ゆるキャラ至上主義の教室   作:EXTERMINATION

3 / 10
第3話 きよぽんを生んだ少女

第一回高度育成高等学校ゆるキャラ選手権。

 

その特別試験が発表されてから、およそ三時間が経過していた。

 

午後の授業は予定通り再開されたものの、

普段と同じ空気で授業を受けられた生徒はほとんどいなかった。

 

教科書を開いている者。

 

黒板へ視線を向けている者。

 

教師の説明をノートへ書き写している者。

 

形だけを見れば、いつもと変わらない授業風景だった。

 

しかし、多くの生徒の意識は授業ではなく、四週間後の学園祭へ向いていた。

 

どのようなキャラクターを作るのか。

 

誰がデザインを担当するのか。

 

五十万プライベートポイントの予算をどう使うのか。

 

そして、誰が着ぐるみの中へ入るのか。

 

これまでの特別試験であれば、授業中に他クラスの動きを警戒する必要があった。

 

誰が誰と接触したのか。

 

どのクラスが協力関係を結ぼうとしているのか。

 

不自然な欠席や、普段とは異なる行動を取っている生徒はいないか。

 

今回も、人気投票や宣伝活動をめぐる駆け引きは発生するだろう。

 

だが、少なくとも現時点で生徒たちの関心を占めていたのは、

他クラスを陥れる方法ではない。

 

自分たちのクラスが、どの動物を使えば可愛く見えるか。

 

その問題だった。

 

黒板の前では茶柱先生が数学の問題を解説している。

 

普段であれば、授業への集中を欠いている生徒を容赦なく注意する。

 

しかし今日は、教室内で小声の相談が続いていても、強く咎めることはなかった。

 

生徒たちが浮ついている理由を理解しているのだろう。

 

あるいは、注意する気力そのものが失われている可能性もあった。

 

茶柱先生は数式を書き終えると、チョークを置いた。

 

「この問題は次回の小テストにも出す。忘れないように」

 

須藤が露骨に嫌そうな顔をする。

 

「ゆるキャラだけでも大変なのに、小テストまでやるのかよ」

 

「ゆるキャラ選手権が始まったからといって、

お前たちが高校生でなくなったわけではない」

 

「着ぐるみ作りながら勉強しろってことか?」

 

「当然だ」

 

「無茶だろ」

 

「普段から勉強していれば、試験前に慌てる必要はない」

 

正論だった。

 

須藤は反論できず、隣に座る池へ助けを求めるような視線を送った。

 

だが池は授業とは無関係な紙に、何かの絵を描いていた。

 

丸い頭。

 

異様に大きな目。

 

細長い手足。

 

背中から伸びた翼らしきもの。

 

何を描いているのか、見ただけでは判断できない。

 

「池。それは何だ」

 

茶柱先生が尋ねる。

 

突然名前を呼ばれた池は、慌てて紙を隠そうとした。

 

「いや、これは、その……試験の準備です!」

 

「まだクラスの方針すら決まっていないはずだが」

 

「だから案を考えてたんですよ!」

 

「見せてみろ」

 

「え?」

 

「試験の準備だと言うなら、隠す必要はないだろう」

 

逃げ道を塞がれた池は、渋々紙を持ち上げた。

 

教室内の視線が集まる。

 

茶柱先生は数秒間、池の描いたものを見つめた。

 

「これは何だ」

 

「フライング・モンキーです」

 

「猿なのか?」

 

「空を飛ぶ猿です。頭が良くて、力も強くて、空も飛べる。完璧じゃないですか?」

 

「なぜ目が六つある」

 

「いっぱいあった方が周りをよく見られるからです」

 

「子供が泣くわよ」

 

堀北が冷静に指摘した。

 

「何でだよ。格好いいだろ」

 

「ゆるキャラに必要なのは、初めて見た人間が近づきたくなる親しみやすさよ。

あなたの絵は、夜道で遭遇したら逃げ出したくなる外見をしているわ」

 

「デザインはこれから直せばいいだろ!」

 

「根本的な発想から修正する必要がありそうね」

 

軽井沢たちの間から笑いが起きた。

 

