四クラス合同で制作した短編宣伝動画
『ゆるキャラ四天王ありすぽーんを救え!』の公開日を迎えた朝、
高度育成高等学校では、普段と変わらない授業が行われていた。
少なくとも、表面上はそう見えた。
動画が試験専用ページへ掲載されるのは午後六時であり、
それまでは一般の生徒が完成版を見ることはできない。
公開前に映像を確認できるのは、
撮影へ参加した四クラスの代表者や制作担当者、試験運営側の教師だけだった。
それでも、校内には朝から落ち着かない空気が漂っている。
前日の撮影を遠くから見ていた生徒。
四天王ポスターを気に入った生徒。
合同動作確認会の写真を見て、四体の関係に興味を持った生徒。
何より、きよぽんの第二形態が本当にヨーグルトを一つ増やしただけなのか、
映像内で新しい能力を見せるのではないかと期待する生徒。
様々な噂が、動画の公開前から広がっていた。
『ありすぽーんが本当に転んだらしい』
『ほなわんが助けようとして、ありすぽーんごと倒れたらしい』
『ぶっくまるが救助の本を十冊持ってきたらしい』
『きよぽんがヨーグルトを投げたらしい』
最後の情報だけは、完全な誤りだった。
オレはヨーグルトを投げていない。
ありすぽーんの王冠を拾えなかったため、その隣へ置いただけである。
しかし、事情を知らない者へ一部だけが伝われば、
ヨーグルトを武器として使ったように変化しても不思議ではない。
教室へ向かう途中にも、後ろを歩く男子生徒たちの会話が聞こえてきた。
「きよぽんって、ヨーグルトでありすぽーんを回復させたんだろ?」
「違うらしいぞ。王冠にヨーグルトを食わせたんだって」
「王冠って食べるのか?」
「ありすぽーんの本体が王冠なのかもしれない」
どこから修正するべきか分からない。
そもそも他クラスの生徒同士の会話へ割って入り、
きよぽんの行動を説明する方が不自然だった。
オレは何も聞かなかったことにして、そのまま教室へ入った。
◯
堀北クラスでは、動画公開の六時間以上前から、
長谷部が宣伝体制を整えていた。
黒板の右側には、公開時刻を示す大きな紙が貼られている。
『本日午後六時公開!』
その下には、四体の集合写真と動画の題名。
さらに、きよぽんとありすぽーんの手が触れた場面を切り取った画像へ、
『手が届かなくても』という短い言葉が添えられていた。
昨日の撮影後、長谷部がポスターへ使用したいと話していた場面である。
坂柳クラスにも確認し、ありすぽーんが不利になるような加工を
行わないことを条件に、使用許可を得たらしい。
「おはよう、きよぽん」
長谷部は自分の席ではなく、黒板の前に立っていた。
腕には『堀北クラス公認・きよぽんマネージャー』と書かれた腕章が付いている。
「朝から何をしている」
「動画公開の準備」
「公開作業は学園側が行う」
「宣伝の準備だよ」
長谷部は黒板の左側に、別の紙を貼る。
『午後六時以降、感想募集中!』
その下には、動画の中で一番好きだった場面を
回答する簡単な投票欄が用意されていた。
ほなわんが一人でありすぽーんを助けようとする場面。
ぶっくまるが倒れた本を直す場面。
ありすぽーんが王冠へ手を伸ばす場面。
きよぽんが王冠の隣へヨーグルトを置く場面。
四体が最後に手を重ねる場面。
「勝手に人気投票を始めるな」
オレが言うと、長谷部はすぐに首を振った。
「キャラクターの人気投票じゃないよ。好きな場面」
「結果によっては、特定のキャラクターの人気が高いと受け取られる」
「今後の宣伝動画を作る時の参考にするだけ」
「また作る前提なのか」
「動画が好評だったらね」
「一作目もまだ公開されていない」
「だから準備してる」
