高度育成高等学校には、
一般的な学校では考えられないほど多くの特別試験が存在する。
単純な学力や体力だけを測る試験もあれば、
クラス全体の統率力、交渉力、洞察力を求められる試験もある。
他クラスとの協力が不可欠でありながら、
最後にはその相手を出し抜かなければならないことも珍しくない。
表面上は学校行事に見えても、その裏には必ず何らかの意図が隠されていた。
生徒同士の信頼関係を測るため。
クラス内の序列を揺さぶるため。
追い詰められた状況で、誰が誰を守り、誰が誰を切り捨てるのかを見極めるため。
そして時には、退学という明確な危険を伴う試験さえ用意される。
だからこそ、この学校の生徒は突然の呼び出しに敏感だった。
昼休みが終わる少し前。
教室の天井に設置されたスピーカーから、全校放送を知らせる短い音が流れた。
それまで思い思いに時間を過ごしていた生徒たちが、ほぼ同時に顔を上げる。
『全校生徒に連絡します。午後の授業は一時中断とし、
十分後までに体育館へ集合してください。繰り返します――』
放送の内容は簡潔だった。
新たな特別試験を始めるとも、緊急事態が発生したとも言っていない。
それでも教室内の空気は明らかに変わった。
教室の後方で友人と話していた軽井沢が、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
「絶対また何か始まるじゃん。せめて前の日に言ってくれればいいのに」
「前の日に言ったら、みんな対策を考えちゃうからじゃない?」
佐藤が苦笑しながら答えた。
「だからって急すぎない?
午後の授業を潰して全校生徒を集めるって、普通じゃないでしょ」
「この学校で普通を求める方が間違ってる気がするけどね」
松下は机の上に置いていたタブレットを閉じながら、
放送の内容を冷静に整理していた。
一方、須藤は椅子の背もたれに身体を預けたまま、大きく顔をしかめる。
「また筆記試験じゃねぇだろうな。こないだの試験が終わったばっかだぞ」
「筆記試験なら、わざわざ全校生徒を体育館に集める必要はないわ」
堀北はすでに筆記用具を片づけ、立ち上がる準備を終えていた。
「全学年を対象にした大規模な特別試験か、
学校行事に関する重要な説明でしょうね」
「大規模な試験って、また学年を越えて争うとかか?」
池が不安そうに尋ねる。
「可能性はあるわ。ただし、現時点では判断材料が少なすぎる。
勝手な予測で混乱するより、実際の説明を聞いた方が早いわね」
そう言いながらも、堀北の表情は普段よりわずかに険しかった。
全校生徒が対象となる試験は、それだけ多くの思惑が交錯する。
クラス単独で完結する試験ならば、内部の結束を固めればいい。
しかし他クラスや他学年が介入すれば、未知の要素は一気に増える。
誰と手を組むのか。
誰を警戒するのか。
そして、誰が最初に裏切るのか。
試験内容が判明する前から、生徒たちはすでに見えない駆け引きを始めていた。
「綾小路くんは、どんな試験だと思う?」
平田がこちらを見た。
「分からない。全校を集める以上、小規模な試験ではないだろうが」
「そうだよね。退学者が出るような試験じゃないといいけど」
「それは説明を聞くまで何とも言えないな」
できれば平和な内容であってほしい。
だが、この学校がわざわざ授業を中断してまで全校生徒を集める以上、
簡単に終わるとは考えにくかった。
少なくとも、その時のオレはそう考えていた。
今から思えば、試験に対して警戒していたこと自体は間違いではない。
ただし、警戒すべき方向を完全に誤っていた。
◯
体育館へ続く廊下は、多くの生徒で埋め尽くされていた。
同じクラスの生徒だけで固まる者。
他クラスの知り合いを見つけて情報を交換する者。
教師の表情から何かを読み取ろうとする者。
歩きながら聞こえてくる会話の大半は、
これから発表されるであろう特別試験に関するものだった。
無人島試験の再実施。
全学年混合の体育祭。
学園祭に代わる新たな行事。
生徒会を中心とした大規模な共同試験。
中には校外での長期試験を予想している者もいたが、
