ゆるキャラ至上主義の教室   作:EXTERMINATION

12 / 12
第12話 りゅうまるか、ぶっくまるか

第一回高度育成高等学校ゆるキャラ選手権。

 

試験開始から五日目。

 

正式な代表キャラクターを決定する期限まで、残り二日となった。

 

堀北クラスでは、ほりぽんときよぽんが激しい競争を続けている。

 

合同説明会を終えたことで、二体の特徴は以前より明確になった。

 

努力を続け、仲間と共に成長していく白いフクロウ。

 

何もせず、何も言わず、それでも孤独な誰かの隣にいる謎の生き物。

 

教育的価値では、ほりぽん。

 

話題性と人気では、きよぽん。

 

どちらが優れているのか、簡単には判断できない。

 

クラス内投票は二日後。

 

それまでに両陣営は、着ぐるみの試作品、

宣伝用の映像、グッズ、最終プレゼンを完成させる必要がある。

 

だが。

 

代表を決められていないのは、オレたちのクラスだけではなかった。

 

龍園クラス。

 

龍園翔をモデルとした、丸くて少し目付きの悪い子供のドラゴン。

 

りゅうまる。

 

椎名ひよりの個人的な発想から生まれ、本を抱えた穏やかな熊。

 

ぶっくまる。

 

二体は同時に試験専用ページへ掲載され、全校生徒から注目を集めていた。

 

人気だけを見れば、ぶっくまるが圧倒的に優勢だった。

 

しかし、りゅうまるには龍園クラスの歩みが込められている。

 

強く見られたがる。

 

素直ではない。

 

すぐに他者と張り合う。

 

それでも、仲間が困っていれば、自分から前へ出る。

 

龍園本人は認めたがらないだろう。

 

だが龍園クラスの生徒たちは、

りゅうまるの中に自分たちのリーダーの姿を見ていた。

 

人気を取るか。

 

クラスらしさを取るか。

 

龍園クラスは、オレたちより一日早く、その決断を下そうとしていた。

 

 

その日の昼休み。

 

堀北クラスの教室には、昨日まで存在しなかった境界線が生まれていた。

 

黒板の左側。

 

ほりぽん陣営。

 

黒板の右側。

 

きよぽん陣営。

 

実際に床へ線が引かれているわけではない。

 

席を分けたわけでもない。

 

だが誰がどちらの制作へ関わっているのか、

教室へ入っただけで分かるようになっていた。

 

左側では、堀北、平田、松下を中心に、ほりぽんの着ぐるみ設計が進んでいる。

 

机の上には白い布地。

 

翼の骨組み。

 

丸眼鏡の試作品。

 

制服を模した紺色の衣装。

 

さらに、栞に続く新しいグッズとして、

勉強計画を書き込める小型手帳が用意されていた。

 

表紙にはほりぽん。

 

中を開けば、一週間分の予定と目標を書き込める。

 

ただ可愛いだけではなく、実際に学習へ利用できるグッズだった。

 

右側。

 

きよぽん陣営。

 

長谷部、三宅、幸村、佐倉。

 

そこへ軽井沢、佐藤、池たちも加わり、ほりぽん側より騒がしい。

 

机の上には乳白色の布。

 

ヨーグルト帽子。

 

短い腕。

 

円形の胴体。

 

数種類のステッカー。

 

缶バッジ。

 

応援カード。

 

さらに、誰が用意したのか分からない

小さなヨーグルト容器が大量に並べられている。

 

「これは何だ」

 

オレは自分の机の上に積まれた容器を見た。

 

中身は入っていない。

 

洗浄された空の容器。

 

全部で二十個ほどある。

 

「素材」

 

長谷部が答えた。

 

「何に使う」

 

「きよぽんのヨーグルト帽子を比較するの」

 

「すでに一つ完成していただろ」

 

「もっときよぽんに合う形があるかもしれないから」

 

ヨーグルト容器は、どれも微妙に形が違う。

 

背が高いもの。

 

口が広いもの。

 

丸みが強いもの。

 

角が少ないもの。

 

透明なもの。

 

白いもの。

 

青いもの。

 

「全部食べたのか」

 

「クラスのみんなで協力した」

 

長谷部が教室を見回す。

 

軽井沢が手を挙げる。

 

「私は二個」

 

佐藤。

 

「私も二個」

 

池。

 

「俺は三個」

 

須藤。

 

「食いすぎだろ」

 