長谷部は、昨日までのように勢いだけで話を進めているわけではなかった。
投票用紙の上部には、結果を各キャラクターの正式な順位へ利用しないこと、
特別試験の一般投票とは無関係であることが明記されている。
公認マネージャーになってから、堀北や幸村の確認を通すようになったため、
最低限の注意事項は理解しているらしい。
「堀北の許可は取ったのか」
「取ったよ」
「ゆきむーにも見てもらった」
幸村は自分の席で教科書を開いていた。
「投票対象を場面へ限定し、全クラスが確認できるよう
結果を公開するなら問題は少ないと判断した」
「他クラスには?」
「集計後に送る」
「事前に送った方がいい」
幸村が少し考える。
「確かに、結果の共有だけでなく、投票を行うこと自体も知らせるべきだな」
長谷部がオレを見る。
「また清隆くんの確認で修正された」
「他クラスのキャラクターも使っているからだ」
「公認マネージャー補佐?」
「ならない」
「監修者?」
「最低限だ」
「きよぽん本人?」
「違う」
会話はいつもの形へ戻る。
その間に、三宅と佐倉も登校してきた。
三宅は黒板の画像を見ると、自分が入っていた最後の場面を探した。
「俺の場面、これだけか?」
「四体で手を重ねるところ」
長谷部が答える。
「一番最後の大事な場面だよ」
「でも、きよぽんとありすぽーんの場面は清隆だろ」
「うん」
「俺がきよぽんに入ってたって分かる奴いるのか?」
「分からない方が成功だ」
オレは言った。
「着用者が変わったと気づかれなければ、動作の統一はできている」
「それはそうだけど」
三宅は納得しているような、少し物足りないような表情だった。
「みやっちのきよぽんは、手を出すのが早かったよ」
佐倉が説明する。
「四体で手を重ねる時、ほなわんが動いたらすぐに手を伸ばした」
「清隆だったら?」
「少し見てから動くと思う」
「じゃあ、分かる人には分かるんだな」
三宅は僅かに笑った。
「中身が誰かまで分からなくても、少し元気なきよぽん」
「それなら悪くない」
「みやっちも、きよぽん役を気に入ってきたね」
長谷部が言う。
「気に入ったとは言ってない」
「今の間は?」
「どう見えるか気になっただけだ」
「愛着だね」
「便利な言葉にするな」
三宅は反論しながらも、黒板の最後の場面をもう一度見ていた。
佐倉は『手が届かなくても』のポスターへ近づく。
「きれいにできたね」
「愛里の案も入ってるよ」
長谷部が答える。
「最初は一メートル離れて座って、少しずつ近づくところ」
「撮影では、森下さんが手を伸ばしたから、予定より良くなったと思う」
佐倉は、きよぽんとありすぽーんの短い腕が僅かに触れている画像を見る。
「二人とも、手が短いから届かなかった。でも近づけば、少しだけ触れられた」
「きよぽんは一人では大きな丸も作れないし、ありすぽーんも一人では立ち上がれない」
長谷部が言う。
「できないことが似てるのかも」
オレは黒板へ視線を向ける。
きよぽん。
ありすぽーん。
外見も性格も違う。
きよぽんは、最初から無理に頑張らない。
ありすぽーんは、何度転んでも立ち上がろうとする。
正反対にも見える。
ただし、一人ではできないことが多いという点では共通していた。
「ありすぽーんは、きよぽんが立ち上がらないことを責めない」
佐倉が続ける。
「きよぽんも、ありすぽーんが何回転んでも笑わない」
「相性良いね」
長谷部は嬉しそうだった。
「きよぽんの二番目の親友にする?」
「ほりぽんが最初の親友で、ありすぽーんが二番目?」
「順位を付ける必要はないだろう」
オレが止める。
「また設定の意見を出した」
