第一回・ゆるキャラ選手権の合同動作確認会が行われた翌朝、
試験専用ページには、四体の代表キャラが初めて揃った集合写真が掲載されていた。
ほなわん、ありすぽーん、ぶっくまる、きよぽん。
四体は横一列ではなく、
体育館の中央へ置かれた小道具を囲むように円形に並んでいる。
ほなわんは大きな耳を左右へ広げ、ありすぽーんは傾きかけた王冠を片手で押さえ、
ぶっくまるは一冊の本を大切そうに抱えていた。
そして、きよぽんは両手にヨーグルトの容器を持っている。
通常形態ではない。
ヨーグルトが一つ増えた第二形態である。
もっとも、外見上の変化は本当に容器が一つ増えただけだったため、
事情を知らない生徒からは、両手にヨーグルトを持つ姿が
通常のきよぽんだと思われ始めていた。
試験ページの感想欄には、早朝から多くの書き込みが寄せられている。
『きよぽんは、いつもヨーグルトを二個持っているの?』
『一個の時は弱体化状態らしい』
『第二形態になると何が変わるの?』
『両手が塞がる』
『弱くなってない?』
『進化ではなく、ヨーグルトが一つ増えただけらしい』
正確だった。
オレが森下へ説明した内容が、ほとんどそのまま全校へ広がっている。
着ぐるみの動作確認として参加したはずが、
いつの間にか第二形態の公式発表会になっていた。
そして、事態をさらに面倒にしていたのが、
集合写真に付けられた非公式の呼び名だった。
『高度育成高等学校ゆるキャラ四天王』
最初にその言葉を口にしたのは池だった。
ほなわんは仲間を増やす役。
ありすぽーんは何度転んでも立ち上がる役。
ぶっくまるは本によって知恵を与える役。
きよぽんは休憩によって体力を回復させる役。
四体を冒険物語の仲間へ見立てた、単なる冗談だったはずである。
ところが、四体が円形に並んだ集合写真が
想像以上に格好よく仕上がっていたこともあり、
誰かが写真へ『四天王集結』という文字を加え、
学園内の非公式掲示板へ投稿した。
その画像が、一晩のうちに広まった。
正式な試験ページでは
『代表ゆるキャラ、初めての合同練習』という無難な題名が使われている。
それにもかかわらず、生徒たちの間では、
すでに『ゆるキャラ四天王』という呼び方の方が定着し始めていた。
ほなわん。
ありすぽーん。
ぶっくまる。
きよぽん。
誰一人として、敵の幹部に見える外見ではない。
それでも四天王だった。
そして、その状況を最も喜んでいるのが長谷部波瑠加であることは、
教室へ入る前から予想できていた。
◯
朝の教室へ入った瞬間、黒板へ貼られた巨大なポスターが目に入った。
合同動作確認会で撮影された集合写真。
その上には、炎を思わせる派手な書体で大きな文字が重ねられている。
『高度育成高等学校ゆるキャラ四天王』
写真の中央には、ヨーグルトを二つ持ったきよぽん。
正確には、円形に並んでいるため中央に立っているわけではないのだが、
画像が切り取られ、きよぽんだけが僅かに大きく表示されていた。
さらに、四体の下には、それぞれの役割が書かれている。
ほなわん。
『友情の四天王』
ありすぽーん。
『不屈の四天王』
ぶっくまる。
『知恵の四天王』
きよぽん。
『発酵の四天王』
オレはポスターの前で足を止めた。
「きよぽんだけ役割がおかしい」
背後から長谷部の声が聞こえる。
「おはよう、清隆くん」
「説明しろ」
振り返ると、長谷部は机の上で複数の小型ポスターを整理していた。
隣では軽井沢と佐藤が、試験ページへ掲載する短い宣伝文を考えている。
池は自分の端末へポスターを保存し、須藤は呆れた顔で黒板を見上げていた。
三宅と幸村は、二人とも制作作業とは関係のない教科書を開いている。