「一日で食ったわけじゃねぇよ!」

 

「俺は協力してないからな」

 

三宅が言う。

 

「甘いの苦手なんだよ」

 

「みやっちは容器を洗う係」

 

長谷部が答える。

 

「何で俺が他人の食べたヨーグルト容器を洗わなきゃならないんだ」

 

「衛生管理」

 

「そういう意味じゃない」

 

幸村は一つずつ容器の重量を測っていた。

 

「頭頂部へ載せるなら、最も軽いものを選ぶべきだ。

大きさは外側の発泡材で調整できる」

 

「この丸いのが可愛くない?」

 

佐倉が一つの容器を持ち上げる。

 

白を基調とした、背の低い形だった。

 

「前のものより、きよぽんの頭に馴染みそう」

 

「確かに」

 

長谷部は頭部試作品の上へ容器を載せる。

 

少し離れて全体を見る。

 

「愛里、良いかも」

 

「ほ、本当?」

 

「うん。こっちの方が丸く見える」

 

オレには大きな違いが分からない。

 

「清隆くんはどう思う?」

 

佐倉が尋ねた。

 

「機能面では、背が低い方が重心は安定する」

 

「見た目は?」

 

「悪くない」

 

佐倉の表情が明るくなる。

 

長谷部はすぐに新しい容器を仮固定した。

 

「本人公認!」

 

「悪くないと言っただけだ」

 

「きよぽんのヨーグルト帽子、愛里モデルに決定!」

 

「わ、私のモデルじゃ……」

 

「愛里が選んだから」

 

きよぽんの各部位にまで、制作した生徒の名前が付けられ始めている。

 

このままでは腕は三宅モデル。

 

内部フレームは幸村モデル。

 

宣伝カードは長谷部モデル。

 

全身が綾小路グループの共同作品になるかもしれない。

 

「胴体の方はどうなっている」

 

オレが尋ねると、三宅が大きな円形フレームを持ち上げた。

 

「今、外枠ができたところだ」

 

軽量の棒材を組み、丸い胴体の形を作っている。

 

三宅は不満を口にしながらも、作業自体は丁寧だった。

 

「朝から俺と須藤で曲げたんだぞ」

 

「俺はほりぽん班だ!」

 

ほりぽん側から須藤の声が飛んでくる。

 

「材料を押さえただけだろ!」

 

「それでも協力したら、きよぽん側になるのかよ!」

 

「中立として記録しておく」

 

幸村が答えた。

 

「何の記録だ!」

 

投票前のため、誰がどちらへ関わったのかを明確にしすぎることは問題かもしれない。

 

制作を手伝ったからといって、

そのキャラクターへ投票しなければならないわけではない。

 

だが実際には、自分が関わった作品へ愛着を持つ。

 

それは避けられないことだった。

 

「綾小路くん」

 

教室の反対側から、堀北に呼ばれる。

 

「少し来て」

 

「何だ」

 

「ほりぽんの翼を確認してほしいの」

 

「オレはきよぽん制作班だと思われているが」

 

「あなたはクラスの一員でしょう。両方へ公平に意見を出す義務があるわ」

 

「誰が決めた」

 

「私よ」

 

長谷部が反応する。

 

「きよぽんをほりぽん側へ引き抜かないで」

 

「引き抜くも何も、綾小路くんはあなたの所有物ではないわ」

 

「きよぽんのモデルだよ」

 

「モデルであって、制作責任者ではないでしょう」

 

「本人監修」

 

「本人は認めていないわ」

 

「堀北だって本人って言ってるじゃん」

 

堀北が止まる。

 

言葉の選択を誤ったと気づいたらしい。

 

「モデル本人という意味よ」

 

「やっぱり本人!」

 

「議論を進めるわよ」

 

堀北は強引に話を切った。

 

オレはほりぽん側の机へ移動する。

 

机上には、翼の試作品が二種類置かれている。

 

一つは、見た目を重視した大きな翼。

 

もう一つは、動きやすさを重視した小型の翼。

 

「大きい方が、ほりぽんらしいと思うの」

 

堀北が言う。

 

「でも、着ぐるみの中に入った人が腕を動かしにくい可能性がある」

 

「実際に装着してみたのか」

 

「須藤くんに試してもらったわ」

 

須藤が疲れた顔で椅子へ座っている。

 

両腕には、白い羽根の試作品が取り付けられていた。

 

「もう一時間やってるぞ」

 