茶柱先生は深く息を吐き、池へ紙を返す。

 

「少なくとも、授業中に描くな」

 

「じゃあ放課後ならいいんですね?」

 

「クラスの迷惑にならない範囲で好きにしろ」

 

茶柱先生は再び黒板へ向き直った。

 

「それと、池」

 

「何ですか?」

 

「その猿を私に近づけるな」

 

教室内に再び笑いが起きた。

 

普段の茶柱先生なら、この程度の冗談を挟むことは少ない。

 

それだけ彼女も、今回の試験によって普段の調子を崩されているのだろう。

 

授業終了のチャイムが鳴る。

 

茶柱先生は教科書を閉じると、生徒たちへ向き直った。

 

「本日の授業はここまでだ。ただし、すぐに帰るな」

 

帰宅の準備を始めようとしていた生徒たちの動きが止まる。

 

「ゆるキャラ選手権について、今日中に大まかな方針を決めてもらう。

明日の放課後までに、各クラスは暫定的なキャラクター案、

制作責任者、会計責任者を学園側へ提出する必要がある」

 

「明日まで?」

 

軽井沢が驚く。

 

「早すぎない?」

 

「試験期間は四週間しかない。着ぐるみ制作や宣伝期間を考えれば、

キャラクター案だけに何日も使う余裕はない」

 

「先生は会議に参加するんですか?」

 

平田が尋ねた。

 

「原則として、生徒主体で進めてもらう。私はルール違反がないかを確認するだけだ」

 

「先生の意見は出さないの?」

 

「出さない」

 

茶柱先生は即答した。

 

「私はこの試験に反対している」

 

「まだ言ってるんですか」

 

池が呟く。

 

「最後まで言い続けるつもりだ」

 

茶柱先生は本気だった。

 

教室を出る直前、彼女は一度だけ振り返った。

 

「忠告しておく。どれほど可愛らしい題材であろうと、

これはクラスポイントを懸けた特別試験だ。

他クラスも本気で勝利を狙ってくる。

遊びの延長で済ませれば、確実に負ける」

 

その言葉を残し、茶柱先生は教室を出ていった。

 

扉が閉まる。

 

静かになった教室の中で、堀北が席を立った。

 

「では、始めましょう」

 

迷いのない声だった。

 

「今日中に、最低でもキャラクターの基本方針までは

決定する必要があるわ。まずは全員から案を募ります」

 

黒板の中央に、堀北が大きく文字を書く。

 

『ゆるキャラ案』

 

その文字を見た瞬間、改めて奇妙な気分になった。

 

これまで堀北が黒板の前に立った時は、

特別試験のルール整理や、クラス内の役割分担について話し合うことが多かった。

 

今、彼女が真剣に議論しようとしているのは、ゆるキャラのデザインである。

 

「意見がある人は挙手して」

 

堀北が教室全体を見回す。

 

最初に手を挙げたのは池だった。

 

「フライング・モンキー!」

 

「却下」

 

「まだ詳しく説明してないだろ!」

 

「すでに十分聞いたわ。次」

 

「横暴だ!」

 

池の訴えは無視された。

 

続いて須藤が手を挙げる。

 

「バスケットボールとかどうだ?」

 

「それはキャラクターではなく、道具でしょう」

 

「顔と手足を付ければキャラクターになるだろ。ボールだから丸くて可愛いし」

 

「須藤くんにしては悪くないかも」

 

佐藤が言う。

 

須藤の表情が明るくなる。

 

「だろ?」

 

「でも、うちのクラスを象徴してるかって言われると微妙じゃない?」

 

松下が現実的な問題を指摘する。

 

「バスケ部のマスコットなら分かるけど、クラス全体のキャラクターにはしにくいと思う」

 

「じゃあ、バスケットボールを持った何かにすればいい」

 

「何かって何よ」

 

「それを今から考えるんだろ」

 

須藤の案は完全に否定されることなく、黒板の端へ候補として書かれた。

 

その後も意見は続いた。

 

猫、犬、兎、熊、ペンギン。

 

いずれもゆるキャラとしては無難だが、このクラスでなければならない理由が弱い。

 

