ゆるキャラ至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第16話 綾小路グループの動向

第一回・ゆるキャラ選手権。

 

試験開始から七日目。

 

正式な代表キャラクターを決定する期限の日が訪れた。

 

午後五時までに、各クラスは学園側へ一体のキャラクターを登録しなければならない。

 

一之瀬クラス。

 

ほなわん。

 

坂柳クラス。

 

ありすぽーん。

 

龍園クラス。

 

ぶっくまる。

 

三つのクラスは、すでに正式な代表を決定している。

 

残るのは堀北クラスだけだった。

 

ほりぽん。

 

きよぽん。

 

白いフクロウと、ヨーグルトの容器を頭へ載せた謎の生き物。

 

二体のうち、どちらが堀北クラスを代表して学園祭の舞台へ立つのか。

 

その答えが、今日決まる。

 

 

朝。

 

教室へ入ると、昨日まで中央に並んでいた二体の試作品が、再び左右へ分けられていた。

 

黒板の左側。

 

ほりぽん。

 

白い頭部。

 

大きな丸眼鏡。

 

紺色の制服。

 

改良された可動式の翼。

 

黒板の右側。

 

きよぽん。

 

眠そうな目。

 

淡い頬。

 

低く丸いヨーグルト帽子。

 

先端の丸いスプーン。

 

乳白色の胴体。

 

二体は友達という設定になった。

 

代表に選ばれなかった方も消えない。

 

それでも今日だけは、再び競争相手として向き合わなければならない。

 

教室内の空気は、昨日までより静かだった。

 

普段なら、朝から長谷部がきよぽんの新しい設定を話し始める。

 

池がフライング・モンキーを乱入させる。

 

須藤が着ぐるみ担当から逃げようとする。

 

軽井沢や佐藤が写真を撮る。

 

だが今日は、誰もすぐには冗談を口にしなかった。

 

それぞれが、二体の試作品を見ていた。

 

「おはよう、清隆くん」

 

佐倉が声をかける。

 

「おはよう」

 

佐倉の机には、数枚のイラストが置かれていた。

 

昨夜まで描いていたのだろう。

 

窓際に座るきよぽん。

 

隣には、俯いた小さな兎。

 

二体は話していない。

 

きよぽんはヨーグルトを持っている。

 

兎は何も持っていない。

 

次の絵、きよぽんが、予備のスプーンを兎の前へ置いている。

 

その次。

 

二体が同じ容器からヨーグルトを食べている。

 

「完成したのか」

 

「うん」

 

佐倉は小さく頷いた。

 

「最終プレゼンで使う絵」

 

「昨日の案だな」

 

「波瑠加ちゃんたちが、今朝から映像にしてくれてる」

 

教室の後方を見る。

 

長谷部と軽井沢、佐藤が一台の端末を囲んでいた。

 

画面には、佐倉の描いた絵が順番に表示されている。

 

場面の切り替わる時間。

 

文字を出す位置。

 

音楽を入れるかどうか。

 

細かな部分を確認していた。

 

三宅はきよぽんの胴体内部へ手を入れ、昨日見つかった緩みを修正している。

 

幸村はプレゼン用の資料と、着ぐるみの安全確認表を見比べていた。

 

綾小路グループの四人。

 

長谷部。

 

三宅。

 

幸村。

 

佐倉。

 

普段は全員が同じ目的へ向かって行動するわけではない。

 

長谷部が騒ぎ。

 

三宅が止め。

 

幸村が理屈を述べ。

 

佐倉が静かに見守る。

 

その形が多い。

 

だが今は。

 

四人が、それぞれの得意な部分を使い、一体のキャラクターを完成させようとしていた。

 

そこへオレが時々加わる。

 

この数日間。

 

それが、きよぽん制作班の基本的な形になっていた。

 

「清隆」

 

三宅が呼ぶ。

 

「右腕の固定具、少し締めた。確認してくれ」

 

「今か」

 

「昼休みに全身を着るんだろ。それまでに直したい」

 

「着ることは決定事項なのか」

 