「まだ三十分よ」

 

「長ぇよ!」

 

「翼を広げて」

 

「またかよ」

 

須藤は両腕を横へ伸ばす。

 

大きな翼が机へぶつかる。

 

隣にいた池の頭にも当たった。

 

「痛ぇ!」

 

「悪い!」

 

「やはり横幅がありすぎるわね」

 

堀北は冷静に記録する。

 

「少し羽根を短くする必要がある」

 

「最初から小さい方でいいだろ」

 

須藤が言う。

 

「小さすぎると、成長して空を飛ぶ設定に説得力が出ないのよ」

 

「飛ばねぇだろ、着ぐるみは!」

 

「設定の話よ」

 

「設定のために俺の腕が死ぬ!」

 

ほりぽん側も、順調とは言えないようだった。

 

「綾小路くん。大きい翼と小さい翼。どちらが良いと思う?」

 

二つを比べる。

 

見た目では大きい方。

 

安全性と動きやすさでは小さい方。

 

「中間を作るべきだろう」

 

「やはりそうなるわね」

 

「羽根を一枚ずつ取り外せる構造にすれば、調整できる」

 

「その案を採用するわ」

 

堀北がすぐに設計担当へ指示を出す。

 

長谷部がこちらを見ていた。

 

「きよぽんが、ほりぽんを強化してる」

 

「綾小路くんよ」

 

堀北が訂正する。

 

「どっちでも同じ」

 

「同じではない」

 

二人の声が重なる。

 

「きよぽんは、ほりぽんに勝ちたくないの?」

 

長谷部が尋ねた。

 

「公平な勝負にするなら、両方の問題点を修正するべきだ」

 

「それはそうだけど」

 

「きよぽん側にも意見は出している」

 

「ヨーグルト帽子は愛里の案を選んだけどね」

 

「機能と外見の両方を考えた結果だ」

 

「少し嫉妬しているの?」

 

佐倉が慌てる。

 

「波瑠加ちゃん、違うよ」

 

「冗談だよ」

 

長谷部は笑った。

 

教室には笑い声。

 

裁縫の音。

 

材料を切る音。

 

議論する声。

 

全員が忙しく動いている。

 

二つの候補を同時に制作しているため、作業量は他クラスの倍に近い。

 

だが不満を口にする者は少なかった。

 

どちらを代表にするのか。

 

投票するだけなら、一日で決められる。

 

それでも、実際に作り。

 

動かし。

 

宣伝し。

 

二体の可能性を最後まで確かめる。

 

その過程そのものが、クラスの新しい共同作業になっていた。

 

そんな中。

 

教室の扉が開いた。

 

茶柱先生が入ってくる。

 

昼休みに教師が現れたことで、生徒たちの作業が一度止まった。

 

「何かあったんですか?」

 

平田が尋ねる。

 

茶柱先生は教卓へ一枚の紙を置く。

 

「龍園クラスが、本日の放課後に正式代表を決定する」

 

教室がざわつく。

 

「もう?」

 

軽井沢が言う。

 

「期限は明後日でしょ?」

 

「龍園が早期決定を申請した。学園側も問題ないと判断した」

 

「誰が選ばれるんだ?」

 

池が尋ねる。

 

「りゅうまるか、ぶっくまるか」

 

須藤も興味を示す。

 

「人気なら、ぶっくまるだろ」

 

「だが龍園はりゅうまるを押している」

 

幸村が答える。

 

「クラス投票を行うんですか?」

 

堀北が尋ねた。

 

「詳細は公表されていない。ただし、龍園クラスの生徒全員が参加するらしい」

 

茶柱先生は資料を確認する。

 

「また、他クラスの代表者については、見学を認めるとのことだ」

 

「見学?」

 

「龍園本人から申し出があった」

 

堀北は眉をひそめる。

 

「なぜ他クラスへ見せる必要があるの?」

 

「知らん。宣伝か、牽制か、別の狙いがあるのだろう」

 

龍園が、ただ投票結果を見せびらかすためだけに他クラスを呼ぶとは考えにくい。

 

何かを意図している。

 

「各クラス二名まで。参加するなら放課後、龍園クラスの教室へ行け」

 

茶柱先生はそれだけ告げ、教室を出ようとした。

 

だが棚の上に置かれたきよぽんの頭部へ気づく。

 

数秒見つめる。

 

頭部には新しいヨーグルト容器が仮固定されていた。

 

