須藤はその会話についていけず、堀北へ顔を向ける。
「俺は何すりゃいいんだ?」
「まだ何も決まっていないわ」
「絵は無理だぞ」
「分かっているわ」
「裁縫も無理だ」
「それも予想できるわ」
「じゃあ役に立てねぇじゃねぇか」
「着ぐるみの中に入る役ならできるでしょう」
堀北は迷いなく言った。
須藤が目を見開く。
「何で俺なんだよ!」
「体力があるからよ。着ぐるみを着たまま長時間動くなら、
運動能力の高い生徒が適任でしょう」
「嫌だよ!暑そうだし!」
「クラスのためよ」
「そう言えば何でも通ると思うなよ!」
池は逆に妙な自信を見せていた。
「俺、キャラクター考えるの得意かもしれないぞ」
堀北が冷静な視線を向ける。
「これまでに何かをデザインした経験があるの?」
「ないけど、こういうのは感性だろ」
「では、今回初めて役に立てる可能性があるわね」
「言い方が酷くないか!?」
「可能性を認めているのよ」
「全然褒められてる気がしねぇ!」
周囲から笑いが起こる。
発表直後は試験そのものを拒絶していた生徒たちも、
具体的な審査内容を聞くにつれて、少しずつ参加することを前提に考え始めていた。
それこそが学園側の狙いなのかもしれない。
どれほど奇妙な内容であっても、クラスポイントが懸かっている以上、
最終的には真剣に取り組まざるを得ない。
「なお、制作費として各クラスに50万プライベートポイントを支給します」
坂柳理事長が続けた。
「ただし、支給額を超える費用については、
各クラスが保有するポイントから負担してください。
制作物の外部発注は禁止します。
着ぐるみの基本素材は学校側が用意しますが、
デザイン、加工、装飾は生徒自身で行うこと」
「50万で着ぐるみまで作るのか」
平田が資料を確認する。
「予算管理も大切になりそうだね」
「無計画に装飾を増やせば、すぐに足りなくなるわ」
堀北も頷いた。
「逆に費用を惜しめば、完成度で他クラスに負ける。
どこに予算を使うか、早い段階で決める必要があるわね」
つい先ほどまで、
ゆるキャラという言葉に呆然としていたとは思えない切り替えの早さだった。
龍園もすでに笑みを取り戻している。
「なるほどな。人気投票なら、まともに可愛いもんを作る必要もねぇってことか」
伊吹が嫌な予感を覚えたように顔を向ける。
「どういう意味?」
「他のクラスより目立てばいい。話題を奪う方法はいくらでもある」
「先に言っておくけど、他クラスの着ぐるみを壊すのは駄目だからね」
「まだ何も言ってねぇだろ」
「顔を見れば分かる」
ひよりが二人の会話を聞きながら、静かに口を開く。
「怖いキャラクターより、親しみやすいものの方がよいと思います」
「誰が怖くするって言った?」
「龍園くんが考えるキャラクターは、少し怖くなりそうです」
「お前まで伊吹側につくのか」
「ただ、ドラゴンはよいと思います」
その言葉に龍園の動きが止まった。
「ドラゴン?」
「龍園くんの名字にも合っていますし、強さも表現できます。
見た目を少し丸くすれば、可愛らしくなるかもしれません」
石崎が感心したように頷く。
「それ、結構いいんじゃないっすか?」
伊吹も想像してみたのか、完全には否定しなかった。
「龍園をそのままキャラにするよりはマシね」
「誰が俺自身を着ぐるみにするって言った」
西野が腕を組みながら首を傾げる。
「ドラゴンって……ゴジラみたいな感じ?」
ひよりは静かに首を横へ振った。
「ゴジラはドラゴンではありません」
「そこは即答なのね」
伊吹が苦笑する。
「じゃあ、リザードン?」
「リザードンは、ほのお・ひこうタイプです。ドラゴンタイプではありません」
ひよりは迷いなく答えた。
石崎が目を丸くする。
「いや、そこまで詳しく言う必要あるか?」
「正確な情報は大切です」
ひよりは穏やかな笑みを浮かべたまま続ける。