「昨日、最終プレゼンで動かすって話になってたぞ」

 

「オレは聞いていない」

 

「その場にいた」

 

「聞こえないふりをしていた」

 

「聞いてるじゃないか」

 

三宅は呆れたように笑った。

 

長谷部が振り返る。

 

「最終プレゼンで、きよぽんが動かないと困るよ」

 

「頭部と映像だけで十分だ」

 

「ほりぽんは動くんだよ?」

 

黒板の反対側。

 

須藤が白い翼の開閉を確認している。

 

可動機構は二段階。

 

片手を軽く握れば半開。

 

さらに握れば全開。

 

昨日より動きは滑らかになっていた。

 

ほりぽんは最終プレゼンで。

 

空を飛べなかった頃。

 

練習を続けた時間。

 

仲間に支えられたこと。

 

そして最後に翼を広げる姿を実演する。

 

きよぽん側が映像だけでは、動きの印象で差を付けられる可能性がある。

 

「クラスの勝利に最も近い方を選んでもらうんでしょ?」

 

長谷部が言う。

 

「だったら、きよぽんが動けることも見せないと公平じゃない」

 

「中に入るのはオレでなくてもいい」

 

「みやっちは映像操作」

 

三宅が反応する。

 

「今、初めて聞いたぞ」

 

「ゆきむーは解説」

 

「進行表には記載されている」

 

幸村は自分の資料を見せる。

 

どうやら幸村は承知しているらしい。

 

「愛里は絵の説明」

 

佐倉が少し緊張した表情を見せる。

 

「わ、私も喋るの?」

 

「一言だけ」

 

長谷部が答える。

 

「きよぽんの表情を作る時、何を考えたか」

 

「それなら……」

 

佐倉は完全には断らなかった。

 

「波瑠加は?」

 

三宅が尋ねる。

 

「全体のプレゼン」

 

「一番目立つ役じゃないか」

 

「企画責任者だから」

 

「自称だろ」

 

「もうクラス公認みたいなものだよ」

 

誰も正式に任命していない。

 

だが現在、長谷部がきよぽん制作の中心であることへ異論を挟む者はいなかった。

 

「つまり」

 

三宅はオレを見る。

 

「残ってる役が中身だ」

 

「消去法で決めるな」

 

「本人が一番自然だから」

 

「本人ではない」

 

「モデル」

 

「認めていない」

 

「監修者」

 

「それも認めていない」

 

「じゃあ、ヨーグルト有識者」

 

「範囲が狭すぎる」

 

長谷部は笑う。

 

「何でもいいから、一回だけお願い」

 

「昨日も一回だけだった」

 

「今日が最後の候補者プレゼンだから」

 

「代表になった場合は、最後ではない」

 

「代表になったら、よろしくね」

 

「決まっていない」

 

拒否を続けながら。

 

オレの視線は、完成に近づいたきよぽんへ向いていた。

 

頭部。

 

胴体。

 

腕。

 

脚。

 

一週間前には何もなかった。

 

長谷部の落書きだけだった。

 

今は。

 

実際に立てる。

 

歩ける。

 

手を振れる。

 

ヨーグルトを持てる。

 

そして、一人では作れない大きな丸を。

 

友達と一緒に作ることができる。

 

ここまで制作へ関わった者たちが。

 

最終プレゼンで最も良い状態を見せたいと考えるのは当然だった。

 

「分かった」

 

オレは答えた。

 

長谷部が止まる。

 

「本当に?」

 

「最終プレゼンだけだ」

 

「やった!」

 

「まだ条件がある」

 

「何?」

 

「活動記録の動画には、着用者名を載せない」

 

「分かった」

 

「プレゼン終了後、すぐに脱ぐ」

 

「分かった」

 

「決め台詞は言わない」

 

長谷部が止まった。

 

「そこは必要じゃない?」

 

「映像へ文字として出せばいい」

 

「一回だけ」

 

「言わない」

 

「小さい声で」

 

「大きさの問題ではない」

 

「じゃあ状況次第」

 

「条件を変えるな」

 