「友達に順位を付けると、ほなわんやぶっくまるとの関係まで複雑になる」
「きよぽん、友達増えたね」
「オレに言うな」
「きよぽんに言ってる」
「ここにはいない」
長谷部は黒板へ貼られた画像を指す。
「いるよ」
否定しようとした時。
茶柱先生が教室へ入ってきた。
黒板を見る。
公開時刻。
感想投票。
ポスター。
数秒。
何も言わない。
「先生」
池が尋ねる。
「動画、楽しみですか?」
「授業を始める」
「見ますよね?」
「試験運営側の確認ですでに見た」
教室がざわついた。
「もう見たの!?」
長谷部が驚く。
「教師だからな」
「感想は?」
「特にない」
「一番好きな場面は?」
「ない」
「王冠の隣にヨーグルトを置くところ?」
「なぜ答えを誘導する」
茶柱先生は教卓へ資料を置く。
「感想投票へ教師は参加しない」
「でも見たんですよね」
佐藤が尋ねる。
「見た」
「面白かったですか?」
茶柱先生は少し黙った。
「安全に撮影できていたことは評価する」
「内容は?」
「四体の性格は分かりやすかった」
「どの場面が一番?」
軽井沢が追及する。
「授業を始めると言っている」
「きよぽん?」
池。
茶柱先生の視線が池へ向く。
「廊下へ出るか?」
「出ません」
池は黙った。
それでも。
茶柱先生が動画を悪く評価していないことは、反応から伝わっていた。
◯
午前中の授業が進む間にも、
試験専用ページでは公開時刻を知らせる表示が大きくなっていった。
通常の試験情報。
各クラスの代表キャラクター。
グッズ制作の進捗。
学園祭までの日程。
その最上部に。
『本日午後六時、四クラス合同短編動画公開』
四体の顔が並んでいる。
正式な順位を争う競争相手。
それでも、合同作品の出演者としては同じ一つの枠へ収まっている。
昼休みになり、オレたちが食堂へ向かう途中。
廊下の掲示板前には、多くの生徒が集まっていた。
四天王ポスター。
短編動画の告知。
きよぽんとありすぽーんの『手が届かなくても』。
ほなわんが両手を広げる画像には、『一人で無理なら、友達を呼ぼう』。
ぶっくまるが二冊の本を抱える画像には、『正しい方法を、一緒に探そう』。
ありすぽーんが王冠へ手を伸ばす画像には、『転んでも、大切なものを忘れない』。
四クラスがそれぞれ作った宣伝画像が並んでいる。
一体だけを見れば、単独のキャラクター紹介。
全てを続けて見れば、一つの物語。
生徒たちは、どの画像が好きか。
どのキャラクターの考え方に共感するか。
公開前から話していた。
「きよぽんのやつだけ、何を伝えたいのか分からなくない?」
一人の女子生徒が言う。
「『手が届かなくても』だけだと、その後がないよね」
「動画を見たら分かるんじゃない?」
「手が届かないから諦める話?」
「きよぽんだから、隣で寝るんじゃない?」
正解に近い。
ただし寝てはいない。
長谷部は、その会話を少し離れた場所から聞いていた。
「説明を追加した方がいいかな」
「公開前に答えを書きすぎる必要はない」
オレが言う。
「動画を見て、それぞれが受け取ればいい」
「清隆くん、作品を作る人みたいなこと言うね」
「映像の意図を全て事前に説明したら、見る意味が薄れる」
「きよぽんの場面、自信ある?」
「オレが決めることではない」
「でも、良いと思ってる?」
昨日の夜。
長谷部へ送った言葉。
悪くないキャラクターだな。
すでに記録されている。
今さら完全に否定しても意味はない。
「四体の中で、役割は成立していると思う」
「そこまで言ってくれれば十分」
長谷部は満足した。
食堂では。
いつもの五人で席へ着く。
長谷部。
三宅。
幸村。
佐倉。
オレ。