「なお、メガシンカ後の一形態はドラゴンタイプになります」
龍園が額へ手を当てる。
「誰もそこまで聞いてねぇ」
「補足です」
「補足が長いのよ」
伊吹は肩をすくめる。
龍園クラスでは、試験説明の途中ですでに最初の案が生まれ始めていた。
一之瀬のクラスでも同様だった。
「私たちは、みんなが安心できるようなキャラクターがいいかな」
一之瀬が言うと、周囲の生徒たちも自然に頷く。
「犬とかどうだ?」
「いいかも。親しみやすいし」
「一之瀬さんっぽいよね」
「私っぽいの?」
「人懐っこくて、誰とでも仲良くなれるところが」
一之瀬は少し照れたように笑った。
神崎は早くも冷静な視点から意見を加える。
「ただ可愛いだけでは、他クラスとの差別化ができない。
学校の理念やクラスの特徴を、何らかの形で盛り込む必要がある」
「真面目だね、神崎くん」
「300ポイントが懸かっている。ゆるキャラだからといって手を抜く理由はない」
その言葉に、一之瀬クラスの生徒たちも表情を引き締めた。
題材が何であれ、始まれば全力を尽くす。
一之瀬のクラスらしい反応だった。
坂柳クラスでは、橋本が坂柳有栖へ尋ねていた。
「うちは何を作るんだ?やっぱりチェスの駒か?」
「まだ決めてはいませんが、悪くない発想ですね」
神室が露骨に嫌そうな顔をする。
「絶対に人気出ないでしょ」
「なぜです?」
「子供がチェスのポーンを見て喜ぶと思う?」
「見せ方次第です。小さな身体に王冠を載せ、
愛らしい顔を与えれば、十分に親しみやすくなります」
「もう具体的に考えてるじゃん」
「試験が始まった以上、勝利を目指すのは当然でしょう」
橋本は感心したように笑う。
「さっきまで全員ドン引きしてたのに、もう勝つ気になってる。
やっぱり300ポイントの力はすげぇな」
「ポイントだけではありません。
皆さんがどのようなキャラクターを生み出すのか、純粋に興味があります」
坂柳は周囲のクラスを見渡した。
「能力の高い者が、必ずしも優れたゆるキャラを作れるとは限りません。
普段は目立たない生徒が、思わぬ才能を示す可能性もある。
そう考えれば、なかなか興味深い試験です」
一方、高円寺だけは周囲と異なる方向へ進み始めていた。
「キャラクターを一体制作する必要があるのだったね?」
「そうみたいだけど」
平田が答える。
「ならば、すでに完成している」
「何が?」
「私だ」
高円寺は自信に満ちた表情で自分の胸に手を当てる。
「知性と美を兼ね備え、誰からも愛される存在。
新たなキャラクターを作る必要などない。私自身をモデルにすればいい」
「それはゆるキャラなのか?」
オレが尋ねる。
「細かな分類に拘る必要はない。重要なのは、人々を魅了できるかどうかだ」
「少なくとも、親しみやすさはないと思う」
「綾小路ボーイ。嫉妬は美しくないよ」
嫉妬ではない。
だが高円寺なら、本当に自分を模した巨大な着ぐるみを作りかねない。
そして誰の協力も得ずに完成させ、
単独で高得点を獲得する可能性すら否定できなかった。
「審査は学園祭当日、三段階に分けて行います」
坂柳理事長が説明を続ける。
「第一審査は、専門家によるデザインおよび設定の評価。
第二審査は、ステージ上での演技とプレゼンテーション。
最終審査は、一般来場者および全校生徒による人気投票です」
スクリーンに、それぞれの配点が表示される。
専門審査が三十点。
ステージ審査が三十点。
人気投票が四十点。
見た目が優れているだけでは勝てない。
着ぐるみを使った演技。
キャラクターの魅力を伝えるプレゼン。
宣伝によって知名度を高める活動。
全てを高い水準でまとめる必要がある。
「人気投票には全校生徒も参加できるんですか?」
誰かが質問した。
「はい。ただし、自分のクラスのキャラクターへ投票することは禁止します」
その言葉で、空気が再び変わる。
自分たちの票だけで順位を押し上げることはできない。