ただし、実際に読んでいるのは幸村だけで、
三宅は面倒な騒動へ巻き込まれないよう視線を下げているように見えた。
佐倉はポスターと長谷部を交互に見ながら、
止めた方がいいのか判断できずにいる。
「説明って、四天王のこと?」
長谷部は当然のように尋ね返した。
「きよぽんが発酵担当になっている」
「ヨーグルト担当より格好いいでしょ?」
「格好よさの問題ではない。きよぽん自身が発酵するように見える」
「ヨーグルトを作る力って意味だよ」
「きよぽんはヨーグルトを作るキャラクターではない」
「でも清隆くんは作れるんでしょ?」
「オレの話と混ぜるな」
「本人監修だから」
「監修はヨーグルトに関する設定だけだ」
言ってから、長谷部の表情が変わった。
失言だった。
「今、監修って認めた?」
「ヨーグルトに関する誤りを訂正する範囲だけだ」
「部分公認監修者」
「妙な肩書を作るな」
長谷部は端末へ入力しようとする。
オレはその手を止めた。
「それより、なぜきよぽんだけ写真を大きくした」
「うちのクラスの宣伝用だから」
「他クラスの代表を利用して、きよぽんを目立たせているように見える」
「利用じゃないよ。四体全員を紹介してる」
「ほなわんの耳が半分切れている」
「横幅が広かったから」
「ありすぽーんの王冠も先端が切れている」
「縦に長かったから」
「ぶっくまるは眼鏡へ文字が重なっている」
「ちょうど空いてる場所がなかったの」
三体を紹介するというより、
きよぽんを中心にするために無理やり押し込んだような配置だった。
「他クラスへ確認したのか」
長谷部が止まった。
「まだ」
「今すぐ外せ」
「でも、もうクラスのみんなに好評だよ」
「他クラスのキャラクターを使っている以上、許可が必要だ」
「試験ページに載った公式写真だから、使っていいんじゃない?」
幸村が教科書から顔を上げる。
「写真そのものの利用条件と、
キャラクターを広告へ使用する権利は別に考えるべきだ。
試験の宣伝目的であっても、自分たちのクラスが有利になる加工を行ったなら、
事前に確認した方がいい」
「ゆきむーまで?」
「当然だ」
「でも、もう作っちゃった」
「作成したことと、公開していいかは別だ」
長谷部は不満そうにポスターを見る。
「じゃあ聞いてくる」
「今からか」
「四天王全員に」
「着ぐるみに聞く気か?」
「各クラスのマネージャー」
「そんな役職が全クラスに存在するとは限らない」
「ほなわんは一之瀬さん。ありすぽーんは坂柳さん。ぶっくまるは椎名さん」
「全員制作者だな」
「きよぽんは私」
「半公認だ」
「もう四分の三公認」
「勝手に増やすな」
長谷部はポスターを数枚抱えると、
朝のホームルームが始まるまでに許可を取ると言い残し、教室から飛び出していった。
軽井沢と佐藤も面白がって同行する。
池も行こうとしたが、須藤に制服の襟を掴まれた。
「お前まで行ったら、話が余計ややこしくなるだろ」
「四天王の名付け親だぞ!」
「正式名称じゃねぇよ」
「俺には見届ける権利がある!」
「ない」
須藤は池を自分の席へ戻した。
教室の前では、きよぽんだけが大きく表示された四天王ポスターが、
生徒たちを見下ろしている。
「清隆くん」
佐倉が少し遠慮がちに声をかけた。
「四天王って呼ばれるの、嫌?」
「呼び方自体はどうでもいい」
「発酵の四天王は?」
「変更するべきだ」
「じゃあ、休息の四天王?」
「それなら設定には合う」
佐倉は小さく笑った。
「ちゃんと考えてくれるんだね」
「間違った設定のまま広がる方が問題だからだ」
「でも、四天王っていう部分は否定しないんだ」
「正式名称でなければ、他の生徒が何と呼ぶかまで制限できない」
三宅が机へ頬杖をつきながら言う。