「帽子が変わったな」

 

教室が静かになる。

 

「先生、違いが分かるんですか?」

 

佐藤が驚く。

 

「前のものより低い」

 

「きよぽんに詳しくなってる!」

 

長谷部が喜ぶ。

 

「違う」

 

茶柱先生は即座に否定した。

 

「毎日教室の後ろから見られていれば、嫌でも覚える」

 

「先生もきよぽんの仲間ですね」

 

「違う」

 

「きよぽんが勝手に?」

 

「放課後までに片づけなければ、廃棄するぞ」

 

長谷部はすぐに頭部を箱へ戻した。

 

茶柱先生は疲れた顔のまま教室を出ていった。

 

「先生、絶対ちょっと好きになってるよね」

 

軽井沢が言う。

 

「認めないだけで」

 

「龍園くんと同じだね」

 

佐藤が続けた。

 

オレは、きよぽんのステッカーを貼った龍園の端末を思い出す。

 

似ているかもしれない。

 

 

龍園クラスの代表決定を見学する者は、堀北とオレに決まった。

 

平田も候補に挙がったが、ほりぽん制作の進行を管理する必要がある。

 

長谷部は強く参加を希望した。

 

「きよぽんの最大のライバルが決まるんだよ!」

 

「ぶっくまるだけが相手ではない」

 

堀北が言う。

 

「でも今一位だよ」

 

「正式投票ではないわ」

 

「りゅうまるになったら、きよぽんの順位が上がるかも」

 

「他クラスの都合だけで考えないの」

 

議論の末、クラスを代表して

冷静に状況を分析できる二人として、堀北とオレが選ばれた。

 

長谷部は最後まで不満そうだった。

 

「何かあったら連絡してね」

 

「見学中に端末を触るつもりはない」

 

「投票結果だけでも」

 

「試験ページで発表されるだろう」

 

「きよぽん目線の感想がほしい」

 

「そんな目線はない」

 

「ぶっくまるが負けたら、椎名さん落ち込むかな」

 

佐倉が心配そうに言った。

 

「本人が代表にしたいと強く主張しているわけではない」

 

オレは答えた。

 

「だが、自分が作ったキャラクターだからな。何も感じないことはないだろう」

 

「りゅうまるが負けても、龍園は怒りそう」

 

三宅が言う。

 

「どっちが勝っても面倒だな」

 

「だから見学を認めたのかもしれない」

 

幸村が考える。

 

「内部で選んだだけなら、敗れた側の支持者に不満が残る。

選考過程を他クラスにも見せることで、

公平な判断だったと示す狙いがある可能性がある」

 

龍園がそこまで配慮しているかは疑問だった。

 

だが、クラスの結束を崩さず一体を選ぶ必要があることは理解しているはずだ。

 

特に相手は、ひよりのぶっくまる。

 

強引にりゅうまるを選べば、ひより本人だけでなく、

ぶっくまるを支持する伊吹、西野、アルベルトたちにも不満が残る。

 

龍園がどのような方法を選ぶのか。

 

興味はあった。

 

 

放課後。

 

オレと堀北は龍園クラスの教室へ向かった。

 

廊下には、一之瀬と神崎の姿もある。

 

坂柳クラスからは、坂柳有栖と神室。

 

各クラス二名。

 

一之瀬は、ほなわんのお友達カードを数枚持っていた。

 

「今日は渡す場面じゃないと思うぞ」

 

神崎が言う。

 

「でも正式代表が決まったら、お祝いに渡そうと思って」

 

「すでに両方へ渡しているだろう」

 

「正式代表用は特別版」

 

一之瀬はカードを見せる。

 

通常のものより縁が金色になっていた。

 

『ほなわんのたいせつなおともだち』

 

「いつ作ったんだ」

 

「昼休み」

 

「行動が早すぎる」

 

「どっちが選ばれても渡せるように、二枚あるよ」

 

一之瀬はりゅうまるとぶっくまる、両方の名前を書いていた。

 

選ばれなかった方にも渡すつもりなのだろう。

 

一之瀬らしい。

 

坂柳は、そのカードを興味深そうに見る。

 

「敗者にも同じものを渡すのですか?」

 

「敗者じゃないよ」

 

一之瀬は答える。

 

「代表になれなかっただけ。作った子たちが消えるわけじゃないから」

 

「なるほど」

 

坂柳は微笑む。

 