「そもそも、私たちのクラスの特色って何?」

 

軽井沢が尋ねる。

 

その質問に、多くの生徒が黙り込んだ。

 

学力が高い者。

 

運動能力に優れる者。

 

人間関係の中心にいる者。

 

問題行動を起こしやすい者。

 

様々な個性を持つ生徒が集まっている。

 

だが、それらを一つの言葉で表すのは難しい。

 

「個性が強い?」

 

佐藤が言う。

 

「それはどのクラスも同じじゃない?」

 

松下が返す。

 

「成長したクラスっていうのは?」

 

平田が提案した。

 

「入学した頃に比べて、みんなで協力できるようになったと思う。

最初はまとまりがなかったけど、今は少しずつ一つのクラスになってきた」

 

平田の言葉に、教室内が少し静かになる。

 

誰もが入学当初のことを思い出しているのだろう。

 

自分のことしか考えていなかった者。

 

他人を信用しようとしなかった者。

 

クラスメイトを競争相手としか見ていなかった者。

 

決して順調に進んできたわけではない。

 

失敗し、衝突し、時には誰かを失いながら、それでもクラスとして前へ進んできた。

 

「成長、か」

 

須藤が小さく呟く。

 

「それなら植物は?」

 

松下が黒板を見る。

 

「最初は小さな芽だけど、みんなで育てて大きな木になる。

意味としては分かりやすいと思う」

 

「木の着ぐるみって動きにくそうじゃない?」

 

軽井沢が両腕を広げて木の形を想像する。

 

「ステージで歩くだけでも大変そう」

 

「だったら、芽をモチーフにすればいいんじゃない?」

 

佐藤が言う。

 

「頭から葉っぱが生えてる、小さくて丸いキャラクター」

 

「可愛いかも」

 

女子生徒たちの反応は悪くなかった。

 

堀北は黒板へ『芽』『成長』と書き加える。

 

「学校の理念とも合うわね。

ただし、他のマスコットとの差別化が難しい可能性がある。

植物をモチーフにしたキャラクターは珍しくないでしょうから」

 

「なら、やはりフクロウが適切だと思うわ」

 

堀北は以前から考えていた案を改めて提示した。

 

黒板の中央に、簡単なフクロウの輪郭を描く。

 

池のフライング・モンキーよりは、はるかに何の動物なのか分かりやすかった。

 

「フクロウは知性の象徴として知られている。

さらに、夜でも周囲を見渡せることから、物事の本質を見抜く力も表現できるわ」

 

「知性って、うちのクラスに合ってるか?」

 

須藤が疑問を口にする。

 

「あなた一人を基準にしないで」

 

「ひでぇな!鈴音!」

 

「それに、知性だけではないわ。最初は飛び方を知らない雛だったキャラクターが、

努力と仲間の支えによって成長し、最後には自由に空を飛べるようになる。

そういう設定にすれば、クラスの成長も表現できるでしょう」

 

「設定まで考えてたんだ」

 

佐藤が感心する。

 

「朝からずっと考えてたんじゃない?」

 

軽井沢が疑うように言った。

 

「授業中は授業に集中していたわ」

 

「でも、体育館でほりぽんって名前まで出してたよね」

 

「必要な準備を事前に進めただけよ」

 

つまり、授業の合間には考えていたのだろう。

 

堀北は黒板に『白いフクロウ』『制服』『努力と成長』と書いていく。

 

「名前は、ほりぽん」

 

その名前が書かれた瞬間。

 

教室の後方から椅子を引く音が響いた。

 

長谷部が立ち上がっていた。

 

「異議あり!」

 

全員の視線が集まる。

 

長谷部は一枚の紙を掲げた。

 

体育館で簡単に描いていたものより、明らかに完成度が上がっている。

 

丸い身体。

 

眠そうな目。

 

小さな口。

 

短い手足。

 

頭にはヨーグルトの容器を思わせる帽子を載せ、片手には小さなスプーンを持っている。

 

胸の部分には、大きく『き』と書かれていた。

 

「何だよそれ!」

 

池が笑い出す。

 

「きよぽん!」

 

長谷部は誇らしげに答えた。

 