「もう諦めてるだけじゃないか?」
「現実的な判断だ」
「最初の頃より、きよぽんに関する諦めが早くなったよな」
「諦めではない」
「慣れ?」
佐倉が尋ねる。
「必要以上に抵抗しても、長谷部が別の形で話を進めることを学んだ」
「それは諦めだろ」
三宅が笑った。
否定しようとしたが、完全には否定できなかった。
◯
長谷部が最初に向かったのは、一之瀬クラスだった。
その様子は後から本人に聞いたものだが、
一之瀬は四天王ポスターを見るなり、素直に目を輝かせたらしい。
「すごいね!四体が仲間みたい!」
「使っていい?」
長谷部が尋ねると、一之瀬は迷わず頷いた。
「もちろん。ほなわんも喜ぶと思う」
「耳が半分切れてるけど」
軽井沢が指摘する。
一之瀬はポスターを改めて見る。
ほなわんの長い耳は、画像の端で少し切れている。
「少しだけなら大丈夫かな」
「本当に?」
「うん。でも、できたら耳が全部入ってる方が嬉しい」
「直す」
長谷部は素直に答えた。
神崎は一之瀬の横からポスターを確認し、
きよぽんが他の三体より一回り大きく表示されていることに気づいた。
「これは堀北クラスの宣伝物か?」
「そうだよ」
「なら、きよぽんを中心へ置く意図は理解できる。
ただし『四天王』という呼び方を公式名称のように扱うべきではない」
「非公式って小さく書く」
「小さすぎれば意味がない」
「じゃあ中くらい」
「文字の大きさの問題ではない」
神崎がどれだけ真面目に説明しても、
一之瀬は四体が仲良く並ぶポスターそのものを気に入っていた。
最終的には、ほなわんの耳を全て入れ、
『四天王』の横へ『非公式』と明記することを条件に許可が出た。
次に向かった坂柳クラスでは、さらに面倒な確認が必要になった。
「四天王ですか」
坂柳はポスターを見ながら、楽しそうに微笑んだ。
「ありすぽーんは、四天王の中でどのような役割なのです?」
「不屈担当」
長谷部が答える。
「転んでも立ち上がるから」
「悪くありませんね」
坂柳は肯定的だった。
ただし、その隣にいた森下が問題を起こした。
「きよぽんは四天王のリーダーですか」
「違うよ」
「最も大きく表示されています」
「うちのポスターだから」
「つまり、堀北クラスの視点ではリーダー」
「違う」
「では裏の支配者」
「もっと違う」
森下はポスターへ顔を近づける。
「第二形態で四天王会議へ参加している点も気になります」
「ヨーグルトを二個持ってるだけだよ」
「会議中の栄養補給ですか」
「そうかも」
「勝手に意味を加えるな」
神室が森下の頭を軽く押し、ポスターから離した。
白石は、ありすぽーんの王冠の先端が画像から切れていることへ気づく。
「王冠は、ありすぽーんの夢を表す大切なものですので、
できれば全体を入れていただけると嬉しいです」
「ごめん。直すね」
「それから」
山村が少し離れた場所から、小さな声を出した。
長谷部たちが振り返る。
「な、何でもありません……」
「何?」
軽井沢が優しく尋ねる。
山村はポスターを見ながら、言葉を選んだ。
「ありすぽーんだけ、少し前に出ているように見えます……」
合同練習時、ありすぽーんは他の三体より小柄だったため、
集合写真では少しだけ円の中央へ寄せられている。
その結果、加工後のポスターでは、ありすぽーんだけがきよぽんへ迫っているように見えた。
「確かに」
佐藤が頷く。
「きよぽんに勝負を挑んでるみたい」
「望むところです」
森下が即答した。
「何をする気?」
神室が尋ねる。
「ゆるキャラ相撲」
「やらない」
「ありすぽーんは転んでも立ち上がります」
「最初から転ぶ前提で相撲をするな」
坂柳は森下の提案を笑顔で聞いていたが、