本日の話題は、ほとんど動画だった。
「公開直後は、全員で教室に残るのか?」
三宅が尋ねる。
「うん」
長谷部は答える。
「六時にみんなで見る」
「昨日もう見ただろ」
「完成版はまだ」
「音楽と背景が付くだけじゃないのか?」
「字幕も入る」
幸村が最終編集の資料を見る。
「昨日の仮版から、一部の場面が短縮されている。背景合成。
転倒音。歩行音。字幕。最後のスタッフ表示。全てが追加される」
「俺たちの名前は出ないよな?」
「きよぽんの着用者は非公表」
三宅は安心した。
「他の三体は?」
「一之瀬さん、森下さん、ひよりちゃんは、自分から公表してる」
長谷部が答える。
「きよぽんだけ、中身が謎」
「清隆くんとみやっちが交代してることも秘密」
「同じキャラクターなのに、二人いるみたいだな」
三宅が言う。
「きよぽんは一体だ」
オレは答える。
「中の担当者が交代しているだけだ」
「分かってる。でも、俺が入ってた時は、俺の見える景色があった」
三宅は昨日より真面目な声だった。
「頭部の中から見える範囲。外の声。
手を出すタイミング。清隆と全部同じじゃない」
「完全に同じにする必要はないと話しただろう」
「ああ」
三宅は少し考える。
「でも、見てる側からは一体のきよぽんなんだよな」
「そうだ」
「不思議だな」
着ぐるみ。
外から見れば、一体のキャラクター。
中では。
別の人間が動かす。
それぞれの考え。
それぞれの癖。
それでも、同じ存在として受け入れられる。
「きよぽんは、最初から一人で作ったキャラクターじゃないから」
佐倉が言う。
「中身も一人じゃなくていいのかも」
「清隆くんのきよぽんと、みやっちのきよぽん」
長谷部が続ける。
「ゆきむーが安全を考えて、愛里が顔や衣装を作って、
私が設定を考える。クラスのみんなも手伝ってる」
「誰か一人が本物というわけではない」
幸村も頷いた。
「着用者を非公表にすることで、
特定の個人とキャラクターを切り離せる利点もある」
全員のきよぽん。
オレだけをモデルにした内輪向けの冗談。
そこから始まった。
今は、オレの知らない部分も増えている。
「ただし」
幸村は長谷部を見る。
「だからといって、勝手に設定を増やしていいという意味ではない」
「分かってるよ」
「昨日の夜、第三形態案を作っていただろう」
長谷部の動きが止まる。
三宅が顔を上げる。
「第三形態?」
「ヨーグルト三個か?」
「違うよ」
長谷部は否定した。
「通常形態が一個。第二形態が二個。第三形態は――」
「三個だろ」
「大きいヨーグルト一個」
テーブルが静かになる。
「何が変わる」
オレが尋ねる。
「量」
「それだけか」
「一個だけど、第二形態より多い」
「手は?」
「両手で抱える」
「完全に塞がるな」
「防御力は?」
三宅が尋ねる。
「容器が大きい分、少し上がる」
「上がらない」
オレは否定した。
「攻撃力は?」
「ない」
「機動力」
「下がる」
幸村が冷静に整理する。
「通常形態より動きにくく、第二形態よりも物を持てず、転倒時の危険も増える」
「弱体化してるじゃないか」
三宅は笑う。
「でもヨーグルトは多い」
長谷部は譲らない。
「第三形態案は却下だ」
「まだ堀北に見せてない」
「見せなくていい」
「公認マネージャーの企画を、監修者が一人で却下していいの?」
「安全面で成立しない」
幸村がオレへ加わる。
「俺も却下する」
「ゆきむーまで」
「どうしても大きな容器を持たせるなら、
展示用の静止画だけにしろ。着ぐるみで動かすべきではない」
「展示なら可能性ある?」
「小道具の重量と大きさによる」
「半分採用」
「採用ではない」
動画公開前にもかかわらず。