長谷部は完全には諦めていないようだった。

 

それでもオレが着用すること自体が予想外だったのか、

嬉しそうにきよぽんの頭部へ向き直った。

 

「よかったね、きよぽん」

 

「キャラクターへ話しかけるな」

 

「本人に言ってる」

 

「もっと駄目だ」

 

佐倉が小さく笑った。

 

三宅は肩をすくめ。

 

幸村は進行表の着用者欄へ、オレの名前を書き込んだ。

 

きよぽん陣営。

 

最終プレゼンの役割が決まった。

 

 

一方。

 

ほりぽん陣営も、最後の調整へ入っていた。

 

「翼を全開にして」

 

堀北が指示する。

 

須藤は、ほりぽんの胴体だけを装着していた。

 

頭部はない。

 

制服のシャツ姿の頭。

 

丸いフクロウの胴体。

 

両腕には白い翼。

 

見た目は奇妙だ。

 

だが、本人はもう気にする余裕がないらしい。

 

右手を握る。

 

翼が半分開く。

 

さらに握る。

 

外側の大きな羽根が広がる。

 

二段階の開閉は成功。

 

左右の翼が、ほぼ同じ角度で止まった。

 

「左が少し遅いわね」

 

堀北が言う。

 

「これくらい誤差だろ!」

 

須藤が反論する。

 

「ステージ上では左右の差が目立つわ」

 

「中に入ってる俺からは見えねぇよ!」

 

「だから外から確認しているの」

 

「少しくらい、ゆるくていいだろ!」

 

教室が静かになる。

 

堀北が須藤を見る。

 

須藤も、自分で何を言ったか気づいた。

 

「今、ゆるキャラらしいこと言ったね」

 

松下が笑う。

 

「違ぇよ!」

 

「須藤くんも、ほりぽんへ愛着が出てきたんじゃない?」

 

平田が穏やかに尋ねる。

 

「ねぇって!」

 

即答。

 

だが翼を外そうとはしない。

 

「左側の紐を一センチ短くすれば、開く速度を揃えられる」

 

オレが言う。

 

「分かるの?」

 

堀北が尋ねる。

 

「右より遊びが大きい」

 

紐の接続部へ近づく。

 

須藤の左翼。

 

手を開いた状態でも、紐が少し緩んでいる。

 

「これだけ差があれば、引き始める時間が遅れる」

 

「一センチで足りる?」

 

「まず五ミリずつ調整した方がいい」

 

松下が道具を持ってくる。

 

堀北も構造を確認する。

 

「きよぽんの調整は終わったの?」

 

「大きな問題は残っていない」

 

「なら、こちらを手伝って」

 

「敵へ協力していいの?」

 

長谷部が遠くから言う。

 

「同じクラスよ」

 

堀北が答える。

 

「それに、あなたたちもほりぽんの視界設計を使ったでしょう」

 

「貸し一つだからね」

 

「安全に関する共有に貸し借りはないわ」

 

言いながらも、長谷部は止めなかった。

 

オレは須藤の左翼を調整する。

 

紐を五ミリ短くする。

 

もう一度、須藤が手を握る。

 

半開。

 

全開。

 

今度は左右がほぼ同時だった。

 

「どうだ」

 

「悪くないわ」

 

「悪くないじゃなくて、いいだろ!」

 

「まだ確認する動きがあるわ」

 

「いつ終わるんだよ」

 

須藤の叫び。

 

だが周囲から笑いは起こらなかった。

 

全員が、ほりぽんの翼を見ていた。

 

大きく広げられた白い翼。

 

最初の試作品は、机へぶつかり、きよぽんの頭へ当たり、

紐が引っかかり、須藤の手を疲れさせた。

 

今は、左右へ滑らかに開く。

 

羽根の先端は柔らかい。

 

通常時は畳める。

 

交流時は半開。

 

ステージ上でだけ全開。

 

一週間、何度も失敗した。

 

そのたびに、誰かが修正した。

 

「綺麗だね」

 

佐藤が言う。

 

「本当に飛べそう」

 