「ですが、龍園くんが同じように考えているかは分かりませんね」

 

「少なくとも、簡単に切り捨てることはしないと思う」

 

堀北が言った。

 

「随分と龍園くんを信用していますのね」

 

「信用ではなく分析よ。龍園くんは、自分のクラスに

不満を残したまま試験を進めることの危険性を理解している」

 

「だから私たちを呼んだ?」

 

一之瀬が尋ねる。

 

「恐らく、単なる投票ではないでしょうね」

 

坂柳も同じ考えらしい。

 

龍園クラスの教室前へ到着する。

 

扉は開いていた。

 

中には、すでに全生徒が集まっている。

 

普段の座席配置とは違う。

 

机は教室の左右へ寄せられ、中央に広い空間が作られていた。

 

正面の黒板には、大きな文字。

 

『りゅうまる』

 

右側。

 

『ぶっくまる』

 

その間に。

 

『代表決定戦』

 

ギャグ作品のゆるキャラ選考とは思えない、物々しい言葉だった。

 

「決定戦?」

 

堀北が呟く。

 

龍園は教壇の前に立っていた。

 

腕を組み、他クラスの見学者が揃ったことを確認する。

 

「来たか」

 

「何をするつもりなの?」

 

堀北が尋ねる。

 

「見てりゃ分かる」

 

教室の前方。

 

りゅうまる側には石崎。

 

ぶっくまる側にはひより。

 

伊吹、西野、アルベルトは座席にいる。

 

葛城は教室の後方で腕を組み、全体を見守っている。

 

「投票ではないの?」

 

一之瀬が尋ねる。

 

「投票もする」

 

龍園が答える。

 

「だが、その前にやることがある」

 

龍園は黒板を指した。

 

「二体を戦わせる」

 

教室が静かになる。

 

「ゆるキャラを?」

 

神室が眉をひそめる。

 

「まさか着ぐるみ同士を殴り合わせるつもりじゃないでしょうね」

 

堀北も警戒する。

 

「まだ着ぐるみは完成してねぇ」

 

「完成していたら殴らせるつもりだったの?」

 

「面白そうだろ」

 

「駄目よ」

 

「冗談だ」

 

龍園が冗談と言うと、余計に信用できない。

 

「戦わせるって、何をするの?」

 

一之瀬が尋ねた。

 

龍園は教室中央に置かれた二つの机を示す。

 

片方には、りゅうまるのパネル。

 

もう片方には、ぶっくまるのぬいぐるみ。

 

「こいつらが、クラスの代表になった場合の作戦を競わせる」

 

堀北が理解する。

 

「プレゼン対決ね」

 

「それだけじゃねぇ」

 

龍園は石崎とひよりを見る。

 

「りゅうまる側は石崎。ぶっくまる側はひより。

それぞれ制作者の代表として、他の連中からの質問に答えろ」

 

石崎が驚いた。

 

「俺がですか?」

 

「昨日言っただろ」

 

「発表を手伝えとは聞きましたけど、代表とは聞いてないっすよ」

 

「今言った」

 

石崎は困ったように頭を掻く。

 

「龍園さんがりゅうまる側じゃないんすか?」

 

「俺が話したら、連中が圧力で選んだと思うだろ」

 

龍園はクラス全体を見た。

 

「だから俺は、最後までどっちも支持しねぇ」

 

伊吹が疑わしそうに見る。

 

「りゅうまるを押してたくせに」

 

「今は選ぶ側だ」

 

「都合がいいわね」

 

「勝てる方を選ぶ。それだけだ」

 

単純な人気投票ではない。

 

二体を支持する代表者が、それぞれの利点と戦略を説明する。

 

クラス全員が質問を行う。

 

最終的に投票。

 

龍園は表面上、中立を宣言した。

 

自分がりゅうまるを押せば、石崎たちが従う。

 

逆にぶっくまるを選べば、りゅうまるを好む生徒は意見を言えない。

 

だから、自分を投票者の一人へ下げた。

 

龍園らしくないほど公平な方法にも見える。

 

だが別の見方をすれば。

 

どちらを選んでも、最終的な責任をクラス全体へ負わせられる。

 

龍園個人の独断ではない。

 

非常に龍園らしい。

 

「質問は何でもいい」

 

龍園が続ける。

 

「見た目。設定。着ぐるみ。宣伝。

グッズ。ステージ。勝つために必要なことは全部聞け」

 