長谷部の頭は、すでに次の企画へ向かっている。
それだけ。
この試験を楽しんでいるのだろう。
◯
午後の授業を終えた後。
堀北クラスの生徒たちは、普段より多く教室へ残っていた。
動画公開は午後六時。
放課後から一時間以上ある。
その間に。
きよぽんの補修。
グッズ制作。
感想投票の準備。
宣伝画像の確認。
それぞれの作業を進める。
教室の後方。
きよぽんの頭部。
ほりぽんの頭部。
二体が並んでいる。
きよぽんのヨーグルト帽子は、昨日の撮影で大きな損傷を受けていない。
スプーンの根元。
頬。
目。
問題なし。
ただし。
撮影中に何度も着脱したことで。
首元の内側が少し擦れていた。
佐倉が柔らかい布を追加する。
「次は痛くならないと思う」
「昨日も大きな問題はなかった」
オレは答える。
「でも、少し赤くなってたよね」
「長時間の着用なら自然な範囲だ」
「自然でも、減らせるなら減らした方がいいよ」
佐倉は縫い目を確認しながら続ける。
「清隆くんも、みやっちも使うから」
「助かる」
「うん」
短いやり取り。
佐倉は少しだけ笑う。
三宅は、きよぽんの脚部を調整している。
昨日の撮影で。
オレと三宅が交代した際。
支持具は問題なかった。
ただし、三宅の方が僅かに歩幅が広いため、右足の外装へ擦れが生じていた。
「ここ、また縫い直した方がいいな」
「完全に切れてはいない」
オレが言う。
「でも本番中に切れたら困る」
三宅は工具を取り出す。
「補強しておく」
「慣れたな」
「何回やったと思ってるんだ」
「愛着?」
長谷部が遠くから言う。
「作業してるだけだ」
「否定が弱い」
「聞こえてたのかよ」
長谷部は教壇の端末へ戻り、公開ページを何度も更新している。
まだ午後五時前。
更新されるはずはない。
「落ち着け」
堀北が言う。
「学園側が予定より早く公開することはないわ」
「何か不具合が起きたら?」
「その場合は運営側から連絡が来る」
「再生できなかったら?」
「公開前に確認済みよ」
「字幕が間違ってたら?」
「最終版を確認したでしょう」
「きよぽんの名前が、きよポンになってたら?」
「なっていない」
堀北は一つずつ答える。
長谷部が公認マネージャーとして熱心なのは良い。
しかし、心配の範囲が広すぎる。
「長谷部さん」
平田が穏やかに声をかける。
「公開まで、別の作業をした方がいいんじゃないかな」
「何を?」
「感想投票の用紙を分けたり、グッズの確認をしたり」
「分かった」
長谷部は素直に端末から離れた。
公認後。
人の意見を聞く場面も増えている。
「堀北」
須藤がほりぽんの翼を持ちながら尋ねる。
「動画の最後に、ほりぽんたちも出るんだよな?」
「一枚絵だけよ」
正式代表四体が手を重ねた後。
画面が暗転。
その後。
ほりぽん。
りゅうまる。
四天王以外の友達キャラクターが、小さく描かれた一枚絵。
ほなわんとありすぽーんには、現時点で正式登録された親友キャラクターがいない。
そのため。
ほりぽんとりゅうまるだけが登場する。
「ほりぽんも、もっと動かせば良かったんじゃないか?」
「今回は代表四体の動画よ」
「でも、きよぽんがありすぽーんの隣にいる間、ほりぽんが助けに来てもよかっただろ」
「登場キャラクターが増えすぎるわ」
「翼で王冠を拾えるぞ」
堀北が止まる。
確かに。
ほりぽんの翼なら。
きよぽんの短い腕より、床の王冠へ届く可能性がある。
「それは次の物語で使えるね」
佐藤が言う。
「きよぽんが拾えなかった王冠を、ほりぽんが拾う」
「きよぽんがヨーグルトを置き、ほりぽんが王冠を拾う」
松下が続ける。
「二体で一つの役割になる」