試験規則上認められないと判断し、正式に却下した。
ポスター自体については、王冠全体を入れ、
ありすぽーんの位置を僅かに後ろへ修正することを条件に許可が下りた。
最後に龍園クラスを訪れた長谷部たちは、最も厳しい反応を予想していた。
龍園は、机の上へ広げられたポスターを見下ろす。
「四天王?」
「うん」
長谷部は少し警戒していた。
「ぶっくまるも使っていい?」
龍園はポスターを手に取る。
ぶっくまるの丸眼鏡へ『知恵の四天王』という文字が重なっている。
「眼鏡を隠すな」
最初の指摘だった。
「直す」
「きよぽんだけデカい」
「うちの代表だから」
「俺たちのぶっくまるを使って、自分のところだけ目立たせる気か?」
「そこまで大きくないよ」
「一・二倍くらいある」
龍園は正確に比率を見抜いていた。
軽井沢が端末上の設定を確認する。
「本当に一・二倍だ」
「適当に大きくしたのに」
長谷部自身も驚いていた。
「全員同じ大きさにしろ」
「でも堀北クラスのポスターだよ?」
「なら、きよぽんだけのポスターを作れ。四天王を名乗るなら、四体を同じに扱え」
正論だった。
伊吹が意外そうに龍園を見る。
「龍園が公平なこと言ってる」
「俺がいつ不公平だった」
「いつも」
「お前の評価は聞いてねぇ」
ひよりはポスターを受け取り、ぶっくまるの部分を眺める。
「私は、四体が仲間のように見えるところは好きです」
「使っていい?」
長谷部が期待する。
「はい。ただし、ぶっくまるの本も全部見えるようにしてください」
現在の画像では、本の下側がきよぽんの丸い身体へ重なり、表紙の一部が隠れている。
「それも直す」
「りゅうまるも入れたらどうだ?」
石崎が提案した。
「四天王なのに、五体になるよ」
佐藤が答える。
「友達枠で小さく入れるとか」
「ほりぽんも入れなければ不公平になる」
ひよりが言う。
「ほなわんとありすぽーんにも友達が増えた場合、さらに多くなりますね」
「四天王と仲間たち」
石崎が言った。
「それ、良いかも」
長谷部は端末へ書き込む。
龍園は、きよぽんが大きく表示された初期案を再び見る。
「それで、こいつは何の四天王なんだ」
「発酵」
「弱そうだな」
「休息に変える予定」
「もっと弱そうだ」
「戦うキャラクターじゃないから」
「四天王なのにか?」
「四天王も戦わなくていいんだよ」
「なら、何をする四天王だ」
長谷部は少し考える。
「みんなを応援したり、一緒に休んだりする」
龍園は数秒黙った後、鼻で笑った。
「随分平和な四天王だな」
「ゆるキャラだから」
「だったら『四天王』より『四人組』でいいだろ」
「四天王の方が格好いい」
「結局そこかよ」
龍園の許可も、全員を同じ大きさへ修正し、
ぶっくまるの眼鏡と本を隠さないという条件で下りた。
長谷部たちは、朝のホームルーム開始直前に教室へ戻ってきた。
最初に掲示されていたポスターは外され、端末上で修正作業が始まる。
「全員同じ大きさ」
軽井沢が画像を調整する。
「ほなわんの耳を全部入れる」
佐藤。
「ありすぽーんの王冠も」
「ぶっくまるの眼鏡と本へ文字を重ねない」
「きよぽんは?」
長谷部が尋ねる。
「ヨーグルト二個を両方見せる」
軽井沢が答える。
「そこは譲らないんだ」
「第二形態だから」
「きよぽんだけ通常形態に戻してもいいんじゃない?」
松下が言う。
長谷部は首を振る。
「集合写真と違う姿に加工するのはよくないよ」
他の三体を切り取り、きよぽんだけ大きくしていた本人が言うと説得力は低い。
それでも、最終的なポスターは最初のものより公平な仕上がりになった。
四体の大きさは同じ。
装飾品も全て見える。
中央には四体が交換した小道具。
ほなわんのお友達カード。