「他クラスの私たちも?」

 

坂柳が尋ねる。

 

「好きにしろ。そのために呼んだ」

 

「競争相手へ弱点を見せることになるわ」

 

堀北が言う。

 

「弱点を隠したまま代表にして、後で負ける方が間抜けだろ」

 

龍園は笑った。

 

「それに、お前らも同じ問題を抱えてる。参考になるんじゃねぇか?」

 

堀北は答えなかった。

 

確かにそうだった。

 

ほりぽんときよぽん。

 

二体を公平に選ぶために、何を比べるべきか。

 

龍園クラスの選考は参考になる。

 

「始めろ」

 

龍園の指示。

 

最初に前へ出たのは石崎だった。

 

手には、りゅうまるのパネル。

 

昨日の合同説明会で使用したものより大きい。

 

黒い身体。

 

小さな翼。

 

一本の牙。

 

目付きは悪い。

 

だが頬は丸い。

 

「えっと……」

 

石崎は教室全体を見回す。

 

龍園の前で話すことには慣れていても、

クラス全員と他クラスの代表者へプレゼンする機会は少ない。

 

「りゅうまるは、俺たちのクラスらしいキャラだと思う」

 

一番簡単な言葉から始めた。

 

「正直、可愛さならぶっくまるの方が上だ。

今の人気も向こうが上だし、グッズも作りやすいと思う」

 

開始直後から、相手の優位性を認める。

 

龍園は何も言わない。

 

ひよりも静かに聞いている。

 

「でも、俺たちが今までやってきたことを考えると、りゅうまるの方が近い」

 

スライドが表示される。

 

りゅうまるが空を飛ぼうとする。

 

木へぶつかる。

 

地面へ落ちる。

 

仲間たちに笑われる。

 

怒りながら、再び飛ぼうとする。

 

「りゅうまるは、格好つけたがる。

まだ上手く飛べないのに、飛べるって言う。火も吐けないのに、吐けるって言う」

 

教室から小さな笑いが起きる。

 

龍園が眉を動かす。

 

「誰の話だ」

 

「りゅうまるっす」

 

石崎はすぐに答えた。

 

だが全員が龍園を見ていた。

 

「負けたくないし、弱いと思われるのも嫌いだ。

でも本当に仲間が危ない時は、自分が先に飛び出す」

 

りゅうまるの前に、小さな動物たち。

 

その前には大きな影。

 

りゅうまるは足を震わせながら、仲間と影の間に立っている。

 

「怖くないわけじゃない。たぶんすげぇ怖い。

でも、後ろに仲間がいたら逃げない」

 

石崎の声が少しずつ安定していく。

 

「俺たちのクラスも、最初から仲が良かったわけじゃない。

入学当初、龍園さんに反抗した奴も多かった。俺もそうだった」

 

龍園を見る。

 

今度は目を逸らさない。

 

「でも今は、前よりちゃんとクラスになってると思う。喧嘩もするし、伊吹はすぐ怒るし」

 

「何で私だけ名指しなのよ」

 

伊吹が睨む。

 

「実際そうだろ」

 

石崎は伊吹に対しては普通の口調で返す。

 

「西野は思ったことをすぐ言うし、

アルベルトは何考えてるか分からない時があるし、椎名は本ばっかり読んでる」

 

「石崎くんも、勉強から逃げてばかりです」

 

ひよりが静かに返す。

 

「今は俺の発表だろ」

 

教室から笑いが起こる。

 

「でも、前より互いのことを分かってる。

誰かが困ってれば、何だかんだ助ける。

そういうところが、りゅうまるに合ってると思う」

 

石崎はパネルを立てる。

 

「ぶっくまるは強い。人気もある。

でも、俺たちのクラスの顔にするなら、俺はりゅうまるを選びたい」

 

発表が終わる。

 

大きな拍手ではない。

 

だが温かな拍手が起きた。

 

龍園は腕を組んだまま。

 

伊吹は少し意外そうに石崎を見る。

 

西野も頷いていた。

 

アルベルトは静かに拍手をしている。

 

「石崎にしては、まともだったわね」

 

伊吹が言う。

 

「一言余計なんだよ」

 

「褒めてるのよ」

 

「絶対違うだろ」

 

次はひより。

 

ぶっくまるのぬいぐるみを両腕で抱え、教室中央へ出る。

 

緊張しているようには見えない。

 

だが普段より少しだけ姿勢が硬い。

 