他クラスの生徒から支持を得る必要がある。
「他クラスとの取引は禁止ですか?」
坂柳有栖が尋ねる。
「投票の強要、ポイントを用いた買収、組織的な票の交換は禁止します。
ただし、宣伝や交渉そのものを制限することはありません」
「つまり、相手が自発的に投票したくなるよう誘導することは認められるのですね」
「ルールの範囲内であれば」
坂柳の笑みが少しだけ深くなった。
龍園も同じ説明を聞きながら、不敵な表情を浮かべている。
人気投票。
その言葉を聞いて、純粋に可愛らしいキャラクターを
作ることだけを考えているわけではないだろう。
すでに票を動かすための方法を考え始めているはずだ。
ゆるキャラ選手権という平和な名前とは裏腹に、
試験が進めば各クラスの駆け引きが激しくなることは容易に想像できた。
「なお、各キャラクターには最低一名、
着ぐるみを着用して演技する担当者を設定してください。
担当者の交代は認めますが、学園祭当日のステージ審査には、
事前登録した生徒のみが参加できます」
その説明が流れた瞬間。
オレは背後から強い視線を感じた。
振り返らなくても、誰が見ているのか分かった。
長谷部波瑠加だ。
「きよぽん」
聞こえないふりをした。
「きよぽん」
まだ名前すら決まっていないはずだ。
「きよぽん、聞こえてる?」
「聞こえている」
仕方なく振り返る。
長谷部は先ほどまでの困惑が嘘のように、目を輝かせていた。
「もう決まったよ」
「何がだ」
「うちのクラスのゆるキャラ」
「まだ説明の途中だ」
「名前も決まった」
嫌な予感しかしない。
長谷部は胸を張り、自信満々に告げた。
「きよぽん」
「却下だ」
考える間もなく答えた。
「早くない?まだデザインを見せてないよ」
「見なくても分かる」
「何が分かるの?」
「オレをモデルにするつもりだろ」
「正解」
「なら却下だ」
「でも、絶対に人気出るよ」
「出なくていい」
「無表情で、丸くて、ちょっと眠そうな感じにするの」
「オレである必要がない」
「きよぽんだから意味があるんだよ」
「意味が分からない」
長谷部はすでに自分のタブレットを取り出し、簡単な線を描き始めていた。
丸い輪郭。
半分閉じたような目。
表情の乏しい口元。
数本の線だけにもかかわらず、何を描こうとしているのか理解できてしまう。
「ほら、こんな感じ」
「似せなくていい」
「手にはヨーグルトを持たせよう」
「なぜ知っている」
「前に好きだって言ってたでしょ」
余計なことを覚えている。
「設定は、いつも静かにクラスを見守っている謎の生き物。
得意技は、知らない間に問題を解決すること」
「やめろ」
「口癖は『オレは何もしていない』」
「捏造するな」
「でも大体そんな感じじゃない?」
近くで聞いていた佐藤が笑いを堪えながら会話に加わる。
「ちょっと見てみたいかも、きよぽん」
軽井沢も振り返った。
「え、何それ。清隆をゆるキャラにするの?」
「うん。絶対可愛いと思う」
「無表情な着ぐるみって逆に面白そう!」
賛同者が増え始めた。
「ちょっと待ちなさい」
そこへ堀北が割って入る。
「まだクラス全体で何を作るか決めていないわ。
勝手に個人をモデルにするのは認められない」
助かった。
少なくとも堀北は、長谷部の暴走を止める側らしい。
「それに、綾小路くんをモデルにしたところで、
このクラスの特色を十分に表現できるとは思えないわ」
「じゃあ堀北さんの案は?」
「知性と成長を象徴する、フクロウが適切だと思うわ」
堀北は迷いなく答えた。
「白を基調とした小さなフクロウに、学校の制服を思わせる衣装を着せる。
学ぶことの大切さを伝えられるキャラクターにすれば、学校の理念にも合うでしょう」
長谷部が少し考える。
「名前は?」
「ほりぽん」
オレは堀北を見た。
長谷部も堀北を見た。
軽井沢と佐藤も同時に堀北を見る。