ありすぽーんの王冠飾り。
ぶっくまるの本。
きよぽんのヨーグルト。
上部には。
『非公式・高度育成高等学校ゆるキャラ四天王』
下部には。
『競争相手だけど、今日は友達』
「良いんじゃない?」
平田が完成品を見る。
「四体それぞれの宣伝にもなるし、試験全体への興味も高まりそうだね」
堀北も細部を確認した。
「最初の案よりは、かなり良くなったわ」
「最初のも良かったよ」
長谷部が反論する。
「きよぽん以外が見切れていたでしょう」
「少しだけ」
「少しでも駄目よ」
「他クラスの許可は取ったんだから、これで公開していい?」
「待ちなさい」
堀北は題名を見る。
「ゆるキャラ四天王という呼び方を、私たちのクラスが公式に広めるの?」
「非公式って書いてる」
「それでも、四体の中できよぽんだけが戦いを想定していないわ」
「ほなわんも戦わないよ」
「ぶっくまるも」
佐倉が言う。
「ありすぽーんも、基本的には戦いません」
幸村も続ける。
「なら、四天王という言葉自体が全員へ合っていない」
「だから面白いんだよ」
長谷部の答えに、堀北は黙った。
真面目に意味を考えれば合わない。
しかし、強そうではない四体が四天王と呼ばれていること自体が、
親しみやすい冗談になっている。
「試験の品位を損なう内容ではない」
幸村が分析する。
「他クラスも許可している。非公式と明記し、
投票を求めるような文言もない。宣伝物として問題は少ないと思う」
「ゆきむーが味方した」
「規則上の判断だ」
堀北は最後にオレを見る。
「綾小路くんは?」
「何がだ」
「きよぽんが四天王と呼ばれることについてよ」
「オレに許可を求める必要はない」
「モデルの意見として聞いているの」
「本人監修」
長谷部が付け加える。
「最低限だ」
オレはポスターを見る。
四体。
全員が同じ大きさ。
きよぽんだけが特別扱いされているわけではない。
「他クラスが認めているなら、問題ないと思う」
「四天王を認めた!」
長谷部が喜ぶ。
「ポスターの使用を認めただけだ」
「きよぽん、四天王入り正式決定!」
「非公式だと書いてある」
「非公式に正式決定」
「矛盾している」
それでもポスターは公開された。
試験専用ページではなく、校内の宣伝掲示板。
各クラスの教室前。
食堂。
図書館。
特別棟。
学園側が許可した複数の場所へ掲示される。
四体のゆるキャラは。
正式な試験順位が発表されるより前に。
四天王として、さらに知名度を上げていくことになった。
◯
昼休みには、四天王ポスターを見た生徒たちの間で、
それぞれの役割について議論が始まっていた。
ほなわんが友情。
ありすぽーんが不屈。
ぶっくまるが知恵。
きよぽんが休息。
この四つは比較的分かりやすい。
しかし、一部の生徒は、もっと四天王らしい能力を付けるべきだと考えたらしい。
『ほなわんは、友達を呼んで集団攻撃』
『ありすぽーんは、何度倒されても復活』
『ぶっくまるは、敵の弱点が載った本を出す』
『きよぽんは、ヨーグルトで回復』
ゲームの登場人物のような設定が、勝手に広がっていく。
長谷部は全てを面白がっていたが、幸村は設定の混乱を心配し、
公式プロフィールと非公式な遊びを明確に分けるよう求めた。
「きよぽんに回復能力はない」
幸村が言う。
昼食を終えた後。
オレたちは教室で、試験ページの感想欄を確認していた。
「ヨーグルトを食べれば、少し元気になることはある」
長谷部が反論する。
「それは一般的な食事による効果だ。きよぽんの特殊能力ではない」
「でも四天王ごっこをする時だけならいいでしょ?」
「誰がごっこをする」
三宅が尋ねる。
「四体の着ぐるみで短い動画を撮る」