「私は、ぶっくまるをクラスの代表にするつもりで描いたわけではありませんでした」

 

最初の言葉だった。

 

「りゅうまるのデザインを考えるため、

いろいろな丸い動物を描いていました。その中に熊がいました」

 

スライドに、初期のラフ画が表示される。

 

今のぶっくまるより単純な熊。

 

眼鏡もない。

 

本も小さい。

 

「私が本を持たせました。眼鏡を掛けました。好きなものを詰め込みました」

 

ひよりは小さく微笑む。

 

「だから最初は、私のためのキャラクターでした」

 

ぶっくまるが本を読む絵。

 

一人。

 

静かな森。

 

誰も周囲にいない。

 

「でも、皆さんが可愛いと言ってくれました。

グッズにしたいと言ってくれました。龍園くんは牙を付けようとしました」

 

「一回くらいいいだろ」

 

龍園が言う。

 

「駄目です」

 

ひよりは即答した。

 

笑いが起きる。

 

「皆さんが意見を出すたび、

ぶっくまるは少しずつ私だけのキャラクターではなくなりました」

 

ぶっくまるの鞄。

 

西野が色を選んだ。

 

栞。

 

伊吹が形を修正した。

 

眼鏡。

 

石崎が壊れにくい太さを提案した。

 

背中の模様。

 

アルベルトが描いた。

 

龍園が追加した設定。

 

本を乱暴に扱う人が嫌い。

 

「ぶっくまるは、私が作りました。でも今は、皆さんと作っているキャラクターです」

 

石崎の発表とは異なる角度だった。

 

りゅうまるは、クラスの歩みを象徴している。

 

ぶっくまるは、個人の趣味から始まり、クラスの共同作品へ成長した。

 

「ぶっくまるは強くありません。火も吐きません。空も飛べません」

 

龍園が何かを言おうとする。

 

ひよりが先に続けた。

 

「牙も必要ありません」

 

龍園は黙った。

 

「ですが、誰かが一人でいる時、その人へ合う一冊を探します」

 

教室の隅で一人座る小さな動物。

 

ぶっくまるが近づく。

 

すぐには話しかけない。

 

少し離れた場所へ本を置く。

 

自分は別の本を読む。

 

やがて相手が、その本へ手を伸ばす。

 

「本を読めば、必ず悩みが解決するわけではありません。

元気になれるとも限りません。

でも、自分と同じことを考えた人がいると知ることはできます」

 

オレはきよぽんの発表を思い出した。

 

何も言わず、隣にいる。

 

ぶっくまるも似ている部分がある。

 

ただし、きよぽんは何もしない。

 

ぶっくまるは一冊を渡す。

 

「クラスには、話すことが得意な人も、苦手な人もいます。

身体を動かすのが得意な人。勉強が得意な人。強く言える人。静かに見守る人」

 

ひよりは、龍園、伊吹、石崎、アルベルト、西野、葛城へ順番に視線を向ける。

 

「ぶっくまるは、本を通じて、その人たちを繋ぐキャラクターです」

 

最後の絵。

 

大きな木の下。

 

クラスを思わせる様々な動物。

 

中央にぶっくまる。

 

全員が同じ本を読むのではない。

 

それぞれ異なる本を持っている。

 

だが同じ木陰に集まっていた。

 

「私は、ぶっくまるがクラスらしくないとは思いません」

 

石崎の主張へ正面から答えた。

 

「私も、このクラスの一員だからです」

 

教室が静かになる。

 

「りゅうまるだけが龍園くんのクラスを表すわけではありません。

ぶっくまるも、今の私たちから生まれたキャラクターです」

 

ひよりはぬいぐるみを抱き直した。

 

「だから私は、ぶっくまるを代表にしたいです」

 

普段のひよりは、自分の意見を強く押し通すことが少ない。

 

誰かの話を聞く。

 

静かに見守る。

 

譲る。

 

だが今は明確に、自分の作ったキャラクターを選んでほしいと伝えた。

 

拍手が起こる。

 

石崎も拍手していた。

 

対立しているからといって、相手の発表を否定する必要はない。

 

龍園は二人を見比べる。

 

「質問に移る」

 

最初に手を挙げたのは伊吹だった。

 

「りゅうまる側に質問」

 

石崎が緊張する。

 

「何だよ」

 

「人気でぶっくまるに負けてる。どうやって逆転するの?」

 

単純だが最も重要な質問。

 