「何か問題があるの?」
堀北は真顔だった。
「ほりぽんは、きよぽんと被る!」
長谷部が立ち上がる。
「どこがよ。フクロウと綾小路くんでは、外見も設定も全く違うでしょう」
「名前が被ってる!ぽんが!」
「ゆるキャラの名前に『ぽん』を付けるのは珍しくないわ」
「きよぽんの方が先だから!」
「今考えたのでしょう?」
「前から綾小路くんのことをきよぽんって呼んでた!」
「呼び名とキャラクター名は別よ」
「じゃあ、どっちが最高か勝負しよう!」
長谷部はタブレットに描きかけのきよぽんを掲げた。
「望むところよ」
堀北も引かなかった。
オレを助けてくれる側だと思ったのは間違いだったらしい。
「ほりぽんときよぽん。
どちらがクラスの代表に相応しいか、全員の意見で決めればいいわ」
「ゆけ、きよぽん!」
長谷部がこちらへ手を向ける。
周囲の視線が一斉にオレへ集まった。
「勘弁してくれ」
オレがそう言っても、誰も聞いていなかった。
「ほりぽんは知的で努力家なのよ」
「きよぽんは何を考えてるか分からないのが可愛い!」
「それは長所なの?」
「ミステリアス!」
「具体性に欠けるわ」
「ヨーグルトを作れる!」
「ゆるキャラに必要な能力ではないでしょう」
「ほりぽんだって、フクロウだからって勉強を教えられるわけじゃない!」
「設定上は可能よ」
いつの間にか、二人は真剣な表情で議論を始めていた。
軽井沢は面白がって動画を撮ろうとし、
佐藤と松下は笑いながら止める気配を見せない。
須藤は堀北の案を支持すべきか、きよぽんを面白がるべきかで迷っている。
池は自分の案を出す機会を失ったことに気づかず、
二つのキャラクターのどちらが人気を得るか真剣に考え始めていた。
平田だけが困ったように笑いながら、説明中だから静かにするよう促している。
だが長谷部と堀北の耳には届いていない。
壇上では坂柳理事長が、次の説明へ移ろうとしていた。
しかし体育館のあちこちで、
すでに各クラスのゆるキャラ案についての話し合いが始まっている。
龍園クラスでは、ひよりの提案したドラゴンを巡って、
可愛さを重視するか強さを重視するかで意見が割れていた。
一之瀬クラスでは犬を基本にした案が早くも支持を集め、
名前の候補が次々と挙げられている。
坂柳クラスでは、王冠を被ったチェスの駒という案を、
神室が本気で止めようとしていた。
高円寺は自分自身をモデルにした3メートル級の黄金の着ぐるみについて、
誰にも頼まれていないのに構想を語り始めている。
つい数分前まで、この試験を正気ではないと批判していた生徒たちが、
今では誰より真剣にゆるキャラについて考えていた。
人間の適応力は高い。
そして、300クラスポイントの力は強い。
坂柳理事長がその光景を見渡し、満足そうに微笑む。
「どうやら皆さん、すでに試験へ前向きに取り組み始めているようですね」
「前向きというより、引き返せなくなっているだけだと思います」
茶柱先生が小さく呟いた。
「それもまた、始まりとしては十分でしょう」
「私は最後まで反対です」
「ですが茶柱先生のクラスは、すでに最も活発に議論していますよ」
茶柱先生はオレたちの方を見る。
ほりぽんを主張する堀北。
きよぽんを主張する長谷部。
どちらでもいいから目立ちたい池。
着ぐるみ担当から逃れようとする須藤。
それを笑いながら見守る軽井沢たち。
そして、その中心で何もしていないにもかかわらず、
勝手にゆるキャラへされかけているオレ。
茶柱先生はしばらく無言でその光景を眺めた。
やがて、諦めたように目を閉じる。
「……頭が痛くなってきました」
「ゆるキャラには、人を一つにする力があります」
「少なくとも、私の頭痛を悪化させる力はありそうです」
そんな教師たちの会話をよそに、試験開始を告げる文字がスクリーンへ映し出された。
『第一回高度育成高等学校ゆるキャラ選手権』