確かな情報を持っている者はいないようだった。
体育館へ入ると、すでに壇上には教師陣が並んでいた。
中央には、この学園の理事長である坂柳理事長の姿もある。
理事長本人が説明に現れたことで、生徒たちの警戒はさらに強まった。
学年ごとの試験なら、通常は担当教師から説明が行われる。
理事長が全校生徒の前に立つということは、
学校全体に関わる大規模な内容である可能性が高い。
オレたちは指定された場所へ移動し、クラスごとに用意された席へ座った。
少し離れた場所には龍園たちがいる。
龍園は椅子に浅く腰掛け、壇上を眺めながら口元に薄い笑みを浮かべていた。
「理事長まで出てくるとはな。多少は楽しめる試験であってほしいもんだ」
「どうせまた面倒なルールがあるんでしょ」
伊吹は腕を組み、不機嫌そうに答える。
「面倒だからこそ、利用する価値がある。全校規模なら、潰せる相手も多い」
「始まる前から潰すことしか考えてないの?」
「特別試験なんざ、最後に勝った奴が正しい。
仲良く手を繋いで終われると思ってるなら、お前の方がどうかしてるぜ」
「誰もそんなこと言ってない」
伊吹が睨み返す横で、石崎は落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「退学者が出る試験だけはやめてほしいっすね。
全校規模で退学ありとか言われたら、マジで洒落にならないっすよ」
「始まる前から弱気になるな」
「龍園さんは退学とか言われても楽しそうにするじゃないっすか。普通は嫌なんすよ」
「お前が普通を語るのか」
「そ、それどういう意味っすか?」
そのやり取りを、椎名ひよりは本を膝の上に置きながら静かに聞いていた。
「もしかしたら、文化的な試験かもしれません」
ひよりの言葉に、龍園が視線だけを向ける。
「文化的?」
「全校生徒を集めていますから、読書に関係する行事という可能性もあります」
「ねぇよ」
伊吹が即座に否定した。
「まだ何も発表されていませんよ」
「この学校が授業を潰して全校読書会なんてするわけないでしょ」
「それは少し残念ですね」
ひよりは本当に残念そうだった。
その後方には、一之瀬たちのクラスが座っている。
一之瀬は緊張するクラスメイトたちへ声をかけ、落ち着かせていた。
「まだ危険な試験だって決まったわけじゃないよ。説明を聞いてから考えよう」
「だが、理事長が出てきている」
神崎は壇上から目を逸らさずに答える。
「少なくとも、通常の試験ではないだろう。
全クラスが同じ条件で争うのか、学年ごとに競うのか。それすら分からない」
「全校で協力する試験かもしれないよ?」
「この学校が協力だけで終わらせるとは考えにくい」
「神崎くん、最近ちょっと疑い深くなったよね」
「この学校にいれば誰でもそうなる」
もっともな意見だった。
一之瀬は困ったように笑いながら、
それでも周囲の生徒に対して明るい表情を崩さない。
彼女の存在は、それだけでクラスの不安を和らげていた。
さらに離れた席では、坂柳有栖が杖に手を添え、
穏やかな表情で壇上を見つめている。
周囲の生徒が様々な予想を口にしている中で、
彼女だけは試験内容を楽しみにしているように見えた。
「坂柳、何か知ってる?」
神室が尋ねる。
「いいえ。父から事前に説明を受けてはいません」
「本当に?」
「私が嘘をついているように見えますか?」
「見える時もある」
「それは心外ですね」
橋本が二人の会話に割って入る。
「でも理事長の様子を見る限り、かなり大掛かりな試験だろ。
もしかしたら、卒業まで続く長期型だったりしてな」
「それは面白そうです」
「面白がるなよ。こっちはお前の指示で何ヶ月も振り回されるかもしれないんだぞ」
「高度な試験ほど、それぞれの能力差が明確になります。
単純な試験より歓迎すべきでしょう」
「その能力差で上に立つ側は気楽でいいよな」
橋本は肩をすくめた。
その近くでは高円寺が一人、周囲の緊張とは無関係に自分の髪を整えていた。
ポケットから取り出した小さな鏡に映る自分の顔を確認し、満足そうに頷いている。
須藤が呆れたように声をかけた。