「もう完成させたのか」

 

オレが尋ねる。

 

「授業中に少しずつね」

 

「授業に集中しろ」

 

「池くんにだけ言われたくないと思う」

 

池は反論できなかった。

 

長谷部は黒板の前まで進み、堀北が描いたフクロウの隣へきよぽんの絵を貼った。

 

「ほりぽんは、きよぽんと被る!」

 

「またその話?」

 

堀北が眉をひそめる。

 

「名前の最後に『ぽん』が付いているだけでしょう」

 

「ゆるキャラ界で『ぽん』は重要なんだよ!」

 

「初めて聞いたわ」

 

「ほりぽんが採用されたら、きよぽんが偽物みたいになる!」

 

「そのキャラクターはクラスとして正式に提案されたものではないでしょう」

 

「今から提案する!」

 

長谷部は黒板の前で、きよぽんの絵を全員へ見せた。

 

「きよぽんは、いつも静かにみんなを見守る謎の生き物。

普段は無表情だけど、困っている人がいると、

誰にも気づかれないうちに助けてくれるの」

 

「完全に綾小路くんね」

 

佐藤が笑う。

 

「ヨーグルトが大好物で、朝は自分で作ったヨーグルトを食べないと動けない」

 

「そんな設定はない」

 

「これから作るの」

 

「オレの設定を勝手に増やすな」

 

「得意技は『気づいたら解決』。口癖は『オレは何もしていない』」

 

「そんなに頻繁には言わない」

 

「あと、都合が悪くなると『違う。きよぽんが勝手に』って言い訳する」

 

「言わない」

 

教室内に笑いが広がる。

 

オレが否定するほど、きよぽんというキャラクターの印象が強まっているような気がした。

 

「普通に可愛くない?」

 

軽井沢が絵へ近づく。

 

「この眠そうな顔、ちょっと癖になる」

 

「でしょ?」

 

「グッズにしやすそうだね」

 

松下も絵を確認する。

 

「身体が丸いから、ぬいぐるみやクッションにもできる。

色数を抑えれば、制作費もそれほど高くならないと思う」

 

「真面目に分析しないでくれ」

 

「試験だからね」

 

松下は当然のように答えた。

 

「でも、クラスを象徴するって条件はどうするの?」

 

平田が尋ねる。

 

「綾小路くん一人をモデルにすると、他のみんなの要素が入らないんじゃないかな」

 

「そこは設定で補えるよ」

 

長谷部は待っていたように答えた。

 

「きよぽんの身体には、クラスのみんなの特徴を表すマークを付けるの。

バスケットボール、櫛、リボン、本、コンパス、いろんな物を小さな模様にして入れる」

 

「何でオレが全員分の荷物を背負わされるんだ」

 

「クラスの中心だから」

 

「オレが中心になった覚えはない」

 

「中心にいる人って、大体自分では気づかないんだよ」

 

長谷部の説明には強引な部分が多かった。

 

それでも、キャラクターの見た目そのものは悪くない。

 

単純な形。

 

特徴的な表情。

 

ヨーグルトという分かりやすい小道具。

 

一度見れば覚えやすく、商品にも展開しやすい。

 

堀北もその点は理解しているのか、すぐに切り捨てようとはしなかった。

 

「確かに、デザインとしては悪くないわ」

 

長谷部の顔が明るくなる。

 

「じゃあ採用?」

 

「ただし、クラスの代表としては弱い。個人をモデルにしていることも問題よ」

 

「ほりぽんだって、名前は堀北さんから取ってるじゃん」

 

「ほりぽんの『ほり』は、掘り下げて学ぶという意味も含んでいるわ」

 

教室内が静かになる。

 

「今考えたでしょ」

 

軽井沢が言う。

 

「ち、違うわ」

 

「絶対今考えたよね」

 

「最初からそのつもりだったわ」

 

堀北は視線をふいと横へ逸らした。

 

そして何事もないように前髪へ指を通し、静かに髪を整え始める。

 

その仕草が、かえって図星を突かれて動揺しているように見えた。

 

軽井沢はニヤリと笑い、前髪をかき上げながら龍園を真似したような口調で言う。

 