「飛ばねぇぞ」

 

須藤が念を押す。

 

「跳ばないわ、空を見上げるだけ」

 

堀北も答えた。

 

「それならいい」

 

須藤は少し安心する。

 

「最終プレゼンでは、映像の最後で翼を全開にするわ」

 

堀北は全体の流れを確認する。

 

「平田くんがほりぽんの成長を説明。

松下さんがグッズと実用性。私はクラスとの関係を説明する」

 

「俺は?」

 

須藤が尋ねる。

 

「ほりぽん」

 

「役名じゃなくて!」

 

「演技担当よ」

 

「台詞は?」

 

「ないわ」

 

「ならいい」

 

須藤は着ぐるみの中で話すことを拒んでいる。

 

普段の声がそのまま出れば、

知的なほりぽんの印象が壊れると本人も理解しているのだろう。

 

「鈴音」

 

須藤は少しだけ真剣な声になる。

 

「絶対勝てよ」

 

教室の空気が変わる。

 

堀北が須藤を見る。

 

「何?」

 

「ここまでやったんだから」

 

須藤は、自分の翼を見下ろす。

 

「俺は別に、きよぽんが嫌いなわけじゃねぇ。でも、ほりぽんの方がいいと思ってる」

 

「理由は?」

 

「鈴音っぽいから」

 

「私個人ではなく、クラスを――」

 

「分かってる」

 

須藤は遮る。

 

「でも、お前が最初に作ったんだろ」

 

堀北は答えない。

 

「最初は、何でも自分だけでやろうとしてた。今はみんなに手伝わせてる」

 

「手伝わせているという表現は正確ではないわ」

 

「細けぇな」

 

須藤は笑った。

 

「俺が言いたいのは、今のほりぽんは鈴音一人のキャラじゃねぇってことだ」

 

オレが感じていたことと同じ。

 

ほりぽんも。

 

きよぽんも。

 

最初に発案した者だけのキャラクターではない。

 

「だから、勝とうぜ」

 

須藤は言った。

 

堀北は少し黙る。

 

そして。

 

「ええ」

 

短く答えた。

 

「勝つわ」

 

ほりぽん陣営も。

 

最後のプレゼンへ向け、準備を終えようとしていた。

 

 

昼休み。

 

最終プレゼンまで残り数時間。

 

この時間になっても、誰がどちらへ投票するのか、明確な人数は分かっていなかった。

 

無記名投票。

 

事前の支持表明は禁止されていない。

 

だが堀北は、全員へ判断を強制しないよう伝えている。

 

長谷部も、きよぽん支持を呼びかけることはあっても。

 

個別に投票を約束させることはしなかった。

 

そのため、現在の票読みは難しい。

 

長谷部。

 

当然きよぽん。

 

堀北。

 

当然ほりぽん。

 

須藤。

 

ほりぽん。

 

池。

 

本人はきよぽんと言っているが、直前でフライング・モンキーと書く危険がある。

 

軽井沢。

 

きよぽん寄りに見える。

 

佐藤も同様。

 

松下はほりぽん。

 

平田は明言していない。

 

三宅。

 

未定。

 

幸村。

 

未定。

 

佐倉。

 

未定。

 

オレ。

 

未定。

 

その他の生徒たちも。

 

制作へ関わった陣営と、投票先が一致するとは限らない。

 

「きよぽん」

 

長谷部が、昼食中にサンドイッチ片手に尋ねてきた。

 

「まだ決めてない?」

 

「まだだ」

 

食堂。テーブルには、長谷部、三宅、幸村、佐倉。

 

そしてオレ。

 

綾小路グループ。

 

今日の昼食も五人だった。

 

長谷部の前には、デザートとしてヨーグルトも置かれている。

 

きよぽん応援の意味らしい。

 

三宅は普通の豚の角煮定食。

 

幸村はエビフリャーを食べながら、最終プレゼンの資料を確認している。

 

佐倉はうどんを小さく食べていた。

 

「みやっちは?」

 

長谷部が尋ねる。

 