「お前、試験が気にならねぇのか?」
高円寺は鏡を閉じてから、ゆっくりと須藤へ顔を向けた。
「気にする必要があるのかね?」
「内容によるだろ。退学が懸かってるかもしれねぇんだぞ」
「仮にそうだとしても、私が退学する可能性は存在しない」
「その自信はどこから来るんだよ」
「美しさ、知性、身体能力。あらゆる点で完成された私が、他者に敗北するとでも?」
「お前と話すと疲れる」
須藤はそれ以上の会話を諦めた。
やがて教師の一人がマイクの状態を確認する。
それまで体育館を満たしていたざわめきが少しずつ小さくなっていく。
坂柳理事長が壇上の中央へ進んだ。
穏やかな表情。
落ち着いた立ち姿。
その姿からは、これから発表される内容を予測することはできない。
「皆さん、本日は急な招集にもかかわらず、
速やかに集まっていただきありがとうございます」
体育館内が静まり返る。
「すでに察している方も多いでしょうが、
これから新たな特別試験について説明します」
その言葉に、多くの生徒が姿勢を正した。
堀北は腕を組み、理事長の一言一言を聞き逃さないよう壇上を見つめている。
龍園の表情から退屈そうな色が消えた。
神崎は手元のメモを開き、坂柳有栖はわずかに目を細める。
「今回の特別試験は、全学年を対象としたクラス対抗形式で実施します」
正面の大型スクリーンに文字が映し出される。
全学年参加。
クラス対抗。
その二つだけでも、試験規模の大きさは十分に伝わった。
「試験期間は本日から四週間。
最終審査は期間終了後に行われる学園祭当日となります」
四週間という期間に、体育館内がざわつく。
一日や二日で終わる試験ではない。
長期間にわたり、各クラスが準備を進めなければならない形式だ。
「順位に応じてクラスポイントが付与されます。
優勝クラスには300クラスポイント。二位には150クラスポイント。
三位には75クラスポイントを与えます」
300。
その数字が表示された瞬間、生徒たちの空気は明確に変わった。
どれほど変わった内容の試験であろうと、
それだけのポイントが懸かっているなら無視することはできない。
龍園は口元を吊り上げる。
「300か。悪くねぇ」
「まだ内容も分からないわよ」
伊吹が言う。
「内容が何であれ、他の連中より上に行けばいいだけだ」
堀北も小さく息を吐き、頭の中で順位による影響を計算しているようだった。
一之瀬は不安そうなクラスメイトたちを一度振り返り、静かに前を向く。
坂柳有栖は父親である理事長を見つめながら、次の言葉を待っていた。
坂柳理事長は体育館全体をゆっくり見回す。
生徒たちの緊張が十分に高まったことを確認したのか、
手元の資料を一枚めくった。
「それでは、試験名を発表します」
体育館の空気が張り詰める。
誰かが小さく息を呑んだ。
退学者が発生する試験なのか。
学力や体力を競う試験なのか。
他学年を巻き込んだ大規模な生存競争なのか。
誰もが様々な可能性を想像していた。
そして、坂柳理事長は極めて真剣な表情で告げた。
「今回実施する特別試験は――
第一回、高度育成高等学校ゆるキャラ選手権です」
誰も声を出さなかった。
聞こえなかったわけではない。
音響設備に問題が起きたわけでもない。
理事長の発音は明瞭であり、
体育館の最後方に座っている生徒まで確実に聞こえていた。
それでも、誰も反応できなかった。
全校生徒が一斉に言葉の意味を理解しようとした結果、体育館から音が消えた。
ゆるキャラ。
確かにそう聞こえた。
だが特別試験という言葉と、ゆるキャラという言葉が、頭の中でどうしても結びつかない。
壇上の教師たちも、どこか遠くを見るような表情をしていた。
茶柱先生に至っては、始まる前から疲れ切っているように見える。
数秒が経過した。
それでも沈黙は続いた。
理事長も急かすことなく、生徒たちの理解を待っている。
最初に動いたのは龍園だった。
椅子の背もたれからゆっくりと身体を起こし、眉間に皺を寄せる。
「……は?」
低い声だった。
しかし、その一言は静まり返った体育館の隅々まで届いた。
その場にいた大半の生徒が、龍園と同じ言葉を心の中で呟いていたはずだ。
