

「やめて」

「ですから私は…これから色々事を学び、身体的にも精神的にも成長してから立派な大人になります。子供でいられる時間は限られているのに、今から大人と言い張るのは凄く勿体無い様な気がして」

「……そっか」

 

 晴やかな顔で語られた、すずの思い。彼女の思いを感じたチェスターは、ただそれだけ口にした。

 

 「すずは……いつかきっと、立派な大人になって見せます!」

 

 今はまだ実りの気配すら見せない、小さな蕾。

 

 だが、いつか必ずその蕾は花開き、美しい姿を咲き誇らせることが出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それに、急いで大人になろうとすればクラースさんみたいな大人になりそうですから」

「だな」

「へぷしっ!」

 

 

 

―――――終わり

 




 最近喉の調子ががが……仕事中に咳は控えたいのだけれど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。