「俺もまだ」

 

「本当に?」

 

「昨日も言っただろ」

 

三宅は箸を置く。

 

「きよぽん制作を手伝ったから、きよぽんへ入れなきゃいけないってわけじゃない」

 

「分かってるよ」

 

「でも投票しづらくなったのは事実だ」

 

三宅は少し困ったように笑う。

 

「自分で作った部分を見ると、負けてほしくないって思う」

 

胴体。

 

フレーム。

 

留め具。

 

きよぽんの身体の大半へ、三宅が関わっている。

 

「でも、ほりぽんの方が学校の公式キャラとしては分かりやすい」

 

「ゆきむーは?」

 

幸村は資料から顔を上げる。

 

「数値だけなら、わずかにきよぽんが有利だ」

 

「数値?」

 

「試験ページの閲覧数。好意的な反応。グッズの希望数。話題にされた回数」

 

きよぽんが上。

 

「専門審査を想定した項目では、ほりぽんが上だ」

 

教育的価値。

 

設定の一貫性。

 

学校との関係。

 

実用的なグッズ。

 

ほりぽんが上。

 

「総合すると、ほぼ互角だ」

 

「それで、どっちにするの?」

 

「最終プレゼンを見て決める」

 

幸村は最後まで合理的だった。

 

「愛里は?」

 

佐倉は少し迷う。

 

「まだ……」

 

「愛里がきよぽんの顔を描いたんだよ」

 

「うん」

 

「負けたら寂しくない?」

 

「寂しいよ」

 

佐倉は正直に答えた。

 

「でも、ほりぽんも好きだから」

 

佐倉はテーブルの上へ、二体が並ぶ小さな絵を置いた。

 

ほりぽんは教科書。

 

きよぽんはヨーグルト。

 

昨日の集合写真を参考に描いたものだろう。

 

「どっちが代表になっても、友達として残るんだよね」

 

「ああ」

 

オレが答える。

 

「なら、代表として一番向いてると思った方に入れる」

 

長谷部は少しだけ寂しそうな顔をした。

 

だがすぐに頷く。

 

「分かった」

 

次にオレを見る。

 

「清隆くんも?」

 

「同じだ」

 

「中に入りたくないことは考えない?」

 

「完全に考えないのは難しい」

 

正直に答える。

 

「だが、それだけで投票先を決めるつもりはない」

 

「きよぽんが勝ったら?」

 

「クラスとして決まった役割には、可能な範囲で協力する」

 

三宅が驚く。

 

「入るのか?」

 

「可能な範囲で、と言った」

 

「かなり前進したね」

 

長谷部が嬉しそうに笑う。

 

「最初は絶対やらないって言ってたのに」

 

「まだやるとは言っていない」

 

「でも考えてくれる」

 

「代表になった場合だ」

 

「それで十分」

 

長谷部はヨーグルトの蓋を開ける。

 

「きよぽんも喜んでる」

 

「ここにはいない」

 

「いるよ」

 

「どこに」

 

長谷部はオレを指した。

 

「違う」

 

「きよぽんが勝手に?」

 

「本人ではない」

 

「本人が言うと説得力ないよ」

 

同じやり取り。

 

それでも。

 

以前のような強い抵抗は出なかった。

 

食堂の窓。

 

外には、学園祭へ向けた仮設の案内板が見える。

 

ほなわん。

 

ありすぽーん。

 

ぶっくまる。

 

三体の正式代表。

 

今日の夕方。

 

そこへ。

 

ほりぽんか。

 

きよぽん。

 

どちらかが加わる。

 

「ところで」

 

三宅が話題を変える。

 

「きよぽんが負けたら、長谷部はどうするんだ?」

 

「泣く」

 

即答。

 

「本気で?」

 

「少しは」

 

長谷部はヨーグルトを食べながら答える。

 

「でも、きよぽんは残るから」

 

「制作は続ける?」

 

「もちろん」

 

「代表より予算は減るぞ」

 

幸村が言う。

 

「グッズは自分のポイントで作る」

 

「大量に使うなよ」

 