坂柳理事長は龍園へ視線を向ける。
「聞き取れませんでしたか?」
「聞こえたから聞いてんだよ。今、何て言った?」
「第一回、高度育成高等学校ゆるキャラ選手権です」
理事長は先ほどと同じ調子で繰り返した。
聞き間違いではなかった。
龍園はしばらく理事長を見つめた後、隣の伊吹へ顔を向ける。
「俺がおかしくなったのか?」
「安心して。私にも同じように聞こえたから」
「なら、あっちがおかしくなったってことか」
龍園が壇上を指した。
「失礼な発言は慎みなさい、龍園くん」
坂柳理事長の表情は変わらない。
「失礼も何もあるか。俺たちは高校生だぞ」
「承知しています」
「幼稚園児を集めてんじゃねぇんだぞ」
「もちろん、その点も理解しています」
「なら、何でゆるキャラなんだよ」
「高校生だからこそ、ゆるキャラを通じて学べることがあるのです」
「意味が分からねぇ」
龍園は額を押さえた。
普段ならば龍園の発言に反発する生徒も多いが、
この時ばかりは反論する者がいなかった。
むしろ、龍園が代表して聞いてくれたことに感謝している者さえいるようだった。
別の列から宝泉が勢いよく立ち上がる。
「おい、本当にそれが試験なのか?」
「そうです」
「ゆるキャラって、あの頭がでけぇ着ぐるみのことか?」
「その認識で大きな間違いはありません」
「そんなもん作って何になるんだよ」
「それを考えることも、試験の一部です」
「ふざけてんのか?」
「ふざけてはいません」
理事長の返答に迷いはなかった。
宝泉はしばらく立ったまま何かを言おうとしていたが、
適切な言葉が見つからなかったらしく、乱暴に椅子へ座り直した。
そのやり取りをきっかけに、体育館全体の沈黙が一気に崩れた。
「本当にゆるキャラなのか?」
「300ポイントを懸けて?」
「何を競うんだよ」
「着ぐるみで戦うの?」
「それはもうゆるキャラじゃないだろ」
「そもそも誰が中に入るんだ?」
困惑の声が重なり、体育館は発表前とは別の意味で騒然となった。
神崎が珍しく強い調子で手を挙げる。
「理事長。一つ確認してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「今回の試験内容は、学園側で正式な審議を経て決定されたものですか?」
「もちろんです」
「複数の教職員が内容を確認した上で?」
「その通りです」
神崎は一瞬だけ言葉に詰まる。
「では、もう一つだけ確認します」
「何でしょう」
「本当に正気ですか?」
一之瀬が隣で目を見開いた。
「神崎くん!?」
だが坂柳理事長は怒る様子を見せなかった。
「正気です」
「そうですか……」
神崎はそれ以上何も言わず、静かに座った。
納得したわけではない。
これ以上確認しても答えが変わらないと悟っただけだろう。
橋本も小さく手を挙げる。
「理事長、最近ちゃんと休んでます?」
「睡眠時間は十分に確保しています。毎日0~3時間ほど」
「鬼島総理大臣と一緒じゃないですか!」
「健康状態に問題はありません」
「誰かに脅されて、この試験をやらされてるわけじゃないですよね?」
「全て私たちの意思で決定したものです」
「それはそれで怖いな……」
橋本が呟くと、隣にいた神室も小さく頷いた。
周囲が混乱する中、坂柳有栖だけは口元に穏やかな笑みを浮かべていた。
「なるほど。これは興味深い試験ですね」
その声を聞いた龍園が、離れた席から鋭く反応する。
「どこがだ」
「皆さんがこれほどまでに動揺している。
それだけでも、通常の試験とは異なる反応を引き出すことに成功しています」
「ゆるキャラで人間性を測るつもりか?」
「何を題材にするかは重要ではありません。
限られた時間と資源の中で、クラスとして一つの成果物を作る。
そこには統率力、創造力、役割分担、宣伝戦略、
他者の需要を読む力が必要になります」
「お前、何でもそれらしく言えばいいと思ってるだろ」
「間違ったことを申し上げたでしょうか?」
龍園は答えなかった。
坂柳の説明自体は筋が通っている。
だが、題材がゆるキャラであるという一点が、
全ての説得力を奇妙な方向へ歪めていた。