「正直に認めろよ、スンズンネェ?」

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間、池が腹を抱えて吹き出した。

 

「ぶはっ!今の龍園にそっくり!」

 

堀北はゆっくりと二人へ顔を向ける。

 

「……は?」

 

たった一言。

 

しかし教室の空気が一気に冷え込む。

 

軽井沢と池の笑顔が同時に固まった。

 

「「すみません」」

 

息ぴったりの謝罪が教室に響き、周囲のクラスメイトは思わず笑いを堪えきれなかった。

 

結局、堀北は最後まで否定したが、説得力は弱かった。

 

長谷部は勝利を確信したように笑う。

 

「じゃあ、どっちが最高か勝負しましょう」

 

「望むところよ」

 

堀北は迷わず受けた。

 

「二人とも、何の勝負をするつもりなんだ?」

 

平田が不安そうに尋ねる。

 

「クラス内人気投票よ」

 

「今日決める必要はあるけど、二案だけで決めていいのかな」

 

「他に有力な案があるなら受け付けるわ」

 

池が再び手を挙げた。

 

「フライング・モンキー!」

 

「それはない」

 

今度は複数人の声が重なった。

 

池は静かに手を下ろした。

 

「では、ほりぽんときよぽんについて、それぞれの長所と短所を整理しましょう」

 

平田が議論を整えようとする。

 

しかし長谷部は、すでに勝負が始まったと判断したらしい。

 

きよぽんの絵を高く掲げ、勢いよくこちらを指差した。

 

「ゆけ!きよぽん!」

 

教室中の視線がオレへ集まる。

 

「勘弁してくれ」

 

「まずは本人から、きよぽんの魅力を伝えて!」

 

「オレは反対側だ」

 

「照れなくていいから」

 

「照れていない」

 

「きよぽん、頑張って!」

 

佐藤まで笑いながら応援する。

 

「違う」

 

オレは静かに首を振った。

 

「きよぽんが勝手に」

 

一瞬の沈黙。

 

次の瞬間、教室中が笑いに包まれた。

 

長谷部は机を叩きながら笑い、軽井沢は腹を抱え、須藤は涙を浮かべていた。

 

「自分で言った!」

 

長谷部が叫ぶ。

 

「今のは違う」

 

「もう口癖決定!」

 

「取消しを要求する」

 

「却下!」

 

思わぬ形で、きよぽんの設定だけが強化されてしまった。

 

堀北は騒ぐクラスメイトたちを静かにさせようとしたが、

自身もわずかに口元を緩めていた。

 

「静かにして。まだ決定していないわ」

 

「でも今ので、きよぽんかなり有利じゃない?」

 

軽井沢が言う。

 

「面白さだけで決める試験ではないわ」

 

「人気投票が四十点なんだから、面白さは重要でしょ」

 

松下の指摘に、堀北は反論できなかった。

 

ゆるキャラ選手権において、愛されやすさや親しみやすさは大きな要素になる。

 

堀北が考えたほりぽんには、学校の理念や成長という明確な意味がある。

 

一方、きよぽんには理屈では説明しづらい妙な親しみやすさがあった。

 

「今日ここで、どちらか一つに決める必要はないんじゃないかな」

 

平田が提案する。

 

「明日までに提出するのは暫定案だよね。

それなら二つとも候補として残して、

デザイン班が改良した後で正式な人気投票をすればいいと思う」

 

「私もそれがいいと思う」

 

松下が賛同する。

 

「今はまだ、ほりぽんもきよぽんも簡単な絵しかないから。

色や細かい設定を決めてから比べた方が公平だよ」

 

堀北は少し考えた後、頷いた。

 

「分かったわ。暫定案として二体を残しましょう」

 

「やった!」

 

長谷部が喜ぶ。

 

「採用されたわけではないわ」

 

「きよぽん、第一関門突破だよ!」

 

「オレに報告しなくていい」

 

「着ぐるみ担当の準備もしないとね」

 

「それは絶対にやらない」

 

「やる」

 

「やらない」

 

「やる」

 

第一話の体育館で繰り返した会話が、再び始まった。

 

今回も決着はつかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。