「動画だ」

 

石崎が答えた。

 

「動画?」

 

「りゅうまるが飛ぶ練習をする短い動画を作る。

最初は何回やっても失敗する。でも最後に少しだけ飛べる」

 

「ありきたりじゃない?」

 

「それで終わりじゃない」

 

石崎は端末を操作する。

 

簡単な絵コンテが表示される。

 

りゅうまるが飛ぶ。

 

木へぶつかる。

 

川へ落ちる。

 

洗濯物へ突っ込む。

 

本の山を崩す。

 

ぶっくまるに怒られる。

 

「ぶっくまるも出るの?」

 

ひよりが驚く。

 

「正式代表にならなくても、友達として出せるだろ」

 

石崎は答えた。

 

「ぶっくまるに飛び方の本を渡してもらう。

りゅうまるは最初、こんなもん読めるかって投げる」

 

龍園が笑う。

 

「それで?」

 

「後で誰もいないところで読む」

 

教室から笑いが起こる。

 

「龍園そのものじゃない」

 

伊吹が言う。

 

「りゅうまるだ」

 

龍園が訂正する。

 

「本を読んで、翼の動かし方を覚える。最後に少しだけ飛ぶ。

ぶっくまるに礼を言わないけど、代わりに高い棚の本を取ってやる」

 

ひよりがぬいぐるみを見る。

 

「よいと思います」

 

「敵側の作戦を褒めていいのかよ」

 

石崎が言う。

 

「ぶっくまるも登場しますから」

 

もし、りゅうまるが代表になっても。

 

ぶっくまるは消えない。

 

二体を友達として物語に登場させる。

 

石崎なりに、敗れた側を残す方法を考えていた。

 

「逆に質問」

 

伊吹はひよりを見る。

 

「ぶっくまるが代表になった場合、りゅうまるはどうするの?」

 

ひよりは待っていたように答えた。

 

「ぶっくまるが本を届ける相手として登場してもらいます」

 

スライドが切り替わる。

 

本を嫌がるりゅうまる。

 

本を差し出すぶっくまる。

 

背中を向けるりゅうまる。

 

りゅうまるか、ぶっくまるか、明日決まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

綾小路がBクラスに配属された世界線(作者:来世に期待)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

タイトルの通り、綾小路清隆がDではなくBクラスに配属されたIFストーリーです▼PS.原作では絶好調の一部のキャラクターが、綾小路がいない関係で悲惨な経路をたどっている場合があります。正当性は保つようにしますが、ご注意ください


総合評価:3604/評価:7.88/連載:53話/更新日時:2026年02月09日(月) 21:56 小説情報

ようこそ財力至上主義の教室へ(作者:ウメSUN)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

金で買えないものはない......少なくとも、この高度育成高等学校では。▼金に強い固執を持つ少女、辰見鱗(たつみ りん)。彼女は龍園率いるCクラスと共に、プライベートポイントを以て、この学校を攻略し、8億ポイントを目指していく。


総合評価:1580/評価:8.32/連載:16話/更新日時:2026年07月12日(日) 18:29 小説情報

ようこそAクラスの教室へ(作者:yadooo)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

最も不良品であるはずの綾小路が、何故だか優秀な生徒達の集まるAクラスに配属されるIFストーリー。▼


総合評価:3308/評価:8.77/連載:27話/更新日時:2026年08月07日(金) 18:56 小説情報

ここって本当に法治国家だよな???(作者:一般犯罪者)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

一般的な倫理観を持つ男子生徒が高育に染まったり染まらなかったりする話▼書きたいところだけを抽出している関係上、ダイジェスト気味に話が進みます


総合評価:1638/評価:8.68/短編:2話/更新日時:2026年04月15日(水) 15:15 小説情報

ようこそグラドル幼馴染みがいる教室へ(作者:nightマンサー)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

『ようこそ実力至上主義の教室へ』の世界へ転生し、佐倉愛里の幼馴染兼恋人として過ごしてきた俺───虎城優斗(こじょうゆうと)は愛里を必ず守ると心に誓い原作の舞台である『高度育成高等学校』に愛里と共に入学を果たした当日、これからの学校生活について考える中で確認した所属クラスが自分と愛里の2人共Cクラス(龍園クラス)であることに驚愕するのだった。▼注意)坂柳・南雲…


総合評価:14505/評価:8.75/連載:88話/更新日時:2026年07月04日(土) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>