ひよりはしばらく考えた後、遠慮がちに手を挙げる。
「ゆるキャラには、物語や設定を作ってもよろしいのでしょうか」
坂柳理事長は初めて嬉しそうに頷いた。
「もちろんです。名前や外見だけではなく、
性格、出身地、好物、特技などの設定も評価対象になります」
「それなら、少し面白そうですね」
ひよりが小さく微笑む。
伊吹が信じられないものを見るような目を向けた。
「本気?」
「はい。キャラクターを作ることは、物語を作ることに近いですから」
「もう順応してる奴がいるぞ」
石崎が驚く。
「椎名はこういうの強そうだな」
龍園も、ひよりの反応には少しだけ興味を示した。
その一方で、一之瀬も周囲を見回しながら表情を和らげていた。
「でも、今までの試験よりは平和かもしれないよ」
「まだ退学の有無は説明されていない」
神崎が冷静に返す。
「ゆるキャラ選手権で退学者が出たら、さすがに嫌すぎるよ」
「この学校なら断言できない」
「神崎くん、もう少し希望を持とう?」
一之瀬の言葉に、周囲のクラスメイトから小さな笑いが起きた。
確かに、少なくとも現時点では暴力や裏切りを求められてはいない。
それだけで安堵を覚えている生徒もいるようだった。
やがて、茶柱先生が坂柳理事長からマイクを受け取った。
「静かにしろ。説明が進まない」
体育館の騒ぎが少しずつ収まる。
「なお、先に言っておくが、この試験内容を考えたのは私ではない」
わざわざ強調するように言った。
誰も質問していないにもかかわらず、自ら無関係であることを主張している。
「職員会議では反対意見も出た。私も最後まで反対した」
体育館の各所から拍手が起きた。
最初はまばらだった拍手が、すぐに大きなものへ変わっていく。
茶柱先生は生徒たちの反応を当然のように受け止めた。
「しかし、最終的には学園側の決定に従うことになった。
つまり、この件に関して私はお前たちと同じ立場だ」
今度は拍手だけではなく、歓声まで上がった。
教師と生徒が、これほど強く気持ちを共有したことは過去になかったかもしれない。
坂柳理事長が少し困ったように茶柱先生を見る。
「茶柱先生。必要以上に生徒たちへ迎合しないように」
「事実を説明しただけです」
「まるで学園側が理不尽な決定を下したように聞こえます」
「現に全校生徒がそう受け取っています」
「理解してもらうためにも、最後まで説明を聞いていただきましょう」
坂柳理事長は再びマイクを受け取り、正面のスクリーンを切り替えた。
そこには大きく、今回の計画名が表示される。
『高度育成高等学校公式ゆるキャラクター創造計画』
単なるゆるキャラ選手権より、さらに大規模な名前になっていた。
「各クラスは、クラスの特色と高度育成高等学校の理念を表現した
オリジナルキャラクターを一体制作してください」
スクリーンに審査項目が表示されていく。
キャラクターデザイン。
名称。
基本設定。
着ぐるみの完成度。
ステージ上での表現力。
宣伝活動。
学園祭来場者からの人気投票。
さらに、インターネット上での反響まで評価対象に含まれていた。
「待て待て。本格的すぎるだろ」
龍園が資料を見ながら言う。
「絵を一枚描いて終わりじゃねぇのか?」
「それでは各クラスの総合力を測ることができません」
「ゆるキャラで総合力を測るって言葉が、もう意味分からねぇんだよ」
「キャラクター制作には多様な能力が必要です。
絵が得意な者。文章が得意な者。衣装制作が得意な者。
人前で演技することが得意な者。宣伝や交渉を得意とする者。
それぞれが役割を担わなければ、優れた結果は得られません」
その説明を聞き、松下が手元の資料へ目を落とす。
「思ってたより戦略性がありそうだね」
軽井沢も、先ほどまでの嫌そうな表情を少しずつ変えていた。
「衣装とかグッズも作るのかな」
「制作は自由みたい。予算の範囲内なら、
缶バッジとかキーホルダーも作れるんじゃない?」
佐藤が答える。
「それならちょっと楽しそう」
「人気投票なら、見た目の可愛さはかなり重要だよね」
女子生徒たちの間では、早くも具体的な話が始まりつつあった。