「少しずつ」

 

長谷部は本気だった。

 

「ほりぽんが代表になったら、きよぽんは休憩担当なんでしょ?」

 

「その予定だな」

 

「学園祭のどこかに、きよぽん休憩所を作る」

 

「何をする場所だ」

 

「何もしない」

 

「休憩所だから正しいか」

 

三宅が納得しかける。

 

「ヨーグルトも配る」

 

「食品の配布には衛生管理と許可が必要だ」

 

幸村が止める。

 

「ゆきむー、そこは手伝って」

 

「まだ投票前だ」

 

「負けた後の計画も大事だよ」

 

長谷部は、きよぽんが負ける可能性を受け入れ始めている。

 

それでも残す。

 

役割を考える。

 

その準備があるから。

 

今日の投票を、恐れずに迎えられるのだろう。

 

「ほりぽんが負けたら?」

 

佐倉が尋ねる。

 

「堀北はどうするんだろう」

 

「勉強支援のキャラクターとして残すと言っていた」

 

オレは答える。

 

「ほりぽん学習手帳も完成している。クラス内だけで使うことはできる」

 

「きよぽんが代表になって、ほりぽんが勉強を教える」

 

三宅が想像する。

 

「逆じゃないか?」

 

「何が」

 

「普通、学校の代表は勉強する方だろ」

 

「だから迷ってるんだろ」

 

長谷部が言う。

 

きよぽん。

 

学校の公式キャラクターとして適切なのか。

 

頭へヨーグルト。

 

無口。

 

眠そう。

 

何もしない。

 

普通に考えれば、選ばれにくい。

 

だが。

 

一般来場者が記憶するのは。

 

整った優等生的なキャラクターより。

 

意味の分からないヨーグルトの生き物かもしれない。

 

正解はない。

 

だからこそ、今日のプレゼンと投票に意味がある。

 

 

放課後。

 

机は教室の左右へ寄せられた。

 

中央。

 

プレゼン用の空間。

 

正面。

 

大型スクリーン。

 

黒板には、二体の名前だけが書かれている。

 

左。

 

ほりぽん。

 

右。

 

きよぽん。

 

その下には。

 

応援の言葉も。

 

評価点も。

 

宣伝画像もない。

 

白紙に近い状態。

 

今日、全員が自分で決めるためだった。

 

教卓の上には、投票箱。

 

透明ではない。

 

中は見えない。

 

横には、茶柱先生が立っている。

 

学園側への正式登録が必要なため、投票の監督と集計を担当する。

 

「これより、堀北クラスの代表キャラクター決定を行う」

 

茶柱先生の声。

 

教室内の生徒は、全員自分の席へ座っている。

 

ほりぽん。

 

きよぽん。

 

着ぐるみは教室の外。

 

プレゼン開始前に姿を見せないため、別室へ移動させていた。

 

「最初に各陣営、十分間の最終プレゼンを行う。

順番は昨日の抽選通り、ほりぽん、きよぽん」

 

堀北が立ち上がる。

 

平田。

 

松下。

 

そして須藤も続く。

 

須藤はまだ着ぐるみへ入っていない。

 

別室へ移動し、映像途中で登場する予定だ。

 

「プレゼン後、五分間の質問時間を設ける。

両方の終了後、投票用紙を配布する」

 

茶柱先生は全員を見渡す。

 

「投票は無記名。ほりぽん、きよぽん、どちらか一体の名前を書け。

判別不能な票は無効とする」

 

池が僅かに動く。

 

「フライング・モンキーと書いても無効だ」

 

茶柱先生が先に釘を刺した。

 

「まだ何も言ってない!」

 

「お前の顔を見れば分かる」

 

教室から笑いが起こる。

 

緊張が少し和らいだ。

 

「投票は一度。最多票を獲得したキャラクターを代表とする。

同票の場合は、五分間の追加説明後に再投票。

それでも同票の場合は、クラス内協議へ移る」

 

茶柱先生は時計を見る。

 

「では始めろ」

 

両者のアピールタイプが始まる。

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