開催期間、四週間。
優勝報酬、300クラスポイント。
そして、その下には今回の試験を象徴するような標語が記されていた。
『あなたのクラスにしか生み出せない、最高の仲間を作ってください』
仲間。
そう呼ぶには、まだ何一つ形になっていない。
名前すら決まっていない。
それでも各クラスの中では、これまでとは全く異なる戦いがすでに始まっていた。
学力でもない。
体力でもない。
暴力や脅迫が直接的な武器になるわけでもない。
求められるのは、誰かを笑顔にすること。
多くの人間に愛される存在を作ること。
この学校で最も得意とされてこなかった能力を競う試験なのかもしれない。
そしてオレにとって最大の問題は、この試験に勝てるかどうかではなかった。
「きよぽんの耳、付けた方がいいかな」
長谷部がタブレットを見ながら呟く。
「オレに耳はある」
「人間の耳じゃなくて、ゆるキャラっぽい耳」
「必要ない」
「じゃあ丸い角」
「もっと必要ない」
「ヨーグルトの容器を帽子にする?」
「やめろ」
「それ、可愛いかも!」
佐藤が賛同した。
「上に小さいスプーンも付けようよ」
軽井沢まで加わる。
「グッズにしたら売れそう。ヨーグルト型のポーチとか」
松下はすでに商品展開まで考えていた。
堀北はきよぽん陣営が拡大しつつあることに危機感を覚えたのか、
ほりぽんの魅力を説明し始める。
「フクロウなら羽を使った演技ができるわ。
勉強を応援するという明確な役割もある。
単に無表情でヨーグルトを持っているだけのキャラクターより、
よほど学校の理念に合っているでしょう」
「きよぽんは、黙って見守るんだよ!」
「何もしないのと同じではないの?」
「違う。きよぽんが勝手に」
「オレのせいにするな」
思わず口を挟んだことで、周囲から笑いが起きた。
長谷部はますます楽しそうにタブレットへ絵を描き足していく。
もう止めることは難しいだろう。
試験そのものは、まだ正式に始まったばかりだった。
各クラスのキャラクターは、名前も外見も決まっていない。
誰が絵を描き、誰が着ぐるみを作り、誰が中に入り、どのように宣伝するのかも不明だ。
それでも一つだけ、確信できることがあった。
おそらく、この試験はこれまで経験したどの特別試験よりも面倒なものになる。
学力で解決できる問題なら、まだ対処方法はある。
駆け引きが必要なら、相手の思考を読むこともできる。
体力が求められるなら、必要な分だけ動けばいい。
だが、ゆるキャラになれと言われた場合の正しい対処法を、オレは知らない。
「着ぐるみの中もきよぽんね」
長谷部が当然のように言った。
「やらない」
「やる」
「やらない」
「本人が入った方が完成度が高いよ」
「外からは見えないだろ」
「魂が違う」
「分からない」
「きよぽんの魂は、きよぽんにしか出せないから」
「オレはきよぽんではない」
「もう遅いよ」
長谷部は笑った。
その笑顔には、普段の軽い冗談とは異なる本気が混じっている。
彼女は本当に、オレをモデルにしたゆるキャラを作り、
学園祭の舞台へ立たせるつもりらしい。
堀北も、長谷部の案を止めるためではなく、
ほりぽんを勝たせるために本気になっている。
クラスメイトたちは、どちらの案が採用されるかを面白がっている。
誰もオレの意思を確認しようとはしない。
その事実に気づいた時。
オレは静かに理解した。
この試験が失敗するとは限らない。
むしろ、全校生徒が本気で取り組めば、
学園祭はこれまでにない盛り上がりを見せるかもしれない。
学校の新たな公式キャラクターが誕生し、多くの来場者に親しまれる可能性もある。
失敗するのは、試験ではない。
オレの平穏な学園生活の方だ。
こうして。
高度育成高等学校史上、最も平和でありながら、最も意味不明な特別試験。
第一回ゆるキャラ選手権が、静かとは程遠い形で幕を開けたのであった。