須藤は嬉しそうだった。
「ほら。ほりぽん必要だろ」
「最初から必要だと言っているわ」
堀北は答える。
「正式代表ではなくても、きよぽんの親友として残すと決めたでしょう」
「じゃあ次は俺も入る」
「須藤くんから言うようになったね」
平田が微笑む。
「別に着ぐるみが好きなわけじゃねぇ」
「愛着?」
長谷部が言う。
「お前、何でもそれで片づけるな!」
「でも、ほりぽんが動けるのは須藤くんだから」
「他の奴でもいいだろ」
「翼の操作に一番慣れてる」
「それはそうだけど」
「ほりぽん先輩」
池が言う。
「誰が先輩だ!」
教室へ笑いが広がる。
代表を争った時には。
ほりぽんときよぽん。
二体の勝敗。
今は。
次にどう協力させるか。
自然に話している。
「ただし」
堀北は全員へ釘を刺す。
「次の動画を作るかどうかは、今日の反応を見てから決めます。
学園祭まで時間は限られている。宣伝ばかりに人員を使い、
グッズや本番の準備が遅れたら意味がないわ」
「動画が人気なら?」
長谷部が尋ねる。
「一作だけ検討する」
「やった!」
「検討よ」
「ほりぽん出演!」
須藤まで反応する。
堀北は少し呆れながら。
それでも。
完全には否定しなかった。
◯
午後五時四十分。
教室の大型スクリーンへ、試験専用ページが表示された。
公開まで二十分。
ほとんどの生徒が作業を止め。
自分の席へ戻っている。
飲み物。
軽い菓子。
動画の長さは三分程度。
そこまで準備する必要はない。
それでも。
映画の上映を待つような雰囲気になっていた。
「何で電気消すんだ?」
須藤が尋ねる。
池が照明を落としていた。
「上映会だから」
「まだ二十分あるぞ」
「雰囲気作り」
教室が暗い。
スクリーンには、公開前の待機画面。
四体の顔。
「戻して」
堀北が言う。
「作業中の人もいるでしょう」
「あと少しだけ」
「戻しなさい」
照明が点く。
池は不満そうだった。
五時五十分。
残り十分。
長谷部は一分ごとに時計を見る。
佐倉は隣で、完成版を見られることを楽しみにしている。
三宅は平静を装っているが。
自分が入っている最後の場面が、どのように編集されたか気になっているようだった。
幸村は公開後の感想集計表を開いている。
オレは自分が映っているわけではない。
顔も名前も出ない。
外見はきよぽん。
それでも、自分が中で動かした場面が、全校生徒へ公開される。
多少の落ち着かなさがあった。
「緊張してる?」
長谷部が尋ねる。
「していない」
「時計見たよね」
「公開時刻を確認しただけだ」
「気になってる」
「確認は必要だ」
「きよぽん俳優」
「違う」
「主演」
「四体のうちの一体だ」
「認めた」
何を答えても。
長谷部にとって都合の良い形へ変わる。
五時五十五分。
残り五分。
今度は堀北も作業を止めた。
茶柱先生は教室の後方。
教師として公開確認へ参加するらしい。
「先生も一緒に見るんですね」
軽井沢が言う。
「再生上の不具合がないか確認するだけだ」
「二回目なのに?」
「完成版は初めてだ」
「楽しみ?」
「違う」
「一番好きな場面、決めてくださいね」
「投票しない」
茶柱先生も。
オレと同じように。
何を言っても逃げられない位置へ追い込まれていた。
五時五十八分。
池が再び照明へ手を伸ばす。
堀北は今度は止めなかった。
教室が暗くなる。
スクリーンだけが明るい。
残り一分。
長谷部は自分の席へ座らず。
きよぽんとほりぽんの頭部の横に立っている。
六時。
試験専用ページが自動更新される。
待機画面が消え。
再生ボタンが表示された。
『ゆるキャラ四天王 ありすぽーんを救え!』
ついに、堀北が再生する。