長谷部は新しい企画書を机へ置いた。
嫌な予感がする。
題名。
『ゆるキャラ四天王、ありすぽーんを救え!』
内容。
ありすぽーんが転ぶ。
ほなわんが仲間を呼ぶ。
ぶっくまるが起き上がり方の本を探す。
きよぽんが隣に座る。
最後に全員でありすぽーんを助け起こす。
合同練習の感想欄へ書かれていた物語を、そのまま映像化する案だった。
「起き上がり方の本を探している間に、補助員が助けるべきだ」
オレが言う。
「安全確認じゃなくて物語だから」
「ありすぽーん役の森下が、本当に転ぶ可能性がある」
「マットを敷く」
「故意に転倒させる必要はない」
「最初から座ってれば?」
佐倉が提案した。
「ありすぽーんが転んだ後から始めるの」
「それなら危険は少ない」
幸村が頷く。
「撮影前に着用者を座らせ、起き上がれない演技をさせる。
実際に転倒する場面は、イラストや効果音で表現すればいい」
「ゆきむー、やる気ある?」
長谷部が尋ねる。
「安全に撮影する方法を考えているだけだ」
「動画そのものには反対しない?」
「他クラスの同意があり、試験の宣伝になるなら検討する価値はある」
「採用!」
「決めるのは堀北と各クラスだ」
企画書は、堀北へ渡された。
堀北は最初から拒否せず、内容を一つずつ確認していく。
「ほなわんが仲間を呼ぶ場面は、誰を呼ぶの?」
「ぶっくまるときよぽん」
「最初から近くにいる設定では駄目なの?」
「それだと、ほなわんの役割がなくなる」
「ぶっくまるが探す本は?」
「『転んだ時の起き上がり方』」
「実在するの?」
「作る」
「小道具を増やしすぎないで」
「きよぽんは、ありすぽーんの隣に座るだけ?」
「うん」
堀北はオレを見る。
「演技できる?」
「座るだけなら」
答えた後。
長谷部が笑う。
「もう出演する前提で答えたね」
「企画が実施される場合の話だ」
「きよぽん四天王、映像デビュー」
「まだ許可されていない」
「私は条件付きで賛成よ」
堀北が言った。
オレと三宅が同時に堀北を見る。
「本気か?」
「試験の宣伝として悪くないわ。
四体それぞれの性格を説明しながら、他クラスと協力する姿を見せられる」
「競争相手を宣伝することにもなるぞ」
三宅が言う。
「私たちだけが利用する形より公平でしょう。
それに、きよぽんの知名度はすでに高い。
ここから必要なのは、単なる内輪受けではなく、
他のキャラクターと関わった時にも魅力を出せると示すことよ」
合理的だった。
きよぽん単独。
オレとの関係。
ヨーグルト。
それだけでは、一般来場者へ十分に魅力が伝わらない可能性がある。
ほなわん、ありすぽーん、ぶっくまるとの交流を通じれば、
きよぽんがどのような役割を持つのかを分かりやすく見せられる。
「ただし、撮影は着ぐるみの改良と交代要員の練習が終わってからよ」
堀北は三宅を見る。
「今日の放課後、三宅くんにきよぽんへ入ってもらうわ」
「今、動画の話だっただろ」
「交代担当が動けなければ、撮影も本番も綾小路くん一人へ負担が集中する」
「分かってるけど」
「なら問題ないでしょう」
三宅は逃げ道を失った。
長谷部が嬉しそうに肩を叩く。
「みやっち、きよぽんデビュー」
「まだ喜べねぇよ」
「大丈夫。歩くだけだから」
「その言葉、清隆にも何回も使ってただろ」
「今は握手もできるよ」
「増えてるじゃねぇか」
「次はヨーグルト手振り」
「絶対やらない」
「第二形態の交代要員も必要だよ」
「通常形態すら入ってねぇ!」
教室に笑いが広がる。
三宅にとっては笑い事ではない。
しかし。
オレ一人では、学園祭の長時間活動を担当できない。
三宅自身も、それを理解している。
不満を口にしながらも。
完全に拒否することはなかった。